説明

燃料電池セパレータの製造方法

【課題】面精度が向上し、かつ、予備成形のためのプレスなどの高価な装置が不要で、しかも、製造時間を短縮可能な燃料電池セパレータの製造方法を提供する。
【解決手段】導電性材料及び樹脂を含む粉末状原料Aを充填容器12内に上面が平らになるように投入する。この充填容器内の粉末状原料Aを加熱して仮成形品Bとし、この仮成形品Bを所定のパターンが形成された金型内に投入して、加熱・加圧して燃料電池セパレータを成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セパレータの製造方法に関し、特に、面精度に優れた燃料電池セパレータを効率的に製造することができる燃料電池セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスと酸化ガスとを使用するタイプの燃料電池、その中でも固体高分子型燃料電池は、イオン導電性の固体電解質膜を、触媒が担持されたガス拡散電極からなるアノードとカソードとで挟み、さらにこれらの外側をセパレータで挟んだ構造をしている。アノード側のセパレータはアノードに燃料ガスとしての水素を供給し、カソード側のセパレータはカソードに酸化剤ガスとしての酸素を供給する。
【0003】
図8はこのようなセパレータの図である。同図に示すように、燃料電池セパレータ1には、板状の表面に細い溝などの厚い薄いの相違によるパターン1aが形成されているが、ガス拡散電極とガスとの接触面積を増加させるため、溝は、ほぼセパレータの全面に蛇行して細かいピッチで形成されている。この溝などのパターン1aは、図8(b)の断面図に示すようにセパレータの両面に形成される場合もあるが、片面のみの場合もある。
【0004】
このような構造のものの他に、セパレータの両面又は片面に突起が配列されていてこれらの突起相互間の隙間をガスの流路とする構造のもの、この突起と上記の溝とが組み合わされた構造のものもある。
【0005】
上記の燃料電池セパレータには、次のような性質が要求される。
【0006】
(1) ガス不浸透性。これは、供給される水素ガスや酸素ガスを透過させない性質をいう。通常、燃料電池は、中心の固体高分子電解質膜、その両側のガス拡散電極、その外側のセパレータまでを1単位セルとして、これらを多数積層して形成される。したがって、1枚のセパレータの少なくとも片側にはガスが流れており、セパレータがガスを通過させてしまうと、電池の発電効率が低下するか、発電自体が不能となり電池として成立しなくなるためである。
【0007】
(2) 導電性。セパレータが燃料電池の集電機能も担っているので、導電性が不可欠となる。
【0008】
(3) 面精度すなわち、厚み精度が高いこと。これは、セパレータとアノードやカソードが接触して電気を通しているので、面精度が悪いと、接触面積が減少し、導電性が悪化するためである。また、面精度が悪いと、アノードやカソードとの間に隙間ができ、この隙間が押しつぶされる方向に力が作用すると、セパレータが割れることがあるからでもある。面精度としては、1つのセパレータの所定の測定点について厚さを測定し、最大の厚さTmaxと最小の厚さTminiとの差d、で評価している。この差dが小さいほど燃料電池の性能が向上する。
【0009】
このような性能を満足すべく、初期のセパレータはグラファイトの板を機械加工して形成されていたが、加工時間が掛かることから、セパレータが高価になり過ぎるという問題があった。
【0010】
そこで、最近になって、カーボンの粉末と、熱硬化性合成樹脂の粉末とを混合して粉末状の原料とし、これをプレス機の下金型内に投入して上金型を被せ、プレス機で加圧・加熱して成形する、という方法が採用されるようになってきた。
【0011】
しかしながら、上記の成形方法によると、出来上がったセパレータの厚さの精度が出せないという問題があった。従来の成形方法では、一辺が200mm程度の燃料電池セパレータにおける面精度が、上述した差dで0.2mm以上も生じ、燃料電池の性能低下の原因となっていた。
【0012】
この問題に対し、特許文献1(特開2001−62858)では、下向きでマトリックス状に複数の投入口を有する投入部と、上記投入口の全てを閉塞する位置から全てを開口する位置までの間で摺動可能に設けられたスライドプレートと、該スライドプレート及び投入部を支持するベースとを有する粉末状原料の投入装置を提案している。
【0013】
この方法は、それまでの方法に比べかなり面精度が改良され、均一な厚さにすることができる。しかし、投入された原料はマトリクス状に設けられた投入口の真下に落下するため、真下に在る原料が他の部分に比べ多くなってしまい、流動性の悪い原料の場合、成形された燃料電池セパレータに密度の疎密の差ができる原因となっていた。
