説明

燃料電池用構成部品

【課題】接着性が劣化しにくく、ガスケットと接着剤の結合に負荷が生じにくい燃料電池用構成部品を提供する。
【解決手段】装着部材5とガスケット1を接着剤3により一体化した燃料電池用構成部品において、前記装着部材5のガスケット形成面におけるガスケット幅方向両側部位に、前記接着剤3が介在する接着剤塗布領域W1を有し、ガスケット幅方向中央部位には、前記接着剤3が介在しない接着剤非塗布領域W2を有し、接着性を確保する。スタック内部側Aの接着剤3aについてはシール対象物の影響を受ける可能性があるが、スタック外部側Bの接着剤3bについては、ガスケット1底面のシール面圧によりシールされており、シール対象物の影響を受けることが無い。すなわち、接着性が劣化しにくく、ガスケット1と接着剤3の結合に負荷が生じにくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の構成部品に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素、酸素(空気)を反応させて水を得る過程で電気を取り出す原理を用いて発電する電池である。この燃料電池は、水素イオンを透過する電解質膜と、該電解質膜を挟み込んだ2枚のセパレータとにより形成されるセルが、複数段重ね合わされた燃料電池スタックにより構成されている。なお、セルを形成するセパレータには、水素、酸素を遮断するシール性、電気を取り出すことのできる導電性が要求される。
【0003】
前記スタック内では、水素、酸素、強酸、フッ酸、冷却水などを使用するため、これらをシールするためのガスケットが組み込まれているが、ガスケットはシール対象物が、水素、酸素、強酸、フッ酸、冷却水など様々であり、接着剤についてもこれらのシール対象物に耐性があることが求められる。
【0004】
前記ガスケットの耐久時間は非常に長く、接着剤についても同様に長期にわたり接着性を維持することが求められ、すなわち、耐久強度についても求められる。接着性が低下してしまうと、セル内の圧力によってガスケットのズレが発生してしまう等の問題がある。
【0005】
ところで、図4に示すように、ガスケット1底面の全面に接着剤3を塗布し、装着部材5を化学的に接着させ含浸一体成形カーボンプレートや金属プレート、樹脂フィルム等の装着部材5にガスケット1を一体化した燃料電池用構成部品が知られている(特許文献1参照)。
【0006】
しかし、図5に示すように、全面に接着剤3が塗布されていると、ガスケット1と装着部材5の界面からスタック内部側Aにあるシール対象物Sが進入し、ゴムと接着剤の化学結合を切断させてしまうことが考えられ、この劣化は拡散的に広がっていき、連続した接着剤塗布層を次々に攻撃していくことが考えられ、接着性が劣化しやすいという問題点がある。
【0007】
また、図6に示すように、ガスケット1圧縮時、ガスケット1底面に発生する応力により、接着界面も同様の力を受けており、ガスケット1と接着剤3の結合に負荷が生じているという問題点もある。これは、接着性の劣化だけでなく、図7に示すように、ガスケット1自身の破断Hを起こす原因にも成りかねない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−216400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は以上の点に鑑みて、接着性が劣化しにくく、ガスケットと接着剤の結合に負荷が生じにくい燃料電池用構成部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る燃料電池用構成部品は、前述した技術的課題を解決するために以下のように構成されている。すなわち、本発明の請求項1による燃料電池用構成部品は、装着部材とガスケットを接着剤により一体化した燃料電池用構成部品において、前記装着部材のガスケット形成面におけるガスケット幅方向両側部位に、前記接着剤が介在する接着剤塗布領域を有し、ガスケット幅方向中央部位には、前記接着剤が介在しない接着剤非塗布領域を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項2による燃料電池用構成部品は、装着部材とガスケットを接着剤により一体化した燃料電池用構成部品において、前記装着部材のガスケット形成面におけるガスケット幅方向両側部位に、前記接着剤が介在する接着剤塗布領域を有し、ガスケット幅方向中央部位には、前記接着剤が介在しない接着剤非塗布領域を有し、前記接着剤非塗布領域では前記装着部材に突起部が設けられていることを特徴とする。
【0012】
