説明

燃料電池スタック

【課題】冷却水及び反応ガスと金属製の集電板が接触するのを防止できるシンプルな構造の燃料電池スタックを提供する。
【解決手段】固体高分子膜の両面にガス拡散電極を配置した膜電極複合体1と、燃料ガス及び酸化剤ガスをガス拡散電極に供給する燃料ガス流通路及び酸化剤ガス流通路4を少なくとも片面に設けたセパレータ2、3とを、燃料ガス流通路がガス拡散電極の一面に接し、酸化剤ガス流通路がガス拡散電極の他面に接するように配置して構成される基本構成要素を複数個積層して積層体を構成し、この積層体を導電性内部プレート21と絶縁性外部プレート22とから構成したエンドプレートで挟持し保持する。また、導電性内部プレート21を介して、燃料電池スタックの発電電流を外部に取り出すと共に、エンドプレート部分においては、燃料電池スタックに供給・排気する流体が絶縁性外部プレート22のみと接触するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性を有する固体高分子を電解質とする固体高分子型燃料電池スタックに関し、特に、その端部の構成に改良を施した燃料電池スタックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解質としてプロトン伝導性を有する固体高分子電解質膜を用いた燃料電池スタックは、一般に、電解質膜を燃料極と酸化剤極で狭持した膜電極複合体(MEA)の両面にガス流通路を設けた電気伝導性のセパレータを配置して単セル電池を構成し、この単セル電池を複数積層してなる積層体の両端を、電流取り出し用集電板とエンドプレートで保持し、両エンドプレートを貫通した孔に複数のスタッドを通し、スプリングを介して積層体を締め付けて構成されている。
【0003】
このような構成を有する燃料電池スタックの各単セル電池には、反応に必要な燃料(水素)と酸化剤(空気)及び冷却に必要な冷却水を均等に供給する必要があり、反応ガス・冷却水を分配・回収するためのマニホールドが設けられている。このようなマニホールドには、内部マニホールド方式と外部マニホールド方式がある。
【0004】
また、前記セパレータとしては、カーボンと樹脂を混合して成形したモールドカーボン板が一般的であり、集電板は、厚さ2mm以上のステンレスなどの金属板が一般的である。このカーボン板とステンレスは接触抵抗が大きく、積層体と集電板の間で電圧低下を生じるため、ステンレス表面に金などの被膜を形成するのが一般的である。
【0005】
しかしながら、ステンレス表面に形成した金の被膜はピンホールが発生しやすく、冷却水内部マニホールドの側面で電食し、金属成分が冷却水中に溶出するという問題点があった。また、エンドプレートもステンレスなどの金属を用いるのが一般的であるため、冷却水内部マニホールドの側面で電食するという問題点があった。
【0006】
上述したような集電板及びエンドプレートが電食するという問題点に対し、いくつかの対策が提案されている。例えば、特許文献1では、金属製エンドプレートと積層体の間に絶縁板を挿入し、絶縁板の内部マニホールドに該当する部分に筒状のパイプを設けて、冷却水がエンドプレートと接触しない構造としている。
【0007】
また、特許文献2では、エンドプレートを樹脂製とし、集電板を貫通している内部マニホールド内側に食い込ませて、冷却水が集電板と接触しない構造としている。さらに、特許文献3では、エンドプレートと集電板の間に絶縁板を挿入し、絶縁板の内部マニホールドのエンドプレート側に筒状のパイプを設け、集電板を貫通している内部マニホールド内側に食い込ませて、冷却水がエンドプレート及び集電板と接触しない構造としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−164075号
【特許文献2】特開2003−163026号
【特許文献3】特開2003−331905号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1による方法には集電板が記載されておらず、冷却水と集電板が接触するという問題点は解決されていない。また、特許文献2及び特許文献3による方法では、冷却水がエンドプレート及び集電板に接触しない構造を実現できるが、絶縁板もしくは樹脂製エンドプレートに筒状のパイプを設ける、または集電板の内部マニホールドに食い込ませるため、構造が複雑になるという問題点があった。また、集電板が積層体側面に露出しており、側面にマニホールドを装着する外部マニホールド方式では、冷却水が集電板に接触するという問題点があった。
【0010】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、冷却水及び反応ガスと金属製の集電板が接触するのを防止することのできる外部マニホールド方式の燃料電池スタックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、固体高分子膜の両面にガス拡散電極をそれぞれ配置した膜電極複合体と、燃料ガス及び酸化剤ガスを前記ガス拡散電極にそれぞれ供給する燃料ガス流通路及び酸化剤ガス流通路を少なくとも片面に設けたセパレータとを、前記燃料ガス流通路が前記ガス拡散電極の一面に接し、前記酸化剤ガス流通路が前記ガス拡散電極の他面に接するように配置して構成される基本構成要素を複数個積層して積層体を構成し、この積層体をその両端に配設したエンドプレートで挟持し、締め付けて保持する燃料電池スタックにおいて、次の点を構成上の特徴とする。
【0012】
