燃料電池システム
【課題】燃料電池の出力低下要因を適確に診断可能にする。
【解決手段】燃料電池10内において燃料ガスが不足しやすい部位Dを流れる電流を測定する電流測定手段134、153、163、166、174と、電流測定手段にて測定した電流値に基づいて燃料電池の燃料ガスの不足状態を診断する診断手段40を設ける。診断手段40は、電流測定手段にて測定した電流が所定電流値未満で、且つ電流測定手段にて測定した電流の低下速度が所定低下速度以上であるときは、燃料電池への燃料ガスの供給量が不足していると診断する。
【解決手段】燃料電池10内において燃料ガスが不足しやすい部位Dを流れる電流を測定する電流測定手段134、153、163、166、174と、電流測定手段にて測定した電流値に基づいて燃料電池の燃料ガスの不足状態を診断する診断手段40を設ける。診断手段40は、電流測定手段にて測定した電流が所定電流値未満で、且つ電流測定手段にて測定した電流の低下速度が所定低下速度以上であるときは、燃料電池への燃料ガスの供給量が不足していると診断する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と酸素との電気化学反応により電気エネルギを発生させる燃料電池を備える燃料電池システムに関するもので、車両、船舶及びポータブル発電機等の移動体用発電機、或いは家庭用発電機に適用して有効である。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池システムでは、水分が不足すると電解質膜が乾燥して電池の出力が低下し、一方、水分が過剰になると電極が水に覆われてガスの透過が阻害され、電池の出力が低下する。したがって、電解質膜の保水状態や電極の濡れ状態を的確に診断して、保水状態や濡れ状態を適正に制御する必要がある。また、反応ガスの供給量が不足した場合も電池の出力が低下するため、反応ガス不足を適確に診断して、反応ガス供給量を適正に制御する必要がある。
【0003】
ところで、燃料電池の運転状態を診断するには、セル電圧の低下から異常状態を診断する方法が考えられる。また、燃料電池内の電流分布から反応ガスの過不足を診断し、反応ガス流量もしくは負荷電流を制御して燃料電池の破壊を防止するようにしたものも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−259913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、セル電圧の低下から異常状態を診断する方法の場合、電解質膜の乾燥、過剰な水による反応阻害、および反応ガスの供給不足のいずれによってもセル電圧が低下するため、燃料電池の出力低下要因を特定することができず、したがって出力低下要因に応じた適確な制御が行えないといった問題が発生する。
【0006】
一方、特許文献1に記載のシステムでは、反応ガスの過不足のみを診断しているため、出力低下要因を適確に診断することは不可能である。そのため、反応ガス流量以外の水過剰状態や電解質膜の乾燥状態を区別することができず、したがって出力低下要因に応じた適確な制御が行えないといった問題が発生する。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、燃料電池の出力低下要因を適確に診断可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、酸化剤ガスと燃料ガスとの電気化学反応により電気エネルギを発生させる燃料電池(10)と、燃料電池(10)内において燃料ガスが不足しやすい部位(D)を流れる電流を測定する電流測定手段(134、153、163、166、174)と、電流測定手段にて測定した電流値に基づいて燃料電池の燃料ガスの不足状態を診断する診断手段(40)を備えることを特徴とする。これによると、燃料電池への水素の供給量が不足した際には、それを適確に診断することができる。
【0009】
具体的には、請求項2に記載の発明のように、診断手段(40)は、電流測定手段にて測定した電流が所定電流値未満で、且つ電流測定手段にて測定した電流の低下速度が所定低下速度以上であるときは、燃料電池への燃料ガスの供給量が不足していると診断することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、酸化剤ガスと燃料ガスとの電気化学反応により電気エネルギを発生させる燃料電池(10)と、燃料電池(10)内において水分過剰になりやすく且つ燃料ガスが不足しやすい部位(D)を流れる電流を測定する電流測定手段(134、153、163)と、電流測定手段で測定した電流の低下速度に基づいて、燃料電池の水分過剰と燃料電池の燃料ガス不足とを区別して診断する診断手段(40)とを備えることを特徴とする。
【0011】
これによると、燃料電池が水分過剰となった際には、それを適確に診断することができるとともに、燃料電池への水素の供給量が不足した際には、それを適確に診断することができる。また、電流の低下速度によって燃料電池の出力低下要因が水分過剰であるか水素供給不足であるかを特定することができ、したがって出力低下要因に応じた適確な制御を行うことができる。
【0012】
具体的には、請求項4に記載の発明では、診断手段は、電流測定手段にて測定した電流が所定電流値未満で、且つ電流測定手段にて測定した電流の低下速度が所定低下速度未満であるときは、燃料電池の水分が過剰になっていると診断し、電流測定手段にて測定した電流が所定電流値未満で、且つ電流測定手段にて測定した電流の低下速度が所定低下速度以上であるときは、燃料電池への燃料ガスの供給量が不足していると診断することができる。
【0013】
因みに、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の発明の実施に際しては、請求項5に記載の発明のように、燃料電池(10)は、電解質膜の両側に一対の電極が配置された電解質・電極接合体(100)と、電解質・電極接合体の外側に配置されるとともに酸化ガスの流路となる酸化ガス流路(113)が形成された第1セパレータ(110)と、電解質・電極接合体の外側に配置されるとともに燃料ガスの流路となる燃料ガス流路(123)が形成された第2セパレータ(120)とを備え、電流測定手段(134、153、163、166、174)は、燃料ガス流路における燃料ガスの入口部(121)よりも燃料ガスの出口部(122)に近い位置で電流を測定するようにしてもよい。
【0014】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムの全体構成を示す模式図である。
【図2】図1の燃料電池10の単セルを示す模式的な斜視図である。
【図3】図2の右側から見た空気側セパレータ110の透視図である。
【図4】図2の右側から見た水素側セパレータ120の透視図である。
【図5】図2における−極側の要部の拡大図である。
【図6】図5のA−A線に沿う断面図である。
【図7】電解質膜の乾燥が発生した際の電流Iの変化を示す特性図である。
【図8】水素出口部の水滴量増加による水分過剰が発生した際の電流Iの変化を示す特性図である。
【図9】水素供給量が不足した際の電流Iの変化を示す特性図である。
【図10】水分過剰発生時および水素不足発生時の電流Iの変化を示す特性図である。
【図11】水分過剰発生時および水素不足発生時の電流Iの低下速度を示す特性図である。
【図12】図1の制御部40にて実行される制御処理を示す流れ図である。
【図13】乾燥判定時における総電流値と所定電流値との関係を示す特性図である。
【図14】本発明の第2実施形態に係る燃料電池システムの全体構成を示す模式図である。
【図15】図14の燃料電池10を示す模式的な斜視図である。
【図16】図14の燃料電池10の単セルを示す模式的な斜視図である。
【図17】第3実施形態の水分状態が変動した場合の燃料電池の発電電流Iの変化を示す特性図である。
【図18】水分状態が変動した場合の差分電圧ΔIの変化を示す特性図である。
【図19】第3実施形態の水分量制御の内容を示すフローチャートである。
【図20】第4実施形態の水分状態が変動した場合の燃料電池の発電電流Iの変化を示す特性図である。
【図21】水分状態が変動した場合の差分電圧ΔIの変化を示す特性図である。
【図22】第4実施形態の水分量制御の内容を示すフローチャートである。
【図23】第5実施形態の燃料電池の局所内部抵抗と内部水分量との関係を示す特性図である。
【図24】第6実施形態の水分状態が変動した場合の燃料電池の局所内部抵抗Iの変化を示す特性図である。
【図25】水分状態が変動した場合の差分抵抗ΔIの変化を示す特性図である。
【図26】第6実施形態の水分量制御の内容を示すフローチャートである。
【図27】第7実施形態の水分状態が変動した場合の燃料電池の局所内部抵抗Iの変化を示す特性図である。
【図28】水分状態が変動した場合の差分抵抗ΔIの変化を示す特性図である。
【図29】第7実施形態の水分量制御の内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
図1は第1実施形態に係る燃料電池システムを示す模式図で、この燃料電池システムは例えば電気自動車に適用される。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の燃料電池システムは、水素と酸素との電気化学反応を利用して電力を発生する燃料電池10を備えている。この燃料電池10は、電気負荷11や2次電池(図示せず)等の電気機器に電力を供給するものである。因みに、電気自動車の場合、車両走行駆動源としての電動モータが電気負荷11に相当する。
【0018】
本実施形態では燃料電池10として固体高分子電解質型燃料電池を用いており、基本単位となる燃料電池セルが複数個積層され、且つ電気的に直列接続されている。燃料電池10では、以下の水素と酸素の電気化学反応が起こり電気エネルギが発生する。
【0019】
(負極側)H2→2H++2e-
(正極側)2H++1/2O2+2e-→H2O
そして、各セル毎の出力電圧を検出するセルモニタ12が設けられ、セルモニタ12で検出したセル電圧信号が後述する制御部40に入力されるようになっている。
【0020】
燃料電池システムには、燃料電池10の空気極(正極)側に空気(酸素)を供給するための空気流路20と、燃料電池10の水素極(負極)側に水素を供給するための水素流路30が設けられている。なお、空気は本発明の酸化ガスに相当し、水素は本発明の燃料ガスに相当する。
【0021】
空気流路20の最上流部には、大気中から吸入した空気を燃料電池10に圧送するための空気ポンプ21が設けられ、空気流路20における空気ポンプ21と燃料電池10との間には、空気への加湿を行う加湿器22が設けられ、空気流路20における燃料電池10の下流側には、燃料電池10に供給される空気の圧力を調整するための空気調圧弁23が設けられている。
【0022】
水素流路30の最上流部には、水素が充填された水素ボンベ31が設けられ、水素流路30における水素ボンベ31と燃料電池10との間には、燃料電池10に供給される水素の圧力を調整するための水素調圧弁32と、水素への加湿を行う加湿器33が設けられている。
【0023】
水素流路30における燃料電池10の下流側は、水素調圧弁32の下流側に接続されて水素流路30が閉ループに構成されており、これにより水素流路30内で水素を循環させて、燃料電池10での未使用水素を燃料電池10に再供給するようにしている。そして、水素流路30における燃料電池10の下流側には、水素流路30内で水素を循環させるための水素ポンプ34が設けられている。
【0024】
