説明

燃料電池及び燃料電池装置

【課題】 カソード側集電板及びアノード側集電板に十分な加圧力を与え、ガス拡散層の全体に対して十分な押圧力をかける。
【解決手段】 電解質膜を挟んでカソード側集電板21とアノード側集電板22がカソード体及びアノード体に固定された際に、カソード側集電板21及びアノード側集電板22の面内変位を阻止する高応力部位25を備え、高応力部位25によりカソード側集電板21及びアノード側集電板22に十分な加圧力を与え、電解質膜側のガス拡散層に対して十分な押圧力をかける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池及び燃料貯蔵源を備えた燃料電池装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池として、電解質部材の両面側にカソード側触媒及びアノード側触媒が備えられた固体高分子電解質膜を有し、固体高分子電解質膜の両面側にカソード側集電板及びアノード側集電板が配される構成のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。カソード側触媒及びアノード側触媒とカソード側集電板及びアノード側集電板の間には、導電性繊維状部材製のガス拡散層が介装されている。
【0003】
カソード側集電板及びアノード側集電板で挟まれた固体高分子電解質膜は、カソード流体が供給されるカソード体及び燃料が供給されるアノード体により固定され、一つのセルが構成されている。そして、単一のセルもしくは積層された複数のセルがエンドプレートにより挟まれ、エンドプレート同士を固定することで燃料電池が形成されている。
【0004】
上述した燃料電池では、カソード体から空気など酸素を含む酸化剤ガスがカソード側触媒に供給され、アノード体から燃料がアノード側触媒に供給される。酸化剤ガス及び燃料が供給されることで、固体高分子電解質膜での電気化学反応により電力が発生する。尚、燃料としては、水素ガスやメタノール、水素化ホウ素化合物の水溶液が適用される。
【0005】
従来から提案されている燃料電池では、エンドプレートの周囲同士を締結することで一つの燃料電池を構成している。このため、セルが面内で均一に締め付けられるように、エンドプレートの中央部位を内側に湾曲させ、エンドプレート同士を締結した時に集電板に十分な加圧力が与えられるようになっている。
【0006】
セルが面内で均一に締め付けられ、集電板に十分な加圧力が与えられることにより、発電面全体に十分な押圧力をかけることができ、面内での発電性能が均一になり、空気や水素の漏れが防止されると共に、安定した導電状態を得ることができる。このため、発電効率を維持して燃料電池の破損を防止することができ、電池寿命を延ばすことが可能になる。
【0007】
特に、カソード側触媒及びアノード側触媒とカソード側集電板及びアノード側集電板の間にガス拡散層が介在している構造では、集電板に十分な加圧力を与えることができ、十分な圧縮荷重がガス拡散層に加わることにより導電性が向上する。従って、セルが面内で均一に締め付けられることにより、電極の役割を効率よく果たすことが可能になり、発電効率を一層向上させることができる。
【0008】
しかし、エンドプレートで押圧力を調整する構成となっているので、複数のセルが積層されている場合、積層されるセルが多くなるほど中央部側のセルの押圧を十分に行えず、集電板の加圧状態にばらつきが生じているのが現状であった。
【0009】
また、カソード側集電板及びアノード側集電板で固体高分子電解質膜が挟まれ、カソード体及びアノード体によりカソード側集電板及びアノード側集電板が固定される燃料電池には、アノード体とアノード側集電板との間に、電気化学反応により生じた水や空気中の不純物(窒素等)を排出するための空間が設けられているものが知られている。
【0010】
このような燃料電池では、エンドプレートで押圧力を調整しても、空間が存在しているので、カソード側集電板及びアノード側集電板を均等に加圧することができず、エンドプレートの中央部位を内側に湾曲させる構造を採用しても中央部には適切な押圧力をかけることができないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−163907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、セルの構造や積層状況に拘わらず、セルの面内で集電板に十分な加圧力を与えて発電面全体に十分な押圧力をかけることができる燃料電池を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、セルの構造や積層状況に拘わらず、セルの面内で集電板に十分な加圧力を与えて発電面全体に十分な押圧力をかけることができる燃料電池を備えた燃料電池装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の燃料電池は