説明

燃料電池からの触媒金属の回収方法

【課題】触媒金属とフッ素系樹脂とを含有する燃料電池構成要素から、環境汚染ガスを生じ得る焼却の工程を行なうことなく触媒金属を回収する。
【解決手段】燃料電池から得られた、触媒金属とフッ素系樹脂とを含有する燃料電池構成要素を用意する第1の工程(ステップS100)と、燃料電池構成要素を超臨界流体で処理し(ステップS110)、超臨界流体中でフッ素系樹脂を分解させる第2の工程(ステップS120)と、第2の工程を経た燃料電池構成要素の残留物としての、触媒金属を含有する触媒金属含有固形成分を取得する第3の工程(ステップS130)と、を備える触媒金属の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池からの触媒金属の回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池では、その電極において、白金等の貴金属が触媒金属として広く用いられている。これらの貴金属は、資源的に希少であって高価である。そのため、燃料電池がその効用を終えたときには、使用済みの燃料電池から触媒金属を回収して、再利用することが望まれている。燃料電池から触媒金属を回収する方法としては、例えば、触媒成分を含む燃料電池要素を焼却し、その焼却残部から触媒金属を抽出する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−138541
【特許文献2】特開平11−288732
【特許文献3】特開2006−207003
【特許文献4】特開2007−083173
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、触媒金属を含む燃料電池要素を焼却処理する場合には、環境汚染ガスが発生する可能性があるという問題があった。具体的には、燃料電池が、構成元素としてフッ素を備えるフッ素系樹脂から成る電解質膜を備える固体高分子型燃料電池である場合など、燃料電池要素がフッ素系樹脂を含有する場合には、このような燃料電池要素を焼却すると、環境汚染ガスであるフッ化物ガスが発生してしまう。そのため、フッ素系樹脂を含有する燃料電池要素を焼却する場合には、発生した環境汚染ガスを回収したり処理するための特別な工程や装置が必要であった。あるいは、環境汚染ガスの発生を抑えるための物質を焼却に先立って燃料電池要素に加えて、環境汚染ガスの発生を抑えるための更なる反応を進行させる必要があった。そのため、フッ素系樹脂を含有する燃料電池構成要素から触媒金属を回収する方法として、上記した問題が発生することがないよう、焼却処理を伴わない回収方法が望まれていた。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、触媒金属とフッ素系樹脂とを含有する燃料電池構成要素から、環境汚染ガスを生じ得る焼却の工程を行なうことなく触媒金属を回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実施することが可能である。
【0007】
[適用例1]
燃料電池からの触媒金属の回収方法であって、
前記燃料電池から得られた、触媒金属とフッ素系樹脂とを含有する燃料電池構成要素を用意する第1の工程と、
前記燃料電池構成要素を超臨界流体で処理し、前記超臨界流体中で前記フッ素系樹脂を分解させる第2の工程と、
前記第2の工程を経た前記燃料電池構成要素の残留物としての、前記触媒金属を含有する触媒金属含有固形成分を取得する第3の工程と
を備える触媒金属の回収方法。
【0008】
適用例1に記載の燃料電池からの触媒金属の回収方法では、触媒金属とフッ素系樹脂とを含有する燃料電池構成要素を超臨界流体で処理することによってフッ素系樹脂を分解や溶解させ、その後に触媒金属含有固形成分を取得している。そのため、環境汚染ガスを生じ得る焼却処理を行なうことなく、触媒金属をフッ素系樹脂から分離・回収することが可能になる。
【0009】
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池からの触媒金属の回収方法であって、前記超臨界流体は、超臨界水または超臨界二酸化炭素である触媒金属の回収方法。適用例2に記載の燃料電池からの触媒金属の回収方法によれば、水や二酸化炭素はフッ素系樹脂を溶解可能な有機溶媒に比べて安全性が高いため、触媒金属回収の動作全体の安全性を高めることができる。また、超臨界水や超臨界二酸化炭素を用いることにより、触媒金属の抽出のために用いた溶媒を廃棄するための特別な処理を行なう必要が生じないという効果を奏する。