制御部(ECU)40は、本発明の診断手段に相当し、CPU、ROM、RAM等からなる周知のマイクロコンピュータとその周辺回路にて構成されている。そして、制御部40には、セルモニタ12からのセル電圧信号や後述する電流センサからの信号が入力される。また、制御部40は、演算結果に基づいて、空気ポンプ21、加湿器22、33、空気調圧弁23、水素調圧弁32、水素ポンプ34に制御信号を出力する。
【0025】
図2は燃料電池10の単セルを示す模式的な斜視図であり、燃料電池10の単セルは、電解質膜の両側面に電極が配置されたMEA(Membrane Electrode Assembly:電解質・電極接合体)100と、このMEA100を挟持する空気側セパレータ110および水素側セパレータ120で構成されている。また、水素側セパレータ120に隣接して−極の集電板130が配置されている。因みに、空気側セパレータ110は+極の集電板を兼ねている。
【0026】
図3は図2の右側から見た空気側セパレータ110の透視図であり、空気側セパレータ110は、空気流路20に接続される空気入口部111および空気出口部112と、空気入口部111から空気出口部112に向かって空気を流すための空気流路溝113とを備えている。なお、空気側セパレータ110は本発明の第1セパレータに相当し、空気流路溝113は本発明の酸化ガス流路に相当し、空気入口部111は本発明の酸化ガスの入口部に相当し、空気出口部112は本発明の酸化ガスの出口部に相当する。
【0027】
図4は図2の右側から見た水素側セパレータ120の透視図であり、水素側セパレータ120は、水素流路30に接続される水素入口部121および水素出口部122と、水素入口部121から水素出口部122に向かって水素を流すための水素流路溝123とを備えている。なお、水素側セパレータ120は本発明の第2セパレータに相当し、水素流路溝123は本発明の燃料ガス流路に相当し、水素入口部121は本発明の燃料ガスの入口部に相当し、水素出口部122は本発明の燃料ガスの出口部に相当する。
【0028】
図5は図2における−極側の要部の拡大図、図6は図5のA−A線に沿う断面図である。図2、図5、図6に示すように、集電板130は、主集電板131と3つの副集電板132〜134に分割されている。この主集電板131および3つの副集電板132〜134は、絶縁材よりなる絶縁枠140内に、相互に絶縁された状態で装着されている。
【0029】
第1副集電板132は、空気側セパレータ110の空気流路溝113における空気出口部112よりも空気入口部111に近い位置、詳細には、空気入口部111近傍(図3に符号Bを付して示す部位)、より詳細には、空気入口部111と一部が重なる位置に、対向して配置されている。第1副集電板132と主集電板131との間は、導電性の第1集電線151により接続されている。第1集電線151には、この第1集電線151を流れる電流を検出する第1電流センサ161が装着されている。
【0030】
第2副集電板133は、水素側セパレータ120の水素流路溝123における水素出口部122よりも水素入口部121に近い位置、詳細には、水素入口部121近傍(図4に符号Cを付して示す部位)、より詳細には、水素入口部121と一部が重なる位置に、対向して配置されている。第2副集電板133と主集電板131との間は、導電性の第2集電線152により接続されている。第2集電線152には、この第2集電線152を流れる電流を検出する第2電流センサ162が装着されている。
【0031】
第3副集電板134は、水素側セパレータ120の水素流路溝123における水素入口部121よりも水素出口部122に近い位置、詳細には、水素出口部122近傍(図4に符号Dを付して示す部位)、より詳細には、水素出口部122と一部が重なる位置に、対向して配置されている。第3副集電板134と主集電板131との間は、導電性の第3集電線153により接続されている。第3集電線153には、この第3集電線153を流れる電流を検出する第3電流センサ163が装着されている。
【0032】
各電流センサ161〜163は、例えば磁気センサとしてのホール素子を用いることができる。この場合、ギャップを有する鉄心を集電線151〜153の周囲に配置し、そのギャップ内にホール素子を配置すればよい。集電線151〜153に電流が流れると、その電流に比例した磁界が集電線151〜153の周囲に発生する。ホール素子は、電流によって発生した磁界を検出し、電圧に変換する。なお、磁気センサとして、ホール素子の他にMR素子、MI素子、フラックスゲート等を用いることができる。さらにシャント抵抗を用いた電流センサ等を用いることもできる。
【0033】
また、第1副集電板132と第1集電線151と第1電流センサ161、第2副集電板133と第2集電線152と第2電流センサ162、第3副集電板134と第3集電線153と第3電流センサ163は、それぞれが、本発明の電流測定手段を構成している。
【0034】
上記構成の燃料電池システムの作動を説明する。
【0035】
まず、負荷11からの電力要求に応じて、燃料電池10への空気供給量および水素供給量を制御する。具体的には、空気ポンプ21の回転数を制御して空気供給量を制御し、水素ポンプ34の回転数を制御して水素供給量を制御する。この際、空気供給量は、予め電圧ばらつきを発生しない供給量に設定する。そして、空気および水素の供給により、燃料電池10では電気化学反応により発電が起こり、発電した電力は負荷11に供給される。
【0036】
負荷11を通った電流は−極の主集電板131に流れ込む。主集電板131に流れ込んだ電流は、そのままMEA100に流れ込む電流と、第1集電線151および第1副集電板132を介してMEA100に流れ込む電流と、第2集電線152および第2副集電板133を介してMEA100に流れ込む電流と、第3集電線153および第3副集電板134を介してMEA100に流れ込む電流とに分かれる。
【0037】
そして、第1集電線151を流れる電流は、MEA100における空気入口部111に近い部位を流れる局所電流(以下、空気入口側電流Ia・inという)に相当するため、第1電流センサ161によって、空気入口側電流Ia・inを検出することができる。
【0038】
また、第2集電線152を流れる電流は、MEA100における水素入口部121に近い部位を流れる局所電流(以下、水素入口側電流Ih・inという)に相当するため、第2電流センサ162によって、水素入口側電流Ih・inを検出することができる。
【0039】
さらに、第3集電線153を流れる電流は、MEA100における水素出口部122に近い部位を流れる局所電流(以下、水素出口側電流Ih・outという)に相当するため、第3電流センサ163によって、水素出口側電流Ih・outを検出することができる。
【0040】
ところで、燃料電池10に供給される空気への加湿量が低下すると、MEA100の電解質膜における、空気入口部111に近い部位が乾燥する。図7は、空気湿度ψaの低下に伴って電解質膜の乾燥が発生した際の乾燥発生部における電流Iの経時変化を示すもので、電解質膜における乾燥部位ではプロトン伝導抵抗が増加して電流が低下する。
【0041】
同様に、燃料電池10に供給される水素への加湿量が低下すると、MEA100の電解質膜における水素入口部121近傍が乾燥し、乾燥部位ではプロトン伝導抵抗が増加し電流が低下する。なお、水素への加湿量の低下に伴って電解質膜の乾燥が発生した際の乾燥発生部における電流の変化は、図7に示した空気湿度ψa低下の場合と同様となる。
【0042】
このことから、乾燥が発生しやすい空気入口部111近傍や水素入口部121近傍の電流I、すなわち、空気入口側電流Ia・inや水素入口側電流Ih・inを測定することにより、燃料電池10の電解質膜の乾燥状態を診断することが可能である。具体的には、空気入口側電流Ia・inや水素入口側電流Ih・inが所定電流値未満の場合は、電解質膜の乾燥部位ありと推定することができる。なお、所定電流値は、電解質膜の乾燥がないときの電流値の90%程度に設定する。
【0043】
逆に、空気や水素への加湿量が過剰になった場合、電極の水分過剰な濡れ状態が発生する。その際には、水素出口部122近傍に最も液滴が滞留して水分過剰となりやすく、したがってMEA100の電極における水素出口部122に近い部位で顕著に発生しやすい。水素出口部122近傍に水分過剰となりやすい理由としては、水素入口部121から水素流路溝123を介して水素出口部122に水が輸送されることに加え、水素が消費されるため水素流量が低下しており水の排出力が低下していることが挙げられる。図8は、水素出口部122の水滴量Vwの増加に伴って電極が水分過剰状態となった際の、水分過剰部の局所電流Iの変化を示すもので、水滴量Vwの増加に伴ってガスの透過が阻害されて電池の出力が低下する。
【0044】
また、水素供給量が発電量に対して不足する場合も、水素出口部122近傍から水素不足が発生するため、MEA100における水素出口部122に近い部位の電流が低下する。図9は、水素供給量Qhが不足した際の、MEA100における水素出口部122に近い部位の電流Iの変化を示すもので、水素不足が発生すると、直ちに且つ急激に電流Iが低下する。
【0045】
このことから、MEA100における水素出口部122に近い部位の電流I、すなわち水素出口側電流Ih・outが、所定電流値未満の場合は、水分過剰発生または水素不足発生と推定することができる。なお、所定電流値は、水分過剰状態および水素不足状態の電流値の90%程度に設定する。
【0046】
ここで、水分過剰発生時および水素不足発生時は、いずれもMEA100における水素出口部122に近い部位の電流Iが低下するため、電流Iの低下要因がいずれであるかを特定する必要がある。
【0047】
図10は、水分過剰発生時の、MEA100における水素出口部122に近い部位の電流Iの変化と、水素不足発生時の、MEA100における水素出口部122に近い部位の電流Iの変化を示すものである。また、図11は、水分過剰発生時および水素不足発生時の、MEA100における水素出口部122に近い部位の電流Iの低下速度(以下、電流低下速度という)を示すものである。なお、本明細書でいう電流低下速度とは、単位時間あたりの電流変化量の絶対値である。図10、図11において、実線は水分過剰発生時の特性、破線は水素不足発生時の特性であり、t1は水分過剰や水素不足が発生した時刻である。
【0048】
図10、図11に示すように、水分過剰発生時と比較すると、水素不足発生時の電流Iは急激に低下する。このことから、電流低下が発生する際の電流低下速度によって電流Iの低下要因を特定することが可能である。具体的には、水素出口側電流Ih・outが所定電流値未満で、且つ電流低下速度が所定低下速度dI1(図11参照)未満の場合は水分過剰発生と推定し、水素出口側電流Ih・outが所定電流値未満で、且つ電流低下速度が所定低下速度dI1以上の場合は水素不足発生と推定することができる。なお、所定低下速度dI1は、1.0(mA/SEC/cm2)程度に設定する。
【0049】
次に、燃料電池10の出力低下要因の診断について、図12に基づいて説明する。図12は制御部40(図1参照)にて実行される制御処理のうち、燃料電池10の出力低下要因の診断にかかわる部分の流れ図である。
【0050】
まず、図示しない電流センサによって燃料電池10から負荷11に流れている総電流を測定するとともに(ステップ101)、第1電流センサ161によって空気入口側電流Ia・inを測定する(ステップ102)。次に、空気入口側電流Ia・inが第1所定電流値未満である否かを判定する(ステップ103)。この「第1所定電流値」は、空気入口部111近傍における燃料電池10の乾燥状態を診断するために予め設定された値である。図13に示すように、第1所定電流値は燃料電池10の総電流と関連づけてマップ化されており、ステップ100で測定した総電流に基づいて求めることができる。