【0014】
また、特許文献2(特開2001−85030)では、粉末状原料をタブレット状に予備成形し、このタブレットを金型に投入する方法を提案している。これは、予めタブレット化することで、原料を均一化することができるという特徴がある。しかし、この方法は、タブレット成形時に大きな荷重を加えて材料を金型の端まで行き渡らせる必要がある。流動性の悪い粉末状原料だと、大面積の成形品を作る場合、タブレットの端部が疎になり易くなるので、均一化は困難である。また、タブレットを金型に投入する場合にも、不均一化が生じやすく、厚みムラもでき易い。
【0015】
特許文献3(特開2004−338268)では、ホッパー内の粉末状原料を、ホッパーを金型の一方端から他方端にむかって移動しながら下金型内に投入し、一定の高さに粉末状原料を供給することで、厚さと質の均一化を図る方法を提案している。
【0016】
しかし、この方法には、次のような問題があった。粉末状原料を下金型に投入し終わると、上金型が下降して粉末状原料を加圧し、同時に金型を加熱して粉末状原料に含まれている樹脂を溶融もしくは硬化させる。したがって、少なくとも2回目以降では、粉末状原料を投入するとき、下金型はかなり高温になっている。そのため、粉末状原料は最初に投入された部分から直ぐに溶融もしくは硬化を始めてしまい、流動や硬化が一斉に進まないことから、寸法的に安定した成形品が得られ難いという問題点があった。
【0017】
また、特許文献4(特開2000−77081)では、予め粉末状原料を低温で圧縮して予備成形品とし、これを金型に投入して加圧、加熱して成形する方法を提案している。
【特許文献1】特開2001−62858
【特許文献2】特開2001−85030
【特許文献3】特開2004−338268
【特許文献4】特開2000−77081
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、特許文献4では、予備成形するのにプレス機が必要となり、プレス機は高価であり、製造設備が大掛かりになることから、燃料電池セパレータのコストアップとなる。また、低温で予備成形するプレス加工の時間も必要となり、時間が掛かる。また、予備成形時に圧力をかけるため、スプリングバックによって変形が起こったり、また、予備成形品を直接手で操作するため、不純物の混入や予備成形品の破損により、歩留まりが低下してしまうという問題があった。また、最終成形品を均一にするためには、予備成形品自体も均一に作製しなくてはならないという問題があった。
【0019】
特許文献1から3では、金型に直接粉末状原料やタブレットを投入するので、手間が掛かり、工程も増え、生産効率が低下するという問題がある。
【0020】
本発明は、上記の事実から考えられたもので、流動性の悪い材料であっても面精度が向上し、かつ、予備成形のためのプレスなどの大掛かりな装置が不要で、しかも、製造時間を短縮可能な燃料電池セパレータの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の目的を達成するために本発明の燃料電池セパレータの成形方法は、導電性材料及び樹脂を含む粉末状原料を充填容器内に上面が平らになるように投入する工程と、該充填容器内の粉末状原料を加熱して仮成形する工程と、該仮成形品を所定のパターンが形成された金型内に投入して、加熱・加圧して成形する工程と、を有することを特徴としている。
【0022】
仮成形された粉末状原料を所定のパターンが形成された金型内に投入するとき、前記充填容器を上下反転させて投入する構成としたり、導電性材料及び樹脂を含む粉末状原料を充填容器に上面が平らになるように投入する前記工程が、前記粉末状原料をホッパーに入れ、該ホッパーの下端の排出口と充填容器との距離を一定に保った状態でホッパーと充填容器との間に相対移動をさせながら前記排出口から粉末状原料を均一な高さに投入する工程としたり、前記ホッパーの供給口が、前記充填容器の上面上を摺動することで、充填容器に投入される粉末状原料を擦り切るようにしたり、前記充填容器が、燃料電池セパレータの厚みパターンに対応したパターンを有する構成としたり、前記樹脂が熱硬化性樹脂で、前記加熱温度が、熱硬化性樹脂が溶融するが硬化しない温度である構成としたり、前記樹脂が結晶性熱可塑性樹脂を含み、前記加熱温度が、該樹脂の融点より高く分解温度より低い温度である構成としたり、前記樹脂が非晶性熱可塑性樹脂を含み、前記加熱温度が、該樹脂のガラス転移点より高く分解温度より低い温度である構成とすることができる。
【0023】
〔作用〕
