燃料電池用多孔体のガス拡散性の評価方法及び燃料電池の製造方法
【課題】燃料電池に用いられる多孔体のガス拡散性を客観的に且つ高い信頼性を持って評価することのできる評価方法を提供する。
【解決手段】多孔体の背面側に白金を均一に配置する。例えば、多孔体と白金を含む触媒層とを一体化するのでもよい。そして、多孔体の背面側は気密にして、多孔体の表面に沿って一酸化炭素を含む試験ガスを通過させる。そして、多孔体の表面を通過した試験ガス中の一酸化炭素濃度を計測し、その計測結果によって多孔体のガス拡散性を評価する。
【解決手段】多孔体の背面側に白金を均一に配置する。例えば、多孔体と白金を含む触媒層とを一体化するのでもよい。そして、多孔体の背面側は気密にして、多孔体の表面に沿って一酸化炭素を含む試験ガスを通過させる。そして、多孔体の表面を通過した試験ガス中の一酸化炭素濃度を計測し、その計測結果によって多孔体のガス拡散性を評価する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用多孔体のガス拡散性の評価方法とそれを利用した燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜の両面に電極を接合したMEA(膜電極接合体)を備えている。MEAを構成する電極は白金が担持された触媒層として構成され、触媒層の表面には撥水層、ガス拡散層といった多孔体の層が積層されている。また、触媒層自体も多孔体である。これら多孔体のガス拡散性を向上させることは、燃料電池の発電性能を向上させるための条件の1つである。このため、かねてより多孔体のガス拡散性の評価に関する様々な技術が提案されている。例えば、特開2006−292714号公報には、ガルバニ型酸素濃度センサを利用して多孔体の酸素拡散係数を測定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−292714号公報
【特許文献2】特開平5−283091号公報
【特許文献3】特開2003−346855号公報
【特許文献4】特開2008−008632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多孔体のガス拡散性を評価する上で重要なことは、当然のことながら、客観的に且つ高い信頼性を持って評価することである。しかしながら、従来提案されている評価方法は必ずしも十分なものとはいえなかった。例えば、ガルバニ型酸素濃度センサを利用する場合には、センサのカソードで起こる発熱反応によって局所的に温度分布が生じ、その影響で酸素拡散係数の測定値が変化してしまう可能性がある。
【0005】
本発明は、上述のような課題に鑑みてなされたもので、その1つ目の目的は、燃料電池に用いられる多孔体のガス拡散性を客観的に且つ高い信頼性を持って評価することのできる評価方法を提供することである。
【0006】
また、本発明の2つ目の目的は、ガス拡散性のばらつきを抑えて安定した品質で燃料電池を製造することのできる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記1つ目の目的を達成するため、燃料電池に用いられる多孔体のガス拡散性を評価する評価方法であって、
前記多孔体の背面側或いは前記多孔体の内部に特定のガス成分の吸着性が高い金属材料を均一に配置する準備工程と、
前記多孔体の背面側は気密にして、前記多孔体の表面に沿って前記金属材料に吸着される成分を含む試験ガスを通過させる試験工程と、
前記多孔体の表面を通過した試験ガス中の吸着成分の濃度の時間変化を計測し、その計測結果によって前記多孔体のガス拡散性を評価する評価工程と、
を実行することを特徴としている。
【0008】
第2の発明は、前記第1の発明において、
前記試験工程は、前記多孔体にその背面側から水圧を印加する工程を含むことを特徴としている。
【0009】
第3の発明は、前記第1又は第2の発明において、
前記準備工程では配置する金属材料として白金を用い、
前記試験工程では吸着成分として一酸化炭素を用いることを特徴としている。
【0010】
第4の発明は、前記第1乃至第3の何れか1つの発明において、
前記準備工程は、前記多孔体と触媒層とを一体化する工程を含むことを特徴としている。
【0011】
第5の発明は、前記第1乃至第3の何れか1つの発明において、
前記準備工程は、触媒インクから前記多孔体を製造する工程を含むことを特徴としている。
【0012】
第6の発明は、前記第1乃至第3の何れか1つの発明において、
前記準備工程は、前記多孔体と膜電極接合体(MEA)とを一体化する工程を含むことを特徴としている。
【0013】
第7の発明は、前記第1乃至第3の何れか1つの発明において、
前記準備工程は、前記多孔体を支持する支持プレートの表面に特定のガス成分の吸着性が高い金属材料を配置する工程を含むことを特徴としている。
【0014】
第8の発明は、上記2つ目の目的を達成するため、燃料電池の製造方法であって、
ガス拡散層を作製するガス拡散層作製工程と、
前記ガス拡散層の背面側に白金を均一に配置する準備工程と、
前記ガス拡散層の背面側は気密にして、前記ガス拡散層の表面に沿って一酸化炭素を含む試験ガスを通過させる試験工程と、
前記ガス拡散層の表面を通過した試験ガス中の一酸化炭素濃度の時間変化を計測し、その計測結果によって前記ガス拡散層のガス拡散性を検査する検査工程と、
前記ガス拡散層のガス拡散性の検査結果に基づいて前記ガス拡散層作製工程における作製条件を補正する作製条件補正工程と、
を実行することを特徴としている。
【0015】
第9の発明は、上記2つ目の目的を達成するため、燃料電池の製造方法であって、
膜電極接合体(MEA)を作製するMEA作製工程と、
前記MEAの表面に沿って一酸化炭素を含む試験ガスを通過させる試験工程と、
前記MEAの表面を通過した試験ガス中の一酸化炭素濃度の時間変化を計測し、その計測結果によって前記MEAのガス拡散性を検査する検査工程と、
前記MEAのガス拡散性の検査結果に基づいて前記MEA作製工程における作製条件を補正する作製条件補正工程と、
を実行することを特徴としている。
【0016】
第10の発明は、上記2つ目の目的を達成するため、燃料電池の製造方法であって、
ガス拡散層と膜電極接合体(MEA)とを一体化してアセンブリとするアセンブル工程と、
前記アセンブリの表面に沿って一酸化炭素を含む試験ガスを通過させる試験工程と、
前記アセンブリの表面を通過した試験ガス中の一酸化炭素濃度の時間変化を計測し、その計測結果によって前記アセンブリのガス拡散性を検査する検査工程と、
前記アセンブリのガス拡散性の検査結果に基づいて前記アセンブル工程におけるアセンブル条件を補正するアセンブル条件補正工程と、
を実行することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、多孔体の表面に沿って試験ガスを通過させると、試験ガスは多孔体の内部に拡散していく。そして、多孔体の背面側まで試験ガスが拡散したとき、試験ガスに含まれる吸着成分は多孔体の背面側に配置されている金属材料に吸着する。吸着成分の金属材料への吸着量や吸着速度は、試験ガスが多孔体内を拡散するときの拡散性によって左右される。吸着成分が金属材料に吸着すれば、その分、多孔体の表面を通過した試験ガス中の吸着成分は減少するので、試験ガス中の吸着成分の濃度の時間変化を計測することでガスが多孔体内を拡散するときの拡散性を客観的に評価することができる。また、吸着成分が金属材料に吸着する際には熱が発生するが、その熱は試験ガスによって外部に持ち去さられるので、吸着成分の金属材料への吸着量や吸着速度が熱の影響で変化する可能性は少ない。したがって、第1の発明の方法によれば、高い信頼性を持って多孔体のガス拡散性を評価することができる。
【0018】
第2の発明によれば、多孔体にその背面側から水圧を印加することで、発電時の燃料電池の内部状態を模擬することができる。この状態で多孔体の表面に沿って試験ガスを通過させ、通過した試験ガス中の吸着成分の濃度の時間変化を計測することで、発電時における多孔体のガス拡散性を客観的に評価することが可能になる。
【0019】
第3の発明によれば、一酸化炭素と白金との間には強い吸着作用が働くので、多孔体のガス拡散性に応じて試験ガス中の一酸化炭素の濃度の時間変化は明確に変化する。よって、金属材料として白金を用い吸着成分として一酸化炭素を用いることで、多孔体のガス拡散性をより客観的に且つより高い信頼性を持って評価することが可能になる。
【0020】
第4の発明によれば、触媒層に含まれる白金等の金属材料を一酸化炭素等の吸着成分の吸着に利用しつつ、多孔体と触媒層とが一体化されたアセンブリ全体としてのガス拡散性を評価することができる。
【0021】
第5の発明によれば、触媒インクに含まれる白金等の金属材料を一酸化炭素等の吸着成分の吸着に利用しつつ、多孔体自体のガス拡散性を評価することができる。
【0022】
第6の発明によれば、MEAの電極に含まれる白金等の金属材料を一酸化炭素等の吸着成分の吸着に利用しつつ、多孔体とMEAとが一体化されたアセンブリ全体としてのガス拡散性を評価することができる。
【0023】
第7の発明によれば、支持プレートによって多孔体を支持しながら、多孔体の背面側に金属原子を配置し、且つ、支持プレートによって多孔体の背面側を気密にすることができる。
【0024】
第8の発明によれば、ガス拡散層のガス拡散性を客観的に且つ高い信頼性を持って検査し、その検査結果をガス拡散層の作製条件に反映させることができる。これにより、ガス拡散層のガス拡散性のばらつきを抑えて、安定した品質で燃料電池を製造することが可能となる。
