説明

燃料電池用断熱システム

【課題】機械加工が不要であり、安価で軽量な燃料電池用断熱シを提供する。
【解決手段】酸化剤ガスと燃料ガスとを高温作動温度環境下の電池室内に供給し、この酸化剤ガスと燃料ガスとを電気化学的に反応させて電力を得るようにした燃料電池本体及び/又はその附帯装置の周囲に、内側から順に、可撓性無機質断熱材からなる第1の断熱材層、可撓性エアロゲル断熱材からなる第2の断熱材層、可撓性無機質断熱材からなる第3の断熱材層を有することを特徴とする燃料電池用断熱システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池本体及び/又はその附帯装置からなる燃料電池発電システム等に組み込まれる燃料電池用断熱システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池発電システムは、天然ガス、液化石油ガス(LPG)、灯油等の化石燃料、メタノールやジメチルエーテル等の合成燃料、さらにはエチルアルコール等のバイオ燃料から、これらの燃料に含まれる水素が有する化学的エネルギーを直接電気エネルギーに変換して取り出す装置であり、カルノーサイクルの制約を受けずエネルギー変換効率が高いことや、燃焼過程がないためにエネルギー変換をクリーンに行えること、また、稼働中に振動や騒音を発することもないことから、次世代の発電システムとして注目されている。さらには、災害時のライフラインとして重要な電力を簡易に確保することができるコンパクトな発電システムとしても注目されている。
【0003】
燃料電池発電システムは、一般に燃料電池本体と燃料電池本体の付帯装置から構成される。
【0004】
燃料電池本体は、電解質と空気極と燃料極とで構成されており、空気極側に酸化剤として酸素ガスが供給され、燃料極側に水素ガスが供給されることにより、触媒作用により発生した酸素イオンと水素イオンとを電解質を介して両イオンを結合させる電気化学反応により電気エネルギーが発生する。
【0005】
燃料電池には、固体酸化物型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、リン酸型燃料電池および固体高分子型燃料電池などの種類がある。そして、それぞれの燃料電池の運転温度は、固体酸化物型燃料電池で約800〜1000℃、溶融炭酸塩型燃料電池で約650℃、リン酸型燃料電池で約250℃および固体高分子型燃料電池で約80℃である。
【0006】
このように、燃料電池の種類により上記の最適な運転温度があり、この運転温度を維持しなければ所定の電気化学反応が行われず発電効率を低下させることとなる。
【0007】
一方、燃料電池本体の付帯装置には、燃料ガス処理装置、燃料ガス混合器、熱交換器、燃料ガス用ブロワ、酸化剤ガス用ブロワなどが挙げられる。付帯装置は、燃料電池の種類、使用条件等によって適宜最適な仕様、最適な組合せが検討されるものである。
【0008】
たとえば、燃料ガス処理装置は、改質器、CO変成器などから構成されるが、一般的に改質器の運転温度は約700〜800℃、CO変成器の運転温度は約350℃であり、この運転温度を維持しなければ所定の改質反応、シフト反応が行われず、所定の組成の燃料ガスを生成することができない。熱交換器などもそれぞれに適した運転温度があり、その温度を維持する必要がある。
【0009】
固体高分子形(PEFC)の燃料電池で説明すると、これは電解質に固体高分子のイオン交換膜を使用するものであり、空気極側に酸化剤として酸素ガスが供給され、燃料極側に水素ガスが供給して、固体高分子のイオン交換膜中を水素イオンが移動することで、電気化学(電池)反応を起して発電をするものである。この場合、家庭用、小型業務用、自動車用、携帯用など実用化をするために燃料ガスとして水素以外の都市ガス・LPG・灯油等を用いる場合には、燃料改質器を用いてたとえば水蒸気改質方法により水素リッチな改質された燃料ガスを精製することが行われている。ここで製造された水素ガスを、固体高分子形(PEFC)の発電スタックで酸化ガスである空気と電気化学的に反応させて発電するようにしている。