充填容器に上面が平らになるよう擦り切って粉末状原料を入れ、充填容器ごと加熱すると、粉末状原料に混入されている樹脂が溶融し、粉末状原料の粒子相互が融着する。この融着は、樹脂のごく一部が溶融することによる融着でもよく、樹脂のほとんどが溶融してより強度に融着する程度でもよい。ただし、加熱温度は、樹脂が熱硬化性樹脂の場合は溶融温度以上で硬化温度未満であり、結晶性熱可塑性樹脂の場合は、樹脂の融点より高く分解温度より低い温度で、非晶性熱可塑性樹脂の場合は、樹脂のガラス転移点より高く分解温度より低い温度とする。
【0024】
こうして形成された仮成形品は、充填容器を上下反転させても落下しない程度であればよく、充填容器から出したとき、手でつかむと崩れる程度の結合でもよく、もっと強くクッキーなどのように堅く結合した状態であってもよい。この仮成形品を金型内に入れて、加熱と加圧を加え、熱硬化性樹脂であれば硬化温度以上に上げ、熱可塑性樹脂であれば、ガラス転移点以上にして燃料電池セパレータに成形する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の燃料電池セパレータの製造方法によれば、金型内に均一にかつ同時に粉末状原料を投入することができるので、成形された燃料電池セパレータの面精度が向上する、という優れた効果を奏し得る。ホッパーの供給口が仮成形型の上面を擦り切ることで、余分な粉末状原料を効率的に排除することができ、作業時間を短縮することができる。
【0026】
また、充填容器に、燃料電池セパレータの厚みに対応したパターンを形成し、金型への投入量を、金型の形状に即した量とすることで、燃料電池セパレータの面精度をさらに向上させることができる。
【0027】
さらに、本発明の燃料電池セパレータの成形方法によれば、充填容器を用いて投入の前準備を行なうことができるので、金型へ直接、粉末状原料を投入する場合に比べ、プレス機による燃料電池セパレータの製造時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0029】
図1は、本発明の粉末状原料の投入装置の要部構成を示す斜視図で、図2は、粉末状原料を充填容器に投入している状態を正面から見た模式図である。
【0030】
ホッパー11は、内部に空間11aを有し、その上方が開口してここから粉末状原料Aを投入する。ホッパー11の下部には細長い矩形の供給口11bがある。この供給口11bに、スライドすることで開閉される開閉蓋11cを設けてもよい。粉末状原料Aにダマがあると、原料の均一性にムラができるので、供給口11bに網目状のふるいを設けてもよい。ホッパー11は、図示しない支持体で支持され、支持体やホッパー11などに設けられたバイブレータで図2の矢印に示すように、水平面内で振動可能になっている。バイブレータとしては、ロータリーバイブレータ、ピストンバイブレータなどを使用することができる。
【0031】
充填容器12には、燃料電池セパレータ1のパターン1aと同一、あるいは、燃料電池セパレータ1の厚みの分布を考慮したパターン1aが形成されている。充填容器12の材質であるが、燃料電池セパレータ1を成形する金型と同じ材質にしてもよいが、プレスで圧力を加えることが無いので、樹脂粉末を融点付近で加熱するとき変形せず、かつ、その温度に耐えられる程度の耐熱性があれば、強度は特に必要がない。また、加熱や投入の際の運搬を考慮して、軽量な方が好ましい。さらに、ヒーター等で加熱した際に、粉末状原料に万遍なく熱を行き渡らせるため、熱伝導性の高い方が好ましい。これらの点を考慮すると、例えば、アルミニウムなどを使用することが好ましい。
【0032】
充填容器12の開口幅wと外幅Wとホッパー11の供給口11bの長さLとは、通常、w≦L<Wとなるようにし、充填容器12を配置するときは、供給口11bが充填容器12の開口を跨ぐようにする。L<wにすると充填容器12内に粉末状原料Aが均等に入らなくなるからであり、W<Lになると、充填容器12の外側にも粉末状原料Aがこぼれて無駄が多くなるからである。ただし、工程上の諸条件により、L<wにする場合もある。
【0033】
充填容器12は、移動台13上にほぼ水平に載置され、その上面12bはほぼ水平な平面となっている。移動台13は、下に車輪13aがあり、レールなどの基台15上に載置され、移動手段14のロッド14a等により接続されている。たとえば、ロッド14aをラックとし、移動手段14にピニオンを設けてこのピニオンをモータで正逆双方向に回転することで、移動台13を基台15上を図の左右方向に進退させることができる。あるいは、単軸ロボットや流体シリンダを使用してもよい。ホッパー11の供給口11bは、充填容器12の上面12bから0.1〜1mm程度に位置しており、上面12b上を擦り切るようになっている。
【0034】
次に、本発明の燃料電池セパレータの製造方法を説明する。
【0035】