【0025】
第9の発明によれば、MEAのガス拡散性を客観的に且つ高い信頼性を持って検査し、その検査結果をMEAの作製条件に反映させることができる。これにより、MEAのガス拡散性のばらつきを抑えて、安定した品質で燃料電池を製造することが可能となる。
【0026】
第10の発明によれば、ガス拡散層とMEAとが一体化されたアセンブリのガス拡散性を客観的に且つ高い信頼性を持って検査し、その検査結果をガス拡散層とMEAとのアセンブル条件に反映させることができる。これにより、ガス拡散層とMEAとが一体化されたアセンブリのガス拡散性のばらつきを抑えて、安定した品質で燃料電池を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態1のガス拡散性評価システムの概要を示す図である。
【図2】図1に示すガス拡散電極セット部の詳細な構成を示す図である。
【図3】ガス拡散電極の詳細な構成を示す図である。
【図4】図1に示すガス拡散電極セット部が有するシール構造を示す図である。
【図5】ガス拡散電極のガス拡散性と排ガス中のCO濃度の時間変化との関係について説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態2のガス拡散性評価システムの概要を示す図である。
【図7】図6に示すガス拡散電極セット部の詳細な構成を示す図である。
【図8】ガス拡散電極を図7に示すガス拡散電極セット部にセットしたときの各部材の詳細な配列を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態3に係るMEA作製工程の工程フローを示す図である。
【図10】本発明の実施の形態3に係るガス拡散層作製工程の工程フローを示す図である。
【図11】本発明の実施の形態3に係るモジュール化工程の工程フローを示す図である。
【図12】触媒インクの固形分比率とガス拡散性との関係について示す図である。
【図13】触媒インクの水比率とガス拡散性との関係について示す図である。
【図14】ガス拡散層に塗布する撥水ペーストの目付とガス拡散性との関係について示す図である。
【図15】撥水ペースト中のPTFE比率とガス拡散性との関係について示す図である。
【図16】ガス拡散層へのプレス圧とガス拡散性との関係について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1について図1乃至図5の各図を参照して説明する。
【0029】
本実施の形態では、燃料電池に用いられるガス拡散電極を試験対象とし、そのガス拡散性について評価する。試験では、ガス拡散電極の表面に沿って一酸化炭素(CO)を含む試験ガスを通過させ、ガス拡散電極の表面を通過した試験ガス中のCOを計測することが行われる。ガス拡散性の評価はCOの計測結果に基づいて行われる。本実施の形態では、このような評価方法を図1に示すガス拡散性評価システムを用いて実行する。
【0030】
本実施の形態のガス拡散性評価システムは、ガス拡散電極セット部2とCO定量部4とによって構成されている。試験対象であるガス拡散電極はガス拡散電極セット部2にセットされる。また、試験ガスはガス拡散電極セット部2に導入され、ガス拡散電極セット部2から排出されたガスがCO定量部4に導入される。ガス拡散電極セット部2に導入される試験ガスは、キャリアガスに一定濃度のCOを含ませたガスである。キャリアガスとしては窒素などの不活性ガスが用いられる。COはキャリアガス中に連続的に供給してもよいしパルス状に供給してもよい。CO定量部4はガス中に含まれるCOを定量する装置であって、具体的には、ガスクロマトグラフィー(GC)や質量分析機(MS)等が用いられる。
【0031】
ガス拡散電極セット部2の詳細な構成は図2に示される。ガス拡散電極セット部2は、ガス拡散電極20を表面側から挟む流路プレート10と、ガス拡散電極20を背面側から挟むバックプレート12とを備えている。
【0032】
ここで、ガス拡散電極20について図3を用いて説明する。ガス拡散電極20はガス拡散層22と撥水層24と触媒層26とからなる。ガス拡散層22は、カーボンペーパーや金属メッシュ等のガス拡散層シートによって形成されている。撥水層24は、撥水ペーストをガス拡散層22の上に塗布し乾燥することによって形成される。撥水ペーストは炭素粒子等の導電性粒子と撥水性樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを混ぜ合わせて作られている。そして、触媒層26は、触媒粒子を含有する触媒インクを撥水層24の上に塗布し乾燥することによって形成される。触媒粒子は、触媒となるPt粒子を炭素粒子等の導電性粒子に担持させたものが用いられる。前述のガス拡散電極20の表面側とはガス拡散層22の側を指し、前述のガス拡散電極20の背面側とは触媒層26の側を指す。
【0033】
再び図2に戻ってガス拡散電極セット部2を構成する各要素について説明する。流路プレート10のガス拡散電極20に接する面には、ガス流路が形成されている。このガス流路は、燃料電池のセパレータに形成されている実際のガス流路を模擬したものである。バックプレート12は平板であって、流路プレート10との間でガス拡散電極20を挟んだ状態で流路プレート10に締結される。そのときの締結圧は、燃料電池スタックの実際の締結圧に等しい大きさに調整される。つまり、ガス拡散電極セット部2では、実際の燃料電池の内部の状態が模擬されている。
【0034】
試験ガスは流路プレート10のガス流路に導入される。ガス流路の入口に導入された試験ガスは、ガス拡散電極20の表面に沿って流れ、ガス流路の出口から排出される。その際、試験ガスに含まれるCOは濃度差を駆動力としてガス拡散電極20中を拡散していく。そして、触媒層26(図3参照)に到達したCOは、触媒層26に存在するPt原子に吸着する。すなわち、本実施の形態では吸着成分としてCOが用いられ、吸着する金属材料としてPtが用いられている。
【0035】
ガス拡散電極セット部2から排出される排ガスには、Ptに吸着しなかったCOが含まれる。このCOをCO定量部4(図1参照)において定量することによって、COがガス拡散電極20中を拡散しやすいかしにくいか評価することができる。図5には、CO定量部4で定量される排ガス中のCO濃度の時間変化に関して、AとBの2つの異なるガス拡散電極による試験結果が示されている。この試験結果からは、ガス拡散電極Aのほうが触媒層中のPt原子にCOが速やかに吸着している、すなわち、ガス拡散電極Aのほうがガス拡散電極Bに比較してガス拡散性が高いという評価を下すことができる。また、全CO吸着量は触媒層26中のPt粒子の表面に存在するPt原子数と等しいので、ガス拡散電極セット部2から排出される排ガス中のCOをCO定量部4で定量することによってガス拡散電極20の金属分散度の測定も同時に行うこともできる。
【0036】
なお、各プレート10,12の少なくとも試験ガスに触れる部分は、COが吸着しない材料、例えば、ガラス、PTFE等で作られている。触媒層中のPt原子以外の部分にCOが吸着してしまうと、CO定量部4による測定値が変化してしまうためである。また、バックプレート10は、熱伝導性に優れた材料で作られているか、若しくは、熱媒を流すための流路が内部に形成されている。これは、COがPt原子に吸着する際に発生する熱を効率よく排熱するためである。
【0037】
また、ガス拡散電極20の周囲にはシールが施されている。図4にはガス拡散電極セット部2が有するシール構造を示している。図4の右側が好ましい状態を示し、左側が好ましくない状態を示している。シールが不十分な場合は図4の左側に示すように、シール部14とガス拡散電極20の空隙を通ってCOがPtに吸着される。この場合には、全CO吸着量が狙いよりも多くなってしまい、CO定量部4による測定値は不正確なものになる。したがって、図4の右側に示すように確実なシールを行うには、ガス拡散電極20に樹脂やゲル等を含浸させてシールすることが望ましい。
【0038】
以上のように、本実施の形態で採ったガス拡散電極20のガス拡散性の評価方法によれば、試験ガス中のCOの濃度の時間変化を計測することでガスが多孔体内を拡散するときの拡散性を客観的に評価することができる。また、COがPt原子に吸着する際には熱が発生するが、その熱の一部はバックプレート12から排熱され、別の一部は試験ガスによって外部に持ち去さられるので、COのPt原子への吸着量や吸着速度が熱の影響で変化する可能性は少ない。したがって、本実施の形態の評価方法によれば、高い信頼性を持って多孔体のガス拡散性を評価することができる。
【0039】
なお、本実施の形態のガス拡散性評価システムによれば、撥水層を有しないガス拡散電極も試験対象とすることができる。さらに、電解質膜の両面に触媒層や拡散層を接合したMEA(膜電極接合体)も試験対象とすることができる。何れもガス拡散性の評価の対象となる多孔体を有しており、且つ、多孔体の内部或いは背面側にPt原子を含んでいるからである。
【0040】
さらに、本実施の形態のガス拡散性評価システムによれば、ガス拡散層と撥水層の積層体、或いは、ガス拡散層のみを試験対象とすることもできる。この場合は、触媒層の代わりにバックプレート12の表面にPtもしくは白金黒を塗布したり、或いは、白金箔(白金黒)を固定化することによって試験を行うことができる。つまり、多孔体の内部にPt原子が存在しなくとも、何らかの手段によって多孔体の背面側にPt原子が均等に配置することができればCOの吸着を利用したガス拡散性の評価を行うことができる。
【0041】
実施の形態2.
