説明

燃料電池システムの運転方法

【課題】 SOFCセル劣化を抑制させる起動方法を提供すること。
【解決手段】 燃料ガスと酸化剤ガスとにより作動する固体酸化物形燃料電池セルを備える燃料電池モジュールと、前記固体酸化物形燃料電池セルから電流を流すように制御する負荷制御部と、を備える燃料電池システムの運転方法であって、前記燃料ガスと前記酸化剤ガスを前記固体酸化物形燃料電池セルに供給しながら前記固体酸化物形燃料電池セルの温度を上昇させ、前記固体酸化物形燃料電池セルの温度が発電可能な温度に至る前には、前記負荷制御部により前記固体酸化物形燃料電池セルから定格運転より低い電流を流し、前記固体酸化物形燃料電池セルの温度が発電可能な温度に至った後には、前記負荷制御部により前記固体酸化物形燃料電池セルからの電流を定格運転に移行させることを特徴とする燃料電池システムの運転方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物燃料電池(以下、SOFCと示す)システムの起動方法に関するものであり、特には、起動時の地絡、短絡等(以下、短絡と示す)によって生じる固体酸化物形燃料電池セルの劣化を抑制するSOFCの起動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化などの環境問題、化石燃料枯渇化などのエネルギー問題が深刻化し、環境にやさしく、高効率な新しい発電機の普及が世界規模で期待されている。SOFCは、既存の発電機と比較し、高効率であること、排熱温度が高いこと、硫黄酸化物・窒素酸化物などの有害ガスを排出が極めて少ないことなどの理由から、コージェネレーション分野を中心とする普及が期待されている。
【0003】
SOFCセル1本あたりの起電力は1V程度と低く、実用的な負荷に必要な電圧を得るためにできるだけ多くのSOFCセルを直列に接続する。また、インバーター変換効率は電圧が高いほど優れており、エネルギー効率の面から高電圧タイプのSOFCの開発が進められている。
【0004】
このように、SOFCセルの直列数を増加させることによって、高電圧・高出力の固体酸化物形燃料電池(SOFC)を得ることができるが、起動時において高電圧を所持しているために、例えば、短絡が生じた場合、電圧降下とともに過電流がセルに流れ、特に内部抵抗が大きいセルに大きなダメージを与える。この結果、セル劣化をもたらし、そのまま運転するとセル破損に至る可能性があることが懸念されるようになった。
【0005】
内部抵抗が大きいセルは、転極すなわちマイナス電位を示し、固体高分子形燃料電池ではセル劣化を引き起こすものとして以前から問題視され、システム的な対策が提案されている。(例えば、下記特許文献1参照、下記特許文献2参照)
【0006】
一方、SOFCでは、起動時にマイナス電位を生じることでセル劣化をもたらす報告事例が無かった。そのため、発明者が試験的に確認したところ、低温領域(300-500℃程度)で一定のマイナス電位をSOFCセルに与えてもセル劣化をもたらさないことがわかり、これまで問題視されなかったものと推定した。ところが、エネルギー効率向上の観点から開発されている高電圧タイプのSOFCで生じるであろう電圧降下を低温領域で与える試験をSOFCセルで実施したところ、セル劣化が生じることが確認された。それゆえ、高電圧タイプのSOFCにおいては、起動時の短絡におけるセル劣化が実用化における新たな課題であることがわかった。
【0007】
現状のSOFCは、ヒータやバーナー等の加熱手段を用いて起動・昇温され、発電が安定できる温度領域まで通電をしないのが一般的である。(例えば、下記特許文献3参照、下記特許文献4参照)
【0008】
このため、起動時の低温領域では高電圧となり、短絡による電圧降下が生じるとセル劣化をもたらすことが示唆された。
【特許文献1】特開2008−21606号公報
【特許文献2】特開2007−250271号公報
【特許文献3】特開2007−42441号公報
