説明

燃料電池セル

【課題】スタッキング時の圧縮力によるガス拡散層の変形性能を確保しながら、撥水性能をより一層高めることができ、集電性能を向上させながら、燃料電池セルの体格低減を図ることもできる燃料電池セルを提供する。
【解決手段】電解質膜1と触媒層2,3とからなる膜電極接合体4と、該膜電極接合体4のアノード側およびカソード側の少なくとも一方に配されたガス拡散層5,6と、から電極体7が形成され、該電極体7をセパレータ8,9が挟持してなる燃料電池セル10であり、ガス拡散層5,6のうち、その膜電極接合体4側、もしくはセパレータ8,9側の少なくとも一方側には、複数の突部5a,6aと、該突部間に形成された凹溝5b,6bと、が備えてあり、突部5a,6aの剛性が、ガス拡散層の他の箇所の剛性よりも高くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を構成する燃料電池セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池の燃料電池セルは、イオン透過性の電解質膜と、該電解質膜を挟持するアノード側およびカソード側の触媒層とから膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)が形成され、このMEAとこれを挟持するアノード側およびカソード側のガス拡散層(GDL)とから電極体(MEGA:Membrane Electrode & Gas Diffusion Layer Assembly)が形成され、電極体に燃料ガスもしくは酸化剤ガスを提供するとともに電気化学反応によって生じた電気を集電するための金属多孔体からなるガス流路層とセパレータが電極体の両側に配されて構成されている。なお、セパレータにガス流路溝が形成された燃料電池セルも従来一般のものであり、この形態の場合にはガス流路層となる金属多孔体は不要である。実際の燃料電池スタックは、所要電力に応じた基数の燃料電池セルが積層され、スタッキングされることによって形成されている。
【0003】
上記する燃料電池では、アノード電極に燃料ガスとして水素ガス等が提供され、カソード電極には酸化剤ガスとして酸素や空気が提供され、各電極では固有のガス流路層(またはセパレータに形成されたガス流路溝)にて面内方向にガスが流れ、次いでガス拡散層にて拡散されたガスが電極触媒層に導かれて電気化学反応がおこなわれるものである。
【0004】
ところで、燃料電池セルを積層してスタッキングする際に、一般に燃料電池セルは熱膨張した状態となっており、このように熱膨張した状態の燃料電池セルの積層体から定寸構造スタックを形成するために、この積層体をスタッキングし、その際の押圧力によって各燃料電池セルを圧縮させる必要がある。燃料電池セルに圧縮力を作用させた際に収縮する部材は一般にガス拡散層であり、したがって、ガス拡散層には、導電性やガス拡散性のほかに、変形性、すなわち所望の変形量が得られる性能も要求されている。尤も、このガス拡散層の変形も塑性変形ではなく、弾性変形することで圧縮力を膜電極接合体に伝えることができるものである。
【0005】
ここで、従来の公開技術に目を転じるに、上記のごとく変形性能を有するガス拡散層の膜電極接合体側の側面に突部と凹溝を設けておき、ガス拡散性能に加えて、膜電極接合体からの排水性能を向上させることのできる技術が特許文献1に開示されている。
【0006】
しかし、凹溝を有するガス拡散層を具備する燃料電池セルに対して、たとえばスタッキング時の圧縮力が作用した際に、ガス拡散層の凹溝を形成する突部が潰されてしまい、初期の凹溝の撥水性能を発揮し得る断面寸法を確保できなくなることは理解に易い。
【0007】
一方、特許文献2には、ガス拡散層のセパレータ側に突部と凹溝が設けられ、同様に突部と凹溝を有する面材からなるセパレータの該突部がガス拡散層の凹溝を塞いでいる構造の燃料電池が開示されている。
【0008】
この燃料電池では、ガス拡散層の凹溝がセパレータの突部にてその殆どを塞がれているために、ガス拡散層に形成された凹溝を燃料ガスや酸化剤ガス等の流体流路に適用することはできない。すなわち、この技術では、ガス拡散層のセパレータ側の突部とセパレータの凹溝と、の間で画成された空間を流体流路とするものである。
【0009】
これに対して本発明者等は、従来のセパレータ、すなわち、突部と凹溝を有する蛇行状の面材からなるセパレータの突部と、ガス拡散層に形成された凹溝を係合させながら、流体流路を確保しつつ、ガス拡散層とセパレータ双方の接触抵抗の低減を図り、もって集電性能に優れた燃料電池セルの発案にも至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−17076号公報
