説明

燃料電池の触媒層形成用インクの製造方法

【課題】カーボン粉末の表面のみならず、微細孔内に担持された触媒金属をも水素イオン伝導性高分子電解質によって良好に被覆することができ、それによって反応に関与する触媒量を増加させた触媒層形成用インクの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】触媒が担持されたカーボン粉末を不活性ガス雰囲気下に曝す工程と、50重量%以上の低級アルコールを含む溶媒に、前記不活性ガス雰囲気下に曝した触媒担持カーボン粉末及び水素イオン伝導性高分子電解質を加える工程と、その後に溶媒中の低級アルコールの濃度を30重量%以下にする工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池における、触媒層を形成するためのインクの製造方法に関する。さらに、その触媒層形成用インクを利用して得られる膜/電極接合体(MEA)に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、水素イオン伝導性の固体高分子電解質膜の両面に一対の電極を設け、水素ガスを燃料ガスとして一方の電極(燃料極:アノード)へ供給し、酸素ガスあるいは空気を酸化剤として他方の電極(空気極:カソード)へ供給することによって起電力を得るものである。固体高分子型燃料電池は、高い電池特性を得られることに加え、小型軽量化が容易であることから、電気自動車等の移動車両や、小型コジェネレーションシステムの電源等として実用化が期待されている。
【0003】
通常、固体高分子型燃料電池に使用されるガス拡散性の電極は、水素イオン伝導性高分子電解質で被覆された触媒担持カーボン粉末を含有する触媒層と、この触媒層に反応ガスを供給すると共に電子を集電するガス拡散層とから構成される。そして、触媒層内には、カーボンの二次粒子間あるいは三次粒子間に形成される微小な細孔からなる空隙部が存在し、その空隙部が反応ガスの拡散流路として機能している。
【0004】
カーボン粉末に担持させるカソード及びアノード触媒としては、白金又は白金合金等の貴金属が用いられる。例えば、白金担持カーボン粉末は、塩化白金酸水溶液に、亜硫酸水素ナトリウムを加えた後、過酸化水素水と反応させ、生じた白金コロイドをカーボンブラック等の粉末に担持させ、洗浄後、必要に応じて熱処理することにより調製される。この白金担持カーボン粉末を水素イオン伝導性高分子電解質の溶液に分散させてインクを調製し、そのインクをカーボンペーパーなどのガス拡散基材に塗布し、乾燥することによって電極が作製される。この2枚の電極で固体高分子電解質膜を挟み、ホットプレス等することにより電解質膜−電極接合体(MEA)が組立てられる。
【0005】
上記の触媒層を形成するためのインクとして、(特許文献1)には、液体媒体中に触媒物質(触媒担持カーボン粉末)とプロトン伝導性ポリマーの混合物を含んでなり、その液体媒体が水性であって、液体媒体中の有機物成分の全量が10重量%を超えないことを特徴とするインクが開示されている。この発明は、水性インクを用いることにより、有機溶媒の使用に伴う危険性を低減するものであるが、使用する有機物成分の比率・種類が適正に選ばれないと、触媒担持カーボン粉末へのプロトン伝導性ポリマーの吸着が不十分となり、触媒層中に形成される3相界面、すなわちガス、触媒、及びプロトン伝導性ポリマーからなる界面が減少する恐れがある。また、インクを作製する際の出発物質の混合において、液体媒体中の水分が多すぎる場合、プロトン伝導性ポリマーがミセルを形成して塊状になってしまい、触媒担持カーボン粉末の微細構造への侵入が妨げられる。その結果、カーボン粉末の微細孔中に担持された触媒金属とプロトン伝導性ポリマーとの十分な接触が得られず、反応に寄与できない触媒金属が増え、コスト増・出力減につながるという欠点がある。
【0006】
また、(特許文献2)には、水とアルコールとの混合溶媒と、非フッ素系固体高分子電解質(水素イオン伝導性高分子電解質)と、触媒とを含むことを特徴とする燃料電池用触媒インクが開示されている。アルコールを含む場合、インクと触媒担持カーボン粉末とは良く馴染むが、触媒担持カーボン粉末に対してアルコールと水素イオン伝導性高分子電解質とが競争吸着となり、その結果、水素イオン伝導性高分子電解質によって良好に被覆された触媒担持カーボン粉末が得られ難いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3920374号公報