【特許文献4】特開2003−323909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、燃料電池システムの運転方法を改善し、起動時のSOFCセルの電圧を低減させ、短絡等による大きな電圧降下を未然に防ぐことにより、セル劣化を抑制し信頼性に優れるSOFCを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の燃料電池システムの運転方法は、燃料ガスと酸化剤ガスとにより作動する固体酸化物形燃料電池セルを備える燃料電池モジュールと、前記固体酸化物形燃料電池セルから電流を流すように制御する負荷制御部と、を備える燃料電池システムの運転方法であって、前記燃料ガスと前記酸化剤ガスを前記固体酸化物形燃料電池セルに供給しながら前記固体酸化物形燃料電池セルの温度を上昇させ、前記固体酸化物形燃料電池セルの温度が発電可能な温度に至る前には、前記負荷制御部により前記固体酸化物形燃料電池セルから定格運転より低い電流を流し、前記固体酸化物形燃料電池セルの温度が発電可能な温度に至った後には、前記負荷制御部により前記固体酸化物形燃料電池セルからの電流を定格運転に移行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
短絡等による大きな電圧降下を未然に防ぐことができ、SOFCセル劣化を抑制させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態を説明するのに先立って、本発明の作用効果について説明する。
【0013】
本発明の燃料電池システムの運転方法は、燃料ガスと酸化剤ガスとにより作動する固体酸化物形燃料電池セルを備える燃料電池モジュールと、前記固体酸化物形燃料電池セルから電流を流すように制御する負荷制御部と、を備える燃料電池システムの運転方法であって、前記燃料ガスと前記酸化剤ガスを前記固体酸化物形燃料電池セルに供給しながら前記固体酸化物形燃料電池セルの温度を上昇させ、前記固体酸化物形燃料電池セルの温度が発電可能な温度に至る前には、前記負荷制御部により前記固体酸化物形燃料電池セルから定格運転より低い電流を流し、前記固体酸化物形燃料電池セルの温度が発電可能な温度に至った後には、前記負荷制御部により前記固体酸化物形燃料電池セルからの電流を定格運転に移行させることを特徴とする。
【0014】
起動時のSOFCセルは、SOFCが設置された環境(温度、湿度)や配置状態(接続部材との接触状態など)などの外的な影響を受けやすい。このため、個々のSOFCセルの内部抵抗ばらつきは大きい。この内部抵抗ばらつきは、昇温とともに徐々に低減され、発電可能な温度ではその差異はほとんど無くなると考えられる。しかし、発電可能な温度に達するまでの起動時においては、個々のばらつきを含んでおり、個々のSOFCセルの内部抵抗差は大きい状態であると推定される。この状態で短絡を生じると内部抵抗が大きいSOFCセルに大きな電圧差が生じ、SOFCセルの劣化を引き起こすと考えられる。そこで、本発明では、燃料ガスと酸化剤ガスをSOFCセルに供給しながらSOFCセルの温度を上昇させ、SOFCセルの温度が発電可能な温度に至る前に、SOFCセルから電流が流されることを特徴としている。これは、発電可能な温度に至る前にSOFCセルから電流が流されることによって、SOFCセルの温度が均一化され、内部抵抗ばらつきが低減される。また、外的な影響による内部抵抗ばらつきが、電流が流されることによる昇温効果によって初期の段階で低減させることができるためである。また、短絡が生じてもSOFCセルの電圧が低い値を呈しているため、個々のSOFCセルに与える電気的なダメージを低減させることができるためである。
【0015】
本発明の燃料電池システムの運転方法は、前記固体酸化物形燃料電池セルの温度が発電可能な温度に至る前には、前記負荷制御部により前記固体酸化物形燃料電池セルの電圧Vを起電力Vsに対して0≦V≦0.5Vsとなるように、前記固体酸化物形燃料電池セルから電流を流すことを特徴とする。
【0016】