、電気化学反応により発電を行う電解質膜と、前記電解質膜のカソード面側に配され、カソード体に固定されるカソード側集電板と、前記電解質膜のアノード面側に配され、アノード体に固定されるアノード側集電板と、前記電解質膜を挟んでカソード側集電板とアノード側集電板が前記カソード体及び前記アノード体に固定された際に、前記カソード側集電板及び前記アノード側集電板の少なくとも一方の面内変位を阻止する支え部とを備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項1に係る本発明では、電解質膜を挟んでカソード側集電板とアノード側集電板がカソード体及びアノード体に固定された際、支え部により少なくとも一方の集電板に十分な加圧力が与えられ、集電板による電解質膜側への押圧力を十分に与えることができる。
【0016】
この結果、セルの構造や積層状況に拘わらず、セルの面内で集電板に十分な加圧力を与えて発電面全体に十分な押圧力をかけることが可能になる。
【0017】
そして、請求項2に係る本発明の燃料電池は、請求項1に記載の燃料電池において、前記支え部は、前記カソード側集電板及び前記アノード側集電板の少なくとも一方に、曲げ応力が高い高応力部位が面方向に連続して形成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項2に係る本発明では、高応力部位が面方向に連続して形成されているので、高応力部位で集電板自体の変位が阻止され、集電板がカソード体及びアノード体に固定された際に、集電板による電解質膜側への押圧力を十分に与えることができる。
【0019】
また、請求項3に係る本発明の燃料電池は、請求項2に記載の燃料電池において、前記カソード側集電板及び前記アノード側集電板の少なくとも一方に開口が設けられ、前記高応力部位とそれ以外の部位とは、前記開口の空孔率を異ならせることで構成されていることを特徴とする。
【0020】
請求項3に係る本発明では、空孔率が異なる開口を設けることにより、相対的に空孔率が小さい部位の範囲を高応力部位とすることができる。
【0021】
また、請求項4に係る本発明の燃料電池は、請求項3に記載の燃料電池において、前記開口は、第1開口と前記第1開口に比べて空孔率が小さい第2開口で構成され、前記第2開口が形成される部位を帯状に延ばして形成することで、前記第2開口が形成される部位が前記高応力部位とされることを特徴とする。
【0022】
請求項4に係る本発明では、空孔率が小さい第2開口の部位を帯状に伸ばして形成することで、高応力部位を帯状に配することができる。
【0023】
また、請求項5に係る本発明の燃料電池は、請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の燃料電池において、前記高応力部位は、前記カソード側集電板及び前記アノード側集電板の少なくとも一方の、前記カソード体もしくは前記アノード体に固定される部分を含む部位に形成されていることを特徴とする。
【0024】
請求項5に係る本発明では、高応力部位がカソード体もしくはアノード体に固定される部位を含むので、高応力部位を固定部位で支えることができ、集電板自体の変位を確実に阻止することができる。
【0025】
また、請求項6に係る本発明の燃料電池は、請求項5に記載の燃料電池において、前記高応力部位は、前記カソード側集電板及び前記アノード側集電板の少なくとも一方の、前記カソード体もしくは前記アノード体に固定される部位の複数箇所に亘って形成されていることを特徴とする。
【0026】
請求項6に係る本発明では、高応力部位がカソード体もしくはアノード体に固定される部位の複数箇所を含むので、高応力部位を複数箇所の固定部位で支えることができ、集電板自体の変位をより確実に阻止することができる。
【0027】
また、請求項7に係る本発明の燃料電池は、請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の燃料電池において、前記カソード体側と前記カソード側集電板の間、及び、前記アノード体側と前記アノード側集電板の間の少なくともいずれか一方の間で、曲げ応力が高い高応力部位を支えるボスを備えたことを特徴とする。
【0028】
また、請求項8に係る本発明の燃料電池は、請求項7に記載の燃料電池において、前記ボスは、前記カソード体側及び前記カソード側集電板の間、及び、前記アノード体側と前記アノード側集電板の間の対向位置にそれぞれ備えられていることを特徴とする。
【0029】
請求項7及び請求項8に係る本発明では、面積が広い集電板であっても、変位を均等に阻止することができる。
【0030】
また、請求項9に係る本発明の燃料電池は、請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の燃料電池において、前記カソード側集電板及び前記アノード側集電板の少なくとも一方が、湾曲した板ばねで形成され、前記カソード側集電板と前記アノード側集電板が前記カソード体及び前記アノード体に固定された際に、前記カソード側集電板及び前記アノード側集電板の少なくとも一方が、ばね力に抗して面内変形が阻止される状態に保持されることを特徴とする。
