説明

燃料電池の樹脂フレーム、セパレータ、燃料電池、燃料電池の製造方法

【課題】本発明は、位置決め孔を備える燃料電池の構成部材において、膨張時の損傷の発生を抑制することを目的とする。
【解決手段】燃料電池において、膜電極接合体を支持するために使用される樹脂フレームは、燃料電池の製造時に位置決めピンを貫通させるための位置決め孔と、位置決め孔の内側に配置され、位置決めピンの位置決め孔に対する相対的な移動を規制するための移動規制部材と、を備え、移動規制部材は、燃料電池の製造時に樹脂フレームの膨張にともなう位置決めピンの位置決め孔に対する相対的な移動によって、変形または破損するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池において膜電極接合体を支持するために使用される樹脂フレーム、燃料電池において膜電極接合体の両側に配置されるセパレータ、燃料電池、および、燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、燃料電池の製造工程には、樹脂フレームやセパレータなどの燃料電池の構成部材を互いに接着させるために、これらを積層した状態で加熱する工程が含まれている。
【0003】
この工程において、構成部材を加熱したときに、熱膨張等によって構成部材の互いの位置が相対的にずれることがあった。構成部材の互いの位置がずれると、燃料電池の組み立て精度が低下して燃料電池の発電効率が低下するなどの問題があった。この問題を解決するために、各構成部材に位置決め孔を設け、位置決め孔に治具の位置決めピンを貫通させることによって各構成部材の位置を固定して加熱時の位置のずれを抑制する技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−079024号公報
【特許文献2】特開2008−123819号公報
【特許文献3】特開2007−242487号公報
【特許文献4】特開2008−512829号公報
【特許文献5】特開平08−007627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、各構成部材の位置を位置決めピンによって固定した場合、加熱時の膨張等によって、位置決め孔が位置決めピンに対して相対的に移動し、位置決め孔の内周部が位置決めピンから応力を受けることで構成部材にひびなどの損傷が生じることがあった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、位置決め孔を備える燃料電池の構成部材において、膨張時の損傷の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の少なくとも一部を解決するために、本願発明は、以下の態様または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
燃料電池において、膜電極接合体を支持するために使用される樹脂フレームであって、
前記燃料電池の製造時に位置決めピンを貫通させるための位置決め孔と、
前記位置決め孔の内側に配置され、前記位置決めピンの前記位置決め孔に対する相対的な移動を規制するための移動規制部材と、を備え、
前記移動規制部材は、前記燃料電池の製造時に前記樹脂フレームの膨張にともなう前記位置決めピンの前記位置決め孔に対する相対的な移動によって、変形または破損するように構成されている樹脂フレーム。
【0009】
この構成によれば、燃料電池の製造時に樹脂フレームの膨張にともなう位置決めピンの位置決め孔に対する相対的な移動によって、位置決め孔の内側に配置されている移動規制部材が変形または破損するように構成されているため、位置決め孔を備える燃料電池の樹脂フレームにおいて、膨張時の損傷の発生を抑制することができる。
【0010】
[適用例2]
適用例1に記載の樹脂フレームにおいて、
前記移動規制部材は、前記樹脂フレームを構成する樹脂により形成され、
前記位置決めピンと接触するためのピン受け部と、
柱状の外形を有し、前記位置決め孔の内周面に一方の端部が接続され、他方の端部が前記ピン受け部に接続されている変位許容部と、を備えている、樹脂フレーム。
【0011】
この構成によれば、移動規制部は、ピン受け部によって位置決めピンの位置決め孔に対する相対的な移動を規制することができ、燃料電池の製造時に樹脂フレームが膨張すると、変位許容部が変形または破損することによって、樹脂フレームの他の部分の損傷の発生を抑制することができる。
【0012】
[適用例3]
適用例2に記載の樹脂フレームにおいて、
前記変位許容部は、前記位置決め孔の内周面に等間隔に複数配置され、
前記ピン受け部は、前記位置決め孔に挿入された前記位置決めピンの外周部に沿うように湾曲した形状を備えている、樹脂フレーム。