【特許文献2】特開2007−149461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、燃料電池の触媒層においては、3相界面を増大させ、反応に関与する触媒量を増やすことが求められるが、触媒担持カーボン粉末は疎水性であるため水とは馴染み難い。したがって、水を多く含むインクではカーボンの微細孔内に水素イオン伝導性高分子電解質が侵入せず、微細孔内に存在する触媒金属を水素イオン伝導性高分子電解質で被覆することは困難である。一方、アルコールは触媒担持カーボン粉末と良く馴染むが、カーボンに対してアルコールと水素イオン伝導性高分子電解質とが競争吸着になるため、高分子電解質による良好な被覆状態を得ることはやはり困難であった。
【0009】
そこで本発明は、カーボン粉末の表面のみならず、微細孔内に担持された触媒金属をも水素イオン伝導性高分子電解質によって良好に被覆することができ、それによって反応に関与する触媒量を増加させた触媒層形成用インクの製造方法を提供することを目的とする。また、上記触媒層形成用インクを利用することにより、出力の高い膜/電極接合体(MEA)を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、不活性ガス雰囲気下においた触媒担持カーボン粉末を低級アルコールで濡らすことで微細孔内への溶媒の侵入を可能とし、一旦、アルコールと水素イオン伝導性高分子電解質との競争吸着状態にした後、周辺のアルコール濃度を下げて水素イオン伝導性高分子電解質の吸着割合を増やすことによって上記課題を解決できることを見出し、発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0011】
(1)触媒が担持されたカーボン粉末を不活性ガス雰囲気下に曝す工程と、50重量%以上の低級アルコールを含む溶媒に、前記不活性ガス雰囲気下に曝した触媒担持カーボン粉末及び水素イオン伝導性高分子電解質を加える工程と、その後に溶媒中の低級アルコールの濃度を30重量%以下にする工程と、を有する燃料電池の触媒層形成用インクの製造方法。
【0012】
(2)溶媒中の低級アルコールの濃度を30重量%以下にする工程が、低級アルコールを揮発させることにより行われる上記(1)に記載の燃料電池の触媒層形成用インクの製造方法。
【0013】
(3)溶媒中の低級アルコールの濃度を30重量%以下にする工程が、溶媒に水を加えることにより行われる上記(1)に記載の燃料電池の触媒層形成用インクの製造方法。
【0014】
(4)上記(1)〜(3)のいずれか記載の製造方法により得られる触媒層形成用インクを用いて作製される電極と、固体高分子電解質膜とが積層してなる膜/電極接合体。
【発明の効果】
【0015】
本発明の触媒層形成用インクによれば、カーボンの微細孔内に担持された触媒金属をも水素イオン伝導性高分子電解質によって十分に被覆することができ、その結果、3相界面が増大し、白金等の触媒の利用率を高めることができる。また、このような高い触媒利用率のため、出力性能に優れた膜/電極接合体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の触媒層形成用インクの製造方法は、触媒が担持されたカーボン粉末を不活性ガス雰囲気下に曝す工程と、50重量%以上の低級アルコールを含む溶媒に、前記不活性ガス雰囲気下に曝した触媒担持カーボン粉末及び水素イオン伝導性高分子電解質を加える工程と、その後に溶媒中の低級アルコールの濃度を30重量%以下にする工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
触媒を担持させるカーボン粉末としては特に限定されないが、比表面積が200m/g以上であることが好ましい。カーボンブラックが一般的に使用される。その他、黒鉛、炭素繊維、活性炭、カーボンナノチューブ等が適用可能である。好適な例として、Ketjen EC(ケッチェンブラックインターナショナル社製)やVulcan(Cabot社製)が挙げられる。
【0018】
また、カーボン粉末に担持させる触媒としては、白金、コバルト、パラジウム、ルテニウム、金、ロジウム、オスミウム、イリジウム等の金属、あるいは上記金属の2種以上からなる合金、金属と有機化合物や無機化合物との錯体、金属酸化物等を挙げることができる。