【0031】
また、請求項10に係る本発明の燃料電池は、請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の燃料電池において、前記カソード側集電板及び前記アノード側集電板の少なくとも一方の前記電解質膜との対向面に膨らみ部が設けられ、前記カソード側集電板と前記アノード側集電板が前記カソード体及び前記アノード体に固定された際に、前記カソード側集電板及び前記アノード側集電板の少なくとも一方の前記膨らみ部が前記電解質膜から離れる側に相対的に変位し、面方向の変位が阻止された状態に保持されることを特徴とする。
【0032】
請求項9及び請求項10に係る本発明では、カソード体及びアノード体に集電板が固定された際に、集電板が、電解質膜と接する表面が固定される前と比較して相対的に平面に近い形状に変位した状態にされる。
【0033】
また、請求項11に係る本発明の燃料電池は、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の燃料電池において、前記電解質膜と前記カソード側集電板との間、及び、前記電解質膜と前記アノード側集電板との間には、導電性繊維製の流体拡散層部材が備えられていることを特徴とする。
【0034】
請求項11に係る本発明では、セルの面内で集電板に十分な加圧力を与え、流体拡散層部材に対する集電板の押圧力を十分にして発電面全体に十分な押圧力をかけることが可能になる。
【0035】
上記目的を達成するための請求項12に係る本発明の燃料電池装置は、請求項11に記載の燃料電池と、前記燃料電池の発電に用いられる燃料を貯蔵する燃料貯蔵手段と、前記燃料貯蔵手段と前記燃料電池の電解質膜のアノード面とアノード体との間を接続する燃料供給系とを備えたことを特徴とする。
【0036】
請求項12に係る本発明では、セルの構造や積層状況に拘わらず、セルの面内で集電板に十分な加圧力を与えて発電面全体に十分な押圧力をかけることができる燃料電池を備えた燃料電池装置となる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の燃料電池は、セルの構造や積層状況に拘わらず、セルの面内で集電板に十分な加圧力を与えて発電面全体に十分な押圧力をかけることが可能になる。
【0038】
また、本発明の燃料電池装置は、セルの構造や積層状況に拘わらず、セルの面内で集電板に十分な加圧力を与えて発電面全体に十分な押圧力をかけることができる燃料電池を備えた燃料電池装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例に係る燃料電池装置の全体の概略構成図である。
【図2】燃料電池の外観を表す全体構成図である。
【図3】燃料電池の分解斜視図である。
【図4】燃料電池の断面図である。
【図5】集電板の平面図である。
【図6】集電板の平面図である。
【図7】集電板の平面図である。
【図8】集電板の平面図である。
【図9】集電板の平面図である。
【図10】集電板の平面図である。
【図11】燃料電池の断面図である。
【図12】集電板の平面図である。
【図13】燃料電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1から図4に基づいて燃料電池装置の実施例を説明する。
【0041】
図1には本発明の一実施例に係る燃料電池装置の全体の概略構成、図2には燃料電池の外観を表す全体構成、図3には燃料電池の分解斜視状態、図4には燃料電池の断面視状態を示してある。図2に示した燃料電池は、複数の電池セルを積層して一つのスタックを構成している例であるが、図3、図4は、説明の便宜上、一つの電池セルを有する燃料電池の状態を示してある。
【0042】
図1に示すように、燃料電池装置1は、発電セルを備えた燃料電池2と、燃料電池2のアノード側に供給される燃料を貯蔵する燃料貯蔵手段としての燃料貯蔵源3を備えている。燃料としては、水素ガスやメタノール、水素化ホウ素化合物の水溶液を適用することができる。燃料貯蔵源3は、内部で水素を発生させる機能を備えたものや、外部からの水素が貯蔵されるものを適用することが可能である。
【0043】
燃料貯蔵源3は燃料供給系4により燃料電池2に接続され、詳細は後述するが、燃料電池2の電解質膜のアノード面とアノード体との間に燃料が供給されるようになっている。燃料電池装置1には燃料電池2の発電状況及び発電した電力の出力状況を制御する制御回路5が備えられ、燃料電池装置1は、制御回路5を介して使用機器6に接続される。
【0044】