更に、本発明の請求項3による燃料電池用構成部品は、装着部材とガスケットを接着剤により一体化した燃料電池用構成部品において、前記装着部材のガスケット形成面におけるガスケット幅方向両側部位に、前記接着剤が介在する接着剤塗布領域を有し、ガスケット幅方向中央部位には、前記接着剤が介在しない接着剤非塗布領域を有し、前記接着剤塗布領域では前記装着部材に溝部が設けられて、ここに前記接着剤が充填されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明に係る燃料電池用構成部品によれば、圧縮時にガスケット底面にシール面圧が発生するガスケット幅方向中央部位は、接着剤が介在しない接着剤非塗布領域を有している。このとき、スタック内部側の接着剤についてはシール対象物の影響を受ける可能性があるが、スタック外部側の接着剤については、ガスケット底面のシール面圧によりシールされており、シール対象物の影響を受けることが無い。すなわち、接着性が劣化しにくく、ガスケットと接着剤の結合に負荷が生じにくい。
また、接着剤塗布領域が不連続であることで、拡散的な劣化を防ぐことが可能となり、接着剤の長期耐久強度が期待できる。
さらに、ガスケット底面中央部は接着による拘束がないため、圧縮時のせん弾力が緩和されて底面からのガスケット破断を防ぐことが可能となる。
【0014】
請求項2の発明に係る燃料電池用構成部品によれば、請求項1による効果に加え、ガスケット形成面中央部に突起部を設け、その両側に接着剤を塗布するため、接着剤が中央部に流動せず、ガスケット裏面(接着面)のシールの信頼性向上という効果が得られる。
【0015】
請求項3の発明に係る燃料電池用構成部品によれば、請求項1による効果に加え、ガスケット形成面の両側に溝部を設け、溝内に接着剤を塗布するため、安定した接着塗布状態となる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)は本発明の第一実施例に係る燃料電池用構成部品の要部断面図、(B)は接着剤非塗布領域の幅を広くした同断面図
【図2】(A)は本発明の第二実施例に係る燃料電池用構成部品の要部断面図、(B)は接着剤非塗布領域の幅を広くした同断面図
【図3】(A)は本発明の第三実施例に係る燃料電池用構成部品の要部断面図、(B)接着剤非塗布領域の幅を広くした同断面図
【図4】従来例に係る燃料電池用構成部品の要部断面図
【図5】同燃料電池用構成部品における不具合発生状態を示す説明図
【図6】同燃料電池用構成部品における不具合発生状態を示す説明図
【図7】同燃料電池用構成部品における不具合発生状態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
つぎに、発明を実施するための形態を図面にしたがって説明する。
【0018】
第一実施形態・・・図1(A)に示すように、本実施形態の燃料電池用構成部品は、ガスケット1と装着部材5を接着剤3を用い一体化したものである。
【0019】
前記装着部材5のガスケット1形成面におけるガスケット幅方向両側部位に、前記接着剤3が介在する接着剤塗布領域W1を有し、ガスケット幅方向中央部位には、前記接着剤3が介在しない接着剤非塗布領域W2を有する。
【0020】
上記実施形態における装着部材5とは、例えばセパレータのことであり、ガスや空気を遮断する役割を果たす板状の部材形状である。その材質は、カーボン、金属、樹脂等でできている。
【0021】
また、ガスケット1は、例えば、装着部材5の平面上周縁部に沿ってエンドレスに設けられており、その断面は平板状の取付部1aに山形のシールリップ1bが一体成形されており、材質は例えば、ゴム状弾性体である。燃料電池用ガスケット1は、シール対象物が、水素、酸素、強酸、フッ酸、冷却水(エチレングリコール)など様々である。
【0022】
ガスケット1のシール対象物が上記のように様々であることから、接着剤3についても、これらのシール対象物に耐性があることが求められる。また、耐久時間も非常に長く、接着剤3についても同様に長期耐久強度が求められる。
【0023】
上記燃料用構成部品の製造方法としては、例えば、装着部材5のガスケット1形成部分に接着剤3をスプレー塗布、或いは、ディスペンサにより塗布して、接着剤3上にガスケット1を加硫成形する方法がある。
【0024】
なお、上記構成は、例示であり、これに限られるものではない。
【0025】
上記構成を備えた燃料電池用構成部品は、以下の作用効果を奏する。
【0026】
ガスケット1底面中央部には接着剤非塗布領域W2が設けられ、接着による拘束がないため、圧縮時のせん断力が緩和されて、底面からのガスケット1の破断を防ぐことが可能となる。