【0010】
ところが、1KW級の家庭用の燃料電池システムであっても、この改質器の作動温度は触媒の活性温度が通常750℃前後であるから断熱システムが必要となる。しかしながら、数十W級の業務用発電システムと同じ業務用発電システムをそのまま採用すると効率が悪い。また、家庭用の燃料電池システムとしては、当然ながら設置スペースを出来る限りコンパクトにしなければいけないので、より高効率の断熱システムを安価に提供することが要望されている。
【0011】
従来から、燃料電池本体やその付帯装置の運転温度を維持するために、燃料電池本体やその付帯装置の周囲にセラミックス系断熱材を充填することによって断熱構造とすることがなされてきた。
【0012】
たとえば、特許文献1には燃料電池本体やその付帯装置の周囲を真空断熱構造で包囲することが提案されている。また、特許文献2には、セラミックス系断熱材層と真空断熱構造を併用して、燃料電池本体やその付帯装置の周囲を包囲することが提案されている。
【0013】
さらに、特許文献3には、改質器とその関連機器とを一つのユニットとしてまとめて、内筒と外筒との間に真空の断熱層を形成した真空断熱容器をこのユニットに被せて覆うことにより、真空断熱容器内部を改質器の燃焼ガスの流路とした燃料改質装置を構成してセラミックファイバ等の断熱材の充填を不要とし断熱層の容積を低減して装置の小型化並びに熱効率向上を図ることが提案されている。
【0014】
また、特許文献4には、内部に水蒸気を含むガスが充満する炉の断熱構造が提案されている。ここでは、ケーシングの内側から順に炉内側に向かって、発泡セラミックス体や発泡ガラス体のような独立気泡を有する無機系の断熱材でできた第一層に配置された断熱材と、第一層の内側の第2層に配置された断熱材と、第2層の内側の第3層に配置された断熱材とを具備するように配置した燃料電池用断熱システムが提案されている。ここでは、第2層に配置された断熱材は、第3層に配置された断熱材よりも断熱性が優れ、第一層に配置された断熱材と第2層に配置された断熱材と第3層に配置された断熱材の厚さを第一層に配置された断熱材と第2層に配置された断熱材との境界の温度が排燃料ガスの露点温度より高くなるように設計されており、水蒸気の結露により断熱性能が低下することを防ぐことができるとしている。
【0015】
そして、断熱材自体としては、特許文献5には、−273℃から最高950℃までの温度範囲に利用できる断熱特性を有するマイクロポーラス断熱材が開示されている。このマイクロポーラス断熱材を燃料電池および燃料電池の改質器のような高温発熱体の断熱構造として利用することが考えられる。
【0016】
【特許文献1】特開2001−229949号公報
【特許文献2】特開2002−280041号公報
【特許文献3】特開2003−327405号公報
【特許文献4】特開2008−16264号公報
【特許文献5】特開平7−10651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、セラミックス系断熱材を燃料電池本体やその付帯装置の周囲に断熱材を充填することによって、このような高い運転温度を維持しようとすると、断熱構造層を厚くせざるを得ないため、燃料電池用断熱システムは大がかりなものとなっていた。したがって、特に、災害時のライフラインとして重要な電力を簡易に確保するためにコンパクトさが要求され、とりわけ家庭用発電システムとして用いられる場合は、省スペースすなわち断熱材で占められる部分のコンパクト化が求められるため燃料電池発電システムの断熱構造としては採用できないものであった。
【0018】