図2に示すように、燃料電池2は、複数の電池セル11が一対の支持板12に挟まれて固定されることで、一つのスタックとして構成されている。即ち、複数の電池セル11が積層され、積層された複数の電池セル11の上下に支持板12が配されている。支持板12同士が締結部材13(例えば、ボルト、リベット、金属ベルト等)により締結固定され、積層された複数の電池セル11が一対の支持板12に挟まれて保持される。
【0045】
図3、図4に示すように、電池セル11は、カソード体15とアノード体16の間に電解質膜としての固体高分子膜17が配されて構成されている。固体高分子膜17の両面側にはガス拡散層18が配されている。ガス拡散層18とカソード体15との間にはカソード側集電板21が設けられ、ガス拡散層18とアノード体16との間にはアノード側集電板22が設けられている。
【0046】
カソード体15は、カソード側集電板21の周縁部の固定、及び、固体高分子膜17のカソード側に空気(酸化剤:酸素)を供給するために配置されている。カソード体15の側面には、固体高分子膜17のカソード面に酸素を供給するための孔が形成されている。尚、カソード体15としては、酸化剤が供給される入口と出口のみを有する閉構造で、ファンやポンプを利用して酸化剤を供給する構造でもよい。
【0047】
アノード体16は、中央部が空間にされてアノード側集電板22の周縁部を固定する。つまり、アノード空間に燃料だけを供給するようにチャンバー構造とされ、燃料が固体高分子膜17のアノード側に均一に行き渡るようにされている。更に、窒素等の不純物や水が移動する空間が確保されている。また、アノード体16は、アノード空間と外部雰囲気とを遮断するため、周縁の固体高分子膜17との接触面に密閉手段が備えられている。
【0048】
固体高分子膜17の両面には、例えば、白金、ルテニウム、コバルトに代表される触媒が担持され、酸化剤が供給される側がカソードとなり、燃料が供給される側がアノードとなる。ガス拡散層18はカーボン製の繊維で構成され、流体(燃料、酸化剤)の流通を阻害しない状態で流体を拡散させるようになっている。そして、ガス拡散層18は、固体高分子膜17の触媒層と接触することにより電子の移動が可能になっている。
【0049】
また、カソード側集電板21及びアノード側集電板22は、ガス拡散層18と接することにより集電を行う。ガス拡散層18は金属製の導電製材料と比べて面方向の電気抵抗が高く電子の面方向の移動が制約されるため、電子を長い距離で移動させるために、カソード側集電板21及びアノード側集電板22が用いられている。
【0050】
また、カソード側集電板21及びアノード側集電板22は、固体高分子膜17の触媒層への酸化剤、燃料の供給を阻害しないために、多孔質の構造となっている。カソード側集電板21及びアノード側集電板22としては、金属製の板に孔を複数空けたものや、発泡金属体等の導電性の部材が用いられる。
【0051】
アノード側集電板22はアノード体16により外部と隔絶されているので、アノード側集電板22と外部負荷(図1に示した使用機器6等)との通電を行うために、アノード体16は、アルミ、SUS等の金属、グラファイト等のカーボン材料が適用されている。
【0052】
上述したように、両面にガス拡散層18が配された固体高分子膜17がカソード側集電板21とアノード側集電板22に挟まれ、カソード側集電板21とアノード側集電板22がカソード体15とアノード体16に挟まれる。そして、支持板12同士が締結されることにより、カソード側集電板21とアノード側集電板22がカソード体15とアノード体16に固定され、ガス拡散層18がカソード側集電板21とアノード側集電板22により所定の押圧力で挟み込まれる。
【0053】
ガス拡散層18が所定の押圧力でカソード側集電板21とアノード側集電板22に挟み込まれることで、即ち、カソード側集電板21とアノード側集電板22によりガス拡散層18に圧縮荷重がかけられることで、導電性が良好に保たれた状態で集電が行われる。カソード側集電板21及びアノード側集電板22は図示しない外部端子(図1に示した制御回路5側)に接続され、発電電力が取り出される。
【0054】
カソード側集電板21及びアノード側集電板22には、詳細は後述するが、曲げ応力が高い高応力部位25(支え部)が面方向に連続して形成され、カソード側集電板21とアノード側集電板22がカソード体15とアノード体16に固定された際に、高応力部位25によってカソード側集電板21とアノード側集電板22の自身の面内変位が阻止される。これにより、カソード側集電板21とアノード側集電板22に、ガス拡散層18に対する押圧力(固体高分子膜側への押圧力)を十分に与えることができる。
【0055】
図5に基づいて高応力部位の形成状態の実施例を説明する。図5には高応力部位25の形成例を表すカソード側集電板21及びアノード側集電板22の平面視を示してある。
【0056】
図5(a)に示した例は、カソード側集電板21及びアノード側集電板22には、高応力部位25が中心に向かって帯状に延びて形成されている。高応力部位25の一端は、カソード体15とアノード体16に固定される周縁部10の位置に形成され、高応力部位25の他端がカソード側集電板21及びアノード側集電板22の中心部位に延びている。