次に、本発明の実施の形態2について図6乃至図8の各図を参照して説明する。
【0042】
本実施の形態では、実施の形態1と同じく、燃料電池に用いられるガス拡散電極を試験対象とし、そのガス拡散性について評価する。試験では、まず、ガス拡散電極にその背面側から水圧を印加してガス拡散電極の細孔中に水が入り込んだ状態を予め作り出しておく。つまり、発電時の燃料電池の内部状態をよりリアルに模擬した試験環境を作り出しておくことが行われる。そして、この状態で、ガス拡散電極の表面に沿ってCOを含む試験ガスを通過させ、ガス拡散電極の表面を通過した試験ガス中のCOを計測することが行われる。ガス拡散性の評価はCOの計測結果に基づいて行われる。本実施の形態では、このような評価方法を図6に示すガス拡散性評価システムを用いて実行する。
【0043】
本実施の形態のガス拡散性評価システムは、ガス拡散電極セット部6とCO定量部4とによって構成されている。本実施の形態に係るガス拡散電極セット部6と実施の形態1に係るガス拡散電極セット部2(図1参照)との相違点は、発電時の燃料電池の内部状態を模擬するための水が導入される点にある。ガス拡散電極セット部6に導入される試験ガスの成分やCO定量部4の機能に関しては実施の形態1と共通している。
【0044】
ガス拡散電極セット部6の詳細な構成は図7に示される。ガス拡散電極セット部6は、ガス拡散電極20を表面側から挟む流路プレート10と、ガス拡散電極20を背面側から挟むバックプレート12とを備えている。さらに、ガス拡散電極20の背面側に重ねられる透水性膜16と親水性多孔体18とを備えている。
【0045】
図8はガス拡散電極20をガス拡散電極セット部6にセットしたときの各部材の詳細な配列を示す図である。触媒層26に透水性膜16が重ねられ、さらに、透水性膜16に親水性多孔体18が重ねられた状態でバックプレート12上に載置されている。外部から供給される水は親水性多孔体18に導入され、その水圧によって透水性膜16を介してガス拡散電極20内に圧入される。本実施の形態では、このようにガス拡散電極20内に水が圧入された状態で試験ガスの供給が行われる。
【0046】
本実施の形態で採ったガス拡散電極20のガス拡散性の評価方法によれば、ガス拡散電極20にその背面側(触媒層26の側)から水圧を印加することで、発電時の燃料電池の内部状態をリアルに模擬することができる。この状態でガス拡散電極20の表面に沿って試験ガスを通過させ、通過した試験ガス中のCO濃度の時間変化をCO定量部4で計測することで、発電時におけるガス拡散電極20のガス拡散性を客観的に評価することが可能になる。
【0047】
なお、水圧の印加時には、ガス拡散電極20を通過した水がガス流路まで到達する。その水は試験ガスとともにガス流路から排出されるようにしてもよいし、そのまま排出されないようにしてもよい。前者の場合には、ガス拡散電極セット部6の出口にヒータを配置して水を気化させ、露点計等で露点を計測することで、発電時の燃料電池の状態をより精度良く模擬することが可能となる。一方、後者の場合であれば、ガス拡散電極セット部6を電子天秤に載せることで、ガス拡散電極20の飽和度(全細孔空隙のうち液体水が占める割合)を測定することが可能となる。或いは、水圧印加部にマノメータを設置すれば、圧入された水の体積からガス拡散電極20の飽和度を測定することが可能となる。
【0048】
実施の形態3.