【0013】
この構成によれば、移動規制部は、変位許容部が位置決め孔の内周面に等間隔に複数配置されているため、燃料電池の組み立て時に、位置決めピンの位置決め孔に対する相対的な移動を移動方向に関わらず規制することができる。また、ピン受け部が位置決めピンの外周部に沿って湾曲した形状を備えていため、位置決めの精度を向上させることができる。
【0014】
[適用例4]
適用例1に記載の樹脂フレームにおいて、
前記移動規制部材は、前記位置決めピンを貫通させるための開口部を有する環状の弾性部材のみによって形成されている、樹脂フレーム。
【0015】
この構成によれば、環状の弾性部材によって位置決めピンの位置決め孔に対する相対的な移動を規制することができ、燃料電池の製造時に樹脂フレームが膨張すると、弾性部材が変形することによって、樹脂フレームの他の部分の損傷の発生を抑制することができる。
【0016】
[適用例5]
燃料電池であって、
膜電極接合体と、
適用例1ないし適用例4のいずれかに記載の樹脂フレームと、備える燃料電池。
【0017】
この構成によれば、燃料電池は、燃料電池の製造時に樹脂フレームの膨張にともなう位置決めピンの位置決め孔に対する相対的な移動によって、位置決め孔の内側に配置されている移動規制部材が変形または破損するように構成されているため、製造時の損傷の発生を抑制することができる。
【0018】
[適用例6]
燃料電池において、膜電極接合体の両側に配置されるセパレータであって、
前記燃料電池の製造時に位置決めピンを貫通させるための位置決め孔と、
前記位置決め孔の内側に配置され、前記位置決めピンの前記位置決め孔に対する相対的な移動を規制するための移動規制部材と、を備え、
前記移動規制部材は、前記燃料電池の製造時に前記セパレータの膨張にともなう前記位置決めピンの前記位置決め孔に対する相対的な移動によって、変形または破損するように構成されているセパレータ。
【0019】
この構成によれば、燃料電池の製造時にセパレータの膨張にともなう位置決めピンの位置決め孔に対する相対的な移動によって、位置決め孔の内側に配置されている移動規制部材が変形または破損するように構成されているため、位置決め孔を備える燃料電池のセパレータにおいて、膨張時の損傷の発生を抑制することができる。
【0020】
[適用例7]
樹脂フレームを備える燃料電池の製造方法であって、
前記樹脂フレームは、位置決め孔と、位置決めピンの前記位置決め孔に対する相対的な移動を規制するための移動規制部材とを備え、
前記製造方法は、
前記位置決め孔に位置決めピンを貫通させる工程と、
前記位置決め孔に位置決めピンを貫通させた状態で前記樹脂フレームを加熱して、前記樹脂フレームの膨張にともなう前記位置決めピンの前記位置決め孔に対する相対的な移動によって、前記移動規制部材を変形または破損させる工程と、を備える製造方法。
【0021】
この構成によれば、燃料電池の製造時に樹脂フレームの膨張にともなう位置決めピンの位置決め孔に対する相対的な移動によって、位置決め孔の内側に配置されている移動規制部材が変形または破損するように構成されているため、製造時における損傷の発生を抑制しつつ、燃料電池の組み立て精度の向上を図ることができる。
【0022】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、ガス拡散層基材に撥水層を形成するための形成方法や、上述したガス拡散層の製造方法を工程の一部に含む燃料電池の製造方法や、ガス拡散層や燃料電池を製造するための製造装置、および、これらの方法を装置に実行させるための制御プログラムなどの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施例における燃料電池の概略構成を説明するための説明図である。
【図2】樹脂フレーム300に形成されている位置決め孔の概略構成を説明するための説明図である。
【図3】燃料電池製造時の熱圧着工程を説明するための説明図である。
【図4】本実施例の樹脂フレームにおける熱圧着時の位置決め孔と位置決めピンの状態を説明するための説明図である。
【図5】従来例の樹脂フレームにおける熱圧着時の位置決め孔と位置決めピンの状態を説明するための説明図である。
【図6】変形例1の樹脂フレームにおける位置決め孔の形状を例示した説明図である。
【図7】変形例2の樹脂フレームにおける位置決め孔の形状を例示した説明図である。
【図8】変形例3の樹脂フレームにおける位置決め孔の形状を例示した説明図である。
【図9】変形例4の樹脂フレームにおける位置決め孔の形状を例示した説明図である。
【図10】変形例5の樹脂フレームにおける位置決め孔の形状を例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