【0010】
[適用例3]
適用例2記載の燃料電池からの触媒金属の回収方法であって、前記超臨界流体は超臨界水であり、前記燃料電池構成要素は、さらに、炭素製部材を含有し、前記第2の工程は、前記超臨界水に対して酸素を供給する工程を含み、前記フッ素系樹脂を分解すると共に、前記炭素製部材を分解して二酸化炭素を生じさせる触媒金属の回収方法。適用例3に記載の燃料電池からの触媒金属の回収方法によれば、フッ素系樹脂を分解するための超臨界水を用いた処理において、炭素製部材の分解も同時に行なうことができる。したがって、燃料電池構成要素に対する一度の処理によって、触媒金属を、フッ素系樹脂および炭素製部材から分離して回収することが可能になるという効果を奏する。
【0011】
[適用例4]
適用例2記載の燃料電池からの触媒金属の回収方法であって、前記燃料電池構成要素は、さらに、炭素製部材を含有し、前記第3の工程で取得する前記触媒金属含有固形成分は、前記触媒金属と共に前記炭素製部材由来の炭素材料を含有しており、前記触媒金属の回収方法は、さらに、前記触媒金属含有固形成分を、前記触媒金属を錯体化するキレート剤を含有する超臨界二酸化炭素で処理して、前記触媒金属を錯体化することによって前記超臨界二酸化炭素に溶解させる第4の工程と、前記触媒金属を溶解した前記超臨界二酸化炭素から、前記触媒金属を取得する第5の工程とを備える触媒金属の回収方法。適用例4に記載の燃料電池からの触媒金属の回収方法によれば、超臨界二酸化炭素とキレート剤とを用いて触媒金属を抽出する方法は、極めて高い効率で触媒金属を抽出することが可能な方法であるため、燃料電池構成要素から触媒金属を回収する動作全体における回収効率を高めることが可能になる。また、超臨界二酸化炭素は、臨界点以下にすることで容易に気化させることができ、溶媒としての超臨界二酸化炭素を触媒金属から除去する動作を、極めて容易に行なうことが可能になる。
【0012】
[適用例5]
適用例2記載の燃料電池からの触媒金属の回収方法であって、前記燃料電池構成要素は、さらに、炭素製部材を含有し、前記第3の工程で取得する前記触媒金属含有固形成分は、前記触媒金属と共に前記炭素製部材由来の炭素材料を含有しており、前記触媒金属の回収方法は、さらに、前記触媒金属含有固形成分を、酸素を供給しつつ超臨界水中で処理して、前記炭素材料を分解して二酸化炭素を生じさせる第4の工程と、前記第4の工程を経た前記触媒金属含有固形成分の残留物としての、前記触媒金属を取得する第5の工程とを備える触媒金属の回収方法。適用例5に記載の燃料電池からの触媒金属の回収方法によれば、触媒金属含有固形成分が、さらに炭素製部材を含有する場合であっても、触媒金属を固形成分として容易に回収することが可能になる。
【0013】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、燃料電池からの触媒金属の回収装置などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施例の触媒金属の回収方法を表わす工程図である。
【図2】単セル10の概略構成を表わす断面模式図である。
【図3】第2実施例の触媒金属の回収方法を表わす工程図である。
【図4】第3実施例の触媒金属の回収方法を表わす工程図である。
【図5】第4実施例の触媒金属の回収方法を表わす工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.第1実施例:
図1は、本発明の第1実施例としての燃料電池からの触媒金属の回収方法を表わす工程図である。燃料電池から触媒金属を回収する際には、まず、燃料電池を分解することによって、触媒金属回収の対象としての、電解質膜と電極とガス拡散層とから成る燃料電池構成要素を用意する(ステップS100)。
【0016】
ここでまず、触媒金属を回収すべき燃料電池について説明する。本実施例で用いる燃料電池は、固体高分子型の燃料電池であり、複数の単セル10を積層したスタック構造を有している。図2は、本実施例で用いる燃料電池を構成する単セル10の概略構成を表わす断面模式図である。単セル10は、電解質膜20、アノード21、カソード22、ガス拡散層23,24、ガスセパレータ25,26によって構成されている。
【0017】
