説明

燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子

【課題】 本発明は、流動性に優れ、特定のかさ密度を有することから成形性にも優れ、電気的特性や機械的強度に優れた燃料電池セパレータ用導電性樹脂複合体粒子に関するものである。
【解決手段】 導電性炭素を含む水性媒体中でフェノール類およびホルマリン類とアンモニアを重合させることにより得られる複合体粒子であって、当該複合体粒子の平均粒子径が10〜100μmであり、かさ密度が0.3g/ml以上0.8g/ml以下であり、導電性炭素の含有量が複合体粒子に対して60〜90重量%であり、さらに体積固有抵抗が100mΩcm以下であることを特徴とする燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セパレータ用導電性樹脂複合体粒子に関するものである。
また、流動性に優れ、特定のかさ密度を有することから成形性にも優れ、電気的特性や機械的強度に優れた燃料電池セパレータ用導電性樹脂複合体粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に燃料電池は、環境に優しい未来型のエネルギーとして注目されている。その構造は、複数の単位セルを直列に重ねて構成されるセルスタックからなっている。この単位セルを構成するのが、正極、セパレータ、電解質、負極である。
【0003】
正極に供給された水素は、触媒の作用でイオン化され、水素イオンと電子とに分離する。水素イオンは、電解質を通して負極に移動し、同時に、電子は外部回路を通して負極に移動し、そこで水素イオン、酸素および電子が反応して水が生成する、というメカニズムである。
【0004】
セパレータに要求される項目としては、高い電導性、電解質による耐腐食性、燃料ガスと空気の遮断性、曲げ強度等の機械的強度、耐クリープ性、耐熱性、耐膨潤性、成形性、低コスト等のさまざまな項目がある。
【0005】
このようなセパレータには、大きく分けて金属系セパレータと炭素系セパレータの二つのタイプがある。前者は、機械的強度、ガス不透過性、寸法安定性において、一方、後者は、耐腐食性、軽量さにおいて有利である。
【0006】
一般に、炭素系セパレータは、導電性炭素材と熱硬化性樹脂を混合・混錬して成形し、切削により溝パターンを形成させる方法により作製される。最近は、金型による圧縮成形に変えて量産性の向上とコストダウンを図っている。特に、導電性炭素材としての粒度を規定することで、成形性と導電性を両立させている(特許文献1)。
【0007】
また、導電性炭素材と熱硬化性樹脂とを流動層のような処理機を用いて無加圧状態で混合し、かつ造粒して得られたセパレータ用成形材料の製造方法が提案されている(特許文献2)。
【0008】
さらに、フェノール核結合官能基がメチレン基、メチロール基、およびジメチレンエーテル基より構成され、各官能基の比率を特定することで、成形性と電気的な耐久性および導電性に優れたセパレータ用樹脂組成物が提案されている(特許文献3)。
【0009】
また、熱硬化性樹脂と黒鉛粒子成分を混練して得られる樹脂組成物に関して、混練前の黒鉛粒子の平均粒径が1〜150μmの範囲にあり、混練前に対する混練後の平均粒径の変化率が30%未満にすることで、成形性の悪化や電気特性の低下を抑制できることを報告している(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−203643号公報
【特許文献2】特開2003−086198号公報
【特許文献3】特開2003−049049号公報
【特許文献4】特開2005−339899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、燃料電池セパレータ用炭素材料に関するものであり、成形性を損なうことなく、電気的特性や機械的特性に優れた燃料電池セパレータ用成形材料を提供する。さらに、短時間で成形でき、燃料電池セパレータとしてのコストダウンに大きく貢献できる燃料電池セパレータ用成形材料は強く求められている。
【0012】
即ち、前記特許文献1(特開2003−203643号公報)には、成形材料化された段階での成形材料中の炭素系基材が、平均粒径が50μm以上、100μm以下の範囲内にあり、かつ、全粒子中の85%以上が粒径10μm以上、200μm以下の範囲内にあることが記載されているが、これらは成形体を作製する上で重要な成形材料としての粒度に関するものではなく、成形に際してその作業性を向上させる効果は見られない。
【0013】