A.第1実施例:
図1は、第1実施例における燃料電池の概略構成を説明するための説明図である。燃料電池10は、固体高分子型燃料電池であり、複数の単セル14が積層されたスタック構造を有している。単セル14は、燃料電池10における発電を行う単位モジュールであり、水素ガスと空気に含まれる酸素との電気化学反応により発電を行う。各単セル14は、膜電極接合体(以後、「MEA」とも呼ぶ)200と、一対の樹脂フレーム300と、一対のセパレータ400と、を備えている。
【0025】
MEA200は、電解質膜210の各面に触媒電極層220(アノード220anおよびカソード220ca)が形成され、さらにその両側にガス拡散層240(アノード側拡散層240anおよびカソード側拡散層240ca)が配置されている。
【0026】
電解質膜210は、固体高分子材料としてのフッ素系スルホン酸ポリマーにより形成された高分子電解質膜であり、湿潤状態において良好なプロトン伝導性を有する。電解質膜210としては、フッ素系スルホン酸膜の他に、フッ素系ホスホン酸膜、フッ素系カルボン酸膜、フッ素炭化水素系グラフト膜、炭化水素系グラフト膜、芳香族膜等を用いることができる。また、PTFE、ポリイミド等の補強材を含む機械的特性を強化した複合高分子膜を用いてもよい。
【0027】
触媒電極層220(アノード220anおよびカソード220ca)は、例えば、電気化学反応を進行する触媒金属(例えば、白金)を担持した触媒担持担体(例えば、カーボン粒子)と、プロトン伝導性を有する高分子電解質(例えばフッ素系樹脂)を含んで構成されている。触媒担持担体としては、カーボン粒子の他に、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物等を用いることができる。また、触媒金属としては、白金の他に、例えば、白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウム等を使用することができる。
【0028】
ガス拡散層240(アノード側拡散層240anおよびカソード側拡散層240ca)は、電極反応に用いられる反応ガス(アノードガスおよびカソードガス)を電解質膜210の面方向に沿って拡散させる層であり、多孔質のガス拡散層基材により構成されている。ガス拡散層基材としては、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロス等のカーボン多孔質体や、金属メッシュや発泡金属等の金属多孔質体を用いることができる。また、ガス拡散層240は、撥水性を得るために、ガス拡散層基材が、撥水ペーストによりコーティング(撥水処理)され、撥水層が形成されていてもよい。なお、撥水ペーストとしては、例えば、カーボン粉末と撥水性樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン等)との混合溶液を用いることができる。
【0029】
樹脂フレーム300(アノード側樹脂フレーム300anおよびカソード側樹脂フレーム300ca)は、MEA200を支持するための部材であって、MEA200のアノード側(図1下方側)にアノード側樹脂フレーム300anが配置され、MEA200のカソード側(図1上方側)にカソード側樹脂フレーム300caが配置されている。樹脂フレーム300は、MEA用開口部310と、アノードガス供給マニホールド用開口部321と、アノードガス排出マニホールド用開口部322と、カソードガス供給マニホールド用開口部331と、カソードガス排出マニホールド用開口部332と、冷媒供給マニホールド用開口部341と、冷媒排出マニホールド用開口部342と、位置決め孔350と、供給側接続流路361(アノード供給側接続流路361anまたはカソード供給側接続流路361ca)と、排出側接続流路362(アノード排出側接続流路362anまたはカソード排出側接続流路362ca)と、を備えている。
【0030】
樹脂フレーム300は、フェノール樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂により形成されている。樹脂フレーム300は、フェノール樹脂やエポキシ樹脂以外にも、例えば、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコン、ポリウレタン、等により形成されていてもよい。
【0031】