【0027】
この時、スタック内部側Aの接着剤3aについてはシール対象物の影響を受ける可能性があるが、スタック外部側Bの接着剤3bについては、ガスケット1底面のシール面圧によりシールされており、シール対象物の影響を受けることが無い。
【0028】
また、接着剤塗布領域W1が不連続であることで、拡散的な劣化を防ぐことが可能となる。
【0029】
図1(B)のように、接着剤非塗布領域W2の幅を圧縮時にガスケット1底面にシール面圧が発生する幅W3以上とする構成にすると、より、接着性の低下を防止することができる。
【0030】
すなわち、接着剤非塗布領域W2の幅を圧縮時にガスケット1底面にシール面圧が発生する幅W3以上とすることで、接着界面がガスケット1の弾性変形によりせん弾力を受けるイメージ図である図6のような現象で、接着性が低下することをより防止できる。
【0031】
以上により、接着剤3の長期耐久強度が期待できる。
【0032】
第二実施形態・・・図2(A)に示すように、本実施形態の燃料電池用構成部品は、ガスケット1と装着部材5を、接着剤3を用い一体化したものである。
【0033】
前記装着部材5のガスケット1形成面におけるガスケット幅方向両側部位に、前記接着剤3が介在する接着剤塗布領域W1を有し、ガスケット幅方向中央部位には、前記接着剤3が介在しない接着剤非塗布領域W2を有する。
【0034】
そして、前記接着剤非塗布領域W2では前記装着部材に突起部7が設けられている。
【0035】
上記実施形態における装着部材5とは、例えばセパレータのことであり、ガスや空気を遮断する役割を果たす板状の部材形状である。その材質は、カーボン、金属、樹脂等でできている。
【0036】
また、ガスケット1は、例えば、装着部材5の平面上周縁部に沿ってエンドレスに設けられており、その断面は平板状の取付部1aに山形のシールリップ1bが一体成形されており、材質は例えば、ゴム状弾性体である。燃料電池用ガスケット1は、シール対象物が、水素、酸素、強酸、フッ酸、冷却水(エチレングリコール)など様々である。
【0037】
ガスケット1のシール対象物が上記のように様々であることから、接着剤3についても、これらのシール対象物に耐性があることが求められる。また、耐久時間も非常に長く、接着剤3についても同様に長期耐久強度が求められる。
【0038】
上記燃料用構成部品の製造方法としては、例えば、装着部材5のガスケット1形成部分に接着剤をスプレー塗布、或いは、ディスペンサにより塗布して、接着剤3上にガスケット1を加硫成形する方法がある。
【0039】
なお、上記構成は、例示であり、これに限られるものではない。
【0040】
上記構成を備えた燃料電池用構成部品は、以下の作用効果を奏する。
【0041】
図2(A)のように、装着部材5の接着剤非塗布領域W2に、ガスケット1のシールラインに沿った突起部7を設け、突起部7を除き接着剤3を塗布し、そこに射出成形でゴムを一体成形する。
【0042】
この時、スタック内部側Aの接着剤3aについては、シール対象物の影響を受ける可能性があるが、スタック外部側Bの接着剤3bについては、突起部7とガスケット1底面により発生するシール面圧によりシールされており、シール対象物の影響を受けることが無い。
【0043】
また、ガスケット形成面中央部に突起部7を設け、その両側に接着剤3を塗布するため、接着剤3が中央部に流動せず、ガスケット1裏面(接着面)のシールの信頼性向上という効果が得られる。
【0044】
さらに、図2(B)のように、接着剤非塗布領域W2の幅を圧縮時にガスケット1底面にシール面圧が発生する幅W3以上とする構成にすると、より、接着性の低下を防止することができる。
【0045】
すなわち、接着剤非塗布領域W2の幅を圧縮時にガスケット1底面にシール面圧が発生する幅W3以上とすることで、接着界面がガスケット1の弾性変形によりせん弾力を受けるイメージ図である図6のような現象で、接着性が低下することをより防止できる。
【0046】
以上により、接着剤3の長期耐久強度が期待できる。
【0047】
第三実施形態・・・図3(A)に示すように、本実施形態の燃料電池用構成部品は、ガスケット1と装着部材5を、接着剤3を用い一体化したものである。
【0048】
前記装着部材5のガスケット1形成面におけるガスケット幅方向両側部位に、前記接着剤3が介在する接着剤塗布領域W1を有し、ガスケット幅方向中央部位には、前記接着剤3が介在しない接着剤非塗布領域W2を有する。
【0049】
そして、前記接着剤塗布領域W1では前記装着部材5に溝部9が設けられて、ここに前記接着剤3が充填されている。
【0050】