粉末状原料Aとしては、導電性材料と樹脂を含む混合型を使用する。導電性材料としては主として黒鉛が使用され、人造黒鉛、天然黒鉛のいずれでもよい。樹脂としては熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれも使用可能で、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂等を使用することが多い。熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、種々の熱可塑性樹脂を使用することが可能である。
【0036】
また、その混合割合は、導電性材料が30〜95重量%の範囲であれば燃料電池セパレータ1の製造が可能である。95重量%を越えると成形が困難になり、30重量%未満になると導電性が不足するからである。また、粉末状原料Aは粉末のままでもよいが、各原料の粉を混合した後、顆粒状に成形してもよい。
【0037】
充填容器12の開口端がホッパー11の供給口11b(なお、ここでは、供給口11bには開閉蓋11cを設けていない)のほぼ中央部に位置するように、充填容器12を載置し、ホッパー11内に粉末状原料Aを投入する。その際、同時にバイブレータでホッパー11を図の左右方向に振動させることで、内部の粉末状原料Aが途中で引っかからずにスムーズに落下できるようにすることもできる。
【0038】
ホッパー11内に粉末状原料Aを投入すると、粉末状原料Aは落下して、充填容器12内の供給口11bの下部に充填され、その上にホッパーの空間11a内の粉末状原料Aが積み上がった状態となる。この状態から移動台13が図2の矢印方向に移動すると、ホッパー11内の粉末状原料Aが充填容器12内を充填しながら、余分な粉末状原料Aをホッパー11の供給口11bで擦り切って粉末状原料Aを上面が平らになるように充填する。充填容器12の上面12bで擦り切ることを目的として、擦り切り板(図示せず)を設けても良い。
【0039】
充填容器12が供給口11bの下を通過し終わると、図3に示すように充填容器12の空間内に粉末状原料Aが充填された状態となる。
【0040】
この後、充填容器12を加熱台(図示せず)に置き、ヒーターなどの加熱器具で粉末状原料Aをその原料に含まれる樹脂の融点付近まで上げ、その状態を保持する。この場合、熱可塑性樹脂の場合は、結晶性であれば融点より高く分解温度より低い温度、非晶性であればガラス転移点より高く分解温度より低い温度であり、熱硬化性樹脂の場合は、樹脂の融点より高く硬化点より低い温度とする。加熱温度が低い場合は樹脂が溶融しないために仮成形ができず、粉末状原料Aを一度に金型に投入できない。加熱温度が高すぎる場合は、熱硬化性樹脂では硬化が始まってしまい成形ムラ(疎など)の原因になる。
【0041】
特に熱硬化性樹脂の場合、加熱温度は融点をTmとして、Tm〜Tm+50℃とするのが好ましく、Tm〜Tm+20℃とするのがさらに好ましい。なお、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを混合して使用する場合には、上記の点を考慮して加熱温度を特定することになる。
【0042】
このようにして充填容器12内で加熱された粉末状原料Aは、含まれている樹脂の一部が溶融して粒子相互が軽く溶着した状態となり、充填容器12を上下反転させてもすぐには落ちてこない状態となる。これをここでは仮成形といい、このように仮成形されたものを仮成形品Bという。従来であれば、金型に投入する際に、金型へ一度に粉末状原料を投入することは困難であったが、本発明の仮成形品Bを投入する方法を用いれば、一度に投入することが可能となり、均一投入を容易に行うことができる。
【0043】
ここで、仮成形品Bとは、粉末状原料Aの樹脂が溶融して相互に融着した状態のものを指す。融着の程度は、樹脂の一部が溶融した程度で、充填容器12を反転させても辛うじて落ちてこない程度の結合でもよく、樹脂のすべてが溶融し、クッキーのような状態となって、手などで一寸力を入れて曲げると折れるが、小さい力であれば折れたり破損したりすることない程度に結合させてもよい。ただ、あまり堅く結合するまで加熱すると、樹脂の硬化や劣化が始まってしまい、成形不良や成形品の物性の低下を招く恐れがあり、また、充填容器12から離脱しにくくなり、金型への投入が困難になる恐れもあるため、充填容器12を反転させても辛うじて落ちてこない程度に結合させた程度が好ましい。
【0044】
