説明

燃料電池用セパレータおよびそれを用いた燃料電池

【課題】燃料電池における反応ガスの配流性を向上させる技術を提供する。
【解決手段】セパレータ20には、供給用マニホールド41に連結するとともに、排出用マニホールド42に向かって走り、その端部が閉塞されている供給用流路溝213が設けられている。セパレータ20には、排出用マニホールド42に連結するとともに、供給用流路溝213と併走し、その端部が閉塞されている排出用流路溝223が設けられている。供給用流路溝213と排出用流路溝223との間の流路壁22の中流域には、流路抵抗が高く、反応ガスのための副流路として機能する細溝部50が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、通常、電解質膜の両面に電極が配置された膜電極接合体を備える。また、膜電極接合体は、導電性を有するガス不透過の板状部材であるセパレータによって狭持される。セパレータの外表面には、膜電極接合体の電極面に反応ガスを行き渡らせるためのガス流路として機能する流路溝が設けられ、セパレータと膜電極接合体の電極面との間には、反応ガスを電極面全体に拡散させるためのガス拡散層が設けられる。
【0003】
ここで、セパレータに設けられる流路溝としては、供給された反応ガスのための供給側流路溝と、排ガスのための排出側流路溝とが隔壁を介して分離して形成された構成を有するものがある(特許文献1等)。こうした構成を有する流路溝では、供給側流路溝の下流端が閉塞されているため、供給側流路溝に流入した反応ガスは全て、電極面に配置されたガス拡散層を介して排出側流路溝へと流れることとなる。従って、ガス拡散層へと流入することなく燃料電池の外部へと排出されてしまう未反応ガスの量を低減させることができる。
【0004】
しかし、上記の構成の流路溝を有する燃料電池では、電極面における反応ガスの上流側の領域と、供給側流路溝の閉塞された下流側端部近傍の領域において、ガス拡散層に流入する反応ガスの量が増大する傾向にあった。即ち、電極面における反応ガスの供給量分布が不均一となるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−141979号公報
【特許文献2】特開2008−123707号公報
【特許文献3】特開2004−146309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、燃料電池における反応ガスの配流性を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
電解質膜の両面にガス拡散層を有する電極が配置された発電体である膜電極接合体を有する燃料電池において、前記膜電極接合体の少なくとも一方の面に配置される燃料電池用セパレータであって、前記燃料電池の外部から反応ガスの供給を受けるための供給用マニホールドと、前記燃料電池の外部へと排ガスを排出するための排出用マニホールドと、前記膜電極接合体の電極面に対向する面側に設けられた反応ガスのための流路溝とを備え、前記流路溝は、前記供給用マニホールドに連結するとともに、前記排出用マニホールドに向かって走り、前記排出用マニホールド側の端部において、前記排出用マニホールドに向かう方向が閉塞されている供給用流路溝と、前記排出用マニホールドに連結するとともに、前記供給用流路溝と併走し、前記供給用マニホールド側の端部において、前記供給用マニホールドに向かう方向が閉塞されている排出用流路溝と、前記供給用流路溝と前記排出用流路溝との間の流路壁に設けられ、前記供給用流路溝と前記排出用流路溝とを接続する接続流路溝とを含み、前記接続流路溝は、前記供給用流路溝と前記排出用流路溝よりも高い流路抵抗を有しており、前記接続流路溝は、前記供給用流路溝および前記排出用流路溝における反応ガスの流れ方向に渡る全流域のうちのそれぞれの中流域を互いに接続するように形成された中流域接続流路溝を含む、燃料電池用セパレータ。
この燃料電池用セパレータによれば、流路抵抗の高い接続流路溝が、反応ガスのための主流路として機能する供給用流路溝および排出用流路溝に対して、反応ガスの配流性を調整するための副流路として機能する。また、接続流路溝として中流域接続流路溝が設けられることにより、ガス拡散層へと流入することなく中流域まで供給用流路溝を流れる反応ガスの量を増大させることができる。そのため、中流域以降において供給側流路溝からガス拡散層へと流入する反応ガスの量を増大させることができ、反応ガスの配流性を向上させることができる。
【0009】
[適用例2]
適用例1に記載の燃料電池用セパレータであって、さらに、前記接続流路溝は、前記供給用流路溝の閉塞した端部側と前記排出用流路溝とを接続するように形成された下流域接続流路溝を含む、燃料電池用セパレータ。
