説明

燃料電池セパレータ

【課題】燃料電池セパレータにおいて、燃料電池面内での発電の不均一を減少させて、効率よく運転を安定して行う。
【解決手段】反応ガスの流体用溝は、複数の平行流路が多段に折り返されるサーペンタイン状の燃料ガス流路35を形成し、流体下流部の流体用の溝部36の幅の山部54の幅に対する比率を流体上流部の流体用の溝部34幅の山部52の幅に対する比率よりも大きくする。流体上流部の単位面積当たりの山部54の面積が流体下流部の山部52の面積よりも大きくなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質型燃料電池のセパレータ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の固体高分子型燃料電池の構造と動作について、図6を参照しながら説明する。図6は従来の固体高分子型燃料電池の構造と動作を示す模式図である。図6に示すように、従来の高分子型燃料電池の単セルは、高分子イオン交換膜からなる電解質10の両側に触媒層14と燃料側拡散層15とを有する燃料側電極12と触媒層18と酸化剤側拡散層19とを有する酸化剤側電極16とが対向して配置して構成された膜電極アセンブリ20(MEA)を燃料用セパレータ30及び酸化剤用セパレータ32によって挟持して構成されている。また、それぞれのセパレータと膜電極アセンブリ20の間にはガスケット22,24が挟まれている。
【0003】
燃料には水素、酸化剤としては酸素を含む空気を用いることが多い。燃料となる水素は燃料用セパレータ30に形成された溝部34,36を流れる。一方の酸化剤としての空気は酸化剤用セパレータ32に形成された溝部38,40を流れる。水素は溝部34,36から燃料側電極12の燃料側拡散層15に供給され、燃料側拡散層15において燃料電池の面内方向にも拡散し、溝部34,36及び山部52,54に対向している触媒層14に供給され、それぞれの部分において触媒層14の働きで電子を切り離して水素イオンとなる。切り離された電子は燃料側電極12から燃料用セパレータの山部52,60,54,62を通って外部に出て行く。一方、水素イオンは電解質10の内部を通って酸化剤側電極16に移動し、燃料側電極12から外部に出て行った電子は導電線68によって接続された負荷70を通って酸化剤用セパレータ32の山部60,56,62,58を通って酸化剤側電極16に入ってくる。酸化剤用セパレータ32の溝部38,40に流れている空気中の酸素は、酸化剤側拡散層19に供給され、酸化剤側拡散層19において燃料電池の面方向にも拡散し、溝部38,40及び山部56,58に対向している触媒層18に供給される。そして、この山部から供給された電子と電解質10を通ってきた水素イオンと酸素が触媒層18の働きで反応して、酸化剤側電極16で水が生成される。生成された水は酸化剤側電極16から酸化剤用セパレータ32の溝部38,40に流れ、溝部を流れる空気と共に固体高分子電解質型燃料電池の外部に排出される。また、固体高分子電解質型燃料電池が発電反応を起こすと熱を発生することから、燃料電池の温度を適正な温度範囲に保つことが出来るように、燃料用セパレータ30、及び酸化剤用セパレータ32共に、燃料、空気が流れる溝の背面側に冷却媒体を流す溝部42,44を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような固体高分子電解質型燃料電池においては、燃料用セパレータ30、及び酸化剤用セパレータ32の各電極側の燃料又は空気の流れる溝部は、燃料である水素と酸化剤である空気をそれぞれの拡散層15,19に供給する役割を有している。また、それぞれのセパレータの山部は発生した電子を移動させ、電流を流す導電路の役割を有している。
【0005】
一方、それぞれのセパレータに形成される溝部は固体高分子電解質型燃料電池の効率を高めるため折れ曲がった長い流路を形成している。すると、それぞれのガスの上流部においては、単位面積当たりの燃料となる水素の分子数も酸化剤となる空気中の酸素の分子数も多いことから発電量が多くなり、逆にガスの下流部においては、単位面積当たりの水素分子の数も酸素分子の数も少なくなることから、発電量が少なくなり、燃料電池セルの面内で発電状態の不均一が発生し燃料電池の性能が低下してしまうことがある。そこで特許文献1には、ガス下流部において電極基板の空隙率を上げることによって、発電量の不均一を解決しようという技術が開示されている。
【0006】