図4に示すように、この仮成形品Bの入った充填容器12を、成形用の下金型21の上にもっていき、位置決めピンなどで正確に位置決めして上下反転し、ハンマーなどで充填容器12を軽く叩くと、仮成形品Bが成形用の下金型21の上に落下する。仮成形品Bを取り出そうとすると崩れてしまう程度にしか融着しておらず、充填容器12からそのまま取り出すことができないような場合でも、この方法であれば、金型に均一に投入することができる。その後、上金型22(図5、図6参照)を降下させ、圧力と熱を加えることで燃料電池セパレータを成形し、元の厚さの数分の1の厚さに圧縮されて図8に示す燃料電池セパレータ1となる。このときの温度は、熱硬化性樹脂であれば硬化温度以上であり、熱可塑性樹脂であれば、ガラス転移点以上である。
【0045】
次に、充填容器12に形成するパターンの深さと、燃料電池セパレータ1の厚さとの関係を以下に説明する。
【0046】
図5は充填容器12にパターンを形成しない場合を説明する図である。図5(a)は燃料電池セパレータ1の断面形状を示す。この例では、燃料電池セパレータ1にはパターン1aが形成され、厚い部分と薄い部分との2種類の厚さがある。薄い部分が溝に対応する部分で厚い部分は溝と溝との間の部分である。この場合、燃料電池セパレータ1は、厚い部分も薄い部分も同じ密度になっていることが好ましい。
【0047】
図5(b)に示すように、上金型22と下金型21には、燃料電池セパレータ1のパターン1aを形成するためのパターン21a,22aが形成されている。充填容器12にパターン12aが形成されていない場合は、図5(b)に示すように一定の厚さを持った仮成形品B’ができる。この仮成形品B’を上金型22と下金型21との間に入れ、加圧、加熱を加えて燃料電池セパレータ1’を形成すると、図5(c)に示すように、薄い部分の密度が密になり、厚い部分の密度は疎になってしまう。
【0048】
そこで、本発明では、図6に示すように充填容器12にパターン12aを形成している。そして、図5(a)に示すように燃料電池セパレータ1の厚い部分の厚さをmとし薄い部分の厚さをnとし、図6(a)に示すように、パターン12aの深い部分の深さをM、浅い部分の深さをNとしたとき、
【0049】
M:N≒m:n
となるようにしている。
【0050】
図6では、このような考えで充填容器12のパターン12aを形成しているので、完成した燃料電池セパレータ1には疎密のムラはできず、均一な成形体を得ることができる。
【0051】
なお、燃料電池セパレータ1のパターン1aと充填容器12のパターン12aとは一致させてもよいが、パターン1aが細かい場合には、パターン1aと同じものを充填容器12に形成しなくとも良い。忠実に同じパターンを形成すると、金型投入時の問題として、充填容器12から金型へスムーズに投入されず、充填容器12に仮成形品Bの一部が欠けて残存してしまうことが起こるためである。パターン1aが細かい場合には、たとえば、複数の凹凸の平均値をとることによって、ほぼ均一な密度に成形することが可能である。
【0052】
このように本発明では、充填容器12を用いて粉末状原料Aを加熱するだけで仮成形品Bを作り、加圧しないので、プレスなどの大掛かりな装置が不要となり、燃料電池セパレータの製造コストを引き下げることができ、また、生産の能率アップを図ることが可能である。さらに、直接手で操作しないので、不純物の混入や、仮成形品の破損による歩留まり低下の懸念も払拭することができる。
【0053】
また、実施例では、成形用金型で成形に要する時間は1サイクルで5分程度である。これに対し、充填容器に粉末状原料を投入し、加熱して金型に投入する前準備に要する時間は、3〜4分である。したがって、成形用金型で成形している間に事前に用意することができ、製造時間を短縮することができる。
【0054】
なお、上記前準備に要する時間が、成形用金型で成形する時間より長い場合は、予め多くの仮成形品を作成しておくことで製造時間を短縮することができる。
【0055】
また、充填容器12内に粉末状原料Aを均等に投入でき、しかも、燃料電池セパレータ1には疎密のムラができないので、完成した燃料電池セパレータ1には反りなどが生じず、最大の厚さTmaxと最小の厚さTminiとの差dも小さくすることができる。
【実施例1】
【0056】
次に本発明の実施例について、従来例と比較した数値を示す。
【0057】
図7は、本発明による製造方法と、従来の方法とで製造した燃料電池セパレータの比較表である。同図に示す実施例1,2及び比較例1,2,3の組成比は、全て、樹脂25重量部、塊状黒鉛100重量部で、実施例2が樹脂にフェノール樹脂を使用した以外は実施例1と比較例1,2,3は同じ組成の粉末状原料である。
【0058】
実施例1,2は、図1の投入装置を用いて充填容器に粉末状原料を投入・加熱して仮成形品を製造し、これを金型に投入して燃料電池セパレータにした。比較例1は直接金型に粉末状原料を投入したもので、比較例2は、特許文献1に記載の投入治具を使用した。比較例3は粉末状原料からペレットを形成し、これを金型内に投入する方法であった。金型における加圧力と加熱温度、加圧・加熱時間は全て同一とした。