この燃料電池用セパレータによれば、下流域接続流路溝が、発電反応によって生成された水分のための排水路としても機能する。即ち、接続流路溝によって、燃料電池における反応ガスの配流性を向上させることができるとともに、その排水性を向上させることができる。
【0010】
[適用例3]
適用例1または適用例2記載の燃料電池用セパレータであって、前記接続流路溝は、前記排出用流路溝との接続部位が、前記供給用流路溝との接続部位から見て、より上流側に位置するように設けられている傾斜接続流路溝を含む、燃料電池用セパレータ。
この燃料電池用セパレータによれば、傾斜接続流路溝が、反応ガスの流れ方向に対して、下流側から上流側へと斜め後方に延びることとなる。そのため、傾斜接続流路溝によって誘導される反応ガスが発電領域において移動する距離が実質的に延長され、燃料電池から排出される未反応ガスをより低減させることができる。
【0011】
[適用例4]
燃料電池であって、電解質膜の両面にガス拡散層を有する電極が配置された発電体である膜電極接合体と、前記膜電極接合体を狭持する2枚のセパレータとを備え、前記2枚のセパレータは、少なくとも一方が、適用例1ないし適用例3のいずれか一つに記載の燃料電池用セパレータである、燃料電池。
【0012】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池用セパレータ、そのセパレータを用いた燃料電池、その燃料電池を備えた燃料電池システム、その燃料電池システムを搭載した車両等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】燃料電池スタックの構成を示す概略図。
【図2】シール一体型膜電極接合体の構成を示す概略図。
【図3】アノードセパレータの構成を示す概略図。
【図4】カソードセパレータの構成を示す概略図。
【図5】細溝部を構成する各細溝の断面形状の構成例を示す概略図。
【図6】一次流路溝から二次流路溝への反応ガスの移動を説明するための模式図。
【図7】本発明の比較例として細溝部が省略されたセパレータを有する燃料電池スタックにおける反応ガスの流れを説明するための説明図。
【図8】細溝部の機能を説明するための説明図。
【図9】第2実施例におけるアノードセパレータの構成を示す概略図。
【図10】第2実施例におけるカソードセパレータの構成を示す概略図。
【図11】細溝部の他の構成例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.第1実施例:
図1は本発明の一実施例としての燃料電池スタックの構成を示す概略図である。この燃料電池スタック100は、反応ガスとして水素と酸素の供給を受けて発電する固体高分子型燃料電池である。燃料電池スタック100は、発電体である複数の単セル110が積層されたスタック構造を有する。単セル110は、シール一体型膜電極接合体10と、アノードセパレータ20と、カソードセパレータ30とを備える。
【0015】
図2(A),(B)は、シール一体型膜電極接合体10の構成を示す概略図である。図2(A)は、シール一体型膜電極接合体10のアノード側の面を示しており、図2(B)は、図2(A)に示すB−B切断におけるシール一体型膜電極接合体10の概略断面を示している。なお、シール一体型膜電極接合体10のカソード側の面の構成は、アノード側の面の構成と同様であるため、図示および説明は省略する。
【0016】
シール一体型膜電極接合体10は、反応ガスが供給され、発電反応が行われる発電部11と、発電部11の外周に設けられた外周シール部12とを有する(図2(A))。発電部11には膜電極接合体5が含まれる(図2(B))。膜電極接合体5は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す電解質膜1と、電解質膜1の両面にそれぞれ配置されたアノード2およびカソード3とを備える。アノード2およびカソード3は、燃料電池反応を促進するための触媒(例えば白金(Pt))が担持された導電性を有する多孔質部材(例えば、カーボンペーパー)によって構成される。
【0017】
アノード2およびカソード3の外表面にはそれぞれ、ガス拡散部材15が配置される。ガス拡散部材15は、燃料電池スタック100が構成されたときに各セパレータ20,30と直接的に接触し、反応ガスを電極面全体に拡散させるためのガス拡散層として機能するとともに、膜電極接合体5において発電された電気の導電パスとして機能する。ガス拡散部材15は、ガスを拡散するための細孔を有するとともに、導電性を有する多孔質部材によって構成することができる。具体的には、ガス拡散部材15としては、例えば、カーボンペーパや多孔質の金属焼結体を採用することができる。また、ガス拡散部材15としては、いわゆるエキスパンドメタルなどの細孔を有するように加工された金属板を採用することも可能である。