また、図7に示すように、反応ガス入口102の反応ガス流路105の反応ガス流路溝110の数を反応ガス出口103に向かって少なくして、単位面積当たりの燃料となる水素分子の数と酸化剤側の酸素分子の数が大きく変化しないようにすると共に、反応ガス流路溝110,120の数を少なくすることによって流速を上げて生成水の排水を促進しようとするセパレータ100が提案がされている(例えば、特許文献2,3参照)。
【0007】
【特許文献1】特表平11−511289号公報
【特許文献2】特開2001−52723号公報
【特許文献3】特開2000−311696公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、近年の高燃料利用率、高空気利用率で運転される固体高分子電解質型燃料電池では、ガスの上流側と下流側とで反応ガスの濃度の差が更に大きく、これによる単位面積あたりの発電量の不均一が顕著に現れてくる。つまり、ガス濃度の濃い上流側は単位面積当たりの反応ガスの分子数が多く、単位面積あたりの発電量が多くなる。一方、ガスの下流側では、ガス濃度が薄くなり単位面積当たりの反応ガス分子数が少なく、発電量が少なくなることに加えて、溝部から拡散層の面内方向への拡散傾向が小さくなって来る。このため下流部では全体として反応ガスの分子数の低下以上に単位面積あたりの発電量が低下してくる。この傾向は下流のガスの濃度が低くなってくるほど顕著に現れてくる。
【0009】
上記の特許文献2又は3に記載された従来技術は、反応ガスの分子密度は平均化することが出来るが、下流側において問題となる、溝部から拡散層の面内方向への拡散傾向が小さくなって来ることによる発電量低下の問題については解決されておらず、ガス下流側における単位面積あたりの発電量の低下の問題が解決されていない。また、上記のように下流側での発電量は反応ガスの分子密度の低下以上に少なくなることから、特許文献2又は3に記載された従来技術では、下流側において山部の幅が発電電流に対して大きすぎて電気抵抗が小さくなり、逆にガスの上流部の抵抗が相対的に大きくなる。これによって全体として電気抵抗のアンバランスが発生し、燃料電池の面内での発電の不均一が大きくなってしまう場合があった。
【0010】
そこで、本発明は、燃料電池面内での発電の不均一をより減少させて、効率よく運転を行える燃料電池セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の燃料電池セパレータは、電解質を燃料側電極と酸化剤側電極とで挟んで構成される膜電極アセンブリの前記燃料側電極側に取り付けられ前記燃料側電極に燃料流体を供給する燃料用セパレータと、前記膜電極アセンブリの前記酸化剤側電極側に取り付けられ前記酸化剤側電極側に酸化剤流体を供給する酸化剤用セパレータのうち少なくとも一方の燃料電池セパレータであって、前記電極に供給される流体を流す溝と、前記溝と溝の間に設けられ、電極に接触して電流を流す導体路である山部と、を備え、前記流体の上流部は前記流体の下流部よりも、前記膜電極アセンブリ単位面積当たりの山部面積が大きくなっていること、を特徴とする。
【0012】
本発明の燃料電池セパレータは、電解質を燃料側電極と酸化剤側電極とで挟んで構成される膜電極アセンブリの前記燃料側電極側に取り付けられ前記燃料側電極に燃料流体を供給する燃料用セパレータと、前記膜電極アセンブリの前記酸化剤側電極側に取り付けられ前記酸化剤側電極側に酸化剤流体を供給する酸化剤用セパレータのうち少なくとも一方の燃料電池セパレータであって、前記電極に供給される流体を流す溝と、前記溝と溝の間に設けられ、電極に接触して電流を流す導体路である山部と、を備え、前記流体の下流部の流体用溝幅の山幅に対する比率は前記流体の上流部の流体用溝幅の山幅に対する比率よりも大きいこと、を特徴とする。
【0013】
また、本発明の燃料電池セパレータにおいて、前記流体用溝は、複数の平行流路が多段に折り返されるサーペンタイン流路を形成し、前記流体の下流部における各段の複数の平行流路の合計流路断面積が前記流体の上流部における各段の複数の平行流路の合計流路断面積よりも小さいこと、としても好適であるし、前記流体の下流部における各段の前記流体用溝の本数は、前記流体の上流部における各段の前記流体用溝の本数よりも少なくなっていること、としても好適であるし、前記流体の下流部のそれぞれの前記流体用溝の内面に、突起を設けたこと、としても好適である。
【0014】