【0019】
カーボン粉末に触媒を担持させるに当たっては、従来の方法により行うことができる。具体的には、例えば、カーボン粉末を水等に懸濁させ、これに塩化白金酸等の触媒金属の化合物を滴下し、還元剤を滴下することによってカーボン粉末上に触媒を析出させる。合金を担持させる場合は、さらに別の金属をカーボン粉末上に析出させ、高温で熱処理を行って合金化する。熱処理後、未合金の金属を除去するため酸による洗浄を行うことが好ましい。その際の熱処理温度、熱処理時間、酸洗浄の際の酸濃度、洗浄時間、洗浄温度等の条件は、触媒の種類等に応じて適宜設定される。
【0020】
続いて、触媒が担持されたカーボン粉末を、不活性ガス雰囲気下に曝す。この工程により、カーボン粉末の微細孔に吸着した酸素が取り除かれ、後工程で有機溶媒と混合した際に触媒反応が起こるのを抑制することができる。不活性ガスとしては、真空、窒素、ヘリウム、アルゴン等が選択され、また、不活性ガス雰囲気下に置く際の温度、時間、圧力等は、吸着酸素が除かれることを条件として適宜設定することができる。
【0021】
次に、低級アルコールを含む溶媒に、上述の不活性ガス雰囲気下に曝した触媒担持カーボン粉末と、水素イオン伝導性高分子電解質を加える。溶媒中の低級アルコールの濃度は、50重量%以上(50〜100重量%)、好ましくは80〜100重量%とする。50重量%以上の低級アルコールを含む溶媒中の水素イオン伝導性高分子電解質は、その種類・組成にもよるが、概して主鎖がほぐれて流動性が高まり、その結果、触媒担持カーボン粉末の微細孔への侵入が容易となり、微細孔中に担持されている触媒と十分に接触することができる。また、溶媒の表面張力が低下するため溶媒が微細孔へ円滑に侵入することになる。
【0022】
低級アルコールとしては、用いる水素イオン伝導性高分子電解質と良く馴染み、水よりも表面張力が小さく、沸点が低いアルコールであれば適用可能であり、炭素数1〜4のアルコールから選択することができる。例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール等を挙げることができ、これらを単独もしくは組み合わせて用いることができる。特に、安全性・入手の容易さ等の観点から、1−プロパノールやエタノールが好ましく用いられる。
【0023】
また、低級アルコール以外の溶媒成分としては、水、含フッ素アルコール、含フッ素エーテル、グリコール類等を適宜用いることができる。
【0024】
溶媒に加える水素イオン伝導性高分子電解質としては、含フッ素イオン交換樹脂等が適用可能であり、特に、スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体が好ましく用いられる。好適な例として、Nafion(商品名、デュポン社製)が挙げられる。また、触媒担持カーボン粉末と水素イオン伝導性高分子電解質との比(固形分比率)は、比率を変えることで水素イオン伝導性高分子電解質による被覆厚さが変動するため、所望の燃料電池システムに適した比率を任意に設定することができる。通常、水素イオン伝導性高分子電解質の重量/触媒を担持していないカーボン粉末の重量の比が0.2〜1.5、好ましくは0.6〜1.0である。
【0025】
上記の触媒担持カーボン粉末及び水素イオン伝導性高分子電解質以外に、必要に応じて、各種添加剤を溶媒に加えても良い。例として、より強い保水性あるいは撥水性や給水機能を補強する目的のため、PTFEやゼオライト等を添加する場合が挙げられる。添加剤を加える場合、その量は溶媒に対して5重量%以下とすることが好ましい。
【0026】
各成分を溶媒に加えた後、攪拌し、超音波照射やビーズミル等による分散処理を行う。これにより、カーボン粉末の微細孔内への溶媒及び水素イオン伝導性高分子電解質の侵入が促進され、低級アルコールと水素イオン伝導性高分子電解質の競争吸着状態が形成される。本発明では、その後、溶媒中の低級アルコール濃度を30重量%以下、好ましくは0.01〜30重量%、さらに好ましくは10〜20重量%に低下させる。これにより、触媒担持カーボン粉末の表面に競争吸着する各成分の比が水素イオン伝導性高分子電解質側にシフトし、確率的に多くの水素イオン伝導性高分子電解質がカーボン粉末上に吸着することとなる。したがって、微細孔内に担持された触媒の、電解質による被覆が促進され、結果として3相界面が増大し触媒の利用効率が向上する。また、低級アルコール濃度を低下させることにより、インクの安全性・分散安定性をも高めることができる。