次に、本発明の実施の形態3について図9乃至図16の各図を参照して説明する。
【0049】
本実施の形態では、実施の形態1或いは2で説明したガス拡散性の評価方法を燃料電池の製造に利用する。燃料電池を製造する際には、まず、MEAとガス拡散層とをそれぞれ作製し、その後にMEAとガス拡散層とをアッセンブリ化してセルを完成させている。そして、セルを積層して締結することで燃料電池スタックとしている。このような製造工程の中で特にMEAやガス拡散層の作製品質は燃料電池の発電性能にかかわる重要な品質である。そこで、本実施の形態で採る燃料電池の製造方法では、MEAやガス拡散層の品質を左右するガス拡散性を製造工程の途中で検査し、その検査結果を工程条件にフィードバックすることで品質の安定化を図ることにした。実施の形態1或いは2で説明したガス拡散性の評価方法はガス拡散層の検査に用いられる。
【0050】
本実施の形態では、具体的には、MEAの作製工程、ガス拡散層の作製工程、そして、それらをモジュール化するモジュール化工程においてガス拡散性の検査を行う。以下、各工程の工程フローと、各工程でのガス拡散性検査の利用方法とについて説明する。
【0051】
図9は本実施の形態に係るMEA作製工程の工程フローを示す図である。図9に示す工程フローによれば、MEAは、触媒インクの作製、触媒層の塗工、触媒層の乾燥、MEA化という工程を踏んで作製される。本実施の形態では、作製したMEAの全部或いは一部のサンプルについてガス拡散性を検査する。そして、検査結果が良(OK)であればモジュール化工程に進み、検査結果が不良(NG)であれば不良品として廃棄処分とする。
【0052】
また、MEAのガス拡散性の検査結果は、触媒インクの作製条件にフィードバックされる。フィードバック可能な作製条件の一例が、触媒インクの固形比率である。固形比率とは、触媒インクの重量に対する触媒インク中の乾燥後の重量の比率を指す。図12には触媒インクの固形分比率とガス拡散性との関係について示している。この図に示すように、固形分比率が高いほうがガス拡散性は高くなるので、触媒インクの固形分比率へのフィードバックは有効である。ただし、固形分比率を高くしすぎると粘度が高くなって塗布不良が増えるので、固形分比率は20%以下に止めるのが望ましい。
【0053】
また、触媒インクの水比率もフィードバック可能な作製条件の一つである。水比率とは、触媒インクに加えた全溶媒の量に対する触媒インクに加えた水の量の比率を指す。図13には触媒インクの水比率とガス拡散性との関係について示している。この図に示すように、水比率が高いほうがガス拡散性は高くなるので、触媒インクの水比率へのフィードバックは有効である。ただし、水比率を高くしすぎると、撥水性シートに触媒インクを塗布してデカールを作る際にはじかれやすくなって不良率が増え、また、相対的に他の溶剤の量が減って粘度調整に難が生じるので、水比率は70%以下に止めるのが望ましい。
【0054】
以上のように、MEAのガス拡散性の検査結果を触媒インクの作製条件にフィードバックすることで、MEAのガス拡散性のばらつきを抑えて、安定した品質で燃料電池を製造することが可能となる。
【0055】
図10は本実施の形態に係るガス拡散層作製工程の工程フローを示す図である。図10に示す工程フローによれば、ガス拡散層は、撥水ペーストの作製、撥水ペーストの塗工、ガス拡散層の乾燥、ガス拡散層の焼成という工程を踏んで作製される。本実施の形態では、作製したガス拡散層の全部或いは一部のサンプルについてガス拡散性を検査する。そして、検査結果が良(OK)であればモジュール化工程に進み、検査結果が不良(NG)であれば不良品として廃棄処分とする。
【0056】
また、ガス拡散層のガス拡散性の検査結果は、撥水ペーストの塗工条件或いは撥水ペーストの作製条件にフィードバックされる。フィードバック可能な撥水ペーストの塗工条件の一例が、ガス拡散層に塗布する撥水ペーストの目付である。図14にはガス拡散層に塗布する撥水ペーストの目付とガス拡散性との関係について示している。この図に示すように、目付が増えるにつれてガス拡散性は低くなるので、撥水ペーストの目付へのフィードバックは有効である。ただし、目付を減らしすぎると塗布ムラによる不良がおきやすくなる。
【0057】
フィードバック可能な撥水ペーストの作製条件の一例は、撥水ペースト中のPTFE比率である。PTFE比率とは、PTFE重量とカーボン重量の合計に対するPTFE重量の比率を指す。図15には撥水ペースト中のPTFE比率とガス拡散性との関係について示している。この図に示すように、撥水ペースト中のPTFE比率の変化に応じてガス拡散性は変化するので、撥水ペースト中のPTFE比率へのフィードバックは有効である。
【0058】
以上のように、ガス拡散層のガス拡散性の検査結果を撥水ペーストの塗工条件や撥水ペーストの作製条件にフィードバックすることで、ガス拡散層のガス拡散性のばらつきを抑えて、安定した品質で燃料電池を製造することが可能となる。
【0059】
図11は本実施の形態に係るモジュール化工程の工程フローを示す図である。図11に示す工程フローによれば、ホットプレスや接着剤によってMEAとガス拡散層をアッセンブリ化した後、そのアッセンブリの全部或いは一部のサンプルについてガス拡散性が検査される。検査結果が良(OK)であればセパレータ等とモジュール化されて最終的なセルモジュールが完成される。一方、検査結果が不良(NG)であれば不良品として廃棄処分とされる。
【0060】
また、アッセンブリのガス拡散性の検査結果は、MEAとガス拡散層とのアセンブル条件にフィードバックされる。フィードバック可能なアセンブル条件の一例が、プレス圧である。図16にはガス拡散層へのプレス圧とガス拡散性との関係について示している。この図に示すように、ガス拡散層へのプレス圧の変化に応じてガス拡散性は変化するので、プレス圧へのフィードバックは有効である。
【0061】
以上のように、ガス拡散層とMEAとが一体化されたアセンブリのガス拡散性の検査結果をアセンブル条件にフィードバックすることで、ガス拡散層とMEAとが一体化されたアセンブリのガス拡散性のばらつきを抑えて、安定した品質で燃料電池を製造することが可能となる。
【0062】
なお、本実施の形態では、MEA作製工程、ガス拡散層作製工程、及びモジュール化工程のそれぞれにおいてガス拡散性検査を行っているが、それらのうちの一部工程でのみガス拡散性検査を行うのでもよい。
【0063】
その他.
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0064】
また、本実施の形態では吸着成分としてCOを用いているが、H2、NH3、CO2、炭化水素ガス等を用いることもできる。キャリアガスとしてはH2の他、ArやHeを用いることができ、吸着成分及び金属材料との関係によってはH2をキャリアガスとして用いることもできる。また、吸着成分を吸着させる金属材料は、Ptの他にもNi、Ti、Mo、Ta等を用いることができる。
【符号の説明】
【0065】
2 ガス拡散電極セット部
4 CO定量部
6 ガス拡散電極セット部
10 流路プレート
12 バックプレート
14 シール
16 透水性膜
18 親水性多孔体
20 ガス拡散電極
22 ガス拡散層
24 撥水層
26 触媒層
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用多孔体のガス拡散性の評価方法とそれを利用した燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜の両面に電極を接合したMEA(膜電極接合体)を備えている。MEAを構成する電極は白金が担持された触媒層として構成され、触媒層の表面には撥水層、ガス拡散層といった多孔体の層が積層されている。また、触媒層自体も多孔体である。これら多孔体のガス拡散性を向上させることは、燃料電池の発電性能を向上させるための条件の1つである。このため、かねてより多孔体のガス拡散性の評価に関する様々な技術が提案されている。例えば、特開2006−292714号公報には、ガルバニ型酸素濃度センサを利用して多孔体の酸素拡散係数を測定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−292714号公報
【特許文献2】特開平5−283091号公報
【特許文献3】特開2003−346855号公報
