説明

燃料電池用保水層およびその製造方法並びに電解質膜−電極接合体

【課題】保水能に優れた燃料電池用保水層を提供する。
【解決手段】粉末状の保水性材料と、通水性のバインダー材料とを含み、前記バインダー材料が偏在した状態で前記保水性材料を部分的に覆う、燃料電池用保水層。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用保水層およびその製造方法並びに電解質膜−電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー・環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、燃料電池が電気自動車用電源、定置型電源として注目されている。燃料電池は、電解質の種類や電極の種類等により種々のタイプに分類され、代表的なものとしてはアルカリ型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体電解質型、固体高分子形がある。この中でも低温(通常100℃以下)で作動可能な固体高分子形燃料電池が注目を集め、近年自動車用低公害動力源としての開発・実用化が進んでいる。
【0003】
固体高分子形燃料電池(PEFC)の構成は、一般的には、電解質膜−電極接合体(MEA)をセパレータで挟持した構造となっている。MEAは、電解質膜が一対の電極、すなわちアノードおよびカソードにより挟持されてなるものである。電極は、電極触媒および固体高分子電解質に代表される電解質を含み、外部から供給される反応ガスを拡散させるために多孔質構造を有する。
【0004】
固体高分子形燃料電池では、次のような電気化学的反応などを通して、電気を外部に取り出すことが可能となる。まず、アノード(燃料極)側に供給された燃料ガスに含まれる水素が、下記化学式(1)に示すように触媒粒子により酸化され、プロトンおよび電子となる。次に、生成したプロトンは、アノード側電極触媒層に含まれる固体高分子電解質、さらにアノード側電極触媒層と接触している固体高分子電解質膜を通り、カソード(酸素極)側電極触媒層に達する。また、アノード側電極触媒層で生成した電子は、アノード側電極触媒層を構成している導電性担体、さらにアノード側電極触媒層の固体高分子電解質膜と異なる側に接触しているガス拡散層、セパレータおよび外部回路を通してカソード側電極触媒層に達する。そして、カソード側電極触媒層に達したプロトンおよび電子はカソード側に供給されている酸化剤ガスに含まれる酸素と下記化学式(2)に示すように反応し水を生成する。
【0005】
【化1】

【0006】
固体高分子形燃料電池では、種々の要因に基づき、各部材に配分される水分量が重要となる。固体高分子形燃料電池内の水分量または水分配分量を制御する一つの方法として、燃料電池を構成する部材に加えて、水を保持する機能を有する保水層を設けることが挙げられ、目的に応じて種々の形態の保水層が提案されてきた。例えば、特許文献1では、アノードガス拡散層上に保水性物質および電解質を含む保水層を配置することにより、通常はアノードガス拡散層に高い水保持性を持たせ、燃料不足の際にはアノードガス拡散層からアノード側電極触媒層へと水が供給される技術が提案されている。かような形態とすることで、燃料不足時に生じるアノードでの水の電気分解が促進するとしている。特許文献1では、保水性物質として、ゼオライト、γ−アルミナ、シリカ等の酸化物を用いている(特許文献1、段落「0015」および実施例)。そして、保水層は、具体的には、高分子電解質、電子導電物質としてのカーボンブラック粉末、保水性物質としてのゼオライト、場合により結晶性炭素繊維の混合物から構成される(特許文献1、実施例1〜6参照)。
【特許文献1】特開2004−146305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の保水層では、保水層の保水能が十分なものとは言い難かった。例えば上記特許文献1の保水層において導電性物質として用いられているカーボンブラックも保水機能を有するためゼオライトなどの保水性物質を省略することも可能である。その際、従来の保水層では、カーボンブラックが持っている保水能力を最大限生かせた構造になっておらず、余分な保水性材料を使用する必要があり、また水素や水蒸気の輸送性も悪かった。さらに、特許文献1の保水層で用いられている結晶性炭素繊維など撥水性物質は水分を吸着しにくく、そのような材料が入るために保水性物質の保水能力を最大限生かしきれていない構造となっていた。保水層の保水能が不十分であると、起動時(特に氷点下など温度が低い場合)に液水による反応ガス輸送阻害に伴う電圧低下を招く虞れがある。したがって、本発明は、上記課題に着目して成されたものであって、保水層における保水能向上を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
バインダー材料が偏在した状態で保水性材料を部分的に覆う構造の燃料電池用保水層および高沸点溶媒を含むインクを用いて作製された燃料電池用保水層が、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0009】
本発明の保水層は、保水能が効果的に発揮される構造を有する。したがって、本発明の保水層を適用した電解質膜−電極接合体を提供することにより、低温起動時(特に氷点下)などに見られる、液水の影響による電圧低下の抑制を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、粉末状の保水性材料と、通水性のバインダー材料とを含み、前記バインダー材料が偏在した状態で前記保水性材料を部分的に覆う、燃料電池用保水層に関する。
【0011】
従来の保水層が十分に保水能を発揮しなかった原因として、本発明者らは、保水層を構成する保水性材料とバインダー材料とが形成する構造に着目した。そして、バインダー材料が偏在した状態で保水性材料を部分的に覆う構造を採ることにより、保水層の保水能が向上することを見出したものである。この理由として、限定されるものではないが、以下の理由が考えられる。水蒸気の相対圧が高い領域では、一般に保水性材料の表面に多層にわたって水蒸気が吸着する。しかしながら、保水性材料の表面がバインダー材料で略全面に被覆されている場合、保水性材料の表面に吸着できる水蒸気(水)の吸着サイトが減少するため、保水層としての水蒸気吸着(吸水)機能が弱まってしまう。結果として全体の吸水量は、吸着サイトの低減とバインダー材料への吸水量増加のバランスで決定される。逆に、バインダー材料が偏在し、保水性材料の表面一部しか覆わない場合、保水層としてより多くの水蒸気を吸着することができる。この場合、平衡状態における水蒸気吸着量が増加する。
【0012】
また、保水性材料の表面がバインダー材料で略全面被覆されている場合、保水性材料の水保持機能が発揮しきれていないため、保水性材料に保持されない水が存在しやすくなる。保水層中に保水性材料が保持しきれない水が存在すると、保水層を燃料電池に適用した場合に、ガス拡散層から電極触媒層へのガス拡散を阻害する虞れがある。一方、バインダー材料が偏在し、保水性材料を部分的に覆う場合、保水層が水を適切に保持するため、ガスが拡散しやすい。したがって、保水層のガス拡散性が重要となる場合、例えば、後述する図1のように保水層がガス拡散層と電極触媒層(以下、単に触媒層とも称する)との間に配置される形態では、本発明の保水層の適用が有効である。
【0013】
さらに、本発明の保水層は以下の効果を有する。燃料電池システムの停止後には、保水層が電解質膜やガスに残存する水(水蒸気)を吸着する。長期停止後においてはMEA内部の含水状態が平衡に達していると予想され、膜内部の水の一部が保水層に移動して保持される。したがって、本発明の保水層は、保水能に優れているため、膜の含水率が低下し、保水バッファが増大する。これまでは、起動時(特に氷点下)に発生する生成水により反応ガスの輸送が阻害され電圧低下を招きやすかったが、本発明の保水層により、生成水が円滑に膜に移動・保持されるため、電圧低下を抑制することができるようになる。
【0014】
保水性材料を覆うバインダー材料の偏在状態は、水蒸気吸着等温特性を利用して判断することができる。例えば、水蒸気吸着等温特性において水蒸気の活量(相対圧)が0.9〜1.0の領域における保水性材料の水蒸気吸着量で判断することができる。水蒸気の活量が高い(例えば、0.9以上1.0以下)場合、保水性材料の表面には、水が多層に吸着するために吸着量が劇的に増加するが、バインダー材料が存在すると、水蒸気(水)の吸着サイトが限定されてしまう。したがって、水蒸気吸着等温線を測定し、水蒸気の活量が例えば0.9以上1.0以下の領域を評価することにより、バインダー材料が保水性材料の表面積を被覆している割合、つまり偏在状態を、判断することができる。