【0027】
低級アルコールの濃度を30重量%にするための手段としては、蒸留等による手段、すなわち適宜加熱しながら溶媒中の低級アルコールを揮発させる方法や、溶媒にさらに水等を加えることによって低級アルコールの相対量を下げる方法等を挙げることができる。また、これらの方法を組み合わせて行っても良い。
【0028】
以上の工程により得られた触媒層形成用インクを、燃料電池の固体高分子電解質膜、又はガス拡散層に塗布し、乾燥させることによって触媒層を形成することができる。また、別途用意した基材上に上記インクを塗布し乾燥させたものを、固体高分子電解質膜上に転写することによって固体高分子電解質上に触媒層を形成しても良い。塗布する手段としては、刷毛塗り、スプレー、ロールコーター、インクジェット、スクリーン印刷法等、適宜採用することができる。
【0029】
燃料電池における触媒層の層厚は、アノード側、カソード側とも適宜設定することができる。一般には、1〜50μm、好ましくは5〜15μmである。
【0030】
アノード触媒層及びカソード触媒層をガス拡散層上に形成した場合には、各触媒層と固体高分子電解質膜とを接着やホットプレス等により接合することによって、膜/電極接合体(MEA)が組立てられる。また、固体高分子電解質膜上に各触媒層を形成した場合には、触媒層のみでアノード電極及びカソード電極を構成しても良いし、さらに各触媒層に隣接してガス拡散層を配置し、アノード電極及びカソード電極としても良い。なお、本発明により製造される触媒層形成用インクは、アノード側のみ、カソード側のみ、もしくはその両方の触媒層の形成に用いることができる。本発明による触媒層形成用インクを使用しない触媒層は、従来の方法に従って、すなわち、触媒担持カーボン粉末や水素イオン伝導性高分子電解質等を通常の溶媒に分散させたインクを塗布・乾燥させる方法等によって適宜形成することができる。
【0031】
カソード及びアノードの触媒層に挟まれる固体高分子電解質膜の材料としては、湿潤条件下で良好な水素イオン伝導性を示す材料であれば適用可能である。例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体、ポリスルホン樹脂、ホスホン酸基又はカルボン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体等を挙げることができる。中でも、スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体が好ましく用いられる。なお、この固体高分子電解質膜は、触媒層に含まれる水素イオン伝導性高分子電解質と同じ樹脂であっても良く、異なる樹脂から構成しても良い。
【0032】
ガス拡散層としては、セパレータに形成されたガス流路から触媒層までガスを均一に拡散させ、触媒とセパレータ間に電子を伝導させる機能を有するものであれば、種々の材料により構成することができる。一般的には、カーボンクロスやカーボンペーパー等の炭素材料が用いられる。ガス拡散性、電子伝導性に加え、耐食性を有するものであれば金属メッシュや金属ウール等の金属材料を用いることもできる。
【0033】
アノード及びカソードの外側には、通常、ガスの流路が形成されたセパレータが配置することにより、固体高分子型燃料電池が作製される。セパレータの流路に対し、アノードには水素を含むガス、カソードには酸素又は空気を含むガスが供給されて発電が行われる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
(触媒層形成用インクの調製)
触媒として白金コバルト合金粒子をカーボンブラック(商品名:Ketjen EC、ケッチェンブラックインターナショナル社製)上に担持させ、白金担持密度を50%とした触媒担持カーボン粉末8gに対して、水素イオン伝導性高分子電解質の分散溶液(商品名:DE−2020、Nafionの21%溶液、Dupont社製)を18.3g、水73.2g、エタノール78.6gを投入してよく攪拌、混合した。この混合溶液を超音波ホモジナイザーにより、十分に分散させた(以下、インクAとよぶ)。
【0035】