【特許文献4】特開2008−008632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多孔体のガス拡散性を評価する上で重要なことは、当然のことながら、客観的に且つ高い信頼性を持って評価することである。しかしながら、従来提案されている評価方法は必ずしも十分なものとはいえなかった。例えば、ガルバニ型酸素濃度センサを利用する場合には、センサのカソードで起こる発熱反応によって局所的に温度分布が生じ、その影響で酸素拡散係数の測定値が変化してしまう可能性がある。
【0005】
本発明は、上述のような課題に鑑みてなされたもので、その1つ目の目的は、燃料電池に用いられる多孔体のガス拡散性を客観的に且つ高い信頼性を持って評価することのできる評価方法を提供することである。
【0006】
また、本発明の2つ目の目的は、ガス拡散性のばらつきを抑えて安定した品質で燃料電池を製造することのできる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記1つ目の目的を達成するため、燃料電池に用いられる多孔体のガス拡散性を評価する評価方法であって、
前記多孔体の背面側或いは前記多孔体の内部に特定のガス成分の吸着性が高い金属材料を均一に配置する準備工程と、
前記多孔体の背面側は気密にして、前記多孔体の表面に沿って前記金属材料に吸着される成分を含む試験ガスを通過させる試験工程と、
前記多孔体の表面を通過した試験ガス中の吸着成分の濃度の時間変化を計測し、その計測結果によって前記多孔体のガス拡散性を評価する評価工程と、
を実行することを特徴としている。
【0008】
第2の発明は、前記第1の発明において、
前記試験工程は、前記多孔体にその背面側から水圧を印加する工程を含むことを特徴としている。
【0009】
第3の発明は、前記第1又は第2の発明において、
前記準備工程では配置する金属材料として白金を用い、
前記試験工程では吸着成分として一酸化炭素を用いることを特徴としている。
【0010】
第4の発明は、前記第1乃至第3の何れか1つの発明において、
前記準備工程は、前記多孔体と触媒層とを一体化する工程を含むことを特徴としている。
【0011】
第5の発明は、前記第1乃至第3の何れか1つの発明において、
前記準備工程は、触媒インクから前記多孔体を製造する工程を含むことを特徴としている。
【0012】
第6の発明は、前記第1乃至第3の何れか1つの発明において、
前記準備工程は、前記多孔体と膜電極接合体(MEA)とを一体化する工程を含むことを特徴としている。
【0013】
第7の発明は、前記第1乃至第3の何れか1つの発明において、
前記準備工程は、前記多孔体を支持する支持プレートの表面に特定のガス成分の吸着性が高い金属材料を配置する工程を含むことを特徴としている。
【0014】
第8の発明は、上記2つ目の目的を達成するため、燃料電池の製造方法であって、
ガス拡散層を作製するガス拡散層作製工程と、
前記ガス拡散層の背面側に白金を均一に配置する準備工程と、
前記ガス拡散層の背面側は気密にして、前記ガス拡散層の表面に沿って一酸化炭素を含む試験ガスを通過させる試験工程と、
前記ガス拡散層の表面を通過した試験ガス中の一酸化炭素濃度の時間変化を計測し、その計測結果によって前記ガス拡散層のガス拡散性を検査する検査工程と、
前記ガス拡散層のガス拡散性の検査結果に基づいて前記ガス拡散層作製工程における作製条件を補正する作製条件補正工程と、
を実行することを特徴としている。
【0015】
第9の発明は、上記2つ目の目的を達成するため、燃料電池の製造方法であって、
膜電極接合体(MEA)を作製するMEA作製工程と、
前記MEAの表面に沿って一酸化炭素を含む試験ガスを通過させる試験工程と、
前記MEAの表面を通過した試験ガス中の一酸化炭素濃度の時間変化を計測し、その計測結果によって前記MEAのガス拡散性を検査する検査工程と、
前記MEAのガス拡散性の検査結果に基づいて前記MEA作製工程における作製条件を補正する作製条件補正工程と、
を実行することを特徴としている。
【0016】
第10の発明は、上記2つ目の目的を達成するため、燃料電池の製造方法であって、
ガス拡散層と膜電極接合体(MEA)とを一体化してアセンブリとするアセンブル工程と、
前記アセンブリの表面に沿って一酸化炭素を含む試験ガスを通過させる試験工程と、
前記アセンブリの表面を通過した試験ガス中の一酸化炭素濃度の時間変化を計測し、その計測結果によって前記アセンブリのガス拡散性を検査する検査工程と、
前記アセンブリのガス拡散性の検査結果に基づいて前記アセンブル工程におけるアセンブル条件を補正するアセンブル条件補正工程と、
を実行することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、多孔体の表面に沿って試験ガスを通過させると、試験ガスは多孔体の内部に拡散していく。そして、多孔体の背面側まで試験ガスが拡散したとき、試験ガスに含まれる吸着成分は多孔体の背面側に配置されている金属材料に吸着する。吸着成分の金属材料への吸着量や吸着速度は、試験ガスが多孔体内を拡散するときの拡散性によって左右される。吸着成分が金属材料に吸着すれば、その分、多孔体の表面を通過した試験ガス中の吸着成分は減少するので、試験ガス中の吸着成分の濃度の時間変化を計測することでガスが多孔体内を拡散するときの拡散性を客観的に評価することができる。また、吸着成分が金属材料に吸着する際には熱が発生するが、その熱は試験ガスによって外部に持ち去さられるので、吸着成分の金属材料への吸着量や吸着速度が熱の影響で変化する可能性は少ない。したがって、第1の発明の方法によれば、高い信頼性を持って多孔体のガス拡散性を評価することができる。
【0018】
第2の発明によれば、多孔体にその背面側から水圧を印加することで、発電時の燃料電池の内部状態を模擬することができる。この状態で多孔体の表面に沿って試験ガスを通過させ、通過した試験ガス中の吸着成分の濃度の時間変化を計測することで、発電時における多孔体のガス拡散性を客観的に評価することが可能になる。
【0019】
第3の発明によれば、一酸化炭素と白金との間には強い吸着作用が働くので、多孔体のガス拡散性に応じて試験ガス中の一酸化炭素の濃度の時間変化は明確に変化する。よって、金属材料として白金を用い吸着成分として一酸化炭素を用いることで、多孔体のガス拡散性をより客観的に且つより高い信頼性を持って評価することが可能になる。
【0020】
第4の発明によれば、触媒層に含まれる白金等の金属材料を一酸化炭素等の吸着成分の吸着に利用しつつ、多孔体と触媒層とが一体化されたアセンブリ全体としてのガス拡散性を評価することができる。
【0021】
第5の発明によれば、触媒インクに含まれる白金等の金属材料を一酸化炭素等の吸着成分の吸着に利用しつつ、多孔体自体のガス拡散性を評価することができる。
【0022】
第6の発明によれば、MEAの電極に含まれる白金等の金属材料を一酸化炭素等の吸着成分の吸着に利用しつつ、多孔体とMEAとが一体化されたアセンブリ全体としてのガス拡散性を評価することができる。
【0023】
第7の発明によれば、支持プレートによって多孔体を支持しながら、多孔体の背面側に金属原子を配置し、且つ、支持プレートによって多孔体の背面側を気密にすることができる。
【0024】
第8の発明によれば、ガス拡散層のガス拡散性を客観的に且つ高い信頼性を持って検査し、その検査結果をガス拡散層の作製条件に反映させることができる。これにより、ガス拡散層のガス拡散性のばらつきを抑えて、安定した品質で燃料電池を製造することが可能となる。
【0025】
第9の発明によれば、MEAのガス拡散性を客観的に且つ高い信頼性を持って検査し、その検査結果をMEAの作製条件に反映させることができる。これにより、MEAのガス拡散性のばらつきを抑えて、安定した品質で燃料電池を製造することが可能となる。
【0026】
第10の発明によれば、ガス拡散層とMEAとが一体化されたアセンブリのガス拡散性を客観的に且つ高い信頼性を持って検査し、その検査結果をガス拡散層とMEAとのアセンブル条件に反映させることができる。これにより、ガス拡散層とMEAとが一体化されたアセンブリのガス拡散性のばらつきを抑えて、安定した品質で燃料電池を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態1のガス拡散性評価システムの概要を示す図である。
【図2】図1に示すガス拡散電極セット部の詳細な構成を示す図である。
【図3】ガス拡散電極の詳細な構成を示す図である。
【図4】図1に示すガス拡散電極セット部が有するシール構造を示す図である。