好ましい態様によれば、燃料電池モジュールから取り出す電圧Vを0V未満とすると、固体高分子型燃料電池と同様で電極の劣化が生じる可能性があり、SOFCに要求される運転時間である40000時間以上の長期的な信頼性確保を考慮すると0V以上になるように電流が流されることが好ましいためである。一方、Vが起電力Vsに近い値であると、流される電流が小さく、SOFCセルの昇温効果が小さい。このため、SOFCセルの内部抵抗差を低減させる効果が小さく、外的な影響による内部抵抗ばらつきを低減させることができないためである。また、短絡時に大きな電圧差を生じる可能性があり好ましくない。この観点から、V≦0.5Vsにすることが好ましい。
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0018】
本実施形態に係るSOFCを説明するために、本実施形態に係るSOFCを構成する燃料電池モジュールの一例について説明する。
【0019】
図1は、燃料電池モジュールFCを部分的に破断した概略的な斜視図である。燃料電池モジュールFCは、燃料ガスと空気(酸化剤ガス)とを電気化学反応させることで発電するための装置として構成されている。
【0020】
燃料電池モジュールFCは、SOFCセル2と、集電部材3,4と、集電ロッド5と、空気ヘッダ6と、空気供給管7と、モジュール容器8と、絶縁断熱部材9と、断熱部材10とを備えている。
【0021】
燃料電池セル2は、2列×6列の12本ごとにSOFCセルスタック(図1において明示しない)として構成され、モジュール容器8内に収められている。各SOFCセル2は、有底筒状であって、セラミックス材料からなり筒の内側から外側に向かって空気極、固体酸化物電解質、燃料極の多層構造を形成している。SOFCセル2の内壁すなわち空気極に空気、外壁すなわち燃料極に燃料ガスが接触すると、セル内でO2−イオンが移動して電気化学反応が起こり空気極と燃料極との間に電位差が生じで発電が行われる。SOFCセル2が発電した電気は、集電部材3,4によって集電され、集電ロッド5によって外部に取出される。
【0022】
各SOFCセル2に供給される空気は、空気供給管7を通って空気ヘッダ6に供給された空気が分配されて供給される。本実施形態の場合空気ヘッダ6は3つ設けられており、それぞれの空気ヘッダ6に空気供給管7が繋がれている。空気供給管7の上流側は空気の供給元に連結されている。
【0023】
空気ヘッダ6は、各SOFCセル2に供給される空気を一時的に貯留して昇温させる役割を果たすと共に、各SOFCセル2に空気を分配する役割も果たしている。空気ヘッダ6は、各SOFCセル2に供給する空気の流路をSOFCセル2の数に応じて複数の系統に分配するためのものでもあるので、SOFCセル2の数に応じてその配置数量が増減される。
【0024】
各SOFCセル2に供給される燃料ガスは、各SOFCセル2の下方から供給される(詳細は後述する)。
【0025】
SOFCセル2、集電部材3,4、及び空気ヘッダ6は、直方体形状のモジュール容器8に収容されている。このモジュール容器8は、運転時に高温になることから、例えば、インコネルやステンレスなどの耐熱性の合金材料により形成されている。また、燃料ガスや空気を外部に漏出させないために密閉構造となっている。モジュール容器8の内側には、SOFCセル2とモジュール容器8とを絶縁すると共に、モジュール容器8内部を保温するための絶縁断熱部材9が設けられている。絶縁断熱部材9は、アルミナ繊維等で形成されている。モジュール容器8は更に、動作温度を安定に保つためにその全体が断熱部材10で覆われている。
【0026】
続いて、図2を参照しながら、SOFCセル2の配置態様について説明する。図2は、図1において空気ヘッダ6側からSOFCセル2側を見通す方向における横断面図である。SOFCセル集合体21は、複数のSOFCセルスタック21a,21b,21cを備えている。各SOFCセルスタック21a,21b,21cは、12本のSOFCセル2を有し、それぞれのSOFCセル2は、2列(図中x方向)×6列(図中y方向)に配置されている。
【0027】