電解質膜20は、固体高分子材料、例えばパーフルオロカーボンスルホン酸を備えるフッ素系樹脂により形成されたイオン交換膜とすることができ、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す。アノード21およびカソード22は、電解質膜20上に形成された電極層であり、例えば、電気化学反応を進行する触媒金属(例えば白金)を担持したカーボン粒子(触媒担持カーボン粒子)と、プロトン伝導性を有する高分子電解質と、によって構成することができる。具体的には、例えば、上記触媒担持カーボン粒子および高分子電解質を含有する電極ペーストを作製し、この電極ペーストを、電解質膜20上に塗布し、乾燥・固着させればよい。なお、電極は、触媒金属を備えていれば良く、高分子電解質を備えない構成とすることもできる。ガス拡散層23,24は、ガス透過性および電子伝導性を有する部材によって構成されており、例えば、カーボンクロスやカーボンペーパなどの多孔質カーボン製部材により形成することができる。なお、以下の説明において、電解質膜20と、アノード21およびカソード22と、ガス拡散層23,24とから成る積層体を、膜−電極−ガス拡散層接合体28(MEGA28)と呼ぶ。ガスセパレータ25,26は、ガス不透過の導電性部材によって形成されており、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボン等のカーボン製部材や、プレス成形したステンレス鋼などの金属部材によって形成することができる。
【0018】
ガスセパレータ25,26は、その表面に、単セル10内のガス流路を形成するための凹凸形状を有している。ガスセパレータ25は、ガス拡散層23との間に、水素を含有する燃料ガスが通過するセル内燃料ガス流路30を形成する。また、ガスセパレータ26は、ガス拡散層24との間に、酸素を含有する酸化ガスが通過するセル内酸化ガス流路31を形成する。
【0019】
なお、単セル10において、ガス拡散層23,24と電極との間に、さらに撥水層を設けることとしても良い。撥水層は、例えば、カーボン粒子と、撥水性物質としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂とを、溶媒中に分散させて撥水層インクを作製し、この撥水層インクを、電極とガス拡散層の少なくとも一方の表面に塗布して、乾燥・焼成を行なうことによって形成することができる。
【0020】
燃料電池は、このような複数の単セル10を積層して成るスタック構造に対して積層方向に締結圧を加えた状態で、全体が保持されている。ステップS100においては、燃料電池を分解して、燃料電池構成要素としてMEGA28を用意している、具体的には、燃料電池を構成するスタックを個々の単セル10に分解すると共に、個々の単セル10においては、ガス拡散層23とガスセパレータ25との間、および、ガス拡散層24とガスセパレータ26との間を剥がし、MEGA28を取り出している。
【0021】
次に、ステップS100で用意した燃料電池構成要素を超臨界水で処理し(ステップS110)、燃料電池構成要素に含まれるフッ素系樹脂(電解質膜20と、電極に含まれる高分子電解質と、撥水層に含まれる撥水性物質)を分解する(ステップS120)。超臨界水とは、水を、臨界点以上の温度及び圧力としたときに得られる流体である。水の臨界温度は373.95℃であり、臨界圧力は22.064MPaである。超臨界水は、あらゆる有機物を低分子化することができ、条件によっては完全に分解することが可能である。本実施例では、ステップS110における処理条件の設定によって、ステップS120において、燃料電池構成要素中のフッ素系樹脂を完全に分解して、水(H2O)および二酸化炭素(CO2)を生じさせている。ステップS120においてフッ素系樹脂が完全に分解されたときには、分解されたフッ素系樹脂に含まれていたフッ素原子は、フッ化物イオンとなって超臨界水中に溶解した状態となる。また、このとき、燃料電池構成要素中の触媒金属と炭素材料(触媒金属を担持していたカーボン粒子およびガス拡散層23,24)は、固形成分として超臨界水中に残留する状態となっている。本実施例では、このようなフッ素系樹脂の分解のためのステップS110における処理の条件は、600℃、25MPa、15minとしている。なお、ステップS110において燃料電池構成要素を超臨界水で処理する際には、燃料電池構成要素を予め粉砕しておくことが望ましい。このような超臨界水による処理は、例えば、上記条件に応じた耐圧性および耐熱性を有するタンク内に、燃料電池構成要素を投入すると共に水を供給し、水中に燃料電池要素を浸漬した状態にする。そして、上記タンク内を既述した条件へと昇温・昇圧することによって水を超臨界水にして、このような状態を所定時間保持すればよい。
【0022】