【特許文献2】特開2008−66208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、凹溝を有するガス拡散層を具備する燃料電池セルに関し、たとえばスタッキング時の圧縮力が作用した際に、ガス拡散層の凹溝を形成する突部が潰されて初期の凹溝の撥水性能を発揮し得る断面寸法が確保できなくなるという問題を効果的に解消することのできる、燃料電池セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明による燃料電池セルは、電解質膜と触媒層とからなる膜電極接合体と、該膜電極接合体のアノード側およびカソード側の少なくとも一方に配されたガス拡散層と、から電極体が形成され、該電極体をセパレータが挟持してなる燃料電池セルであって、前記ガス拡散層のうち、その膜電極接合体側もしくはセパレータ側の少なくとも一方側には、複数の突部と、該突部間に形成された凹溝と、が備えてあり、前記突部の剛性が、ガス拡散層の他の箇所の剛性よりも高くなっているものである。
【0013】
本発明の燃料電池セルを構成するガス拡散層は、その膜電極接合体側もしくはセパレータ側の少なくとも一方側において、複数の突部と、該突部間に形成された凹溝と、が備えられた構造を呈するものである。したがって、ガス拡散層のセパレータ側の側面にのみ凹溝および突部が形成されている形態、ガス拡散層の膜電極接合体側の側面にのみ凹溝および突部が形成されている形態、ガス拡散層のセパレータ側の側面と膜電極接合体側の側面の双方に凹溝と突部が形成されている形態、のいずれであってもよい。
【0014】
そして、ガス拡散層がその膜電極接合体側の側面に凹溝と突部を具備する形態においては、この凹溝が膜電極接合体から滲出してくる水分を撥水する作用を奏することができる。
【0015】
一方、ガス拡散層がそのセパレータ側の側面に凹溝と突部を具備する形態においては、この凹溝が酸化剤ガスや燃料ガス等の流体流路となるものである。
【0016】
上記するいずれの形態のガス拡散層を有する燃料電池セルにおいても、当該ガス拡散層に形成された突部の剛性は、ガス拡散層の他の箇所の剛性よりも高くなっている。この構成により、たとえばスタッキング時に燃料電池セルに作用する圧縮力により、ガス拡散層の該他の箇所は初期の変形性能を発揮する一方で、相対的に高剛性の突部の変形を少なくできる、もしくは全く変形しないようにでき、従来構造のガス拡散層のごとく、作用する圧縮力によって突部が潰れ、ガス拡散層に形成された凹溝の断面が潰れた突部で大きく狭められ、初期の撥水性能等を発揮できなくなるという課題を効果的に解消することができる。
【0017】
ここで、ガス拡散層は、たとえば拡散層基材と集電層とから構成されるものであり、この拡散層基材はカーボン繊維等が編みこまれたり、多数のカーボン繊維がバインダーで一体化されて構成されるものであるが、ガス拡散層の他の箇所に比して、突部を構成するカーボン繊維の繊維径が他の箇所のそれに比して大径のものを使用したり、あるいは、突部を構成するバインダー量を相対的に多くする、等の調整により、突部の剛性を相対的に高剛性とすることができる。
【0018】
また、前記ガス拡散層の前記突部が、少なくともセパレータ側に形成されている燃料電池セルにおいては、セパレータが、ガス拡散層側に突出する複数の突部と、該突部と突部の間の凹溝と、を有する、蛇行状の面材から形成されるものであり、セパレータの該突部が前記ガス拡散層の凹溝の一部に嵌り込んで、該突部と該凹溝双方の側面同士が当接し、かつ、該突部と該突部が嵌り込んでいない凹溝の箇所との間で流体流路を画成している形態であるのが好ましい。
【0019】
ガス拡散層のセパレータ側の側面に形成された凹溝の一部に(したがって、凹溝の全部ではない)、セパレータに形成された突部が嵌め合いされることで、凹溝のうち、セパレータの突部が嵌め合いされていない領域、すなわち、セパレータの突部の端面と、ガス拡散層の凹溝の内面と、で画成された領域を形成することができ、この領域を燃料ガスや酸化剤ガスなどの流体流路に適用することが可能となるものである。
【0020】
上記形態においては、さらに、セパレータの突部とガス拡散層の凹溝の一部の双方の側面同士が当接している構造をさらに具備するのが望ましい。なお、この側面同士の当接に加えて、セパレータの凹溝の内面とガス拡散層の突部の外面同士も当接する形態とすることで、燃料ガスや酸化剤ガスのガス流路はガス拡散層の凹溝内で確保しながら、セパレータの突部が完全にガス拡散層の凹溝内に嵌め合いされることで、燃料電池セルを構成するアノード側およびカソード側のセパレータ間の厚みを短くでき、もって燃料電池セルの体格低減を図ることが可能となる。
【0021】
ガス拡散層、セパレータ双方の凹溝および/または突部同士が当接することで、ガス拡散層とセパレータ双方の接触面積を増大でき、双方の接触抵抗を低減できることで、燃料電池セルの集電性能が向上する。