【0015】
相対圧1における保水層の水蒸気吸着量は、保水層に含まれる保水性材料1gあたり、400mg/g以上であることが好ましく、600mg/g以上であることがより好ましい。氷点下においては、発電による生成水が凍結し、これにより酸素の輸送が阻害されるため、燃料電池の起動時の起動性が低下すると考えられる。常温から氷点下まで温度が低下する過程において、1近傍の相対圧に長い時間曝されるために、MEAを構成する各部材(電解質膜、触媒層、ガス拡散層)は、相対圧1付近でより多く水を吸着できる能力が高いほど氷点下起動時の保水能力が高くなる。そのため、同じ環境・条件下で氷点下起動を行う場合、相対圧1における水蒸気吸着量が、400mg/g以上である保水層を含む形態は、MEA全体としてより多くの水を吸着できる。したがって、起動時の生成水を円滑に上記各部材(特に生成水が発生するカソード触媒層や隣接する電解質膜)に吸収することができる。
【0016】
保水層における保水性材料のグラムあたりの水蒸気吸着量は、(バインダー材料で被覆されていない)保水性材料のグラムあたりの水蒸気吸着量に対して、110〜140%であることが好ましく、130〜140%であることがより好ましい。かような範囲であれば、保水能に優れ、かつ保水性材料が保持されることから好ましい。
【0017】
保水層に含まれるバインダー材料の含有量は、水蒸気吸着等温特性における、水蒸気活量が0.9以上1.0以下の範囲において、保水層の水蒸気吸着量が極小値となるようなバインダー材料の含有量よりも少なくすることが好ましい。保水性材料に対してバインダー量を増していくと、水蒸気活量が0.9以上1.0以下の範囲における保水量は減少し極小値を示した後に増加する。該極小値では、バインダーが保水性材料の外表面を比較的均一に被覆していると考えられる。そのときのバインダー含有量より少ない含有量とすることで、保水性材料の表面が露出し保水量(水蒸気吸着量)が増すこととなる。バインダー材料をかような範囲に設定することで、保水性材料の構造を維持し、水の保持および輸送機能を有しつつ、ガスなど他の物質輸送機能の低下を抑制した保水層を提供できる。また、そのときのバインダー含有量よりも多い含有量とする場合でも、上述のようにバインダー材料が偏在して被覆するような状態を作ることで、水蒸気吸着量は増加し、水の保持および輸送機能を有しつつ、ガスなど他の物質輸送機能の低下を抑制した保水層を提供できる。
【0018】
なお、本発明において水蒸気吸着量は、後述の実施例に記載の水蒸気脱着等温線により測定された値を採用する。
【0019】
また、保水性材料を覆うバインダー材料の偏在状態は、窒素BET比表面積により判断することも可能である。保水性材料の表面にバインダー材料が被覆すると、保水性材料とバインダー材料との相互作用により、窒素吸着サイトが少なくなる。したがって、バインダー材料が保水性材料の表面を被覆する割合が増すと、窒素吸着により算出されるBET比表面積が低下する。換言すれば、窒素BET比表面積の測定により、バインダー材料が保水性材料の表面積を被覆している割合、つまり偏在状態を、判断することができる。
【0020】
具体的には、保水層の窒素BET比表面積が、(バインダー材料で被覆されていない)保水性材料の窒素BET比表面積に対して、30%以上100%未満であることが好ましい。また、50%以上100%未満であることがより好ましい。バインダー材料は、保水性材料内部あるいは材料同士の間の空隙に存在するため、バインダー材料の存在により、他の物質(ガス)の輸送が阻害される。したがって、ガスの輸送性低下を抑制することも重要である。保水性能およびガス輸送性を考慮すると、保水層の窒素BET比表面積が、保水性材料の窒素BET比表面積に対して、50%以上であることが好ましい。また、上述したように、保水性材料は、バインダーで被覆されていない領域が大きいほど好ましく、したがって、保水性材料が保持される程度のバインダーが含有されていればよい。これは、保水層の窒素BET比表面積が、保水性材料の窒素BET比表面積に対して、大きいほど好ましいことを意味する。しかしながらバインダーの結着力を考慮すると、保水層の窒素BET比表面積が、保水性材料の窒素BET比表面積に対して、90%以下であることが好ましい。窒素BET比表面積は、以下の方法により測定された値を採用する。
【0021】
(窒素BET比表面積の測定方法)
1.サンプリング、秤量・予備乾燥
粉末は、約0.04〜0.07gを精秤し、塗布シートは約5cm×5cm角を切り出し、さらに約5mm巾×25mmの切片にして秤量後、それぞれ試料管に封入した。この試料管を真空乾燥器で90℃×数時間予備乾燥し、測定に供した。秤量には、島津製作所株式会社製電子天秤(AW220)を用いた。なお、塗布シートについては、これの全重量から、同面積のテフロン(基材)重量を差し引いた塗布層の正味の重量約0.03〜0.04gを試料重量として用いた。
【0022】
2.測定条件
【0023】
【表1】

【0024】
3.測定方法
吸着・脱着等温線の吸着側において、相対圧(P/P)約0.00〜0.45の範囲から、BETプロットを作成することで、その傾きと切片からBET比表面積を算出する。
【0025】
以上のように、保水層中のバインダー材料で被覆された保水性材料の窒素BET比表面積を50%以上100%未満とすることで、保水層の構造を維持し、水の保持および輸送機能を有しつつ、ガスなど他の物質輸送機能の低下を抑制した保水層を提供できる。
【0026】
保水層に含まれるバインダー材料は、上記窒素BET比表面積の相対比率条件を満たすように適宜配合されることが好ましい。上述の通り、バインダーの被覆状態を意図的に偏在させることで、窒素BET比表面積を小さくすることが可能であるが、同時に保水層構造を維持するために、所定量のバインダーを含有する必要がある。バインダー量を適宜調整することにより、保水層として、水の保持および輸送機能を維持しつつ、ガスの輸送機能低下を抑制することができる。
【0027】
保水層の厚さは、特に制限されるものではないが、好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜100μm、特に好ましくは10〜50μmとするのがよい。保水層の厚さが上記範囲内であれば、保水性とガス拡散性との両立を確保することができるため好ましい。なお、後述するように保水層が触媒層として機能する場合には、保水層(触媒層)の厚さは、特に制限されるものではないが、好ましくは5〜50μm、より好ましくは5〜30μm、特に好ましくは10〜30μmとするのがよい。
【0028】
保水層の空孔率は、特に制限されるものではないが、20〜80%であることが好ましく、50〜80%であることがより好ましい。空孔率が上記範囲内であれば、ガス拡散性が確保できるため好ましい。なお、保水層が触媒層として機能する場合には、保水層(触媒層)の空孔率は、特に制限されるものではないが、好ましくは30〜70%であることが好ましく、40〜60%であることがより好ましい。
【0029】
保水層には、保水性材料と、バインダー材料とが含まれる。場合によって、保水性材料は触媒を担持していてのよい。保水層は、保水性材料およびバインダー以外に、保水層に用いられる従来公知の材料を含有していてもよい。保水層中、保水性材料および/または触媒が担持された保水性材料とバインダー材料との含有量は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。さらに好ましくは、保水層は、保水性材料および/または触媒が担持された保水性材料とバインダー材料とから構成される。本発明の保水性材料は、保水能が高いので、保水性材料およびバインダー材料以外の材料の含有質量比を低くすることができる。
【0030】
また、保水性材料と、バインダー材料との含有質量比は、保水性材料:バインダー材料=1:0.4〜1.8であることが好ましく、1:0.4〜1.3であることがより好ましい。かような範囲にあれば、保水層の保水性が適度に保たれ、またバインダーにより保水性材料を結着することができる。なお、上記保水性材料と、バインダー材料との含有質量比は、保水層用インク(スラリー)を作製する際に予め混合するバインダー材料と保水性材料とを測定しておき、これらの混合比を調整することにより、算出され、また、制御できる。また、保水層を分析して、前記保水性材料と、バインダー材料とを定量して、保水性材料と、バインダー材料との含有質量比を算出することもできる。例えば、保水層が、触媒を担持した保水性材料と、高分子電解質で構成される場合、触媒成分の質量は誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって定量することができる。また、高分子電解質質量(I)は、19F NMRによる高分子電解質の構造解析、および、電量滴定によるS原子の定量、の2つを組合わせることで定量することができる。