樹脂フレーム300は、矩形の長板状の外形を備え、中央部にMEA用開口部310が形成され、両端部に、上述した6つのマニホールド用開口部321、322、331、332、341、342が形成されている。アノード側樹脂フレーム300anとカソード側樹脂フレーム300caは、MEA200をその両側から挟み込むことによって、互いのMEA用開口部310の開口端310eによってMEA200の外周部200eを把持する。これにより、樹脂フレーム300は、アノード側樹脂フレーム300anのMEA用開口部310からMEA200のアノード側を露出させ、カソード側樹脂フレーム300caのMEA用開口部310からMEA200のカソード側を露出させた状態でMEA200を支持する。
【0032】
アノードガス供給マニホールド用開口部321は、セパレータ400のアノードガス供給マニホールド用開口部421と連通して、燃料電池10に供給された水素を含有するガス(アノード供給ガス)を各単セル14に分配するためのアノードガス供給マニホールドを構成する。アノードガス排出マニホールド用開口部322は、セパレータ400のアノードガス排出マニホールド用開口部422と連通して、各単セル14から排出される発電に利用されなかった水素を含有するガス(アノード排ガス)を集めて燃料電池10の外部に排出するためのアノードガス排出マニホールドを構成する。
【0033】
カソードガス供給マニホールド用開口部331は、セパレータ400のカソードガス供給マニホールド用開口部431と連通して、燃料電池10に供給された酸素を含む空気(カソード供給ガス)を各単セル14に分配するためのカソードガス供給マニホールドを構成する。カソードガス排出マニホールド用開口部332は、セパレータ400のカソードガス排出マニホールド用開口部432と連通して、各単セル14から排出される発電に利用されなかった酸素を含む空気(カソード排ガス)を集めて燃料電池10の外部に排出するためのカソードガス排出マニホールドを構成する。
【0034】
冷媒供給マニホールド用開口部341は、セパレータ400の冷媒供給マニホールド用開口部441と連通して、燃料電池10に供給された冷媒を各単セル14に分配するための冷媒供給マニホールドを構成する。冷媒排出マニホールド用開口部342は、セパレータ400の4冷媒排出マニホールド用開口部442と連通して、各単セル14から排出される冷媒を集めて燃料電池10の外部に排出するための冷媒排出マニホールドを構成する。
【0035】
アノード側樹脂フレーム300anに形成されたアノード供給側接続流路361anは、アノードガス供給マニホールドからMEA200のアノード側にアノード供給ガスを供給するための流路である。アノード側樹脂フレーム300anに形成されたアノード排出側接続流路362anは、MEA200のアノード側からアノードガス排出マニホールドにアノード排ガスを排出するための流路である。
【0036】
カソード側樹脂フレーム300caに形成されたカソード供給側接続流路361caは、カソードガス供給マニホールドからMEA200のカソード側にカソード供給ガスを供給するための流路である。カソード側樹脂フレーム300caに形成されたカソード排出側接続流路362caは、MEA200のカソード側からカソードガス排出マニホールドにカソード排ガスを排出するための流路である。
【0037】
位置決め孔350は、燃料電池10の製造工程において、位置決めをおこなうときに、治具の位置決めピンを貫通させるための開口部であり、樹脂フレーム300とセパレータ400とを積層させたときに、セパレータ400の位置決め孔450と連通するように構成されている。位置決め孔350の詳細については、図2を用いて後述する。
【0038】
セパレータ400(アノード側セパレータ400anおよびカソード側セパレータ400ca)は、ガス遮断性および電子伝導性を有する部材によって構成されており、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボン等のカーボン製部材や、プレス成形したステンレス鋼などの金属部材によって形成されている。アノード側セパレータ400anは、MEA200を支持した樹脂フレーム300のアノード側に配置され、カソード側セパレータ400caは、その樹脂フレーム300のカソード側に配置されている。
【0039】
セパレータ400は、アノードガス供給マニホールド用開口部421と、アノードガス排出マニホールド用開口部422と、カソードガス供給マニホールド用開口部431と、カソードガス排出マニホールド用開口部432と、冷媒供給マニホールド用開口部441と、冷媒排出マニホールド用開口部442と、位置決め孔450と、ガス流路461(アノード側ガス流路461anまたはカソード側ガス流路461ca)と、冷媒流路462と、シール部470と、を備えている。
【0040】