【0022】
また、前記燃料電池セルにおいて、ガス拡散層の前記凹溝に嵌り込んでいるセパレータの前記突部が、ガス拡散層側に突出する複数の別途の突部と、該別途の突部間に形成された別途の凹溝と、をさらに有している形態であってもよい。
【0023】
この形態は、セパレータの突部がガス拡散層の凹溝の一部に嵌まり込むことで、ガス拡散層の凹溝とセパレータの突部とで画成されたガス流路の断面が減少することを解消することを目的としたものである。
【0024】
すなわち、セパレータの突部は、ガス拡散層の凹溝に嵌り込みながらも、その突部がさらに別途の凹溝および別途の突部を有することで、この別途の凹溝によってガス流路断面が増加され、ガスの流通性が向上する。
【0025】
なお、面材からなるセパレータを曲げ加工等することで、凹溝と突部を有する蛇行形状のセパレータを製造することができ、別途の凹溝および別途の突部も同様の方法で、曲げ加工することで形成できる。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から理解できるように、本発明の燃料電池セルによれば、スタッキング時の圧縮力によるガス拡散層の変形性能を確保しながら、撥水性能をより一層高めることができる。また、ガス拡散層のセパレータ側の側面に凹溝と突部を有する燃料電池セルにおいては、集電性能を向上させながら、燃料電池セルの体格低減を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の燃料電池セルの一実施の形態の縦断面図である。
【図2】図1の燃料電池セルを構成するガス拡散層を拡大して示した図であって、(a)はスタッキング前の状態を示した図であり、(b)はスタッキング後の状態を示した図である。
【図3】本発明の燃料電池セルの他の実施の形態の縦断面図である。
【図4】本発明の燃料電池セルのさらに他の実施の形態の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の燃料電池セルは、図示例以外にも、そのガス拡散層がセパレータ側および膜電極接合体側の双方の側面に凹溝および突部を具備する形態(図1と図3もしくは図1と図4の組み合わせ形態)であってもよい。また、図示する燃料電池セルにおいては、電極体の両側に配される流体シール用のガスケットの図示を省略している。
【0029】
図1は、本発明の燃料電池セルの一実施の形態の縦断面図であり、図2は、この燃料電池セルを構成するガス拡散層を拡大して示した図であって、図2aはスタッキング前の状態を、図2bはスタッキング後の状態を、それぞれ示したものである。なお、図1で示す燃料電池セル10は、スタッキング時の圧縮力:Pが作用した状態、すなわち、スタッキングされた燃料電池スタックにおける燃料電池セルを取り出したものを示したものである。
【0030】
図示する燃料電池セル10は、電解質膜1と、カソード側およびアノード側の触媒層2,3と、から膜電極接合体4が形成され、この膜電極接合体4と、このカソード側およびアノード側のガス拡散層5,6とから電極体7が形成され、電極体7をカソード側およびアノード側のセパレータ8,9が挟持して形成されている。
【0031】
ここで、膜電極接合体4を構成する電解質膜1は、たとえば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成される。
【0032】
また、触媒層2,3は、触媒が担持された導電性担体(粒子状のカーボン担体など)と、電解質と、分散溶媒(有機溶媒)と、を混合して触媒溶液(触媒インク)を生成し、これを電解質膜1やガス拡散層5,6等の基材に塗工ブレードにて層状に引き伸ばして塗膜を形成し、温風乾燥炉等で乾燥することで触媒層が形成される。ここで、触媒溶液を形成する電解質は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質などを挙げることができる。
【0033】
なお、市販素材としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標、デュポン社製)やフレミオン(Flemion)(登録商標、旭硝子株式会社製)などを挙げることができる。また、分散溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、芳香族系あるいはハロゲン系の種々の溶媒を挙げることができ、さらには、これらを単独で、もしくは混合液として使用することができる。
【0034】