なお、本実施例では、燃料電池構成要素を、触媒金属と、フッ素系樹脂(電解質膜20と、電極に含まれる高分子電解質と撥水層に含まれる撥水性物質)と、炭素材料(カーボン粒子およびガス拡散層23,24)とから成ることとしたが、異なる構成としても良い。例えば、電解質膜20の周囲に配置されてセル内ガス流路におけるガスシール性を実現するシール部材を用いる場合や、単セル10内においてスペーサを配置する場合のように、燃料電池構成要素としてのMEGA28が、さらに異なる部材を備える場合がある。このような場合であっても、上記異なる部材が有機材料などから成る高分子材料製の部材である場合には、超臨界水によって低分子化されて超臨界水中に溶解する。あるいは、二酸化炭素や水に分解される。また、上記異なる部材が炭素製部材あるいは金属製部材である場合には、固形成分として超臨界水中に残留する。
【0023】
次に、ステップS120で得られた超臨界水から、固形成分を分離する(ステップS130)。既述したように、この固形成分は、触媒金属と炭素材料とによって構成されている。ステップS130における固形成分の分離の動作は、本実施例では、濾過によって行なっている。
【0024】
次に、ステップS130で得られた固形成分を、キレート剤含有超臨界二酸化炭素で処理し(ステップS140)、固形成分中の触媒金属を錯体化して超臨界二酸化炭素中に溶解させる(ステップS150)。超臨界二酸化炭素とは、二酸化炭素を、臨界点以上の温度及び圧力としたときに得られる流体である。二酸化炭素の臨界温度は31.1℃であり、臨界圧力は7.38MPaである。ここで、金属イオンは一般に二酸化炭素に比べて極性が高く、二酸化炭素との親和性が低い。そのため、本実施例では、極性の低い有機化合物であるキレート剤を触媒金属に加えることによって、触媒金属から極性の低い有機金属化合物(錯体)を形成させて、触媒金属を超臨界二酸化炭素に溶解可能にしている。本実施例では、キレート剤としてCyanex302(サイアナミド社製)を用いている。錯体化した触媒金属の超臨界二酸化炭素による抽出効率は、用いるキレート剤の種類及び量と、超臨界二酸化炭素の温度及び圧力とによって調節することができる。本実施例では、ステップS140における処理の条件は、60℃、20MPa、10minとしている。ステップS150において触媒金属を錯体化して超臨界二酸化炭素中に溶解させると、超臨界二酸化炭素中では、炭素材料が固形成分として残留する。
【0025】
その後、ステップS150で得られた超臨界二酸化炭素から固形成分である炭素材料を分離して(ステップS160)、触媒金属を回収する。ステップS160における固形成分の分離の動作は、本実施例では、超臨界二酸化炭素の状態を維持したまま、濾過によって行なっている。ここで、超臨界二酸化炭素は、臨界点以下になると瞬時に気化する。そのため、ステップS160において超臨界二酸化炭素に溶解する状態で回収された触媒金属は、この触媒金属を溶解する超臨界二酸化炭素を超臨界点以下にして、二酸化炭素を気化により除去することにより、錯体の状態で完全に回収することができる。回収された触媒金属の錯体を精製することにより、純度の高い触媒金属を得ることができる。触媒金属を精製する方法としては、例えば、電解層での電析法や、還元剤を添加して金属ブラックとして沈殿させる方法や、燃焼法を挙げることができる。上記沈殿方法における還元剤としては、例えば、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、ギ酸、カリウム、水素を挙げることができる。上記燃焼法は、300℃以上(好ましくは、350〜700℃)の環境下で行なうことができ、水素気流中で処理を行なっても良い。なお、ステップS100で用意した燃料電池構成要素において、触媒金属以外の金属が含有されていた場合には、触媒金属と共に他の金属が回収されることになる。この場合には、周知の金属分離の技術を用いて所望の触媒金属を精製すればよい。燃料電池構成要素が、金属成分として触媒金属のみを備える場合には、ステップS160で固形成分を分離して超臨界二酸化炭素を気化させることにより、触媒金属を高い収率で回収することができる。また、触媒金属が合金によって構成されている場合には、周知の金属分離の技術を用いることにより、所望の金属を分離することができる。
【0026】
以上のように構成された本実施例の燃料電池からの触媒金属の回収方法によれば、触媒金属とフッ素系樹脂とを含有する燃料電池構成要素を超臨界水で処理することによってフッ素系樹脂を分解させ、その後に超臨界水と固形成分とを分離することによって、触媒金属とフッ素系樹脂とを分離している。そのため、環境汚染ガスを生じ得る焼却処理を行なうことなく、触媒金属をフッ素系樹脂から分離・回収することが可能になる。このとき、触媒金属を含有する固形成分の濾過と、触媒金属を溶解した超臨界二酸化炭素の気化の工程によって触媒金属を回収しているため、焼却処理を行なう場合のように回収対象物が途中で飛散して失われることが抑えられ、高い収率で触媒金属を回収することができる。