【0051】
空気入口側電流Ia・inが第1所定電流値未満であれば(ステップ103がYES)、電解質膜の乾燥部位ありと診断する(ステップ104)。空気入口側電流Ia・inが第1所定電流値以上であれば(ステップ103がNO)、電解質膜の乾燥部位なしと診断する(ステップ105)。因みに、ステップ104にて電解質膜の乾燥部位ありと診断された場合には、燃料電池10に供給される空気の湿度ψaが低いと推測されるため、加湿器22による空気への加湿量を増加する。
【0052】
次に、第2電流センサ162によって水素入口側電流Ih・inを測定する(ステップ106)。次に、水素入口側電流Ih・inが第2所定電流値未満であるか否かを判定する(ステップ107)。この「第2所定電流値」は、水素入口部121近傍における燃料電池10の乾燥状態を診断するために予め設定された値である。第2所定電流値は、第1所定電流値と同様、燃料電池10の総電流と関連づけてマップ化されており、ステップ100で測定した総電流に基づいて求めることができる。
【0053】
水素入口側電流Ih・inが第2所定電流値未満であれば(ステップ107がYES)、電解質膜の乾燥部位ありと診断する(ステップ108)。水素入口側電流Ih・inが第2所定電流値以上であれば(ステップ107がNO)、電解質膜の乾燥部位なしと診断する(ステップ109)。因みに、ステップ108にて電解質膜の乾燥部位ありと診断された場合には、燃料電池10に供給される水素への加湿量が少ないと推測されるため、加湿器33による水素への加湿量を増加する。
【0054】
次に、第3電流センサ163によって水素出口側電流Ih・outを測定する(ステップ110)。次に、水素出口側電流Ih・outが第3所定電流値未満であるか否かを判定する(ステップ111)。この「第3所定電流値」は、水素出口部122近傍における燃料電池10の水分過剰状態を診断するために予め設定された値である。第3所定電流値は、第1所定電流値と同様、燃料電池10の総電流と関連づけてマップ化されており、ステップ100で測定した総電流に基づいて求めることができる。
【0055】
水素出口側電流Ih・outが第3所定電流値以上であれば(ステップ111がNO)、水分過剰なしまたは水素不足なしと診断する(ステップ112)。水素出口側電流Ih・outが第3所定電流値未満で(ステップ111がYES)、且つ水素出口側電流Ih・outの電流低下速度が所定低下速度未満の場合は(ステップ113がYES)、水分過剰状態であると診断する(ステップ114)。因みに、ステップ114にて水分過剰状態であると診断された場合には、空気や水素への加湿量が過剰、あるいは、水素流量低下による水の排出力低下と推測されるため、加湿器22による空気への加湿量および加湿器33による水素への加湿量をともに減少させるとともに、水素流量を増加させる。
【0056】
また、水素出口側電流Ih・outが第3所定電流値未満で(ステップ111がYES)、且つ水素出口側電流Ih・outの電流低下速度が所定低下速度以上の場合は(ステップ113がNO)、水素供給量が不足と診断する(ステップ115)。因みに、ステップ115にて水素供給量が不足と診断された場合には水素流量を増加させる。
【0057】
上記した本実施形態によれば、空気入口側電流Ia・inおよび水素入口側電流Ih・inに基づいて電解質膜の乾燥状態を診断し、水素出口側電流Ih・outと水素出口側電流Ih・outの電流低下速度とに基づいて水分過剰や水素不足を診断するため、燃料電池10の出力低下要因を適確に診断することができる。また、燃料電池10の出力低下要因を特定することができ、したがって出力低下要因に応じた適確な制御を行うことができる。
【0058】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本第2実施形態は、上記第1実施形態に比較して、電流測定手段の構成が異なるものである。
【0059】
図14は本第2実施形態の燃料電池システムの構成を示す概念図であり、図15は本実施形態の燃料電池の斜視図であり、図16は燃料電池セルの斜視図である。
【0060】
図16に示すように、本第2実施形態では、第1集電板140に集電部材171〜174が設けられている。集電部材171〜174は、棒状の導電性部材からなり、第1集電板140の板面から突出するように設けられている。主集電板131には第1集電部材171が設けられ、第1副集電板132には第2集電部材172が設けられ、第2副集電板133には第3集電部材173が設けられ、第3副集電板134には第4集電部材174が設けられている。第2集電板170には、第1集電板140の各集電部材171〜174に対応する部位に貫通孔170a〜170dが形成されている。
【0061】
図14に示すように、燃料電池10で発電した電流は各集電部材171〜174を介して電気負荷11に流れる。図14、図15に示すように、各副集電板132、133、134に設けられた集電部材172、173、174を流れる電流値を測定する電流センサ164、165、166が燃料電池10の外部に設けられている。各電流センサ164〜166としては、上記第1実施形態と同様、ホール素子その他の電流センサを用いることができる。
【0062】
第1集電部材172を流れる電流は、MEA100における空気入口側電流Ia・inに相当するため、第1の電流センサ164によって、空気入口側電流Ia・inを検出することができる。また、第2の集電部材173を流れる電流は、水素入口側電流Ih・inに相当するため、第2電流センサ165によって、水素入口側電流Ih・inを検出することができる。さらに、第3集電部材174を流れる電流は、水素出口側電流Ih・outに相当するため、第3電流センサ166によって、水素出口側電流Ih・outを検出することができる。
【0063】
また、第1副集電板132と第1集電部材172と第1電流センサ164、第2副集電板133と第2集電部材173と第2電流センサ165、第3副集電板134と第3集電部材174と第3電流センサ166は、それぞれが、本発明の電流測定手段を構成している。
【0064】
上記構成の電流測定手段を用いる構成によっても、上記第1実施形態と同様、燃料電池10の出力低下要因を適確に診断可能にすることが可能となる。
【0065】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本第3実施形態は、上記各実施形態に比較して、燃料電池内部が乾燥状態の場合の水分量制御の内容が異なるものである。
【0066】
図17は、燃料電池10の乾燥しやすい部位Bである空気入口部111近傍において水分状態が変動した場合の発電電流Iの変化を示している。図17に示す例では、燃料電池10の電流Iが所定の基準電流I1以上となった場合に、燃料電池10内部が湿潤状態であるとし、燃料電池10の電流Iが基準電流I1を下回った場合に、燃料電池10内部が乾燥状態であるとしている。燃料電池10内部が乾燥状態の場合には、燃料電池10内部の水分量が少ないほど、燃料電池10の発電電流Iが小さくなる。
【0067】
図18は、燃料電池10の乾燥しやすい部位Bである空気入口部111近傍において水分状態が変動した場合の発電電流Iと基準電流I1との差である差分電流ΔI(=I−I1)の変化を示している。図18に示すように、燃料電池10内部が湿潤状態の場合は差分電流ΔIがゼロ以上となり、燃料電池10内部が乾燥状態の場合は差分電流ΔIがゼロを下回る。また、上述のように、燃料電池10内部の水分量に応じて燃料電池10の発電電流Iが変化するので、差分電流ΔIの大きさに基づいて燃料電池10内部の水分状態の程度を推測することができる。すなわち、差分電流ΔIがマイナスである場合には、差分電流ΔIの絶対値が大きいほど燃料電池10内部の水分不足量が大きくなっており、より乾燥していると判断できる。
【0068】
次に、本実施形態の燃料電池システムの水分量制御を図19のフローチャートに基づいて説明する。
【0069】
まず、電流センサにより乾燥部位Bの局所電流Iを測定し(ステップ200)、基準電流I1との差である差分電流ΔIを演算する(ステップ201)。次に、差分電流ΔIがゼロ未満であるか否かを判定する(ステップ202)。この結果、差分電流ΔIがゼロ以上と判定された場合には、燃料電池10内部が湿潤状態であると推定できるので、加湿器22による空気への加湿量をゼロにする(ステップ203)。一方、差分電流ΔIがゼロ未満であると判定された場合には、燃料電池10内部が乾燥状態であると推定できるので、加湿器22による燃料電池10への加湿水量をK1×|ΔI|に制御する(ステップ204)。K1は加湿水量を算出するための係数である。
【0070】
以上のように、燃料電池10の局所電流Iと基準電流I1との差である差分電流ΔIの大きさに基づいて燃料電池10内部の乾燥状態を推測して加湿水量を制御することで、燃料電池10内部をより適切な水分状態にすることができる。
【0071】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。本第4実施形態は、上記各実施形態に比較して、燃料電池内部が水分過剰状態の場合の水分量制御の内容が異なるものである。
【0072】
図20は、燃料電池10の水分過剰となりやすい部位Dである水素出口部122近傍において水分状態が変動した場合の発電電流Iの変化を示している。図20に示す例では、燃料電池10の電流Iが所定の基準電流I2以上となった場合に、燃料電池10内部が水分適正状態であるとし、燃料電池10の電流Iが基準電流I2を下回った場合に、燃料電池10内部が水分過剰状態であるとしている。燃料電池10内部が水分過剰状態である場合には、燃料電池10内部の水分量が多いほど、燃料電池10の発電電流Iが小さくなる。
【0073】
図21は、燃料電池10の水分過剰となりやすい部位Dである水素出口部122近傍において水分状態が変動した場合の発電電流Iと基準電流I2との差である差分電流ΔI(=I−I2)の変化を示している。図21に示すように、燃料電池10内部の水分量が適正状態の場合は差分電流I2がゼロ以上となり、燃料電池10内部が水分過剰状態の場合は差分電流ΔIがゼロを下回る。また、上述のように、燃料電池10内部の水分量に応じて燃料電池10の発電電流Iが変化するので、差分電流ΔIの大きさに基づいて燃料電池10内部の水分状態の程度を推測することができる。すなわち、差分電流ΔIがマイナスである場合には、差分電流ΔIの絶対値が大きいほど燃料電池10内部の水分過剰量がより大きくなっていると判断できる。
【0074】
次に、本実施形態の燃料電池システムの水分量制御を図22のフローチャートに基づいて説明する。
【0075】
まず、電流センサにより水分過剰部位Dの局所電流Iを測定し(ステップ300)、基準電流I2との差である差分電流ΔIを演算する(ステップ301)。次に、差分電流ΔIがゼロ未満であるか否かを判定する(ステップ302)。この結果、差分電流ΔIがゼロ以上と判定された場合には、燃料電池10内部が水分適正状態であると推定できるので、水素流量の増加率をゼロにする(ステップ303)。一方、差分電流ΔIがゼロ未満であると判定された場合には、燃料電池10内部が水分過剰状態であると推定できるので、水素流量の増加率をK2×|ΔI|に制御する(ステップ304)。K2は水素流量増加率を算出するための係数である。
【0076】
そして、燃料電池10への水素供給流量を水素必要流量×(1+流量増加率)に制御する(ステップ305)。水素必要流量は、要求電力を発電するために必要とされる水素流量である。このように水素を過剰に供給することで、水素のガス流で水分過剰部位Dにおける水分を押し出すことができる。
【0077】