(1)前記エンドプレートを導電性内部プレートと絶縁性外部プレートとから構成し、前記導電性内部プレートを介して、燃料電池スタックの発電電流を外部に取り出すと共に、前記エンドプレート部分においては、燃料電池スタックに供給・排気する流体が前記絶縁性外部プレートのみと接触するように構成する。
【0013】
(2)前記セパレータに形成された燃料ガス流通路または酸化剤ガス流通路をセパレータ端部まで延長して積層体側面に開口させて、前記積層体の側面に設置した外部マニホールドと連通させると共に、前記外部マニホールドを前記絶縁性外部プレートと接するように構成する。
【0014】
前記積層体と前記絶縁性外部プレートの間にシール材を挿入すると共に、前記積層体と前記導電性内部プレートの間に導電性クッション材を挿入したことも、本発明の一実施形態である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る燃料電池スタックの実施形態の構成を示す分解斜視図。
【図2】図1に示した実施形態における燃料電池スタックの端部の構成を示す分解斜視図。
【図3】図1に示した実施形態における燃料電池スタックの構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1)実施形態の構成
図1を用いて本実施形態の固体高分子型燃料電池スタックの構成を説明する。すなわち、単セル電池は、膜電極複合体(MEA)1と酸化剤セパレータ2、燃料・冷却水セパレータ3から構成されている。前記酸化剤セパレータ2の表面には酸化剤ガス流通路4が設けられており、この酸化剤ガス流通路4の端部はセパレータ側面に開口され、積層体の側部に配設された酸化剤ガス入口・冷却水出口外部マニホールド50、及び酸化剤ガス出口・冷却水入口外部マニホールド51と連通され、反応に必要な酸化剤ガスを膜電極複合体1に供給・排出するように構成されている。
【0017】
前記燃料・冷却水セパレータ3の一方の表面(図の背面側)には、燃料ガス流通路(図示せず)が設けられており、この燃料ガス流通路の端部はセパレータの上下に開口され、積層体の上部に配設された燃料ガス入口外部マニホールド52、及び積層体の下部に配設された燃料ガス出口外部マニホールド53と連通され、反応に必要な燃料ガスを膜電極複合体1に供給・排出するように構成されている。
【0018】
前記燃料・冷却水セパレータ3のもう一方の表面には、冷却水流通路8が設けられており、この冷却水流通路8の端部はセパレータ側面に開口され、積層体の側部に配設された酸化剤ガス入口・冷却水出口外部マニホールド50、及び酸化剤ガス出口・冷却水入口外部マニホールド51と連通され、所定の流量の冷却水を供給し、反応に伴う発熱を冷却するように構成されている。そして、上記のように構成された単セル電池が複数積層されて、積層体が構成されている。
【0019】
上記のように構成された積層体の両端部には、導電性内部プレート21と絶縁性外部プレート22からなるエンドプレートが配置されている。前記絶縁性外部プレート22の四隅には突起30が設けられ、この突起30の中心部に設けられた孔31を貫通して取り付けられた締め付けスタッド32及び締め付けスプリング33により、エンドプレートの間に配設された積層体が締め付け固定されている。
【0020】
前記絶縁性外部プレート22は、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂等の耐熱性熱硬化性樹脂材料を、圧縮金型成形やインジェクションモールド成形や機械加工することにより得られる。絶縁性外部プレート22には締め付け荷重がかかるため、強度に優れた材料を用いることが好ましく、ガラス繊維シートにエポキシ樹脂を含浸し、積層して構成したガラスエポキシ樹脂積層板を用いても良い。このガラスエポキシ樹脂積層板はガラス繊維シートの方向により強度の異方性があり、曲げ強度が強い方向を長手方向、つまり上下方向とすることが好ましい。
【0021】
このように、本実施形態においては、積層体の側面に、酸化剤ガス入口・冷却水出口外部マニホールド50、酸化剤ガス出口・冷却水入口外部マニホールド51、燃料ガス入口外部マニホールド52、燃料ガス出口外部マニホールド53が配置され、各マニホールドが、対応する酸化剤ガス流通路、燃料ガス流通路、冷却水流通路と連通され、反応に必要な燃料・酸化剤ガスを膜電極複合体に供給・排出すると共に、所定の流量の冷却水を供給し、反応に伴う発熱を冷却するように構成されている。
【0022】
続いて、絶縁性外部プレート22と導電性内部プレート21を含む端部構造について詳細に説明する。すなわち、図2及び図3に示すように、絶縁性外部プレート22と導電性内部プレート21の間には、反応ガス及び冷却水のリークを防ぐための内部プレートシール材40が挿入されている。この内部プレートシール材40は、前記導電性内部プレート21と略同一の形状を有し、その中央部には、前記絶縁性外部プレート22に形成された開口部34と対応する位置に矩形の孔41が形成されている。そして、矩形の孔41及び開口部34を介して、固定ボルト42によって導電性内部プレート21に固定された電流取り出しケーブル43が、外部に引き出されている。
【0023】
前記絶縁性外部プレート22と積層体端部の酸化剤セパレータ2の間には、反応ガス及び冷却水のリークを防ぐための外部プレートシール材44が挿入されている。この外部プレートシール材44は、前記絶縁性外部プレート22の縁部分22aと密着するような枠形状とされている。
【0024】
前記導電性内部プレート21と積層体端部の酸化剤セパレータ2の間には、膨張黒鉛からなる導電性クッションシート45が配設されている。この膨張黒鉛からなる導電性クッションシート45は、可撓性があり、金属とカーボン材の接触抵抗を下げることができるだけでなく、金属成分の溶出を防止することを目的として配設されている。
