説明

燃料電池および燃料電池の運転方法

【課題】使用環境および運転状況に影響されずに、安定した電力を供給可能な燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池は、複数の単位セルを有するセル群1000において、吸気口339および排気口340を有し、酸化剤極に酸化剤126を供給する酸化剤流路312と、酸化剤流路312の吸気口339および排気口340を開閉するシャッター1001およびシャッター1002と、シャッター1001およびシャッター1002の開口の程度を調整する開口調整部1005と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池および燃料電池の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報化社会の到来とともに、パーソナルコンピュータ等の電子機器で扱う情報量が飛躍的に増大し、それに伴い、電子機器の消費電力も著しく増加してきた。とくに、携帯型の電子機器では、処理能力の増加に伴って消費電力の増加が問題となっている。現在、このような携帯型の電子機器では、一般的にリチウムイオン二次電池が電源として用いられているが、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度は理論的な限界に近づいている。そのため、携帯型の電子機器の連続使用期間を延ばすために、CPUの駆動周波数を抑えて消費電力を低減しなければならないという制限があった。
【0003】
このような状況の中で、リチウムイオン二次電池に変えて、エネルギー密度が大きい燃料電池を電子機器の電源として用いることにより、携帯型の電子機器の連続使用期間が大幅に向上することが期待されている。
【0004】
燃料電池は、燃料極および酸化剤極と、これらの間に設けられた電解質から構成され、燃料極には燃料が、酸化剤極には酸化剤が供給されて電気化学反応により発電する。燃料としては、一般的には水素が用いられるが、近年、安価で取り扱いの容易なメタノールを原料として、メタノールを改質して水素を生成させるメタノール改質型や、メタノールを燃料として直接利用する直接型の燃料電池の開発も盛んに行われている。
【0005】
燃料として水素を用いた場合、燃料極での反応は以下の式(1)のようになる。
【0006】
3H → 6H + 6e (1)
【0007】
燃料としてメタノールを用いた場合、燃料極での反応は以下の式(2)のようになる。
【0008】
CHOH + HO → 6H + CO + 6e (2)
【0009】
また、いずれの場合も、酸化剤極での反応は以下の式(3)のようになる。
【0010】
3/2O + 6H + 6e → 3HO (3)
【0011】
燃料電池は、電解質の違いによって多くの種類に分類されるが、一般的には、アルカリ型、固体高分子型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体電解質型に大別される。
【0012】
特許文献1には、燃料電池の空気極へ空気を供給する空気供給ラインおよび空気極から空気を排出する空気排出ラインに、燃料電池停止時に空気の流通を閉止する手段を備えた燃料電池が開示されている。これによれば、燃料電池の運転停止中における電解質の乾燥を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−216823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、単に燃料電池停止中に空気の流通を閉止するだけでは、燃料電池内外の温度によってはかえって流路内の湿度が高くなり、温度変化によって結露が発生したり、さらにはその水分が凍結してしまうといった問題点があった。
【0015】
また、燃料としてメタノール等の液体燃料を用いた直接型の燃料電池では、酸化剤極が開放された構成となっていると、燃料電池停止中に燃料が電解質膜を通過して酸化剤極側から蒸発してしまうという問題点もあった。また、燃料電池運転中であっても、たとえば低温環境下おいては、酸化剤極側へ酸化剤が多量に流入すると、酸化剤極が空冷されて燃料電池の温度が下がり、発電効率が低下するといった問題点があった。
【0016】
本発明は上記事情を踏まえてなされたものであり、本発明の目的は、使用環境および運転状況に影響されずに、安定した電力を供給可能な燃料電池を提供することにある。本発明の別の目的は、高信頼性で、長寿命な燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、燃料極および酸化剤極を含む単位セルを有する燃料電池であって、吸気口および排気口を有し、酸化剤極に酸化剤を供給する酸化剤流路と、吸気口または排気口の開口の程度を調整する開口調整部と、を含むことを特徴とする燃料電池が提供される。
