説明

燃料電池のためのガス拡散ユニット

シール材(5)を備え、かつ平坦に構成された少なくとも2つのガス拡散層(3,4)を含み、前記シール材(5)は基板(6)に取り付けられている、燃料電池(2)のためのガス拡散ユニット(1)において、前記基板(6)は前記ガス拡散層(3,4)を互いに関節状に結合していることを特徴とするガス拡散ユニット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール材を備え、かつ平坦に構成された少なくとも2つのガス拡散層を含み、前記シール材は基板に取り付けられている、燃料電池のためのガス拡散ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、個々のセルを互いに並べて構成されている。燃料電池は、いわゆるスタックまたはセルスタックを形成しており、これに冷却のための追加のコンポーネントがさらに組み込まれている場合が多い。1つのセルは層状の構造をもつことを特徴としており、ガス分配構造を備える2つの双極板と、2つのガス拡散層と、触媒反応膜の形態の反応層とで形成される構造で1つのセルが構成される。このとき、それぞれ2つのガス拡散層は反応層を取り囲んでおり、隔膜・電極構造を形成する。漏れを回避するために、隔膜・電極構造または双極板はシール材を備えている。漏れは燃料電池の破損につながる可能性があり、燃料電池の効率を低下させる。特許文献1より、平坦に構成されたガス拡散層にシール材が射出成形されているガス拡散ユニットが公知である。その場合、組立のときにガス拡散層と反応層との接触領域ならびにガス拡散層と双極板との接触領域が漏れを生じさせずに密封されるように、ガス拡散層を相互に位置合わせするのが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0082430A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、相互に確実に封止をするように組立可能である、燃料電池のためのガス拡散ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は請求項1の構成要件によって解決される。好ましい実施形態は、従属請求項の対象となっている。
【0006】
課題を解決するために、基板はガス拡散層を互いに関節状に結合している。このとき、製作準備が完了した状態では、各ガス拡散層の間に隔膜が配置される。基板による関節状の結合によって定められる旋回軸が生じ、この旋回軸を中心として、ガス拡散層を互いに相対的に旋回可能である。隔膜・電極ユニットを製作するには、まず隔膜を各層の間に配置し、次いで、ガス拡散層を互いに接近するように旋回させる。所定の旋回運動により、両方のガス拡散層およびそのシール材が相互に位置決めされた状態で配置されることが保証される。シール材の正確な位置決めによって、漏れが確実に防止される。基板は半製品として金型に入れ、シール素材で押出被覆することができる。このとき基板は形状的に安定であるのが特別に好ましく、すなわち、多くのシール素材とは逆に収縮しないのが特別に好ましい。このようにして、2つのガス拡散層を有するガス拡散ユニットが、シール素材の収縮プロセスに基づいて歪むことが効果的に防止される。基板は平坦に構成されているのが好ましく、ガス拡散層がその中に配置される2つの切欠きを有している。これらの切欠きはガス拡散層と等しい寸法を有することができ、または、ガス拡散層が切欠きと重なり合うように構成されていてもよい。切欠きの寸法は、ガス拡散層の寸法より大きくてもよい。基板とガス拡散層との結合は、基板およびガス拡散層に一体成形により固着されたシール材を介して固着されるのが好ましい。別の実施形態では、基板が形状的な結合ま
たは形状的な結合及び固着によってガス拡散層と結合されていてもよい。そのために基板には、シール材が中にある切欠きが設けられる。
【0007】
シール材は弾性的なポリマー素材でできていてもよい。エラストマー素材は弾性的で高度に変形可能であり、容易に加工することができる。シール材は、たとえばシリコン、FKM(フルオロエラストマー)、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン−モノマー)、PIB(ポリイソブチレン)、PU(ポリウレタン)、BR(ブタジエン)、またはこれらの混合物でできていてもよい。混合によって個々の素材の好ましい特性を的確に組み合わせることができる。フルオロエラストマーは温度や化学品に対する耐性が優れているという特徴があり、燃料電池の環境で特別に好ましいことが判明している。別の実施形態では熱可塑性の素材、たとえば熱可塑性エラストマー(TPE)もシール素材として考えられる。後者は特に、熱可塑性材料と同様に短いサイクル時間で加工できるという利点を有している。
【0008】
基板はプラスチックとして構成されていてもよい。プラスチックシートは簡単かつ低コストに製造可能である。このとき、燃料電池内で主に生じる媒体や温度に対して耐性のあるプラスチック性質を利用可能である。基板の製作は平坦なプラスチック層を通じて行われ、これから基板が打ち抜かれる。基板の材料としては、特にポリエチレンナフタレート(PEN)やポリエーテルイミド(PEI)が考えられる。これらの素材は化学的に耐性があり、耐熱性もある。