【図5】ガス拡散電極のガス拡散性と排ガス中のCO濃度の時間変化との関係について説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態2のガス拡散性評価システムの概要を示す図である。
【図7】図6に示すガス拡散電極セット部の詳細な構成を示す図である。
【図8】ガス拡散電極を図7に示すガス拡散電極セット部にセットしたときの各部材の詳細な配列を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態3に係るMEA作製工程の工程フローを示す図である。
【図10】本発明の実施の形態3に係るガス拡散層作製工程の工程フローを示す図である。
【図11】本発明の実施の形態3に係るモジュール化工程の工程フローを示す図である。
【図12】触媒インクの固形分比率とガス拡散性との関係について示す図である。
【図13】触媒インクの水比率とガス拡散性との関係について示す図である。
【図14】ガス拡散層に塗布する撥水ペーストの目付とガス拡散性との関係について示す図である。
【図15】撥水ペースト中のPTFE比率とガス拡散性との関係について示す図である。
【図16】ガス拡散層へのプレス圧とガス拡散性との関係について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1について図1乃至図5の各図を参照して説明する。
【0029】
本実施の形態では、燃料電池に用いられるガス拡散電極を試験対象とし、そのガス拡散性について評価する。試験では、ガス拡散電極の表面に沿って一酸化炭素(CO)を含む試験ガスを通過させ、ガス拡散電極の表面を通過した試験ガス中のCOを計測することが行われる。ガス拡散性の評価はCOの計測結果に基づいて行われる。本実施の形態では、このような評価方法を図1に示すガス拡散性評価システムを用いて実行する。
【0030】
本実施の形態のガス拡散性評価システムは、ガス拡散電極セット部2とCO定量部4とによって構成されている。試験対象であるガス拡散電極はガス拡散電極セット部2にセットされる。また、試験ガスはガス拡散電極セット部2に導入され、ガス拡散電極セット部2から排出されたガスがCO定量部4に導入される。ガス拡散電極セット部2に導入される試験ガスは、キャリアガスに一定濃度のCOを含ませたガスである。キャリアガスとしては窒素などの不活性ガスが用いられる。COはキャリアガス中に連続的に供給してもよいしパルス状に供給してもよい。CO定量部4はガス中に含まれるCOを定量する装置であって、具体的には、ガスクロマトグラフィー(GC)や質量分析機(MS)等が用いられる。
【0031】
ガス拡散電極セット部2の詳細な構成は図2に示される。ガス拡散電極セット部2は、ガス拡散電極20を表面側から挟む流路プレート10と、ガス拡散電極20を背面側から挟むバックプレート12とを備えている。
【0032】
ここで、ガス拡散電極20について図3を用いて説明する。ガス拡散電極20はガス拡散層22と撥水層24と触媒層26とからなる。ガス拡散層22は、カーボンペーパーや金属メッシュ等のガス拡散層シートによって形成されている。撥水層24は、撥水ペーストをガス拡散層22の上に塗布し乾燥することによって形成される。撥水ペーストは炭素粒子等の導電性粒子と撥水性樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを混ぜ合わせて作られている。そして、触媒層26は、触媒粒子を含有する触媒インクを撥水層24の上に塗布し乾燥することによって形成される。触媒粒子は、触媒となるPt粒子を炭素粒子等の導電性粒子に担持させたものが用いられる。前述のガス拡散電極20の表面側とはガス拡散層22の側を指し、前述のガス拡散電極20の背面側とは触媒層26の側を指す。
【0033】
再び図2に戻ってガス拡散電極セット部2を構成する各要素について説明する。流路プレート10のガス拡散電極20に接する面には、ガス流路が形成されている。このガス流路は、燃料電池のセパレータに形成されている実際のガス流路を模擬したものである。バックプレート12は平板であって、流路プレート10との間でガス拡散電極20を挟んだ状態で流路プレート10に締結される。そのときの締結圧は、燃料電池スタックの実際の締結圧に等しい大きさに調整される。つまり、ガス拡散電極セット部2では、実際の燃料電池の内部の状態が模擬されている。
【0034】
試験ガスは流路プレート10のガス流路に導入される。ガス流路の入口に導入された試験ガスは、ガス拡散電極20の表面に沿って流れ、ガス流路の出口から排出される。その際、試験ガスに含まれるCOは濃度差を駆動力としてガス拡散電極20中を拡散していく。そして、触媒層26(図3参照)に到達したCOは、触媒層26に存在するPt原子に吸着する。すなわち、本実施の形態では吸着成分としてCOが用いられ、吸着する金属材料としてPtが用いられている。
【0035】
ガス拡散電極セット部2から排出される排ガスには、Ptに吸着しなかったCOが含まれる。このCOをCO定量部4(図1参照)において定量することによって、COがガス拡散電極20中を拡散しやすいかしにくいか評価することができる。図5には、CO定量部4で定量される排ガス中のCO濃度の時間変化に関して、AとBの2つの異なるガス拡散電極による試験結果が示されている。この試験結果からは、ガス拡散電極Aのほうが触媒層中のPt原子にCOが速やかに吸着している、すなわち、ガス拡散電極Aのほうがガス拡散電極Bに比較してガス拡散性が高いという評価を下すことができる。また、全CO吸着量は触媒層26中のPt粒子の表面に存在するPt原子数と等しいので、ガス拡散電極セット部2から排出される排ガス中のCOをCO定量部4で定量することによってガス拡散電極20の金属分散度の測定も同時に行うこともできる。
【0036】
なお、各プレート10,12の少なくとも試験ガスに触れる部分は、COが吸着しない材料、例えば、ガラス、PTFE等で作られている。触媒層中のPt原子以外の部分にCOが吸着してしまうと、CO定量部4による測定値が変化してしまうためである。また、バックプレート10は、熱伝導性に優れた材料で作られているか、若しくは、熱媒を流すための流路が内部に形成されている。これは、COがPt原子に吸着する際に発生する熱を効率よく排熱するためである。
【0037】
また、ガス拡散電極20の周囲にはシールが施されている。図4にはガス拡散電極セット部2が有するシール構造を示している。図4の右側が好ましい状態を示し、左側が好ましくない状態を示している。シールが不十分な場合は図4の左側に示すように、シール部14とガス拡散電極20の空隙を通ってCOがPtに吸着される。この場合には、全CO吸着量が狙いよりも多くなってしまい、CO定量部4による測定値は不正確なものになる。したがって、図4の右側に示すように確実なシールを行うには、ガス拡散電極20に樹脂やゲル等を含浸させてシールすることが望ましい。
【0038】
以上のように、本実施の形態で採ったガス拡散電極20のガス拡散性の評価方法によれば、試験ガス中のCOの濃度の時間変化を計測することでガスが多孔体内を拡散するときの拡散性を客観的に評価することができる。また、COがPt原子に吸着する際には熱が発生するが、その熱の一部はバックプレート12から排熱され、別の一部は試験ガスによって外部に持ち去さられるので、COのPt原子への吸着量や吸着速度が熱の影響で変化する可能性は少ない。したがって、本実施の形態の評価方法によれば、高い信頼性を持って多孔体のガス拡散性を評価することができる。
【0039】
なお、本実施の形態のガス拡散性評価システムによれば、撥水層を有しないガス拡散電極も試験対象とすることができる。さらに、電解質膜の両面に触媒層や拡散層を接合したMEA(膜電極接合体)も試験対象とすることができる。何れもガス拡散性の評価の対象となる多孔体を有しており、且つ、多孔体の内部或いは背面側にPt原子を含んでいるからである。
【0040】
さらに、本実施の形態のガス拡散性評価システムによれば、ガス拡散層と撥水層の積層体、或いは、ガス拡散層のみを試験対象とすることもできる。この場合は、触媒層の代わりにバックプレート12の表面にPtもしくは白金黒を塗布したり、或いは、白金箔(白金黒)を固定化することによって試験を行うことができる。つまり、多孔体の内部にPt原子が存在しなくとも、何らかの手段によって多孔体の背面側にPt原子が均等に配置することができればCOの吸着を利用したガス拡散性の評価を行うことができる。
【0041】
実施の形態2.