各SOFCセル2は有底円筒状であって、その開口部2aを空気ヘッダ6側に向けて配置されている。各SOFCセル2は、セル間集電部材13及び導電性のセル接続部材14を介して、電気的に2並列×6直列に接続されている。なお、SOFCセル2は、発電容量等に応じて本数や配列が適宜選択される。
【0028】
各SOFCセルスタック21a,21b,21cは、所定の間隔を置いて3列(図中x方向)に配置されており、36本のSOFCセル2を有するSOFCセル集合体21を構成している。それぞれのSOFCセルスタック21a,21b,21cは、集電部材3を介して電気的に直列に接続されている。このように直列接続されたSOFCセルスタック21a,21b,21cの両端に配置されるSOFCセルスタック21a,21cの端部には、集電部材4が繋がれている。集電部材4は集電ロッド5に繋がれているので、集電ロッド5を介して外部に電力が取り出すことができる。
【0029】
各SOFCセルスタック21a,21b,21cにはそれぞれ、SOFCセル2が6列に並べられている一対の側面に接するように絶縁板16が配置されている。更に、隣接する絶縁板16の間には熱伝導板15が配置されている。SOFCセルスタック21a,21cと絶縁断熱部材9との間にも熱伝導板15が配置されている。熱伝導板15と集電部材3,4との間には、絶縁棒11が配置されている。
【0030】
このように熱伝導板15が配置されることで、局部的にSOFCセル2の温度が部分的に高くなっても、熱伝導板15を介して高温部分から低温部分へ熱が移動しやすくなり、SOFCセル2の温度分布を均一化させることができる。
【0031】
また、上述したように絶縁板16及び絶縁棒11が配置されることで、熱伝導板15とSOFCセル2との間の電気絶縁性、及び熱伝導板15と集電部材3,4との間の電気絶縁性が確保される。
【0032】
続いて、図3を参照しながら、SOFCセル2の配置態様と燃料ガス及び空気の供給態様について説明する。図3は、SOFCモジュールFCの縦断面図であって、モジュール容器8の内部を示す図である。
【0033】
図3に示すように、モジュール容器8の下方には、モジュール容器8内に導入する燃料ガスを均一に分散するための燃料ガス分散室17が配置されている。この燃料ガス分散室17内には、燃料ガスを予備分散する予備分散板18が配置されている。この予備分散板18は、例えばアルミナからなり、燃料ガス通気孔19が一様に形成されている。また、予備分散板18の上方には、例えばNiフォームからなる燃料ガス分散材30が配置されている。燃料ガス分散室17の上流側(図中下側)には、燃料ガス供給管22が設けられ、この燃料ガス供給管22の上流側は燃料ガスの供給元に連結されている。また、モジュール容器8と燃料ガス分散室17との間には、燃料ガスを燃料ガス分散室17からモジュール容器8に通気させるための燃料ガス分散板23が設けられている。この燃料ガス分散板23には、複数の燃料ガス供給孔24が形成されている。
【0034】
また、SOFCセル集合体21の上方に配置される空気ヘッダ6には、SOFCセル2の空気極に空気を導入する複数の空気導入管25が連結されている。この空気導入管25は、SOFCセル2の管内に挿入され、その下端部はSOFCセル2の底面付近まで延びている。
【0035】
また、モジュール容器8内には、SOFCセル2の長尺方向に対して垂直方向に沿って形成される矩形状の仕切板26が設けられている。この仕切板26は、アルミナ繊維を積層してブランケット状に形成したものが用いられている。モジュール容器8内において、この仕切板26で仕切られた上側に燃焼室27が形成され、下側に発電室28が形成される。ここで、燃焼室27は、発電室28で反応に寄与しなかった余剰の燃料ガスと、各SOFCセル2の筒内で反応に寄与しなかった余剰の空気とを混合して燃焼させるための空間である。発電室28は、燃料ガス供給孔24から導入される燃料ガスを各SOFCセル2に接触させ、各SOFCセル2の管内に流れる空気との電気化学反応を生じさせて発電させるための空間である。
【0036】