【0009】
ガス拡散層へシール材を取り付けるために考えられる製造方法は、射出成形、プレス、接着、注型などである。このとき、プレスは、特に少ない金型コストと機械コストによって好都合な製造方法であり、燃料電池に典型的な厳しい公差のシール材を高い寸法安定性で製作することを可能にする。接着は、様々な実施形態のシール材を様々な実施形態のガス拡散層と組み合わせることができるモジュール形式での製作を可能にし、そのフレキシビリティによって、個数が少ない場合に特別に適している。シール材はガス拡散層に射出成形されていてもよい。射出成形は大量生産に対応することが可能な製造方法である。ガス拡散層への射出成形によって周回するシール材が形成され、各ガス拡散層の間に配置された反応層がこのシール材で全面的に取り囲まれるので、漏れが回避される。射出成形の場合、ガス拡散層へ射出成形されたシール材料がガス拡散層の中へ浸入するのが好ましい。この浸入は、特に不織布で形成されたガス拡散層の場合に行われる。それによってシール作用と取扱性がいっそう改善される。
【0010】
シール材は、少なくとも部分的に周回するシール隆起部を有することができる。シール隆起部は特にV字型に構成されていてもよい。シール隆起部はシール作用を向上させるとともに、隔膜・電極ユニットの組立を簡素化する。組立をするために、互いに結合されたガス拡散層をこれらの間に配置された隔膜とともに、たとえばねじ締結によって双極板の間で相互に押し合わせる。シール隆起部の接触面積は小さいので、圧着力ははじめのうちには小さいが、圧縮が進むにつれて連続して増大していく。シール隆起部が完全に圧縮されると、平坦に構成された隣接するシール領域が係合して圧着力が過大に増えていき、このことは、正しい圧着力およびこれに伴うシール力を示す指標となり得る。強すぎる圧着力によるシール材の過度の押圧が、それによって回避される。さらにシール隆起部は、封止されるべき表面における公差と起伏を埋め合わせる。
【0011】
シール材は固着状態で基板へ取り付けられていてもよい。シール材は、射出成形によって基板およびガス拡散層に塗布されるのが好ましい。この場合、シール材料の冷却後に固着による結合が成立する。基板には切欠きが設けられていてよく、この切欠きを通ってシール素材が流れることができる。この場合、基板に対するシール材の形状的な接合と固着が成立する。
【0012】
基板は、各ガス拡散層の間に一体ヒンジが形成されるように構成されていてもよい。そのために基板は、2つのガス拡散層を収容することができるように構成される。これらのガス拡散層はシール素材によって基板と固定的に結合される。隔膜を挿入してから、基板を介してガス拡散層を互いに接近するように旋回させる。基板によって形成される一体ヒンジは非常に頑丈であり、改善された機械的特性を有しており、エラストマー素材からなるものとは違って亀裂が入ることがない。大型の寸法も可能である。
【0013】
ガス拡散層には固定エレメントが配置されていてもよい。このとき固定エレメントはシール材の縁部領域に設けられているのが好ましく、シール材に一体的に設けられており、シール材と同一の材料で構成される。ガス拡散層におけるこのような固定エレメントは、互いに同一形状であるように構成されているのが好ましい。そうすれば、隔膜を挿入して互いに旋回させてからガス拡散層を結合することができる。それにより、隔膜が各ガス拡散層の間で拘束的に保持され、取扱と組立が簡素化される。固定エレメントは、取外し可能な結合が成立するように構成されているのが好ましい。固定エレメントがシール材に一体的に設けられていれば、シール材のエラストマー素材に基づき、特別に簡単に固定エレメントを取り扱うことができる。
【0014】
固定エレメントは、形状接合部材によって構成されていてもよい。このような種類の固定エレメントは、たとえば1つのガス拡散層にあるばち形溝と、他のガス拡散層にある対応する突起である。このとき溝と突起は、シール材の縁部領域に設けられているのが好ましい。一般に、固定エレメントはアンダーカットを有しており、他の固定エレメントのこれに適合する対応物がこれに係止される。形状接合部材は、特にそれがエラストマー素材に設けられているときには、多くの場合に容易に取外し可能、かつ容易に接合可能な結合である。
【0015】
固定エレメントは、シール材に一体的に設けられた構成要素であってよい。それにより、固定エレメントを特別に簡単に製造可能であり、また、シール材のエラストマー素材に基づき、容易に取扱可能である。シール材は特に射出成形により製作されるので、固定エレメントも金型で簡単かつ低コストに設けることができる。
【0016】
次に、本発明によるガス拡散ユニットのいくつかの実施例について、図面を参照しながら詳しく説明する。図面はそれぞれ模式的に次のものを示している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ガス拡散ユニットを示す平面図である。
【図2】ガス拡散ユニットを示す側面図である。