また、本発明の燃料電池セパレータにおいて、前記燃料用セパレータは、膜電極アセンブリと反対側の面に、前記セパレータを冷却する流体を流す溝と、前記溝と溝の間に設けられ電流を流す導体路である山部と、を備え、前記流体の上流部は前記流体の下流部よりも、前記膜電極アセンブリ単位面積当たりの山部面積が大きくなっていること、としても好適であるし、前記酸化剤用セパレータは、膜電極アセンブリと反対側の面に、前記セパレータを冷却する流体を流す溝と、前記溝と溝の間に設けられ電流を流す導体路である山部と、を備え、前記流体の上流部は前記流体の下流部よりも、前記膜電極アセンブリ単位面積当たりの山部面積が大きくなっていること、としても好適である。
【0015】
また、本発明の燃料電池セパレータにおいて、前記各流体溝の各流体上流側から下流側に向かって各流路の全長の1/2から2/3の長さの範囲では、前記各流体用溝幅の各山幅に対する比率は0.5以上2.5以下の範囲であり、前記以外の各流路部分においては、前記各流体用溝幅の各山幅に対する比率は2.5より大きく5以下の範囲であること、としても好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、燃料電池面内での発電の不均一をより減少させ、効率よく運転を行えるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について図1〜4を参照しながら説明する。図1は、燃料電池セパレータの燃料用セパレータ30の燃料ガス流路35を示す平面図であり、図2は燃料電池セパレータの流路部の断面図であり、図3は燃料電池セパレータの酸化剤用セパレータ32の酸化剤ガス流路46を示す平面図であり、図4は燃料電池セパレータの冷媒側の冷媒流路48を示す平面図である。なお、従来技術と同様の部分には、同様の符号を用いて説明は省略する。
【0018】
図1に示すように、燃料用セパレータ30の燃料極側面には、燃料ガスを流す流路を構成する溝部34,36と各流路を仕切ると共に電流を流す導電体としての役目をする山部52,54が交互に配置され、燃料ガス入口33から燃料ガス出口37に向かって複数の平行な燃料ガス流路35a〜35gが形成されている。そして、それぞれの平行な燃料ガス流路35a〜35g流路はサーペンタイン仕切り部53a〜53fによって、前記の複数の平行な燃料ガス流路が折り返されるよう構成されている。そして、それぞれの流路折返し部分には、ディンプル80によって形成された流れ方向変更部81a〜81fが配設されている。このように燃料ガス流路は、複数の平行流路が多段に折り返されるサーペンタイン流路となっている。
【0019】
図2a、図2bに前記の燃料ガス流路35の断面を示す。図2aは燃料ガス上流部の燃料ガス流路35aの断面を示し、図2bは燃料ガス下流部の燃料ガス流路35gの断面を示している。ここで、燃料ガスの上流部とは、燃料ガスの入口から下流に向かって、全流路の2/3の範囲を言い、下流部はこれ以外1/3の範囲を言う。図2aに示すように、燃料ガス上流部は溝部34の幅はWで山部の幅はYで、溝部34の数はNである。また、溝部34の深さはHである。したがって、燃料ガス上流部の燃料ガス流路35aの燃料ガス流路断面積AはA=W×H×Nである。一方、この断面における燃料ガスと燃料側拡散層15とのガス接触長さDは、D=W×Nである。また、この断面における燃料側拡散層15と燃料用セパレータ30とが接触する導電長さEはE=Y×Nとなる。ここで、ガス接触長さD、導電長さEは流体の流れ方向に直交する長さとなる。したがって、ガス接触長さDの導電長さEに対する比率はK=D/E=W/Y、すなわち、燃料ガス上流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率となる。
【0020】
上流部の山幅は一般的に0.4mmから1.0mmの範囲内にある。これに対して溝幅は0.4mmから2.0mmの範囲にある。1つの例として、山幅Yを0.8mm、溝幅Wを1.6mmとすると溝幅Wの山幅Yに対する比率は、W/Y=1.6/0.8=2.0となる。
【0021】
一方、図2bに示すように、燃料ガス下流部の燃料ガス流路35gにおいては、前記の燃料ガス上流部と同様に、燃料ガス流路断面積AはA=W×H×Nであり、ガス接触長さDは、D=W×Nである。また、この断面における燃料側拡散層15と燃料用セパレータ30とが接触する導電長さEはE=Y×Nで、ガス接触長さDの導電長さEに対する比率はK=D/E=W/Y、すなわち、燃料ガス下流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yとなる。ここでも、ガス接触長さD、導電長さEは流体の流れ方向に直交する長さとなる。