次に、本発明の実施の形態2について図6乃至図8の各図を参照して説明する。
【0042】
本実施の形態では、実施の形態1と同じく、燃料電池に用いられるガス拡散電極を試験対象とし、そのガス拡散性について評価する。試験では、まず、ガス拡散電極にその背面側から水圧を印加してガス拡散電極の細孔中に水が入り込んだ状態を予め作り出しておく。つまり、発電時の燃料電池の内部状態をよりリアルに模擬した試験環境を作り出しておくことが行われる。そして、この状態で、ガス拡散電極の表面に沿ってCOを含む試験ガスを通過させ、ガス拡散電極の表面を通過した試験ガス中のCOを計測することが行われる。ガス拡散性の評価はCOの計測結果に基づいて行われる。本実施の形態では、このような評価方法を図6に示すガス拡散性評価システムを用いて実行する。
【0043】
本実施の形態のガス拡散性評価システムは、ガス拡散電極セット部6とCO定量部4とによって構成されている。本実施の形態に係るガス拡散電極セット部6と実施の形態1に係るガス拡散電極セット部2(図1参照)との相違点は、発電時の燃料電池の内部状態を模擬するための水が導入される点にある。ガス拡散電極セット部6に導入される試験ガスの成分やCO定量部4の機能に関しては実施の形態1と共通している。
【0044】
ガス拡散電極セット部6の詳細な構成は図7に示される。ガス拡散電極セット部6は、ガス拡散電極20を表面側から挟む流路プレート10と、ガス拡散電極20を背面側から挟むバックプレート12とを備えている。さらに、ガス拡散電極20の背面側に重ねられる透水性膜16と親水性多孔体18とを備えている。
【0045】
図8はガス拡散電極20をガス拡散電極セット部6にセットしたときの各部材の詳細な配列を示す図である。触媒層26に透水性膜16が重ねられ、さらに、透水性膜16に親水性多孔体18が重ねられた状態でバックプレート12上に載置されている。外部から供給される水は親水性多孔体18に導入され、その水圧によって透水性膜16を介してガス拡散電極20内に圧入される。本実施の形態では、このようにガス拡散電極20内に水が圧入された状態で試験ガスの供給が行われる。
【0046】
本実施の形態で採ったガス拡散電極20のガス拡散性の評価方法によれば、ガス拡散電極20にその背面側(触媒層26の側)から水圧を印加することで、発電時の燃料電池の内部状態をリアルに模擬することができる。この状態でガス拡散電極20の表面に沿って試験ガスを通過させ、通過した試験ガス中のCO濃度の時間変化をCO定量部4で計測することで、発電時におけるガス拡散電極20のガス拡散性を客観的に評価することが可能になる。
【0047】
なお、水圧の印加時には、ガス拡散電極20を通過した水がガス流路まで到達する。その水は試験ガスとともにガス流路から排出されるようにしてもよいし、そのまま排出されないようにしてもよい。前者の場合には、ガス拡散電極セット部6の出口にヒータを配置して水を気化させ、露点計等で露点を計測することで、発電時の燃料電池の状態をより精度良く模擬することが可能となる。一方、後者の場合であれば、ガス拡散電極セット部6を電子天秤に載せることで、ガス拡散電極20の飽和度(全細孔空隙のうち液体水が占める割合)を測定することが可能となる。或いは、水圧印加部にマノメータを設置すれば、圧入された水の体積からガス拡散電極20の飽和度を測定することが可能となる。
【0048】
実施の形態3.
次に、本発明の実施の形態3について図9乃至図16の各図を参照して説明する。
【0049】
本実施の形態では、実施の形態1或いは2で説明したガス拡散性の評価方法を燃料電池の製造に利用する。燃料電池を製造する際には、まず、MEAとガス拡散層とをそれぞれ作製し、その後にMEAとガス拡散層とをアッセンブリ化してセルを完成させている。そして、セルを積層して締結することで燃料電池スタックとしている。このような製造工程の中で特にMEAやガス拡散層の作製品質は燃料電池の発電性能にかかわる重要な品質である。そこで、本実施の形態で採る燃料電池の製造方法では、MEAやガス拡散層の品質を左右するガス拡散性を製造工程の途中で検査し、その検査結果を工程条件にフィードバックすることで品質の安定化を図ることにした。実施の形態1或いは2で説明したガス拡散性の評価方法はガス拡散層の検査に用いられる。
【0050】
本実施の形態では、具体的には、MEAの作製工程、ガス拡散層の作製工程、そして、それらをモジュール化するモジュール化工程においてガス拡散性の検査を行う。以下、各工程の工程フローと、各工程でのガス拡散性検査の利用方法とについて説明する。
【0051】
図9は本実施の形態に係るMEA作製工程の工程フローを示す図である。図9に示す工程フローによれば、MEAは、触媒インクの作製、触媒層の塗工、触媒層の乾燥、MEA化という工程を踏んで作製される。本実施の形態では、作製したMEAの全部或いは一部のサンプルについてガス拡散性を検査する。そして、検査結果が良(OK)であればモジュール化工程に進み、検査結果が不良(NG)であれば不良品として廃棄処分とする。
【0052】
また、MEAのガス拡散性の検査結果は、触媒インクの作製条件にフィードバックされる。フィードバック可能な作製条件の一例が、触媒インクの固形比率である。固形比率とは、触媒インクの重量に対する触媒インク中の乾燥後の重量の比率を指す。図12には触媒インクの固形分比率とガス拡散性との関係について示している。この図に示すように、固形分比率が高いほうがガス拡散性は高くなるので、触媒インクの固形分比率へのフィードバックは有効である。ただし、固形分比率を高くしすぎると粘度が高くなって塗布不良が増えるので、固形分比率は20%以下に止めるのが望ましい。
【0053】
また、触媒インクの水比率もフィードバック可能な作製条件の一つである。水比率とは、触媒インクに加えた全溶媒の量に対する触媒インクに加えた水の量の比率を指す。図13には触媒インクの水比率とガス拡散性との関係について示している。この図に示すように、水比率が高いほうがガス拡散性は高くなるので、触媒インクの水比率へのフィードバックは有効である。ただし、水比率を高くしすぎると、撥水性シートに触媒インクを塗布してデカールを作る際にはじかれやすくなって不良率が増え、また、相対的に他の溶剤の量が減って粘度調整に難が生じるので、水比率は70%以下に止めるのが望ましい。
【0054】
以上のように、MEAのガス拡散性の検査結果を触媒インクの作製条件にフィードバックすることで、MEAのガス拡散性のばらつきを抑えて、安定した品質で燃料電池を製造することが可能となる。
【0055】
図10は本実施の形態に係るガス拡散層作製工程の工程フローを示す図である。図10に示す工程フローによれば、ガス拡散層は、撥水ペーストの作製、撥水ペーストの塗工、ガス拡散層の乾燥、ガス拡散層の焼成という工程を踏んで作製される。本実施の形態では、作製したガス拡散層の全部或いは一部のサンプルについてガス拡散性を検査する。そして、検査結果が良(OK)であればモジュール化工程に進み、検査結果が不良(NG)であれば不良品として廃棄処分とする。
【0056】
また、ガス拡散層のガス拡散性の検査結果は、撥水ペーストの塗工条件或いは撥水ペーストの作製条件にフィードバックされる。フィードバック可能な撥水ペーストの塗工条件の一例が、ガス拡散層に塗布する撥水ペーストの目付である。図14にはガス拡散層に塗布する撥水ペーストの目付とガス拡散性との関係について示している。この図に示すように、目付が増えるにつれてガス拡散性は低くなるので、撥水ペーストの目付へのフィードバックは有効である。ただし、目付を減らしすぎると塗布ムラによる不良がおきやすくなる。
【0057】
フィードバック可能な撥水ペーストの作製条件の一例は、撥水ペースト中のPTFE比率である。PTFE比率とは、PTFE重量とカーボン重量の合計に対するPTFE重量の比率を指す。図15には撥水ペースト中のPTFE比率とガス拡散性との関係について示している。この図に示すように、撥水ペースト中のPTFE比率の変化に応じてガス拡散性は変化するので、撥水ペースト中のPTFE比率へのフィードバックは有効である。
【0058】
以上のように、ガス拡散層のガス拡散性の検査結果を撥水ペーストの塗工条件や撥水ペーストの作製条件にフィードバックすることで、ガス拡散層のガス拡散性のばらつきを抑えて、安定した品質で燃料電池を製造することが可能となる。
【0059】
図11は本実施の形態に係るモジュール化工程の工程フローを示す図である。図11に示す工程フローによれば、ホットプレスや接着剤によってMEAとガス拡散層をアッセンブリ化した後、そのアッセンブリの全部或いは一部のサンプルについてガス拡散性が検査される。検査結果が良(OK)であればセパレータ等とモジュール化されて最終的なセルモジュールが完成される。一方、検査結果が不良(NG)であれば不良品として廃棄処分とされる。
【0060】
また、アッセンブリのガス拡散性の検査結果は、MEAとガス拡散層とのアセンブル条件にフィードバックされる。フィードバック可能なアセンブル条件の一例が、プレス圧である。図16にはガス拡散層へのプレス圧とガス拡散性との関係について示している。この図に示すように、ガス拡散層へのプレス圧の変化に応じてガス拡散性は変化するので、プレス圧へのフィードバックは有効である。
【0061】
以上のように、ガス拡散層とMEAとが一体化されたアセンブリのガス拡散性の検査結果をアセンブル条件にフィードバックすることで、ガス拡散層とMEAとが一体化されたアセンブリのガス拡散性のばらつきを抑えて、安定した品質で燃料電池を製造することが可能となる。
【0062】
なお、本実施の形態では、MEA作製工程、ガス拡散層作製工程、及びモジュール化工程のそれぞれにおいてガス拡散性検査を行っているが、それらのうちの一部工程でのみガス拡散性検査を行うのでもよい。
【0063】
その他.