アノード側セパレータ400anの一方の主面に形成されたアノード側ガス流路461anは、凹凸形状を有し、アノード供給側接続流路361anから流入したアノード供給ガスをMEA200のアノード側に供給し、アノード排ガスをアノード排出側接続流路362anに排出する。カソード側セパレータ400caの一方の主面に形成されたカソード側ガス流路461caは、凹凸形状を有し、カソード供給側接続流路361caから流入したカソード供給ガスをMEA200のカソード側に供給し、カソード排ガスをカソード排出側接続流路362caに排出する。アノード側セパレータ400anおよびカソード側セパレータ400caの他方の主面に形成された冷媒流路462は、凹凸形状を有し、冷媒供給マニホールドから流入した冷媒を冷媒排出マニホールドに排出する。
【0041】
図2は、樹脂フレーム300に形成されている位置決め孔の概略構成を説明するための説明図である。図2の一部には、位置決め孔350を拡大して示している。図2では、樹脂フレーム300の一例としてカソード側樹脂フレーム300caが示されているが、アノード側樹脂フレーム300anについてもカソード側樹脂フレーム300caと同様の位置決め孔350が同様の位置に形成されている。
【0042】
位置決め孔350は、樹脂フレーム300の長手方向の両端部にそれぞれ一箇所ずつ配置されている。本実施例では、2つの位置決め孔350は、樹脂フレーム300の長手方向の一方の端辺である端辺301e1に沿ってそれぞれ配置されているが、位置決め孔350の位置は、任意に設定することができる。例えば、一方の位置決め孔350を端辺301e1側に配置し、他方の位置決め孔350を端辺301e1と異なる長手方向の端辺301e2側に配置してもよい。位置決め孔350は、樹脂フレーム300の主面の対角線上に配置するなど、位置決め孔350同士の互いの距離ができるだけ離れるようにすることが望ましい。また、位置決め孔350の数は、2つに限られず、樹脂フレーム300に3つ以上配置されていてもよい。
【0043】
位置決め孔350は、樹脂フレーム300の本体部301に形成された略円形状の開口部であって、開口部の内周面350eには、移動規制部351が形成されている。移動規制部351は、それぞれ略T字状の外形を備え、内周面350eに沿って等間隔に複数(ここでは5つ)形成されている。これにより、複数の移動規制部351は、位置決め孔350の内側において、内周面350eから開口部の中心に向かって放射状に形成される。移動規制部351は、樹脂フレーム300の本体部301と同じ樹脂によって形成され、ピン受け部353と、変位許容部355とを備えている。本実施例の移動規制部351は、樹脂フレーム300の製造時に本体部301と一体的に形成される。
【0044】
ピン受け部353は、位置決め孔350に挿入された位置決めピン21が位置決め孔350に対して相対的に移動することを規制するための部分であり、挿入された位置決めピン21の外周面に沿うように湾曲した矩形断面の板状の外形を備えている。このように、各ピン受け部353は、リング形状の一部分の形状である部分リング形状を有しているため、位置決め孔350の内側には、5つのピン受け部353によって、位置決め孔350よりも径の小さい略円形状の開口部が形成されている。位置決め孔350に挿入された位置決めピン21は、この開口部の内側に配置され、ピン受け部353と接触することによって樹脂フレーム300の面と平行な方向(面内方向)における相対的な移動が規制される。
【0045】
変位許容部355は、矩形断面の柱状の外形を備え、一方の端部がピン受け部353の中央部付近に接続され、他方の端部が内周面350eに接続されている。変位許容部355は、内周面350eから位置決め孔350の中心方向に延伸した外形を備え、延伸方向端部においてピン受け部353を支持している。この変位許容部355によって、ピン受け部353と、位置決め孔350の内周面350eとの間に所定の間隔が確保されている。
【0046】
図3は、燃料電池製造時の熱圧着工程を説明するための説明図である。図3に示された樹脂フレーム300は、図2のA−A断面に対応する。燃料電池10の製造工程には、MEA200と樹脂フレーム300とを接合し、また、樹脂フレーム300とセパレータ400とを接合するために、MEA200、樹脂フレーム300、および、セパレータ400を積層して、治具20により加熱しつつ圧着する熱圧着工程が含まれている。この熱圧着工程では、まず、図3(a)に示すように、MEA200、樹脂フレーム300、および、セパレータ400を図1に示す順番に積層した積層体14Laを治具20にセットする。
【0047】
治具20は、積層体14Laをセットするための台部22と、台部22に形成された2つの位置決めピン21と、台部22にセットされた積層体14Laを上方側から加熱・押圧するための押圧部23と、を備えている。押圧部23には、位置決めピン21と対向する位置に、位置決めピン21を受けるための凹状のピン受け部24が形成されている。台部22にセットされた積層体14Laは、積層体14Laに含まれる樹脂フレーム300の位置決め孔350と、セパレータ400の位置決め孔450に、それぞれ位置決めピン21が貫通した状態となっている。