【0018】
単位セルは、さらに固体電解質膜を含むことができ、燃料極および酸化剤極は固体電解質膜を狭持する。また、本発明の燃料電池は、燃料極に液体燃料が供給される直接型の燃料電池とすることができる。このように、燃料極に液体燃料が供給される場合に、燃料電池の運転停止中に酸化剤極が外部に開放された構成としていると、燃料が固体電解質膜を通過して酸化剤極から蒸発するという問題が生じる。本発明の燃料電池において、酸化剤流路の吸気口または排気口の開口の程度を調整することができるので、たとえば燃料電池の運転停止時には、吸気口や排気口を閉じたり、開口の程度を低くすることにより、燃料が固体電解質膜を通過して酸化剤極から蒸発するという現象を防ぐことができる。
【0019】
また、この構成により、上記直接型の燃料電池に限られず、酸化剤流路の吸気口または排気口の開口の程度を調整することができるので、固体電解質膜が乾燥するのを防ぐこともできる。このように、酸化剤流路の吸気口または排気口の開口の程度を調整することにより、酸化剤流路を流れる酸化剤の流量を制御することもできる。酸化剤流路内の酸化剤の流量を適宜調整することにより、前述のように燃料の蒸発や固体電解質膜の乾燥を防ぐとともに、結露の発生やそれに伴う凍結を防止することもできる。
【0020】
また、燃料電池の運転時においても、たとえば、低温環境下では、酸化剤極側への酸化剤の流入量を低くすることにより、酸化剤によって酸化剤極か空冷等されて発電効率が低下するのを防ぐことができる。以上のように、本発明の燃料電池によれば、使用環境や運転状況に影響されずに、燃料電池を安定的に動作させることができる。
【0021】
本発明の燃料電池は、開口調整部は、酸化剤流路の吸気口または排気口の開口の程度を変更可能な開閉弁を含むことができる。この構成により、開閉弁の開口の程度を変更するだけで、吸気口または排気口の開口の程度を調整することができる。
【0022】
本発明の燃料電池において、開口調整部は、開閉弁を閉じたときに、当該開口弁と協動して吸気口または排気口を密閉する密閉部材を含むことができる。この構成により、燃料電池運転停止中に、開閉弁を閉じたときに、酸化剤流路を密閉することができる。これにより、燃料が固体電解質膜を通過して酸化剤極側から蒸発したり、固体電解質膜が乾燥してしまうのを防止することができる。
【0023】
本発明の燃料電池は、酸化剤流路への酸化剤の導入を促す導入促進部をさらに含むことができる。この構成により、酸化剤流路内の酸化剤の流量をより良好に制御することができる。
【0024】
本発明の燃料電池は、温度を測定する温度測定部をさらに含むことができ、開口調整部は、温度測定部により測定された温度に応じて開口の程度を調整することができる。この構成により、酸化剤流路内の温度や燃料電池外部の温度に応じて吸気口または排気口の開口の程度を調整することができるので、環境に応じた制御が可能となる。
【0025】
本発明の燃料電池は、酸化剤流路内の湿度を測定する湿度測定部を含むことができ、開口調整部は、湿度測定部により測定された湿度に応じて開口の程度を調整することができる。この構成により、酸化剤流路内の湿度に応じて吸気口または排気口の開口の程度を調整することができるので、環境に応じた制御が可能となる。
【0026】
本発明の燃料電池において、開口調整部は、当該燃料電池の運転状況に応じて、開口の程度を調整することができる。運転状況とは、燃料電池の運転中か燃料電池の運転停止中か等である。また、開口調整部は、運転停止中の場合、停止されてからの経過時間等にも応じて、開口の程度を調整することができる。
【0027】
本発明の燃料電池は、複数の単位セルを含み、当該複数の単位セルが平面実装された構成とすることができる。このように、酸化剤極が酸化剤流路に広範囲にわたって面しているために、燃料極側に供給される液体燃料が、電解質膜を通過して酸化剤極側から蒸発しやすい場合にも、本発明の構成によれば、燃料の蒸発を防止することができる。
【0028】
本発明の燃料電池は、酸化剤流路内に吸湿剤を有することができる。この構成により、酸化剤流路内に発生した水分を除去することができるので、水分の凍結等を防止することができる。
【0029】
本発明によれば、燃料極および酸化剤極を含む単位セルを有する燃料電池の運転方法であって、燃料電池は、吸気口および排気口を有する酸化剤流路を含み、酸化剤極に酸化剤を供給する工程と、吸気口または排気口の開口の程度を調整する工程と、を含むことを特徴とする燃料電池の運転方法が提供される。
【0030】
本発明の燃料電池の運転方法において、燃料電池は、吸気口または排気口を開閉する開閉弁をさらに含むことができ、開口の程度を調整する工程において、開閉弁を開閉することにより、開口の程度を調整することができる。
【0031】