以上のように、燃料電池10の局所電流Iと基準電流I2との差である差分電流ΔIの大きさに基づいて燃料電池10内部の水分過剰状態を推測して水素供給量を制御することで、燃料電池10内部をより適切な水分状態にすることができる。
【0078】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について説明する。本第5実施形態は、上記各実施形態に比較して、燃料電池内部の抵抗値に基づいて燃料電池の水分状態を診断する点が異なるものである。
【0079】
図23は、燃料電池10の内部抵抗と内部水分量との関係を示している。図23に示すように、燃料電池10の内部水分量が増加するとある段階まで内部抵抗は減少し、内部水分量が減少すると内部抵抗が増加するという関係がある。
【0080】
したがって、電流センサ161、162、164、165で測定した燃料電池10の乾燥しやすい部位B、Cの局所電流と、セルモニタ12で測定した燃料電池10のセル電圧とに基づいて、燃料電池10の乾燥しやすい部位における局所内部抵抗R(=セル電圧/局所電流)を算出し、この局所内部抵抗Rに基づいて燃料電池10内部の乾燥状態を診断することができる。具体的には、局所内部抵抗Rが予め設定した基準内部抵抗R1より小さい場合には、燃料電池10内部は乾燥状態であると診断する。燃料電池10内部が乾燥状態であると診断された場合には、燃料電池10に供給される水素への加湿量が少ないと推測されるため、加湿器33による水素への加湿量を増加する。
【0081】
同様に、電流センサ163、166で測定した燃料電池10の水分過剰になりやすい部位Dの局所電流と、セルモニタ12で測定した燃料電池10の電圧とに基づいて、燃料電池10の水分過剰になりやすい部位における局所内部抵抗Rを算出し、この局所内部抵抗Rに基づいて燃料電池10内部の水分過剰状態を診断することができる。具体的には、局所抵抗値Rが予め設定した基準内部抵抗より大きい場合には、燃料電池10内部は水分過剰状態であると診断する。水分過剰状態であると診断された場合には、空気や水素への加湿量が過剰、あるいは、水素流量低下による水の排出力低下と推測されるため、加湿器22による空気への加湿量および加湿器33による水素への加湿量をともに減少させるとともに、水素流量を増加させる。
【0082】
以上の構成によっても、燃料電池10の出力低下要因を適確に診断することができる。また、燃料電池10の出力低下要因を特定することができ、したがって出力低下要因に応じた適確な制御を行うことができる。
【0083】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態について説明する。本第6実施形態は、上記各実施形態に比較して、燃料電池内部の抵抗値に基づいて燃料電池の乾燥状態の程度を診断し、水分量制御をする点が異なるものである。
【0084】
図24は、燃料電池10の乾燥しやすい部位Bである空気入口部111近傍において水分状態が変動した場合の局所抵抗値Rの変化を示している。図24に示す例では、燃料電池10の局所内部抵抗Rが所定の基準内部抵抗R1を上回った場合に、燃料電池10内部が乾燥状態であるとし、燃料電池10の局所内部抵抗Rが基準内部抵抗R1以下となった場合に、燃料電池10内部が湿潤状態であるとしている。燃料電池10内部が乾燥状態の場合には、燃料電池10内部の水分量が少ないほど、燃料電池10の局所内部抵抗Rが大きくなる。
【0085】
図25は、燃料電池10の乾燥しやすい部位Bである空気入口部111近傍において水分状態が変動した場合の局所内部抵抗Rと基準内部抵抗R1との差である差分抵抗ΔR(=R−R1)の変化を示している。図18に示すように、燃料電池10内部が湿潤状態の場合は差分抵抗ΔRがゼロ以下となり、燃料電池10内部が乾燥状態の場合は差分抵抗ΔRがゼロを上回る。また、上述のように、燃料電池10内部の水分量に応じて燃料電池10の局所内部抵抗Rが変化するので、差分抵抗ΔRの大きさに基づいて燃料電池10内部の水分状態の程度を推測することができる。すなわち、差分抵抗ΔRがプラスである場合には、差分抵抗ΔRの絶対値が大きいほど燃料電池10内部の水分不足量が大きくなっており、より乾燥していると判断できる。
【0086】
次に、本実施形態の燃料電池システムの水分量制御を図26のフローチャートに基づいて説明する。
【0087】
まず、電流センサにより乾燥部位Bの局所電流を測定し(ステップ400)、セルモニタ12によりセル電圧を測定し(ステップ401)、セル電圧を局所電流で除して局所内部抵抗Rを算出する(ステップ402)。次に、局所抵抗Rと基準内部抵抗R1との差である差分抵抗ΔRを演算する(ステップ403)。
【0088】
次に、差分抵抗ΔRがゼロを上回っているか否かを判定する(ステップ404)。この結果、差分抵抗ΔRがゼロ以下と判定された場合には、燃料電池10内部が湿潤状態であると推定できるので、加湿器22による空気への加湿量をゼロにする(ステップ405)。一方、差分電流ΔIがゼロを上回っていると判定された場合には、燃料電池10内部が乾燥状態であると推定できるので、加湿器22による燃料電池10への加湿水量をK3×|ΔR|に制御する(ステップ406)。K3は加湿水量を算出するための係数である。
【0089】
以上のように、燃料電池10の局所抵抗Iと基準内部抵抗R1との差である差分抵抗ΔRの大きさに基づいて燃料電池10内部の乾燥状態を推測して加湿水量を制御することで、燃料電池10内部をより適切な水分状態にすることができる。
【0090】
(第7実施形態)
次に、本発明の第7実施形態について説明する。本第7実施形態は、上記各実施形態に比較して、燃料電池内部の抵抗値に基づいて燃料電池の水分過剰状態の程度を診断し、水分量制御をする点が異なるものである。
【0091】
図27は、燃料電池10の水分過剰となりやすい部位Dである水素出口部122近傍において水分状態が変動した場合の局所内部抵抗Rの変化を示している。図27に示す例では、燃料電池10の局所内部抵抗Rが所定の基準内部抵抗R2以下となった場合に、燃料電池10内部が水分適正状態であるとし、燃料電池10の局所内部抵抗Rが所定の基準内部抵抗R2を上回った場合に、燃料電池10内部が水分過剰状態であるとしている。燃料電池10内部が水分過剰状態である場合には、燃料電池10内部の水分量が多いほど、燃料電池10の局所内部抵抗Rが大きくなる。
【0092】
図28は、燃料電池10の水分過剰となりやすい部位Dである水素出口部122近傍において水分状態が変動した場合の局所内部抵抗Rと基準内部抵抗R2との差である差分抵抗ΔR(=R−R2)の変化を示している。図28に示すように、燃料電池10内部の水分量が適正状態の場合は差分抵抗R2がゼロ以下となり、燃料電池10内部が水分過剰状態の場合は差分抵抗R2がゼロを上回る。また、上述のように、燃料電池10内部の水分量に応じて燃料電池10の局所内部抵抗Rが変化するので、差分抵抗ΔRの大きさに基づいて燃料電池10内部の水分状態の程度を推測することができる。すなわち、差分抵抗ΔRがプラスである場合には、差分抵抗ΔRの絶対値が大きいほど燃料電池10内部の水分過剰量がより大きくなっていると判断できる。
【0093】
次に、本実施形態の燃料電池システムの水分量制御を図29のフローチャートに基づいて説明する。
【0094】
まず、電流センサにより水分過剰部位Dの局所電流Iを測定し(ステップ500)、セルモニタ12によりセル電圧を測定し(ステップ501)、セル電圧を局所電流で除して局所内部抵抗Rを算出する(ステップ502)。次に、局所抵抗Rと基準内部抵抗R2との差である差分抵抗ΔRを演算する(ステップ503)。
【0095】
次に、差分抵抗ΔRがゼロを上回っている否かを判定する(ステップ504)。この結果、差分抵抗ΔRがゼロ以下と判定された場合には、燃料電池10内部が水分適正状態であると推定できるので、水素流量の増加率をゼロにする(ステップ505)。一方、差分抵抗ΔRがゼロを上回っている判定された場合には、燃料電池10内部が水分過剰状態であると推定できるので、水素流量の増加率をK4×|ΔI|に制御する(ステップ506)。K4は水素流量増加率を算出するための係数である。
【0096】
そして、燃料電池10への水素供給流量を水素必要流量×(1+流量増加率)に制御する(ステップ507)。水素必要流量は、要求電力を発電するために必要とされる水素流量である。このように水素を過剰に供給することで、水素のガス流で水分過剰部位Dにおける水分を押し出すことができる。
【0097】
以上のように、燃料電池10の局所内部抵抗Rと基準内部抵抗R2との差である差分抵抗ΔRの大きさに基づいて燃料電池10内部の水分過剰状態を推測して水素供給量を制御することで、燃料電池10内部をより適切な水分状態にすることができる。
【0098】
(他の実施形態)
なお、上記各実施形態では、燃料電池として固体高分子型電解質膜を備えるものを用いたが、これに限らず、本発明は例えば無機材料系の電解質を備える燃料電池にも適用可能である。
【符号の説明】
【0099】
10…燃料電池、12…セルモニタ、40…制御部(診断手段)、161〜166…電流測定手段の主要部をなす電流センサ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と酸素との電気化学反応により電気エネルギを発生させる燃料電池を備える燃料電池システムに関するもので、車両、船舶及びポータブル発電機等の移動体用発電機、或いは家庭用発電機に適用して有効である。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池システムでは、水分が不足すると電解質膜が乾燥して電池の出力が低下し、一方、水分が過剰になると電極が水に覆われてガスの透過が阻害され、電池の出力が低下する。したがって、電解質膜の保水状態や電極の濡れ状態を的確に診断して、保水状態や濡れ状態を適正に制御する必要がある。また、反応ガスの供給量が不足した場合も電池の出力が低下するため、反応ガス不足を適確に診断して、反応ガス供給量を適正に制御する必要がある。
【0003】
ところで、燃料電池の運転状態を診断するには、セル電圧の低下から異常状態を診断する方法が考えられる。また、燃料電池内の電流分布から反応ガスの過不足を診断し、反応ガス流量もしくは負荷電流を制御して燃料電池の破壊を防止するようにしたものも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−259913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、セル電圧の低下から異常状態を診断する方法の場合、電解質膜の乾燥、過剰な水による反応阻害、および反応ガスの供給不足のいずれによってもセル電圧が低下するため、燃料電池の出力低下要因を特定することができず、したがって出力低下要因に応じた適確な制御が行えないといった問題が発生する。
【0006】
一方、特許文献1に記載のシステムでは、反応ガスの過不足のみを診断しているため、出力低下要因を適確に診断することは不可能である。そのため、反応ガス流量以外の水過剰状態や電解質膜の乾燥状態を区別することができず、したがって出力低下要因に応じた適確な制御が行えないといった問題が発生する。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、燃料電池の出力低下要因を適確に診断可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、酸化剤ガスと燃料ガスとの電気化学反応により電気エネルギを発生させる燃料電池(10)と、燃料電池(10)内において燃料ガスが不足しやすい部位(D)を流れる電流を測定する電流測定手段(134、153、163、166、174)と、電流測定手段にて測定した電流値に基づいて燃料電池の燃料ガスの不足状態を診断する診断手段(40)を備えることを特徴とする。これによると、燃料電池への水素の供給量が不足した際には、それを適確に診断することができる。