そして、特許文献1に記載の燃料電池発電装置では、燃料電池本体の周囲を真空断熱構造で包囲するので断熱構造層を薄くできるものの、気密空間を形成する壁面には外圧がかかるため、この壁面には高強度の金属材料を用いる必要がある。しかしながら、燃料電池本体の高い運転温度の影響を直接に受けて気密空間を形成する壁面が高温となるため、この壁面に用いた金属材料は高温酸化腐食を受けやすく、かつ外圧も掛かることから、破損して気密性がなくなり、真空断熱構造が破れるおそれがある。また、金属材料の溶接部分の耐熱性が不十分の場合には、溶接部分の歪みや破損により壁面に変形を生じて、真空断熱構造が破れるおそれがある。
【0019】
特許文献2に記載の燃料電池では、真空断熱構造を形成する気密空間の内側に断熱材層を設けて燃料電池本体やその付帯装置の周囲を包囲しているので、気密空間を形成する壁面の温度は幾分低くなるものの、断熱材層の厚みが不十分の場合には、気密空間を形成する壁面が高温となるため、破損又は変形が生じて、真空断熱構造が破れるおそれがある。
【0020】
特許文献3に記載の燃料電池発電システムでは、改質器とその関連機器とを一つのユニットとしてまとめて、内筒と外筒との間に真空の断熱層を形成した真空断熱容器をこのユニットに被せて覆うためには、気密空間とする気密構造やメンテナンス作業が必要である。また、耐熱性が必要とされるため使用する材質は耐熱性金属、たとえばステンレス鋼等からなる壁板を用いた密封容器でなければならず、このような真空断熱構造を軽量化やコンパクト化が要求される家庭用定置型燃料電池に用いるには重量の点で問題があり、また、壁板の内外面での熱歪みの対策を講ずる必要がある。
【0021】
特許文献4に記載の燃料電池の断熱構造では、炉の外部から順に断熱材の層を構成するものではないが、第2層に配置された断熱材は、第3層に配置された断熱材よりも断熱性が優れた構成で、断熱材を三層にしている。しかし、この断熱材の層においては熱伝導率の低い断熱構造を構成していないので、燃料電池および燃料電池の改質器のような高温に対する断熱構造とするには、断熱材の各層の厚さを十分に取る必要があり、そのため、断熱材層の容積が大きくなってしまう。
【0022】
次に、特許文献5に開示されているマイクロポーラス断熱材は、ボード状に成形することができるが、その嵩密度を0.22〜0.35g/cmとする必要があるので、可撓性をもったシート状にすることはできない。したがって、これを燃料電池および燃料電池の改質器のような高温発熱体の断熱構造として利用しようとすると、燃料電池の本体や改質器の本体の形状に沿うように、たとえば円筒状に機械加工したり、専用の成形型で製造したりする必要がある。このため、製作時の歩留まりが悪く、また、大がかりな製造装置が必要となるので、設計変更がし難いなどの問題がある。
【0023】
本願発明は、このような従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、機械加工が不要であり、安価で軽量な燃料電池用断熱システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者は、燃料電池発電システムの断熱構造に関して、種々の検討と実験を繰り返した結果、次の(a)〜(g)に示す知見を得た。
【0025】
(a) 燃料電池用断熱システムの断熱構造全体の厚みを薄くするためには、燃料電池本体やその付帯装置を包囲する真空断熱構造を採用すればよい。しかしながら、上述のとおり、真空断熱構造は気密空間を形成する壁面が高温となるため、その壁面に用いられる材料に熱破損又は熱変形が生じ易く、真空断熱構造が破れるおそれがあるので、断熱構造としての信頼性に欠ける。
【0026】
(b) 真空断熱構造の気密空間を利用しないことを前提にして、燃料電池用断熱システムを構築しようとすると、燃料電池本体及び/又はその付帯装置の回りに断熱材を1種又は2種以上充填することになる。しかしながら、引用文献4の断熱構造のように、断熱材だけで燃料電池用断熱システムを構築しようとすると、その断熱材の充填厚さを増やさざるを得ないため、燃料電池用断熱システムは大がかりなものになってしまう。
【0027】