本発明の燃料電池の運転方法は、燃料電池の温度を測定する工程をさらに含むことができ、開口の程度を調整する工程において、温度を測定する工程で測定された温度に応じて開口の程度を調整することができる。
【0032】
本発明の燃料電池の運転方法は、酸化剤流路内の湿度を測定する工程をさらに含むことができ、開口の程度を調整する工程において、湿度を測定する工程で測定された湿度に応じて開口の程度を調整することができる。
【0033】
本発明の燃料電池の運転方法は、燃料電池の運転状況を検知する工程をさらに含むことができ、開口の程度を調整する工程において、運転状況に応じて開口の程度を調整することができる。
【発明の効果】
【0034】
以上述べたように、本発明によれば、使用環境および運転状況に影響されずに、安定した電力を供給可能な燃料電池が提供される。また、本発明によれば、高信頼性で、長寿命な燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態における燃料電池の構成を模式的に示した断面ブロック図である。
【図2】図1の燃料電池における開閉調整機構の概略ブロック図である。
【図3】開閉調整機構の別態様の構成を模式的に示した概略ブロック図である。
【図4】開閉調整機構の別態様の構成を模式的に示した概略ブロック図である。
【図5】開閉調整機構の別態様の構成を模式的に示した概略ブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態における開閉調整機構の一例であるスライド式シャッターの構成を模式的に示した断面図である。
【図7】図6のスライド式シャッターの正面図である。
【図8】本発明の実施の形態における開閉調整機構の他の例であるブラインド形シャッターの構成を模式的に示した断面図である。
【図9】図1に示した開閉調整機構のシャッターの開閉機構の一例を示す図である。
【図10】図6および図7に示した開閉調整機構のシャッターの開閉機構の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同様の符号を付し、以下の説明において詳細な説明を適宜省略する。
【0037】
本発明の実施の形態における燃料電池は、携帯電話、ノート型等の携帯型パーソナルコンピュータ、PDA(Personal Digital Assistant)、各種カメラ、ナビゲーションシステム、ポータブル音楽再生プレーヤ等の小型電気機器に適用可能である。とくに、ノート型等の携帯型パーソナルコンピュータ等のような、比較的多くの燃料電池単位セルが使用され、平面実装される燃料電池において有用である。
【0038】
(第一の実施の形態)
図1は、本実施の形態における燃料電池の構成を模式的に示した断面ブロック図である。
図1に示すように、燃料電池は、複数の単位セル101を含む。各単位セル101は、燃料極102および酸化剤極108と、これらの間に設けられた固体電解質膜114を含み、燃料極102には燃料124が、酸化剤極108には酸化剤126がそれぞれ供給されて電気化学反応により発電する。単位セル101は、燃料極102に液体燃料が供給される直接型の燃料電池である。燃料124としては、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル、または他のアルコール類、あるいはシクロパラフィン等の液体炭化水素等の有機液体燃料を用いることができる。有機液体燃料は、水溶液とすることができる。酸化剤としては、通常、空気を用いることができるが、酸素ガスを供給してもよい。
【0039】
燃料電池は、燃料極102に燃料124を供給する燃料流路310と、酸化剤極108に酸化剤126を供給する酸化剤流路312と、を含む。酸化剤流路312には吸気口339および排気口340が設けられる。
【0040】
図1に示すように、本実施の形態において、複数の単位セル101は、互いに直列に電気的に接続され、平面配列された2組のセル群を構成する。この平面配列された2組のセル群は、燃料極102が互いに対面するように配置され、その間に燃料流路310が配置され、さらに平面配列されたセル群の外側に位置する酸化剤極108側に酸化剤流路312が配置される。
【0041】
燃料電池は、さらに酸化剤流路312の吸気口339を開閉するシャッター1001と、酸化剤流路312の排気口340を開閉するシャッター1002と、を含む。シャッター1001およびシャッター1002と、酸化剤流路312の間には、ガスケット1003がそれぞれ設けられており、これによりシャッター1001およびシャッター1002を閉じた場合、酸化剤流路312を密閉することができる。図中、黒抜きで示される弁の状態がシャッター1001およびシャッター1002が閉じた状態を示し、網掛けで示される弁の状態がシャッター1001およびシャッター1002が開いた状態を示している。
【0042】
