説明

燃料電池のカソード電極触媒

【課題】燃料電池のカソード電極触媒に関し、プロトン伝導性を低下させずに活性化過電圧を低減可能な燃料電池のカソード電極触媒を提供する。
【解決手段】カソード電極触媒層16は、多孔質のカーボン粒子161を含んでいる。カーボン粒子161の外表面には、触媒粒子162が設けられている。カーボン粒子161の外表面には、触媒粒子162を覆うようにアイオノマー163が設けられている。このアイオノマー163は、酸素溶解性の異なる2種類のアイオノマーをブレンドすることで形成されている。酸素溶解性の異なる2種類のアイオノマーのブレンド比率は、重量比で25:75〜75:25であることが好ましい。酸素溶解性の異なる2種類のアイオノマーのうち、高酸素溶解性のアイオノマーの動的弾性率は、低酸素溶解性のアイオノマーの動的弾性率よりも高いことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池のカソード電極触媒に関し、より詳細には、固体高分子型燃料電池に用いられるカソード電極触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、ポリジメチルシロキサンを含有させた固体高分子型燃料電池のカソード電極触媒が開示されている。ポリジメチルシロキサンは、酸素溶解性の高い高分子化合物である。このため、ポリジメチルシロキサンを含有させることで、カソード電極触媒における酸素濃度を高めることができる。したがって、カソードにおける水生成反応を促進し、活性化過電圧を低下できるので、燃料電池の性能を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−289202号公報
【特許文献2】特開2007−287343号公報
【特許文献3】特開平10−284087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般に、カソード電極触媒には、プロトン伝導機能を有する高分子電解質成分も含有されている。上記特許文献1では、ポリジメチルシロキサンが、白金担持カーボン100質量部に対して1〜10質量部添加されている。しかしながら、このポリジメチルシロキサンにはプロトン伝導機能がない。このため、ポリジメチルシロキサンを添加することで、本来有していたはずのプロトン伝導性が低下し、結果として電池性能が低下する可能性があった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、プロトン伝導性を低下させずに活性化過電圧を低減可能な燃料電池のカソード電極触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、燃料電池のカソード電極触媒であって、
酸素溶解性の異なる少なくとも2種類のアイオノマーを固体高分子電解質成分として含むことを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、
酸素溶解性の異なる2種類のアイオノマーの含有比率が、重量比で25:75〜75:25であることを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第1又は第2の発明において、
酸素溶解性の異なる2種類のアイオノマーのうち、高酸素溶解性のアイオノマーの動的弾性率が、低酸素溶解性のアイオノマーの動的弾性率よりも高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1〜第3の発明によれば、プロトン伝導性を低下させずに活性化過電圧を低減可能な燃料電池のカソード電極触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の電極触媒が設けられた燃料電池の断面構成の模式図である。
【図2】図1のカソード電極触媒層の近傍の一部の拡大模式図である。
【図3】貯蔵弾性率(Pa)と酸素溶解度(mol/cm/atm)の関係を示す図である。
【図4】発電性能試験の結果を示すグラフである。
【図5】白金触媒を覆うブレンドアイオノマーの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本実施形態の電極触媒が設けられた燃料電池の断面構成の模式図である。図1に示すように、燃料電池10は、高分子電解質膜12の両側に、これを挟むようにアノード電極触媒層14、カソード電極触媒層16が、それぞれ設けられている。アノード電極触媒層14の外側には、ガス拡散層18、セパレータ20が順に設けられている。同様に、カソード電極触媒層16の外側には、ガス拡散層22、セパレータ24が順に設けられている。高分子電解質膜12と、これを挟む一対のアノード電極触媒層14、カソード電極触媒層16とにより、MEA26が構成される。MEA26と、ガス拡散層18,22とからMEGA28が構成される。
【0012】
高分子電解質膜12は、プロトンをアノード電極触媒層14からカソード電極触媒層16へ伝導する役割をもつプロトン交換膜である。高分子電解質膜12は、一般に、側鎖にリン酸基、スルホン酸基やホスホン酸基といった酸性官能基を側鎖に有する炭化水素系の高分子電解質から構成される。
【0013】
アノード電極触媒層14、カソード電極触媒層16は、燃料電池における電極触媒として機能する層である。アノード電極触媒層14、カソード電極触媒層16の両方には、カーボン粒子に担持された触媒が設けられている。また、これら電極触媒層には、この触媒を被覆するようにアイオノマーが設けられている。なお、カソード電極触媒層16の詳細については後述する。
【0014】
