説明

燃料電池用補強型電解質膜、燃料電池用膜−電極接合体、及びそれを備えた固体高分子形燃料電池

【課題】電解質膜成分の劣化によるフッ素イオンの溶出量が低減され、耐久性に優れた燃料電池用電解質膜を提供する。
【解決手段】多孔質基材に高分子電解質分散液を含浸した燃料電池用補強型電解質膜であって、該電解質膜の、シート状に加工する際の流れ方向(MD)及びMDの垂直方向(TD)の最大引張強度のいずれか一方が、23℃、相対湿度50%の時に70N/mm以上、又は、80℃、相対湿度90%の時に40N/mm以上であることを特徴とする燃料電池用補強型電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いられる補強型電解質膜、燃料電池用膜−電極接合体、及びそれを備えた固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質型燃料電池は、電解質として固体高分子電解質膜を用い、この膜の両面に電極を接合した構造を有する。
【0003】
燃料電池として使用する際に高分子固体電解質膜は、それ自体の膜抵抗が低い必要があり、その為には膜厚はできるだけ薄い方が望ましい。しかしながら、膜厚を余り薄くすると、製膜時にピンホールが生じたり、電極成形時に膜が破れてしまったり、電極間の短絡が発生したりしやすいという問題点があった。また、燃料電池に使用される高分子固体電解質膜は、常に湿潤状態で使用されるため、湿潤による高分子電解質膜の膨潤、変形等による差圧運転時の耐圧性やクロスリーク等、耐久性に問題が生じるようになる。
【0004】
そこで、縦方向及び横方向の両方向で均等な強度を有した薄くて厚さの均一な補強膜が開発されている。例えば、下記特許文献1には、複合体の縦方向及び横方向の引張降伏応力が、ともに12MPa以上であり、かつ、縦方向の引張降伏応力と横方向の引張降伏応力との比(縦方向の引張降伏応力/横方向の引張降伏応力)が2.0以下である固体高分子形燃料電池用電解質膜が開示されている。
【0005】
一方、下記特許文献2には、高硬度及び寸法安定性を有するイオン伝導性隔膜として、フィブリルによって相互に結合された超高伸長ノードの微細構造を含む形態学的構造を備えた延伸膨脹ポリテトラフルオロエチレンからなる一体化複合隔膜にイオノマーを吸収させる。この複合隔膜は、驚異的に高められた硬度を示し、よって、電気的ショートを低減し、かつ燃料電池の性能及び耐久性を改良する発明が開示されている。
【0006】
一般に、延伸ポリテトラフルオロエチレンなどの多孔質体と電解質材料を複合化し、電気的ショートを低減し、性能、耐久性を改良する取組みがなされているが、多孔質体の構造が複雑となる上に、さらに膜強度を高めるためには、プロトン伝導性(具体的には燃料電池セルの性能)を犠牲にする問題がある。
【0007】
また、プロトン伝導性が高く、耐久性に優れる高分子電解質材料が検討されているが、化学耐性を付与するために、高分子構造が複雑化する上に、それによる合成プロセスの歩留り悪化、新規材料の合成等、材料コストが高コストになることが懸念される。さらに高分子電解質材料の強度も十分であると言えない。これらに加え、ポリテトラフルオロエチレン多孔質体と電解質材料を複合化した膜は、面内に強度異方性を有するため、燃料電池内部で歪みが生じやすく膜の変形や破壊を生じやすいという問題を有していた。
【0008】
上記のような問題点が発生する理由としては、電解質膜の強度改良と化学耐性の付与が同時に実現されていないことにある。また、従来技術で強度をさらに向上するためには、多孔質基材の厚みを厚くするか、多孔質基材の微細構造を変更する必要が有る。
【0009】
これまで、ポリテトラフルオロエチレン多孔質基材は、延伸法によって多孔質化されるため、シート状に加工する際の流れ方向(MD)とMDに垂直な方向(TD)の延伸度合いの違いができやすく、微細構造を変更したり、MDとTD方向の強度異方性を低減させるのは困難とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−288495号公報
【特許文献2】特表2005−520002号公報
【特許文献3】特公昭51−18991号公報
【特許文献4】特表2006−504848号公報