上記と同じ触媒担持カーボン粉末8gに対して、真空乾燥を施し(24時間、100℃)、その後窒素を導入して取り出した。この触媒担持カーボン粉末に、窒素雰囲気中で上述の水素イオン伝導性高分子電解質の分散溶液18.3g、及びエタノール150.6gを投入してよく攪拌、混合した。この混合溶液を超音波ホモジナイザーにより十分に分散させた後、水85.2gを加えてよく攪拌、混合し、得られた混合溶液を加熱してエタノールの濃度が全溶媒中14.3重量%になるまで揮発させた(以下、インクBとよぶ)。
【0036】
(比較例1)
燃料電池用の固体高分子電解質膜(商品名:Nafion117)上に、インクAをスプレー法により単位面積当たりの白金量が0.1mg/cmとなるように塗布した。この際の電極面積は36×36mmである。その後、インクを乾燥させた。
【0037】
続いて、上記固体高分子電解質膜の反対面(アノード側)に、転写法によりアノードを形成した。なお、転写前の塗布ロール品(転写シート)としては、白金粒子をカーボンブラックに担持させて白金担持密度を60%とした触媒担持カーボン粉末8gに対し、水素イオン伝導性高分子電解質の分散溶液を14.5g、水74.4g、エタノール81.4gを投入してよく攪拌、混合し、超音波ホモジナイザーにより十分に分散させたインクを、アプリケーター法で単位面積当たりの白金量が0.2mg/cmとなるようにテフロンシート上に塗布し、乾燥させたものを用いた。この転写シートを130℃、4MPaの条件でアノード側に転写し、膜/電極接合体Aを作製した。
【0038】
(実施例1)
固体高分子電解質膜上にインクBを塗布する以外は、上記比較例1と同様にして膜/電極接合体Bを作製した。
【0039】
(性能評価)
作製した膜/電極接合体A及びBについて、0.2A/cm及び1.0A/cmにおけるセル電圧を測定した(I−V測定)。また、インクA及びBで形成した各電極について、以下の表に示す。またインクA及びBで形成した各電極について、サイクリックボルタンメトリーにより白金表面積(Q値)を求め、さらにN吸着法によってφ6nm以下のBET表面積を求めた。測定条件を表1に、測定結果を表2にそれぞれ示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
表2に示すように、本発明の触媒層形成用インクBを用いることにより出力が向上することが明らかとなった。また、実施例1は、比較例1に比べて同じPt目付量にも関わらずQ値が増えていることから、白金の利用率が向上したことが示唆され、このことが出力向上の原因と考えられる。さらに、N吸着法による表面積の計測では、実施例1の方が表面積が低下しており、これは水素イオン伝導性高分子電解質による触媒担持カーボン粉末の被覆が比較例よりも進んだことが原因と考えられる。
【0043】
以上より、比較例1では吸着できなかったカーボン粉末の微細孔内の部位が実施例1では十分に被覆されており、その結果、3相界面が増大し、白金の利用率が向上して出力の向上につながったものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒が担持されたカーボン粉末を不活性ガス雰囲気下に曝す工程と、50重量%以上の低級アルコールを含む溶媒に、前記不活性ガス雰囲気下に曝した触媒担持カーボン粉末及び水素イオン伝導性高分子電解質を加える工程と、その後に溶媒中の低級アルコールの濃度を30重量%以下にする工程と、を有する燃料電池の触媒層形成用インクの製造方法。
【請求項2】
溶媒中の低級アルコールの濃度を30重量%以下にする工程が、低級アルコールを揮発させることにより行われる請求項1に記載の燃料電池の触媒層形成用インクの製造方法。
【請求項3】
溶媒中の低級アルコールの濃度を30重量%以下にする工程が、溶媒に水を加えることにより行われる請求項1に記載の燃料電池の触媒層形成用インクの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の製造方法により得られる触媒層形成用インクを用いて作製される電極と、固体高分子電解質膜とが積層してなる膜/電極接合体。


【公開番号】特開2010−160922(P2010−160922A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1012(P2009−1012)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】