さらに、触媒が担持された導電性担体に関し、この導電性担体としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができ、この触媒(金属触媒)としては、たとえば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどのうちのいずれか一種を使用することができ、好ましくは白金または白金合金を使用するのがよい。さらに、この白金合金としては、たとえば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタンおよび鉛のうちの少なくとも一種との合金を挙げることができる。
【0035】
また、ガス拡散層5,6を形成する素材は、電気抵抗が低く、集電を行える素材であれば特に限定されるものではなく、たとえば、導電性無機物質を主とするものを挙げることができ、この導電性無機物質としては、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛等の炭素材やこれらのナノカーボン材料、ステンレススチール、モリブデン、チタン等を挙げることができる。また、導電性無機物質の形態は特に限定されるものではなく、たとえば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、ガス透過性の点から無機導電性繊維であって、特に炭素繊維が好ましい。無機導電性繊維を用いたガス拡散層5,6としては、織布あるいは不織布いずれの構造のものも使用することができ、カーボンペーパーやカーボンクロスなどを挙げることができる。織布としては、平織、紋織、綴織など、特に限定されるものではなく、不織布としては、抄紙法、ニードルパンチ法、ウォータージェットパンチ法によるものなどが挙げられる。さらに、この炭素繊維としては、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などを挙げることができる。また、無機導電性繊維をバインダーにて一体化してガス拡散層5,6を形成してもよく、このバインダーとしては、化学的に安定という理由からパーフルオロカーボンスルフォン酸系高分子であるナフィオン、スルホン酸基などのイオン伝導性基を導入した芳香族エンプラ系樹脂、スチレン系の熱可塑性エラストマーからなるカチオン伝導性バインダーなどを使用することができる。
【0036】
さらに、セパレータ8,9は、ガス不透過性の緻密なカーボン材や緻密黒鉛材、チタンやその合金、ステンレスやその合金などからなる面材を折り曲げ加工して製造されるものであり、図示例では、ガス拡散層5,6側に突の突部8a,9aと、これらの突部8a,8a,9a,9a間に形成された凹溝8b、9bと、からなる蛇行形状を呈している。
【0037】
そして、これらセパレータ8,9の突部がカソード側およびアノード側のガス拡散層5,6と当接した姿勢において、凹溝8b、9bとガス拡散層5,6とで画成された空間が、酸化剤ガス、燃料ガスそれぞれのガス流路R,Rとなるものである。
【0038】
また、図1で示す燃料電池セル10において、ガス拡散層5,6はそれぞれ、一般部5c、6cと、これら一般部5c、6cから膜電極接合体4側へ突出する突部5a,6aと、これらの突部5a,5a,6a,6a間に形成された凹溝5b、6bと、から構成されている。この凹溝5b、6bは、発電経過において膜電極接合体4から滲出してきた水分をガス拡散層5,6やセパレータ8,9に効率的に排水するための排水路の役割を奏するものである。
【0039】
さらに、このガス拡散層5,6では、それらの突部5a,6aの剛性が、一般部5c、6cよりも相対的に高くなっている。たとえば、2枚重ねによってガス拡散層を製造する方法を適用でき、突起5a,6aの製造時に使用するバインダー量を相対的に多くしたり、突起5a,6aを形成する炭素繊維として相対的に太径のものを使用する等の方策により、容易に突起5a,6aが相対的に高剛性のガス拡散層5,6が得られる。
【0040】
この相対的に高剛性の突起5a,6aは、圧縮力:Pが作用した状態において、変形しない程度の剛性であるのが好ましいが、仮に変形してその一部が凹溝5b、6bの溝断面を低減させたとしても、少なくとも、初期の撥水効果を担保できる程度の溝断面を確保できる程度の変形(もしくは潰れ)で収まる剛性を有していればよい。
【0041】
たとえば、図2a、bで示すように、スタッキング時の圧縮力が作用する前の状態において、ガス拡散層5の全厚みがL1、突起5aの厚みがL2のものが、スタッキング時の圧縮力:Pが作用した際には、ガス拡散層5の全厚みがL1からL1’に減少するものの、この減少分はすべて(もしくはそのほとんどが)一般部5cの弾性変形によるものである(突部5aの厚みに変化はない、もしくは殆どない)。すなわち、ガス拡散層5に期待される変形性能は一般部5cが負担するものである。
【0042】
図3,4は、本発明の燃料電池セルの他の実施の形態の縦断面図である。