(c) 発明者は、燃料電池用断熱システムに用いる断熱材の充填厚さを減らすべく、種々に検討した結果、「酸化剤ガスと燃料ガスとを高温作動温度環境下の電池室内に供給し、この酸化剤ガスと燃料ガスとを電気化学的に反応させて電力を得るようにした燃料電池本体及び/又はその附帯装置の周囲に、内側から順に、可撓性無機質断熱材からなる第1の断熱材層、可撓性エアロゲル断熱材からなる第2の断熱材層、可撓性無機質断熱材からなる第3の断熱材層を有することを特徴とする燃料電池用断熱システム。」とすればよいことに思い至った。
【0028】
これは、第1の理由としては、断熱材を燃料電池本体及び/又はその附帯装置の周囲に設置するには、ボード状の成型物であると設置作業がはかどらないが、可撓性を有する断熱材であれば設置作業がはかどると考えたからである。そして、第2の理由としては、燃料電池本体及び/又はその附帯装置の周囲に設置する断熱材の機能を、3つの断熱材増に分担させることによって、断熱材の全体の充填厚さを減らせると考えたからである。
【0029】
すなわち、最も高温となる最内層となる第1の断熱材層には、ある程度の断熱効果は期待するが、1000℃程度の高温に耐えることができるものであって、耐熱性の方を優先して断熱材を選択し、そして、その外層の第2の断熱材層には大幅な断熱性を発揮できる断熱材を選択し、そして、最外層となる第3の断熱材層にはその表面に手を触れてもやけどをしない程度の断熱性を有する断熱材であればよい、と考えたのである。
【0030】
(d) 第1の断熱材層は、可撓性無機質断熱材を用いることができ、シリカ繊維等からなるセラミック繊維などが好ましい。これは、1000℃の高温に耐えることができるだけでなく、可撓性があるので、燃料電池本体の外周に密接するように捲回することができる。
【0031】
(e) そして、第2の断熱材層としては、その充填厚さを減らしても断熱効果が大きいという観点からは、前記特許文献5で開示されているマイクロポーラス断熱材が候補に挙げられる。しかしながら、作業性を考えた場合、マイクロポーラス断熱材は問題が多い。
【0032】
したがって、第2の断熱材層として、作業性の面から可撓性を有するものが好ましく、ただし、耐熱性はそれ程要求されないという観点から、さらに検討した結果、可撓性エアロゲル断熱材が適していることが分かった。
【0033】
ここで、可撓性エアロゲル断熱材とは、溶液の中でシリカをゾル化させてその水分を超臨界流体で除去し乾燥させてできた気孔が1〜20nmの連続気泡構造のシリカ多孔体を不織布に分布させて気孔率が97%以上とした断熱体素子からなり、熱伝導率の温度変化が少ない材料である。この断熱体素子はガラスやシリカのような無機繊維からなり、たとえば、特表2007−524528号公報に示すような製造方法により、前記シリカ材を不織布に分布させて気孔率が97%以上とすることができる。なお、不織布としては、ガラス繊維、PET繊維、OPAN繊維等を用いることができる。
【0034】
このシリカ材からなるエアロゲル物質は、たとえば、特表2003−512277号公報の段落番号0038に記載されたとおり、約80容積%以上の空隙率を有し孔径が約0.5〜500ナノメートルの範囲である細孔を有する物質であって、ゲル化のために用いた溶剤をその物質から、乾燥中に細孔構造を破壊または実質的に収縮させることなく、乾燥によって除くことが可能である任意のゲル形成性物質から製造することができる。この乾燥は超臨界抽出、大気乾燥、冷凍乾燥、真空排気、などによって達成可能である。好ましくは、エアロゲルは出発ゲルを製造するために用いられた溶剤(またはその溶剤の代りになる任意の液体)の超臨界抽出によって製造される。エアロゲルの空隙率は少なくとも85容積%が好ましいが、より好ましくは約90容積%以上である。
【0035】