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0064】
また、本実施の形態では吸着成分としてCOを用いているが、H2、NH3、CO2、炭化水素ガス等を用いることもできる。キャリアガスとしてはH2の他、ArやHeを用いることができ、吸着成分及び金属材料との関係によってはH2をキャリアガスとして用いることもできる。また、吸着成分を吸着させる金属材料は、Ptの他にもNi、Ti、Mo、Ta等を用いることができる。
【符号の説明】
【0065】
2 ガス拡散電極セット部
4 CO定量部
6 ガス拡散電極セット部
10 流路プレート
12 バックプレート
14 シール
16 透水性膜
18 親水性多孔体
20 ガス拡散電極
22 ガス拡散層
24 撥水層
26 触媒層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に用いられる多孔体のガス拡散性を評価する評価方法であって、
前記多孔体の背面側或いは前記多孔体の内部に特定のガス成分の吸着性が高い金属材料を均一に配置する準備工程と、
前記多孔体の背面側は気密にして、前記多孔体の表面に沿って前記金属材料に吸着される成分を含む試験ガスを通過させる試験工程と、
前記多孔体の表面を通過した試験ガス中の吸着成分の濃度の時間変化を計測し、その計測結果によって前記多孔体のガス拡散性を評価する評価工程と、
を実行することを特徴とする燃料電池用多孔体のガス拡散性の評価方法。
【請求項2】
前記試験工程は、前記多孔体にその背面側から水圧を印加する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の燃料電池用多孔体のガス拡散性の評価方法。
【請求項3】
前記準備工程では配置する金属材料として白金を用い、
前記試験工程では吸着成分として一酸化炭素を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の燃料電池用多孔体のガス拡散性の評価方法。
【請求項4】
前記準備工程は、前記多孔体と触媒層とを一体化する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の燃料電池用多孔体のガス拡散性の評価方法。
【請求項5】
前記準備工程は、触媒インクから前記多孔体を製造する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の燃料電池用多孔体のガス拡散性の評価方法。
【請求項6】
前記準備工程は、前記多孔体と膜電極接合体(MEA)とを一体化する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の燃料電池用多孔体のガス拡散性の評価方法。
【請求項7】
前記準備工程は、前記多孔体を支持する支持プレートの表面に特定のガス成分の吸着性が高い金属材料を配置する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の燃料電池用多孔体のガス拡散性の評価方法。
【請求項8】
燃料電池の製造方法であって、
ガス拡散層を作製するガス拡散層作製工程と、
前記ガス拡散層の背面側に白金を均一に配置する準備工程と、
前記ガス拡散層の背面側は気密にして、前記ガス拡散層の表面に沿って一酸化炭素を含む試験ガスを通過させる試験工程と、
前記ガス拡散層の表面を通過した試験ガス中の一酸化炭素濃度の時間変化を計測し、その計測結果によって前記ガス拡散層のガス拡散性を検査する検査工程と、
前記ガス拡散層のガス拡散性の検査結果に基づいて前記ガス拡散層作製工程における作製条件を補正する作製条件補正工程と、
を実行することを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項9】
燃料電池の製造方法であって、
膜電極接合体(MEA)を作製するMEA作製工程と、
前記MEAの表面に沿って一酸化炭素を含む試験ガスを通過させる試験工程と、
前記MEAの表面を通過した試験ガス中の一酸化炭素濃度の時間変化を計測し、その計測結果によって前記MEAのガス拡散性を検査する検査工程と、
前記MEAのガス拡散性の検査結果に基づいて前記MEA成工程における作製条件を補正する作製条件補正工程と、
を実行することを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項10】
燃料電池の製造方法であって、
ガス拡散層と膜電極接合体(MEA)とを一体化してアセンブリとするアセンブル工程と、
前記アセンブリの表面に沿って一酸化炭素を含む試験ガスを通過させる試験工程と、
前記アセンブリの表面を通過した試験ガス中の一酸化炭素濃度の時間変化を計測し、その計測結果によって前記アセンブリのガス拡散性を検査する検査工程と、
前記アセンブリのガス拡散性の検査結果に基づいて前記アセンブル工程におけるアセンブル条件を補正するアセンブル条件補正工程と、
を実行することを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項1】
燃料電池に用いられる多孔体のガス拡散性を評価する評価方法であって、
前記多孔体の背面側或いは前記多孔体の内部に特定のガス成分の吸着性が高い金属材料を均一に配置する準備工程と、
前記多孔体の背面側は気密にして、前記多孔体の表面に沿って前記金属材料に吸着される成分を含む試験ガスを通過させる試験工程と、
前記多孔体の表面を通過した試験ガス中の吸着成分の濃度の時間変化を計測し、その計測結果によって前記多孔体のガス拡散性を評価する評価工程と、
を実行することを特徴とする燃料電池用多孔体のガス拡散性の評価方法。
【請求項2】
前記試験工程は、前記多孔体にその背面側から水圧を印加する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の燃料電池用多孔体のガス拡散性の評価方法。
【請求項3】
前記準備工程では配置する金属材料として白金を用い、
前記試験工程では吸着成分として一酸化炭素を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の燃料電池用多孔体のガス拡散性の評価方法。
【請求項4】
前記準備工程は、前記多孔体と触媒層とを一体化する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の燃料電池用多孔体のガス拡散性の評価方法。
【請求項5】
前記準備工程は、触媒インクから前記多孔体を製造する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の燃料電池用多孔体のガス拡散性の評価方法。
【請求項6】
前記準備工程は、前記多孔体と膜電極接合体(MEA)とを一体化する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の燃料電池用多孔体のガス拡散性の評価方法。
【請求項7】
前記準備工程は、前記多孔体を支持する支持プレートの表面に特定のガス成分の吸着性が高い金属材料を配置する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の燃料電池用多孔体のガス拡散性の評価方法。
【請求項8】
燃料電池の製造方法であって、
ガス拡散層を作製するガス拡散層作製工程と、
前記ガス拡散層の背面側に白金を均一に配置する準備工程と、
前記ガス拡散層の背面側は気密にして、前記ガス拡散層の表面に沿って一酸化炭素を含む試験ガスを通過させる試験工程と、
前記ガス拡散層の表面を通過した試験ガス中の一酸化炭素濃度の時間変化を計測し、その計測結果によって前記ガス拡散層のガス拡散性を検査する検査工程と、
前記ガス拡散層のガス拡散性の検査結果に基づいて前記ガス拡散層作製工程における作製条件を補正する作製条件補正工程と、
を実行することを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項9】
燃料電池の製造方法であって、
膜電極接合体(MEA)を作製するMEA作製工程と、
前記MEAの表面に沿って一酸化炭素を含む試験ガスを通過させる試験工程と、
前記MEAの表面を通過した試験ガス中の一酸化炭素濃度の時間変化を計測し、その計測結果によって前記MEAのガス拡散性を検査する検査工程と、
前記MEAのガス拡散性の検査結果に基づいて前記MEA成工程における作製条件を補正する作製条件補正工程と、
を実行することを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項10】
燃料電池の製造方法であって、
ガス拡散層と膜電極接合体(MEA)とを一体化してアセンブリとするアセンブル工程と、
前記アセンブリの表面に沿って一酸化炭素を含む試験ガスを通過させる試験工程と、
前記アセンブリの表面を通過した試験ガス中の一酸化炭素濃度の時間変化を計測し、その計測結果によって前記アセンブリのガス拡散性を検査する検査工程と、
前記アセンブリのガス拡散性の検査結果に基づいて前記アセンブル工程におけるアセンブル条件を補正するアセンブル条件補正工程と、
を実行することを特徴とする燃料電池の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−251188(P2010−251188A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100934(P2009−100934)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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