【0031】
本発明において、保水層は、保水性材料とバインダー材料とを含む層で、保水機能を有する層であればいずれの形態であってもよい。すなわち、その名称に拘泥されず、燃料電池に用いられる使用目的からみて電極触媒層と称される場合であっても本発明でいう保水層に含まれる場合がある。例えば、保水性材料に触媒が担持されている形態であれば、触媒層を保水層としてMEAに用いることができる。
【0032】
以下、本発明の保水層を構成する各成分について説明する。
【0033】
(保水性材料)
粉末状の保水性材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、活性炭、カーボンブラック(オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなど)などの炭素材料;アルミナ、チタニア、シリカ、酸化スズなどの金属酸化物;ゼオライトなどが挙げられる。これらの保水性材料は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。保水性材料は、比表面積の点から、好ましくは、炭素材料、金属酸化物であり、より好ましくは、炭素材料、特にカーボンブラックや活性炭である。
【0034】
カーボンブラックは、市販品を用いることができ、キャボット社製バルカンXC−72、バルカンP、ブラックパールズ880、ブラックパールズ1100、ブラックパールズ1300、ブラックパールズ2000、リーガル400、ライオン社製ケッチェンブラックEC、三菱化学社製#3150、#3250などのオイルファーネスブラック;電気化学工業社製デンカブラックなどのアセチレンブラック等が挙げられる。
【0035】
粉末状の保水性材料の平均粒子径は、10〜500nmであることが好ましく、10〜100nmであることがより好ましい。これにより、ガス拡散性を確保することができる。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、活物質粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0036】
保水性材料の窒素BET比表面積は、500m/g以上であることが好ましい。保水性材料の保水性は、窒素BET比表面積に依存する。その比表面積を500m/g以上の材料とすることで、保水性材料の含有量(重量)を減らした場合であっても、保水性能が維持された保水層を提供することができる。より好ましくは、保水性材料の窒素BET比表面積は、700〜2000m/gである。さらに、MEAにおいて、保水層が触媒層に隣接して配置される場合を想定すると、隣接する触媒層の耐食性をあげるためにカーボンなどの担持体の結晶性を高くしたいものの、結晶性を高くすると吸水性が低下してしまう場合があった。BET比表面積を上記範囲に設定することにより上記トレードオフを解決することもでき、触媒層を耐食性の高い仕様にしても、保水機能を確保することができる。
【0037】
保水性材料には、触媒成分が担持されていてもよい。触媒成分が担持されている保水性材料を含む保水層は、触媒層として用いてもよい。この場合、後に触媒層の欄で説明する導電性担体を、保水性材料として用いることができる。また、バインダーとしては、後に触媒層の欄で説明する高分子電解質を用いることができる。保水層が触媒層として用いられる場合についての構成成分、成分含有量等については、触媒層と同様であるため、ここでは説明を割愛する。
【0038】
また、保水層が触媒層として用いられない場合、例えば、保水層がアノード側電極触媒層とアノード側ガス拡散層との間に配置される形態であっても、保水性材料が、触媒成分を担持していてもよい。保水層にバインダーとして固体高分子電解質を用いる場合、さらに、触媒粒子を含有することにより三相界面を形成でき、若干ではあるがアノードにおける電気化学的反応面積を広げることができる。保水層に含まれる保水性材料への触媒粒子の担持量は、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%である。触媒粒子としては、後述する触媒層に用いられる触媒粒子と同様のものが挙げられる。なお、触媒層と保水層とでは、同じ触媒粒子を用いてもよく、異なる触媒粒子を用いてもよい。
【0039】
(バインダー材料)
通水性のバインダー材料(以下、単にバインダーとも称する)は、上記保水性材料を結着できる材料であれば、特に限定されない。例えば、ポリアクリルアミド、水性ウレタン樹脂、シリコン樹脂等の高分子;高分子電解質等が挙げられる。好適には高分子電解質(以下、アイオノマーとも称する)である。バインダー材料をアイオノマーとすることで、同じアイオノマーを含むMEAの構成要素(電解質膜や触媒層)と隣接して保水層を配置する場合に安定して配置させることができ、触媒層や膜と、保水性材料との間の水輸送抵抗を低減することができる。この結果、電解質膜または触媒層と、保水性材料との間の水輸送性が向上し、より早い時間で平衡に達することができる。バインダー材料が高分子電解質である場合は、当該電解質は、触媒層や電解質膜中に使用される高分子電解質と同じであってもよいし、異なってもよい。さらに、保水層を含むMEAを作製する場合、材料を共通化することもでき、作製時の省力化が図れる。
【0040】
用いられるアイオノマーは特に限定されるものではない。具体的には、アイオノマーは、ポリマー骨格の全部又は一部にフッ素原子を含むフッ素系電解質と、ポリマー骨格にフッ素原子を含まない炭化水素系電解質とに大別される。
【0041】
フッ素系電解質としては、具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、ポリトリフルオロスチレンスルフォン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが好適な一例として挙げられる。フッ素系電解質は、耐久性、機械強度に優れる。
【0042】
前記炭化水素系電解質として、具体的には、ポリスルホンスルホン酸、ポリアリールエーテルケトンスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸、ポリフェニルスルホン酸などが好適な一例として挙げられる。
【0043】
上記アイオノマーは、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0044】
用いられる電解質は、保水層が電解質膜−電極接合体に配置された際の保水層の役割によって、適宜選択される。保水層においては、水の移動速度が重要であるため、EWは低いほうが好ましい。好ましくは、EWが1200g/eq.以下、より好ましくは、700g/eq.以下である。かような範囲であれば、より短い時間で保水量を飽和状態にすることができる保水層を提供できる。EWの下限は特に限定されるものではないが、通常500g/eq.以上であることが好ましい。なお、EW(Equivalent Weight)は、イオン交換基当量重量を表す。
【0045】
例えば、保水層が後に詳述する図1のように触媒層とガス拡散層に挟持される形態で配置される場合、バインダーとしてのアイオノマーのプロトン輸送機能は問題とならない。このため、フッ素系電解質材料に比べてプロトン伝導性の低い材料も保水層に用いられる電解質として使用することができる。したがって、安価で、より低いEWを有する炭化水素系電解質を保水層のバインダーとして使用することができる。このような炭化水素系電解質を使用することによって、より短い時間で保水量を飽和状態にすることができる保水層を提供できる。炭化水素系電解質のEWは、好ましくは700g/eq.以下であり、より好ましくは500〜700g/eq.である。
【0046】
また、後に詳述する図2のように保水層が触媒層として用いられる場合、電解質にはプロトン輸送機能が要求される。このため、プロトン伝導性向上の点で、アイオノマーはスルホン酸基を有することが好ましい。ゆえに、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのパーフルオロカーボンスルホン酸系高分子電解質が好ましく使用される。なお、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子電解質は、疎水性の骨格を構成する主鎖部分と、親水性のクラスター領域を形成する側鎖部分から構成され、側鎖部分にイオン交換基としてのスルホン酸基が存在する。特に、アイオノマーとしてパーフルオロカーボンスルホン酸系高分子電解質を使用する場合には、EWが、600〜1500g/eq.、より好ましくは600〜1100g/eq.程度のものを使用することが好ましい。