【0018】
外周シール部12は、膜電極接合体5の外周端を被覆するように射出成形された樹脂部材である。外周シール部12の両面には、図示せざる突起部(リブ)が形成されている。当該突起部は、シール一体型膜電極接合体10が燃料電池スタック100に組み付けられたときに、各セパレータ20,30の外表面に押圧され、流体の漏洩を抑制するためのシールラインを構成する。
【0019】
また、外周シール部12には、反応ガスのためのマニホールド41〜44が貫通孔として形成されている。各マニホールド41〜44は、電極面における水素の流れ方向と酸素の流れ方向とが、電解質膜1を挟んで互いに対向するように配置されている。具体的には、水素供給用マニホールド41と酸素排出用マニホールド44とが、発電部11に対して同じ側に設けられ、水素排出用マニホールド42と酸素供給用マニホールド43とが、その反対側に設けられている。また、各供給用マニホールド41,43と、各排出用マニホールド42,44とは、発電部11を挟んでそれぞれ対角するように形成されている。なお、各マニホールド41〜44の配置構成は、他の配置構成であっても良い。また、外周シール部12には、反応ガスのためのマニホールド41〜44に加えて、冷媒のためのマニホールドが形成されるものとしても良い。
【0020】
ここで、本明細書では、アノード側の発電部11における水素供給用マニホールド41側、または、カソード側の発電部11における酸素供給用マニホールド43側をそれぞれ「上流側」と呼ぶ。また、アノード側の発電部11における水素排出用マニホールド42側、または、カソード側の発電部11における酸素排出用マニホールド44側をそれぞれ「下流側」と呼ぶ。さらに、アノード側およびカソード側のそれぞれの発電部11において、上流側から下流側に向かう方向(図2の紙面左右方向に沿った方向)を「反応ガスの流れ方向」と呼ぶ。
【0021】
図3,図4はそれぞれ、アノードセパレータ20およびカソードセパレータ30の構成を示す概略図である。図3には、アノードセパレータ20のシール一体型膜電極接合体10と対向する側の面が図示されており、図4には、カソードセパレータ30のシール一体型膜電極接合体10と対向する側の面が図示されている。なお、図3,図4にはそれぞれ、燃料電池スタック100の積層方向に沿って見たときに、シール一体型膜電極接合体10の発電部11と重なる領域を一点鎖線で図示してある。
【0022】
各セパレータ20,30はそれぞれ、導電性を有するガス不透過の板状部材(例えば金属板)によって構成することができる。各セパレータ20,30には、シール一体型膜電極接合体10と同様に、反応ガスのためのマニホールド41〜44が貫通孔として形成されている。また、各セパレータ20,30には、反応ガスのための流路溝が発電部11全体に渡って形成されている。なお、燃料電池スタック100を構成したときに互いに隣接するアノードセパレータ20とカソードセパレータ30との間には、冷媒のための流路が形成されることが好ましい。
【0023】
アノードセパレータ20(図3)には、流路壁を介して互いに分離された水素供給用の流路溝(「供給側流路溝」または「一次流路溝」とも呼ぶ)と、水素排出用の流路溝(「排出側流路溝」または「二次流路溝」とも呼ぶ)とが設けられている。具体的には、一次流路溝としては、導入流路溝210と、分配流路溝211と、供給側並列流路溝213とが設けられている。また、二次流路溝としては、導出流路溝220と、集合流路溝221と、排出側並列流路溝223とが設けられている。
【0024】
導入流路溝210は、水素供給用マニホールド41と発電部11とを連通する流路溝である。分配流路溝211は、導入流路溝210と連結するとともに、供給側並列流路溝213のそれぞれと連結する流路溝であり、反応ガスの流れ方向に対してほぼ垂直に延びている。供給側並列流路溝213は、発電部11において、水素供給用マニホールド41側から水素排出用マニホールド42側に向かって直線状に延びる複数の並列な流路溝である。各供給側並列流路溝213の下流側の端部は、水素の流れ方向に対しては閉塞している。
【0025】
導出流路溝220は、発電部11と水素排出用マニホールド42とを連通する流路溝である。集合流路溝221は、導出流路溝220と連結するとともに、排出側並列流路溝223の下流側端部と連結する流路溝である。排出側並列流路溝223は、発電部11において、各供給側並列流路溝213と併走する複数の並列な流路溝である。各排出側並列流路溝223の上流側の端部は閉塞している。