また、仕切板26には、残余の燃料ガスを発電室28から燃焼室27に排出するための、例えばアルミナからなる筒状の燃料ガス排出管(図示しない)が複数挿通されている。従って、仕切板26には、発電室28から燃焼室27へと燃料ガスを通過させるための複数のガス排出孔が形成されていることになる。
【0037】
続いて、図4を参照しながら、燃料電池モジュールFCを用いた燃料電池FCSの構成について説明する。図4は、燃料電池FCSの構成を示すブロック図である。図4に示すように、燃料電池FCSは、燃料電池モジュールFCと、燃料供給部FPと、空気供給部APと、水供給部WPと、電力取出部EP(負荷制御部)と、制御部CSと、記録装置LGを備えている。燃料供給部FP、空気供給部AP、水供給部WP、及び電力取出部EPは、燃料電池FCSの補器ADを構成している。
【0038】
燃料供給部FPは、燃料供給源としての都市ガス配管から燃料ガスを燃料電池モジュールFCに供給する部分であって、燃料ポンプ、電磁弁を有している。燃料供給部FPから供給される燃料ガスは燃料ガス供給管22へと送り出される。
【0039】
空気供給部APは、空気供給源としての大気中から空気を固体酸化物形燃料電池モジュール1に供給する部分であって、空気ブロア、電磁弁を有している。空気供給部APから供給される空気は空気供給管8へと送り出される。
【0040】
水供給部WPは、水供給源としての水道管から水を燃料電池モジュール1に供給する部分であって、水ポンプ、電磁弁を有している。水供給部WPから供給される水は、燃料電池モジュールFC内部で水蒸気となって送り出される。
【0041】
電力取出部EPは、燃料電池モジュールFCから電力を取り出す部分であって、電子負荷装置(パワーコンディショナー)として機能しており、インバータ等の電力変換装置を有している。電力取出部EPは、集電ロッド5と繋がっていて、変換した電力は電力供給先へと送り出すように構成されている。
【0042】
制御部CSは、燃料供給部FP、空気供給部AP、駆動補器AD、及び電力取出部EP、燃料電池モジュールから取り出す電圧Vのそれぞれを制御するための部分であって、CPUやROMを有している。燃料電池モジュールFCの動作は、制御部CSからの指示信号に基づいて実行される。なお、燃料電池モジュールから取り出す電圧Vの制御は、モジュールに設定された所定の熱電対と連動されている。
【0043】
記録装置LGは、燃料電池モジュールFCに設けられた熱電対等から出力される信号を記録して制御部CSへと出力する部分である。記録装置LGは、データとして、燃料電池モジュールFCの温度や電流値、電圧値を出力する。
【0044】
このように構成された燃料電池FCSの動作について説明する。発電室28を電気化学反応が生じる温度(700〜1000℃)に昇温する。空気供給部APから空気を空気供給管7に供給し、空気ヘッダ6内に貯留する。貯留された空気は、複数の空気導入管25内を下方に流れ、下端からSOFCセル2の筒内に流出する。流出した空気は、SOFCセル2の筒内を上方に流れる。このとき、空気は、空気極に接触して反応に供される。反応で消費されなかった空気は、SOFCセル2の開口部2aから燃焼室27に達する。
【0045】
また、燃料供給部FPから燃料ガスを燃料ガス供給管22に供給し、燃料ガス分散室17内に貯留する。貯留された燃料ガスは、燃料ガス分散板23に形成された複数の燃料ガス供給孔24から発電室28内に導入され、発電室28内を各SOFCセル2を包囲しながら上方に流れる。このとき、燃料ガスは、燃料極に接触して反応に供される。反応で消費されなかった燃料ガスは、仕切板26の燃料ガス排出管(図示しない)を通って燃焼室27に達する。
【0046】
燃焼室27に達した残余の燃料ガスと残余の空気とは、所定の点火装置を用いて燃焼され排出ガスが、モジュール容器8の上壁に連結された排ガス管から燃焼室27の外に排出される。この排出ガスは高温となるために、発電室28を加熱するための熱源として利用される。
【0047】
