燃料電池セル及び燃料電池
【課題】空気極等の電極の外側表面(主面側の表面)に十分なガスを供給することができる燃料電池セル及び燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池セルの空気極41は、正方形の板状であり、且つ、固体酸化物体37側の下層61と下層61の外側の表面を覆う上層63とから構成されている。このうち、下層61は、平面形状が正方形で、その四方の側面は厚み方向に対して垂直である。一方、上層63は、平面形状が正方形であり、その厚み方向の外側に正方形の主面(外側表面)65を備えるとともに、その四方の側方に側面を備えている。特に、この上層63の側面のうち、酸化剤ガスの導入側及び排出側の流路に沿った両側面67、69は、酸化剤ガスをスムーズに外側表面65側に導くために、外側表面65側ほど中央側(上層63の平面における中央側)に傾斜するように、平板状の傾斜面を有するように構成されている。
【解決手段】燃料電池セルの空気極41は、正方形の板状であり、且つ、固体酸化物体37側の下層61と下層61の外側の表面を覆う上層63とから構成されている。このうち、下層61は、平面形状が正方形で、その四方の側面は厚み方向に対して垂直である。一方、上層63は、平面形状が正方形であり、その厚み方向の外側に正方形の主面(外側表面)65を備えるとともに、その四方の側方に側面を備えている。特に、この上層63の側面のうち、酸化剤ガスの導入側及び排出側の流路に沿った両側面67、69は、酸化剤ガスをスムーズに外側表面65側に導くために、外側表面65側ほど中央側(上層63の平面における中央側)に傾斜するように、平板状の傾斜面を有するように構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気極に酸化剤ガスを供給するとともに燃料極に燃料ガスを供給して発電を行う燃料電池セルと、その燃料電池セルを複数個備えた燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池の一種として、電解質層に固体酸化物を用いた固体酸化物形燃料電池(以下単に燃料電池と記すこともある)が知られている。
例えば、下記特許文献1に記載の様に、イオン伝導性を有する固体酸化物からなる層状の固体電解質体と、固体電解質体の一方の面側に設けられて酸化剤ガス(空気や酸素など)に接する層状の空気極と、固体電解質体の他方の面側に設けられて燃料ガス(水素やメタンやエタノールなど)に接する層状の燃料極とを有する平板形状の燃料電池セルが知られており、また、この燃料電池セルを複数個積層した構造を有する燃料電池も開発されている。
【0003】
この種の燃料電池では、空気極や燃料極の各電極と酸化剤ガスや燃料ガスの各ガスとの反応を好適に行わせるために、通常、各電極と各ガスとの接触面積を大きくするように構成されている。例えば空気極側では、空気極の側面側から(即ち、厚み方向に対して垂直な方向に沿って)酸化剤ガスを空気極側に導入し、空気極の主面(厚み方向における外側表面)とセルの隔壁との間に酸化剤ガスを供給することにより、空気極に対して酸化剤ガスを供給するようにしている。
【0004】
また、これとは別に、例えば空気極においては、空気極と外部(セルの外部)との電気的接続をとるために、空気極の外側表面(空気極の主面)に接する様に集電体が配置されるものがあり、近年では、空気極と集電体との導通をより確実にするために、空気極の厚みを大きくする等の提案がなされている(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−327637号公報
【特許文献2】特開2010−272499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献2の技術の様に、例えば空気極の厚みを大きくした場合には、図13に示す様に、空気極の側面が酸化剤ガスを導入する際の障壁になってしまい、酸化剤ガスが空気極の外側表面に好適に供給されにくいという問題があった。
【0007】
つまり、空気極の厚みが大きいと、酸化剤ガスが空気極の切り立った側面に当たって、その側面に沿って左右(同図上下方向)に流れてしまい、空気極の(面積の広い)外側表面(主面)に十分に供給されないという問題があった。
【0008】
この結果、空気極の外側表面に対応するセル面内(平面方向における面内)に発電のバラツキが生じることにより、セル面内に熱のバラツキが生じ、場合によっては、燃料電池セルにクラックが生じる恐れがあった。
【0009】
特に、例えば夜間の少量発電の様な負荷変動(負荷減少)によって、燃料電池セルに少量の酸化剤ガス等しか供給されない場合には、空気極の外側表面における全ての領域に酸化剤ガスが行き渡らない恐れがあり、その結果、所望の発電量が得られない可能性もあった。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、空気極等の電極の外側表面(主面側の表面)に十分なガスを供給することができる燃料電池セル及び燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明は、第1態様として、電解質体の一方の面に空気極が形成されるとともに、他方の面に燃料極が形成された平板形状の燃料電池セルにおいて、前記空気極側に形成され前記空気極に対して所定の第1方向から酸化剤ガスを供給する第1流路と、前記燃料極側に形成され前記燃料極に対して所定の第2方向から燃料ガスを供給する第2流路と、を備え、前記空気極又は前記燃料極を所定の厚みを有する板状の構造とするとともに、該板状の構造の、前記酸化剤ガス又は前記燃料ガスが流入する前記第1方向又は前記第2方向に交差する側面を、前記電解質体側の一辺よりも、該電解質体と反対側の一辺がガスの下流側に傾斜するように構成したことを特徴とする。
【0012】
本発明では、板状の空気極又は燃料極の側面(主面側ではない側面:主面の存在する平面に対して交差する側面)は、酸化剤ガス又は燃料ガスが流入する第1方向又は第2方向に対して交差(直交する場合も含む)しており、しかも、この側面は、電解質体側の一辺よりも電解質体と反対側の一辺がガスの下流側に傾斜している。つまり、空気極又は燃料極の側面は、ガスの流路に沿って外側(電解質体と反対側)が下流側に傾斜している。
【0013】
これにより、空気極及び燃料極をそれぞれ収容する空間(以下ガス室と記す)に配置した際に、空気極や燃料極の厚みが大きく、ガス室内部に流入(導入)されるガス(酸化剤ガス又は燃料ガス)の入口に面した(又は直面した)場合でも、空気極や燃料極の側面が酸化剤ガスや燃料ガスを導入する際の障壁になり難く、導入された酸化剤ガスや燃料ガスが「傾斜」している側面に誘導されて、空気極や燃料極の(面積の広い)主面側である外側表面に好適に供給されるという効果がある。
【0014】
つまり、空気極や燃料極の厚みが大きな場合でも、酸化剤ガスや燃料ガスは、空気極や燃料極の側面に阻害されて左右に流れてしまうという現象が起き難く、よって、空気極や燃料極の外側表面に十分に供給されるという効果がある。
【0015】
この結果、酸化剤ガスや燃料ガスがそれぞれの電極の主面に行き渡りやすく、セル面内に発電のバラツキが生じ難くなるので、セル面内に熱のバラツキが生じ難く、よって、セルにクラックが生じ難いという利点がある。
【0016】
従って、特に、夜間の少量発電の様な負荷変動(負荷減少)によって、セルに少量の酸化剤ガスや燃料ガスしか供給されない場合でも、空気極や燃料極の外側表面に十分に酸化剤ガスや燃料ガスが供給でき、その結果、所望の発電量が得られるという利点もある。
【0017】
(2)本発明は、第2態様として、電解質体の一方の面に空気極が形成されるとともに、他方の面に燃料極が形成された平板形状の燃料電池セルにおいて、前記空気極側に形成され前記空気極に対して所定の第1方向から酸化剤ガスを供給する第1流路と、前記燃料極側に形成され前記燃料極に対して所定の第2方向から燃料ガスを供給する第2流路と、を備え、前記空気極及び前記燃料極を所定の厚みを有する板状の構造とするとともに、該板状の構造の、前記酸化剤ガスが流入する前記第1方向に交差する第1側面及び前記燃料ガスが流入する前記第2方向に交差する第2側面を、前記電解質体側の一辺よりも、該電解質体と反対側の一辺がガスの下流側に傾斜するように構成したことを特徴とする。
【0018】
本発明では、板状の空気極及び燃料極の各側面(主面側ではない側面:主面の存在する平面に対して交差する側面)は、酸化剤ガスが流入する第1方向及び燃料ガスが流入する第2方向に対して交差(直交する場合も含む)しており、しかも、この側面は、電解質体側の一辺よりも電解質体と反対側の一辺がガスの下流側に傾斜している。つまり、空気極及び燃料極の側面は、ガスの流路に沿って外側(電解質体と反対側)が下流側に傾斜している。
【0019】
これにより、空気極及び燃料極をそれぞれ収容するガス室に配置した際に、空気極及び燃料極の厚みが大きく、ガス室内部に流入(導入)されるガス(酸化剤ガス又は燃料ガス)の入口に面した(又は直面した)場合でも、空気極及び燃料極の側面が酸化剤ガスや燃料ガスを導入する際の障壁になり難く、導入された酸化剤ガスや燃料ガスが「傾斜」している側面に誘導されて、空気極及び燃料極の(面積の広い)主面側である外側表面に好適に供給されるという効果がある。
【0020】
つまり、空気極及び燃料極の厚みが大きな場合でも、酸化剤ガスや燃料ガスは、空気極及び燃料極の側面に阻害されて左右に沿って左右に流れてしまうという現象が起き難く、よって、空気極及び燃料極の(面積の広い)外側表面に十分に供給されるという効果がある。
【0021】
この結果、酸化剤ガス及び燃料ガスがそれぞれの電極の主面に行き渡りやすく、セル面内に発電のバラツキが生じ難くなるので、セル面内に熱のバラツキが生じ難く、よって、セルにクラックが生じ難いという利点がある。
【0022】
従って、特に、夜間の少量発電の様な負荷変動(負荷減少)によって、セルに少量の酸化剤ガスや燃料ガスしか供給されない場合でも、空気極や燃料極の外側表面に十分に酸化剤ガスや燃料ガスが供給でき、その結果、所望の発電量が得られるという利点もある。
【0023】
(3)本発明は、第3態様として、前記電解質体と前記空気極と前記燃料極との側面方向の周囲を囲むように枠体を設けるとともに、前記枠体に前記各ガスを導入するための流路を設けたことを特徴とする。
【0024】
本発明の第3態様では、電解質体と空気極と燃料極との側面方向の周囲を囲むように枠体を設け、この枠体に各ガスを導入するための流路を設けることができる。即ち、前述した「ガス室」を枠体の内側にて形成し、ガス室内にガスを導入するための流路(入口)を枠体に形成することができる。
【0025】
(4)本発明は、第4態様として、前記空気極は、空気極機能層と、前記空気極機能層の表面上に形成され前記酸化剤ガスが該空気極機能層まで拡散可能な拡散層と、を備え、前記拡散層のみが前記傾斜を有するように構成されていることを特徴とする。
【0026】
本発明の第4態様では、空気極が空気極機能層と拡散層とを備えている場合に、外側の拡散層のみに傾斜を形成することができる。この拡散層の側面のみに傾斜を設けた場合でも、十分に各ガスを各電極の主面側に導入することができる。また、空気極の拡散層のみに「傾斜」を設けることで、「傾斜」による空気極機能層の体積(現象)への影響が少なく、空気極機能層が担う発電反応の機能を損なうこともない。