【0009】
具体的には、請求項2に記載の発明のように、診断手段(40)は、電流測定手段にて測定した電流が所定電流値未満で、且つ電流測定手段にて測定した電流の低下速度が所定低下速度以上であるときは、燃料電池への燃料ガスの供給量が不足していると診断することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、酸化剤ガスと燃料ガスとの電気化学反応により電気エネルギを発生させる燃料電池(10)と、燃料電池(10)内において水分過剰になりやすく且つ燃料ガスが不足しやすい部位(D)を流れる電流を測定する電流測定手段(134、153、163)と、電流測定手段で測定した電流の低下速度に基づいて、燃料電池の水分過剰と燃料電池の燃料ガス不足とを区別して診断する診断手段(40)とを備えることを特徴とする。
【0011】
これによると、燃料電池が水分過剰となった際には、それを適確に診断することができるとともに、燃料電池への水素の供給量が不足した際には、それを適確に診断することができる。また、電流の低下速度によって燃料電池の出力低下要因が水分過剰であるか水素供給不足であるかを特定することができ、したがって出力低下要因に応じた適確な制御を行うことができる。
【0012】
具体的には、請求項4に記載の発明では、診断手段は、電流測定手段にて測定した電流が所定電流値未満で、且つ電流測定手段にて測定した電流の低下速度が所定低下速度未満であるときは、燃料電池の水分が過剰になっていると診断し、電流測定手段にて測定した電流が所定電流値未満で、且つ電流測定手段にて測定した電流の低下速度が所定低下速度以上であるときは、燃料電池への燃料ガスの供給量が不足していると診断することができる。
【0013】
因みに、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の発明の実施に際しては、請求項5に記載の発明のように、燃料電池(10)は、電解質膜の両側に一対の電極が配置された電解質・電極接合体(100)と、電解質・電極接合体の外側に配置されるとともに酸化ガスの流路となる酸化ガス流路(113)が形成された第1セパレータ(110)と、電解質・電極接合体の外側に配置されるとともに燃料ガスの流路となる燃料ガス流路(123)が形成された第2セパレータ(120)とを備え、電流測定手段(134、153、163、166、174)は、燃料ガス流路における燃料ガスの入口部(121)よりも燃料ガスの出口部(122)に近い位置で電流を測定するようにしてもよい。
【0014】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムの全体構成を示す模式図である。
【図2】図1の燃料電池10の単セルを示す模式的な斜視図である。
【図3】図2の右側から見た空気側セパレータ110の透視図である。
【図4】図2の右側から見た水素側セパレータ120の透視図である。
【図5】図2における−極側の要部の拡大図である。
【図6】図5のA−A線に沿う断面図である。
【図7】電解質膜の乾燥が発生した際の電流Iの変化を示す特性図である。
【図8】水素出口部の水滴量増加による水分過剰が発生した際の電流Iの変化を示す特性図である。
【図9】水素供給量が不足した際の電流Iの変化を示す特性図である。
【図10】水分過剰発生時および水素不足発生時の電流Iの変化を示す特性図である。
【図11】水分過剰発生時および水素不足発生時の電流Iの低下速度を示す特性図である。
【図12】図1の制御部40にて実行される制御処理を示す流れ図である。
【図13】乾燥判定時における総電流値と所定電流値との関係を示す特性図である。
【図14】本発明の第2実施形態に係る燃料電池システムの全体構成を示す模式図である。
【図15】図14の燃料電池10を示す模式的な斜視図である。
【図16】図14の燃料電池10の単セルを示す模式的な斜視図である。
【図17】第3実施形態の水分状態が変動した場合の燃料電池の発電電流Iの変化を示す特性図である。
【図18】水分状態が変動した場合の差分電圧ΔIの変化を示す特性図である。
【図19】第3実施形態の水分量制御の内容を示すフローチャートである。
【図20】第4実施形態の水分状態が変動した場合の燃料電池の発電電流Iの変化を示す特性図である。
【図21】水分状態が変動した場合の差分電圧ΔIの変化を示す特性図である。
【図22】第4実施形態の水分量制御の内容を示すフローチャートである。
【図23】第5実施形態の燃料電池の局所内部抵抗と内部水分量との関係を示す特性図である。
【図24】第6実施形態の水分状態が変動した場合の燃料電池の局所内部抵抗Iの変化を示す特性図である。
【図25】水分状態が変動した場合の差分抵抗ΔIの変化を示す特性図である。
【図26】第6実施形態の水分量制御の内容を示すフローチャートである。
【図27】第7実施形態の水分状態が変動した場合の燃料電池の局所内部抵抗Iの変化を示す特性図である。
【図28】水分状態が変動した場合の差分抵抗ΔIの変化を示す特性図である。
【図29】第7実施形態の水分量制御の内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
図1は第1実施形態に係る燃料電池システムを示す模式図で、この燃料電池システムは例えば電気自動車に適用される。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の燃料電池システムは、水素と酸素との電気化学反応を利用して電力を発生する燃料電池10を備えている。この燃料電池10は、電気負荷11や2次電池(図示せず)等の電気機器に電力を供給するものである。因みに、電気自動車の場合、車両走行駆動源としての電動モータが電気負荷11に相当する。
【0018】
本実施形態では燃料電池10として固体高分子電解質型燃料電池を用いており、基本単位となる燃料電池セルが複数個積層され、且つ電気的に直列接続されている。燃料電池10では、以下の水素と酸素の電気化学反応が起こり電気エネルギが発生する。
【0019】
(負極側)H2→2H++2e-
(正極側)2H++1/2O2+2e-→H2O
そして、各セル毎の出力電圧を検出するセルモニタ12が設けられ、セルモニタ12で検出したセル電圧信号が後述する制御部40に入力されるようになっている。
【0020】
燃料電池システムには、燃料電池10の空気極(正極)側に空気(酸素)を供給するための空気流路20と、燃料電池10の水素極(負極)側に水素を供給するための水素流路30が設けられている。なお、空気は本発明の酸化ガスに相当し、水素は本発明の燃料ガスに相当する。
【0021】
空気流路20の最上流部には、大気中から吸入した空気を燃料電池10に圧送するための空気ポンプ21が設けられ、空気流路20における空気ポンプ21と燃料電池10との間には、空気への加湿を行う加湿器22が設けられ、空気流路20における燃料電池10の下流側には、燃料電池10に供給される空気の圧力を調整するための空気調圧弁23が設けられている。
【0022】
水素流路30の最上流部には、水素が充填された水素ボンベ31が設けられ、水素流路30における水素ボンベ31と燃料電池10との間には、燃料電池10に供給される水素の圧力を調整するための水素調圧弁32と、水素への加湿を行う加湿器33が設けられている。
【0023】
水素流路30における燃料電池10の下流側は、水素調圧弁32の下流側に接続されて水素流路30が閉ループに構成されており、これにより水素流路30内で水素を循環させて、燃料電池10での未使用水素を燃料電池10に再供給するようにしている。そして、水素流路30における燃料電池10の下流側には、水素流路30内で水素を循環させるための水素ポンプ34が設けられている。
【0024】
制御部(ECU)40は、本発明の診断手段に相当し、CPU、ROM、RAM等からなる周知のマイクロコンピュータとその周辺回路にて構成されている。そして、制御部40には、セルモニタ12からのセル電圧信号や後述する電流センサからの信号が入力される。また、制御部40は、演算結果に基づいて、空気ポンプ21、加湿器22、33、空気調圧弁23、水素調圧弁32、水素ポンプ34に制御信号を出力する。
【0025】
図2は燃料電池10の単セルを示す模式的な斜視図であり、燃料電池10の単セルは、電解質膜の両側面に電極が配置されたMEA(Membrane Electrode Assembly:電解質・電極接合体)100と、このMEA100を挟持する空気側セパレータ110および水素側セパレータ120で構成されている。また、水素側セパレータ120に隣接して−極の集電板130が配置されている。因みに、空気側セパレータ110は+極の集電板を兼ねている。
【0026】
図3は図2の右側から見た空気側セパレータ110の透視図であり、空気側セパレータ110は、空気流路20に接続される空気入口部111および空気出口部112と、空気入口部111から空気出口部112に向かって空気を流すための空気流路溝113とを備えている。なお、空気側セパレータ110は本発明の第1セパレータに相当し、空気流路溝113は本発明の酸化ガス流路に相当し、空気入口部111は本発明の酸化ガスの入口部に相当し、空気出口部112は本発明の酸化ガスの出口部に相当する。
【0027】
図4は図2の右側から見た水素側セパレータ120の透視図であり、水素側セパレータ120は、水素流路30に接続される水素入口部121および水素出口部122と、水素入口部121から水素出口部122に向かって水素を流すための水素流路溝123とを備えている。なお、水素側セパレータ120は本発明の第2セパレータに相当し、水素流路溝123は本発明の燃料ガス流路に相当し、水素入口部121は本発明の燃料ガスの入口部に相当し、水素出口部122は本発明の燃料ガスの出口部に相当する。
【0028】
図5は図2における−極側の要部の拡大図、図6は図5のA−A線に沿う断面図である。図2、図5、図6に示すように、集電板130は、主集電板131と3つの副集電板132〜134に分割されている。この主集電板131および3つの副集電板132〜134は、絶縁材よりなる絶縁枠140内に、相互に絶縁された状態で装着されている。
【0029】
第1副集電板132は、空気側セパレータ110の空気流路溝113における空気出口部112よりも空気入口部111に近い位置、詳細には、空気入口部111近傍(図3に符号Bを付して示す部位)、より詳細には、空気入口部111と一部が重なる位置に、対向して配置されている。第1副集電板132と主集電板131との間は、導電性の第1集電線151により接続されている。第1集電線151には、この第1集電線151を流れる電流を検出する第1電流センサ161が装着されている。
【0030】
第2副集電板133は、水素側セパレータ120の水素流路溝123における水素出口部122よりも水素入口部121に近い位置、詳細には、水素入口部121近傍(図4に符号Cを付して示す部位)、より詳細には、水素入口部121と一部が重なる位置に、対向して配置されている。第2副集電板133と主集電板131との間は、導電性の第2集電線152により接続されている。第2集電線152には、この第2集電線152を流れる電流を検出する第2電流センサ162が装着されている。
【0031】
第3副集電板134は、水素側セパレータ120の水素流路溝123における水素入口部121よりも水素出口部122に近い位置、詳細には、水素出口部122近傍(図4に符号Dを付して示す部位)、より詳細には、水素出口部122と一部が重なる位置に、対向して配置されている。第3副集電板134と主集電板131との間は、導電性の第3集電線153により接続されている。第3集電線153には、この第3集電線153を流れる電流を検出する第3電流センサ163が装着されている。