【0057】
図5(b)に示した例は、カソード側集電板21及びアノード側集電板22には、高応力部位25が帯状に延びて形成されている。高応力部位25の一端は、カソード体15とアノード体16に固定される周縁部10の位置に形成され、高応力部位25の他端が対向する周縁部10の位置に形成されている。つまり、帯状の高応力部位25が、カソード側集電板21及びアノード側集電板22の中心部位を通って対向する周縁部10に跨って形成されている。
【0058】
図5(c)に示した例は、カソード側集電板21及びアノード側集電板22には、高応力部位25が対角線に沿って帯状に延びて形成されている。高応力部位25の一端は、カソード体15とアノード体16に固定される周縁部10の角部の位置に形成され、高応力部位25の他端が対向する周縁部10の角部の位置に形成されている。つまり、帯状の高応力部位25が、カソード側集電板21及びアノード側集電板22の中心部位を通って対角線に沿って延び、周縁部10の角部に跨って形成されている。
【0059】
図5(d)に示した例は、高応力部位25が2つの対角線に沿って帯状に延びてそれぞれ形成されている。つまり、2つの帯状の高応力部位25が、カソード側集電板21及びアノード側集電板22の中心部位を通って対角線に沿ってそれぞれ延び、周縁部10の角部に跨って形成されている。
【0060】
図5に示したように、カソード側集電板21及びアノード側集電板22に高応力部位25を帯状に形成し、周縁部10を含む部位に高応力部位25を形成したので、高応力部位25をカソード体15とアノード体16に固定される固定部位で支えることができ、カソード側集電板21及びアノード側集電板22の変位を確実に阻止することができる。
【0061】
特に、図5(b)(c)(d)に示したように、対向する周縁部10を含む部位に亘って高応力部位25を帯状に形成したので、即ち、カソード体15とアノード体16に固定される複数箇所の固定部位に亘って高応力部位25を帯状に形成したので、高応力部位25を複数箇所の固定部位で支えることができ、カソード側集電板21及びアノード側集電板22の変位をより確実に阻止することができる。
【0062】
図6から図8に基づいて高応力部位25を具体的に説明する。図6から図8には高応力部位25の具体例を表すカソード側集電板21及びアノード側集電板22の平面視を示してある。尚、図6から図8に示した具体例は、図5(b)に示した状況の具体例を示してある。
【0063】
図6に示すように、カソード側集電板21及びアノード側集電板22の高応力部位25の部位には、多数の第2開口31が形成され、高応力部位25以外の部位のカソード側集電板21及びアノード側集電板22には多数の第1開口32が形成されている。第1開口32及び第2開口31は円形の孔であり、第2開口31は第1開口32に比べて空孔率が小さくなっている。
【0064】
図6に示した実施例は、第1開口32に比べて空孔率の小さい第2開口31の部位を高応力部位25としているので、相対的に空孔率が小さい部位の範囲を曲げ応力が高い高応力部位25とすることができる。第1開口32に加え高応力部位25に空孔率が小さい第2開口31を設けたので、酸化剤や燃料の供給の供給路を確保した状態で高応力部位25を形成することができる。
【0065】
また、高応力部位25を空孔率の異なる開口で形成したので、アノード側集電板22とアノード体16との空間に部材が存在することがなく、水や窒素等の不純物の排出のためのスペース確保に対し高応力部位25が影響を及ぼすことがない。尚、空孔率の異なる開口で高応力部位25を形成したが、第1開口と同径の第2開口を適用し、第2開口を低密度状態で配置することも可能である。
【0066】
図7に示すように、第1開口32及び第2開口31を四角孔で形成することも可能である。第1開口32及び第2開口31を四角孔で形成することで、空孔率を正確に管理することができ、高応力部位25の曲げ応力の設計が容易となる。
【0067】
図8に示すように、高応力部位25以外の部位のカソード側集電板21及びアノード側集電板22には多数の第1開口32が形成され、カソード側集電板21及びアノード側集電板22の高応力部位25の部位は開口が形成されていない(空孔率0)。
【0068】
図8に示した実施例は、高応力部位25の部位の空孔率が0にされているので、曲げ応力が極めて高い部位を確実に形成することができ、カソード側集電板21及びアノード側集電板22の変位が確実に阻止される。
【0069】
図9に基づいて長方形のカソード側集電板21及びアノード側集電板22に形成される高応力部位の形成状態の実施例を説明する。図9には高応力部位25の形成例を表す長方形のカソード側集電板21及びアノード側集電板22の平面視を示してある。
【0070】