【0027】
なお、ここで、空気極機能層とは、発電のために空気極としての反応を行う層、詳しくは、酸化剤ガス中の酸素と燃料極側から供給される水素イオンと外部回路から供給される電子とから水を生成させる機能を有する層である。また、固体酸化物形燃料電池の場合では、空気極機能層は、酸化剤ガス中の酸素を酸素イオンに生成する層であり、生成された酸素イオンが固体電解質層を介して燃料極で生成された水素イオンと結合して水が生成される。
【0028】
(5)本発明は、第5態様として、前記側面の傾斜する角度が、前記電解質体の表面に対して30〜85°の範囲であることを特徴とする。
本発明の第5態様では、各電極の側面の傾斜を30〜85°の範囲に設定すれば、有効に電極の主面側に各ガスを誘導して導入することができる。
【0029】
(6)本発明は、第6態様として、前記傾斜する側面に、前記第1方向及び前記第2方向の少なくとも一方に沿って、スリットが形成されていることを特徴とする。
本発明の第6態様では、各電極の側面に、ガスの導入方向に沿って。1又は複数のスリット(溝)を形成しているので、好適に電極の主面側に各ガスを導入することができる。
【0030】
(7)本発明は、第7態様として、前記傾斜する側面は、滑らかな表面又は階段状の表面を有していることを特徴とする。
ここでは、各電極の傾斜する側面の状態を例示している。
【0031】
(8)本発明は、第8態様として、前記請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池セルは、固体酸化物を電解質体とする固体酸化物形燃料電池セルであることを特徴とする。
ここでは、燃料電池セルの構成を例示している。
【0032】
(9)本発明は、第9態様として、前記請求項1〜8のいずれか1項に記載の燃料電池セルを、1又は複数個備えた燃料電池を特徴とする。
ここでは、燃料電池セルからなる燃料電池を例示している。
【0033】
以下、本発明の各構成材料について説明する。
・前記電解質体としては、イオン導電性を有する固体電解質体が挙げられる。この固体電解質体の材質としては、ZrO2系固体電解質、LaGaO3系固体電解質、BaCeO3系固体電解質、SrCeO3系固体電解質、SrZrO3系固体電解質及びCaZrO3系固体電解質等が挙げられる。これらの固体電解質のうちでは、ZrO2系固体電解質が好ましい。また、希土類元素の酸化物、特にY2O3、Sc2O3を用いて安定化、又は部分安定化されたZrO2系固体電解質が、優れたイオン導電性と十分な機械的強度とを併せて有するためより好ましい。
【0034】
・前記燃料極の材質としては、Ni及びFe等の金属の酸化物(NiO、Fe2O3等)と、ジルコニア系セラミック(好ましくはイットリア等により安定化又は部分安定化されたジルコニア)、セリア及び酸化マンガン等のセラミックとの混合物などを用いることができる。更に、各種の金属、及び金属とセラミックとの混合物などを用いることもできる。金属としては、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru、Rh、Ni及びFe等の金属又は2種以上の金属を含有する合金が挙げられる。また、金属とセラミックとの混合物としては、これらの金属又は合金と、ジルコニア系セラミック(好ましくはイットリア等により安定化又は部分安定化されたジルコニア)、セリア及び酸化マンガン等との混合物などが挙げられる。これらのうちでは、酸化ニッケル(SOFCの作動時には還元されてNiとなる。)と、ジルコニア系セラミックとの混合物が好ましく、このジルコニア系セラミックが、希土類元素の酸化物、特にY2O3、Sc2O3を用いて安定化又は部分安定化されたものであることがより好ましい。
【0035】
・前記空気極の材質としては、各種の金属、金属の酸化物、金属の複酸化物等を用いることができる。金属としては、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru及びRh等の金属又は2種以上の金属を含有する合金が挙げられる。また、金属の酸化物としては、La、Sr、Ce、Co、Mn及びFe等の酸化物(La2O3、SrO、Ce2O3、Co2O3、MnO2及びFeO等)が挙げられる。更に、複酸化物としては、少なくともLa、Pr、Sm、Sr、Ba、Co、Fe及びMn等を含有する複酸化物(La1-xSrxCoO3系複酸化物、La1-xSrxFeO3系複酸化物、La1-xSrxCo1-yFeyO3系複酸化物、La1-xSrxMnO3系複酸化物、Pr1-xBaxCoO3系複酸化物及びSm1-xSrxCoO3系複酸化物等)が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(a)は第1実施形態の燃料電池の平面図、(b)はその正面図である。
【図2】第1実施形態の燃料電池セルを厚み方向に破断し分解して示す説明図である。
【図3】(a)は空気極の平面にける酸化剤ガスの流れを示す説明図、(b)は燃料電池セルを厚み方向に破断して模式的に示す説明図である。
【図4】燃料電池セルを分解して示す斜視図である。
【図5】燃料電池セルの空気極の形成方法を示す説明図である。
【図6】(a)は第2実施形態の燃料電池セルの空気極側を厚み方向に破断して示す説明図、(b)は燃料電池セルの空気極の形成方法を示す説明図である。
【図7】第3実施形態の燃料電池セルを厚み方向に破断して模式的に示す説明図である。
【図8】第4実施形態の燃料電池セルを厚み方向に破断して模式的に示す説明図である。
【図9】第5実施形態の燃料電池セルを厚み方向に破断して模式的に示す説明図である。
【図10】第6実施形態の燃料電池セルの空気極及び燃料極を示す斜視図である。
【図11】第7実施形態の燃料電池セルの空気極を示す斜視図である。
【図12】(a)は他の燃料電池セルの空気極を厚み方向に破断して示す説明図、(b)は更に他の燃料電池セルの空気極を厚み方向に破断して示す説明図である。
【図13】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について説明する。
[第1実施形態]
a)まず、本実施形態の固体酸化物形燃料電池(以下単に燃料電池と記す)の概略構成について説明する。
【0038】
図1に示す様に、燃料電池1は、燃料ガス(例えば水素)と酸化剤ガス(例えば空気)との供給を受けて発電を行う装置である。
この燃料電池1は、発電単位(発電セル)である平板形の燃料電池セル3が複数個(例えば18段)積層された燃料電池スタック5と、燃料電池スタック5を貫く複数のボルト(第1〜第8ボルト)11〜18と、各ボルト11〜18の両端に螺合する各ナット19(総称)とを備えている。
【0039】
また、各ボルト11〜18のうち、第2ボルト12には、燃料ガスを燃料電池1に供給する燃料ガス導入管21を備え、第4ボルト14には、酸化剤ガスを燃料電池1に供給する酸化剤ガス導入管23を備え、第6ボルト16には、発電後の燃料ガスを燃料電池1から排出する燃料ガス排出管25を備え、第8ボルト18には、発電後の酸化剤ガスを燃料電池1から排出する酸化剤ガス排出管27を備えている。
【0040】
以下、各構成について説明する。
・図2に分解して示す様に、前記燃料電池セル3は、いわゆる燃料極支持膜タイプの板状の燃料電池セルである。この燃料電池セル3の燃料ガス流路31側(図2下側)には、板状の燃料極(アノード)33が配置されるとともに、燃料極33の空気流路35側(図2上側)の表面には、膜状の固体電解質体(固体酸化物体)37が形成されている。更に、固体酸化物体37の空気流路35側の表面には、反応防止層39が形成され、反応防止層39の空気流路35側には、板状の空気極(カソード)41が形成されている。なお、燃料極33と固体酸化物体37と反応防止膜39と空気極41とをセル本体43と称する。
【0041】
ここで、前記固体酸化物体37は、酸素イオン伝導性を有するセラミックス材料からなる。この固体酸化物体37としては、例えば、イットリアやスカンジウム等で安定化した各ジルコニア系酸化物(YSZやScSZ)、或いはストロンチウムやマグネシウムをドープしたランタン・ガレード系酸化物等を含むペロブスカイト系酸化物を採用できる。
【0042】
前記燃料極33としては、例えば、NiやPt、Ir等の金属材料からなる多孔質体、又は金属材料とジルコニア系酸化物等のセラミックス材料とのサーメット等を採用できる。
【0043】
前記空気極41としては、例えば、PtやNi等の金属材料とベロブスカイト系酸化物等のセラミックス材料とのサーメットを採用できる。
前記反応防止層39としては、例えば、サマリウムやガドリニウム等をドープした各セリア系酸化物(SDC、GDC)等を採用できる。
【0044】
また、燃料電池セル3は、上下一対のインターコネクタ45、45の間に、空気極41側のガスシール部47と、絶縁フレーム48と、セル本体43の外縁部の上面に接合して空気流路35と燃料ガス流路31との間を遮断するセパレータ49と、燃料ガス流路31側に配置された燃料極フレーム51と、燃料極33側のガスシール部53とを備えており、それらが積層されて一体に構成されている。なお、空気極41側のガスシール部47と絶縁フレーム48とセパレータ49と燃料極フレーム51と燃料極33側のガスシール部53とにより、セル本体43の側方の周囲を囲む枠体55が構成されている。
【0045】
更に、前記燃料電池セル3内には、燃料極33と図2下側のインターコネクタ45との間に、燃料極側集電体57が配置され、各インターコネクタ45の一方(図2下側)の表面には、空気極側集電体59が一体に形成されている。
【0046】
なお、本実施形態では、空気極側集電体59には、複数の空気流路35が平行に形成されており、空気流路35においては、空気は図2の左右方向に流れる。同様に、燃料極側集電体57には、複数の燃料ガス流路31が平行に形成されており、燃料ガス流路31においては、燃料ガスは同図の紙面と垂直方向に流れるように設定されている。このように、空気流路35と燃料ガス流路31とが直交するように配置されている(図3参照)。
【0047】
ここで、前記燃料極側集電体57や空気極側集電体59としては、例えば、PtやNi等の金属材料やサーメット等を採用できる。なお、前記燃料電池スタック5は、複数個の燃料電池セル3が電気的に直列に接続されたものである。
【0048】
特に、本実施形態では、図3(a)に空気極41の平面形状を示す様に、空気極41は、平面形状が正方形の板状であり、且つ、図3(b)に燃料電池セル3の断面を模式的に示す様に、固体酸化物体37側の厚み10〜30μmの下層61と下層61の外側の表面(図3(b)上側)を覆う厚み100〜300μmの上層63とから構成されている。
【0049】
なお、前記下層61及び上層63は、同様な材料からなる多孔体であるが、上層63は下層61よりもポーラス(空孔が多い構成)となっている。詳しくは、上層63は1〜10μmの粉末材料の焼結物であるが、下層61は1μm未満の粉末材料の焼結物からなる。
【0050】
このうち、前記下層61は、平面形状が正方形で、その四方の側面(厚み方向に対して垂直な方向の側面)は、厚み方向に対して垂直である。一方、前記上層63は、平面形状が正方形であり、その厚み方向の外側に(酸化剤ガスと接触する面積の大きな)正方形の主面(外側表面)65を備えるとともに、その四方の側方に側面を備えている。
【0051】
