説明

燃料電池スタック

【課題】積層された複数枚の板状体からなる燃料電池スタックにおいて、燃料電池スタックの横ずれを効果的に防止する。
【解決手段】燃料電池スタック2の側面に、燃料電池スタック2の積層方向に向けて締結バンド12を螺旋状に巻き付ける。締結バンド12の一端は燃料電池スタック2の一方の端部10に固定し、締結バンド12の他端は燃料電池スタック2の他方の端部10に固定する。好ましくは、締結バンド12には張力を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層された複数枚の板状体からなる燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、多数の燃料電池モジュールが積層された燃料電池スタックとして使用される。通常、燃料電池スタックの積層方向には、各燃料電池モジュールがバラけることのないよう締結力が付与されている。燃料電池スタックの締結方法としては、例えば特許文献1に開示されるように、両端のエンドプレートに金属線のような線状部材を複数回巻きつけ、この線状部材に適当な張力を付与することで燃料電池スタックを積層方向に締め付ける方法が知られている。
【特許文献1】特開2001−126750号公報
【特許文献2】特開2005−142145号公報
【特許文献3】特表2001−504632号公報
【特許文献4】特開2005−142049号公報
【特許文献5】特開2004−63172号公報
【特許文献6】特開2004−327156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記文献に記載の締結方法では、燃料電池スタックにその締結方向とは異なる方向からの荷重、例えば横方向(積層方向に垂直な方向)の荷重が加わった場合、隣接する燃料電池モジュール間に横ずれが発生する可能性がある。締結荷重は燃料電池スタックの積層方向にしか加えられておらず、各燃料電池モジュールはその横方向への移動を拘束されていないためである。横ずれが起きた箇所では反応ガスや冷却媒体が漏れ出してしまうおそれがある。
【0004】
上記文献に記載の締結方法によって燃料電池スタックの横ずれを抑制するためには、燃料電池モジュール間に働く摩擦力が大きくなるよう、締結荷重を大きくすることが要求される。しかし、締結荷重を大きくすると各燃料電池モジュールに加わる面圧も大きくなるため、それに耐えうるだけの強度も要求されることになる。なお、単に燃料電池スタックの横ずれを防止するのであれば、燃料電池スタックをその外側から強固なフレームにより拘束する方法や、燃料電池スタック全体を強固なケース内に収容する方法でもよい。しかし、これらの方法では燃料電池スタック全体の重量が増大し、車両への搭載性等の低下を招いてしまう。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、積層された複数枚の板状体からなる燃料電池スタックにおいて、燃料電池スタックの横ずれを効果的に防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、積層された複数枚の板状体からなる燃料電池スタックにおいて、
前記燃料電池スタックの側面には締結バンドが前記燃料電池スタックの積層方向に向けて螺旋状に巻かれ、前記締結バンドの一端は前記燃料電池スタックの一方の端部に固定され、前記締結バンドの他端は前記燃料電池スタックの他方の端部に固定されていることを特徴としている。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、
前記締結バンドには張力が付与されていることを特徴としている。
【0008】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、
前記締結バンドの少なくとも前記燃料電池スタックの表面に接する部位は絶縁性を有していることを特徴としている。
【0009】
第4の発明は、第3の発明において、
前記燃料電池スタックの側面はその略全面を前記締結バンドによって覆われていることを特徴としている。
【0010】
第5の発明は、第3の発明において、
前記締結バンドは前記締結バンドの幅よりも狭い巻き間隔で密に巻かれていることを特徴としている。
【0011】
第6の発明は、第1乃至第5の何れか1つの発明において、
前記締結バンドは帯状体であることを特徴としている。
【0012】
第7の発明は、第1乃至第6の何れか1つの発明において、
前記締結バンドはガラス繊維強化樹脂にて形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、燃料電池スタックを構成する各板状体は燃料電池スタック側面に螺旋状に巻かれた締結バンドによって拘束され、その積層面内での変位を制限される。これにより、横方向の荷重によって燃料電池スタックに横ずれが生じることは防止される。また、第1の発明によれば、フレームやケースを用いる場合のような燃料電池スタックの大型化や重量増を招くことはない。
【0014】
第2の発明によれば、締結バンドに付与された張力が燃料電池スタックに対し積層方向の圧縮荷重として作用することで、他の締結手段を用いることなく、燃料電池スタックを積層方向に強固に締結することができる。
【0015】