【0022】
上記の燃料ガス上流部の溝幅と山幅の例と同様に燃料ガス下流部の溝幅、山幅の1例を示す。山幅Yは上記の例と同様の0.8mmとすると、溝幅Wは山幅Yの2から3倍となるようにする。溝幅Wを山幅Yの3倍とすると、溝幅Wは2.1mmの幅となる。従って、上記に示した山幅、溝幅の場合、本実施形態では、燃料ガス下流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yは3.0であり、燃料ガス上流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yは2.0となり、燃料ガス下流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yは、燃料ガス上流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yよりも大きくなっている。
【0023】
燃料ガス上流部においては、燃料となる水素濃度が高く水素分子の密度も高いので、上記のように溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yが2.0程度であっても、燃料側の溝34から燃料側拡散層15に供給された燃料ガスは山部に対向している触媒層14にも拡散していく。つまり燃料電池の面内方向に拡散していく。このため触媒層14全体において反応が促進され、面内の発電の電圧分布が略均一化される。一方、燃料ガスの下流部では燃料となる水素が発電で消費されていくことから、水素分子の密度がだんだん低くなってくる。したがって、燃料電池面内での単位面積当たりの発電量を均一に保持するために、燃料電池の単位面積あたりの燃料ガスの流路断面積をだんだん小さくして単位断面積当たりの流量を上げていくことが必要となる。このように、流路の断面積を小さくして単位断面積あたりの流量を上げることによって、燃料ガス下流部でも単位流路断面積あたりの水素の分子数を保ち、燃料電池単位面積当たりの発電量を一定に保てるように思える。しかし、実際には、水素の分子数が減ってくると、図2aのように溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yが2.0程度のままであると、燃料側の溝から燃料側拡散層15に供給された燃料ガスが山部に対向する部分の触媒層14にまで拡散していきにくくなっていく。つまり、燃料ガスの燃料電池の面方向への拡散傾向が低くなってくる。このため触媒層14のうち、燃料ガスに直接接触していない山部に対向する部分の触媒層14の反応が促進されず、その分だけ発電の電圧分布に不均一が発生してくる。
【0024】
以上の実施形態では、燃料ガス上流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yは2.0、燃料ガス下流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yは3.0として説明したが、燃料ガス上流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yは、0.5以上2.5以下の範囲であれば発電量に対する山部面積の不足による燃料電池単位面積当たりの発電量の不均一を減少させることができるが、より不均一を低減するには、W/Yは1.0以上2.3以下が望ましい。また、燃料ガス下流側の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yは、2.5よりも大きく5以下であれば、燃料側の溝から燃料側拡散層15に供給された燃料ガスが山部に対向する部分の触媒層14にまで拡散していく拡散傾向が高くなる効果を奏するので、燃料電池単位面積当たりの発電量の不均一を低減することができるが、より前記の拡散傾向を高くして燃料電池単位面積当たりの発電量の不均一を低減するには、W/Yは、2.7以上4以下であることが望ましい。
【0025】