特に、この上層63の側面のうち、酸化剤ガスの導入側及び排出側の流路に沿った両側面67、69(図3の左右の側面)は、酸化剤ガスをスムーズに外側表面65側(図3(b)の上方)に導くために、外側表面65側ほど(図3の左右方向における)中央側に傾斜するように、平板状の傾斜面となるように構成されている。
【0052】
つまり、図3(a)に示す様に、上層63の酸化剤ガスの導入側の側面67は、酸化剤ガスが流入する第1方向(同図矢印X方向)に対して交差するように、同図の上下方向に伸びるとともに、図3(b)に示す様に、外側表面65側が、酸化剤ガスの下流側(同図左側)に傾斜している。この傾斜角度(固体酸化物体37の表面に対する傾斜角度θ)は、30〜85°の範囲内の例えば40〜70°である。なお、図3(a)に示す様に、燃料ガスの流れ方向(Y方向)は、酸化剤ガスの流れ方向(X方向)と直交する方向である。
【0053】
一方、上層63の酸化剤ガスの排出側の側面69については、酸化剤ガスの導入側の側面67とは傾斜方向が逆であり、その外側表面65側が、酸化剤ガスの上流側(同図右側)に傾斜している。なお、この側面69については、傾斜を設けなくてもよい。
【0054】
なお、前記図3の左右一対の両側面67、69以外の残りの両側面については、同様に外側表面65側が中央側に傾くように傾斜させてもよいが、傾斜させなくてもよい。
・次に、燃料電池セル3を構成する各部材のうち、特に外周の枠体55等を構成する部材について、更に説明する。なお、燃料電池セル3の平面形状は正方形であるので、燃料電池セル3を構成する各部材の平面形状も正方形である。
【0055】
図4に分解して示す様に、前記インターコネクタ45は、例えばフェライト系ステンレスからなる板材であり、その外縁部には、前記ボルト11〜18が貫挿される丸孔である挿通孔(第1〜第8挿通孔)71〜78(以下各部材で同じ番号を用いる)が、等間隔に形成されている。
【0056】
また、前記空気極41側のガスシール部47は、例えばマイカからなる枠状の板材であり、その外縁部には、前記各挿通孔71〜78が形成されている。
更に、このガスシール部47には、中央の正方形の開口部85と連通するように、ガスシール部47の左右の枠部分に、細径のガス流路(空気流路35と連通する流路)となる長方形の切り欠き87、89が複数本ずつ形成されている。
【0057】
なお、この切り欠き87、89は、上下方向に貫通しており、ガスシール部47にレーザ加工やプレス加工を行うことによって形成することができる。
また、前記絶縁フレーム48は、例えばマイカからなる枠状の板材であり、その外縁部には、前記各挿通孔71〜78が形成されている。このうち、同図の左右の挿通孔78、74には、それぞれ辺に沿って両側に伸びる切れ込み91、93が形成してある。なお、この切れ込み91、93は、それぞれ前記ガスシール部47の左右の切り欠き87、89に連通している。
【0058】
更に、前記セパレータ49は、例えばフェライト系ステンレスからなる枠状の板状であり、その中央の正方形の開口部95には、開口部95を閉塞するように前記セル本体43が接合されている。
【0059】
このセパレータ49においても、前記ガスシール部47と同様に、その外縁部に前記各挿通孔71〜78が形成されている。このうち、挿通孔72、74、76、78には、それぞれ辺に沿って伸びる切り欠き96、97、98、99が形成されている。
【0060】
更に、前記燃料極フレーム51は、中央に開口部101を備えた例えばフェライト系ステンレスからなる枠状の板材であり、前記セパレータ49と同様に、その外縁部に前記各挿通孔71〜78が形成されている。このうち、挿通孔72、74、76、78には、前記セパレータ49と同様に、それぞれ辺に沿って伸びる切り欠き103、104、105、106が形成されている。
【0061】
また、前記燃料極33側のガスシール部53は、前記空気極41側のガスシール部47と同様に、中央に開口部107を備えた例えばマイカからなる枠状の板材であり、その外縁部には前記各挿通孔71〜78が形成されている。
【0062】
このガスシール部53にも、対向する各枠部分に、開口部107と連通するように、細径のガス流路(燃料ガス流路31と連通する流路)となる切り欠き109、111が、複数本ずつ設けられている。なお、この切り欠き109、111は、それぞれ前記ガスシール部51の切り込み105、103に連通している。
【0063】
b)次に、燃料電池セル3の要部(セル本体43)の製造方法について説明する。
(1) 燃料極基体用グリーンシートの形成
NiO粉末(60重量部)とYSZ粉末(40重量部)との混合粉末(100重量部)に対して、造孔材である有機ビーズ(混合粉末に対して10重量%)と、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエン+エタノール混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調整した。得られたスラリーをドクターブレード法により、厚さ250μmの燃料極基体用グリーンシートを作製した。
【0064】
(2) 固体電解質層用グリーンシートの形成
YSZ粉末(100重量部)に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエン+エタノール混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調整した。得られたスラリーをドクターブレード法により、厚さ10μmの固体電解質層用グリーンシートを作製した。
【0065】
(3)焼成積層体の形成
次に、前記燃料極基体用グリーンシートと前記固体電解質層用グリーンシートとを積層し、その積層体を焼成して、焼成積層体を作製した。
【0066】
(4)反応防止層の形成
次に、積層焼成体の固体電解質側に、GDC(ガドリニウム添加セリア)保護膜用ペーストを印刷して焼き付けて、反応防止層39を形成した。
【0067】
(5)空気極の形成
次に、前記焼成積層体の反応防止層39の上に、以下に述べる様にして空気極用のペースト層を形成し、そのペースト層を焼き付けて、セル本体43を作製した。
【0068】
詳しくは、空気極41を作製する際には、まず、空気極41の下層61を形成するために、空気極41を構成する材料として、粒径1μm未満の粉末材料(例えばLSCF )にGDCを加えて下層用ペーストを作製し、周知のマスク(下層61の平面形状に対応した正方形の開口部を有するマスク:図示せず)を用いて、反応防止層39上に、下層用ペーストを約20μmの厚みでスクリーン印刷して、未焼成下層を形成した。
【0069】
次に、図5に模式的に示す様に、上層形成用のマスク121を用意する。このマスク121は、上層63の平面形状に対応した正方形の開口部123を有するとともに、開口部123の内周面125が、上層63の両側面67、69の斜面に合わせて(同図の下方ほど開口するように)、同様な角度で傾斜している。
【0070】
そして、上層63を形成するために、空気極41を構成する材料として、粒径1〜10μmの粉末材料(例えばLSCF)の上層用ペーストを作製し、前記上層用のマスク123を用いて、未焼成下層127上に、上層用ペーストを約300μmの厚みでスクリーン印刷した。
【0071】
これにより、未焼成下層127の上に、両側面が35〜80°の範囲内で傾斜した未焼成上層129が積層された未焼成空気層131が形成される。
その後、この未焼成空気極131を焼成して、空気極41を形成するとともにセル本体43を完成した。
【0072】
なお、その後、従来と同様に、このセル本体43を他の部材と組み合わせて、燃料電池セル3を構成するとともに、燃料電池セル3を厚み方向に複数個積層して燃料電池1を作製する。
【0073】
c)次に、本実施形態の効果について説明する。
本実施形態では、板状の空気極41の側面は、酸化剤ガスが流入する第1方向(X方向)に対して交差しており、しかも、この側面は、固体酸化物体37側の一辺よりも固体酸化物体37と反対側の一辺が酸化剤ガスの下流側に傾斜している。つまり、空気極41の側面は、ガスの流路に沿って外側(固体酸化物体37と反対側)が下流側に傾斜している。
【0074】
これにより、空気極41の厚みが大きな場合でも、空気極41の側面が酸化剤ガスを導入する際の障壁になり難く、よって、酸化剤ガスが空気極41の(面積の広い)主面側である外側表面65に好適に導入される。つまり、空気極41の厚みが大きな場合でも、酸化剤ガスは、空気極41の側面に沿って左右に流れてしまうという現象が起き難く、よって、空気極41の(面積の広い)外側表面65に十分に供給されるという効果がある。
【0075】
この結果、燃料電池セル3の面内(セル面内)に発電のバラツキが生じ難くなるので、セル面内に熱のバラツキが生じ難く、よって、燃料電池セル3にクラックが生じ難いという利点がある。
【0076】
しかも、夜間の少量発電の様な負荷変動(負荷減少)によって、燃料電池セル3に少量の酸化剤ガスしか供給されない場合でも、空気極41の外側表面65に十分に酸化剤ガスが供給でき、その結果、所望の発電量が得られるという利点もある。
【0077】
また、本実施形態では、空気極41の側面の傾斜する角度が、固体酸化物体37の表面に対して30〜85°の範囲であるので、好適に空気極41の主面側に酸化剤ガスを導入することができる。
【0078】
なお、空気極41の上層63の両側面67、69に傾斜を設けることが好ましいが、酸化剤ガスの導入側の側面にのみ傾斜を設けてもよい。また、空気極41の全ての側面(四方の側面)に、同様な傾斜を設けてもよい。
【0079】
d)次に、本実施形態の効果を確認した実験例について説明する。
上述した製造方法で、空気極の(酸化剤ガスの流れに沿った)両側面の傾斜を35〜80°の範囲で傾斜させた試料を作製した。具体的には、両側面を35°、45°、55°、65°、75°、80°の角度に傾斜させた空気極を備えた燃料電池セルを作製した。
【0080】
そして、各試料の燃料電池セルに対して、カソード限界電流特性の実験を行ったところ、前記傾斜の範囲の試料は、著しい電圧低下の変曲点>2A/cm2であり、好適であった。
【0081】
それに対して、傾斜角が、30°と85°の試料を作製して、同様に実験を行ったところ、著しい電圧低下の変曲点>2A/cm2であり、本実施形態よりは性能が低いものであった。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態と同様な内容については、説明を省略する。
【0082】
本実施形態の燃料電池セルでは、図6(a)に模式的に示す様に、空気極141の上層143は、階段状に形成されている。
具体的には、本実施形態では、前記第1実施形態と同様に、燃料極144の上に固体酸化物体145が形成され、固体酸化物体145の上に反応防止層147が形成され、反応防止層147の上に空気極141の下層149が形成され、その下層149の上に上層143が形成されている。
【0083】
このうち、上層143は、酸化剤ガスの流れ方向(同図の左右方向)において、固体酸化物体145側と反対側(同図上側)ほどその長さが短くなるように、複数の層151、153、155が積層されたものである。
【0084】
そして、この上層143を形成する場合には、図6(b)に示す様に、上層143を構成する各層151〜155の大きさに合わせて開口部157の寸法の異なる複数のマスク159を用意し(同図では層155に対応した1種類を示している)、面積の広い下側の層から順番に形成して積層してゆけばよい。なお、ここで使用するマスク159は、その開口部157の内周面は(前記第1実施形態の様に)傾斜しておらず、厚さ方向に対して垂直である。