【0026】
各供給側並列流路溝213と各排出側並列流路溝223とは、並列方向に互いに交互に配列されている。即ち、アノードセパレータ20では、櫛歯状の一次流路溝と櫛歯状の二次流路溝とが互いに噛み合うように構成されている。ここで、各供給側並列流路溝213と各排出側並列流路溝223とを隔てる複数の並列な流路壁を「並列流路壁22」と呼ぶ。また、各排出側並列流路溝223の閉塞端部と分配流路溝211との間の流路壁を「上流端流路壁21」と呼び、各供給側並列流路溝213の閉塞端部と集合流路溝221との間の流路壁を「下流端流路壁23」と呼ぶ。これらの流路壁21〜23は、燃料電池スタック100を構成したときに、シール一体型膜電極接合体10のアノード側のガス拡散部材15と接触する。
【0027】
ここで、アノードセパレータ20の外表面には、上記の一次流路溝および二次流路溝に加えて、各並列流路壁22の外表面に、2つの細溝部50,51が設けられている。第1の細溝部50は、水素の流れ方向に対してほぼ垂直に走り、隣り合う供給側並列流路溝213と排出側並列流路溝223との中流域同士を接続する複数の微細な溝によって構成されている。ここで、「中流域」とは、発電部11における反応ガスの流れ方向の中央部近傍の領域を意味する。以後、この第1の細溝部50を「中流域細溝部50」とも呼ぶ。一方、第2の細溝部51は、水素の流れ方向に対してほぼ垂直に走り、供給側並列流路溝213の閉塞した下流端部と排出側並列流路溝223とを接続する複数の微細な溝によって構成されている。以後、この第2の細溝部51を「下流域細溝部51」とも呼ぶ。
【0028】
なお、これらの細溝部50,51の各溝は、一次流路溝および二次流路溝より流路断面積を小さくすることにより、流路抵抗が高くなるように構成されている。これにより、本実施例の燃料電池スタック100では、一次流路溝および二次流路溝を反応ガスのための主流路として機能させるとともに、細溝部50,51の各溝を反応ガスの副流路として機能させる。
【0029】
図5(A)〜(C)はそれぞれ、細溝部50,51を構成する細溝の断面形状の構成例を示す概略図である。図5(A)の構成例では、細溝部50,51の各細溝の断面形状は、略V字型となるように構成されている。図5(B)の構成例では、細溝部50,51の各細溝の断面形状は、略矩形状となるように構成されている。図5(C)の構成例では、細溝部50,51の各細溝の断面形状は、略半円弧状となるように構成されている。細溝部50,51の各細溝の断面形状は、図5(A)〜(C)に示されたいずれの形状によっても構成することができる。また、細溝部50,51の各細溝の断面形状は、他の形状であっても良い。
【0030】
カソードセパレータ30(図4)には、酸素のための流路溝として、アノードセパレータ20と同様な一次流路溝と二次流路溝とが形成されている。具体的には、一次流路溝として、導入流路溝310と、分配流路溝311と、供給側並列流路溝313とが設けられ、二次流路溝として、導出流路溝320と、集合流路溝321と、排出側並列流路溝323とが設けられている。また、一次流路溝と二次流路溝との間には、アノードセパレータ20の各流路壁21〜23と同様な、上流端流路壁31や、並列流路壁32、下流端流路壁33が存在する。さらに、カソードセパレータ30の並列流路壁32には、アノードセパレータ20と同様に、細溝部50,51が形成されている。
【0031】
ここで、各セパレータ20,30(図3,図4)の一次流路溝および二次流路溝における反応ガスの流れについて説明する。供給用マニホールド41,43から供給された反応ガスは、導入流路溝210,310を介して、分配流路溝211,311へと流れる。分配流路溝211,311の反応ガスは、各供給側並列流路溝213,313へと分岐する。各供給側並列流路溝213,313の反応ガスは、各並列流路壁22,32に沿って下流側へと流れつつ、その一部が、ガス拡散部材15へと流入する。なお、各並列流路壁22,32の下流側端部まで流れた反応ガスのほとんどは、終端流路壁23,33によってガス拡散部材15内へと誘導される。
【0032】
図6は、一次流路溝から二次流路溝への反応ガスの移動を説明するための模式図である。図6には、図4の6−6切断における単セル110の概略断面が図示されている。供給側並列流路溝213,313などの一次流路溝からガス拡散部材15へと流入した反応ガスは、膜電極接合体5において発電反応に用いられつつ、さらに下流側へと流れる。発電反応に用いられることのなかった反応ガスを含む排ガスは、ガス拡散部材15から排出側並列流路溝223,323などの二次流路溝へと流れる。各排出側並列流路溝223,323(図3,図4)に流入した排ガスは、集合流路溝221,321において合流する。集合流路溝221,321の排ガスは、導出流路溝220,320を介して、各排出用マニホールド42,44へと排出される。
