説明

燃料電池システム

【課題】衝突時などに発電を継続する。
【解決手段】 燃料電池スタック10は、複数の燃料電池セル12を積層して形成され、その積層方向の少なくとも一端にエンドプレート14が設けられている。電池スタック10はケース20に収容されている。衝突時に加速度センサ36の出力により、シール剤タンク28のシール剤がケース20内に供給され、電池スタック10の周囲がシールされると共に、プロペラ32が回転することなどによって、エンドプレート14が下方に押しつけられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃発生時において発電の継続を図る燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両は、衝突時等において、大きな衝撃力が発生し、各種の車両搭載部品が破壊される場合もある。燃料電池搭載車両では、燃料電池が破壊される可能性がある。燃料電池は、多数の燃料電池セルを積層した電池スタックから構成され、各セルに燃料ガス(水素ガス)と、酸化性ガス(空気)を供給し発電を行う。従って、各セルおよびガス通路が気密に保たれる必要があり、電池スタックは各セル間のシールを確実に行うため積層方向に両端側から荷重を掛けて固定している。
【0003】
ここで、衝突時などは非常に大きな加速度(衝撃)が各部品に加わる。燃料電池スタックに衝撃荷重が加わると、セル同士の位置ずれ(積層ずれ)が発生する可能性があり、このような位置ずれが起こると、セル間のシールが十分でなくなり、燃料電池スタックのシール不良が生じ、発電が行えなくなる。さらに、衝撃によって、一部のセルが破壊される可能性もあり、この場合積層方向の荷重が十分でなくなり、シール不良が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−268054号公報
【特許文献2】特開2004−247139号公報
【特許文献3】特開平08−162143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、燃料電池の発電が停止すると、燃料電池搭載車両は走行不能になる。しかし、衝突時などにおいて、緊急避難などのための走行をしたいという要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の燃料電池セルを積層して形成され、その積層方向の少なくとも一端にエンドプレートが設けられた電池スタックと、この電池スタックを収容するケースと、このケース内にシール剤を供給するシール剤供給手段と、前記エンドプレートを押圧して電池セル同士を押しつけるエンドプレート押圧手段と、衝撃を検出する衝撃検出手段と、を含み、前記衝撃検出手段によって衝撃を検出したときに、前記シール剤供給手段によって前記ケース内の電池スタック周囲にシール剤を充満させると共に、前記エンドプレート押圧手段によって電池スタックを押圧することを特徴とする。
【0007】
また、前記エンドプレート押圧手段は、前記シール剤供給手段から噴出するシール剤の圧力を利用してエンドプレートを押圧することが好適である。
【0008】
また、前記エンドプレート押圧手段は、前記シール剤供給手段から噴出するシール剤の圧力を利用してプロペラを回転させ、その回転力を利用してエンドプレートを押圧することが好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、衝突などにより大きな加速度が発生し、セルが破損した場合において、燃料電池スタックの荷重を回復すると共に、シールを適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態の構成(シール剤充填前)を示す図である。
【図2】プロペラ32の回転を説明する図である。
【図3】実施形態の構成(シール剤充填後)を示す図である。
【図4】実施形態の他の構成を示す図である。
【図5】実施形態のさらに他の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0012】
図1には、実施形態に係る燃料電池システムの構成例が示してある。燃料電池スタック10は、複数の電池セル12を積層して形成される。電池セル12は、一対のセパレータによりMEA(膜/電極接合体 :Membrane Electrode Assembly)を挟み込んで形成されており、積層されるセパレータにはこれを貫通する燃料ガス用および酸化性ガス用のマニホールドが形成されている。そして、各燃料電池スタック10には、流通用の配管が接続されると共に、電力出力用の配線が接続されている。
【0013】
燃料電池スタック10のセル積層方向の両端にはエンドプレート14,16が配置されており、エンドプレート14,16間は通りボルトによって接続されている。従って、各電池セル12は、エンドプレート14,16によって所定の荷重で締め付けられている。
【0014】
このような燃料電池スタック10は、ケース20内に配置されている。この例では、下方に位置するエンドプレート16がケース20の底面に固定されている。また、ケース20内の燃料電池スタック10の周囲には、空間が形成されている。なお、中間部分やエンドプレート14について、ケースに支持する支持部材を適宜設けるとよい。
【0015】
そして、ケース内の燃料電池スタック10の上方には、天板22を介し、プロペラ室24が形成されている。天板22の一端側(図における右側)には、開口部22aが形成され、この開口部22aを介し、プロペラ室24がケース20内の燃料電池スタック10の周囲空間と連通している。また、プロペラ室24の他端(図における左側)には、シール剤受け入れ口24aが形成され、このシール剤受け入れ口24aには、配管26を介し、シール剤タンク28が接続されている。また、配管26には、ストッパ30が設けられている。
【0016】
ここで、図2に示すように、プロペラ室24は、全体として四角(板状の直方体)形状であり、その平面的な中心にプロペラ32が水平方向に配置されている。プロペラ32の中心は、ボルト34に支持されており、このボルト34は、天板22を貫通して、エンドプレート14にねじ込まれている。従って、プロペラ32が回転することで、ボルト34が回転して、エンドプレート14を下方に押し下げる。特に、図2の例では、シール剤受け入れ口24aは、偏心して配置されており、シール剤が供給された場合、プロペラ32の一方側のみがシール剤を受けプロペラ32が図において反時計回りに回転する。そして、この回転によって、ボルト34が回転してエンドプレート14から退出する方向に移動するが、ボルト34は天板22に軸方向の移動がロックされているため、エンドプレート14が下方に移動する。