【0085】
なお、本実施形態において傾斜の角度(θ)とは、上層143を構成する各層151〜155の上端同士(又は下端同士)を結ぶ面の傾斜の角度である。
本実施形態においても、前記第1実施形態と同様な効果を奏する。
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について説明するが、前記第1実施形態と同様な内容については、説明を省略する。
【0086】
本実施形態の燃料電池セルでは、図7に模式的に示す様に、空気極161の形状は前記第1実施形態と同様であるが、その機能が異なる。
具体的には、本実施形態では、前記第1実施形態と同様に、燃料極163や固体酸化物体165を備え、この固体酸化物体165の上に反応防止層167が形成され、反応防止層167の上に、空気極161が形成されている。
【0087】
また、空気極161は、前記第1実施形態と同様に、平面形状が正方形の板状の下層169と、その上に形成された平面形状が正方形の上層171とからなり、上層171の(酸化剤ガスの流れ方向(同図の左右方向)の)両側面173、175も、同様に内側に傾斜している。
【0088】
特に本実施形態では、下層169は、空気極本来の機能、即ち電気化学反応によって発電する機能を有する空気極機能層(触媒層)であり、上層171は、酸化剤ガスが下層169まで拡散可能で且つ導電性を有する拡散層である。
【0089】
詳しくは、下層169は例えばPtやNi等の金属材料とベロブスカイト系酸化物等のセラミックス材料とのサーメットからなり、上層171は例えばカーボンペーパーなどの導電性を有する多孔質基材からなる。
【0090】
本実施形態おいて、空気極161を形成する方法は、まず、反応防止層167の上に、第1実施形態と同様に、下層用ペーストを用いて未焼成下層をスクリーン印刷によって形成し、その後、未焼成下層上に、スクリーン印刷によって未焼成上層を形成し、その後、焼成すればよい。
【0091】
本実施形態においても、前記第1実施形態と同様な効果を奏する。
[第4実施形態]
次に、第4実施形態について説明するが、前記第1実施形態と同様な内容については、説明を省略する。
【0092】
本実施形態の燃料電池セルでは、図8に模式的に示す様に、空気極181の形状は前記第1実施形態とは若干異なっている。
具体的には、本実施形態では、前記第1実施形態と同様に、燃料極183や固体酸化物体185を備え、この固体酸化物体185の上に反応防止層187が形成され、反応防止層187の上に、空気極181が形成されている。
【0093】
また、空気極181は、前記第1実施形態と同様に、平面形状が正方形の板状の下層189と、その上に形成された平面形状が正方形の板状の上層191とからなり、この上層191の(酸化剤ガスの流れ方向(同図の左右方向:X方向)の)両側面193、195も同様に内側に傾斜している。
【0094】
特に本実施形態では、下層189の左右の側面と上層191の左右の側面とが一体の同一平面を構成している。つまり、下層189の両側面も上層191の両側面と同様な角度で一体に傾斜している。
【0095】
なお、下層189の側面を傾斜させるためには、前記第1実施形態で使用した様な上層形成用と同様なマスク、即ち開口部の内周面が傾斜したマスクを使用すればよい。
本実施形態においても、前記第1実施形態と同様な効果を奏する。
[第5実施形態]
次に、第5実施形態について説明するが、前記第4実施形態と同様な内容については、説明を省略する。
【0096】
本実施形態の燃料電池セルでは、図9に模式的に示す様に、空気極201の形状は前記第4実施形態と同じであるが、その構造が異なっている。
具体的には、本実施形態では、前記第4実施形態と同様に、燃料極203や固体酸化物体205を備え、この固体酸化物体205の上に反応防止層207が形成され、反応防止層207の上に、空気極201が形成されている。
【0097】
また、空気極201は、平面形状が正方形の板状であるが、前記第4実施形態の様な下層と上層との2層構造ではなく、前記下層と同様な材料から空気極201全体が構成されている。
【0098】
従って、空気極201の(酸化剤ガスの流れ方向(同図の左右方向:X方向)の)両側面209、211が、前記第4実施形態と同様に傾斜している。
本実施形態においても、前記第1実施形態と同様な効果を奏する。
[第6実施形態]
次に、第6実施形態について説明するが、前記第5実施形態と同様な内容については、説明を省略する。
【0099】
本実施形態の燃料電池セルでは、図10に電極部分のみを模式的に示す様に、燃料極221の燃料ガスの流れ方向(Y方向)の両側面223、225が傾斜している。なお、酸化剤ガスの流れ方向(X方向)は、Y方向に直交する方向である。
【0100】
具体的には、本実施形態では、前記第5実施形態と同様に、図示しないが、燃料極や固体酸化物体を備え、この固体酸化物体の上に反応防止層が形成され、反応防止層の上に、空気極227が形成されている。
【0101】
この空気極227は、平面形状が正方形の板状であり、その酸化剤ガスの流れ方向に沿った両側面229、231は、前記第5実施形態と同様に傾斜している。
特に本実施形態では、燃料極221の両側面223、225が、空気極227の両側面229、231と同様に、35〜80°の範囲で傾斜している。
【0102】
本実施形態では、燃料ガスについて、前記第1実施形態と同様な効果(燃料ガスを燃料極221の主面側にスムーズに導く効果)を奏する。
なお、空気極227の両側面229、231に傾斜を設けなくてもよい。逆に、空気極227及び燃料極221の全ての側面を同様に傾斜させてもよい。
[第7実施形態]
次に、第7実施形態について説明するが、前記第5実施形態と同様な内容については、説明を省略する。
【0103】
本実施形態の燃料電池セルでは、図11に空気極のみを模式的に示す様に、空気極241の(酸化剤ガスの流れ方向(X方向))の両側面243、245が傾斜している。
そして、この両側面243、245には、酸化剤ガスの流れ方向に沿って複数の溝(スリット)247が形成してある。
【0104】
これによって、前記第5実施形態と同様な効果を奏するとともに、一層酸化剤ガスの流れがスムーズになるという利点がある。
なお、燃料極の傾斜した側面に同様なスリットを設けてもよい。
【0105】
尚、本発明は前記実施形態になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
(1)例えば、上述した前記第1実施形態における製造方法では、開口部の内周面に傾斜を有するマスクを用いて、側面に傾斜を有する空気極を形成したが、他の方法で形成してもよい。
【0106】
例えば空気極の材料として、例えば粘度50Pa・sの低粘度インクを作製し、開口部の内周面に傾斜を有しないマスクを用いて、厚膜印刷にて未焼成空気極層を形成し、乾燥させる。この乾燥の際には、未焼成空気極層の側面が、図12(a)に示す様に湾曲することにより傾斜するので、焼成後の空気極の側面も傾斜したものとなる。
【0107】
ここで、この側面が湾曲した形状における側面の傾斜角θは、空気極251の側面の上端における湾曲開始点と下端における湾曲開始点とを結んだ線と下面(例えば固体酸化物体253の上面)とが交差する角度とすればよい。なお、図12(b)に示す様に、空気極255の側面が凹んだ場合にも、側面の傾斜角θとしては、空気極255の側面の上端における湾曲開始点と下端における湾曲開始点とを結んだ線と下面(例えば固体酸化物体257の上面)とが交差する角度とすれば、
(2)また、例えば空気極の材料として、例えば粘度50Pa・sのインクを作製し、開口部の内周面に傾斜を有しないマスクを用いて、厚膜印刷にて未焼成空気極層を形成し、乾燥し、焼成する。この場合も、未焼成空気極層の側面が、図12(a)に示す様に湾曲することにより傾斜するので、焼成後の空気極の側面も傾斜したものとなる。
【符号の説明】
【0108】
1…燃料電池
3…燃料電池セル
31…燃料ガス流路
33、144、163、183、203、221…燃料極
35…空気流路
37、145、165、185、205、253、257…固体酸化物体
39、147、167、187、207…反応防止層
41、141、161、181、201、227、241、251、255…空気極
55…枠体
61、149、169、189…下層
63、143、171、191…上層
65…外側表面
67、69、173、175、209、211、223、225、229、231、243、245…側面
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気極に酸化剤ガスを供給するとともに燃料極に燃料ガスを供給して発電を行う燃料電池セルと、その燃料電池セルを複数個備えた燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池の一種として、電解質層に固体酸化物を用いた固体酸化物形燃料電池(以下単に燃料電池と記すこともある)が知られている。
例えば、下記特許文献1に記載の様に、イオン伝導性を有する固体酸化物からなる層状の固体電解質体と、固体電解質体の一方の面側に設けられて酸化剤ガス(空気や酸素など)に接する層状の空気極と、固体電解質体の他方の面側に設けられて燃料ガス(水素やメタンやエタノールなど)に接する層状の燃料極とを有する平板形状の燃料電池セルが知られており、また、この燃料電池セルを複数個積層した構造を有する燃料電池も開発されている。
【0003】
この種の燃料電池では、空気極や燃料極の各電極と酸化剤ガスや燃料ガスの各ガスとの反応を好適に行わせるために、通常、各電極と各ガスとの接触面積を大きくするように構成されている。例えば空気極側では、空気極の側面側から(即ち、厚み方向に対して垂直な方向に沿って)酸化剤ガスを空気極側に導入し、空気極の主面(厚み方向における外側表面)とセルの隔壁との間に酸化剤ガスを供給することにより、空気極に対して酸化剤ガスを供給するようにしている。
【0004】
また、これとは別に、例えば空気極においては、空気極と外部(セルの外部)との電気的接続をとるために、空気極の外側表面(空気極の主面)に接する様に集電体が配置されるものがあり、近年では、空気極と集電体との導通をより確実にするために、空気極の厚みを大きくする等の提案がなされている(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−327637号公報
【特許文献2】特開2010−272499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献2の技術の様に、例えば空気極の厚みを大きくした場合には、図13に示す様に、空気極の側面が酸化剤ガスを導入する際の障壁になってしまい、酸化剤ガスが空気極の外側表面に好適に供給されにくいという問題があった。
【0007】
つまり、空気極の厚みが大きいと、酸化剤ガスが空気極の切り立った側面に当たって、その側面に沿って左右(同図上下方向)に流れてしまい、空気極の(面積の広い)外側表面(主面)に十分に供給されないという問題があった。
【0008】