【0033】
ところで、本実施例のセパレータ20,30では、前記したとおり、細溝部50,51によって、供給側並列流路溝213,313と排出側並列流路溝223,323とが接続されている。しかし、本実施例のセパレータ20,30では、細溝部50,51を反応ガスのための副流路として構成することにより、一次流路溝の反応ガスの大部分がガス拡散部材15を介して二次流路溝へと流れるように構成されている。即ち、本実施例の燃料電池スタック100では、一次流路溝と二次流路溝とは、ほぼ分離された構成を有しているものと解釈でき、これによって、ガス拡散部材15へと流入することなく発電部11から排出されてしまう未反応ガスの量が低減されている。ここで、細溝部50,51の機能を説明するために、細溝部50,51が省略され、一次流路溝と二次流路溝とが完全に分離されている場合について説明する。
【0034】
図7(A),(B)は、本発明の比較例として細溝部50,51が省略されたセパレータを有する燃料電池スタックにおける反応ガスの流れを説明するための説明図である。なお、比較例の燃料電池スタックの構成は、セパレータが異なる点以外は、本実施例の燃料電池スタック100と同様である。図7(A)は、比較例の燃料電池スタックに用いられるアノードセパレータ20aを示しており、細溝部50,51が省略されている点以外は図3のアノードセパレータ20とほぼ同じである。なお、比較例の燃料電池スタックのカソードセパレータ(図示は省略)は、アノードセパレータ20aと同様に、細溝部50,51が省略されている点以外は、本実施例のカソードセパレータ30と同じ構成である。ここで、発電部11の反応ガスの流れ方向における上流端から下流端の間の位置を「流れ方向位置X」と呼ぶ。
【0035】
図7(B)は、比較例の燃料電池スタックにおける流れ方向位置Xと、一次流路溝からガス拡散部材15へと流入する水素の量との関係を示すグラフである。このグラフは流体シミュレーションによって得ることができる。なお、以下においては、比較例の燃料電池スタックにおける水素の流れについて説明するが、カソード側における酸素の流れについても同様である。
【0036】
比較例の燃料電池スタックでは、一次流路溝と二次流路溝との間に細溝部50,51が設けられていないため、一次流路溝の水素を全てガス拡散部材15を介して二次流路溝へと流すことができる。しかし、各供給側並列流路溝213からガス拡散部材15へと流れ込む水素の量は、比較的水素の流速が速い上流端部近傍と、ガス拡散部材15以外に水素の逃げ場所がない下流側の閉塞端部近傍とにおいて増大することとなる。従って、この比較例の燃料電池スタックでは、発電部11の上流域および下流域に比較して、中流域の方が発電量が低下する傾向となり、その発電分布が不均一となってしまう。
【0037】
図8は、本実施例のセパレータ20,30における細溝部50,51の機能を説明するための説明図である。図8(A)は、本実施例の燃料電池スタック100における流れ方向位置Xと一次流路溝からガス拡散部材15へと流入する水素の量との関係を示す図7(B)と同様なグラフである。本実施例の燃料電池スタック100では、一次流路溝の中流域に反応ガスの逃げ部としての中流域細溝部50が設けられているため、一次流路溝の中流域以降の圧力損失を低下させることができる。そのため、中流域以降へと流れる反応ガスの量を増大させることができ、発電部11の上流端近傍においてガス拡散部材15内に流入する水素の量を低減させることができる。即ち、反応ガスの流れ方向における一次流路溝からガス拡散部材15へと流入する水素量の不均一性を低減させることができる。
【0038】
図8(B)は、細溝部50,51による排水性の向上を説明するための模式図である。図8(B)は、並列流路壁22に設けられた細溝部50,51が図示されている点と、水分の流れを示す矢印が追加されている点以外は図6とほぼ同じである。ここで、膜電極接合体5のカソード3では、発電反応によって水分が生成される。この水分がアノード2側やカソード3側のガス拡散部材15に移動すると、ガス拡散部材15の細孔を塞ぎ、反応ガスの流れを阻害してしまう可能性がある。
【0039】
しかし、本実施例の燃料電池スタック100では、ガス拡散部材15内の水分を、より抵抗の低い細溝部50,51の各溝へと誘導することができ、細溝部50,51の各溝を流れる反応ガスによって、排出側並列流路溝223へと排出させることができる。従って、生成水分によってガス拡散部材15の圧力損失が増大してしまうことが抑制され、反応ガスの配流性が低下してしまうことが抑制される。なお、細溝部50,51の各溝は、燃料電池スタック100の運転中に排水によって閉塞されてしまわない程度の流路断面積を有することが好ましい。