また、特許文献2(特開2003−086198号公報)に記載されている成形材料は、炭素系素材と熱硬化性樹脂を無加圧状態で、混合しつつ造粒ないし混合した後造粒されたものであり、炭素系基材のへき開や小径化が起こりにくく、流動性にも優れると記載されているが、得られた造粒物の粒度に関する記載がなく、さらに、市販のフェノール樹脂あるいは一旦別の容器で合成したフェノール樹脂を用いることから、炭素素材とフェノール樹脂の濡れ性の悪さに基づく空隙が存在し、結果として成形体としての空隙を残さないために成形時の圧力を高める必要があり生産性の面で好ましくない。
【0014】
また、特許文献3(特開2003−049049号公報)に記載されている燃料電池セパレータ用樹脂組成物は、フェノール樹脂のメチレン基、メチロール基、及びジメチレンエーテル基を規定することで、成形性や成形体の強度を向上させられると記載されている。ただし、炭素素材とフェノール樹脂との濡れ性に関しては上記特許と同様に優れているとはいえず、結果として成形圧力を高める必要があることから生産性の面で好ましくない。
【0015】
また、特許文献4(特開2005−339899号公報)に記載されている燃料電池セパレータ用樹脂組成物は、黒鉛粒子の平均粒径が1〜150μmの範囲にあり、且つ、熱硬化性樹脂との混練による黒鉛粒子の平均粒径の変化率が30%未満であることにより、電気特性の低下を防止している旨の記載があるが、これは原料としての炭素素材の粒度の変化を防止しているだけであり、成形材料としての粒度には言及しておらず、成形性への効果は期待できない。
【0016】
そこで、本発明は、燃料電池セパレータ用成形材料として、成形性に優れ、且つ、電気的特性や機械的特性においても優れた材料を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0018】
即ち、本発明は、導電性炭素を含む水性媒体中でフェノール類およびホルマリン類とアンモニアを重合させることにより得られる複合体粒子であって、当該複合体粒子の平均粒子径が10〜100μmであり、かさ密度が0.3g/ml以上0.8g/ml以下であり、さらに体積固有抵抗が100mΩcm以下であり、導電性炭素の含有量が複合体粒子に対して60〜90重量%である燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子である(本発明1)。
【0019】
また、本発明は、複合体粒子の粒度分布において、50%粒度に対する90%粒度の比率(D90/D50)及び、10%粒度に対する50%粒度の比率(D50/D10)が、いずれも3.0以下であることを特徴とする本発明1記載の燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子である(本発明2)。
【0020】
また、本発明は、導電性炭素として、カーボンブラック粉末あるいは黒鉛粉末を用いることを特徴とする本発明1又は2に記載の燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子である(本発明3)。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る燃料電池セパレータ用導電性樹脂複合体粒子は、流動性に優れ、特定のかさ密度を有することから成形性にも優れ、電気的特性や機械的強度に優れた燃料電池セパレータ用導電性樹脂複合体粒子に関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の構成をより詳しく説明すれば、次の通りである。
【0023】
本発明に係る燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子の平均粒子径(D50)は10〜100μmである。平均粒子径が10μm未満の場合、成形材料として流動性が悪く成形性に影響を与える。一方、100μmを越える場合には、セパレータの薄厚化が難しくなる。好ましい平均粒子径は10〜90μm、より好ましくは15〜80μmである。
【0024】
本発明に係る燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子のかさ密度は0.3g/ml以上0.8g/ml以下である。かさ密度が0.3g/ml未満の場合、成形材料としての流動性が悪く、さらに成形前と成形後の厚みの変化率が大きく、金型の設計が難しくなる。一方、0.8g/mlを越える場合には、成形後の表面の平滑性に影響が生じる。好ましいかさ密度は0.32g/ml以上0.7g/ml以下であり、より好ましくは0.35g/ml以上0.6g/ml以下である。
【0025】
本発明に係る燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子の体積固有抵抗は100mΩcm以下である。体積固有抵抗が100mΩcmを越えるとセパレータにした際の導電性が不十分となる。好ましい体積固有抵抗は1〜50mΩcmであり、より好ましくは、2〜20mΩcmである。
【0026】