【0017】
なお、ボルト34を天板22にねじ止めしておき、ボルト34がその回転によって下方に移動し、エンドプレート14を下方側に移動させてもよい。
【0018】
さらに、加速度センサ36が設けられており、車両またはケース20の加速度を検出する。そして、この加速度センサ36の出力によって、加速度が所定値以上になった時にストッパ30による遮断が解除される。なお、燃料電池スタック10の積層方向およびセル面内方向の加速度限界を予め調べ、その加速度以上になった時にストッパ30を解除することが好適であるが、この解除機構はエアバッグの動作機構などと兼用することもできる。
【0019】
このような構成において、車両の衝突などの衝撃によって、所定以上の加速度が加速度センサ36に検出された場合、ストッパ30の遮断が解除される。シール剤タンク28内には、ストッパ30の解除に応じて、発泡が開始され体積膨張しながら噴出する発泡プラスチックのシール剤が充填されている。なお、ガス圧力等によりシール剤タンク28から所定の圧力でシール剤を噴出できれば、発泡する必要はない。ストッパ30が解除されることで、シール剤タンク28内のシール剤が配管26を介し、シール剤受け入れ口24aからプロペラ室24内に噴出する。シール剤受け入れ口24aはプロペラ32に対し偏心して形成されているため、シール剤の噴出力によって、プロペラ32が回転する。このプロペラ32の回転によって、エンドプレート14が押し下げられ、電池セル12に対し、積層方向の加重が付与される。荷重が適正値になると、プロペラ32は回転しなくなる。なお、燃料電池スタック10に対し必要な荷重は、予めわかっているため、その必要荷重から必要トルクを求め、プロペラ32に対する圧力が所定値になるようにシール剤の噴出力を設定していくとよい。
【0020】
プロペラ32の回転が止まっても、シール剤の供給は継続され、プロペラの間や横を通って開口部22aを介し、ケース20内の空間に充填されていく。これによって、図3に示すように、燃料電池スタック10内の電池セル12が破損してしまい荷重が抜けてしまった場合においても、シール剤の噴出力によるプロペラ32の回転によって荷重が復活される。さらに、燃料電池スタック10の周囲空間にはシール剤が充満されるために、各電池セル12における気密状態を維持できる。従って、燃料電池スタック10内のいくつかの電池セル12が破損した場合においても、残りの電池セル12による発電を継続することが可能になる。
【0021】
図4には、他の例が示してある。この例では、仕切り板40をケース20内の燃料電池スタック10の周囲空間に配置して、該周囲空間を迂回路としてある。そして、迂回路の終点に該当する位置に空気抜き穴42が形成されている。特に、この例では、空気抜き穴42は、空気抜き管44の下端として形成され、空気抜き管44はケース20の上方において大気に開放されている。
【0022】
このような構成により、シール剤タンク28から放出されたシール剤は、ケース20内の燃料電池スタック10の周囲空間に比較的プラグフローに近い形で充満され、元々外周異空間にあったガスが空気抜き穴42から効果的に排出され、シール剤の充填がスムーズに行える。
【0023】
図5には、さらに他の例が示してある。この例では、エアバッグ50を備えている。すなわち、ケース20内のエンドプレート14の上方空間にエアバッグ50が配置されており、このエアバッグ50が加速度センサ36の出力に応じて膨張するようになっている。すなわち、この例では、加速度センサ36において、所定以上の加速度を検出したときには、シール剤タンク28からのシール剤をケース20内の燃料電池スタック10の周囲空間に供給すると共に、エアバッグ50の膨張によってエンドプレート14に所定の荷重を付与する。
【0024】
さらに、荷重付与の機構としては、別の機構を採用することもできる。例えば、プロペラ32の軸方向からシール剤を供給して、プロペラ32を回転したり、シール剤の力によってカムを回転させることでエンドプレート14を押圧する機構を採用することもできる。
【0025】
以上のように、本実施形態によれば、衝突などにより大きな加速度が発生し、セルが破損した場合において、燃料電池スタック10の荷重を回復すると共に、シールを適切に行うことができる。従って、発電を継続することが可能となり、車両の走行を可能とすることができる。
【符号の説明】
【0026】
10 燃料電池スタック、12 電池セル、14,16 エンドプレート、20 ケース、22 天板、22a 開口部、24 プロペラ室、24a シール剤受け入れ口、26 配管、28 シール剤タンク、30 ストッパ、32 プロペラ、34 ボルト、36 加速度センサ、40 仕切り板、42 空気抜き穴、44 空気抜き管、50 エアバッグ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料電池セルを積層して形成され、その積層方向の少なくとも一端にエンドプレートが設けられた電池スタックと、
この電池スタックを収容するケースと、
このケース内にシール剤を供給するシール剤供給手段と、
前記エンドプレートを押圧して電池セル同士を押しつけるエンドプレート押圧手段と、
衝撃を検出する衝撃検出手段と、
を含み、
前記衝撃検出手段によって衝撃を検出したときに、前記シール剤供給手段によって前記ケース内の電池スタック周囲にシール剤を充満させると共に、前記エンドプレート押圧手段によって電池スタックを押圧することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記エンドプレート押圧手段は、前記シール剤供給手段から噴出するシール剤の圧力を利用してエンドプレートを押圧することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記エンドプレート押圧手段は、前記シール剤供給手段から噴出するシール剤の圧力を利用してプロペラを回転させ、その回転力を利用してエンドプレートを押圧することを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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