【0040】
ところで、一般に、ガス拡散部材15内部の生成水分は、反応ガスによって誘導され、発電部11の下流端部側に滞留しやすい傾向にある。しかし、本実施例のセパレータ20,30では、下流域細溝部51が設けられているため、発電部11の下流端近傍におけるガス拡散部材15からの排水性が向上されている。そのため、当該領域において、一次流路溝からガス拡散部材15へと流入する反応ガス量を増大させることができ、反応ガスの配流性を向上させることができる。
【0041】
このように、セパレータ20,30の細溝部50,51は、発電部11におけるガスの流量分布を調整し、反応ガスの配流性を向上させるための副流路として機能させることができる。また、細溝部50,51は、ガス拡散部材15内の水分を排出するための排水路としても機能させることができる。従って、セパレータ20,30を用いた燃料電池スタック100であれば、反応ガスの配流性および排水性が向上する。
【0042】
なお、細溝部50,51を構成する各溝の形成位置や流路断面積、各溝間の間隔は、一次流路溝からガス拡散部材15へと流入する反応ガス量が、反応ガスの流れ方向に渡ってより均一となるように設計されることが好ましい。この一次流路溝からガス拡散部材15へと流入する反応ガス量の均一性は、流体解析によって検証することも可能であり、膜電極接合体の電極面内における発電分布を測定することによっても検証することが可能である。
【0043】
B.第2実施例:
図9,図10はそれぞれ、本発明の第2実施例としてのアノードセパレータ20Aおよびカソードセパレータ30Aの構成を示す概略図である。図9,図10は、細溝部50,51に換えて、各並列流路壁22,32に、傾斜細溝部52が形成されている点以外は、図3,図4とほぼ同じである。なお、第2実施例の燃料電池スタックにおける他の構成は、第1実施例で説明した燃料電池スタック100と同様である。
【0044】
各セパレータ20A,30Aの傾斜細溝部52は、各並列流路壁22,32の全体に渡って形成されており、その各溝は、第1実施例で説明した細溝部50,51の溝と同様に、反応ガスのための副流路として機能する。なお、傾斜細溝部52を構成する溝は、上流域および下流域に比較して、中流域においてより多く形成されることが好ましい。これによって、中流域において一次流路溝からガス拡散部材15へと流入する反応ガスの量を増大させることができる。また、傾斜細溝部52を構成する溝は、上流域に比較して下流域の方が、より多く形成されることが好ましい。これによって、下流域におけるガス拡散部材15の排水性を向上させ、反応ガスの配流性をより向上させることができる。
【0045】
ここで、傾斜細溝部52を構成する各溝は、反応ガスの流れ方向に対して、下流側から上流側へと傾斜した角度を有するように延びている。即ち、傾斜細溝部52を構成する各溝は、排出側並列流路溝223,323との接続部位が、各供給側並列流路溝213,313との接続部位から見て、より上流側に位置するように設けられている。このように傾斜細溝部52の各溝が、反応ガスの流れ方向に対して斜め後方に向かって延びることにより、傾斜細溝部52によって誘導される反応ガスは、上流側から下流側へと流れることとなる。即ち、その分だけ、発電部11内における反応ガスの流路が実質的に延長され、発電に用いられる反応ガス量を増大させることができる。
【0046】
このように、第2実施例のセパレータ20A,30Aによれば、発電部11における反応ガスの配流性を向上させることができるとともに、発電反応に用いられる反応ガス量を増大させることができる。従って、これらのセパレータ20A,30Aを用いた燃料電池スタックの発電効率を向上させることができる。
【0047】
C.その他の構成例:
図11(A)〜(D)はそれぞれ、一次流路溝と二次流路溝との間に設けられる反応ガスのための副流路として機能する細溝部の他の構成例を示す模式図である。図11(A)〜(D)にはそれぞれ、供給用マニホールド45およびそれに接続する一次流路溝61と、排出用マニホールド46およびそれに接続する二次流路溝62とが模式的に図示してある。なお、図11(A)〜(D)に示す流路構成は、アノード側とカソード側との区別をすることなく図示したものであり、セパレータにおける他の構成部位の図示は省略されている。一次流路溝61および二次流路溝62はそれぞれ、第1実施例および第2実施例で説明したものと同様に、反応ガスの流れ方向(矢印で図示)に沿って延びる櫛歯状の流路溝同士が、交互に噛み合うように構成されている。