図3で示す燃料電池セル10Aは、カソード側およびアノード側のガス拡散層5A,6Aのセパレータ側の側面において、突部5d,6dと、突部5d,5d間および突部6d,6d間に形成された凹溝5e,6eと、を有するものであり、さらに、セパレータ8,9の突部8a,9aが凹溝5e,6eの一部に嵌り込み、セパレータ8,9の凹溝8b,9bとガス拡散層5A,6Aの突部5d,6dの一部が当接している。この当接姿勢において、突部8a,9aと凹溝5e,6eで画成される空間が酸化剤ガス、燃料ガスのガス流路Ra、Raとなっている。
【0043】
この燃料電池セル10Aにおいても、ガス拡散層5A,6Aが具備する突部5d,6dは、他の一般部5c,6cに比して高剛性となっており、したがって、スタッキング時の圧縮力によって、突部5d,6dが潰され、ガス流路Raの断面が小さくなりすぎるという課題が生じ得ないものである。
【0044】
また、セパレータ8,9の凹溝8b,9bとガス拡散層5A,6Aの突部5d,6dの一部が当接していることで、セパレータ8,9とガス拡散層5A,6A間の接触面積を増大させることができ、燃料電池セル10Aの集電性能の向上に繋がる。
【0045】
さらに、セパレータ8,9の突部8a,9aが凹溝5e,6eの一部に嵌り込んだ構造を呈していることで、燃料電池セル10Aの全厚みは、セパレータの突部がガス拡散層の突部上に設けられた従来の公開技術の燃料電池セルに比して格段に薄くでき、燃料電池セル、ひいては燃料電池スタックの体格低減を図ることもできる。
【0046】
一方、図4で示す燃料電池セル10Bは、燃料電池セル10Aのセパレータに改良を加えたものである。すなわち、図3で示すセパレータ8,9の突部8a,9aに対して、さらに曲げ加工をおこなって、別途の突部8a”と別途の凹溝8a'、別途の突部9a”と別途の凹溝9a'をそれぞれ備えたセパレータ8A,9Aとしたものである。
【0047】
このセパレータ8A,9Aを適用することで、燃料電池セル10Aを構成する酸化剤ガス、燃料ガス用のガス流路Ra,Raに対して、流路断面の大きなガス流路Rb,Rbを画成することができ、ガスの流通性を一層良好にでき、燃料電池セルの発電性能をより一層向上させることに繋がるものである。
【0048】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0049】
1…電解質膜、2…カソード側の触媒層、3…アノード側の触媒層、4…膜電極接合体、5、5A…カソード側のガス拡散層、5a…突部、5b…凹溝、5c…一般部、5d…突部、5e…凹溝、6,6A…カソード側のガス流路層、6a…突部、6b…凹溝、6c…一般部、6d…突部、6e…凹溝、7,7A…電極体、8,8A…カソード側のセパレータ、8a…突部、8b…凹溝、8a’…別途の凹溝、8a”…別途の突部、9,9A…アノード側のセパレータ、9a…突部、9b…凹溝、9a’…別途の凹溝、9a”…別途の突部、10,10A,10B…燃料電池セル、R,Ra,Rb…ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と触媒層とからなる膜電極接合体と、該膜電極接合体のアノード側およびカソード側の少なくとも一方に配されたガス拡散層と、から電極体が形成され、該電極体をセパレータが挟持してなる燃料電池セルであって、
前記ガス拡散層のうち、その膜電極接合体側もしくはセパレータ側の少なくとも一方側には、複数の突部と、該突部間に形成された凹溝と、が備えてあり、
前記突部の剛性が、ガス拡散層の他の箇所の剛性よりも高くなっている、燃料電池セル。
【請求項2】
前記ガス拡散層の前記突部は、燃料電池セルを積層してスタッキングした際に該燃料電池セルに作用する圧縮力に対して、該突部が潰れない剛性を有している、請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項3】
前記ガス拡散層の前記突部が、少なくともセパレータ側に形成されている燃料電池セルにおいて、
前記セパレータは、ガス拡散層側に突出する複数の突部と、該突部と突部の間の凹溝と、を有する、蛇行状の面材からなり、セパレータの該突部が前記ガス拡散層の凹溝の一部に嵌り込んで、該突部と該凹溝双方の側面同士が当接しており、かつ、該突部と該突部が嵌り込んでいない凹溝の箇所との間で流体流路を画成している、請求項1または2に記載の燃料電池セル。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池セルにおいて、
ガス拡散層の前記凹溝に嵌り込んでいるセパレータの前記突部が、ガス拡散層側に突出する複数の別途の突部と、該別途の突部間に形成された別途の凹溝と、をさらに有している、燃料電池セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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