(f) 次に、第3の断熱材層は可撓性無機質断熱材を用いることができ、シリカ繊維等からなるセラミック繊維などが好ましい。あるいは、安価なグラスウールを用いてもよい。 (g) そして、燃料電池本体及び/又はその附帯装置の周囲に設置する作業を考えた場合、可撓性を有する断熱材がシート状の形状であると作業性がよいから、好ましい。この可撓性を有する断熱材を燃料電池本体及び/又はその附帯装置の周囲に設置する作業の手順としては、たとえば、シート形状の断熱材の端縁同士を突き合わすことによって1層ごとに環状に捲回することができる。この手順は、可撓性無機質断熱材と可撓性エアロゲルの両方に適用できる。あるいは、シート形状の断熱材の端縁を重ね合わせて、第1から第3までの断熱材層を順に螺旋状に捲回してもよい。
【0036】
本発明は、以上の知見に基づいて完成したものであり、その要旨は、次の(1)〜(8)に示す通りである。以下、それぞれ、「本発明1」〜「本発明8」といい、併せて「本発明」ということもある。
【0037】
(1) 酸化剤ガスと燃料ガスとを高温作動温度環境下の電池室内に供給し、この酸化剤ガスと燃料ガスとを電気化学的に反応させて電力を得るようにした燃料電池本体及び/又はその附帯装置の周囲に、内側から順に、可撓性無機質断熱材からなる第1の断熱材層、可撓性エアロゲル断熱材からなる第2の断熱材層、可撓性無機質断熱材からなる第3の断熱材層を有することを特徴とする燃料電池用断熱システム。
【0038】
(2) 可撓性無機質断熱材及び/又は可撓性エアロゲル断熱材はシート形状であることを特徴とする、上記(1)の燃料電池用断熱システム。
【0039】
(3) シート形状の可撓性無機質断熱材及び/又は可撓性エアロゲル断熱材は捲回されて、1層又は2層以上の積層構造を形成していることを特徴とする、上記(2)の燃料電池用断熱システム。
【0040】
(4) シート形状の可撓性無機質断熱材及び/又は可撓性エアロゲル断熱材の端縁同士が突き合わされることによって1層ごとに環状に捲回されることを特徴とする、上記(3)の燃料電池用断熱システム。
【0041】
(5) シート形状の可撓性無機質断熱材の端縁と可撓性エアロゲル断熱材の端縁が重なるようにして、第1から第3までの断熱材層が順に螺旋状に捲回されることを特徴とする、上記(3)の燃料電池用断熱システム。
【0042】
(6) 可撓性無機質断熱材は、セラミック繊維であることを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれかの燃料電池用断熱システム。
【0043】
(7) 可撓性無機質断熱材は、グラスウールであることを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれかの燃料電池用断熱システム。
【0044】
(8) 第1層の断熱材層の可撓性無機質断熱材はセラミック繊維であり、かつ、第3層の断熱材層の可撓性無機質断熱材はグラスウールであることを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれかの燃料電池用断熱システム。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、機械加工が不要であり、安価で軽量な燃料電池用断熱システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下に、本発明の燃料電池用断熱システムについて、その実施形態を図面に基づいて説明する。なお、この実施形態に示す燃料電池および燃料電池の改質器の本体の外形は円筒状で各層が一点鎖線を中心軸とする同心円状であることを示しているが、断面が楕円の形状や直方体のような平面を組み合わせた形状さらには曲面を組み合わせた形状など適宜選択して用いてもよい。
【0047】
図1に本発明に係る燃料電池用断熱システムの一例を示す。上図に各断熱層の斜視配置を示し、下図に断熱構造内の温度分布を示す。
【0048】
燃料電池または燃料電池の改質器の本体1は700℃から750℃の高温の熱源で、外形は略円筒状に形成されており、その外周には内側から順に第1の断熱材層2、第2の断熱材層3および第3の断熱材層4を略同心軸状に捲回して密着かつ積層されている。この場合、第1の断熱材層2、第2の断熱材層3および第3の断熱材層4は断熱体素子で環状に変形させることができるように可撓性のある構成となっている。また、第1の断熱材層2、第2の断熱材層3および第3の断熱材層4を固着する方法としては、第1の断熱材層2および第3の断熱材層4はケイ酸ソーダやコロイダルシリカなどの無機バインダーを含浸させて成形する方法や第3の断熱材層4の最外表面に帯状のガラスクロスを巻きつけて保持する方法を採用すればよい。