【0048】
図11(A)の例では、一次流路溝61の櫛歯状の流路と、二次流路溝62の櫛歯状の流路との間に、ジグザグ状の細溝によって構成された細溝部53aが設けられている。図11(B)の例では、略正弦波形状に延びる細溝によって構成された細溝部53bが設けられている。図11(C)の例では、細溝部53cは、反応ガスの流れ方向に沿って延びる細溝と反応ガスの流れ方向に垂直な方向に延びる細溝とが交差する略メッシュ状の細溝部53cが設けられている。図11(D)の例では、一次流路溝61の下流側の端部と、二次流路溝62の上流側の端部とを細溝によって接続する細溝部53dが設けられている。この細溝部53dによって、一次流路溝61の下流側端部まで流れた反応ガスを、二次流路溝の上流側端部まで誘導させることができる。
【0049】
このように、一次流路溝61と二次流路溝62とを接続する細溝部は、発電部11における反応ガスの配流性を考慮して種々の態様で構成することができる。なお、細溝部は、中流域における反応ガスの配流性を向上させるために、中流域に設けられていることが好ましい。さらに、細溝部は、下流域における反応ガスの配流性および排水性を向上させるために、中流域に加えて、下流域にも設けられていることがより好ましい。
【0050】
D.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0051】
D1.変形例1:
上記実施例において、細溝部50,51,52,53a〜53dを構成する各細溝の壁面は、他の流路溝の壁面より親水性が高くなるように構成されているものとしても良い。具体的には、細溝部50,51,52,53a〜53dの壁面に対して、親水性の高い部材によるめっき処理を施すものとしても良いし、ショットブラスト処理などの表面加工処理を施すものとしても良い。これによって、ガス拡散部材15内の生成水分を、細溝部50,51,52,53a〜53dへと誘導することができ、燃料電池スタックにおける排水性を向上させることができるとともに、反応ガスの配流性を向上させることができる。
【0052】
D2.変形例2:
上記実施例において、一次流路溝および二次流路溝における櫛歯状の流路溝である供給側並列流路溝213,313および排出側並列流路溝223,323は、直線状の流路溝として構成されていた。しかし、供給側並列流路溝213,313および排出側並列流路溝223,323は直線状の流路溝として構成されていなくとも良い。供給側並列流路溝213,313は、供給用マニホールド41,43に連結されるとともに、排出用マニホールド42,44に向かって延びる流路溝であれば良く、排出側並列流路溝223,323は、排出用マニホールド42,44に連結するとともに、供給側並列流路溝213,313と併走する流路溝であればよい。なお、これらの並列流路溝213,313,223,323が直線状の流路溝ではない場合であっても、中流域細溝部50は、各並列流路溝213,313,223,323における反応ガスの流れ方向に渡る全流域のうちの中流域に設けられていれば良い。
【0053】
D3.変形例3:
上記実施例において、細溝部50,51,52,53a〜53dの各溝は、一次流路溝や二次流路溝の流路断面積より小さい流路断面積を有することにより、流路抵抗の高い反応ガスのための副流路として構成されていた。しかし、細溝部50,51,52,53a〜53dの各溝は、流路断面積を小さくする以外の方法によって、一次流路溝や二次流路溝より流路抵抗が高くされているものとしても良い。具体的には、細溝部50,51,52,53a〜53dを構成する各溝に、流路抵抗を高くするための多孔質部材が配置されるものとしても良い。
【0054】
D4.変形例4:
上記実施例では、アノードセパレータ20,20Aおよびカソードセパレータ30,30Aの両方ともに、一次流路溝および二次流路溝が設けられ、さらに、細溝部50,51,52が設けられていた。しかし、一次流路溝および二次流路溝、または、細溝部50,51,52は、アノードセパレータとカソードセパレータのうちのいずれか一方にのみ設けられているものとして良い。なお、細溝部50,51,52は、アノードセパレータのみに設けられた場合より、カソードセパレータのみに設けられた場合の方が、反応ガスの配流性の向上効果が大きくなる。
【0055】
D5.変形例5:
上記第1実施例において、セパレータ20,30には、2つの細溝部50,51が設けられていた。しかし、下流域細溝部51は省略されるものとしても良い。また、上記第2実施例において、傾斜細溝部52は、並列流路壁22,32の全体に渡って形成されていた。しかし、傾斜細溝部52は、第1実施例の中流域細溝部50のように、中流域のみに形成されるものとしても良い。