上記実施形態における装着部材5とは、例えばセパレータのことであり、ガスや空気を遮断する役割を果たす板状の部材形状である。その材質は、カーボン、金属、樹脂等でできている。
【0051】
また、ガスケット1は、例えば、プレートの平面上周縁部に沿ってエンドレスに設けられており、その断面は平板状の取付部1aに山形のシールリップ1bが一体成形されており、材質は例えば、ゴム状弾性体である。燃料電池用ガスケット1は、シール対象物が、水素、酸素、強酸、フッ酸、冷却水(エチレングリコール)など様々である。
【0052】
ガスケット1のシール対象物が上記のように様々であることから、接着剤3についても、これらのシール対象物に耐性があることが求められる。また、耐久時間も非常に長く、接着剤3についても同様に長期耐久強度が求められる。
【0053】
上記燃料用構成部品の製造方法としては、例えば、装着部材5のガスケット1形成部分に接着剤3をスプレー塗布、或いは、ディスペンサにより塗布して、接着剤3上にガスケット1を加硫成形する方法がある。
【0054】
なお、上記構成は、例示であり、これに限られるものではない。
【0055】
上記構成を備えた燃料電池用構成部品は、以下の作用効果を奏する。
【0056】
ガスケット1底面中央部は接着剤非塗布領域W2が設けられ、接着による拘束がないため、圧縮時のせん断力が緩和されて、底面からのガスケット1破断を防ぐことが可能となる。
【0057】
この時、スタック内部側Aの接着剤3aについてはシール対象物の影響を受ける可能性があるが、スタック外部側Bの接着剤3bについては、ガスケット底面のシール面圧によりシールされており、シール対象物の影響を受けることが無い。
【0058】
また、ガスケット形成面の両側に、接着剤3溜まり部分、すなわち、溝部9を設け、溝内に接着剤3を塗布することにより、安定した接着剤塗布状態となり、接着剤塗布領域W1が不連続であることで、拡散的な劣化を防ぐことが可能となる。
【0059】
さらに、図3(B)のように、接着剤非塗布領域W2の幅を圧縮時にガスケット底面にシール面圧が発生する幅W3以上とする構成にすると、より、接着性の低下を防止することができる。
【0060】
すなわち、接着剤非塗布領域W2の幅を圧縮時にガスケット1底面にシール面圧が発生する幅W3以上とすることで、接着界面がガスケットの弾性変形によりせん弾力を受けるイメージ図である図6のような現象で、接着性が低下することをより防止できる。
【0061】
以上により、接着剤の長期耐久強度が期待できる。
【符号の説明】
【0062】
1 ガスケット
1a取付部
1bシールリップ
3 接着剤
3aスタック内部側の接着剤
3bスタック外部側の接着剤
5 装着部材
7 突起部
9 溝部
A スタック内部側
B スタック外部側
W1 接着剤塗布領域
W2 接着剤非塗布領域
W3 シール面圧が発生する幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着部材とガスケットを接着剤により一体化した燃料電池用構成部品において、
前記装着部材のガスケット形成面におけるガスケット幅方向両側部位に、前記接着剤が介在する接着剤塗布領域を有し、ガスケット幅方向中央部位には、前記接着剤が介在しない接着剤非塗布領域を有することを特徴とする燃料電池用構成部品。
【請求項2】
装着部材とガスケットを接着剤により一体化した燃料電池用構成部品において、
前記装着部材のガスケット形成面におけるガスケット幅方向両側部位に、前記接着剤が介在する接着剤塗布領域を有し、ガスケット幅方向中央部位には、前記接着剤が介在しない接着剤非塗布領域を有し、
前記接着剤非塗布領域では前記装着部材に突起部が設けられていることを特徴とする燃料電池用構成部品。
【請求項3】
装着部材とガスケットを接着剤により一体化した燃料電池用構成部品において、
前記装着部材のガスケット形成面におけるガスケット幅方向両側部位に、前記接着剤が介在する接着剤塗布領域を有し、ガスケット幅方向中央部位には、前記接着剤が介在しない接着剤非塗布領域を有し、
前記接着剤塗布領域では前記装着部材に溝部が設けられて、ここに前記接着剤が充填されていることを特徴とする燃料電池用構成部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−54399(P2011−54399A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201806(P2009−201806)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】