図2は、図1の燃料電池における酸化剤流路312のシャッター1001およびシャッター1002の開閉の程度を調整する開閉調整機構の概略ブロック図を示す。
燃料電池は、セル群1000の酸化剤極108に配して設けられた酸化剤流路312の吸気口339および排気口340にそれぞれ設けられたシャッター1001およびシャッター1002の開口の程度を調整する開口調整部1005を含む。
【0043】
開口調整部1005は、シャッター1001およびシャッター1002の開口の程度を手動で制御するための操作スイッチ(不図示)および後述するシャッター駆動機構であってもよいし、あるいは、シャッター1001およびシャッター1002の開口の程度を自動で制御するためのコントローラ(不図示)および後述するシャッター駆動機構であってもよい。コントローラは、CPU(Central Processing Unit)やIC(Integrated Circuit)であり、予めプログラムされ、記憶装置(不図示)に記憶された手順に従って動作する。開口調整部1005は、燃料電池の運転状況を検知し、燃料電池の運転状況に応じてシャッター1001およびシャッター1002の開口の程度を調整することができる。開口調整部1005は、たとえば燃料電池の運転中には、シャッター1001およびシャッター1002の開口の程度が大きくなるように調整し、燃料電池の停止中にはシャッター1001およびシャッター1002の開口の程度が小さくなるように調整する。また、以下に説明するように、燃料電池内外の温度や湿度に応じて、シャッター1001およびシャッター1002の開口の程度を調整することもできる。
【0044】
また、図3に示すように、排気口340を介して酸化剤流路312内から酸化剤126を排出する排気用ファン1007を、酸化剤流路312のシャッター1002より外側に設けることもできる。また、吸気口339を介して酸化剤流路312内に酸化剤126を供給させる給気用ファン(不図示)を、酸化剤流路312のシャッター1001より手前に設けることもできる。開口調整部1005は、排気用ファン1007または給気用ファンを制御することもできる。この構成によれば、排気用ファン1007および給気用ファンのいずれか一方または両方の回転を制御することにより、酸化剤流路312内の酸化剤の流量を良好に制御することが可能となる。
【0045】
図4に示すように、燃料電池は、酸化剤流路312内の温度を測定する温度計1008をさらに含むこともできる。ここでは、温度計1008が酸化剤流路312内の温度を測定する例を示しているが、温度計1008は、燃料電池内外の温度を測定するよう配置することができる。温度計1008は、燃料電池の構造、および測定対象の場所に応じて種々の配置を取り得る。たとえば、酸化剤流路312内、燃料電池表面、廃気の循環経路(不図示)、または燃料電池の外部等に配置することができる。また、燃料電池は、複数の温度計1008を含むことができ、種々の場所に配置することもできる。温度計1008で測定された温度は、開口調整部1005に入力される。開口調整部1005は、入力された温度に応じて、シャッター1001およびシャッター1002の開口の程度を調整する。温度計1008としては、熱電対、測温抵抗体、サーミスタ、IC温度センサ、磁気温度センサ、サーモパイル、または焦電型温度センサ等の温度センサを用いることができる。温度計1008および開口調整部1005は、これらの温度センサと、コントローラとを組み合わせて実現することができる。
【0046】
図5に示すように、燃料電池は、酸化剤流路312内の湿度を測定する湿度計1009をさらに含むこともできる。湿度計1009で測定された湿度は、開口調整部1005に入力される。開口調整部1005は、入力された湿度に応じて、シャッター1001およびシャッター1002の開口の程度を調整する。開口調整部1005は、温度計1008および湿度計1009によりそれぞれ測定された温度および湿度のいずれか一方のみを用いてシャッター1001およびシャッター1002の開口の程度を調整することもでき、両方を用いてシャッター1001およびシャッター1002の開口の程度を調整することもできる。
【0047】
また、本実施の形態において、燃料電池は、酸化剤流路312内に吸湿剤(不図示)を設けた構成とすることもできる。このような構成とすることにより、酸化剤流路312内に結露等によって水分が発生した場合にも、水分を除去することができる。これにより、水分の凍結等を防止することができる。
【0048】
このように構成された燃料電池の動作について運転状況別に以下に説明する。
【0049】
(1)燃料電池の運転中
開口調整部1005は、酸化剤流路312内の温度または湿度に応じて、シャッター1001およびシャッター1002の開口の程度を調整する。これにより酸化剤126の流量が制御される。
【0050】