この結果、空気極の外側表面に対応するセル面内(平面方向における面内)に発電のバラツキが生じることにより、セル面内に熱のバラツキが生じ、場合によっては、燃料電池セルにクラックが生じる恐れがあった。
【0009】
特に、例えば夜間の少量発電の様な負荷変動(負荷減少)によって、燃料電池セルに少量の酸化剤ガス等しか供給されない場合には、空気極の外側表面における全ての領域に酸化剤ガスが行き渡らない恐れがあり、その結果、所望の発電量が得られない可能性もあった。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、空気極等の電極の外側表面(主面側の表面)に十分なガスを供給することができる燃料電池セル及び燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明は、第1態様として、電解質体の一方の面に空気極が形成されるとともに、他方の面に燃料極が形成された平板形状の燃料電池セルにおいて、前記空気極側に形成され前記空気極に対して所定の第1方向から酸化剤ガスを供給する第1流路と、前記燃料極側に形成され前記燃料極に対して所定の第2方向から燃料ガスを供給する第2流路と、を備え、前記空気極又は前記燃料極を所定の厚みを有する板状の構造とするとともに、該板状の構造の、前記酸化剤ガス又は前記燃料ガスが流入する前記第1方向又は前記第2方向に交差する側面を、前記電解質体側の一辺よりも、該電解質体と反対側の一辺がガスの下流側に傾斜するように構成したことを特徴とする。
【0012】
本発明では、板状の空気極又は燃料極の側面(主面側ではない側面:主面の存在する平面に対して交差する側面)は、酸化剤ガス又は燃料ガスが流入する第1方向又は第2方向に対して交差(直交する場合も含む)しており、しかも、この側面は、電解質体側の一辺よりも電解質体と反対側の一辺がガスの下流側に傾斜している。つまり、空気極又は燃料極の側面は、ガスの流路に沿って外側(電解質体と反対側)が下流側に傾斜している。
【0013】
これにより、空気極及び燃料極をそれぞれ収容する空間(以下ガス室と記す)に配置した際に、空気極や燃料極の厚みが大きく、ガス室内部に流入(導入)されるガス(酸化剤ガス又は燃料ガス)の入口に面した(又は直面した)場合でも、空気極や燃料極の側面が酸化剤ガスや燃料ガスを導入する際の障壁になり難く、導入された酸化剤ガスや燃料ガスが「傾斜」している側面に誘導されて、空気極や燃料極の(面積の広い)主面側である外側表面に好適に供給されるという効果がある。
【0014】
つまり、空気極や燃料極の厚みが大きな場合でも、酸化剤ガスや燃料ガスは、空気極や燃料極の側面に阻害されて左右に流れてしまうという現象が起き難く、よって、空気極や燃料極の外側表面に十分に供給されるという効果がある。
【0015】
この結果、酸化剤ガスや燃料ガスがそれぞれの電極の主面に行き渡りやすく、セル面内に発電のバラツキが生じ難くなるので、セル面内に熱のバラツキが生じ難く、よって、セルにクラックが生じ難いという利点がある。
【0016】
従って、特に、夜間の少量発電の様な負荷変動(負荷減少)によって、セルに少量の酸化剤ガスや燃料ガスしか供給されない場合でも、空気極や燃料極の外側表面に十分に酸化剤ガスや燃料ガスが供給でき、その結果、所望の発電量が得られるという利点もある。
【0017】
(2)本発明は、第2態様として、電解質体の一方の面に空気極が形成されるとともに、他方の面に燃料極が形成された平板形状の燃料電池セルにおいて、前記空気極側に形成され前記空気極に対して所定の第1方向から酸化剤ガスを供給する第1流路と、前記燃料極側に形成され前記燃料極に対して所定の第2方向から燃料ガスを供給する第2流路と、を備え、前記空気極及び前記燃料極を所定の厚みを有する板状の構造とするとともに、該板状の構造の、前記酸化剤ガスが流入する前記第1方向に交差する第1側面及び前記燃料ガスが流入する前記第2方向に交差する第2側面を、前記電解質体側の一辺よりも、該電解質体と反対側の一辺がガスの下流側に傾斜するように構成したことを特徴とする。
【0018】
本発明では、板状の空気極及び燃料極の各側面(主面側ではない側面:主面の存在する平面に対して交差する側面)は、酸化剤ガスが流入する第1方向及び燃料ガスが流入する第2方向に対して交差(直交する場合も含む)しており、しかも、この側面は、電解質体側の一辺よりも電解質体と反対側の一辺がガスの下流側に傾斜している。つまり、空気極及び燃料極の側面は、ガスの流路に沿って外側(電解質体と反対側)が下流側に傾斜している。
【0019】
これにより、空気極及び燃料極をそれぞれ収容するガス室に配置した際に、空気極及び燃料極の厚みが大きく、ガス室内部に流入(導入)されるガス(酸化剤ガス又は燃料ガス)の入口に面した(又は直面した)場合でも、空気極及び燃料極の側面が酸化剤ガスや燃料ガスを導入する際の障壁になり難く、導入された酸化剤ガスや燃料ガスが「傾斜」している側面に誘導されて、空気極及び燃料極の(面積の広い)主面側である外側表面に好適に供給されるという効果がある。
【0020】
つまり、空気極及び燃料極の厚みが大きな場合でも、酸化剤ガスや燃料ガスは、空気極及び燃料極の側面に阻害されて左右に沿って左右に流れてしまうという現象が起き難く、よって、空気極及び燃料極の(面積の広い)外側表面に十分に供給されるという効果がある。
【0021】
この結果、酸化剤ガス及び燃料ガスがそれぞれの電極の主面に行き渡りやすく、セル面内に発電のバラツキが生じ難くなるので、セル面内に熱のバラツキが生じ難く、よって、セルにクラックが生じ難いという利点がある。
【0022】
従って、特に、夜間の少量発電の様な負荷変動(負荷減少)によって、セルに少量の酸化剤ガスや燃料ガスしか供給されない場合でも、空気極や燃料極の外側表面に十分に酸化剤ガスや燃料ガスが供給でき、その結果、所望の発電量が得られるという利点もある。
【0023】
(3)本発明は、第3態様として、前記電解質体と前記空気極と前記燃料極との側面方向の周囲を囲むように枠体を設けるとともに、前記枠体に前記各ガスを導入するための流路を設けたことを特徴とする。
【0024】
本発明の第3態様では、電解質体と空気極と燃料極との側面方向の周囲を囲むように枠体を設け、この枠体に各ガスを導入するための流路を設けることができる。即ち、前述した「ガス室」を枠体の内側にて形成し、ガス室内にガスを導入するための流路(入口)を枠体に形成することができる。
【0025】
(4)本発明は、第4態様として、前記空気極は、空気極機能層と、前記空気極機能層の表面上に形成され前記酸化剤ガスが該空気極機能層まで拡散可能な拡散層と、を備え、前記拡散層のみが前記傾斜を有するように構成されていることを特徴とする。
【0026】
本発明の第4態様では、空気極が空気極機能層と拡散層とを備えている場合に、外側の拡散層のみに傾斜を形成することができる。この拡散層の側面のみに傾斜を設けた場合でも、十分に各ガスを各電極の主面側に導入することができる。また、空気極の拡散層のみに「傾斜」を設けることで、「傾斜」による空気極機能層の体積(現象)への影響が少なく、空気極機能層が担う発電反応の機能を損なうこともない。
【0027】
なお、ここで、空気極機能層とは、発電のために空気極としての反応を行う層、詳しくは、酸化剤ガス中の酸素と燃料極側から供給される水素イオンと外部回路から供給される電子とから水を生成させる機能を有する層である。また、固体酸化物形燃料電池の場合では、空気極機能層は、酸化剤ガス中の酸素を酸素イオンに生成する層であり、生成された酸素イオンが固体電解質層を介して燃料極で生成された水素イオンと結合して水が生成される。
【0028】
(5)本発明は、第5態様として、前記側面の傾斜する角度が、前記電解質体の表面に対して30〜85°の範囲であることを特徴とする。
本発明の第5態様では、各電極の側面の傾斜を30〜85°の範囲に設定すれば、有効に電極の主面側に各ガスを誘導して導入することができる。
【0029】
(6)本発明は、第6態様として、前記傾斜する側面に、前記第1方向及び前記第2方向の少なくとも一方に沿って、スリットが形成されていることを特徴とする。
本発明の第6態様では、各電極の側面に、ガスの導入方向に沿って。1又は複数のスリット(溝)を形成しているので、好適に電極の主面側に各ガスを導入することができる。
【0030】
(7)本発明は、第7態様として、前記傾斜する側面は、滑らかな表面又は階段状の表面を有していることを特徴とする。
ここでは、各電極の傾斜する側面の状態を例示している。
【0031】
(8)本発明は、第8態様として、前記請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池セルは、固体酸化物を電解質体とする固体酸化物形燃料電池セルであることを特徴とする。
ここでは、燃料電池セルの構成を例示している。
【0032】
(9)本発明は、第9態様として、前記請求項1〜8のいずれか1項に記載の燃料電池セルを、1又は複数個備えた燃料電池を特徴とする。
ここでは、燃料電池セルからなる燃料電池を例示している。
【0033】
以下、本発明の各構成材料について説明する。
・前記電解質体としては、イオン導電性を有する固体電解質体が挙げられる。この固体電解質体の材質としては、ZrO2系固体電解質、LaGaO3系固体電解質、BaCeO3系固体電解質、SrCeO3系固体電解質、SrZrO3系固体電解質及びCaZrO3系固体電解質等が挙げられる。これらの固体電解質のうちでは、ZrO2系固体電解質が好ましい。また、希土類元素の酸化物、特にY2O3、Sc2O3を用いて安定化、又は部分安定化されたZrO2系固体電解質が、優れたイオン導電性と十分な機械的強度とを併せて有するためより好ましい。
【0034】
・前記燃料極の材質としては、Ni及びFe等の金属の酸化物(NiO、Fe2O3等)と、ジルコニア系セラミック(好ましくはイットリア等により安定化又は部分安定化されたジルコニア)、セリア及び酸化マンガン等のセラミックとの混合物などを用いることができる。更に、各種の金属、及び金属とセラミックとの混合物などを用いることもできる。金属としては、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru、Rh、Ni及びFe等の金属又は2種以上の金属を含有する合金が挙げられる。また、金属とセラミックとの混合物としては、これらの金属又は合金と、ジルコニア系セラミック(好ましくはイットリア等により安定化又は部分安定化されたジルコニア)、セリア及び酸化マンガン等との混合物などが挙げられる。これらのうちでは、酸化ニッケル(SOFCの作動時には還元されてNiとなる。)と、ジルコニア系セラミックとの混合物が好ましく、このジルコニア系セラミックが、希土類元素の酸化物、特にY2O3、Sc2O3を用いて安定化又は部分安定化されたものであることがより好ましい。
【0035】
・前記空気極の材質としては、各種の金属、金属の酸化物、金属の複酸化物等を用いることができる。金属としては、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru及びRh等の金属又は2種以上の金属を含有する合金が挙げられる。また、金属の酸化物としては、La、Sr、Ce、Co、Mn及びFe等の酸化物(La2O3、SrO、Ce2O3、Co2O3、MnO2及びFeO等)が挙げられる。更に、複酸化物としては、少なくともLa、Pr、Sm、Sr、Ba、Co、Fe及びMn等を含有する複酸化物(La1-xSrxCoO3系複酸化物、La1-xSrxFeO3系複酸化物、La1-xSrxCo1-yFeyO3系複酸化物、La1-xSrxMnO3系複酸化物、Pr1-xBaxCoO3系複酸化物及びSm1-xSrxCoO3系複酸化物等)が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(a)は第1実施形態の燃料電池の平面図、(b)はその正面図である。