【0027】
また、本実施例の触媒金属の回収方法によれば、フッ素系樹脂から分離した固形成分において、触媒金属と炭素材料とを分離する際に、超臨界二酸化炭素を用いている。そのため、溶媒としての超臨界二酸化炭素を臨界点以下にすることによって容易に除去可能となり、触媒金属を回収する際に触媒金属の抽出のために用いた溶媒の残留を考慮する必要がないという効果を奏する。また、超臨界二酸化炭素とキレート剤とを用いて触媒金属を抽出する方法は、極めて高い効率(例えば、95%以上)で触媒金属を抽出することが可能な方法であるため、燃料電池構成要素から触媒金属を回収する動作全体における回収効率を高めることが可能になる。
【0028】
さらに本実施例では、触媒金属を抽出するために超臨界水や超臨界二酸化炭素を用いており、水や二酸化炭素はアルコールなどの有機溶媒に比べて安全性が高いため、触媒金属回収の動作全体の安全性を高めることができる。また、超臨界水や超臨界二酸化炭素を用いることにより、触媒金属の抽出のために用いた溶媒を廃棄するために特別な処理を行なう必要がないという効果を奏する。
【0029】
B.第2実施例:
第1実施例では、燃料電池構成要素を最初に超臨界水で処理することによってフッ素系樹脂を分解・除去すると共に、引き続き固形成分を超臨界二酸化炭素で処理することによって触媒金属を抽出しているが、異なる構成とすることもできる。以下に、第2実施例として、超臨界水を用いた処理において、フッ素系樹脂と共に炭素材料も分解する方法を説明する。
【0030】
図3は、第2実施例の燃料電池からの触媒金属の回収方法を表わす工程図である。第2実施例の触媒金属の回収方法は、第1実施例の触媒金属の回収方法と共通する部分があるため、図3においては、第1実施例の各工程に対応する工程については参照番号を100番台から200番台に変更すると共に、第1実施例と同様の部分については詳しい説明を省略する。
【0031】
第2実施例の触媒金属の回収方法では、まず、ステップS100と同様に、燃料電池を分解することによって、触媒金属回収の対象としての、電解質膜と電極とガス拡散層とから成る燃料電池構成要素(MEGA28)を用意する(ステップS200)。そして、ステップS200で用意した燃料電池構成要素を、酸素を供給しつつ超臨界水で処理し(ステップS210)、燃料電池構成要素に含まれるフッ素系樹脂(電解質膜20と、電極に含まれる高分子電解質と、撥水層に含まれる撥水性物質)および炭素材料(カーボン粒子およびガス拡散層23,24)を分解する(ステップS220)。ここで、ステップS210は、ステップS110とは異なり、燃料電池構成要素を超臨界水で処理する際に、さらに酸素を供給している。燃料電池構成要素を超臨界水で処理することによって、ステップS110と同様に燃料電池構成要素中のフッ素系樹脂を分解して水(H2O)および二酸化炭素(CO2)を生じることができるが、本実施例では酸素を加えることにより、さらに、燃料電池構成要素中の炭素材料を完全に分解して二酸化炭素を発生させている。ステップS210における処理の条件は、ステップS110と同様としている。なお、ステップS210における超臨界水に対する酸素の導入は、酸素を酸素分子の状態で導入する他、過酸化水素を導入することによって行なっても良い。
【0032】
燃料電池構成要素が、フッ素系樹脂以外の高分子材料(有機材料)から成る部材をさらに備える場合には、このような部材もまた超臨界水によって分解されて、水および二酸化炭素を生じることになる。また、燃料電池構成要素が、カーボン粒子およびガス拡散層23,24以外の炭素材料を含有する場合には、このような炭素材料もまた分解されて二酸化炭素を生じる。ステップS220においては、超臨界水中には、フッ素系樹脂に由来するフッ化物イオンが溶解すると共に、水および二酸化炭素が混在しており、触媒金属が固形成分として残留する状態となっている。
【0033】
次に、ステップS220で得られた超臨界水から、固形成分を分離する(ステップS230)。既述したように、この固形成分は触媒金属によって構成されているため、固形成分を分離することにより触媒金属を回収することができる。なお、ステップS230における固形成分の分離の動作は、本実施例では、濾過によって行なっている。
【0034】