第3の発明によれば、燃料電池スタックを構成する単セル間の短絡を招くことなく、締結バンドを燃料電池スタックの表面に直接巻きつけることができる。
【0016】
第4の発明によれば、燃料電池スタックの表面と外部とが締結バンドによって絶縁されるので、燃料電池スタックの短絡を防止することできる。
【0017】
第5の発明によれば、締結バンドの巻きと巻きとの間に隙間が生じないので、燃料電池スタックの表面を外部から絶縁することができ、燃料電池スタックの短絡を防止することできる。
【0018】
第6の発明によれば、帯状体の締結バンドを用いることで、巻きと巻きとの間に重なりを作りながら密に巻きつけていくことができる。これにより、燃料電池スタックの側面を外部から確実に絶縁して短絡を防止できるとともに、各板状体をしっかりと拘束することができる。
【0019】
第7の発明によれば、ガラス繊維強化樹脂を締結バンドの材料とすることで、強度と絶縁性とをともに確保することができる。これにより、短絡を防止しつつ各板状体をしっかりと拘束することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態では、本発明を燃料電池自動車に搭載される車両用燃料電池スタックに適用する。ただし、本発明は他の用途の燃料電池スタックにも適用可能である。
【0021】
図1は本発明が適用された燃料電池スタック2の斜視図である。図1に示すように、本実施の形態にかかる燃料電池スタック2の側面には締結バンド12が巻かれ、燃料電池スタック2の側面の略全面が締結バンド12によって覆われている。
【0022】
図2は締結バンド12を一部解いた状態の燃料電池スタック2の斜視図である。図2に示すように、燃料電池スタック2は多数(数百枚)の燃料電池モジュール4が一方向に積層された積層体である。各燃料電池モジュール4は板状体であり、単一又は複数の燃料電池セルから構成されている。燃料電池モジュール4の積層方向の両端には電極板6(図2では一方の電極板は締結バンド12に覆われて見えない)が配置され、さらにその外側にはインシュレータ10が配置されている。電極板6の側面には出力端子8が取り付けられている。インシュレータ10は絶縁材で形成されているか、若しくは、電極板6と電気的に絶縁されている。
【0023】
締結バンド12は一本の帯状体であり、高強度で且つ柔軟性のある絶縁性材料、例えば、ガラス繊維強化樹脂によって作られている。或いは、ポリカーボネイト樹脂で作られたものでもよい。締結バンド12の素材として絶縁性材料を用いているのは、締結バンド12を燃料電池スタック2の表面に直接巻きつけたときに、燃料電池モジュール4間を短絡させないためである。締結バンド12は一方のインシュレータ10からもう一方のインシュレータ10へ向けて燃料電池モジュール4の積層方向に螺旋状に巻かれ、その両端部をそれぞれ対応するインシュレータ10にボルト14を用いて固定されている。ボルト14の軸部には径方向に貫通する孔が設けられており、締結バンド12はこの孔に通されてボルト14の軸部に巻き掛けられている。全ての燃料電池モジュール4と両電極板6の側面は締結バンド12によって完全に覆われ、燃料電池スタック2の両端に配置されたインシュレータ10と、電極板6から突き出ている出力端子8のみが締結バンド12よりも外に露出している。
【0024】
図3は締結バンド12が巻きつけられた燃料電池スタック2をその積層方向に切断した切断面の一部を示す断面図である。図3に示すように、締結バンド12の巻き間隔Pは締結バンド12の幅Wよりも狭く設定され、締結バンド12はその一巻き一巻きが一部重なり合うように密に巻きつけられている。締結バンド12の幅Wは燃料電池モジュール4の二枚分よりも少し広い幅に設定されている。
【0025】
締結バンド12は、燃料電池スタック2の締結、つまり、燃料電池スタック2を構成する多数の板状体(燃料電池モジュール4や電極板6)の締結に用いられている。図4は締結バンド12を用いた燃料電池スタック2の締結手順について示す図である。図4では(A),(B),(C),(D)の順に締結手順が示されている。
【0026】
まず、(A)に示すように、必要枚数の燃料電池モジュール4、電極板6、及びインシュレータ10を順に積層して燃料電池スタック2を形成する。そして、両端に配置されたインシュレータ10の外側からプレス装置20によって所定の圧縮荷重をかけ、隣接する板状体同士を密着させる。
【0027】
次に、(B)に示すように、プレス装置20によって圧縮荷重をかけたままの状態で、締結バンド12の一端をボルト14によってインシュレータ10に固定し、燃料電池スタック2の側面に締結バンド12を螺旋状に巻きつけて行く。締結バンド12を巻きつける作業には巻きつけ装置を用い、締結バンド12が弛まないように所定の張力で締結バンド12を引っ張りながら巻きつけて行く。
【0028】
次に、(C)に示すように、締結バンド12を他方のインシュレータ10まで巻きつけたら、締結バンド12の先端をボルト14によってインシュレータ10に固定する。締結バンド12の固定が完了するまで、燃料電池スタック2の両端にはプレス装置20によって圧縮荷重をかけておく。
【0029】
締結バンド12の固定が完了したら、(D)に示すように、それまでプレス装置20によってかけていた圧縮荷重を取り除く。これにより、燃料電池スタック2の締結が完了する。
【0030】