この燃料ガスの燃料側拡散層15における面内方向の拡散傾向は、燃料ガスが流れている溝部34,36と燃料側電極12と接している山部52,54との比率によって変化する。つまり、燃料ガス中の水素分子の数が少なくなってくる燃料ガス下流では、溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yが大きいほど、燃料電池の面内方向へのガス拡散傾向が高くなる。従って、同じ流路断面積の流路で、単位流路断面積当たりの水素分子数が同様であっても、溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yが大きいほど、面内方向への拡散傾向が高くなって、発電量の低下が少なくなる。このことによって燃料電池の単位面積当たりの発電量をより均一にすることができる。更に、燃料ガスの濃度が低下した燃料ガス下流においても効率的な発電をすることができるという効果を奏する。
【0026】
一方、図7に示した従来技術のように、溝数のみを少なくし、燃料ガス下流部における溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yが、燃料ガス上流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yと同等の場合には、下流部において燃料ガス燃料電池の面方向への拡散傾向が低いため、燃料電池単位面積あたりの発電量が上記の実施形態に比較して低くなるのに反して、発電した電気を外部に導電する導電路となる山部の面積が図2bに示した実施形態よりも大きくなっているため単位発電電力量に対する電気抵抗がアンバランスとなる。このため、燃料ガス上流部においては導電面積が不足し、燃料ガス下流においては導電面積が過剰となってしまう。しかし、本実施形態の図2bに示す流路形状では、燃料ガス下流部においても発電量に応じて導電面積が低減されていることから、単位発電電力量に対する電気抵抗がアンバランスとならず、燃料電池面内での発電量の均一化が図れるという効果を奏する。更に、発電密度が高くなる上流部においては、山部の面積が大きくなっていることから電気抵抗による損失を低減でき、効率的な運転を行うことができるという効果を奏する。
【0027】
本実施形態のように、燃料ガス下流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yが燃料ガス上流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yよりも大きくなる形状の場合には、溝部36の溝幅Wが大きく溝部36から燃料側拡散層15への拡散傾向が高く発電量の低下が少ないことと、山部54の山幅Yが発電量に対して過剰になっていないことから、燃料電池単位面積あたりの発電量と導電体の面積のバランスがとれ、燃料電池の単位面積当たりの発電量をより均一化することが可能となるという効果を奏する。また、発電密度が高くなる燃料ガス上流部においては、山部の面積が大きくなっていることから燃料ガス上流部の電気抵抗による損失を低減でき、効率的な運転を行うことができるという効果を奏する。更に、燃料ガスの濃度の低い下流部においても溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yが大きく面内方向への拡散傾向が高く、触媒層14の山部に対向する部分においても反応が促進されるため燃料電池の単位面積当たりの発電量をより均一にすることができるという効果を奏する。更に、燃料ガスの濃度が低下した燃料ガス下流においても効率的な発電をすることができるという効果を奏する。この場合、燃料ガス下流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yが燃料ガス上流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yよりも大きくなる(W/Y>W/Y)の関係が満たされれば、燃料ガス下流側の溝幅Wのみを広くしてもよいし、燃料ガス下流側の山幅Yのみを狭くしてもよいし、溝幅Wを広くすると同時に山幅Yを狭くしてもよい。
【0028】
以上、燃料用セパレータ30の溝部34,36と山部52,54について説明したが、酸化剤ガス流路を流れる酸化剤ガスである空気も、燃料ガスと同様に、酸化剤ガス上流部から下流部に向かって、酸化剤である酸素分子の密度が次第に低くなっていく。このことから、酸化剤ガス流路46についても燃料ガス流路35と同様の構成として、燃料電池の面内での発電量の均一化を測ることができる。
【0029】