【0048】
図3(b)に示すように、治具20は、台部22と押圧部23によって積層体14Laを挟んで圧力を加えながら、台部22や押圧部23の内部の発熱部(図示しない)からの発熱によって積層体14Laを加熱する。これにより、MEA200と樹脂フレーム300との間や、樹脂フレーム300とセパレータ400との間の接着剤が硬化して各部材が互いに接着される。この接着剤としては、例えば、イソブチレンやシリコーンなどを使用することができる。
【0049】
積層体14Laが治具20によって加熱されている間、積層体14Laの構成部材である樹脂フレーム300やセパレータ400は、熱によって膨張する。樹脂フレーム300の熱膨張係数は、治具20の熱膨張係数よりも大きいため、加熱されたときに位置決めピン21と位置決め孔350との相対的な位置が変化する。
【0050】
図4は、本実施例の樹脂フレームにおける熱圧着時の位置決め孔と位置決めピンの状態を説明するための説明図である。図4(a)は、積層体14Laを治具20にセットしたときの位置決め孔350と位置決めピン21との位置関係を例示した説明図である。図4(b)は、積層体14Laを加熱したときの位置決め孔350と位置決めピン21との位置関係を例示した説明図である。積層体14Laを治具20にセットしたときには、図4(a)に示すように、治具20の位置決めピン21は、各位置決め孔350の中心付近に位置する。
【0051】
治具20によって樹脂フレーム300の加熱をおこなうと、樹脂フレーム300は、治具20の台部22よりも熱膨張率が大きいため、樹脂フレーム300の膨張による2つの位置決め孔350の間の距離の変化量が、台部22の膨張による2つの位置決めピン21の間の距離の変化量よりも大きくなる。そのため、図4(b)に示すように、各位置決め孔350において、位置決めピン21が相対的に移動する。位置決め孔350は、この位置決めピン21の相対的な移動によって、一部の移動規制部351に破損や変形が生じる。しかし、ピン受け部353と内周面350eとの間に間隔があるため、位置決めピン21の相対的な移動によっても本体部301に破損や変形が生じない。
【0052】
図5は、従来例の樹脂フレームにおける熱圧着時の位置決め孔と位置決めピンの状態を説明するための説明図である。図5(a)は、図4(a)に対応している。図5(b)は、図4(b)に対応している。従来例の樹脂フレームに形成されている位置決め孔350bは、図5(a)に示すように、移動規制部351を備えていない。そのため、内周面350beによって形成される開口部の径は、本実施例の位置決め孔350の複数のピン受け部353(図4(a))によって形成される略円形状の開口部の径と同程度の大きさとする必要がある。よって、比較例の位置決め孔350bは、内周面350beによって形成される開口部の径が本実施例の位置決め孔350の内周面350eによって形成される開口部の径よりも小さくなり、加熱時の位置決めピン21の相対的な移動によって、図5(b)に示すように、本体部301に破損や変形が生じる。
【0053】
以上説明した、本実施例の樹脂フレーム300によれば、位置決め孔350に移動規制部351が形成されているため、燃料電池の製造時に樹脂フレーム300が膨張しても本体部301の損傷の発生を抑制することができる。具体的には、移動規制部351は、位置決め孔350によって位置決めがなされている時には、ピン受け部353が位置決めピン21と接触することによって、位置決め孔350に挿入された位置決めピン21の相対的な移動(遊び)を制限することができるため、必要な位置決め精度を確保することができる。一方で、移動規制部351は、変位許容部355によってピン受け部353と、位置決め孔350の内周面350eとの間に所定の間隔を確保しているため、樹脂フレーム300の膨張によって位置決め孔350に挿入された位置決めピン21が相対的に移動しても、移動規制部351の変形や損傷にとどまり、本体部301の変形や損傷を抑制することができる。
【0054】
樹脂フレーム300の本体部301に変形や損傷が生じると、燃料電池10の耐久性が低下する問題や、発電性能が低下する問題があった。一方、樹脂フレーム300に本実施例の位置決め孔350を形成した場合には、膨張による本体部301の変形や損傷を抑制でき、圧着後には、樹脂フレーム300および台部22の収縮によって、位置決め孔350に対する位置決めピン21の相対的な位置は膨張前の状態に戻るため、位置決めの精度は維持される。よって、組み立て精度を維持しつつ、燃料電池の耐久性の低下や発電性能の低下を抑制することができる。