たとえば、開口調整部1005は、温度が低い場合、シャッター1001およびシャッター1002の開口の程度を小さくし、酸化剤126の流量が少なくなるように制御することができる。これにより、低温環境下において、運転開始時に、酸化剤極108への酸化剤126の流入によって酸化剤極108が空冷等されるのを防ぐことができる。そのため、低温化による発電効率の低下を防ぐことができる。また、開口調整部1005は、発電効率を高める必要がある際には、シャッター1001およびシャッター1002の開口の程度を大きくし、酸化剤の流量が多くなるように制御することができる。
【0051】
(2)燃料電池の運転停止中
この場合も、開口調整部1005は、酸化剤流路312内の温度または湿度に応じて、シャッター1001およびシャッター1002の開口の程度を調整する。これにより酸化剤126の流量が制御される。たとえば、開口調整部1005は、燃料電池の運転が停止されたすぐ後には、シャッター1001およびシャッター1002を完全に密閉せず、燃料電池運転時よりも開口の程度が小さくなるように調整することができる。これにより、燃料電池の運転時に酸化剤極108の温度が高まっており、その後冷却される際に結露等が発生するのを防ぐことができるとともに、燃料124が固体電解質膜114を介して酸化剤極108から蒸発するのを防ぐことができる。
【0052】
また、たとえば、開口調整部1005は、燃料電池の長期運転停止時には、シャッター1001およびシャッター1002の開口の程度を0%に調整し、酸化剤126の流量がゼロとなるように制御することができる。このとき、酸化剤流路312の吸気口339および排気口340に設けられたシャッター1001およびシャッター1002が閉じられてガスケット1003とともに酸化剤流路312が密閉され、酸化剤流路312からの酸化剤126の流出が停止される。これにより、長時間、燃料電池の運転を停止しても、燃料124が固体電解質膜114を通過して蒸発するのを防止することができる。また、開口調整部1005は、長時間運転停止時にも、酸化剤流路312内の湿度が高くなった場合には、シャッター1001およびシャッター1002の開口の程度が大きくなるように調整することができる。これにより、酸化剤流路312内で結露が発生するのを防ぐことができる。開口調整部1005は、このような処理を定期的に行うこともできる。
【0053】
上記の燃料電池の運転および停止時の処理において、開口調整部1005は、シャッター1001およびシャッター1002の開口の程度を変化させるとともに、排気用ファンまたは給気用ファンの回転を制御することもできる。開口調整部1005は、この場合も、温度または湿度に応じて、排気用ファンまたは給気用ファンの回転を制御することができる。
【0054】
上記の燃料電池の運転および停止時の調整については、手動で利用者が調整してもよいし、コントローラ等により自動制御してもよい。また、これらの制御の手順は、コントローラを動作させるプログラムによって、如何様にも変更が可能であることはいうまでもない。
【0055】
吸気口339および排気口340のシャッター1001およびシャッター1002の開口の程度の調整は、同時に行ってもよいし、別々に行ってもよい。たとえば、酸化剤流路312内の湿度が高くなり結露が発生するような場合は、吸気口339の開口の程度を下げ、排気口340の開口の程度を上げるようにすることができる。なお、シャッターの開口の程度を制御するためのシャッター開閉機構の詳細については後述する。
【0056】
以上のように、本実施の形態の燃料電池によれば、吸気口339または排気口340の開口の程度を調整することにより、酸化剤流路312を流れる酸化剤126の流量を制御できるので、使用環境および運転状況に影響されずに発電効率の低下を防止できる燃料電池を提供することができる。
【0057】
(シャッター開閉機構について)
図9は、図1に示した燃料電池のシャッターの開閉機構の一例を示す図である。図9(a)は、シャッターが閉じた状態を示し、図9(b)は、シャッターが開いた状態を示している。
【0058】
図9において、シャッターの開閉機構は、シャッター1001の一端に設けられ、シャッター1001を軸周りに回転させるバネ内蔵回転軸1015と、シャッター1001の他端に設けられたバネ内蔵回転軸1015の軸と平行に設けられ、シャッター1001の外側に延びるロッド1017と、ロッド1017に当接し、ロッド1017を所定の位置に移動させるよう押す偏心カム1019と、ロッド1017の軸と平行に設けられた偏心カム1019の回転軸1021と、を含む。回転軸1021には、図示されないモータが設けられ、回転軸1021はモータにより軸周りに回転する。
【0059】
このように構成されたシャッターの開閉機構を有する燃料電池における動作について以下に説明する。
【0060】