図3に示すように、酸化剤用セパレータ32の酸化剤極側面には、酸化剤ガスを流す流路を構成する溝部38,40と各流路を仕切ると共に電流を流す導電体としての役目をする山部56,58が交互に配置され、酸化剤ガス入口39から酸化剤ガス出口41に向かって複数の平行な酸化剤ガス流路46a〜46eが形成されている。そして、それぞれの平行な酸化剤ガス流路46a〜46e流路はサーペンタイン仕切り部57a〜57dによって、前記の複数の平行な酸化剤ガス流路が折り返されるよう構成され、それぞれの流路折返し部分には、ディンプル80によって形成された流れ方向変更部81a〜81dが配設されている。このように酸化剤ガス流路46は、燃料ガス流路35と同様に複数の平行流路が多段に折り返されるサーペンタイン流路となっている。そして、酸化剤ガスの上流側の流路形状、酸化剤ガス下流側の流路形状も図2a,図2bに示した燃料ガス流路の形状と同様の構成となっている。
【0030】
このように、酸化剤用セパレータ32の流路と燃料用セパレータ30の流路形状を同様な形状にすることによって、本実施形態の燃料用セパレータ30の効果である、燃料電池単位面積あたりの発電量と導電体の面積のバランスがとれ、燃料電池の単位面積当たりの発電量をより均一化することが可能となるという効果と、流体上流部の電気抵抗による損失を低減でき、効率的な運転を行うことができるという効果と、ガスの濃度の低い流体下流部においても溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yが大きく面内方向への拡散傾向が高く、触媒層の山部に対向する部分においても反応が促進されるため燃料電池の単位面積当たりの発電量をより均一にすることができるという効果と、ガスの濃度が低下した下流においても効率的な発電をすることができるという効果と、が相乗効果として表れ、より、燃料電池の単位面積当たりの発電量をより均一化と効率化を図ることが出来るという効果を奏する。また、酸化剤用セパレータ32の場合でも燃料用セパレータ30と同様、流体下流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yが流体上流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yよりも大きくなる(W/Y>W/Y)の関係が満たされれば、下流側の溝幅Wのみを広くしてもよいし、下流側の山幅Yのみを狭くしてもよいし、溝幅Wを広くすると同時に山幅Yを狭くしてもよい。
【0031】
以上の実施形態では、酸化剤用セパレータ32と燃料用セパレータ30の流路が共に、流体下流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yが流体上流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yよりも大きくなる場合について述べたが、酸化剤用セパレータ32、燃料用セパレータ30のいずれか一方の溝がこのような形状となっていても上記のような効果を奏することができる。ただし、酸化剤用セパレータ32の流路形状を流体下流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yが流体上流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yよりも大きくなるようにするほうが、燃料用セパレータ30の流路形状を流体下流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yが流体上流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yよりも大きくなるようにするよりも、燃料電池単位面積あたりの発電量と導電体の面積のバランスがとれ、燃料電池の単位面積当たりの発電量をより均一化ができる等の上記の効果は大きい。また、上記の実施形態では、燃料ガスの入口から下流に向かって、全流路の2/3の範囲を上流部、これ以外の1/3の範囲を下流部として説明したが、燃料ガスの入口から下流に向かって、全流路の1/2から2/3の範囲を上流部とし、下流部はこれ以外の範囲としても上記と同様の効果を奏することができる。
【0032】