【図2】第1実施形態の燃料電池セルを厚み方向に破断し分解して示す説明図である。
【図3】(a)は空気極の平面にける酸化剤ガスの流れを示す説明図、(b)は燃料電池セルを厚み方向に破断して模式的に示す説明図である。
【図4】燃料電池セルを分解して示す斜視図である。
【図5】燃料電池セルの空気極の形成方法を示す説明図である。
【図6】(a)は第2実施形態の燃料電池セルの空気極側を厚み方向に破断して示す説明図、(b)は燃料電池セルの空気極の形成方法を示す説明図である。
【図7】第3実施形態の燃料電池セルを厚み方向に破断して模式的に示す説明図である。
【図8】第4実施形態の燃料電池セルを厚み方向に破断して模式的に示す説明図である。
【図9】第5実施形態の燃料電池セルを厚み方向に破断して模式的に示す説明図である。
【図10】第6実施形態の燃料電池セルの空気極及び燃料極を示す斜視図である。
【図11】第7実施形態の燃料電池セルの空気極を示す斜視図である。
【図12】(a)は他の燃料電池セルの空気極を厚み方向に破断して示す説明図、(b)は更に他の燃料電池セルの空気極を厚み方向に破断して示す説明図である。
【図13】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について説明する。
[第1実施形態]
a)まず、本実施形態の固体酸化物形燃料電池(以下単に燃料電池と記す)の概略構成について説明する。
【0038】
図1に示す様に、燃料電池1は、燃料ガス(例えば水素)と酸化剤ガス(例えば空気)との供給を受けて発電を行う装置である。
この燃料電池1は、発電単位(発電セル)である平板形の燃料電池セル3が複数個(例えば18段)積層された燃料電池スタック5と、燃料電池スタック5を貫く複数のボルト(第1〜第8ボルト)11〜18と、各ボルト11〜18の両端に螺合する各ナット19(総称)とを備えている。
【0039】
また、各ボルト11〜18のうち、第2ボルト12には、燃料ガスを燃料電池1に供給する燃料ガス導入管21を備え、第4ボルト14には、酸化剤ガスを燃料電池1に供給する酸化剤ガス導入管23を備え、第6ボルト16には、発電後の燃料ガスを燃料電池1から排出する燃料ガス排出管25を備え、第8ボルト18には、発電後の酸化剤ガスを燃料電池1から排出する酸化剤ガス排出管27を備えている。
【0040】
以下、各構成について説明する。
・図2に分解して示す様に、前記燃料電池セル3は、いわゆる燃料極支持膜タイプの板状の燃料電池セルである。この燃料電池セル3の燃料ガス流路31側(図2下側)には、板状の燃料極(アノード)33が配置されるとともに、燃料極33の空気流路35側(図2上側)の表面には、膜状の固体電解質体(固体酸化物体)37が形成されている。更に、固体酸化物体37の空気流路35側の表面には、反応防止層39が形成され、反応防止層39の空気流路35側には、板状の空気極(カソード)41が形成されている。なお、燃料極33と固体酸化物体37と反応防止膜39と空気極41とをセル本体43と称する。
【0041】
ここで、前記固体酸化物体37は、酸素イオン伝導性を有するセラミックス材料からなる。この固体酸化物体37としては、例えば、イットリアやスカンジウム等で安定化した各ジルコニア系酸化物(YSZやScSZ)、或いはストロンチウムやマグネシウムをドープしたランタン・ガレード系酸化物等を含むペロブスカイト系酸化物を採用できる。
【0042】
前記燃料極33としては、例えば、NiやPt、Ir等の金属材料からなる多孔質体、又は金属材料とジルコニア系酸化物等のセラミックス材料とのサーメット等を採用できる。
【0043】
前記空気極41としては、例えば、PtやNi等の金属材料とベロブスカイト系酸化物等のセラミックス材料とのサーメットを採用できる。
前記反応防止層39としては、例えば、サマリウムやガドリニウム等をドープした各セリア系酸化物(SDC、GDC)等を採用できる。
【0044】
また、燃料電池セル3は、上下一対のインターコネクタ45、45の間に、空気極41側のガスシール部47と、絶縁フレーム48と、セル本体43の外縁部の上面に接合して空気流路35と燃料ガス流路31との間を遮断するセパレータ49と、燃料ガス流路31側に配置された燃料極フレーム51と、燃料極33側のガスシール部53とを備えており、それらが積層されて一体に構成されている。なお、空気極41側のガスシール部47と絶縁フレーム48とセパレータ49と燃料極フレーム51と燃料極33側のガスシール部53とにより、セル本体43の側方の周囲を囲む枠体55が構成されている。
【0045】
更に、前記燃料電池セル3内には、燃料極33と図2下側のインターコネクタ45との間に、燃料極側集電体57が配置され、各インターコネクタ45の一方(図2下側)の表面には、空気極側集電体59が一体に形成されている。
【0046】
なお、本実施形態では、空気極側集電体59には、複数の空気流路35が平行に形成されており、空気流路35においては、空気は図2の左右方向に流れる。同様に、燃料極側集電体57には、複数の燃料ガス流路31が平行に形成されており、燃料ガス流路31においては、燃料ガスは同図の紙面と垂直方向に流れるように設定されている。このように、空気流路35と燃料ガス流路31とが直交するように配置されている(図3参照)。
【0047】
ここで、前記燃料極側集電体57や空気極側集電体59としては、例えば、PtやNi等の金属材料やサーメット等を採用できる。なお、前記燃料電池スタック5は、複数個の燃料電池セル3が電気的に直列に接続されたものである。
【0048】
特に、本実施形態では、図3(a)に空気極41の平面形状を示す様に、空気極41は、平面形状が正方形の板状であり、且つ、図3(b)に燃料電池セル3の断面を模式的に示す様に、固体酸化物体37側の厚み10〜30μmの下層61と下層61の外側の表面(図3(b)上側)を覆う厚み100〜300μmの上層63とから構成されている。
【0049】
なお、前記下層61及び上層63は、同様な材料からなる多孔体であるが、上層63は下層61よりもポーラス(空孔が多い構成)となっている。詳しくは、上層63は1〜10μmの粉末材料の焼結物であるが、下層61は1μm未満の粉末材料の焼結物からなる。
【0050】
このうち、前記下層61は、平面形状が正方形で、その四方の側面(厚み方向に対して垂直な方向の側面)は、厚み方向に対して垂直である。一方、前記上層63は、平面形状が正方形であり、その厚み方向の外側に(酸化剤ガスと接触する面積の大きな)正方形の主面(外側表面)65を備えるとともに、その四方の側方に側面を備えている。
【0051】
特に、この上層63の側面のうち、酸化剤ガスの導入側及び排出側の流路に沿った両側面67、69(図3の左右の側面)は、酸化剤ガスをスムーズに外側表面65側(図3(b)の上方)に導くために、外側表面65側ほど(図3の左右方向における)中央側に傾斜するように、平板状の傾斜面となるように構成されている。
【0052】
つまり、図3(a)に示す様に、上層63の酸化剤ガスの導入側の側面67は、酸化剤ガスが流入する第1方向(同図矢印X方向)に対して交差するように、同図の上下方向に伸びるとともに、図3(b)に示す様に、外側表面65側が、酸化剤ガスの下流側(同図左側)に傾斜している。この傾斜角度(固体酸化物体37の表面に対する傾斜角度θ)は、30〜85°の範囲内の例えば40〜70°である。なお、図3(a)に示す様に、燃料ガスの流れ方向(Y方向)は、酸化剤ガスの流れ方向(X方向)と直交する方向である。
【0053】
一方、上層63の酸化剤ガスの排出側の側面69については、酸化剤ガスの導入側の側面67とは傾斜方向が逆であり、その外側表面65側が、酸化剤ガスの上流側(同図右側)に傾斜している。なお、この側面69については、傾斜を設けなくてもよい。
【0054】
なお、前記図3の左右一対の両側面67、69以外の残りの両側面については、同様に外側表面65側が中央側に傾くように傾斜させてもよいが、傾斜させなくてもよい。
・次に、燃料電池セル3を構成する各部材のうち、特に外周の枠体55等を構成する部材について、更に説明する。なお、燃料電池セル3の平面形状は正方形であるので、燃料電池セル3を構成する各部材の平面形状も正方形である。
【0055】
図4に分解して示す様に、前記インターコネクタ45は、例えばフェライト系ステンレスからなる板材であり、その外縁部には、前記ボルト11〜18が貫挿される丸孔である挿通孔(第1〜第8挿通孔)71〜78(以下各部材で同じ番号を用いる)が、等間隔に形成されている。
【0056】
また、前記空気極41側のガスシール部47は、例えばマイカからなる枠状の板材であり、その外縁部には、前記各挿通孔71〜78が形成されている。
更に、このガスシール部47には、中央の正方形の開口部85と連通するように、ガスシール部47の左右の枠部分に、細径のガス流路(空気流路35と連通する流路)となる長方形の切り欠き87、89が複数本ずつ形成されている。
【0057】
なお、この切り欠き87、89は、上下方向に貫通しており、ガスシール部47にレーザ加工やプレス加工を行うことによって形成することができる。
また、前記絶縁フレーム48は、例えばマイカからなる枠状の板材であり、その外縁部には、前記各挿通孔71〜78が形成されている。このうち、同図の左右の挿通孔78、74には、それぞれ辺に沿って両側に伸びる切れ込み91、93が形成してある。なお、この切れ込み91、93は、それぞれ前記ガスシール部47の左右の切り欠き87、89に連通している。
【0058】
更に、前記セパレータ49は、例えばフェライト系ステンレスからなる枠状の板状であり、その中央の正方形の開口部95には、開口部95を閉塞するように前記セル本体43が接合されている。
【0059】
このセパレータ49においても、前記ガスシール部47と同様に、その外縁部に前記各挿通孔71〜78が形成されている。このうち、挿通孔72、74、76、78には、それぞれ辺に沿って伸びる切り欠き96、97、98、99が形成されている。
【0060】
更に、前記燃料極フレーム51は、中央に開口部101を備えた例えばフェライト系ステンレスからなる枠状の板材であり、前記セパレータ49と同様に、その外縁部に前記各挿通孔71〜78が形成されている。このうち、挿通孔72、74、76、78には、前記セパレータ49と同様に、それぞれ辺に沿って伸びる切り欠き103、104、105、106が形成されている。
【0061】
また、前記燃料極33側のガスシール部53は、前記空気極41側のガスシール部47と同様に、中央に開口部107を備えた例えばマイカからなる枠状の板材であり、その外縁部には前記各挿通孔71〜78が形成されている。
【0062】
このガスシール部53にも、対向する各枠部分に、開口部107と連通するように、細径のガス流路(燃料ガス流路31と連通する流路)となる切り欠き109、111が、複数本ずつ設けられている。なお、この切り欠き109、111は、それぞれ前記ガスシール部51の切り込み105、103に連通している。
【0063】