ガス拡散層18,22は、それぞれの触媒層に原料ガスを均一に拡散させるとともに、MEA26の乾燥を抑制する等の目的で備えられる導電性の多孔質基材である。導電性の多孔質基材としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等の炭素系多孔体が挙げられる。
【0015】
セパレータ20,24は、電子伝導性を有する材料で形成されている。このような材料としては、例えば、カーボン、樹脂モールドカーボン、チタン、ステンレス等が挙げられる。このセパレータ20,24には、通常、ガス拡散層18,22側に、燃料ガスを流通させるための燃料流路が形成されている。
【0016】
図1においては、上記のように構成されたMEGA28とその両側に配置された一対のセパレータ20,24を1組のみ図示したが、実際の燃料電池は、MEGA28がセパレータ20,24を介して複数積層されたスタック構造を有している。
【0017】
図2は、図1のカソード電極触媒層16の一部の拡大模式図である。図2に示すように、カソード電極触媒層16は、多孔質のカーボン粒子161を含んでいる。カーボン粒子161としては、カーボンブラックが最も一般的であるが、その他にも黒鉛、炭素繊維、活性炭等やこれらの粉砕物、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素化合物等が使用できる。
【0018】
また、図2に示すように、カーボン粒子161の外表面には、触媒粒子162が設けられている。触媒粒子162としては、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスニウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、又はそれらの合金等が挙げられる。好ましくは、白金、及び白金と例えばルテニウムなど他の金属とからなる合金である。
【0019】
ところで、触媒粒子162に用いられる金属は貴金属であり、一般に高価である。このため、特に、触媒粒子162として白金を用いる場合、その使用量を減らすことができれば、燃料電池のコスト低減が期待できる。しかしながら、白金使用量を減らした場合、減らす前に比べて燃料電池の電圧特性が低下してしまう。この理由は、ガス拡散層22側からカソード電極触媒層16内に流入する酸素の挙動にあると考えられた。
【0020】
即ち、ガス拡散層22からカソード電極触媒層16内に流入した酸素は、カソード電極触媒層内に存在する水に溶解し、水中を拡散しながら最寄りの触媒粒子162近傍に到達する。このため、白金使用量が減ると、当然、単位面積当たりの白金量も少なくなるので、ガス拡散層22からカソード電極触媒層16内に流入した酸素の活性化に時間を要してしまう。
【0021】
そこで、本実施の形態では、カソード電極触媒層16に、酸素溶解性の異なる2種類のアイオノマーを用いることとした。図2に示すように、カーボン粒子161の外表面には、触媒粒子162を覆うようにアイオノマー163が設けられている。このアイオノマー163は、酸素溶解性の異なる2種類のアイオノマーをブレンドすることで形成されている。ここで、酸素溶解性(酸素溶解度)は、所定の圧力の下、アイオノマー単位体積中に溶解する酸素の物質量として表されるものである。酸素溶解性は、クロノアンペロメトリー法で測定できる。
【0022】
酸素溶解性の異なる2種類のアイオノマーは、相対的に酸素溶解性の高いアイオノマーと低いアイオノマーとに分けることができる。アイオノマー163は、高酸素溶解性アイオノマー:低酸素溶解性アイオノマーが重量比で25:75〜75:25となるよう調製されていることが好ましく、50:50〜75:25となるように調製されていることがより好ましい。後述する実施例で明らかにするように、2種類のアイオノマーの重量比が上記範囲に調製されていることで、電極触媒に一定のプロトン伝導性を持たせつつ、活性化過電圧を低減させることが可能となるので、燃料電池としたときの電池特性を向上できる。
【0023】
図3は、3種類のポリマーについて、80℃における酸素溶解度と貯蔵弾性率との関係を表した図である。図3中の各プロットは、アイオノマーAの物性値を基準とした相対値である。ここで、貯蔵弾性率は、動的弾性率とも呼ばれ、ポリマー試験片に対して正弦波状に変化する歪みを与えたときに示す応答を測定して得られる複素弾性率の実数部分として測定できる。
【0024】
図3に示すように、酸素溶解度が高くなるほど貯蔵弾性率も高くなる傾向を示す。したがって、高弾性なポリマーをアイオノマー163として用いることで、カソード電極触媒層16とした場合に、酸素溶解性を高めることができる。このような高弾性のポリマーとしては、例えば、特開平5−301924号公報に記載されているフッ素含有環状モノマーを重合して得られるポリマーが挙げられる。
【0025】
次に、本実施形態のカソード電極触媒を備えるMEA26の製造方法について説明する。MEA26の製造に際しては、先ず、触媒を担持するための担持用カーボン粒子を用意する。次に、この担持用カーボン粒子上に、触媒金属を溶液中で担持させる。触媒金属を担持させる方法としては、担持用カーボン粒子を、触媒金属を含む化合物の溶液中に分散させて、含浸法や共沈法、あるいはイオン交換法を行う方法が挙げられる。その後、溶媒を乾燥・焼成することにより触媒粒子を分散担持するカーボン粒子が得られる。
【0026】
例えば、触媒に白金を用いる場合、触媒金属を含む化合物の溶液としては、テトラアミン白金塩溶液やジニトロジアンミン白金溶液、白金硝酸塩溶液、塩化白金酸溶液などを用いることができる。そして、例えば、含浸法による場合では、カーボン粒子を、上記白金塩溶液中に分散させた後に、溶媒を蒸発させて乾燥し、還元処理する。これにより、カーボン粒子に白金粒子を担持させることができる。