図9(a)に示した例は、2つの高応力部位25が周縁部10の一方の短辺の上下の角部から延びて長辺の中央部の周縁部10まで帯状に延びてそれぞれ形成されている。また、2つの高応力部位25が周縁部10の他方の短辺の上下の角部から延びて長辺の中央部の周縁部10まで帯状に延びてそれぞれ形成されている。つまり、図5(d)に示した2つの高応力部位25が並列に設けられた状態にされている。そして、2つの高応力部位25の交差部位26は、それぞれ後述するボスにより支えられている。
【0071】
図9(b)に示した例は、短辺側の周縁部10同士に跨って高応力部位25が形成され、長辺側の周縁部10同士に跨って3つの高応力部位25が形成されている。そして、長辺側の周縁部10同士に跨って形成された3つの高応力部位25のうち、両側にある2つの高応力部位25と短辺側の周縁部10同士に跨って形成された高応力部位25の交差部位26は、それぞれ後述するボスにより支えられている。
【0072】
図10に基づいて長方形のカソード側集電板21及びアノード側集電板22に形成された高応力部位25を具体的に説明する。図10には高応力部位25の具体例を表すカソード側集電板21及びアノード側集電板22の平面視を示してある。尚、図10に示した具体例は、図9(b)に示した状況の具体例を示してある。
【0073】
図10に示すように、カソード側集電板21及びアノード側集電板22の高応力部位25の部位には、多数の第2開口31が形成され、高応力部位25以外の部位のカソード側集電板21及びアノード側集電板22には多数の第1開口32が形成されている。第1開口32及び第2開口31は円形の孔であり、第2開口31は第1開口32に比べて空孔率が小さくなっている。
【0074】
図10に示した実施例は、第1開口32に比べて空孔率の小さい第2開口31の部位を高応力部位25としているので、相対的に空孔率が小さい部位の範囲を曲げ応力が高い高応力部位25とすることができる。第1開口32に加え高応力部位25に空孔率が小さい第2開口31を設けたので、酸化剤や燃料の供給の供給路を確保した状態で高応力部位25を形成することができる。
【0075】
尚、空孔率が0の高応力部位25を用いたり、四角孔の第1開口32及び第2開口31を用いることも可能である。
【0076】
長方形のカソード側集電板21及びアノード側集電板22であっても、高応力部位25を形成することで、高応力部位25をカソード体15とアノード体16に固定される固定部位で支えることができ、長方形のカソード側集電板21及びアノード側集電板22の変位を確実に阻止することができる。
【0077】
図11に基づいて高応力部位25を支えるボスの構成を説明する。図11にはボスが設けられた状態の電池セルの断面を示してある。
【0078】
図11(a)に示すように、カソード体35には図に垂直な方向にブリッジ35aが2本形成され、ブリッジ35aにはボス36が設けられている。ボス36は、図9に示したカソード側集電板21及びアノード側集電板22の高応力部位25の交差部位26に対応する部位に形成されている。また、ボス36に対向して、アノード体16にボス37が形成され、図9に示した交差部位26がボス36、37で支えられる構造となっている。
【0079】
ボス36、37は、カソード側集電板21及びアノード側集電板22の面内の中央寄りの部位を押圧するため、カソード側集電板21及びアノード側集電板22の端部と接するカソード体35及びアノード体16の箇所と同一平面状にあるか、それよりも高いことが必要である。ボス36、37の高さが高い場合、カソード側集電板21及びアノード側集電板22の高応力部位25自体が撓んでも、カソード側集電板21及びアノード側集電板22の図9に示した交差部位26の部位を確実に支えることができる。
【0080】
ボス36、37により、カソード側集電板21及びアノード側集電板22の図9に示した交差部位26の部位が支えられることで、面積が広い長方形のカソード側集電板21及びアノード側集電板22であっても撓み量を低く抑えることができ、面内の変位を均等に阻止することが可能になる。
【0081】
尚、図11(b)に示したように、アノード体16だけにボス37を形成することも可能である。
【0082】
上述した実施例では、カソード側集電板21及びアノード側集電板22の両方に高応力部位25を形成した例を挙げて説明したが、カソード側集電板21及びアノード側集電板22のいずれか一方に高応力部位25を形成することも可能である。
【0083】
また、交差部位26以外、もしくは交差部位26を含めた複数箇所にボスを設けることも可能である。即ち、図12に示したカソード側集電板21及びアノード側集電板22に対し、カソード体35、アノード体16の複数箇所にボスを設けることが可能である。
【0084】
図12に示すように、カソード側集電板21及びアノード側集電板22には、図中上下方向に延びる高応力部位25(多数の第2開口31が形成されている部位)が互いに平行に複数箇所(図示例では3箇所)に設けられ、高応力部位25以外のカソード側集電板21及びアノード側集電板22には、多数の第1開口32が形成されている。前述同様に、第1開口32及び第2開口31は円形の孔であり、第2開口31は第1開口32に比べて空孔率が小さくなっている。