【0055】
本実施例の位置決め孔350には、変位許容部355が等間隔に配置されているため、位置決め孔350に挿入された位置決めピン21の相対的な面内の移動方向によらずに、位置決めピン21の相対的な移動を規制することができる。また、ピン受け部353は、挿入された位置決めピン21の外周面に沿うように湾曲した外形を備えているため、挿入された位置決めピン21の外周面からピン受け部353までの距離のばらつきを抑制することができ、位置決めに精度の向上を図ることができる。
【0056】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0057】
B−1.変形例1:
図6は、変形例1の樹脂フレームにおける位置決め孔の形状を例示した説明図である。本実施例の位置決め孔350は、移動規制部351が内周面350eに沿って等間隔に5つ形成されているものとして説明したが、位置決め孔350に形成される移動規制部351の数や位置については実施例に限定されず、任意に設定することができる。例えば、図6に示すように、位置決め孔350cは、移動規制部351が内周面350eに沿って4つ形成されていてもよい。
【0058】
B−2.変形例2:
図7は、変形例2の樹脂フレームにおける位置決め孔の形状を例示した説明図である。本実施例の位置決め孔350は、各変位許容部355にそれぞれ別個のピン受け部353が形成されているものとして説明したが、位置決め孔350に形成されるピン受け部353の形状ついては実施例に限定されず、任意の形状とすることができる。例えば、図7に示すように、位置決め孔350dは、1つの環状のピン受け部353dを複数の変位許容部355により支持する構成の移動規制部351dを備えていてもよい。
【0059】
B−3.変形例3:
図8は、変形例3の樹脂フレームにおける位置決め孔の形状を例示した説明図である。本実施例の位置決め孔350は、変位許容部355の先端部に変位許容部355の形状と異なる形状のピン受け部353が形成されたT字状の移動規制部351を備えているものとして説明したが、位置決め孔350が備える移動規制部351の形状ついては実施例に限定されず、任意の形状とすることができる。例えば、図8に示すように、位置決め孔350fは、変位許容部355と同じ断面形状のピン受け部353fを備えた移動規制部351fを有していてもよい。
【0060】
B−4.変形例4:
図9は、変形例4の樹脂フレームにおける位置決め孔の形状を例示した説明図である。本実施例の位置決め孔350は、変位許容部355が内周面350eから位置決め孔350の中心方向に延伸した外形を備えているものとして説明したが、位置決め孔350が備える変位許容部355の形状ついては実施例に限定されず、任意の形状とすることができる。例えば、図9に示すように、位置決め孔350gは、開口部の径方向に対して斜めに傾いた柱状の変位許容部355gを備えた移動規制部351eを有していてもよい。なお、この変位許容部355gの構成は、本実施例の位置決め孔350(図4)たけでなく、変形例1〜3(図6〜8)の位置決め孔に対しても適用することができる。
【0061】
B−5.変形例5:
図10は、変形例5の樹脂フレームにおける位置決め孔の形状を例示した説明図である。図10(a)は、図4(a)と対応している。図10(b)は、図10(a)のB−B断面を例示している。樹脂フレーム300の位置決め孔350は、位置決め時に位置決めピン21の移動を規制し、樹脂フレーム300の膨張時に本体部301の変形や破損を抑制できる構成であれば、実施例で示した構成と異なる移動規制部351を備えていてもよい。例えば、図10に示すように、位置決め孔350hは、開口部を有する環状の弾性部材である移動規制部351hを備えていてもよい。位置決め孔350hに環状の弾性部材のみが配置された構成であっても、この弾性部材の弾性力によって、位置決め時に位置決めピン21の相対的な移動を規制することができ、また、燃料電池の製造時に樹脂フレーム300が膨張しても弾性部材のみが変形し、本体部301の損傷の発生を抑制することができる。
【0062】
B−6.変形例6:
本実施例では、燃料電池10は、アノード側樹脂フレーム300anとカソード側樹脂フレーム300caの2つの樹脂フレーム300を備える構成として説明したが、燃料電池10は、1つの樹脂フレーム300のみを備える構成であってもよい。この場合、この1つの樹脂フレーム300に本実施例の位置決め孔350が形成される。
【0063】