本発明に係る燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子の導電性炭素の含有量が複合体粒子に対して60〜90重量%である。導電性炭素の含有量が60重量%未満の場合には、セパレータとしての電気的特性が不十分であり、一方、90重量%を越える場合には、機械的強度において不十分である。好ましくは70〜90重量%、より好ましくは80〜90重量%である。
【0027】
本発明に係る燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子の粒度分布において、50%粒度に対する90%粒度の比率(D90/D50)及び、10%粒度に対する50%粒度の比率(D50/D10)が、いずれも3.0以下であることが好ましい。3.0を越える場合には、充填性に影響が生じ、セパレータとして機械的強度およびガス透過性において不十分となる。より好ましい粒度分布の範囲は1.0〜2.0である。
【0028】
本発明に係る燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子のBET比表面積は0.1m/g以上10m/g以下であることが好ましい。
【0029】
本発明に係る燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子の流動率は30〜100secであることが好ましい。
【0030】
本発明に係る燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子の粒子形状は粒状である。
【0031】
次に、本発明に係る燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子の製造法について述べる。
【0032】
本発明に係る燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子は、フェノール類、アルデヒド類及び導電性炭素を、塩基性触媒を開始剤として水性媒体中で重合反応させてフェノール樹脂を結合樹脂とする炭素とフェノール樹脂からなる複合体粒子を生成させた後、該複合体粒子を固液分離し、次いで、乾燥することで得られる。
【0033】
本発明に係る燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子は、導電性炭素とフェノール類とホルマリンおよび重合開始剤としてのアンモニア水を水媒体中で、80〜90℃の温度範囲で反応させた後、40℃以下に冷却すると、粒状複合体粒子粉末を含む水分散液が得られる。
【0034】
本発明における導電性炭素として、カーボンブラック粉末か黒鉛粉末を用いることを特徴とする。黒鉛粉末のほうが好ましい。黒鉛粉末として人造黒鉛でも天然黒鉛のいずれでも構わない。本発明においては、導電性炭素に対して親油化処理は行わずに用いる。
【0035】
本発明における導電性炭素のBET比表面積は、2〜120m/gが好ましく、より好ましくは2〜20m/gである。2m/g未満でも特に問題はないが、導電性炭素の粒径が大きく、得られた粒状複合体粒子の粒径も100μmを超えてしまう。一方、120m/gを超える場合には、フェノール、ホルマリン等の使用量が多くなることにより、結果として複合体粒子中の導電性炭素の含有量が低くなってしまう。
【0036】
次に、この水分散液を濾過、遠心分離等の常法に従って固液を分離した後、乾燥することにより、粒状複合体粒子粉末が得られる。この際、水による洗浄を十分に行うことで、セパレータとしての特性を安定化させることが可能となる。
【0037】
本発明においては、フェノール樹脂の代わりに、エポキシ樹脂を用いることもできる。その製造方法としては、例えば、水性媒体中にビスフェノール類とエピハロヒドリンと導電性炭素を分散させ、アルカリ水性媒体中で反応させる方法が挙げられる。
【0038】
<作用>
本発明に係る複合体粒子は、主に、重合して得られるフェノール樹脂−導電性炭素の複合体粒子に起因し、成形性の優れた粒状導電性樹脂複合体粒子である。
【0039】
本発明に係る複合体粒子は、平均粒子径が10〜100μmであり、かさ密度が0.3g/ml以上0.8g/ml未満であり、導電性炭素の含有量が複合体粒子に対して60〜90重量%であり、さらに体積固有抵抗が100mΩcm以下であるために、成形性に優れ、電気的特性や機械的強度にも優れた燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子である。
【実施例】
【0040】
本発明の代表的な実施例は次の通りである。
【0041】
複合体粒子及び導電性炭素の平均粒子径(D50)はレーザー回折式粒度分布計(堀場製作所製)により計測した値で示した。また、粒子の粒子形態は、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、S−800)で観察したものである。