【0032】
各電流センサ161〜163は、例えば磁気センサとしてのホール素子を用いることができる。この場合、ギャップを有する鉄心を集電線151〜153の周囲に配置し、そのギャップ内にホール素子を配置すればよい。集電線151〜153に電流が流れると、その電流に比例した磁界が集電線151〜153の周囲に発生する。ホール素子は、電流によって発生した磁界を検出し、電圧に変換する。なお、磁気センサとして、ホール素子の他にMR素子、MI素子、フラックスゲート等を用いることができる。さらにシャント抵抗を用いた電流センサ等を用いることもできる。
【0033】
また、第1副集電板132と第1集電線151と第1電流センサ161、第2副集電板133と第2集電線152と第2電流センサ162、第3副集電板134と第3集電線153と第3電流センサ163は、それぞれが、本発明の電流測定手段を構成している。
【0034】
上記構成の燃料電池システムの作動を説明する。
【0035】
まず、負荷11からの電力要求に応じて、燃料電池10への空気供給量および水素供給量を制御する。具体的には、空気ポンプ21の回転数を制御して空気供給量を制御し、水素ポンプ34の回転数を制御して水素供給量を制御する。この際、空気供給量は、予め電圧ばらつきを発生しない供給量に設定する。そして、空気および水素の供給により、燃料電池10では電気化学反応により発電が起こり、発電した電力は負荷11に供給される。
【0036】
負荷11を通った電流は−極の主集電板131に流れ込む。主集電板131に流れ込んだ電流は、そのままMEA100に流れ込む電流と、第1集電線151および第1副集電板132を介してMEA100に流れ込む電流と、第2集電線152および第2副集電板133を介してMEA100に流れ込む電流と、第3集電線153および第3副集電板134を介してMEA100に流れ込む電流とに分かれる。
【0037】
そして、第1集電線151を流れる電流は、MEA100における空気入口部111に近い部位を流れる局所電流(以下、空気入口側電流Ia・inという)に相当するため、第1電流センサ161によって、空気入口側電流Ia・inを検出することができる。
【0038】
また、第2集電線152を流れる電流は、MEA100における水素入口部121に近い部位を流れる局所電流(以下、水素入口側電流Ih・inという)に相当するため、第2電流センサ162によって、水素入口側電流Ih・inを検出することができる。
【0039】
さらに、第3集電線153を流れる電流は、MEA100における水素出口部122に近い部位を流れる局所電流(以下、水素出口側電流Ih・outという)に相当するため、第3電流センサ163によって、水素出口側電流Ih・outを検出することができる。
【0040】
ところで、燃料電池10に供給される空気への加湿量が低下すると、MEA100の電解質膜における、空気入口部111に近い部位が乾燥する。図7は、空気湿度ψaの低下に伴って電解質膜の乾燥が発生した際の乾燥発生部における電流Iの経時変化を示すもので、電解質膜における乾燥部位ではプロトン伝導抵抗が増加して電流が低下する。
【0041】
同様に、燃料電池10に供給される水素への加湿量が低下すると、MEA100の電解質膜における水素入口部121近傍が乾燥し、乾燥部位ではプロトン伝導抵抗が増加し電流が低下する。なお、水素への加湿量の低下に伴って電解質膜の乾燥が発生した際の乾燥発生部における電流の変化は、図7に示した空気湿度ψa低下の場合と同様となる。
【0042】
このことから、乾燥が発生しやすい空気入口部111近傍や水素入口部121近傍の電流I、すなわち、空気入口側電流Ia・inや水素入口側電流Ih・inを測定することにより、燃料電池10の電解質膜の乾燥状態を診断することが可能である。具体的には、空気入口側電流Ia・inや水素入口側電流Ih・inが所定電流値未満の場合は、電解質膜の乾燥部位ありと推定することができる。なお、所定電流値は、電解質膜の乾燥がないときの電流値の90%程度に設定する。
【0043】
逆に、空気や水素への加湿量が過剰になった場合、電極の水分過剰な濡れ状態が発生する。その際には、水素出口部122近傍に最も液滴が滞留して水分過剰となりやすく、したがってMEA100の電極における水素出口部122に近い部位で顕著に発生しやすい。水素出口部122近傍に水分過剰となりやすい理由としては、水素入口部121から水素流路溝123を介して水素出口部122に水が輸送されることに加え、水素が消費されるため水素流量が低下しており水の排出力が低下していることが挙げられる。図8は、水素出口部122の水滴量Vwの増加に伴って電極が水分過剰状態となった際の、水分過剰部の局所電流Iの変化を示すもので、水滴量Vwの増加に伴ってガスの透過が阻害されて電池の出力が低下する。
【0044】
また、水素供給量が発電量に対して不足する場合も、水素出口部122近傍から水素不足が発生するため、MEA100における水素出口部122に近い部位の電流が低下する。図9は、水素供給量Qhが不足した際の、MEA100における水素出口部122に近い部位の電流Iの変化を示すもので、水素不足が発生すると、直ちに且つ急激に電流Iが低下する。
【0045】
このことから、MEA100における水素出口部122に近い部位の電流I、すなわち水素出口側電流Ih・outが、所定電流値未満の場合は、水分過剰発生または水素不足発生と推定することができる。なお、所定電流値は、水分過剰状態および水素不足状態の電流値の90%程度に設定する。
【0046】
ここで、水分過剰発生時および水素不足発生時は、いずれもMEA100における水素出口部122に近い部位の電流Iが低下するため、電流Iの低下要因がいずれであるかを特定する必要がある。
【0047】
図10は、水分過剰発生時の、MEA100における水素出口部122に近い部位の電流Iの変化と、水素不足発生時の、MEA100における水素出口部122に近い部位の電流Iの変化を示すものである。また、図11は、水分過剰発生時および水素不足発生時の、MEA100における水素出口部122に近い部位の電流Iの低下速度(以下、電流低下速度という)を示すものである。なお、本明細書でいう電流低下速度とは、単位時間あたりの電流変化量の絶対値である。図10、図11において、実線は水分過剰発生時の特性、破線は水素不足発生時の特性であり、t1は水分過剰や水素不足が発生した時刻である。
【0048】
図10、図11に示すように、水分過剰発生時と比較すると、水素不足発生時の電流Iは急激に低下する。このことから、電流低下が発生する際の電流低下速度によって電流Iの低下要因を特定することが可能である。具体的には、水素出口側電流Ih・outが所定電流値未満で、且つ電流低下速度が所定低下速度dI1(図11参照)未満の場合は水分過剰発生と推定し、水素出口側電流Ih・outが所定電流値未満で、且つ電流低下速度が所定低下速度dI1以上の場合は水素不足発生と推定することができる。なお、所定低下速度dI1は、1.0(mA/SEC/cm2)程度に設定する。
【0049】
次に、燃料電池10の出力低下要因の診断について、図12に基づいて説明する。図12は制御部40(図1参照)にて実行される制御処理のうち、燃料電池10の出力低下要因の診断にかかわる部分の流れ図である。
【0050】
まず、図示しない電流センサによって燃料電池10から負荷11に流れている総電流を測定するとともに(ステップ101)、第1電流センサ161によって空気入口側電流Ia・inを測定する(ステップ102)。次に、空気入口側電流Ia・inが第1所定電流値未満である否かを判定する(ステップ103)。この「第1所定電流値」は、空気入口部111近傍における燃料電池10の乾燥状態を診断するために予め設定された値である。図13に示すように、第1所定電流値は燃料電池10の総電流と関連づけてマップ化されており、ステップ100で測定した総電流に基づいて求めることができる。
【0051】
空気入口側電流Ia・inが第1所定電流値未満であれば(ステップ103がYES)、電解質膜の乾燥部位ありと診断する(ステップ104)。空気入口側電流Ia・inが第1所定電流値以上であれば(ステップ103がNO)、電解質膜の乾燥部位なしと診断する(ステップ105)。因みに、ステップ104にて電解質膜の乾燥部位ありと診断された場合には、燃料電池10に供給される空気の湿度ψaが低いと推測されるため、加湿器22による空気への加湿量を増加する。
【0052】
次に、第2電流センサ162によって水素入口側電流Ih・inを測定する(ステップ106)。次に、水素入口側電流Ih・inが第2所定電流値未満であるか否かを判定する(ステップ107)。この「第2所定電流値」は、水素入口部121近傍における燃料電池10の乾燥状態を診断するために予め設定された値である。第2所定電流値は、第1所定電流値と同様、燃料電池10の総電流と関連づけてマップ化されており、ステップ100で測定した総電流に基づいて求めることができる。
【0053】
水素入口側電流Ih・inが第2所定電流値未満であれば(ステップ107がYES)、電解質膜の乾燥部位ありと診断する(ステップ108)。水素入口側電流Ih・inが第2所定電流値以上であれば(ステップ107がNO)、電解質膜の乾燥部位なしと診断する(ステップ109)。因みに、ステップ108にて電解質膜の乾燥部位ありと診断された場合には、燃料電池10に供給される水素への加湿量が少ないと推測されるため、加湿器33による水素への加湿量を増加する。
【0054】
次に、第3電流センサ163によって水素出口側電流Ih・outを測定する(ステップ110)。次に、水素出口側電流Ih・outが第3所定電流値未満であるか否かを判定する(ステップ111)。この「第3所定電流値」は、水素出口部122近傍における燃料電池10の水分過剰状態を診断するために予め設定された値である。第3所定電流値は、第1所定電流値と同様、燃料電池10の総電流と関連づけてマップ化されており、ステップ100で測定した総電流に基づいて求めることができる。
【0055】
水素出口側電流Ih・outが第3所定電流値以上であれば(ステップ111がNO)、水分過剰なしまたは水素不足なしと診断する(ステップ112)。水素出口側電流Ih・outが第3所定電流値未満で(ステップ111がYES)、且つ水素出口側電流Ih・outの電流低下速度が所定低下速度未満の場合は(ステップ113がYES)、水分過剰状態であると診断する(ステップ114)。因みに、ステップ114にて水分過剰状態であると診断された場合には、空気や水素への加湿量が過剰、あるいは、水素流量低下による水の排出力低下と推測されるため、加湿器22による空気への加湿量および加湿器33による水素への加湿量をともに減少させるとともに、水素流量を増加させる。
【0056】
また、水素出口側電流Ih・outが第3所定電流値未満で(ステップ111がYES)、且つ水素出口側電流Ih・outの電流低下速度が所定低下速度以上の場合は(ステップ113がNO)、水素供給量が不足と診断する(ステップ115)。因みに、ステップ115にて水素供給量が不足と診断された場合には水素流量を増加させる。
【0057】
上記した本実施形態によれば、空気入口側電流Ia・inおよび水素入口側電流Ih・inに基づいて電解質膜の乾燥状態を診断し、水素出口側電流Ih・outと水素出口側電流Ih・outの電流低下速度とに基づいて水分過剰や水素不足を診断するため、燃料電池10の出力低下要因を適確に診断することができる。また、燃料電池10の出力低下要因を特定することができ、したがって出力低下要因に応じた適確な制御を行うことができる。