図9(a)に示すような位置に偏心カム1019がある場合、ロッド1017は偏心カム1019から力を受けないので、バネ内蔵回転軸1015のバネの弾性力により、シャッター1001が、酸化剤流路312を閉じるようにガスケット1003に押しつけられ、吸気口339および排気口340を密閉することができる。
【0061】
一方、図9(b)に示すような位置に偏心カム1019が回転軸1021周りに回転した場合、バネ内蔵回転軸1015のバネの弾性力に打ち勝つ力でもって、偏心カム1019によってロッド1017が図の位置に移動させられ、これによりシャッター1001が図のように回転軸1015周りに回転して吸気口339および排気口340の開放位置へと移動させられる。
【0062】
本例において、モータの回転を制御することによって、偏心カム1019の回転位置を制御でき、これによりシャッター1001の移動位置を制御し、吸気口339および排気口340の開口の程度を調整でき、酸化剤126の流量を制御することが可能となる。
【0063】
また、本実施の形態において、偏心カム1019の回転はモータによって行ったがこれに限定されるものではなく、手動で偏心カムを回転せることができる機構を設けてもよい。また、偏心カムの形状は、様々な形状が考えられ、形状によってシャッターの移動位置を調節することができる。
【0064】
(第二の実施の形態)
本実施の形態においても、燃料電池は第一の実施の形態と同様の構成を有する。本実施の形態において、開閉調整機構の形態が第一の実施の形態と異なる。
図6は、本実施の形態における開閉調整機構の一例であるスライド式シャッターの構成を模式的に示した断面図であり、図7は、図6のスライド式シャッターの正面図である。図6(a)および図7(a)は、シャッターが閉じた状態を示し、図6(b)および図7(b)は、シャッターが開いた状態を示している。
【0065】
本実施の形態において、スライド式シャッターは、酸化剤流路312の吸気口339および排気口340に設けられ、通気プレート1012と、この通気プレート1012のスリットを開閉可能な位置および大きさで複数のスリットが形成されたシャッター1011と、を含む。通気プレート1012は、吸気口339および排気口340とほぼ同じ形状および大きさを有する表面と、その表面に形成された複数のスリットと、を有する。
【0066】
本実施の形態において、開口調整部1005は、スライド式シャッターの開口率を調整する。シャッター1011の開口率とは、通気プレート1012に形成されたスリットの総面積に対するシャッター1011によって閉じられた後の通気プレート1012のスリットの開口面積の比である。開口面積を変えることによって開口率を調整することができる。すなわち、図7(a)が開口率0%で、図7(b)が開口率100%の状態を示している。
【0067】
シャッター1011および通気プレート1012の形状および構造以外は、上記第一の実施の形態と同様であるので、ここでは燃料電池の動作に関する詳細な説明は省略する。
【0068】
通気プレート1012のスリットの長軸と、シャッター1011のスリットの長軸は、常に平行を保ちつつ、シャッター1011は、通気プレート1012のスリットの長軸に対して、実質的に垂直な方向に移動可能である。シャッター1011を移動させることによって、通気プレート1012のスリットを開閉することができる。
【0069】
このように構成されたスライド式シャッターの動作について以下に図を用いて説明する。
図6(b)および図7(b)に示すように、燃料電池の運転中は、シャッター1011および通気プレート1012の複数のスリットが同じ位置になるようにシャッター1011および通気プレート1012は配置される。これにより、酸化剤流路312に、酸化剤126が吸気口339を介して供給され、排気口340を介して排気される。
【0070】
一方、図6(a)および図7(a)に示すように、燃料電池の運転停止中は、シャッター1011および通気プレート1012は、シャッター1011および通気プレート1012の複数のスリットの孔を封鎖するような位置に配置される。これにより、酸化剤流路312から酸化剤126が排気されず、また、酸化剤流路312内に酸化剤126が供給されない。
【0071】
このように、シャッター1011および通気プレート1012の相対位置を制御することによって、シャッター1011および通気プレート1012に形成された各スリットの開口率を制御することが可能であり、これにより酸化剤126の流量を制御することができる。
【0072】
本実施の形態において、シャッターに形成された酸化剤126の通気口は、スリット形状のものを平行に配置した構造としたがこれに限定されるものではなく、様々な形状および配置が考えられ、1組のシャッターが相対位置を移動することによって、シャッターに形成された通気口の開口率を変化させることができる形状であればよい。
【0073】
(シャッター開閉機構について)