【0025】
上記各シール材には、EPDM、シリコン、フッ素ゴムなどの耐熱性ゴム材が好適であり、確実なシールを実現するため、発泡材や表面に凸状のリップを設けた構造が用いられる。
【0026】
(2)作用効果
上記のような構成を有する本実施形態においては、エンドプレートを導電性内部プレート21と絶縁性外部プレート22から構成し、ガス・冷却水の内部マニホールドに接する部分(絶縁性外部プレート)を絶縁性材料で構成することにより、導電性内部プレート21の電食を防ぐことができる。また、絶縁性外部プレート22の中央から電流を取り出すように構成することにより、導電性内部プレート21と絶縁性外部プレート22を、平板状のシンプルな構造とすることができるので、加工コストを抑えることができる。
【0027】
さらに、積層体の両端部に配設された絶縁性外部プレート22を介して、締め付けスタッド32及び締め付けスプリング33によって積層体を締め付けるため、締め付けスタッド32の絶縁スペーサが不要になり、部品点数の削減が可能となる。
【0028】
特に、マニホールドを積層体の外部に配設した本実施形態においては、エンドプレートを導電性内部プレート21と絶縁性外部プレート22から構成し、ガス・冷却水の外部マニホールドに接する部分(絶縁性外部プレート)を絶縁性材料で構成することにより、導電性内部プレート21の電食を防ぐことができる。
【0029】
また、絶縁性外部プレート22の中央から電流を取り出すように構成することにより、導電性内部プレート21と絶縁性外部プレート22を、平板状のシンプルな構造とすることができるので、加工コストを抑えることができる。
【0030】
さらに、積層体の両端部に配設された絶縁性外部プレート22を介して、締め付けスタッド32及び締め付けスプリング33によって積層体を締め付けるため、締め付けスタッド32の絶縁スペーサが不要になり、部品点数の削減が可能となる。
【0031】
また、絶縁性外部プレート22と導電性内部プレート21の間に内部プレートシール材40が挿入され、また、導電性内部プレート21と酸化剤セパレータ2の間に外部プレートシール材44が挿入されているため、導電性内部プレート21の電食をより効果的に防ぐことができる。
【0032】
さらに、導電性内部プレート21と積層体端部の酸化剤セパレータ2の間に、可撓性があり、金属とカーボン材の接触抵抗を下げることができる膨張黒鉛からなる導電性クッションシート45を配設することにより、金属成分が溶出することを防止することができる。
【符号の説明】
【0033】
1…膜電極複合体(MEA)
2…酸化剤セパレータ
3…燃料・冷却水セパレータ
4…酸化剤ガス流通路
21…導電性内部プレート
22…絶縁性外部プレート
40…内部プレートシール材
41…矩形の孔
42…固定ボルト
43…電流取り出しケーブル
44…外部プレートシール材
45…導電性クッションシート
50〜53…外部マニホールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子膜の両面にガス拡散電極をそれぞれ配置した膜電極複合体と、燃料ガス及び酸化剤ガスを前記ガス拡散電極にそれぞれ供給する燃料ガス流通路及び酸化剤ガス流通路を少なくとも片面に設けたセパレータとを、前記燃料ガス流通路が前記ガス拡散電極の一面に接し、前記酸化剤ガス流通路が前記ガス拡散電極の他面に接するように配置して構成される基本構成要素を複数個積層して積層体を構成し、この積層体をその両端に配設したエンドプレートで挟持し、締め付けて保持する燃料電池スタックにおいて、
前記エンドプレートを導電性内部プレートと絶縁性外部プレートとから構成し、前記導電性内部プレートを介して、燃料電池スタックの発電電流を外部に取り出すと共に、前記エンドプレート部分においては、燃料電池スタックに供給・排気する流体が前記絶縁性外部プレートのみと接触するように構成され、
前記セパレータに形成された燃料ガス流通路または酸化剤ガス流通路をセパレータ端部まで延長して積層体側面に開口させて、前記積層体の側面に設置した外部マニホールドと連通させると共に、前記外部マニホールドを前記絶縁性外部プレートと接するように構成したことを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項2】
前記積層体と前記絶縁性外部プレートの間にシール材を挿入すると共に、前記積層体と前記導電性内部プレートの間に導電性クッション材を挿入したことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池スタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−222526(P2011−222526A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141610(P2011−141610)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【分割の表示】特願2005−380412(P2005−380412)の分割
【原出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(301060299)東芝燃料電池システム株式会社 (358)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】