【0058】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本第2実施形態は、上記第1実施形態に比較して、電流測定手段の構成が異なるものである。
【0059】
図14は本第2実施形態の燃料電池システムの構成を示す概念図であり、図15は本実施形態の燃料電池の斜視図であり、図16は燃料電池セルの斜視図である。
【0060】
図16に示すように、本第2実施形態では、第1集電板140に集電部材171〜174が設けられている。集電部材171〜174は、棒状の導電性部材からなり、第1集電板140の板面から突出するように設けられている。主集電板131には第1集電部材171が設けられ、第1副集電板132には第2集電部材172が設けられ、第2副集電板133には第3集電部材173が設けられ、第3副集電板134には第4集電部材174が設けられている。第2集電板170には、第1集電板140の各集電部材171〜174に対応する部位に貫通孔170a〜170dが形成されている。
【0061】
図14に示すように、燃料電池10で発電した電流は各集電部材171〜174を介して電気負荷11に流れる。図14、図15に示すように、各副集電板132、133、134に設けられた集電部材172、173、174を流れる電流値を測定する電流センサ164、165、166が燃料電池10の外部に設けられている。各電流センサ164〜166としては、上記第1実施形態と同様、ホール素子その他の電流センサを用いることができる。
【0062】
第1集電部材172を流れる電流は、MEA100における空気入口側電流Ia・inに相当するため、第1の電流センサ164によって、空気入口側電流Ia・inを検出することができる。また、第2の集電部材173を流れる電流は、水素入口側電流Ih・inに相当するため、第2電流センサ165によって、水素入口側電流Ih・inを検出することができる。さらに、第3集電部材174を流れる電流は、水素出口側電流Ih・outに相当するため、第3電流センサ166によって、水素出口側電流Ih・outを検出することができる。
【0063】
また、第1副集電板132と第1集電部材172と第1電流センサ164、第2副集電板133と第2集電部材173と第2電流センサ165、第3副集電板134と第3集電部材174と第3電流センサ166は、それぞれが、本発明の電流測定手段を構成している。
【0064】
上記構成の電流測定手段を用いる構成によっても、上記第1実施形態と同様、燃料電池10の出力低下要因を適確に診断可能にすることが可能となる。
【0065】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本第3実施形態は、上記各実施形態に比較して、燃料電池内部が乾燥状態の場合の水分量制御の内容が異なるものである。
【0066】
図17は、燃料電池10の乾燥しやすい部位Bである空気入口部111近傍において水分状態が変動した場合の発電電流Iの変化を示している。図17に示す例では、燃料電池10の電流Iが所定の基準電流I1以上となった場合に、燃料電池10内部が湿潤状態であるとし、燃料電池10の電流Iが基準電流I1を下回った場合に、燃料電池10内部が乾燥状態であるとしている。燃料電池10内部が乾燥状態の場合には、燃料電池10内部の水分量が少ないほど、燃料電池10の発電電流Iが小さくなる。
【0067】
図18は、燃料電池10の乾燥しやすい部位Bである空気入口部111近傍において水分状態が変動した場合の発電電流Iと基準電流I1との差である差分電流ΔI(=I−I1)の変化を示している。図18に示すように、燃料電池10内部が湿潤状態の場合は差分電流ΔIがゼロ以上となり、燃料電池10内部が乾燥状態の場合は差分電流ΔIがゼロを下回る。また、上述のように、燃料電池10内部の水分量に応じて燃料電池10の発電電流Iが変化するので、差分電流ΔIの大きさに基づいて燃料電池10内部の水分状態の程度を推測することができる。すなわち、差分電流ΔIがマイナスである場合には、差分電流ΔIの絶対値が大きいほど燃料電池10内部の水分不足量が大きくなっており、より乾燥していると判断できる。
【0068】
次に、本実施形態の燃料電池システムの水分量制御を図19のフローチャートに基づいて説明する。
【0069】
まず、電流センサにより乾燥部位Bの局所電流Iを測定し(ステップ200)、基準電流I1との差である差分電流ΔIを演算する(ステップ201)。次に、差分電流ΔIがゼロ未満であるか否かを判定する(ステップ202)。この結果、差分電流ΔIがゼロ以上と判定された場合には、燃料電池10内部が湿潤状態であると推定できるので、加湿器22による空気への加湿量をゼロにする(ステップ203)。一方、差分電流ΔIがゼロ未満であると判定された場合には、燃料電池10内部が乾燥状態であると推定できるので、加湿器22による燃料電池10への加湿水量をK1×|ΔI|に制御する(ステップ204)。K1は加湿水量を算出するための係数である。
【0070】
以上のように、燃料電池10の局所電流Iと基準電流I1との差である差分電流ΔIの大きさに基づいて燃料電池10内部の乾燥状態を推測して加湿水量を制御することで、燃料電池10内部をより適切な水分状態にすることができる。
【0071】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。本第4実施形態は、上記各実施形態に比較して、燃料電池内部が水分過剰状態の場合の水分量制御の内容が異なるものである。
【0072】
図20は、燃料電池10の水分過剰となりやすい部位Dである水素出口部122近傍において水分状態が変動した場合の発電電流Iの変化を示している。図20に示す例では、燃料電池10の電流Iが所定の基準電流I2以上となった場合に、燃料電池10内部が水分適正状態であるとし、燃料電池10の電流Iが基準電流I2を下回った場合に、燃料電池10内部が水分過剰状態であるとしている。燃料電池10内部が水分過剰状態である場合には、燃料電池10内部の水分量が多いほど、燃料電池10の発電電流Iが小さくなる。
【0073】
図21は、燃料電池10の水分過剰となりやすい部位Dである水素出口部122近傍において水分状態が変動した場合の発電電流Iと基準電流I2との差である差分電流ΔI(=I−I2)の変化を示している。図21に示すように、燃料電池10内部の水分量が適正状態の場合は差分電流I2がゼロ以上となり、燃料電池10内部が水分過剰状態の場合は差分電流ΔIがゼロを下回る。また、上述のように、燃料電池10内部の水分量に応じて燃料電池10の発電電流Iが変化するので、差分電流ΔIの大きさに基づいて燃料電池10内部の水分状態の程度を推測することができる。すなわち、差分電流ΔIがマイナスである場合には、差分電流ΔIの絶対値が大きいほど燃料電池10内部の水分過剰量がより大きくなっていると判断できる。
【0074】
次に、本実施形態の燃料電池システムの水分量制御を図22のフローチャートに基づいて説明する。
【0075】
まず、電流センサにより水分過剰部位Dの局所電流Iを測定し(ステップ300)、基準電流I2との差である差分電流ΔIを演算する(ステップ301)。次に、差分電流ΔIがゼロ未満であるか否かを判定する(ステップ302)。この結果、差分電流ΔIがゼロ以上と判定された場合には、燃料電池10内部が水分適正状態であると推定できるので、水素流量の増加率をゼロにする(ステップ303)。一方、差分電流ΔIがゼロ未満であると判定された場合には、燃料電池10内部が水分過剰状態であると推定できるので、水素流量の増加率をK2×|ΔI|に制御する(ステップ304)。K2は水素流量増加率を算出するための係数である。
【0076】
そして、燃料電池10への水素供給流量を水素必要流量×(1+流量増加率)に制御する(ステップ305)。水素必要流量は、要求電力を発電するために必要とされる水素流量である。このように水素を過剰に供給することで、水素のガス流で水分過剰部位Dにおける水分を押し出すことができる。
【0077】
以上のように、燃料電池10の局所電流Iと基準電流I2との差である差分電流ΔIの大きさに基づいて燃料電池10内部の水分過剰状態を推測して水素供給量を制御することで、燃料電池10内部をより適切な水分状態にすることができる。
【0078】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について説明する。本第5実施形態は、上記各実施形態に比較して、燃料電池内部の抵抗値に基づいて燃料電池の水分状態を診断する点が異なるものである。
【0079】
図23は、燃料電池10の内部抵抗と内部水分量との関係を示している。図23に示すように、燃料電池10の内部水分量が増加するとある段階まで内部抵抗は減少し、内部水分量が減少すると内部抵抗が増加するという関係がある。
【0080】
したがって、電流センサ161、162、164、165で測定した燃料電池10の乾燥しやすい部位B、Cの局所電流と、セルモニタ12で測定した燃料電池10のセル電圧とに基づいて、燃料電池10の乾燥しやすい部位における局所内部抵抗R(=セル電圧/局所電流)を算出し、この局所内部抵抗Rに基づいて燃料電池10内部の乾燥状態を診断することができる。具体的には、局所内部抵抗Rが予め設定した基準内部抵抗R1より小さい場合には、燃料電池10内部は乾燥状態であると診断する。燃料電池10内部が乾燥状態であると診断された場合には、燃料電池10に供給される水素への加湿量が少ないと推測されるため、加湿器33による水素への加湿量を増加する。
【0081】
同様に、電流センサ163、166で測定した燃料電池10の水分過剰になりやすい部位Dの局所電流と、セルモニタ12で測定した燃料電池10の電圧とに基づいて、燃料電池10の水分過剰になりやすい部位における局所内部抵抗Rを算出し、この局所内部抵抗Rに基づいて燃料電池10内部の水分過剰状態を診断することができる。具体的には、局所抵抗値Rが予め設定した基準内部抵抗より大きい場合には、燃料電池10内部は水分過剰状態であると診断する。水分過剰状態であると診断された場合には、空気や水素への加湿量が過剰、あるいは、水素流量低下による水の排出力低下と推測されるため、加湿器22による空気への加湿量および加湿器33による水素への加湿量をともに減少させるとともに、水素流量を増加させる。
【0082】
以上の構成によっても、燃料電池10の出力低下要因を適確に診断することができる。また、燃料電池10の出力低下要因を特定することができ、したがって出力低下要因に応じた適確な制御を行うことができる。
【0083】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態について説明する。本第6実施形態は、上記各実施形態に比較して、燃料電池内部の抵抗値に基づいて燃料電池の乾燥状態の程度を診断し、水分量制御をする点が異なるものである。
【0084】
図24は、燃料電池10の乾燥しやすい部位Bである空気入口部111近傍において水分状態が変動した場合の局所抵抗値Rの変化を示している。図24に示す例では、燃料電池10の局所内部抵抗Rが所定の基準内部抵抗R1を上回った場合に、燃料電池10内部が乾燥状態であるとし、燃料電池10の局所内部抵抗Rが基準内部抵抗R1以下となった場合に、燃料電池10内部が湿潤状態であるとしている。燃料電池10内部が乾燥状態の場合には、燃料電池10内部の水分量が少ないほど、燃料電池10の局所内部抵抗Rが大きくなる。
【0085】
図25は、燃料電池10の乾燥しやすい部位Bである空気入口部111近傍において水分状態が変動した場合の局所内部抵抗Rと基準内部抵抗R1との差である差分抵抗ΔR(=R−R1)の変化を示している。図18に示すように、燃料電池10内部が湿潤状態の場合は差分抵抗ΔRがゼロ以下となり、燃料電池10内部が乾燥状態の場合は差分抵抗ΔRがゼロを上回る。また、上述のように、燃料電池10内部の水分量に応じて燃料電池10の局所内部抵抗Rが変化するので、差分抵抗ΔRの大きさに基づいて燃料電池10内部の水分状態の程度を推測することができる。すなわち、差分抵抗ΔRがプラスである場合には、差分抵抗ΔRの絶対値が大きいほど燃料電池10内部の水分不足量が大きくなっており、より乾燥していると判断できる。