図10は、図6および図7に示した開閉調整機構のシャッターの開閉機構の一例を示す図である。図10(a)は、シャッターが開いた状態を示し、図10(b)は、シャッターが閉じる途中の状態を示し、図10(c)は、シャッターが閉じた状態を示している。
【0074】
図10において、シャッターの開閉機構は、リニアモータ1023と、リニアモータ1023によって直進移動するロッド1025と、ロッド1025を支持し、直進移動させる直進ガイド1027と、ロッド1025の先端に第1の回転支持軸1031を介して回転可能に一端が取り付けられたアーム1029と、アーム1029の他端に第2の回転支持軸1035を介して回転可能に一端が取り付けられ、他端にシャッター1011を水平に支持するシャッター支え1033と、シャッター1011を予め決められた位置に移動させるために、第2の回転支持軸1035を噛合するレールを有するシャッターガイド1037と、含む。
【0075】
このように構成されたシャッターの開閉機構を有する開閉調整機構における動作について以下に説明する。
シャッター1011は、図10(a)の位置からリニアモータ1023によってロッド1025が推進されて、第2の回転支持軸1035がシャッターガイド1037に沿って移動し、図10(b)のシャッター1011が通気プレート1012に当接する位置まで移動する。その後、さらにリニアモータ1023によってロッド1025が推進されると、第2の回転支持軸1035がシャッターガイド1037に沿って移動し、図10(c)のシャッター1011が通気プレート1012のスリットを閉じる位置まで移動し、吸気口339および排気口340が閉じられる。
【0076】
以上のように、本実施の形態によれば、リニアモータ1023によって、ロッド1025を介してシャッター1011の通気プレート1012に対する相対位置を制御できるので、通気プレート1012に形成されたスリットの開口率を制御できる。このようにして、酸化剤126の流量を制御することが可能となる。
【0077】
(第三の実施の形態)
本実施の形態においても、燃料電池は第一の実施の形態と同様の構成を有する。本実施の形態において、開閉調整機構の形態が第一の実施の形態と異なる。
図8は、本実施の形態における開閉調整機構の他の例であるブラインド形シャッターの構成を模式的に示した断面図である。図8(a)は、シャッターが閉じた状態を示し、図8(b)は、シャッターが開いた状態を示している。
【0078】
本実施の形態において、ブラインド形シャッターは、酸化剤流路312の吸気口339および排気口340に設けられた複数の矩形のシャッター1014を有する。各シャッター1014の一端にはシールド部材1013が設けられ、シャッター1014の他端が隣接するシールド部材1013に密着した時、シャッター1014が閉じて、吸気口339および排気口340を密閉することができる。
【0079】
シャッター1014の形状および構造以外は、上記第一の実施の形態と同じであるので、ここでは燃料電池の動作に関する詳細な説明は省略する。
【0080】
このように構成されたブラインド式シャッターの動作について以下に図を用いて説明する。
図8(b)に示すように、燃料電池の運転中は、シャッター1014の他端がシールド部材1013と離れた位置にあり、これにより、酸化剤流路312に、酸化剤126が吸気口339を介して供給され、排気口340を介して排気される。一方、図8(a)に示すように、燃料電池の運転停止中は、シャッター1014の他端が隣接するシールド部材1013と密着した位置になり、これにより、酸化剤流路312から酸化剤126が排気されず、また、酸化剤流路312内に酸化剤126が供給されない。
【0081】
このようにシャッター1014の他端を隣接するシールド部材1013と密着させたり離したり、あるいは、シャッター1014の吸気口339および排気口340に対する相対位置角度を調節することによって、吸気口339および排気口340の開口の程度を調整することが可能であり、これにより酸化剤126の流量を制御することができる。
【0082】
本実施の形態においても、第一の実施の形態において図9を参照して説明したのと同様、偏心カムをモータで駆動することによりシャッター1014を開閉することができる。
【符号の説明】
【0083】
101 単位セル
102 酸化剤極
102 燃料極
108 酸化剤極
114 固体電解質膜
124 燃料
126 酸化剤
310 燃料流路
312 酸化剤流路
339 吸気口
340 排気口
1000 セル群
1001 シャッター
1002 シャッター
1003 ガスケット
1005 開口調整部
1007 排気用ファン
1008 温度計
1009 湿度計
1011 シャッター
1012 通気プレート
1013 シールド部材
1014 シャッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極および酸化剤極を含む単位セルを有する燃料電池であって、