【0047】
(保水層の製造方法)
保水層の作製方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、保水性材料、バインダー、および溶媒を混合して保水層用インクを調製し、これを基材に塗布した後、乾燥させる方法などが用いられる。また、触媒成分が担持された保水性材料用いる場合には、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法を用いて、予め保水性材料に触媒成分を担持させておくのがよい。
【0048】
好適には、保水層用インクは、沸点が100℃を超える有機溶剤を含む溶媒の存在下、粉末状の保水性材料と、通水性のバインダー材料とを混合して、保水層用インクを得ることが好ましい。沸点が100℃を超える有機溶剤(以下、高沸点有機溶媒とも称する)を溶媒が含むことで、保水能に優れた保水層を得ることができる。詳細なメカニズムは不明であるが、沸点が100℃を超える有機溶剤を含むことにより、インク状態と乾燥後の保水層との微細構造が乖離するためであると推定される。インク状態では、保水性バインダーが保水性材料をより均一に覆っていると想定されるが、沸点が100℃を超える有機溶剤を含むと、乾燥に時間や高温を要するため、バインダーが不均一に被覆している割合が多くなる構造を採ると考えられる。
【0049】
高沸点有機溶媒としては、特に限定されず、エチレングリコール(沸点:197.6℃)、プロピレングリコール(沸点:188.2℃)、1,2−ブタンジオール(沸点:190.5℃)、1,3−ブタンジオール(沸点:207.5℃)、1,4−ブタンジオール(沸点:229.2℃)、1−ブタノール(沸点:117.2℃)、1−ペンタノール(沸点:138.3℃)、2−ペンタノール(沸点119.9℃)、3−ペンタノール(沸点:116.1℃)、グリセリン(沸点290℃)などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用して用いてもよい。なお、高沸点有機溶媒は、水と均一に混合されることが好ましい。
【0050】
保水層用インク中の溶媒は、高沸点有機溶媒のみから構成されていてもよい。また、高沸点有機溶媒とその他の溶媒(例えば、水、沸点が100℃未満の有機溶媒(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等)等)との混合物を用いてもよい。高沸点有機溶媒とその他の溶媒との混合物の場合、溶媒中の高沸点有機溶媒の比率は、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。なお、保水性の観点から、高沸点有機溶媒の比率は高いほど好ましいので、溶媒中の高沸点有機溶媒の比率の上限は特に限定されないが、高分子電解質の分散性を考慮すると、70質量%以下であることが好ましい。高沸点有機溶媒とその他の溶媒との混合物を用いる場合には、溶媒間の沸点の差により乾燥工程過程におけるインク中の溶媒組成が変わるため、保水性材料とバインダー材料との接触状態が変化する。かような変化により、保水性材料にバインダー材料が偏在状態でより被覆しやすくなると考えられる。
【0051】
保水層用インク中の溶媒全体の沸点は、100℃を超えることが好ましい。溶媒全体の沸点が100℃を超えると、保水能が向上するため好ましい。この理由として、詳細なメカニズムは不明であるが、溶媒全体の沸点が高いほど、乾燥に時間を要するため、バインダーが偏在した状態で保水性材料を部分的に覆う構造の保水性材料がより簡便に得られるためであると考えられる。したがって、溶媒全体の沸点が100℃を超えるように、高沸点溶媒とその他の溶媒との含有比率を適宜設調整することが好ましい。なお、保水層用インク中の溶媒全体の沸点の上限は特に限定されるものではないが、インク塗布後の乾燥時の乾燥温度、および乾燥時間を考慮すると、200℃以下であることが好ましい。
【0052】
なお、本明細書における溶媒および溶剤とは、バインダーおよび保水性材料等の固形成分が分散される分散媒、すなわち固形成分以外の液体成分を全て含む。したがって、例えば、水に分散されたアイオノマーと、有機溶媒とを混合して保水層用インクを製造する場合、本明細書でいう溶媒は、水および有機溶媒の双方を指す。
【0053】
保水性層用インクの固形分率(保水性層用インク全重量に対する固形分の重量割合)は、特に限定されるものではないが、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。固形分率がかような範囲であると、保水性材料をバインダーが偏在した形で被覆しやすくなるためである。この詳細なメカニズムは不明であるが、固形分率が低いほど、乾燥に時間が必要となり、インク状態と乾燥後の保水層との微細構造が乖離しやすくなるためであると考えられる。固形分率の下限は特に限定されるものではないが、基材への塗布のし易さを考慮すると、通常1重量%以上である。
【0054】
インク中の、保水性材料と、バインダー材料との含有質量比は、保水性材料:バインダー材料=1:0.4〜1.8であることが好ましく、1:0.4〜1.3であることがより好ましい。高沸点溶媒を用いる方法によれば、バインダー材料が保水性材料に比して割合がある程度高い場合であっても、簡便にバインダー材料の偏在状態を形成することができる。
【0055】
保水層用インクの調製方法は、特に制限されない。また、バインダー、保水性材料、および溶媒の混合順序は、特に制限されないが、具体的には、下記(i−1)〜(i−3)が挙げられる。
【0056】
(i−1)バインダーを含有した溶液を調製し、前記溶液を、保水性材料と混合する。その後、高沸点有機溶媒を含む溶媒をさらに添加して、保水層用インクを調製する;
(i−2)バインダーを含有した溶液を調製し、高沸点有機溶媒を含む溶媒を添加する。その後、保水性材料をさらに混合(添加)して、保水層用インクを調製する;および
(i−3)保水性材料と高沸点有機溶媒を含む溶媒とを混合する。次に、別途バインダーを含有した溶液を、さらに添加して、保水層用インクを調製する。
【0057】
上記方法のうち、(i−1)及び(i−2)の方法が好ましく、(i−1)の方法がより好ましい。これにより、水と有機溶媒が均一に混合され、溶媒化合物が形成しやすい。
【0058】
上記方法(i−1)〜(i−3)において、バインダーを含有した溶液において、バインダーは、溶媒中に分散している。この際のバインダーを含有した溶液中でのバインダー含有率は、特に制限されないが、固形分量が好ましくは1〜40質量%、より好ましくは5〜20質量%である。このような含有率であれば、高分子電解質が適切に溶媒中に分散しうる。バインダーを含有した溶液は、自ら調整してもよいし、市販品を用いてもよい。上記バインダーを含有した溶液中におけるバインダーの分散溶媒は、特に限定されるものではないが、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等が挙げられる。分散性を考慮すると、好ましくは、水、エタノール、1−プロパノールである。これらの分散溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0059】
また、保水層用インクの製造工程において、バインダーと、保水性材料と、溶媒とを混合した後は、良好に混合するために、別途混合工程を設けてもよい。このような混合工程としては、触媒インクを超音波ホモジナイザーでよく分散する、あるいは、この混合スラリーをサンドグラインダー、循環式ボールミル、循環式ビーズミルなどの装置でよく粉砕させた後、減圧脱泡操作を加えることなどが好ましく挙げられる。
【0060】
次に、得られた保水層用インクを基材上に塗布した後、保水層用インクが塗布された基材を乾燥する。
【0061】
保水層用インクの基材表面への塗布方法は、特に制限されず、公知の方法を使用できる。具体的には、スプレー(スプレー塗布)法、ガリバー印刷法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法など、公知の方法を用いて行うことができる。また、触媒インクの基材表面への塗布に使用される装置もまた、特に制限されず、公知の装置が使用できる。具体的には、スクリーンプリンター、スプレー装置、バーコーター、ダイコーター、リバースコーター、コンマコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ドクターナイフなどの塗布装置を用いることができる。なお、塗布工程は、1回行ってもあるいは複数回繰り返し行ってもよく、下記に詳述される(触媒成分が担持された)保水性材料の含有量(担持量)が達成されるまで、適宜行うことが好ましい。