【0049】
第1の断熱材層2は、セラミック繊維やシリカ繊維などで1000℃の高温に耐える無機質材でできた断熱体素子であって可撓性があるので、燃料電池本体1の外周に密接するように捲回することができる。第1の断熱材層2の厚さはたとえば1KW級の家庭用小型燃料電池システムの場合、5mmから35mm程度である。
【0050】
第2の断熱材層3は、Aspen社のアエロゲル(商品名:Pyrogel)を使用した。これは、厚み6mm、幅1.47m、長さ75mのロール状であって、熱伝導率14、密度120kg/mであった。なお、補強材(不織布)としてガラスマットを用いている。
【0051】
可撓性エアロゲル断熱材を第2の断熱材層3として用いるときの厚さは、たとえば1KW級の家庭用小型燃料電池システムの場合、6mm程度の厚さのシート状のものを二層から五層に環状に積み重ねて12mmから30mmの厚さにした状態で用いることができる。
【0052】
次に、第3の断熱材層4は可撓性無機質断熱材を用いることができ、シリカ繊維等のセラミック繊維からなる断熱体素子である。あるいは、安価なグラスウールを用いてもよい。可撓性があり、環状にして第2の断熱材層3の外周に密接するように捲回することができる。第3の断熱材層の厚さは、たとえば1KW級の家庭用小型燃料電池システムの場合、4mmから30mm程度である。
【0053】
図2は、本発明に係る燃料電池用断熱システムの各断熱層の捲回手順の一例を示す断面図(上面図)である。
【0054】
第1の断熱材層2と第2の断熱材層3と第3の断熱材層4とを順に略円筒状の燃料電池または燃料電池の改質器の本体1の外周に密接するように同心軸状に捲回したものである。第1の断熱材層2は厚さが20mm程度の断熱体素子を本体1に捲回し、その端縁2Aを接合させて環状に閉じて燃料電池または燃料電池の改質器の本体1の外周に密着させる。同様に、第2の断熱材層3は一層の厚さが6mm程度の断熱体素子で内側から順に三層の第2の断熱材層31、32、33をそれぞれの端縁31A、32Aおよび33Aを接合させて18mmの厚さで環状に積層して環状に閉じて捲回して第1の断熱材層2の外周に密着させる。この場合、三層の第2の断熱材として図示しているが、四層など適宜層数を選定すればよい。また、第3の断熱材層4は一層の厚さが10mmから15mm程度の断熱体素子で、二層の第3の断熱材層41、42をそれぞれの端縁41A、42Aを接合させて環状に積層して環状に捲回して第2の断熱材層3の外周に密着させる。この場合、第3の断熱材層4は厚さが25mm程度の一層の断熱体素子で構成してもよい。上記、第1の断熱材層2と第2の断熱材層3と第3の断熱材層4はそれぞれの端縁を接合して環状に閉じて略円筒状の本体1に同心軸状に捲回する際、それぞれの端縁位置を半径方向に重ならないように変位させることにより断熱性が向上する。
【0055】
図3は、本発明に係る燃料電池用断熱システムの各断熱層の捲回手順の他の例を示す断面図(上面図)である。
【0056】
第1の断熱材層2と第2の断熱材層3と第3の断熱材層4とを順に略円筒状の燃料電池または燃料電池の改質器の本体1の外周に密接するように捲回したものである。第1の断熱材層2は厚さが20mm程度の断熱体素子を始端2Bから終端2Cに向かって始端2Bと終端2Cとが重なるようにして本体1に捲回されている。第2の断熱材層3は一層の厚さが6mm程度の断熱体素子でできた三層の断熱材で、第1の断熱材層2の始端2Aと終端2Bとの間に第2の断熱材層3の始端3Bを介在させて第1の断熱材層2の外周を覆うように螺旋状に3捲回されて18mmの厚さとなるように積層されている。第3の断熱材層4は一層の厚さが10mmから15mm程度の断熱体素子でできた二層の断熱材で第2の断熱材層3の終端3Cを挟むようにして始端4Bから第1の断熱材層2の外周を覆うように螺旋状に2捲回されて終端4Cが最外周面として20mmから30mm程度の厚さとなるように積層されている。