吸気口および排気口を有し、前記酸化剤極に酸化剤を供給する酸化剤流路と、
前記吸気口または前記排気口の開口の程度を調整する開口調整部と、
を含むことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池において、
前記開口調整部は、前記酸化剤流路の前記吸気口または前記排気口の開口の程度を変更可能な開閉弁を含むことを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池において、
前記開口調整部は、前記開閉弁を閉じたときに、当該開口弁と協動して前記吸気口または前記排気口を密閉する密閉部材を含むことを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかに記載の燃料電池において、
前記酸化剤流路への前記酸化剤の導入を促す導入促進部をさらに含むことを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかに記載の燃料電池において、
温度を測定する温度測定部をさらに含み、
前記開口調整部は、前記温度測定部により測定された温度に応じて前記開口の程度を調整することを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載の燃料電池において、
前記酸化剤流路内の湿度を測定する湿度測定部を含み、
前記開口調整部は、前記湿度測定部により測定された湿度に応じて前記開口の程度を調整することを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかに記載の燃料電池において、
前記開口調整部は、当該燃料電池の運転状況に応じて、前記開口の程度を調整することを特徴とする燃料電池。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれかに記載の燃料電池において、
前記燃料電池は、前記燃料極に液体燃料が供給される直接型の燃料電池であることを特徴とする燃料電池。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれかに記載の燃料電池において、
複数の前記単位セルを含み、当該複数の単位セルが平面実装されたことを特徴とする燃料電池。
【請求項10】
請求項1乃至9いずれかに記載の燃料電池において、
前記酸化剤流路内に設けられた吸湿剤をさらに含むことを特徴とする燃料電池。
【請求項11】
燃料極および酸化剤極を含む単位セルを有する燃料電池の運転方法であって、
前記燃料電池は、吸気口および排気口を有する酸化剤流路を含み、
前記酸化剤極に酸化剤を供給する工程と、
前記吸気口または前記排気口の開口の程度を調整する工程と、
を含むことを特徴とする燃料電池の運転方法。
【請求項12】
請求項11に記載の燃料電池の運転方法において、
前記燃料電池は、前記吸気口または前記排気口の開口の程度を変更可能な開閉弁をさらに含み、
前記開口の程度を調整する工程において、前記開閉弁を開閉することにより、前記開口の程度を調整することを特徴とする燃料電池の運転方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の燃料電池の運転方法において、
前記燃料電池の温度を測定する工程をさらに含み、
前記開口の程度を調整する工程において、前記温度を測定する工程で測定された温度に応じて前記開口の程度を調整することを特徴とする燃料電池の運転方法。
【請求項14】
請求項11乃至13いずれかに記載の燃料電池の運転方法において、
前記酸化剤流路内の湿度を測定する工程をさらに含み、
前記開口の程度を調整する工程において、前記湿度を測定する工程で測定された湿度に応じて前記開口の程度を調整することを特徴とする燃料電池の運転方法。
【請求項15】
請求項11乃至14いずれかに記載の燃料電池の運転方法において、
前記燃料電池の運転状況を検知する工程をさらに含み、
前記開口の程度を調整する工程において、前記運転状況に応じて前記開口の程度を調整することを特徴とする燃料電池の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−66011(P2011−66011A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262051(P2010−262051)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【分割の表示】特願2003−344600(P2003−344600)の分割
【原出願日】平成15年10月2日(2003.10.2)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】