【0086】
次に、本実施形態の燃料電池システムの水分量制御を図26のフローチャートに基づいて説明する。
【0087】
まず、電流センサにより乾燥部位Bの局所電流を測定し(ステップ400)、セルモニタ12によりセル電圧を測定し(ステップ401)、セル電圧を局所電流で除して局所内部抵抗Rを算出する(ステップ402)。次に、局所抵抗Rと基準内部抵抗R1との差である差分抵抗ΔRを演算する(ステップ403)。
【0088】
次に、差分抵抗ΔRがゼロを上回っているか否かを判定する(ステップ404)。この結果、差分抵抗ΔRがゼロ以下と判定された場合には、燃料電池10内部が湿潤状態であると推定できるので、加湿器22による空気への加湿量をゼロにする(ステップ405)。一方、差分電流ΔIがゼロを上回っていると判定された場合には、燃料電池10内部が乾燥状態であると推定できるので、加湿器22による燃料電池10への加湿水量をK3×|ΔR|に制御する(ステップ406)。K3は加湿水量を算出するための係数である。
【0089】
以上のように、燃料電池10の局所抵抗Iと基準内部抵抗R1との差である差分抵抗ΔRの大きさに基づいて燃料電池10内部の乾燥状態を推測して加湿水量を制御することで、燃料電池10内部をより適切な水分状態にすることができる。
【0090】
(第7実施形態)
次に、本発明の第7実施形態について説明する。本第7実施形態は、上記各実施形態に比較して、燃料電池内部の抵抗値に基づいて燃料電池の水分過剰状態の程度を診断し、水分量制御をする点が異なるものである。
【0091】
図27は、燃料電池10の水分過剰となりやすい部位Dである水素出口部122近傍において水分状態が変動した場合の局所内部抵抗Rの変化を示している。図27に示す例では、燃料電池10の局所内部抵抗Rが所定の基準内部抵抗R2以下となった場合に、燃料電池10内部が水分適正状態であるとし、燃料電池10の局所内部抵抗Rが所定の基準内部抵抗R2を上回った場合に、燃料電池10内部が水分過剰状態であるとしている。燃料電池10内部が水分過剰状態である場合には、燃料電池10内部の水分量が多いほど、燃料電池10の局所内部抵抗Rが大きくなる。
【0092】
図28は、燃料電池10の水分過剰となりやすい部位Dである水素出口部122近傍において水分状態が変動した場合の局所内部抵抗Rと基準内部抵抗R2との差である差分抵抗ΔR(=R−R2)の変化を示している。図28に示すように、燃料電池10内部の水分量が適正状態の場合は差分抵抗R2がゼロ以下となり、燃料電池10内部が水分過剰状態の場合は差分抵抗R2がゼロを上回る。また、上述のように、燃料電池10内部の水分量に応じて燃料電池10の局所内部抵抗Rが変化するので、差分抵抗ΔRの大きさに基づいて燃料電池10内部の水分状態の程度を推測することができる。すなわち、差分抵抗ΔRがプラスである場合には、差分抵抗ΔRの絶対値が大きいほど燃料電池10内部の水分過剰量がより大きくなっていると判断できる。
【0093】
次に、本実施形態の燃料電池システムの水分量制御を図29のフローチャートに基づいて説明する。
【0094】
まず、電流センサにより水分過剰部位Dの局所電流Iを測定し(ステップ500)、セルモニタ12によりセル電圧を測定し(ステップ501)、セル電圧を局所電流で除して局所内部抵抗Rを算出する(ステップ502)。次に、局所抵抗Rと基準内部抵抗R2との差である差分抵抗ΔRを演算する(ステップ503)。
【0095】
次に、差分抵抗ΔRがゼロを上回っている否かを判定する(ステップ504)。この結果、差分抵抗ΔRがゼロ以下と判定された場合には、燃料電池10内部が水分適正状態であると推定できるので、水素流量の増加率をゼロにする(ステップ505)。一方、差分抵抗ΔRがゼロを上回っている判定された場合には、燃料電池10内部が水分過剰状態であると推定できるので、水素流量の増加率をK4×|ΔI|に制御する(ステップ506)。K4は水素流量増加率を算出するための係数である。
【0096】
そして、燃料電池10への水素供給流量を水素必要流量×(1+流量増加率)に制御する(ステップ507)。水素必要流量は、要求電力を発電するために必要とされる水素流量である。このように水素を過剰に供給することで、水素のガス流で水分過剰部位Dにおける水分を押し出すことができる。
【0097】
以上のように、燃料電池10の局所内部抵抗Rと基準内部抵抗R2との差である差分抵抗ΔRの大きさに基づいて燃料電池10内部の水分過剰状態を推測して水素供給量を制御することで、燃料電池10内部をより適切な水分状態にすることができる。
【0098】
(他の実施形態)
なお、上記各実施形態では、燃料電池として固体高分子型電解質膜を備えるものを用いたが、これに限らず、本発明は例えば無機材料系の電解質を備える燃料電池にも適用可能である。
【符号の説明】
【0099】
10…燃料電池、12…セルモニタ、40…制御部(診断手段)、161〜166…電流測定手段の主要部をなす電流センサ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤ガスと燃料ガスとの電気化学反応により電気エネルギを発生させる燃料電池(10)と、
前記燃料電池(10)内において燃料ガスが不足しやすい部位(D)を流れる電流を測定する電流測定手段(134、153、163、166、174)と、
前記電流測定手段にて測定した電流値に基づいて前記燃料電池の燃料ガスの不足状態を診断する診断手段(40)を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記診断手段(40)は、前記電流測定手段にて測定した電流が所定電流値未満で、且つ前記電流測定手段にて測定した電流の低下速度が所定低下速度以上であるときは、前記燃料電池への燃料ガスの供給量が不足していると診断することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
酸化剤ガスと燃料ガスとの電気化学反応により電気エネルギを発生させる燃料電池(10)と、
前記燃料電池(10)内において水分過剰になりやすく且つ燃料ガスが不足しやすい部位(D)を流れる電流を測定する電流測定手段(134、153、163)と、
前記電流測定手段で測定した電流の低下速度に基づいて、前記燃料電池の水分過剰と前記燃料電池の燃料ガス不足とを区別して診断する診断手段(40)とを備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
前記診断手段は、前記電流測定手段にて測定した電流が所定電流値未満で、且つ前記電流測定手段にて測定した電流の低下速度が所定低下速度未満であるときは、前記燃料電池の水分が過剰になっていると診断し、前記電流測定手段にて測定した電流が前記所定電流値未満で、且つ前記電流測定手段にて測定した電流の低下速度が前記所定低下速度以上であるときは、前記燃料電池への燃料ガスの供給量が不足していると診断することを特徴とする請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料電池(10)は、電解質膜の両側に一対の電極が配置された電解質・電極接合体(100)と、前記電解質・電極接合体の外側に配置されるとともに前記酸化剤ガスの流路となる酸化剤ガス流路(113)が形成された第1セパレータ(110)と、前記電解質・電極接合体の外側に配置されるとともに前記燃料ガスの流路となる燃料ガス流路(123)が形成された第2セパレータ(120)とを備え、
前記電流測定手段(134、153、163、166、174)は、前記燃料ガス流路における燃料ガスの入口部(121)よりも燃料ガスの出口部(122)に近い位置で電流を測定することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項1】
酸化剤ガスと燃料ガスとの電気化学反応により電気エネルギを発生させる燃料電池(10)と、
前記燃料電池(10)内において燃料ガスが不足しやすい部位(D)を流れる電流を測定する電流測定手段(134、153、163、166、174)と、
前記電流測定手段にて測定した電流値に基づいて前記燃料電池の燃料ガスの不足状態を診断する診断手段(40)を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記診断手段(40)は、前記電流測定手段にて測定した電流が所定電流値未満で、且つ前記電流測定手段にて測定した電流の低下速度が所定低下速度以上であるときは、前記燃料電池への燃料ガスの供給量が不足していると診断することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
酸化剤ガスと燃料ガスとの電気化学反応により電気エネルギを発生させる燃料電池(10)と、
前記燃料電池(10)内において水分過剰になりやすく且つ燃料ガスが不足しやすい部位(D)を流れる電流を測定する電流測定手段(134、153、163)と、
前記電流測定手段で測定した電流の低下速度に基づいて、前記燃料電池の水分過剰と前記燃料電池の燃料ガス不足とを区別して診断する診断手段(40)とを備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
前記診断手段は、前記電流測定手段にて測定した電流が所定電流値未満で、且つ前記電流測定手段にて測定した電流の低下速度が所定低下速度未満であるときは、前記燃料電池の水分が過剰になっていると診断し、前記電流測定手段にて測定した電流が前記所定電流値未満で、且つ前記電流測定手段にて測定した電流の低下速度が前記所定低下速度以上であるときは、前記燃料電池への燃料ガスの供給量が不足していると診断することを特徴とする請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料電池(10)は、電解質膜の両側に一対の電極が配置された電解質・電極接合体(100)と、前記電解質・電極接合体の外側に配置されるとともに前記酸化剤ガスの流路となる酸化剤ガス流路(113)が形成された第1セパレータ(110)と、前記電解質・電極接合体の外側に配置されるとともに前記燃料ガスの流路となる燃料ガス流路(123)が形成された第2セパレータ(120)とを備え、
前記電流測定手段(134、153、163、166、174)は、前記燃料ガス流路における燃料ガスの入口部(121)よりも燃料ガスの出口部(122)に近い位置で電流を測定することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2010−272537(P2010−272537A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174690(P2010−174690)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【分割の表示】特願2004−214418(P2004−214418)の分割
【原出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【分割の表示】特願2004−214418(P2004−214418)の分割
【原出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】
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