【0057】
次に、燃料電池用断熱システムにおける断熱構造の温度分布を確認するために、改質器の略円筒状の本体を例にして、第1の断熱材層2と、第2の断熱材層3と第3の断熱材層4とを順に前記本体1に螺旋状に捲回(図3参照)して断熱構造とする2つの実施例を用意した。
【実施例1】
【0058】
実施例1においては、第1の断熱材層は18mm厚の1層のシリカ繊維からなる断熱体素子で、第2の断熱材層は1層の厚さ6mmの断熱体素子を3層にして厚さが18mmの断熱体素子で、第3の断熱材層は18mm厚で1層のグラスウールからなる断熱体素子として、螺旋状に捲回した。
【実施例2】
【0059】
実施例2においては、第1の断熱材層は32.5mm厚の1層のセラミック繊維からなる断熱体素子で、第2の断熱材層は1層の厚さ6mmの断熱体素子を3層にして厚さが18mmの断熱体素子で、第3の断熱材層は12.5mm厚で1層のセラミック繊維からなる断熱体素子として、螺旋状に捲回した。
【0060】
図1に示すように、その本体1の外周面と第1の断熱材層2との間の部位Aの温度、第1の断熱材層2と第2の断熱材層3との間の部位Bの温度、第2の断熱材層3と第3の断熱材層4との間の部位Cの温度および本体1の最外表面である第3の断熱材層4の表面の部位Dの温度を測定した。その際、外気温度は25℃で、各断熱材の断熱体素子の材料厚さを2通り選定して、実施例1および実施例2として表1の温度分布が得られた。その結果、第3の断熱材層4の表面の部位Dにおいて所定の温度が得られた。
【0061】
なお、本体の最外表面の部位Dの温度は60℃以下が望まれるので、比較例として、微細多孔質成形体すなわちマイクロポーラス状の成形体を厚さ62.5mmに加工して改質器の略円筒状の本体に用いて、本体の最外表面の部位Dの温度を測定した。その結果、本願実施例1および2においても満足できる本体の最外表面の部位Dの温度が得られた。
【0062】
【表1】

【0063】
なお、本願実施形態で示す第1の断熱材層2を本体1の外周に捲回し、第2の断熱材層3を第1の断熱材層2の外周に捲回し、第3の断熱材層4を第2の断熱材層3の外周に捲回する方法としては、図示しないが、燃料電池や改質器の本体1の外径に相当する芯管を回転させ第1の断熱材層2から順次捲回して閉じた環状に積層させることにより連続生産により生産性を向上して産業界から要請される価格にも対応ができる。
【0064】
以上のとおり、本発明の燃料電池用断熱システムは、少なくとも燃料電池および燃料電池の改質器の何れか一方の本体の外周に無機質材でできた可撓性のある断熱体素子からなる第1の断熱材層と、溶液の中でシリカをゾル化させてその水分を超臨界流体で除去し乾燥させてできた気孔が1〜20nmの連続気泡構造のシリカ多孔体を不織布に分布させて気孔率が97%以上とした可撓性のある断熱体素子からなる第2の断熱材層と、無機質材でできた可撓性のある断熱体素子からなる第3の断熱材層と順にそれぞれを閉じた環状で捲回して積層して、前記第2の断熱材層は他の断熱材層よりも温度に対する熱伝導率が低い材料で構成しているので、機械加工が不要で安価で軽量な断熱体素子を用いることができる。たとえば燃料電池の本体または改質器の本体の外径に相当する芯管を回転させ第1の断熱材から順次積層することにより、連続生産が可能となり著しく生産性が向上するとともに、歩留まりも個体ブロックからの機械加工を必要としないため改善され、産業界から要請される価格にも対応することができる。
【0065】
また、前記第1の断熱材層を前記本体の外周に捲回して端縁を接合させ、第2の断熱材層を前記第1の断熱材層の外周に捲回して端縁を接合させ、第3の断熱材層を前記第2の断熱材層の外周に捲回して端縁を接合させて、これら前記第1の断熱材層、第2の断熱材層および第3の断熱材層を順に閉じた環状に積層させて前記本体の外周に密着させて、それぞれの断熱材を隙間なく環状にすることができて断熱効果が向上する。