【0085】
そして、それぞれの高応力部位25の2箇所の部位26aに対応して、カソード体35、アノード体16にボス36、37(図11参照)を設けることが可能である。
【0086】
図13に基づいてカソード側集電板及びアノード側集電板の他の実施例を説明する。
【0087】
図13には他の実施例に係るカソード側集電板及びアノード側集電板を備えた電池セルの分解断面を示してある。尚、カソード側集電板及びアノード側集電板以外の部材は図4に示した部材と同一であるので同一符号を付してある。
【0088】
図13に示したカソード側集電板及びアノード側集電板は、高応力部位25が形成された集電板である。流体の供給口が設けられただけの集電板に適用することも可能である。
【0089】
図13(a)に示すように、カソード側集電板41及びアノード側集電板42は、中央部が固体高分子膜17側(ガス拡散層18側)に湾曲した板ばねで形成されている。カソード側集電板41とアノード側集電板42がカソード体15及びアノード体16に固定された際、カソード側集電板41及びアノード側集電板42が、ばね力に抗して面内変形が阻止される状態に保持される。
【0090】
このため、カソード体15及びアノード体16にカソード側集電板41及びアノード側集電板42が固定された際に、集電板自体が固体高分子膜17(ガス拡散層18)に対して十分な加圧力で接触する状態になるように変位し、固体高分子膜17(ガス拡散層18)をカソード側集電板41及びアノード側集電板42により十分な加圧力で押圧することができる。
【0091】
図13(b)に示すように、カソード側集電板45及びアノード側集電板46は、中央部の厚さが漸次厚くされ、カソード側集電板45及びアノード側集電板46の固体高分子膜17(ガス拡散層18)との対向面に膨らみ部45a、46aが形成されている。カソード側集電板45とアノード側集電板46がカソード体15及びアノード体16に固定された際、膨らみ部45a、46aが固体高分子膜17(ガス拡散層18)から離れる側に変位する。
【0092】
このため、カソード側集電板45とアノード側集電板46が固体高分子膜17(ガス拡散層18)に十分な加圧力で接触する状態になり、固体高分子膜17(ガス拡散層18)をカソード側集電板45及びアノード側集電板46により十分な加圧力で押圧することができる。
【0093】
尚、カソード側集電板45とアノード側集電板46がカソード体15及びアノード体16に固定された際、膨らみ部45a、46aが平面状態の固体高分子膜17(ガス拡散層18)に十分な加圧力で接触する状態になる例を挙げて説明したが、相対的に固体高分子膜17(ガス拡散層18)に十分な加圧力で接触する状態になればよく、固体高分子膜17(ガス拡散層18)の形状を調整することも可能である。
【0094】
上述したように、カソード側集電板とアノード側集電板がカソード体及びアノード体に固定された際、固体高分子膜17(ガス拡散層18)に対してカソード側集電板とアノード側集電板を十分な加圧力で接触させることが可能になる。このため、電池セルの構造・形状や積層数に拘わらず、カソード側集電板とアノード側集電板に十分な加圧力が与えられ、固体高分子膜17(ガス拡散層18)の面の全体に対して十分な押圧力をかけることが可能になる。
【0095】
このため、電池セルの面内での発電性能のばらつきをなくすことができ、燃料電池2の電池性能を向上させることが可能になる。また、電池セルの構造・形状や積層数に拘わらず、カソード側集電板とアノード側集電板に十分な加圧力が与えられ、固体高分子膜17(ガス拡散層18)の面の全体に対して十分な押圧力をかけることができる燃料電池2を備えた燃料電池装置1とすることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、燃料電池及び燃料電池装置の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 燃料電池装置
2 燃料電池
3 燃料貯蔵源
4 燃料供給系
5 制御回路
6 使用機器
10 周縁部
11 電池セル
12 支持板
13 締結部材
15、35 カソード体
16 アノード体
17 固体高分子膜
18 ガス拡散層
21、41、45 カソード側集電板
22、42、46 アノード側集電板
25 高応力部位
26 交差部位
31 第2開口
32 第1開口
36、37 ボス




【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学反応により発電を行う電解質膜と、
前記電解質膜のカソード面側に配され、カソード体に固定されるカソード側集電板と、
前記電解質膜のアノード面側に配され、アノード体に固定されるアノード側集電板と、