【0059】
測定ポイントは、成形された燃料電池セパレータの予め決められたポイントであり、実施例1,2及び比較例1,2,3の全て同じ個所で、各20個所でマイクロメータにより測定した。厚みムラは、各測定ポイントの厚さが異なるので、各測定ポイントにおける標準厚さを0とし、標準より厚いか薄いかで表示し、最大と最小の差を求め、厚みムラ(面精度)とした。成形の状態は、超音波映像装置の画面を観察して疎密のムラの有無を判断した。
【0060】
実施例1,2ではともに厚みムラ(面精度)が0.04mmとなり、比較例1の0.2mm、比較例2の0.15mmと比べて非常に高精度になった。また、成形の状態では、比較例1,2では疎密のムラができたが、実施例1,2では良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の粉末状原料の投入装置の要部構成を示す斜視図である。
【図2】粉末状原料を充填容器に投入している状態を正面から見た模式図である。
【図3】充填容器の空間内に粉末状原料が充填された状態を示す図である。
【図4】仮成形品を成形用の下金型に投入する状態を示す図である。
【図5】充填容器にパターンを形成しない場合を説明する図である。
【図6】充填容器にパターンを形成した場合を説明する図である。
【図7】本発明による製造方法と、従来の方法とで製造した燃料電池セパレータの比較表である。
【図8】燃料電池セパレータの図で、(a)は平面図、(b)は(a)のI−I断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 燃料電池セパレータ
1a (燃料電池セパレータの)パターン
11 ホッパー
11a 空間
11b 供給口
11c 開閉蓋
12 充填容器
12a (充填容器の)パターン
12b 上面
13 移動台
14 移動手段
A 粉末状原料
B 仮成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料及び樹脂を含む粉末状原料を充填容器内に上面が平らになるように投入する工程と、該充填容器内の粉末状原料を加熱して仮成形する工程と、該仮成形品を所定のパターンが形成された金型内に投入して、加熱・加圧して成形する工程と、を有することを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項2】
仮成形された粉末状原料を所定のパターンが形成された金型内に投入するとき、前記充填容器を上下反転させて投入することを特徴とする請求項1記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項3】
導電性材料及び樹脂を含む粉末状原料を充填容器に上面が平らになるように投入する前記工程が、前記粉末状原料をホッパーに入れ、該ホッパーの下端の排出口と充填容器との距離を一定に保った状態でホッパーと充填容器との間に相対移動をさせながら前記排出口から粉末状原料を均一に投入する工程であることを特徴とする請求項1又は2記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項4】
前記ホッパーの供給口が、前記充填容器の上面上を摺動することで、充填容器に投入される粉末状原料を擦り切ることを特徴とする請求項3記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項5】
前記充填容器が、燃料電池セパレータの厚みパターンに対応したパターンを有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂が熱硬化性樹脂を含み、前記加熱温度が、熱硬化性樹脂が溶融するが硬化しない温度であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂が結晶性熱可塑性樹脂を含み、前記加熱温度が、該樹脂の融点より高く分解温度より低い温度であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂が非晶性熱可塑性樹脂を含み、前記加熱温度が、該樹脂のガラス転移点より高く分解温度より低い温度であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の燃料電池セパレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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