【図3a】固定エレメントを備えるガス拡散ユニットを示す側面図である。
【図3b】挿入された隔膜とともに閉じられた図3aのガス拡散ユニットを示す側面図である。
【図4】本発明によるガス拡散ユニットを備える燃料電池である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、互いに隣接して配置された平坦に構成された2つのガス拡散層3,4で構成される、燃料電池2のためのガス拡散ユニット1を平面図で示している。ガス拡散層3,4は、基板6の切欠き9,10に配置されている。基板6は平坦に構成されており、プラスチック、特にPENまたはPEIでできている。ガス拡散層3,4は炭化不織布でできており、基板6の上にはガス拡散層3,4の縁部のところにシール材5が配置されている。シール材5は、本実施形態ではシリコンを含む組成でできており、射出成形によって基板6の上でガス拡散層3,4に固定されており、シール材料は不織布の小孔へ浸入しており
、基板に固着した状態で結合されている。別の実施形態では、シール材5は熱可塑性エラストマー、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン−モノマー)、PIB(ポリイソブチレン)、PU(ポリウレタン)、BR(ブタジエン)、またはこれらの素材からなるシリコンを含む組成でできていてもよい。ガス拡散層3,4は、基板6によって互いに関節状に結合されている。
【0019】
図2は、図1のガス拡散ユニット1を側面図で示している。シール材5は基板6の中心線11に沿って切欠き13を有しており、それによってここに一体ヒンジ7が形成されており、これを介して、基板6の両側をガス拡散層3,4とともに旋回させることができる。シール材5は異形断面を有しており、V字型の突起を有している。
【0020】
図3aと図3bは、図2のガス拡散ユニット1を示している。これらの実施形態では、シール材5は同じく異形断面を有しており、ガス拡散層3,4の仕切縁部12のところに、一体的に設けられた構成要素としての固定エレメント8をそれぞれ有しており、それぞれのガス拡散層3,4の固定エレメント8は互いに同一形状成形されており、両方のガス拡散層3,4の形状接合式の結合を可能にしている。そのために、一方の固定エレメント8’は周回する円形の切欠きを有しており、他方の固定エレメント8’’は円形の突起を有している。図3bは、ガス拡散層3,4が基板6を中心として旋回しており、それによって相上下して配置されているガス拡散ユニット1を示している。ガス拡散層は固定エレメント8によって相互に固定されている。ガス拡散層3,4の間には、固定エレメント8によって拘束的に配置された隔膜が配置されている。
【0021】
図4は、携帯用の用途のための燃料電池2を示している。燃料電池2に配置されたガス拡散ユニット1は、1ミリメートル以下の厚みを有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール材(5)を備え、かつ平坦に構成された少なくとも2つのガス拡散層(3,4)を含み、前記シール材(5)は基板(6)に取り付けられている、燃料電池(2)のためのガス拡散ユニット(1)において、
前記基板(6)は前記ガス拡散層(3,4)を互いに柔軟部分で結合していることを特徴とするガス拡散ユニット。
【請求項2】
前記基板(6)はプラスチックシートとして構成されていることを特徴とする請求項1に記載のガス拡散ユニット。
【請求項3】
前記シール材(5)は固着した状態で前記基板(6)に取り付けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のガス拡散ユニット。
【請求項4】
前記基板(6)は前記ガス拡散層(3,4)の間に一体ヒンジ(7)が形成されるように構成されていることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載のガス拡散ユニット。
【請求項5】
前記ガス拡散層(3,4)には固定エレメント(8)が配置されていることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載のガス拡散ユニット。
【請求項6】
前記固定エレメント(8)は形状接合部材によって構成されていることを特徴とする請求項5に記載のガス拡散ユニット。
【請求項7】
前記固定エレメント(8)は前記シール材(5)に一体的に設けられていることを特徴とする請求項6に記載のガス拡散ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−532074(P2010−532074A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513699(P2010−513699)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際出願番号】PCT/EP2008/004480
【国際公開番号】WO2009/003566
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】