【0062】
具体的な乾燥温度は、用いられる溶媒によって適宜設定される。乾燥温度は、溶媒の沸点以下で行うことが好ましい。このように沸点以下で時間をかけてゆっくりと乾燥することで、保水層の保水性能がより向上する。乾燥温度は、上述のような高沸点溶媒を含まない場合、40〜80℃程度の温度に設定し、ゆっくりと乾燥した方が保水性能に優れた保水層を得ることができる。一方、高沸点溶媒を含む場合、乾燥温度は電解質材料の耐熱性に律して決定されることが多い。具体的には、フッ素系電解質材料を含む場合は、100〜170℃程度、炭化水素系電解質材料の場合は、100〜200℃程度が望ましい。高沸点溶媒を含む場合には、保水層用インクが塗布された基材を乾燥する際の乾燥温度は、100℃を超えることが好ましい。詳細なメカニズムは不明であるが、ゆっくりと乾燥することにより、インク状態と乾燥後の保水層との微細構造が乖離するためであると推定される。インク状態では、保水性バインダーが保水性材料をより均一に覆っていると想定されるが、乾燥時間が長くなることにより、保水層の微細構造は不均一に被覆している割合が多くなると考えられる。
【0063】
保水層用インクが塗布された基材を乾燥する際の乾燥時間は特に限定されるものではないが、5〜30分であることが好ましい。また、乾燥時の雰囲気は特に限定されるものではないが、空気雰囲気または不活性ガス雰囲気下で乾燥を行うことが好ましい。
【0064】
保水層用インクを塗布する基材は、最終的に得られる保水層の形態により適宜選択すればよく、電極触媒層、ガス拡散層、またはポリテトラフルオロエチレンシート(PTFE)等の高分子シート等を用いることができる。また、保水層が、触媒層として用いられる場合には、電解質膜を基材として保水層用インクを電解質膜に塗布して保水層を形成することができる。
【0065】
上記工程で形成される保水層中に保水性材料が存在する量は、特に制限されず、上記した所望の効果によって適宜選択される。具体的には、保水層の体積割合として、0.1〜0.7、より好ましくは0.3〜0.5程度含まれることが好ましい。このような量であれば、十分な発電性能が達成できる。
【0066】
本発明の保水層は優れた保水能を有する。したがって、MEAに適用した場合に、低温起動時などにみられる液水の影響による電圧低下の抑制を図ることができる。したがって、本発明は、また、粉末状の保水性材料と、通水性のバインダー材料とを含み、前記バインダー材料が偏在した状態で前記保水性材料を部分的に覆う、燃料電池用保水層、または沸点が100℃を超える有機溶剤を含む溶媒と、粉末状の保水性材料と、通水性のバインダー材料とを混合して、保水層用インクを得る工程を含む、製造方法によって得られる燃料電池用保水層を含むMEAに関する。さらに、本発明は、該MEAを用いる燃料電池に関する。
【0067】
以下、図面を参照しながら本発明の保水層を含むMEAの好適な実施形態について説明する。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。
【0068】
図1は、本発明の保水層を含む好適なMEAの実施形態を示す模式断面図である。以下、本実施形態を第一実施形態とする。図1のMEA10は、固体高分子電解質膜12の両面に、アノード側電極触媒層13およびカソード側電極触媒層15が対向して配置され、これをアノード側ガス拡散層14およびカソード側16で挟持した構成を有している。さらに、アノード側電極触媒層13とアノード側ガス拡散層14との間には本発明の保水層17が配置される。
【0069】
本願の保水層は、バインダー材料が偏在した状態で保水性材料を部分的に覆う構造であるため、ガス拡散性に優れる。したがって、上記形態のように、ガス拡散層と触媒層との間に保水層を配置した場合であっても、ガス拡散層から触媒層へのガス拡散を阻害することなく、保水機能を発揮することができる。
【0070】
図1に示す実施形態は、アノード側電極触媒層13とアノード側ガス拡散層14との間に本発明の保水層17が配置される形態であるが、保水層は、カソード側電極触媒層とカソード側ガス拡散層との間に配置されてもよい。また、保水層を両極に設けてもよい。好適には、少なくともアノード側に保水層を設ける形態である。氷点下において燃料電池を起動させる際、発電による生成水が凍ることにより、酸素の輸送が阻害されることが起動性低下の一因であると考えられることは上述した。したがって、生成水を吸収する際の水の移動方向は、カソード側電極触媒層から電解質膜を介してアノード側電極触媒層であることが重要である。アノード側に保水層が配置されることによって、より多くの生成水がアノード触媒層側に戻るため、氷点下起動性を増すことができる。
【0071】
第一実施形態のMEAの製造方法は特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法により製造することができる。
【0072】
例えば、固体高分子電解質膜の両側に電極触媒層を作製し、電極触媒層に上記保水層用インクを塗布する。これを乾燥した後、ガス拡散層で挟持した後にホットプレスする方法などが挙げられる。
【0073】
他に、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、ガス拡散層、またはPTFE製シートなどの基材上に、保水層用インクを塗布し、乾燥した後、得られた保水層上にアノード側電極触媒層インクを塗布・乾燥する。また、別途、ガス拡散層、またはPTFE製シートなどの基材上に、カソード側電極触媒層を作製する。次に、基材上の保水層およびアノード側電極触媒層と、基材上のカソード側電極触媒層とで、触媒層が固体高分子電解質膜に接するように固体高分子電解質膜を挟持する。その後、ホットプレス等により、固体高分子電解質膜と各電極触媒層を接合する。基材としてPTFE製シートを用いた場合には、ホットプレスした後に、PTFE製シートのみを剥がし、その後ガス拡散層を積層させればよい。なお、上述の保水層の製造方法において説明した保水層用インクを乾燥する工程は、MEA作製過程のいずれかの段階で行われればよく、保水層用インクを基材上に塗布した後、すぐに保水層用インクを乾燥する形態に限られない。
【0074】
図2は、本発明の保水層を含む他の好適なMEAの実施形態を示す模式断面図である。以下、本実施形態を第二実施形態とする。図2のMEA20は、固体高分子電解質膜22の両面に、アノード側電極触媒層23およびカソード側電極触媒層25が対向して配置され、これをアノード側ガス拡散層24およびカソード側ガス拡散層26で挟持した構成を有している。さらに、アノード側電極触媒層23と固体高分子電解質膜22との間には本発明の保水層27が配置される。
【0075】
図2に示す実施形態は、アノード側電極触媒層23と固体高分子電解質膜22との間に本発明の保水層27が配置される形態であるが、保水層は、カソード側電極触媒層と固体高分子電解質膜との間に配置されてもよい。また、保水層を両極に設けてもよい。好適には、少なくともアノード側に保水層を設ける形態である。氷点下において燃料電池を起動させる際、発電による生成水が凍ることにより、酸素の輸送が阻害されることが起動性低下の一因であると考えられることは上述した。したがって、生成水を吸収する際の水の移動方向は、カソード側電極触媒層から電解質膜を介してアノード側電極触媒層であることが重要である。アノード側に保水層が配置されることによって、より多くの生成水がアノード触媒層側に戻るため、氷点下起動性を増すことができる。
【0076】
第二実施形態のMEAの製造方法は特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法により製造することができる。例えば、固体高分子電解質膜の両側に保水層用インクを塗布し、乾燥した後、保水層上に電極触媒層スラリーを塗布・乾燥する。この後、ガス拡散層で挟持した後にホットプレスする方法などが挙げられる。
【0077】
他に、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、ガス拡散層、またはPTFE製シートなどの基材上に、アノード側電極触媒層インクを塗布・乾燥した後、電極触媒層上に保水層用インクを塗布し、乾燥する。また、別途、ガス拡散層、またはPTFE製シートなどの基材上に、カソード側電極触媒層を作製する。次に、基材上の保水層およびアノード側電極触媒層と、基材上のカソード側電極触媒層とで、保水層およびカソード触媒層が固体高分子電解質膜に接するように固体高分子電解質膜を挟持する。その後、ホットプレス等により、固体高分子電解質膜と各電極触媒層を接合する。基材としてPTFE製シートを用いた場合には、ホットプレスした後に、PTFE製シートのみを剥がし、その後ガス拡散層を積層させればよい。なお、上述の保水層の製造方法において説明した保水層用インクを乾燥する工程は、MEA作製過程のいずれかの段階で行われればよく、保水層用インクを基材上に塗布した後、すぐに保水層用インクを乾燥する形態に限られない。