燃料電池スタック2に巻きつけられた締結バンド12には、(D)の図中に黒い矢印で示すように張力が作用しており、締結バンド12の張力は燃料電池スタック2に対して圧縮荷重として作用する。この圧縮荷重は、(D)の図中に白い矢印で示すように燃料電池スタック2の積層方向に作用するとともに、燃料電池スタック2の各側面にも作用する。積層方向への圧縮荷重の作用により燃料電池スタック2は強固に締結され、燃料電池スタック2を構成する多数の板状体(燃料電池モジュール4及び電極板6)がバラバラになってしまうことは防止される。また、締結バンド12によって燃料電池スタック2の側面が拘束されることで、横方向(積層方向に垂直な方向)の荷重が加わったときの燃料電池スタック2の横ずれも効果的に防止される。
【0031】
以上のように、本実施の形態によれば、一本の締結バンド12のみによって、燃料電池スタック2の積層方向の締結と横方向の拘束とが同時に行われる。これにより、フレームやケース等の拘束具を締結具と別に設ける必要がなくなり、燃料電池スタック2の小型化及び軽量化が可能になる。
【0032】
さらに、本実施の形態によれば、燃料電池モジュール4や電極板6の周囲が絶縁性のある締結バンド12によって覆われることで、燃料電池スタック2の全体が外部から絶縁される。これにより、燃料電池スタック2の表面に金属片等の導電性物質が付着した場合でも、燃料電池スタック2が短絡することはない。
【0033】
小型軽量であることと表面が絶縁されていることとにより、燃料電池スタック2の設置箇所の制約は少なく、本実施の形態によれば、高い自由度での設計が可能になる。
【0034】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、次のように変形して実施してもよい。
【0035】
上記実施の形態では燃料電池スタック2の締結に一本の締結バンド12を用いているが、複数本の締結バンド12を燃料電池スタック2の側面に巻きつけるようにしてもよい。
【0036】
上記実施の形態において締結バンド12は帯状体ではなく紐状体であってもよい。紐状体であっても隙間無く密に巻きつけていくことで、燃料電池スタック2の側面をしっかりと拘束できるとともに外部との絶縁も確実に行うことができる。
【0037】
上記実施の形態においてボルト14の代わりにいもネジを用いて締結バンド12をインシュレータ10に固定してもよい。これによれば、燃料電池スタック2の表面の突起物を無くすことができ、設置の際の自由度をより高めることができる。
【0038】
上記実施の形態では、燃料電池モジュール4を積層した燃料電池スタック2に本発明を適用しているが、本発明は、板状のセパレータと板状の膜電極接合体とを順に積層した燃料電池スタックにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明が適用された燃料電池スタックの斜視図である。
【図2】締結バンドを一部解いた状態の燃料電池スタックの斜視図である。
【図3】締結バンドが巻きつけられた燃料電池スタックをその積層方向に切断した切断面の一部を示す断面図である。
【図4】締結バンドを用いた燃料電池スタックの締結方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0040】
2 燃料電池スタック
4 燃料電池モジュール
6 電極板
8 出力端子
10 インシュレータ
12 締結バンド
14 バンド固定用ボルト
20 プレス装置
W 締結バンドの幅
P 締結バンドの巻き間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数枚の板状体からなる燃料電池スタックにおいて、
前記燃料電池スタックの側面には締結バンドが前記燃料電池スタックの積層方向に向けて螺旋状に巻かれ、前記締結バンドの一端は前記燃料電池スタックの一方の端部に固定され、前記締結バンドの他端は前記燃料電池スタックの他方の端部に固定されていることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項2】
前記締結バンドには張力が付与されていることを特徴とする請求項1記載の燃料電池スタック。
【請求項3】
前記締結バンドの少なくとも前記燃料電池スタックの表面に接する部位は絶縁性を有していることを特徴とする請求項1又は2記載の燃料電池スタック。
【請求項4】
前記燃料電池スタックの側面はその略全面を前記締結バンドによって覆われていることを特徴とする請求項3記載の燃料電池スタック。
【請求項5】
前記締結バンドは前記締結バンドの幅よりも狭い巻き間隔で密に巻かれていることを特徴とする請求項3記載の燃料電池スタック。
【請求項6】
前記締結バンドは帯状体であることを特徴とする請求項5記載の燃料電池スタック。
【請求項7】
前記締結バンドはガラス繊維強化樹脂にて形成されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の燃料電池スタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−329017(P2007−329017A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159339(P2006−159339)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】