以上、燃料用セパレータ30、酸化剤用セパレータ32のそれぞれの電極側に構成された燃料ガス流路35、酸化剤ガス流路46の構成について説明したが、本実施形態では、図6に示すように、それぞれのセパレータはそれぞれの電極と反対側の面に冷媒流路48を有している。この冷媒流路48については、各電極側の同様の流路形状とすると導電性の向上及び製造上の効率向上が図れることから、図4に示すように、冷媒流路48を構成する溝部42,44と各流路を仕切ると共に電流を流す導電体としての役目をする山部60,62が交互に配置され、冷媒入口43から冷媒出口45に向かって複数の平行な冷媒流路48a〜48eが形成されている。そして、それぞれの平行な冷媒流路48a〜48e流路はサーペンタイン仕切り部61a〜61cによって、前記の複数の平行な冷媒流路48が折り返されるよう構成され、それぞれの流路折返し部分の上流側は平行な流路が形成され、下流側は流れの均一化を図るためにディンプル80による流れ方向変更部81を有している。このように冷媒流路48も、燃料ガス流路35、酸化剤ガス流路46と同様に複数の平行流路が多段に折り返されるサーペンタイン流路となっている。なお、膜電極アセンブリ20と燃料用セパレータ30、酸化剤用セパレータ32を重ね合わせて燃料電池スタックを構成する場合には、燃料用セパレータ30、酸化剤用セパレータ32の中には冷媒流路48を有しないものがある場合がある。この場合でも燃料用セパレータ30あるいは酸化剤用セパレータ32の流路形状が、流体下流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yが流体上流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yよりも大きくなるように形成されていれば、燃料電池単位面積あたりの発電量と導電体の面積のバランスがとれ、燃料電池の単位面積当たりの発電量をより均一化ができる等の上記の効果を奏する。
【0033】
冷媒流路48においても、燃料用セパレータ30、酸化剤用セパレータ32と同様に下流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yが上流部の溝幅Wの山幅Yに対する比率W/Yよりも大きくなる形状となっている。このため、発電量が多く、発熱量も多い上流部では溝幅Wが狭く、冷媒と冷媒壁の接触面積が大きいことから冷却容量が大きくなり、逆に、発電量の少ない下流部においては、溝幅Wが広く冷媒と冷媒壁の接触面積が小さくなることから冷却容量が小さくなる。つまり、発熱量の多い上流部においては大きな冷却面積を持ち、発熱量の小さい下流部では小さな冷却面積となることから、燃料電池の面方向に対して温度の均一化を測ることができるという効果を奏する。
【0034】
図5に本発明の他の実施形態を示す。この本発明の他の実施形態においては、反応ガス下流側の電極とのガス拡散をより大きくするために、下流側の流路中に突起90を設けている。この突起の数は反応ガス流路の出口に向かうほど数を多くして、拡散効果を高くするようにすることも好適である。また、突起90の形状は円柱型でも角柱型でも半球型でもどのような形状でも好適である。この場合も、前記の実施形態の効果と同様に燃料電池の発電量の均一化を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る実施形態である燃料電池セパレータの燃料用セパレータの燃料ガス流路を示す平面図である。
【図2a】本発明に係る実施形態である燃料電池セパレータの上流部の流路断面図である。
【図2b】本発明に係る実施形態である燃料電池セパレータの下流部の流路断面図である。
【図3】本発明に係る実施形態である燃料電池セパレータの酸化剤用セパレータの酸化剤ガス流路を示す平面図である。
【図4】本発明に係る実施形態である燃料電池セパレータの冷媒側の冷媒流路を示す平面図である。
【図5】本発明の他の実施形態の燃料電池セパレータの流路部の拡大図である。
【図6】従来の固体高分子型燃料電池の構造と動作を示す模式図である。
【図7】従来技術の燃料電池セパレータの流路部の平面図である。
【符号の説明】
【0036】
10 電解質、12 燃料側電極、14 触媒層、15 燃料側拡散層、16 酸化剤側電極、18 触媒層、19 酸化剤側拡散層、20 膜電極アセンブリ、22,24 ガスケット、30 燃料用セパレータ、32 酸化剤用セパレータ、33 燃料ガス入口、34,36,38,40,42,44 溝部、35,35a〜35g 燃料ガス流路、37 燃料ガス出口、39 酸化剤ガス入口、41 酸化剤ガス出口、43 冷媒入口、45 冷媒出口、46,46a〜46e 酸化剤ガス流路、48,48a〜48e 冷媒流路、52,54,56,58,60,62 山部、53,53a〜53f,57,57a〜57d,61,61a〜61c サーペンタイン仕切り部、68 導電線、70 負荷、80 ディンプル、81,81a〜81f 流れ方向変更部、90 突起、100 セパレータ、102 反応ガス入口、103 