図5は、本発明のSOFCの起動方法における時間tと発電室に設けられた所定の熱電対温度T、SOFCの電圧Vおよび電流Iの相互関係を示す。一方、図6に従来SOFCの起動方法について、起動方法における時間tと発電室に設けられた所定の熱電対温度T、SOFCの電圧Vおよび電流Iの相互関係を示す。
【0048】
本発明の起動方法について説明をする。室温からの立ち上げる場合、SOFCセル内側に空気を、外側に燃料ガスを供給し、電気ヒーター等で200℃程度まで昇温させる。この状態では起電力が0VのままなのでV1=0Vとし電流を流さない。200℃以上になると起電力が生じ電位が上昇する。これに伴ってV1の制御を開始し、昇温を行う。V1の制御により徐々に電流Iが大きくなる。この状態で温度T1まで昇温させる。温度T1に達する、すなわち時間t1になったら、V1の制御を解除し、電圧Vを徐々に高めながら温度Tsまで昇温を行い、電圧V0とする。定格運転とは、(図5)の記号Aで表されるように、電圧V0を一定に保たれた運転状態である。温度Tが200℃以上の場合、SOFCセル内側に空気を、外側に燃料ガスを供給し、V1を制御しながら、電気ヒーター等で昇温を行う。V1の制御により徐々に電流Iが大きくなる。この状態で温度T1まで昇温させる。温度T1に達する、すなわち時間t1になったら、V1の制御を解除し、電圧Vを徐々に高めながら温度Tsまで昇温を行い、電圧V0とする。定格運転とは、(図5)の記号Aで表されるように、電圧V0を一定に保たれた運転状態である。
【0049】
従来の起動方法の起動方法について説明をする。SOFCセル内側に空気を、外側に燃料ガスを供給し、電気ヒーター等で温度T1まで電流を流さない状態で昇温させる。温度T1までの電圧はSOFCの起電力Vsを示す。温度T1に達する、すなわち時間t1になったら、電流Iを流しはじめる。電流Iを高めながら温度Tsまで昇温させ、電圧V0とする。
【0050】
従来の起動方法では、SOFCの電圧が高い。この状態で短絡等のトラブルが発生した場合、SOFCの電圧は0Vまで低下する。一方、時間t1までの燃料電池モジュールのSOFCセルの内部抵抗ばらつきは大きく、抵抗が大きいものはその瞬間に大きなマイナス電位を生じることになる。その結果、SOFCセルは劣化しこのまま再起動させると発電時にSOFCセルが破損に至る恐れがある。一方、本発明の起動方法では内部抵抗ばらつきが大きい時間t1までの温度で低い電圧で運転されているので燃料電池モジュール内のSOFCセル劣化を抑制させることができる。さらに、本発明の起動方法では発電可能な温度に至る前に通電されるので、SOFCセルがジュール熱によって昇温され、セル間の内部抵抗ばらつきを低減させることができ、短絡が生じても個々のSOFCセルに大きなマイナス電位を生じることが無くなり、燃料電池モジュール内のSOFCセル劣化を抑制させることができる。
【0051】
本発明におけるSOFCセルは、円筒縦縞型、円筒横縞型、扁平円筒型、平板型などいずれのデザインであっても良く、これらのセルを備えた燃料電池スタックおよび燃料電池モジュールを備えたSOFCの起動方法として好適である。
【0052】
本発明における燃料電池モジュールの温度が予め設定された第一の温度(T1)は各々のセルデザインや材料によって異なる。空気極を支持体とする円筒縦縞型セルを備えたSOFCにおけるT1は600℃程度が好ましい。
【0053】
以下、空気極を支持体とする円筒縦縞型SOFCセルを用いた検証試験について説明する。図7に、本実施例で用いた円筒型SOFCセルの概略を示す。円筒状の空気極支持体101上にインターコネクター102、固体電解質103、さらに固体電解質103の上にインターコネクターと接触しないように燃料極104が備えられている。SOFCセルの有効長は600mmとし、空気極支持体101の組成はLa0.75Sr0.25MnO3で厚み2mm、固体電解質103の組成は、90mol%ZrO2-10mol%Sc2O3で厚み30μm、燃料極104の組成は、Niと90mol%ZrO2-10mol%Y2O3からなる混合材料で厚み100μm、インターコネクター102の組成は、La0.8Ca0.2CrO3で厚み30μmのものを用いた。