以上のように構成された本実施例の燃料電池からの触媒金属の回収方法によれば、触媒金属とフッ素系樹脂とを含有する燃料電池構成要素を超臨界水で処理することによってフッ素系樹脂を分解させ、その後に超臨界水と固形成分とを分離することによって、触媒金属とフッ素系樹脂とを分離している。そのため、第1実施例と同様に、環境汚染ガスを生じ得る焼却処理を行なうことなく、安全性の高い溶媒を用いて、高い収率で触媒金属をフッ素系樹脂から分離・回収することが可能になる。さらに本実施例によれば、上記した超臨界水を用いた処理において、さらに酸素を導入することによって炭素材料の分解を行なっている。そのため、フッ素系樹脂を分解するための超臨界水を用いた処理において、炭素系材料の分解も同時に行なうことができる。したがって、燃料電池構成要素に対する超臨界水を用いた一度の処理によって、触媒金属を、フッ素系樹脂および炭素材料から分離することが可能になる。
【0035】
C.第3実施例:
第1および第2実施例では、燃料電池構成要素を最初に超臨界水で処理することによってフッ素系樹脂を分解・除去し、触媒金属とフッ素系樹脂との分離を行なっているが、異なる構成とすることもできる。以下に、第3実施例として、超臨界二酸化炭素を用いて触媒金属とフッ素系樹脂との分離を行なう方法を説明する。
【0036】
図4は、第3実施例の燃料電池からの触媒金属の回収方法を表わす工程図である。第3実施例の触媒金属の回収方法は、第1実施例の触媒金属の回収方法と共通する部分があるため、図4においては、第1実施例の各工程に対応する工程については参照番号を100番台から300番台に変更すると共に、第1実施例と同様の部分については詳しい説明を省略する。
【0037】
第3実施例の触媒金属の回収方法では、まず、ステップS100と同様に、燃料電池を分解することによって、触媒金属回収の対象としての、電解質膜と電極とガス拡散層とから成る燃料電池構成要素(MEGA28)を用意する(ステップS300)。そして、ステップS300で用意した燃料電池構成要素を超臨界二酸化炭素で処理し(ステップS310)、燃料電池構成要素に含まれるフッ素系樹脂(電解質膜20と、電極に含まれる高分子電解質と、撥水層に含まれる撥水性物質)を、超臨界二酸化炭素に溶解させる(ステップS320)。ステップS310における条件を適宜設定することによって、ステップS320では、フッ素系樹脂全体が超臨界二酸化炭素中に溶解されて、触媒金属と炭素材料とが固形成分として超臨界二酸化炭素中に残留する状態としている。本実施例では、このようなフッ素樹脂の溶解のためのステップS310における処理の条件は、60℃、30MPa、10minとしている。
【0038】
次に、ステップS320で得られた超臨界二酸化炭素から、固形成分を分離する(ステップS330)。既述したように、この固形成分は、触媒金属と炭素材料とによって構成されている。ステップS330における固形成分の分離の動作は、本実施例では、超臨界二酸化炭素の状態を維持したまま、濾過によって行なっている。なお、固形成分を分離した後の超臨界二酸化炭素は、フッ素系樹脂を溶解しているため、この超臨界二酸化炭素を臨界点以下にして二酸化炭素を気化させることにより、溶解していたフッ素系樹脂を回収することができる。
【0039】
次に、ステップS330で得られた固形成分を、ステップS140〜S160と同様の処理に供して(ステップS340〜S360)、触媒金属を回収する。すなわち、触媒金属と炭素材料から成る固形成分をキレート剤含有超臨界二酸化炭素で処理し(ステップS340)、触媒金属を錯体化して超臨界二酸化炭素中に溶解させ(ステップS350)、固形成分として超臨界二酸化炭素中に残存する炭素材料を分離した後に(ステップS360)、二酸化炭素を気化させることによって触媒金属を回収する。
【0040】
以上のように構成された本実施例の燃料電池からの触媒金属の回収方法によれば、触媒金属とフッ素系樹脂とを含有する燃料電池構成要素を超臨界二酸化炭素で処理することによって、フッ素系樹脂を超臨界二酸化炭素に溶解させ、その後に超臨界二酸化炭素と固形成分とを分離することによって、触媒金属とフッ素系樹脂とを分離している。そのため、第1実施例と同様に、環境汚染ガスを生じ得る焼却処理を行なうことなく、安全性の高い溶媒を用いて、高い収率で触媒金属をフッ素系樹脂から分離・回収することが可能になる。また、燃料電池構成要素において触媒金属とフッ素系樹脂とを分離する際、および、固形成分において触媒金属と炭素材料とを分離する際に超臨界二酸化炭素を用いるため、上記分離に伴う抽出動作に用いた溶媒の残留を考慮する必要がなく、抽出のために用いた溶媒を廃棄するために、特別な処理を行なう必要がないという効果を奏する。
【0041】