【0078】
本発明においては、第一実施形態および第二実施形態のように触媒層、特にアノード触媒層に隣接して保水層を配置することが好適である。MEA内部の保水機能は、少なくとも膜および触媒層が有する。触媒層(アノード/カソード)は膜を挟持するように設置されるため、触媒層と隣接して保水層が設けられることで、MEA内部(膜、触媒層)に存在する液水が円滑に保水層に移動・保持することが可能となり、電圧低下を抑制することができるMEAを提供できる。
【0079】
図3は、本発明の他の好適なMEAの実施形態を示す模式断面図である。以下、本実施形態を第三実施形態とする。図3のMEA30は、固体高分子電解質膜32の両面に、アノード側電極触媒層33およびカソード側電極触媒層35が対向して配置され、これをガス拡散層34および36で挟持した構成を有している。本実施形態では、アノード側電極触媒層33が保水層である。したがって、触媒層33に含まれる保水性材料は、触媒を担持している。本実施形態のように、触媒層が保水層を兼ねることにより、別途部材を設ける必要がないため、生産性の観点から好ましい。
【0080】
図3に示す実施形態は、アノード側電極触媒層33が保水層である形態であるが、保水層は、カソード側電極触媒層であってもよい。また、保水層を両極に設けてもよい。好適には、少なくともアノード側電極触媒層33が保水層である形態である。氷点下において燃料電池を起動させる際、発電による生成水が凍ることにより、酸素の輸送が阻害されることが起動性低下の一因であると考えられることは上述した。したがって、生成水を吸収する際の水の移動方向は、カソード側電極触媒層から電解質膜を介してアノード側電極触媒層であることが重要である。アノード側に保水層が配置されることによって、より多くの生成水がアノード触媒層側に戻るため、氷点下起動性を増すことができる。
【0081】
第三実施形態のMEAは、従来公知のMEAの製造方法により作製することができる。
【0082】
次に、図面を参照しながら本発明のMEAを用いる好適な実施形態であるPEFCについて説明する。
【0083】
図4は、第一実施形態の燃料電池用MEAが一対のセパレータにより挟持されてなるPEFCの単セルを示す模式断面図である。なお、図4において、図1と同一の構成要素には同一の符号を付してある。
【0084】
図4に示すPEFC100は、MEA10をアノード側セパレータ102およびカソード側セパレータ101で挟持することで構成されている。また、MEAに供給される燃料ガスおよび酸化剤ガスは、アノード側セパレータ102およびカソード側セパレータ101に、それぞれ複数箇所設けられたガス供給溝104、103などを介して供給される。また、図4のPEFCにおいては、ガスケット105が、MEA10の表面に位置する電極の外周を、取り囲むように配置されている。ガスケットはシール部材であり、接着層(図示せず)を介して、MEA10の電解質膜12の外面に固定される構成を有していてもよい。ガスケットは、セパレータとMEAとのシール性を確保する機能を有している。なお、必要に応じて用いられる接着層は、接着性を確保することを考慮すると、ガスケットの形状に対応し、電解質膜の全周縁部に、額縁状に配置されることが好ましい。
【0085】
以下、MEAおよびPEFCの各構成要素について、順に詳細に説明する。
【0086】
上述したように本発明のMEAやPEFCは保水層に特徴を有するものである。したがって、MEAやPEFCを構成するその他の部材については、燃料電池の分野において従来公知の構成がそのまま、または適宜改良されて採用されうる。以下、参考までに保水層以外の部材の典型的な形態について説明するが、本発明の技術的範囲が下記の形態のみに限定されることはない。
【0087】
[高分子電解質膜]
高分子電解質膜は、イオン交換樹脂から構成され、PEFCの運転時にアノード側触媒層で生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード側触媒層へと選択的に透過させる機能を有する。また、高分子電解質膜は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
【0088】
高分子電解質膜の具体的な構成は特に制限されず、燃料電池の分野において従来公知の高分子電解質膜が適宜採用されうる。高分子電解質膜は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質膜と炭化水素系高分子電解質膜とに大別される。フッ素系高分子電解質膜を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能上の観点からはこれらのフッ素系高分子電解質膜が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜が用いられる。
【0089】
前記炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質膜が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよいことは勿論である。
【0090】
高分子電解質膜の厚さは、得られるMEAやPEFCの特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。ただし、高分子電解質膜の厚さは、好ましくは5〜300μmであり、より好ましくは10〜200μmであり、さらに好ましくは15〜150μmである。厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性、および使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
【0091】
[触媒層]
触媒層は、実際に反応が進行する層である。具体的には、アノード側触媒層では水素の酸化反応が進行し、カソード側触媒層では酸素の還元反応が進行する。触媒層は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性担体、およびプロトン伝導性の高分子電解質を含む。
【0092】
アノード側触媒層に用いられる触媒成分は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード側触媒層に用いられる触媒成分もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、およびそれらの合金等などから選択される。ただし、その他の材料が用いられてもよいことは勿論である。これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金が30〜90原子%、合金化する金属が10〜70原子%とするのがよい。カソード側触媒として合金を使用する場合の合金の組成は、合金化する金属の種類などによって異なり、当業者が適宜選択できるが、白金が30〜90原子%、合金化する他の金属が10〜70原子%とすることが好ましい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層に用いられる触媒成分およびカソード触媒層に用いられる触媒成分は、上記の中から適宜選択できる。以下の説明では、特記しない限り、アノード触媒層およびカソード触媒層用の触媒成分についての説明は、両者について同様の定義であり、一括して、「触媒成分」と称する。しかしながら、アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒成分は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択される。
【0093】
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが使用できるが、触媒成分は、粒状であることが好ましい。この際、触媒粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜30nm、より好ましくは1.5〜20nm、さらに好ましくは2〜10nm、特に好ましくは2〜5nmである。触媒粒子の平均粒子径がかような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御されうる。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として測定されうる。