b)次に、燃料電池セル3の要部(セル本体43)の製造方法について説明する。
(1) 燃料極基体用グリーンシートの形成
NiO粉末(60重量部)とYSZ粉末(40重量部)との混合粉末(100重量部)に対して、造孔材である有機ビーズ(混合粉末に対して10重量%)と、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエン+エタノール混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調整した。得られたスラリーをドクターブレード法により、厚さ250μmの燃料極基体用グリーンシートを作製した。
【0064】
(2) 固体電解質層用グリーンシートの形成
YSZ粉末(100重量部)に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエン+エタノール混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調整した。得られたスラリーをドクターブレード法により、厚さ10μmの固体電解質層用グリーンシートを作製した。
【0065】
(3)焼成積層体の形成
次に、前記燃料極基体用グリーンシートと前記固体電解質層用グリーンシートとを積層し、その積層体を焼成して、焼成積層体を作製した。
【0066】
(4)反応防止層の形成
次に、積層焼成体の固体電解質側に、GDC(ガドリニウム添加セリア)保護膜用ペーストを印刷して焼き付けて、反応防止層39を形成した。
【0067】
(5)空気極の形成
次に、前記焼成積層体の反応防止層39の上に、以下に述べる様にして空気極用のペースト層を形成し、そのペースト層を焼き付けて、セル本体43を作製した。
【0068】
詳しくは、空気極41を作製する際には、まず、空気極41の下層61を形成するために、空気極41を構成する材料として、粒径1μm未満の粉末材料(例えばLSCF )にGDCを加えて下層用ペーストを作製し、周知のマスク(下層61の平面形状に対応した正方形の開口部を有するマスク:図示せず)を用いて、反応防止層39上に、下層用ペーストを約20μmの厚みでスクリーン印刷して、未焼成下層を形成した。
【0069】
次に、図5に模式的に示す様に、上層形成用のマスク121を用意する。このマスク121は、上層63の平面形状に対応した正方形の開口部123を有するとともに、開口部123の内周面125が、上層63の両側面67、69の斜面に合わせて(同図の下方ほど開口するように)、同様な角度で傾斜している。
【0070】
そして、上層63を形成するために、空気極41を構成する材料として、粒径1〜10μmの粉末材料(例えばLSCF)の上層用ペーストを作製し、前記上層用のマスク123を用いて、未焼成下層127上に、上層用ペーストを約300μmの厚みでスクリーン印刷した。
【0071】
これにより、未焼成下層127の上に、両側面が35〜80°の範囲内で傾斜した未焼成上層129が積層された未焼成空気層131が形成される。
その後、この未焼成空気極131を焼成して、空気極41を形成するとともにセル本体43を完成した。
【0072】
なお、その後、従来と同様に、このセル本体43を他の部材と組み合わせて、燃料電池セル3を構成するとともに、燃料電池セル3を厚み方向に複数個積層して燃料電池1を作製する。
【0073】
c)次に、本実施形態の効果について説明する。
本実施形態では、板状の空気極41の側面は、酸化剤ガスが流入する第1方向(X方向)に対して交差しており、しかも、この側面は、固体酸化物体37側の一辺よりも固体酸化物体37と反対側の一辺が酸化剤ガスの下流側に傾斜している。つまり、空気極41の側面は、ガスの流路に沿って外側(固体酸化物体37と反対側)が下流側に傾斜している。
【0074】
これにより、空気極41の厚みが大きな場合でも、空気極41の側面が酸化剤ガスを導入する際の障壁になり難く、よって、酸化剤ガスが空気極41の(面積の広い)主面側である外側表面65に好適に導入される。つまり、空気極41の厚みが大きな場合でも、酸化剤ガスは、空気極41の側面に沿って左右に流れてしまうという現象が起き難く、よって、空気極41の(面積の広い)外側表面65に十分に供給されるという効果がある。
【0075】
この結果、燃料電池セル3の面内(セル面内)に発電のバラツキが生じ難くなるので、セル面内に熱のバラツキが生じ難く、よって、燃料電池セル3にクラックが生じ難いという利点がある。
【0076】
しかも、夜間の少量発電の様な負荷変動(負荷減少)によって、燃料電池セル3に少量の酸化剤ガスしか供給されない場合でも、空気極41の外側表面65に十分に酸化剤ガスが供給でき、その結果、所望の発電量が得られるという利点もある。
【0077】
また、本実施形態では、空気極41の側面の傾斜する角度が、固体酸化物体37の表面に対して30〜85°の範囲であるので、好適に空気極41の主面側に酸化剤ガスを導入することができる。
【0078】
なお、空気極41の上層63の両側面67、69に傾斜を設けることが好ましいが、酸化剤ガスの導入側の側面にのみ傾斜を設けてもよい。また、空気極41の全ての側面(四方の側面)に、同様な傾斜を設けてもよい。
【0079】
d)次に、本実施形態の効果を確認した実験例について説明する。
上述した製造方法で、空気極の(酸化剤ガスの流れに沿った)両側面の傾斜を35〜80°の範囲で傾斜させた試料を作製した。具体的には、両側面を35°、45°、55°、65°、75°、80°の角度に傾斜させた空気極を備えた燃料電池セルを作製した。
【0080】
そして、各試料の燃料電池セルに対して、カソード限界電流特性の実験を行ったところ、前記傾斜の範囲の試料は、著しい電圧低下の変曲点>2A/cm2であり、好適であった。
【0081】
それに対して、傾斜角が、30°と85°の試料を作製して、同様に実験を行ったところ、著しい電圧低下の変曲点>2A/cm2であり、本実施形態よりは性能が低いものであった。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態と同様な内容については、説明を省略する。
【0082】
本実施形態の燃料電池セルでは、図6(a)に模式的に示す様に、空気極141の上層143は、階段状に形成されている。
具体的には、本実施形態では、前記第1実施形態と同様に、燃料極144の上に固体酸化物体145が形成され、固体酸化物体145の上に反応防止層147が形成され、反応防止層147の上に空気極141の下層149が形成され、その下層149の上に上層143が形成されている。
【0083】
このうち、上層143は、酸化剤ガスの流れ方向(同図の左右方向)において、固体酸化物体145側と反対側(同図上側)ほどその長さが短くなるように、複数の層151、153、155が積層されたものである。
【0084】
そして、この上層143を形成する場合には、図6(b)に示す様に、上層143を構成する各層151〜155の大きさに合わせて開口部157の寸法の異なる複数のマスク159を用意し(同図では層155に対応した1種類を示している)、面積の広い下側の層から順番に形成して積層してゆけばよい。なお、ここで使用するマスク159は、その開口部157の内周面は(前記第1実施形態の様に)傾斜しておらず、厚さ方向に対して垂直である。
【0085】
なお、本実施形態において傾斜の角度(θ)とは、上層143を構成する各層151〜155の上端同士(又は下端同士)を結ぶ面の傾斜の角度である。
本実施形態においても、前記第1実施形態と同様な効果を奏する。
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について説明するが、前記第1実施形態と同様な内容については、説明を省略する。
【0086】
本実施形態の燃料電池セルでは、図7に模式的に示す様に、空気極161の形状は前記第1実施形態と同様であるが、その機能が異なる。
具体的には、本実施形態では、前記第1実施形態と同様に、燃料極163や固体酸化物体165を備え、この固体酸化物体165の上に反応防止層167が形成され、反応防止層167の上に、空気極161が形成されている。
【0087】
また、空気極161は、前記第1実施形態と同様に、平面形状が正方形の板状の下層169と、その上に形成された平面形状が正方形の上層171とからなり、上層171の(酸化剤ガスの流れ方向(同図の左右方向)の)両側面173、175も、同様に内側に傾斜している。
【0088】
特に本実施形態では、下層169は、空気極本来の機能、即ち電気化学反応によって発電する機能を有する空気極機能層(触媒層)であり、上層171は、酸化剤ガスが下層169まで拡散可能で且つ導電性を有する拡散層である。
【0089】
詳しくは、下層169は例えばPtやNi等の金属材料とベロブスカイト系酸化物等のセラミックス材料とのサーメットからなり、上層171は例えばカーボンペーパーなどの導電性を有する多孔質基材からなる。
【0090】
本実施形態おいて、空気極161を形成する方法は、まず、反応防止層167の上に、第1実施形態と同様に、下層用ペーストを用いて未焼成下層をスクリーン印刷によって形成し、その後、未焼成下層上に、スクリーン印刷によって未焼成上層を形成し、その後、焼成すればよい。
【0091】
本実施形態においても、前記第1実施形態と同様な効果を奏する。
[第4実施形態]
次に、第4実施形態について説明するが、前記第1実施形態と同様な内容については、説明を省略する。
【0092】
本実施形態の燃料電池セルでは、図8に模式的に示す様に、空気極181の形状は前記第1実施形態とは若干異なっている。
具体的には、本実施形態では、前記第1実施形態と同様に、燃料極183や固体酸化物体185を備え、この固体酸化物体185の上に反応防止層187が形成され、反応防止層187の上に、空気極181が形成されている。
【0093】
また、空気極181は、前記第1実施形態と同様に、平面形状が正方形の板状の下層189と、その上に形成された平面形状が正方形の板状の上層191とからなり、この上層191の(酸化剤ガスの流れ方向(同図の左右方向:X方向)の)両側面193、195も同様に内側に傾斜している。
【0094】
特に本実施形態では、下層189の左右の側面と上層191の左右の側面とが一体の同一平面を構成している。つまり、下層189の両側面も上層191の両側面と同様な角度で一体に傾斜している。
【0095】
なお、下層189の側面を傾斜させるためには、前記第1実施形態で使用した様な上層形成用と同様なマスク、即ち開口部の内周面が傾斜したマスクを使用すればよい。
本実施形態においても、前記第1実施形態と同様な効果を奏する。
[第5実施形態]
次に、第5実施形態について説明するが、前記第4実施形態と同様な内容については、説明を省略する。
【0096】
本実施形態の燃料電池セルでは、図9に模式的に示す様に、空気極201の形状は前記第4実施形態と同じであるが、その構造が異なっている。
具体的には、本実施形態では、前記第4実施形態と同様に、燃料極203や固体酸化物体205を備え、この固体酸化物体205の上に反応防止層207が形成され、反応防止層207の上に、空気極201が形成されている。
【0097】
また、空気極201は、平面形状が正方形の板状であるが、前記第4実施形態の様な下層と上層との2層構造ではなく、前記下層と同様な材料から空気極201全体が構成されている。
【0098】