【0054】
発電試験は、SOFCセルを耐熱容器に入れて、SOFCセル内側に空気を、外側に燃料ガス(H2+3%H2O+N2混合ガス)を供給した。従来例では、室温から電流を流さないで80℃/hrで昇温させ、350℃で短絡させた後、900℃まで80℃/hrで昇温を行った(このときの電圧は1Vであった)。この状態で発電を実施した。発電条件を表1に示す。発電は、図7に示すように直流安定化電源装置を用いて行われた。
【0055】
本実施例では、室温から電流を流さないで80℃/hrで250℃まで昇温させた。250℃から0.5Vで電圧を制御し、350℃で短絡させた後、600℃まで80℃/hrで0.5Vの電圧で昇温を行った。600℃で電流を0Aにして起電力1Vにした後、900℃まで80℃/hrで昇温を行った。その後、発電を表1の条件で行った。
【0056】
【表1】

【0057】
発電結果を表2に示す。従来例では0.75Vとなり、本実施例では0.79Vであり、0.04Vの電圧差を生じた。発電可能な温度以下である350℃で短絡が生じた場合、従来例と本実施例で性能差が生じることが確認され、本発明の起動方法が好ましいことを示すことができた。
【0058】
【表2】

【0059】
本発明における起動方法は、安定な発電ができる温度T1よりも低い温度で生じるセル劣化を抑制しているので、高信頼性に優れるSOFCを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施形態に係る燃料電池モジュールを部分的に破断した概略的な斜視図である。
【図2】図1において空気ヘッダ側から燃料電池セル側を見通す方向における横断面図である。
【図3】燃料電池モジュールの縦断面図である。
【図4】燃料電池の構成を示すブロック図である。
【図5】本実施形態の電流、温度、電圧の時系列変化を示す図である。
【図6】従来の燃料電池における電流、温度、電圧の時系列変化を示す図である。
【図7】本実施形態のSOFCセルを示す図である。
【図8】本実施形態に係るSOFCセルによる検証試験の方法を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
2…SOFCセル、3,4…集電部材、5…集電ロッド、6…空気ヘッダ、7…空気供給管、8…モジュール容器、9…絶縁断熱部材、10…断熱部材、21…SOFCセル集合体、25…空気導入管、26…仕切板、27…燃焼室、28…発電室、29…燃料ガス排出孔、FC…燃料電池モジュール、FCS…燃料電池、101…空気極支持体、102…インターコネクター、103…固体電解質、104…燃料極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸化剤ガスとにより作動する固体酸化物形燃料電池セルと、
前記固体酸化物形燃料電池セルから電流を流すように制御する負荷制御部と、
を備える燃料電池システムの運転方法であって、
前記燃料ガスと前記酸化剤ガスを前記固体酸化物形燃料電池セルに供給しながら前記固体酸化物形燃料電池セルの温度を上昇させ、
前記固体酸化物形燃料電池セルの温度が発電可能な温度に至る前には、前記負荷制御部により前記固体酸化物形燃料電池セルから定格運転時の電流より低い電流を流し、
前記固体酸化物形燃料電池セルの温度が発電可能な温度に至った後には、前記燃料電池システムを定格運転に移行させることを特徴とする燃料電池システムの運転方法。
【請求項2】
前記固体酸化物形燃料電池セルの温度が発電可能な温度に至る前には、前記負荷制御部により前記固体酸化物形燃料電池セルの電圧Vを起電力Vsに対して0≦V≦0.5Vsとなるように、前記固体酸化物形燃料電池セルから電流を流すことを特徴とする請求項1の燃料電池システムの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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