反応ガス出口、105 反応ガス流路、110 反応ガス流路溝、120 反応ガス流路溝、A,A 燃料ガス流路断面積、D,D ガス接触長さ、E,E 導電長さ、N,N 溝部の数、H 溝部高さ、W,W 溝幅、Y,Y 山幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質を燃料側電極と酸化剤側電極とで挟んで構成される膜電極アセンブリの前記燃料側電極側に取り付けられ前記燃料側電極に燃料流体を供給する燃料用セパレータと、前記膜電極アセンブリの前記酸化剤側電極側に取り付けられ前記酸化剤側電極側に酸化剤流体を供給する酸化剤用セパレータのうち少なくとも一方の燃料電池セパレータであって、
前記電極に供給される流体を流す溝と、前記溝と溝の間に設けられ、電極に接触して電流を流す導体路である山部と、を備え、
前記流体の上流部は前記流体の下流部よりも、前記膜電極アセンブリ単位面積当たりの山部面積が大きくなっていること、
を特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項2】
電解質を燃料側電極と酸化剤側電極とで挟んで構成される膜電極アセンブリの前記燃料側電極側に取り付けられ前記燃料側電極に燃料流体を供給する燃料用セパレータと、前記膜電極アセンブリの前記酸化剤側電極側に取り付けられ前記酸化剤側電極側に酸化剤流体を供給する酸化剤用セパレータのうち少なくとも一方の燃料電池セパレータであって、
前記電極に供給される流体を流す溝と、前記溝と溝の間に設けられ、電極に接触して電流を流す導体路である山部と、を備え、
前記流体の下流部の流体用溝幅の山幅に対する比率は前記流体の上流部の流体用溝幅の山幅に対する比率よりも大きいこと、
を特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池セパレータにおいて、
前記流体用溝は、複数の平行流路が多段に折り返されるサーペンタイン流路を形成し、前記流体の下流部における各段の複数の平行流路の合計流路断面積が前記流体の上流部における各段の複数の平行流路の合計流路断面積よりも小さいこと、
を特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料電池セパレータにおいて、
前記流体の下流部における各段の前記流体用溝の本数は、前記流体の上流部における各段の前記流体用溝の本数よりも少なくなっていること、
を特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料電池セパレータにおいて、
前記流体の下流部のそれぞれの前記流体用溝の内面に、突起を設けたこと
を特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の燃料電池セパレータにおいて、
前記燃料用セパレータは、膜電極アセンブリと反対側の面に、前記セパレータを冷却する流体を流す溝と、前記溝と溝の間に設けられ電流を流す導体路である山部と、を備え、
前記流体の上流部は前記流体の下流部よりも、前記膜電極アセンブリ単位面積当たりの山部面積が大きくなっていること、
を特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項7】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の燃料電池セパレータにおいて、
前記酸化剤用セパレータは、膜電極アセンブリと反対側の面に、前記セパレータを冷却する流体を流す溝と、前記溝と溝の間に設けられ電流を流す導体路である山部と、を備え、
前記流体の上流部は前記流体の下流部よりも、前記膜電極アセンブリ単位面積当たりの山部面積が大きくなっていること、
を特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の燃料電池セパレータにおいて、
前記各流体溝の各流体上流側から下流側に向かって各流路の全長の1/2から2/3の長さの範囲では、前記各流体用溝幅の各山幅に対する比率は0.5以上2.5以下の範囲であり、前記以外の各流路部分においては、前記各流体用溝幅の各山幅に対する比率は2.5より大きく5以下の範囲であること、
を特徴とする燃料電池セパレータ。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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