さらに本実施例によれば、燃料電池構成要素を超臨界二酸化炭素で処理することによってフッ素系樹脂を超臨界二酸化炭素に溶解させているため、フッ素系樹脂を、超臨界二酸化炭素から容易に回収することが可能になる。そのため、回収したフッ素系樹脂を、新たなフッ素系樹脂製部材(例えば電解質膜20)を作製する際の材料として再利用することができる。
【0042】
D.第4実施例:
第3実施例では、燃料電池構成要素において触媒金属とフッ素系樹脂とを分離するために超臨界二酸化炭素を用いた後に、得られた固形成分において触媒金属と炭素材料とを分離するためにも超臨界二酸化炭素を用いているが、異なる構成としても良い。以下に、第4実施例として、超臨界二酸化炭素を用いて触媒金属とフッ素系樹脂とを分離した後の固形成分において、触媒金属と炭素材料とを分離するために、超臨界水を用いる方法を説明する。
【0043】
図5は、第4実施例の燃料電池からの触媒金属の回収方法を表わす工程図である。第4実施例の触媒金属の回収方法は、第3実施例の触媒金属の回収方法と共通する部分があるため、図5においては、第3実施例の各工程に対応する工程については参照番号を300番台から400番台に変更すると共に、第1あるいは第3実施例と同様の部分については詳しい説明を省略する。
【0044】
第4実施例の触媒金属の回収方法では、まず、ステップS300〜S330と同様の処理を行なう(ステップS400〜S430)。すなわち、用意した燃料電池構成要素中のフッ素系樹脂を超臨界二酸化炭素中に溶解させることによって、触媒金属と炭素材料とから成る固形成分を分離する。
【0045】
その後、ステップS430で得られた固形成分を、第2実施例のステップS210〜S230と同様の処理に供する(ステップS440〜S460)。すなわち、ステップS430で得られた固形成分を、酸素を供給しつつ超臨界水で処理し(ステップS440)、固形成分に含まれる炭素材料を分解させる(ステップS450)。このように炭素材料を分解させることにより、ステップS450で得られる超臨界水においては、触媒金属が固形成分として残留する状態となる。その後、ステップS450で得られた超臨界水から固形成分を分離することにより(ステップS460)、触媒金属を回収することができる。
【0046】
以上のように構成された本実施例の燃料電池からの触媒金属の回収方法によれば、触媒金属とフッ素系樹脂とを含有する燃料電池構成要素を超臨界二酸化炭素で処理することによってフッ素系樹脂を超臨界二酸化炭素に溶解させ、その後に超臨界二酸化炭素と固形成分とを分離することによって、触媒金属とフッ素系樹脂とを分離している。そのため、第1実施例と同様に、環境汚染ガスを生じ得る焼却処理を行なうことなく、安全性の高い溶媒を用いて、高い収率で触媒金属をフッ素系樹脂から分離・回収することが可能になる。また、燃料電池構成要素において触媒金属とフッ素系樹脂とを分離する際に超臨界二酸化炭素を用いるため、上記分離に伴う抽出動作に用いた溶媒の残留を考慮する必要がなく、抽出のために用いた溶媒を廃棄するために、特別な処理を行なう必要がないという効果を奏する。さらに本実施例によれば、燃料電池構成要素を超臨界二酸化炭素で処理することによってフッ素系樹脂を超臨界二酸化炭素に溶解させているため、第3実施例と同様に、フッ素系樹脂を回収し、再利用することが可能になる。
【0047】
E.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0048】
E1.変形例1:
第1ないし第4実施例において触媒金属回収の対象とした燃料電池とは異なる構成の燃料電池から触媒金属を回収する際にも、実施例と同様に本発明を適用することが可能である。例えば、実施例で用いた燃料電池は、パーフルオロカーボンスルホン酸を備えるフッ素系樹脂を電解質膜20として備えることとしたが、フッ素系樹脂以外の高分子電解質によって構成される電解質膜を備える燃料電池を用いることとしても良い。このような場合であっても、例えば、ガス拡散層と電極の間に設ける既述した撥水層が撥水性物質としてフッ素系樹脂を備える場合のように、燃料電池構成要素に含まれるいずれかの部位にフッ素系樹脂を用いた燃料電池であれば良い。本発明を適用することにより、触媒金属とフッ素系樹脂とを備える燃料電池構成要素から、焼却処理を行なうことなく触媒金属とフッ素系樹脂とを分離できるという同様の効果を奏することができる。
【0049】