【0066】
さらに、前記第1の断熱材層を前記本体の外周に始端と終端とが重なるように螺旋状に捲回させ、第2の断熱材層を前記第1の断熱材層の外周に始端と終端とが重なるように螺旋状に捲回させ、第3の断熱材層を前記第2の断熱材層の外周に始端と終端とが重なるように螺旋状に捲回させて、これら前記第1の断熱材層、第2の断熱材層および第3の断熱材層を順に閉じた環状に積層させて前記本体の外周に密着させることにより、これら前記第1の断熱材層、第2の断熱材層および第3の断熱材層を順に、環状に積層させる作業が容易となり、前記本体の外周に密着させてそれぞれの断熱材を隙間なく環状にすることができて断熱効果が向上する。
【0067】
しかも、前記第3の断熱材層がグラスウールでできた断熱体素子とすることにより捲回作業がよく安価な断熱構造を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、機械加工が不要であり、安価で軽量な燃料電池用断熱システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係る燃料電池用断熱システムの概念図である。
【図2】本発明に係る燃料電池用断熱システムの各断熱層の捲回手順の一例を示す断面図(上面図)である。
【図3】本発明に係る燃料電池用断熱システムの各断熱層の捲回手順の他の例を示す断面図(上面図)である。
【符号の説明】
【0070】
1 燃料電池または燃料電池の改質器の本体
2 第1の断熱材層
3 第2の断熱材層
4 第3の断熱材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤ガスと燃料ガスとを高温作動温度環境下の電池室内に供給し、この酸化剤ガスと燃料ガスとを電気化学的に反応させて電力を得るようにした燃料電池本体及び/又はその附帯装置の周囲に、内側から順に、可撓性無機質断熱材からなる第1の断熱材層、可撓性エアロゲル断熱材からなる第2の断熱材層、可撓性無機質断熱材からなる第3の断熱材層を有することを特徴とする燃料電池用断熱システム。
【請求項2】
可撓性無機質断熱材及び/又は可撓性エアロゲル断熱材はシート形状であることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用断熱システム。
【請求項3】
シート形状の可撓性無機質断熱材及び/又は可撓性エアロゲル断熱材は捲回されて、1層又は2層以上の積層構造を形成していることを特徴とする、請求項2に記載の燃料電池用断熱システム。
【請求項4】
シート形状の可撓性無機質断熱材及び/又は可撓性エアロゲル断熱材の端縁同士が突き合わされることによって1層ごとに環状に捲回されることを特徴とする、請求項3に記載の燃料電池用断熱システム。
【請求項5】
シート形状の可撓性無機質断熱材の端縁と可撓性エアロゲル断熱材の端縁が重なるようにして、第1から第3までの断熱材層が順に螺旋状に捲回されることを特徴とする、請求項3に記載の燃料電池用断熱システム。
【請求項6】
可撓性無機質断熱材は、セラミック繊維であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれかに記載の燃料電池用断熱システム。
【請求項7】
可撓性無機質断熱材は、グラスウールであることを特徴とする、請求項1から6までのいずれかに記載の燃料電池用断熱システム。
【請求項8】
第1層の断熱材層の可撓性無機質断熱材はセラミック繊維であり、かつ、第3層の断熱材層の可撓性無機質断熱材はグラスウールであることを特徴とする、請求項1から5までのいずれかに記載の燃料電池用断熱システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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