前記電解質膜を挟んでカソード側集電板とアノード側集電板が前記カソード体及び前記アノード体に固定された際に、前記カソード側集電板及び前記アノード側集電板の少なくとも一方の面内変位を阻止する支え部とを備えた
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池において、
前記支え部は、
前記カソード側集電板及び前記アノード側集電板の少なくとも一方に、曲げ応力が高い高応力部位が面方向に連続して形成されている
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池において、
前記カソード側集電板及び前記アノード側集電板の少なくとも一方に開口が設けられ、
前記高応力部位とそれ以外の部位とは、前記開口の空孔率を異ならせることで構成されている
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池において、
前記開口は、第1開口と前記第1開口に比べて空孔率が小さい第2開口で構成され、
前記第2開口が形成される部位を帯状に延ばして形成することで、前記第2開口が形成される部位が前記高応力部位とされる
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の燃料電池において、
前記高応力部位は、
前記カソード側集電板及び前記アノード側集電板の少なくとも一方の、前記カソード体もしくは前記アノード体に固定される部分を含む部位に形成されている
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池において、
前記高応力部位は、
前記カソード側集電板及び前記アノード側集電板の少なくとも一方の、前記カソード体もしくは前記アノード体に固定される部位の複数箇所に亘って形成されている
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の燃料電池において、
前記カソード体側と前記カソード側集電板の間、及び、前記アノード体側と前記アノード側集電板の間の少なくともいずれか一方の間で、曲げ応力が高い高応力部位を支えるボスを備えた
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項8】
請求項7に記載の燃料電池において、
前記ボスは、
前記カソード体側及び前記カソード側集電板の間、及び、前記アノード体側と前記アノード側集電板の間の対向位置にそれぞれ備えられている
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項9】
請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の燃料電池において、
前記カソード側集電板及び前記アノード側集電板の少なくとも一方が、湾曲した板ばねで形成され、前記カソード側集電板と前記アノード側集電板が前記カソード体及び前記アノード体に固定された際に、前記カソード側集電板及び前記アノード側集電板の少なくとも一方が、ばね力に抗して面内変形が阻止される状態に保持される
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項10】
請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の燃料電池において、
前記カソード側集電板及び前記アノード側集電板の少なくとも一方の前記電解質膜との対向面に膨らみ部が設けられ、前記カソード側集電板と前記アノード側集電板が前記カソード体及び前記アノード体に固定された際に、前記カソード側集電板及び前記アノード側集電板の少なくとも一方の前記膨らみ部が前記電解質膜から離れる側に相対的に変位し、面方向の変位が阻止された状態に保持される
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の燃料電池において、
前記電解質膜と前記カソード側集電板との間、及び、前記電解質膜と前記アノード側集電板との間には、導電性繊維製の流体拡散層部材が備えられている
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項12】
請求項11に記載の燃料電池と、前記燃料電池の発電に用いられる燃料を貯蔵する燃料貯蔵手段と、前記燃料貯蔵手段と前記燃料電池の電解質膜のアノード面とアノード体との間を接続する燃料供給系とを備えたことを特徴とする燃料電池装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−64384(P2012−64384A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206577(P2010−206577)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】