【0042】
50%粒度に対する90%粒度の比率(D90/D50)及び、10%粒度に対する50%粒度の比率(D50/D10)の測定も、上記レーザー回折式粒度分布計により測定した値から算出した。
【0043】
BET比表面積は、Tri Star3000(島津製作所製)を用いて25℃の条件で測定した。
【0044】
かさ密度及び流動率は、JIS Z2504およびZ2502 の方法に準じて、サンプル量10gで測定した値で示した。
【0045】
導電性炭素含有量は、示差熱熱重量分析装置(TG/DTA6300;セイコーインスツルメント社製)を用いて200℃〜550℃の重量減少分からフェノール樹脂分を求めることで計算して得た。
【0046】
体積固有抵抗値は、ハイレジスタンスメーター4329A(商品名、横河ヒュ−レットパッカード社製)で測定した値を用いた。
【0047】
<複合体粒子の製造>
<実施例1>
3Lのフラスコに、フェノール82g、37%ホルマリン115g、黒鉛粉末(平均粒子径;14.1μm、BET比表面積;13.8m/g)400g、25%アンモニア水80g及び水1300gを仕込み、攪拌しながら60分間で85℃に上昇させた後、同温度で120分間反応させることにより、フェノール樹脂と黒鉛粒子からなる複合体粒子の生成を行った。
【0048】
次に、フラスコ内の内容物を30℃に冷却し、上澄み液を除去し、さらに下層の沈殿物を濾過し、通風乾燥機で80℃で7時間乾燥して複合体粒子を得た。得られた複合体粒子は、導電性炭素の含有量が80.5%、平均粒子径(D50)が38μm、かさ密度が0.38g/ml、体積固有抵抗が5mΩcm、50%粒度に対する90%粒度の比率(D90/D50)が1.8及び、10%粒度に対する50%粒度の比率(D50/D10)が1.4であった。
【0049】
<実施例2〜5>
導電性炭素の種類及びその他反応条件を変えた以外は、実施例1と同様にして複合体粒子を得た。このときの製造条件を表1に、得られた複合体粒子の諸特性を表2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
<比較例1>
黒鉛粒子粉末(平均粒子径;16.8μm、BET比表面積26m/g)1kgをヘンシェルミキサー内に投入し、さらに市販されているレゾール型フェノール樹脂(フェノライトJ325;DIC社製)固形分として180gとエタノール250gを投入させ、80℃で2時間攪拌および造粒を行った。得られた造粒粒子は、導電性炭素の含有量は84.7%で、平均粒子径(D50)は112μm、かさ密度は0.36g/mlであった。さらに、体積固有抵抗は48mΩcm、(D90/D50)は5.1、(D50/D10)は4.0であった。
【0053】
<比較例2>
結合樹脂原料の量を変えた以外は、実施例1と同様にして複合体粒子を得た。このときの製造条件を表1に、得られた複合体粒子の諸特性を表2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る燃料電池セパレータ用導電性樹脂複合体粒子は、流動性に優れ、特定のかさ密度を有することから成形性にも優れ、電気的特性や機械的強度に優れた燃料電池セパレータ用導電性樹脂複合体粒子に関するものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性炭素を含む水性媒体中でフェノール類およびホルマリン類とアンモニアを重合させることにより得られる複合体粒子であって、当該複合体粒子の平均粒子径が10〜100μmであり、かさ密度が0.3g/ml以上0.8g/ml以下であり、さらに体積固有抵抗が100mΩcm以下であり、導電性炭素の含有量が複合体粒子に対して60〜90重量%であることを特徴とする燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子。
【請求項2】
複合体粒子の粒度分布において、50%粒度に対する90%粒度の比率(D90/D50)及び、10%粒度に対する50%粒度の比率(D50/D10)が、いずれも3.0以下であることを特徴とする請求項1記載の燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子。
【請求項3】
導電性炭素として、カーボンブラック粉末あるいは黒鉛粉末を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の燃料電池セパレータ用粒状導電性樹脂複合体粒子。

【公開番号】特開2010−238602(P2010−238602A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86837(P2009−86837)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】