また、本実施例では、移動規制部351は、樹脂フレーム300の位置決め孔350に形成されるものとして説明したが、セパレータ400の位置決め孔450にも移動規制部351と同様の移動規制部が形成されていてもよい。すなわち、セパレータ400の熱膨張係数と治具20の熱膨張係数との違いにより、セパレータ400についても樹脂フレーム300と同様に、位置決めピン21と位置決め孔450との相対的な位置が変化する。このとき、セパレータ400の位置決め孔450にも移動規制部351と同様の移動規制部が形成されていれば、セパレータの本体部の破損を抑制することができる。
【符号の説明】
【0064】
10…燃料電池
14…単セル
20…治具
21…位置決めピン
22…台部
23…押圧部
24…ピン受け部
200…MEA
210…電解質膜
220…触媒電極層
220ca…カソード
220an…アノード
240…ガス拡散層
300…樹脂フレーム
301…本体部
310…MEA用開口部
321…アノードガス供給マニホールド用開口部
322…アノードガス排出マニホールド用開口部
331…カソードガス供給マニホールド用開口部
332…カソードガス排出マニホールド用開口部
341…冷媒供給マニホールド用開口部
342…冷媒排出マニホールド用開口部
350…位置決め孔
351…移動規制部
353…ピン受け部
355…変位許容部
361…供給側接続流路
362…排出側接続流路
400…セパレータ
421…アノードガス供給マニホールド用開口部
422…アノードガス排出マニホールド用開口部
431…カソードガス供給マニホールド用開口部
432…カソードガス排出マニホールド用開口部
441…冷媒供給マニホールド用開口部
442…冷媒排出マニホールド用開口部
450…位置決め孔
461…ガス流路
462…冷媒流路
470…シール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池において、膜電極接合体を支持するために使用される樹脂フレームであって、
前記燃料電池の製造時に位置決めピンを貫通させるための位置決め孔と、
前記位置決め孔の内側に配置され、前記位置決めピンの前記位置決め孔に対する相対的な移動を規制するための移動規制部材と、を備え、
前記移動規制部材は、前記燃料電池の製造時に前記樹脂フレームの膨張にともなう前記位置決めピンの前記位置決め孔に対する相対的な移動によって、変形または破損するように構成されている樹脂フレーム。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂フレームにおいて、
前記移動規制部材は、前記樹脂フレームを構成する樹脂により形成され、
前記位置決めピンと接触するためのピン受け部と、
柱状の外形を有し、前記位置決め孔の内周面に一方の端部が接続され、他方の端部が前記ピン受け部に接続されている変位許容部と、を備えている、樹脂フレーム。
【請求項3】
請求項2に記載の樹脂フレームにおいて、
前記変位許容部は、前記位置決め孔の内周面に等間隔に複数配置され、
前記ピン受け部は、前記位置決め孔に挿入された前記位置決めピンの外周部に沿うように湾曲した形状を備えている、樹脂フレーム。
【請求項4】
請求項1に記載の樹脂フレームにおいて、
前記移動規制部材は、前記位置決めピンを貫通させるための開口部を有する環状の弾性部材のみによって形成されている、樹脂フレーム。
【請求項5】
燃料電池であって、
膜電極接合体と、
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の樹脂フレームと、備える燃料電池。
【請求項6】
燃料電池において、膜電極接合体の両側に配置されるセパレータであって、
前記燃料電池の製造時に位置決めピンを貫通させるための位置決め孔と、
前記位置決め孔の内側に配置され、前記位置決めピンの前記位置決め孔に対する相対的な移動を規制するための移動規制部材と、を備え、
前記移動規制部材は、前記燃料電池の製造時に前記セパレータの膨張にともなう前記位置決めピンの前記位置決め孔に対する相対的な移動によって、変形または破損するように構成されているセパレータ。
【請求項7】
樹脂フレームを備える燃料電池の製造方法であって、
前記樹脂フレームは、位置決め孔と、位置決めピンの前記位置決め孔に対する相対的な移動を規制するための移動規制部材とを備え、
前記製造方法は、
前記位置決め孔に位置決めピンを貫通させる工程と、
前記位置決め孔に位置決めピンを貫通させた状態で前記樹脂フレームを加熱して、前記樹脂フレームの膨張にともなう前記位置決めピンの前記位置決め孔に対する相対的な移動によって、前記移動規制部材を変形または破損させる工程と、を備える製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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