【0056】
D6.変形例6:
上記実施例において、膜電極接合体5とセパレータ20,20A,30,30Aとの間にはガス拡散部材15が配置されていた。しかし、ガス拡散部材15は省略されるものとしても良い。ただし、この場合には、膜電極接合体5の電極に、電極面全体に反応ガスを拡散させるためのガス拡散層が設けられていることが好ましい。
【0057】
D7.変形例7:
上記実施例において、燃料電池スタック100は、固体高分子型燃料電池として構成されていた。しかし、燃料電池スタック100は、固体高分子型燃料電池に限らず、他の種々のタイプの燃料電池として構成することも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1…電解質膜
2…アノード
3…カソード
5…膜電極接合体
10…シール一体型膜電極接合体
11…発電部
12…外周シール部
15…ガス拡散部材
20,20A,20a…アノードセパレータ
21…上流端流路壁
22…並列流路壁
23…下流端流路壁
210…導入流路溝
211…分配流路溝
213…供給側並列流路溝
220…導出流路溝
221…集合流路溝
223…排出側並列流路溝
30,30A…カソードセパレータ
31…上流端流路壁
32…並列流路壁
33…下流端流路壁
310…導入流路溝
311…分配流路溝
313…供給側並列流路溝
320…導出流路溝
321…集合流路溝
323…排出側並列流路溝
41…水素供給用マニホールド
42…水素排出用マニホールド
43…酸素供給用マニホールド
44…酸素排出用マニホールド
45…供給用マニホールド
46…排出用マニホールド
50…中流域細溝部
51…下流域細溝部
52…傾斜細溝部
53a〜53d…細溝部(他の構成例)
61…一次流路溝
62…二次流路溝
100…燃料電池スタック
110…単セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両面にガス拡散層を有する電極が配置された発電体である膜電極接合体を有する燃料電池において、前記膜電極接合体の少なくとも一方の面に配置される燃料電池用セパレータであって、
前記燃料電池の外部から反応ガスの供給を受けるための供給用マニホールドと、
前記燃料電池の外部へと排ガスを排出するための排出用マニホールドと、
前記膜電極接合体の電極面に対向する面側に設けられた反応ガスのための流路溝と、
を備え、
前記流路溝は、
前記供給用マニホールドに連結するとともに、前記排出用マニホールドに向かって走り、前記排出用マニホールド側の端部において、前記排出用マニホールドに向かう方向が閉塞されている供給用流路溝と、
前記排出用マニホールドに連結するとともに、前記供給用流路溝と併走し、前記供給用マニホールド側の端部において、前記供給用マニホールドに向かう方向が閉塞されている排出用流路溝と、
前記供給用流路溝と前記排出用流路溝との間の流路壁に設けられ、前記供給用流路溝と前記排出用流路溝とを接続する接続流路溝と、
を含み、
前記接続流路溝は、前記供給用流路溝と前記排出用流路溝よりも高い流路抵抗を有しており、
前記接続流路溝は、前記供給用流路溝および前記排出用流路溝における反応ガスの流れ方向に渡る全流域のうちのそれぞれの中流域を互いに接続するように形成された中流域接続流路溝を含む、燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池用セパレータであって、さらに、
前記接続流路溝は、前記供給用流路溝の閉塞した端部側と前記排出用流路溝とを接続するように形成された下流域接続流路溝を含む、燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の燃料電池用セパレータであって、
前記接続流路溝は、前記排出用流路溝との接続部位が、前記供給用流路溝との接続部位から見て、より上流側に位置するように設けられている傾斜接続流路溝を含む、燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
燃料電池であって、
電解質膜の両面にガス拡散層を有する電極が配置された発電体である膜電極接合体と、
前記膜電極接合体を狭持する2枚のセパレータと、
を備え、
前記2枚のセパレータは、少なくとも一方が、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池用セパレータである、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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