従って、空気極201の(酸化剤ガスの流れ方向(同図の左右方向:X方向)の)両側面209、211が、前記第4実施形態と同様に傾斜している。
本実施形態においても、前記第1実施形態と同様な効果を奏する。
[第6実施形態]
次に、第6実施形態について説明するが、前記第5実施形態と同様な内容については、説明を省略する。
【0099】
本実施形態の燃料電池セルでは、図10に電極部分のみを模式的に示す様に、燃料極221の燃料ガスの流れ方向(Y方向)の両側面223、225が傾斜している。なお、酸化剤ガスの流れ方向(X方向)は、Y方向に直交する方向である。
【0100】
具体的には、本実施形態では、前記第5実施形態と同様に、図示しないが、燃料極や固体酸化物体を備え、この固体酸化物体の上に反応防止層が形成され、反応防止層の上に、空気極227が形成されている。
【0101】
この空気極227は、平面形状が正方形の板状であり、その酸化剤ガスの流れ方向に沿った両側面229、231は、前記第5実施形態と同様に傾斜している。
特に本実施形態では、燃料極221の両側面223、225が、空気極227の両側面229、231と同様に、35〜80°の範囲で傾斜している。
【0102】
本実施形態では、燃料ガスについて、前記第1実施形態と同様な効果(燃料ガスを燃料極221の主面側にスムーズに導く効果)を奏する。
なお、空気極227の両側面229、231に傾斜を設けなくてもよい。逆に、空気極227及び燃料極221の全ての側面を同様に傾斜させてもよい。
[第7実施形態]
次に、第7実施形態について説明するが、前記第5実施形態と同様な内容については、説明を省略する。
【0103】
本実施形態の燃料電池セルでは、図11に空気極のみを模式的に示す様に、空気極241の(酸化剤ガスの流れ方向(X方向))の両側面243、245が傾斜している。
そして、この両側面243、245には、酸化剤ガスの流れ方向に沿って複数の溝(スリット)247が形成してある。
【0104】
これによって、前記第5実施形態と同様な効果を奏するとともに、一層酸化剤ガスの流れがスムーズになるという利点がある。
なお、燃料極の傾斜した側面に同様なスリットを設けてもよい。
【0105】
尚、本発明は前記実施形態になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
(1)例えば、上述した前記第1実施形態における製造方法では、開口部の内周面に傾斜を有するマスクを用いて、側面に傾斜を有する空気極を形成したが、他の方法で形成してもよい。
【0106】
例えば空気極の材料として、例えば粘度50Pa・sの低粘度インクを作製し、開口部の内周面に傾斜を有しないマスクを用いて、厚膜印刷にて未焼成空気極層を形成し、乾燥させる。この乾燥の際には、未焼成空気極層の側面が、図12(a)に示す様に湾曲することにより傾斜するので、焼成後の空気極の側面も傾斜したものとなる。
【0107】
ここで、この側面が湾曲した形状における側面の傾斜角θは、空気極251の側面の上端における湾曲開始点と下端における湾曲開始点とを結んだ線と下面(例えば固体酸化物体253の上面)とが交差する角度とすればよい。なお、図12(b)に示す様に、空気極255の側面が凹んだ場合にも、側面の傾斜角θとしては、空気極255の側面の上端における湾曲開始点と下端における湾曲開始点とを結んだ線と下面(例えば固体酸化物体257の上面)とが交差する角度とすれば、
(2)また、例えば空気極の材料として、例えば粘度50Pa・sのインクを作製し、開口部の内周面に傾斜を有しないマスクを用いて、厚膜印刷にて未焼成空気極層を形成し、乾燥し、焼成する。この場合も、未焼成空気極層の側面が、図12(a)に示す様に湾曲することにより傾斜するので、焼成後の空気極の側面も傾斜したものとなる。
【符号の説明】
【0108】
1…燃料電池
3…燃料電池セル
31…燃料ガス流路
33、144、163、183、203、221…燃料極
35…空気流路
37、145、165、185、205、253、257…固体酸化物体
39、147、167、187、207…反応防止層
41、141、161、181、201、227、241、251、255…空気極
55…枠体
61、149、169、189…下層
63、143、171、191…上層
65…外側表面
67、69、173、175、209、211、223、225、229、231、243、245…側面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質体の一方の面に空気極が形成されるとともに、他方の面に燃料極が形成された平板形状の燃料電池セルにおいて、
前記空気極側に形成され前記空気極に対して所定の第1方向から酸化剤ガスを供給する第1流路と、前記燃料極側に形成され前記燃料極に対して所定の第2方向から燃料ガスを供給する第2流路と、を備え、
前記空気極又は前記燃料極を所定の厚みを有する板状の構造とするとともに、該板状の構造の、前記酸化剤ガス又は前記燃料ガスが流入する前記第1方向又は前記第2方向に交差する側面を、前記電解質体側の一辺よりも、該電解質体と反対側の一辺がガスの下流側に傾斜するように構成したことを特徴とする燃料電池セル。
【請求項2】
電解質体の一方の面に空気極が形成されるとともに、他方の面に燃料極が形成された平板形状の燃料電池セルにおいて、
前記空気極側に形成され前記空気極に対して所定の第1方向から酸化剤ガスを供給する第1流路と、前記燃料極側に形成され前記燃料極に対して所定の第2方向から燃料ガスを供給する第2流路と、を備え、
前記空気極及び前記燃料極を所定の厚みを有する板状の構造とするとともに、該板状の構造の、前記酸化剤ガスが流入する前記第1方向に交差する第1側面及び前記燃料ガスが流入する前記第2方向に交差する第2側面を、前記電解質体側の一辺よりも、該電解質体と反対側の一辺がガスの下流側に傾斜するように構成したことを特徴とする燃料電池セル。
【請求項3】
前記電解質体と前記空気極と前記燃料極との側面方向の周囲を囲むように枠体を設けるとともに、前記枠体に前記各ガスを導入するための流路を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池セル。
【請求項4】
前記空気極は、空気極機能層と、前記空気極機能層の表面上に形成され前記酸化剤ガスが該空気極機能層まで拡散可能な拡散層と、を備え、
前記拡散層のみが前記傾斜を有するように構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池セル。
【請求項5】
前記側面の傾斜する角度が、前記電解質体の表面に対して30〜85°の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池セル。
【請求項6】
前記傾斜する側面に、前記第1方向及び前記第2方向の少なくとも一方に沿って、スリットが形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池セル。
【請求項7】
前記傾斜する側面は、滑らかな表面又は階段状の表面を有していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池セル。
【請求項8】
前記請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池セルは、固体酸化物を電解質体とする固体酸化物形燃料電池セルであることを特徴とする燃料電池セル。
【請求項9】
前記請求項1〜8のいずれか1項に記載の燃料電池セルを、1又は複数個備えたことを特徴とする燃料電池。
【請求項1】
電解質体の一方の面に空気極が形成されるとともに、他方の面に燃料極が形成された平板形状の燃料電池セルにおいて、
前記空気極側に形成され前記空気極に対して所定の第1方向から酸化剤ガスを供給する第1流路と、前記燃料極側に形成され前記燃料極に対して所定の第2方向から燃料ガスを供給する第2流路と、を備え、
前記空気極又は前記燃料極を所定の厚みを有する板状の構造とするとともに、該板状の構造の、前記酸化剤ガス又は前記燃料ガスが流入する前記第1方向又は前記第2方向に交差する側面を、前記電解質体側の一辺よりも、該電解質体と反対側の一辺がガスの下流側に傾斜するように構成したことを特徴とする燃料電池セル。
【請求項2】
電解質体の一方の面に空気極が形成されるとともに、他方の面に燃料極が形成された平板形状の燃料電池セルにおいて、
前記空気極側に形成され前記空気極に対して所定の第1方向から酸化剤ガスを供給する第1流路と、前記燃料極側に形成され前記燃料極に対して所定の第2方向から燃料ガスを供給する第2流路と、を備え、
前記空気極及び前記燃料極を所定の厚みを有する板状の構造とするとともに、該板状の構造の、前記酸化剤ガスが流入する前記第1方向に交差する第1側面及び前記燃料ガスが流入する前記第2方向に交差する第2側面を、前記電解質体側の一辺よりも、該電解質体と反対側の一辺がガスの下流側に傾斜するように構成したことを特徴とする燃料電池セル。
【請求項3】
前記電解質体と前記空気極と前記燃料極との側面方向の周囲を囲むように枠体を設けるとともに、前記枠体に前記各ガスを導入するための流路を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池セル。
【請求項4】
前記空気極は、空気極機能層と、前記空気極機能層の表面上に形成され前記酸化剤ガスが該空気極機能層まで拡散可能な拡散層と、を備え、
前記拡散層のみが前記傾斜を有するように構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池セル。
【請求項5】
前記側面の傾斜する角度が、前記電解質体の表面に対して30〜85°の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池セル。
【請求項6】
前記傾斜する側面に、前記第1方向及び前記第2方向の少なくとも一方に沿って、スリットが形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池セル。
【請求項7】
前記傾斜する側面は、滑らかな表面又は階段状の表面を有していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池セル。
【請求項8】
前記請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池セルは、固体酸化物を電解質体とする固体酸化物形燃料電池セルであることを特徴とする燃料電池セル。
【請求項9】
前記請求項1〜8のいずれか1項に記載の燃料電池セルを、1又は複数個備えたことを特徴とする燃料電池。
【図1】
【図2】
【図12】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図2】
【図12】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【公開番号】特開2012−227011(P2012−227011A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94249(P2011−94249)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
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