【0094】
導電性担体は、上述した触媒成分を担持するための担体、および触媒成分との電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。
【0095】
導電性担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、充分な電子伝導性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであることが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。
【0096】
導電性担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m/g、より好ましくは80〜1200m/gである。導電性担体の比表面積がかような範囲内の値であると、導電性担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスが適切に制御されうる。
【0097】
導電性担体のサイズについても特に限定されないが、担持の簡便さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径を5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするとよい。
【0098】
なお、触媒層が保水層である場合には、導電性担体として導電性の保水性材料、好ましくは、黒鉛、活性炭、カーボンブラック(オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなど)などの炭素材料を用いる。
【0099】
導電性担体に触媒成分が担持されてなる複合体(以下、「電極触媒」とも称する)において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。触媒成分の担持量がかような範囲内の値であると、導電性担体上での触媒成分の分散度と触媒性能とのバランスが適切に制御されうる。なお、触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって測定されうる。
【0100】
また、担体への触媒成分の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。
【0101】
または、本発明において、電極触媒は市販品を使用してもよい。このような市販品としては、例えば、田中貴金属工業製、エヌ・イー・ケムキャット製、E−TEK製、ジョンソンマッセイ製などの電極触媒が使用できる。これらの電極触媒は、カーボン担体に、白金や白金合金を担持(触媒種の担持濃度、20〜70質量%)したものである。上記において、カーボン担体としては、ケッチェンブラック、バルカン、アセチレンブラック、ブラックパール、予め高温で熱処理した黒鉛化処理カーボン担体(例えば、黒鉛化処理ケッチェンブラック)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンファイバー、メソポーラスカーボンなどがある。
【0102】
触媒層には、電極触媒に加えて、イオン伝導性の高分子電解質が含まれる。当該高分子電解質は特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうるが、例えば、上述した高分子電解質膜を構成するイオン交換樹脂が前記高分子電解質として触媒層に添加されうる。触媒層が保水層である場合には、バインダー材料として、上記高分子電解質が用いられる。
【0103】
[ガス拡散層]
ガス拡散層は、セパレータ流路を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
【0104】
ガス拡散層の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
【0105】
ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0106】
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層:MLP)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
【0107】
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒子径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
【0108】
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
【0109】
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性および電子伝導性のバランスを考慮して、質量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚さについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
【0110】
[ガスケット]
ガスケットは、触媒層またはガス拡散層(すなわち、ガス拡散電極)を包囲するように配置され、供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)のガス拡散電極からの漏出を防止する機能を有する。
【0111】
ガスケットを構成する材料は、ガス、特に酸素や水素に対して不透過性であればよく、特に制限されることはない。ガスケットの構成材料としては、例えば、フッ素ゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリイソブチレンゴムなどのゴム材料、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などの高分子材料が挙げられる。ただし、その他の材料が用いられてもよいことは勿論である。
【0112】
ガスケットのサイズについても特に制限はなく、所望のガスシール性や他の部材のサイズとの関係などを考慮して適宜決定すればよい。
【0113】
[セパレータ]
MEAは、セパレータで挟持されてPEFCの単セルを構成する。PEFCは、単セルが複数個直列に接続されてなるスタック構造を有するのが一般的である。この際、セパレータは、各MEAを直列に電気的に接続する機能に加えて、燃料ガスおよび酸化剤ガス並びに冷媒といった異なる流体を流す流路やマニホールドを備え、さらにはスタックの機械的強度を保つといった機能をも有する。
【0114】
セパレータを構成する材料は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうるが、例えば、緻密カーボングラファイト、炭素板等のカーボン材料や、ステンレス等の金属材料などが挙げられる。セパレータのサイズや流路の形状などは特に限定されず、PEFCの出力特性などを考慮して適宜決定すればよい。
【0115】
本発明のMEAやPEFCの製造方法は特に制限されず、燃料電池の分野において従来公知の知見を適宜参照することにより製造可能である。
【0116】
以上、高分子電解質形燃料電池を例に挙げて説明したが、燃料電池としてはこの他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられ、いずれの電池に適用してもよい。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質形燃料電池(PEFC)が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用であるが、特にシステムの起動/停止や出力変動が頻繁に発生する車両、より好ましくは自動車用途で特に好適に使用できる。
【実施例】
【0117】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0118】
(実施例1)
Pt粒子をPt担持濃度46質量%として担持させた白金担持カーボン(田中貴金属工業株式会社、TEC10E50E、ケッチェンブラック担体(BET比表面積560m/g_carbon)を用いた。該白金担持カーボンに対して、電解質となる20wt%Nafion(登録商標)(EW=1000)を含有した溶液(DuPont(株)社製、溶液中の溶媒組成:水が50質量部、1−プロパノールが50質量部)を加えた。
【0119】