また、実施例で触媒金属回収の対象とした燃料電池では、ガスセパレータ上にガス流路を形成するための凹凸を設けており、このようなガスセパレータとガス拡散層との接合面を剥がすことで、燃料電池構成要素としてのMEGA28を取り出しているが、異なる構成としても良い。例えば、ガスセパレータ表面を平坦面となるように形成し、ガスセパレータとガス拡散層との間に多孔質部材を配置して、この多孔質部材内に設けられた細孔が形成する空間をセル内ガス流路とする燃料電池を、触媒金属回収の対象として用いても良い。このような場合には、上記したセル内ガス流路を形成する多孔質部材とガス拡散層との間の接合面を剥がすことにより、燃料電池構成要素としてのMEGA取り出せばよい。電解質膜と、電極と、電極に隣接する層(実施例ではガス拡散層)と、を含むように燃料電池構成要素を用意することにより、触媒金属を無駄なく高い収率で回収することが可能になる。
【0050】
E2.変形例2:
第1、第3および第4実施例では、触媒金属とフッ素系樹脂とを超臨界流体を用いて分離した後に、さらに超臨界流体を用いて、固形成分からの触媒金属の回収(触媒金属と炭素材料との分離)を行なっているが、異なる構成としても良い。すなわち、触媒金属を炭素材料と分離する工程は、超臨界流体を用いないこととしても良い。このような場合であっても、触媒金属とフッ素系樹脂との分離のために超臨界流体を用いることにより、焼却処理が不要になるという実施例と同様の効果を得ることができる。なお、超臨界流体を用いることなく触媒金属と炭素材料とを分離する方法としては、例えば、触媒金属を王水に溶かして分離する方法や、空気中かつ500℃以上の条件で炭素材料を燃焼させる方法を挙げることができる。
【符号の説明】
【0051】
10…単セル
20…電解質膜
21…アノード
22…カソード
23,24…ガス拡散層
25,26…ガスセパレータ
28…MEGA
30…セル内燃料ガス流路
31…セル内酸化ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池からの触媒金属の回収方法であって、
前記燃料電池から得られた、触媒金属とフッ素系樹脂とを含有する燃料電池構成要素を用意する第1の工程と、
前記燃料電池構成要素を超臨界流体で処理し、前記超臨界流体中で前記フッ素系樹脂を分解させる第2の工程と、
前記第2の工程を経た前記燃料電池構成要素の残留物としての、前記触媒金属を含有する触媒金属含有固形成分を取得する第3の工程と
を備える触媒金属の回収方法。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池からの触媒金属の回収方法であって、
前記超臨界流体は、超臨界水または超臨界二酸化炭素である
触媒金属の回収方法。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池からの触媒金属の回収方法であって、
前記超臨界流体は超臨界水であり、
前記燃料電池構成要素は、さらに、炭素製部材を含有し、
前記第2の工程は、前記超臨界水に対して酸素を供給する工程を含み、前記フッ素系樹脂を分解すると共に、前記炭素製部材を分解して二酸化炭素を生じさせる
触媒金属の回収方法。
【請求項4】
請求項2記載の燃料電池からの触媒金属の回収方法であって、
前記燃料電池構成要素は、さらに、炭素製部材を含有し、
前記第3の工程で取得する前記触媒金属含有固形成分は、前記触媒金属と共に前記炭素製部材由来の炭素材料を含有しており、
前記触媒金属の回収方法は、さらに、
前記触媒金属含有固形成分を、前記触媒金属を錯体化するキレート剤を含有する超臨界二酸化炭素で処理して、前記触媒金属を錯体化することによって前記超臨界二酸化炭素に溶解させる第4の工程と、
前記触媒金属を溶解した前記超臨界二酸化炭素から、前記触媒金属を取得する第5の工程と
を備える触媒金属の回収方法。
【請求項5】
請求項2記載の燃料電池からの触媒金属の回収方法であって、
前記燃料電池構成要素は、さらに、炭素製部材を含有し、
前記第3の工程で取得する前記触媒金属含有固形成分は、前記触媒金属と共に前記炭素製部材由来の炭素材料を含有しており、
前記触媒金属の回収方法は、さらに、
前記触媒金属含有固形成分を、酸素を供給しつつ超臨界水中で処理して、前記炭素材料を分解して二酸化炭素を生じさせる第4の工程と、
前記第4の工程を経た前記触媒金属含有固形成分の残留物としての、前記触媒金属を取得する第5の工程と
を備える触媒金属の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−240542(P2010−240542A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90725(P2009−90725)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】