【0027】
続いて、触媒粒子を分散担持するカーボン粒子を、適当な水及び溶剤中に分散させるとともに、上述した2種類のアイオノマーを含む電解質溶液を更に混合する。これにより、触媒担持カーボン及び2種類のアイオノマーを含む触媒インクを作製できる。なお、2種類のアイオノマーの混合方法は特に限定されず、公知の撹拌手法を用いることができる。
【0028】
続いて、作製した触媒インクを高分子電解質膜12上に塗布する。触媒インクの高分子電解質膜12上への塗布方法は特に限定されない。例えば、スプレー法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、グラビア印刷法、ダイコート法等により塗布できる。また、触媒インクを塗布する他の方法も採用できる。例えば、触媒インクをポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレンといった基材上に塗布した後に、触媒インクを高分子電解質膜12に転写し、その後基材を剥離除去する方法も可能である。また、ガス拡散層18,22上に触媒インクを塗布し、その後、ガス拡散層18,22と高分子電解質膜12とを接合してもよい。
【0029】
その後、塗布した触媒インクを乾燥させることで、カソード電極触媒層16を作製できる。アノード電極触媒層14も同様の方法で作製できる。以上により、酸素溶解性の異なる2種類のアイオノマーを含むカソード電極触媒を備えるMEAが作製できる。
【0030】
尚、上述した実施形態では、アイオノマー163を酸素溶解性の異なる2種類のアイオノマーをブレンドすることで形成したが、酸素溶解性の異なる3種類以上のアイオノマーをブレンドすることで形成してもよい。ただし、3種類以上のブレンドアイオノマーにおいては、酸素溶解性の高いアイオノマーのブレンド比率を、重量比で25%〜75%とすることが好ましい。相対的に酸素溶解性の高いアイオノマーのブレンド比率を上記範囲とすることで、カソード電極触媒層16において、酸素濃度を高くすることが可能となる。したがって、一定のプロトン伝導性を持たせつつ、活性化過電圧を低減させることが可能となるので、燃料電池としたときの電池特性を向上できる。
【実施例1】
【0031】
以下、実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0032】
下表1に、実施例で用いた3種類のアイオノマーA,B,Cの80℃における酸素溶解度及び貯蔵弾性率を示す。表1中、各アイオノマーの酸素溶解度及び貯蔵弾性率は、アイオノマーAを1としたときの相対値として表している。
【表1】

【0033】
また、下表2に、これら3種類のアイオノマーのブレンド比率を変えて調製した6種類のアイオノマーを示す(実施例1〜3、比較例1〜3)。
【表2】

【0034】
(発電性能試験)
先ず、白金担持カーボン上に実施例1〜3、比較例1〜3のアイオノマーをそれぞれ形成し、カソード電極触媒を作製した。その後、これらのカソード電極触媒をセルに組み込んだ。そして、両極フル加湿条件下(100%加湿、セル温80℃、アノード80℃、カソード80℃)でI−V特性試験することにより、各セルの発電性能を調べた。
【0035】
図4は、上記6種類のアイオノマーの0.1Aにおける電圧値の結果を示したグラフである。図4に示すように、アイオノマーAに対するアイオノマーCのブレンド比率が25%〜75%のときは、アイオノマーA,B,Cのそれぞれの単体のときよりも高い電圧値を示した。また、ブレンド比率が50%のときに最も電圧値が高くなることが分かった。
【0036】
ブレンドアイオノマーが単一アイオノマーよりも高出力となった要因について、図5を用いて説明する。図5は、白金触媒を覆うブレンドアイオノマーの模式図である。図5に示すように、相対的に低い酸素溶解性のアイオノマー163a(実施例ではアイオノマーC)が白金触媒の近くに、高い酸素溶解性のアイオノマー163b(実施例ではアイオノマーA)が気相面近くにそれぞれは位置されたためと考えられる。このように、高酸素溶解性のアイオノマー163bが外側に配置されることで内部に酸素を取り込みやすくなり、単一のアイオノマーを用いた場合に比べて反応効率を高めた結果、電圧値が高まったと考えられる。
【符号の説明】
【0037】
16 カソード電極触媒層
161 カーボン粒子
162 触媒粒子
163 アイオノマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素溶解性の異なる少なくとも2種類のアイオノマーを固体高分子電解質成分として含むことを特徴とする燃料電池のカソード電極触媒。
【請求項2】
酸素溶解性の異なる2種類のアイオノマーの含有比率が、重量比で25:75〜75:25であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池のカソード電極触媒。
【請求項3】
酸素溶解性の異なる2種類のアイオノマーのうち、高酸素溶解性のアイオノマーの動的弾性率が、低酸素溶解性のアイオノマーの動的弾性率よりも高いことを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池のカソード電極触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−113739(P2011−113739A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267796(P2009−267796)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】