溶液中の電解質は、白金担持カーボンのカーボン担体の質量に対する固形分質量比(カーボン/電解質)を1.0/0.9とした。これに、50wt%のプロピレングリコール水溶液を加えていき、インク全体の重量に対してインクの固形分率(白金担持カーボン+電解質)を19質量%とした。
【0120】
得られたインクを超音波ホモジナイザによって分散させて、減圧脱泡操作をして触媒スラリ(保水層用インク)を作製した。触媒スラリ中の溶媒組成は、水:プロピレングリコール:1−プロパノール=4:1:3であり、溶媒の沸点(平均値)は、約110℃である。ここで、溶媒の沸点(平均値)とは、各溶媒の沸点を組成に併せて内挿(平均化)して溶媒の沸点を近似的に求めた値である。
【0121】
触媒スラリーをポリテトラフルオロエチレンシート(7.5cm×7.5cm、厚さ0.08mm)の片面にスクリーン印刷法によって、白金担持量が0.35mg_Pt/cm、カーボン担持量が0.41mg_c/cm相当の厚さとなるように印刷した。得られた塗布シートを、130℃で30分間乾燥させた。
【0122】
実施例1の保水層のBET比表面積は280m/g_carbonであったため、保水性材料に対するBET比表面積の比は、50%であった。
【0123】
(実施例2)
実施例1に使用した白金担持カーボンに使用されているケッチェンブラック担体で、白金が担持されていないもの(ケッチェンブラック単体(BET比表面積718m/g_c))を適用した。実施例1と同様の作製方法により、カーボン担持量が0.35mg_c/cm相当の厚さとなるような塗布シートを作製した。保水層用インクの固形分率は、19質量%である。また、保水層用インク中の溶媒組成は、水:プロピレングリコール:1−プロパノール=4:1:3であり、溶媒の沸点(平均値)は、約110℃である。
【0124】
実施例2の保水層のBET比表面積は230m/g_carbonであったため、保水性材料に対するBET比表面積の比は、32%であった。
【0125】
(比較例1)
Pt粒子をPt担持濃度46質量%として担持させた白金担持カーボン(田中貴金属工業株式会社、TEC10E50E、ケッチェンブラック担体)を用いた。該白金担持カーボンの質量に対して、電解質となる20wt%Nafion(登録商標)を含有した溶液(DuPont(株)社製)を加えた。溶液中の電解質は、白金担持カーボンのカーボン担体の質量に対する固形分質量比(カーボン/電解質)を1.0/0.9としたものを用いた。これに、純水を加えていき、インク全体の重量に対してインクの固形分率(白金担持カーボン+電解質)を19質量%とした。
【0126】
得られたインクを超音波ホモジナイザによって分散させて、減圧脱泡操作をして触媒スラリを作製した。スラリ中の溶媒組成は、水:1−プロパノール=5:3であり、溶媒の沸点(平均値)は、約99℃である。作製した触媒スラリをポリテトラフルオロエチレンシート(7.5cm×7.5cm、厚さ0.08mm)の片面にスクリーン印刷法によって、白金担持量が0.35mg_Pt/cm、カーボン担持量が0.41mg_c/cm相当の厚さとなるように印刷した。得られた塗布シートは、80℃で30分間乾燥させた。
【0127】
比較例1の保水層のBET比表面積は232m/g_carbonであったため、保水性材料に対するBET比表面積の比は、41%であった。
【0128】
[評価]
水蒸気吸着等温線の測定方法
1.前処理・サンプリング
上記塗布シート状の保水層を掻き落とし、適量(約0.03〜0.05g)をガラスセルに入れて、90℃で約5時間減圧乾燥した後、測定に供した。
【0129】
2.手法:水蒸気吸着・脱着測定法
該手法では、所定温度における水蒸気吸着・脱着等温線を測定することにより、所定の温度・圧力における水蒸気吸着量を求めることができる。水蒸気吸着量は気体の状態方程式PV=nRTに基づいて算出する。すなわち、各パラメータのうち、体積V、気体定数R、温度Tは、測定中、常に一定であるため、圧力Pの変化を追うことにより、試料に吸着した水分子のモル数n(水蒸気吸着量)を求めることができる。なお、平衡圧に到達するのに数十分〜数時間要するため、1検体(数十測定ポイント)測定するに約1〜3日必要とする。
【0130】
3.測定条件
【0131】
【表2】

【0132】
以上により測定した水蒸気吸着等温線の結果を図5および図6に示す(図5:吸着側(水蒸気相対圧0→1の方向)、および図6:脱着側(水蒸気相対圧1→0の方向))。水蒸気脱着等温線における相対圧1における水蒸気吸着量は、実施例1:432mg/g_c、実施例2:517mg/g_c、比較例1:393mg/g_cであった。なお、実施例1の保水層は、適当量の触媒を担持しており、触媒層として機能しうる。
【0133】
本実施例のように、同一重量比のカーボン/電解質を含む保水層においても、高沸点溶媒を含む方法で作成した場合(実施例1、2)、高沸点溶媒を含まない場合(比較例)に対して、特に相対圧1付近でより多くの水を吸着することができることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明の好適なMEAの断面模式図を示す。
【図2】本発明の他の好適なMEAの断面模式図を示す。
【図3】本発明の他の好適なMEAの断面模式図を示す。
【図4】本発明の第一実施形態のMEAを含むPEFCの模式断面図を示す。
【図5】実施例および比較例の吸着側の水蒸気吸着等温線の結果を示す図である。
【図6】実施例および比較例の脱着側の水蒸気吸着等温線の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0135】
10、20、30 MEA、
12、22、32 固体高分子電解質膜、
13、23 アノード側電極触媒層、
33 アノード側電極触媒層(燃料電池用保水層)、
14、24、34 アノード側ガス拡散層、
15、25、35 カソード側電極触媒層、
16、26、36 カソード側ガス拡散層、
17、27 燃料電池用保水層、
100 固体高分子電解質型燃料電池、
101 カソード側セパレータ、
102 アノード側セパレータ、
103、104 ガス供給溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状の保水性材料と、通水性のバインダー材料とを含み、前記バインダー材料が偏在した状態で前記保水性材料を部分的に覆う、燃料電池用保水層。
【請求項2】
前記バインダー材料が高分子電解質である、請求項1に記載の燃料電池用保水層。
【請求項3】
前記保水層の相対圧1における水蒸気吸着量が、保水性材料の単位重量あたりに対して400mg/g以上である、請求項1または2に記載の燃料電池用保水層。
【請求項4】
前記保水性材料が、窒素BET比表面積が500m/g以上であるカーボン粉末を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用保水層。
【請求項5】
沸点が100℃を超える有機溶剤を含む溶媒と、粉末状の保水性材料と、通水性のバインダー材料とを混合して、保水層用インクを得る工程を含む、燃料電池用保水層の製造方法。
【請求項6】
前記保水層用インクを基材上に塗布し、100℃以上の温度で乾燥する工程を含む、請求項5に記載の燃料電池用保水層の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒の沸点が100℃を超える、請求項5または6に記載の燃料電池用保水層の製造方法。
【請求項8】
前記保水層用インクの固形分率が20質量%以下である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の燃料電池用保水層の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の保水層または請求項5〜8のいずれか1項に記載の製造方法により得られる保水層を含む、電解質膜−電極接合体。
【請求項10】
前記保水層が、電極触媒層と隣接して設けられている、請求項9に記載の電解質膜−電極接合体。
【請求項11】
前記保水層が、電極触媒層である、請求項9に記載の電解質膜−電極接合体。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の電解質膜−電極接合体を用いる燃料電池。
【請求項13】
請求項12に記載の燃料電池を搭載した車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−21060(P2010−21060A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181403(P2008−181403)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】