【特許文献5】米国特許第5,476,589号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、耐久性に優れ、特に電解質膜成分の劣化によるフッ素イオンの溶出量が低減された、多孔質基材で補強された燃料電池用電解質膜を提供することを目的とする。又、耐久性が向上された燃料電池用膜−電極接合体を提供することを目的とする。更に、そのような膜−電極接合体を用いることにより、出力が高く、かつ耐久性に優れた固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。特に、燃料電池の運転条件である高温高湿条件での環境温湿度(80℃、90%RH)で、出力が高く、かつ耐久性に優れた固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、電解質であるスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体の安定性が補強によって向上することを見い出し、しかも多孔質基材の微細構造を複雑にすることなく、その強度のみを変えることで、イオン伝導度が一定で高耐久の複合膜を得た。
【0013】
即ち、第1に、本発明は、多孔質基材に高分子電解質分散液を含浸した燃料電池用補強型電解質膜の発明であって、該電解質膜の、シート状に加工する際の流れ方向(MD)及びMDの垂直方向(TD)の最大引張強度のいずれか一方が、常温(23℃、相対湿度50%)で70N/mm以上、又は、高温高湿(80℃、相対湿度90%)で40N/mm以上であることを特徴とする。更に、該電解質膜の、シート状に加工する際の流れ方向(MD)及びMDの垂直方向(TD)の最大引張強度の平均がそれぞれ70N/mm以上又は40N/mm以上であることが好ましい。本発明の燃料電池用補強型電解質膜は、補強膜による強化によりフッ素イオンの溶出量が低減され、優れた耐久性を示す。
【0014】
本発明の燃料電池用補強型電解質膜は、電解質膜の最大時引張強度の、流れ方向(MD)及びMDの垂直方向(TD)伸度のいずれか大きい方を分母とした時の伸度比が0.4〜1.0であることが好ましい。伸度比を0.4以上とすることで、耐久時間の向上が可能となる。
【0015】
前記多孔質基材としては、燃料電池用補強膜として公知のものを広く用いることが出来る。例えば、強度及び形状安定性に優れたフッ素系樹脂であるポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリブロモトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン−ブロモトリフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等からなる多孔質基材が好適に用いられる。このようなフッ素系樹脂の重合度や分子量は特に制限されないが、強度及び形状安定性等の観点からフッ素系樹脂の重量平均分子量は10000〜10000000程度であることが好ましい。これらの中で、延伸法によって多孔質化されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜が好ましく例示される。
【0016】
第2に、本発明は、燃料ガスが供給される燃料極と酸化剤ガスが供給される酸素極とからなる一対の電極と、該一対の電極の間に挟装された高分子電解質膜とを含む燃料電池用膜−電極接合体の発明であって、該高分子電解質膜は、上記の燃料電池用補強型電解質膜であることを特徴とする。
【0017】
第3に、本発明は、上記の燃料電池用補強型電解質膜を有する膜−電極接合体を備えた固体高分子型燃料電池である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の、燃料電池用補強型電解質膜は、補強膜による強化によりフッ素イオンの溶出量が低減され、優れた耐久性を示す。
【0019】
本発明の、燃料電池用補強型電解質膜は、必ずしも従来の特殊な内部微細構造(例えばフィブリルによって相互に結合されたノードと呼ばれる補強膜部位のアスペクト比の大きいもの)を取らなくとも高強度にスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン複合体を補強した複合膜であり、その補強の強さを変えることでスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体の化学安定性の指標となるフェントン試験耐性を同時に向上した複合膜である。膜面内の縦および横方向の最大引張強度のいずれか一方が常温(23℃、相対湿度50%)で70N/mm以上、又は、高温高湿(80℃、相対湿度90%)で40N/mm以上の補合膜は、80℃フェントン試験におけるフッ素イオン溶出量を従来膜に比べ14〜69%低減することができ、さらに常法により触媒層を形成した電極接合体は、燃料電池単セルの初期性能を低下させること無く、高耐久性を有する。
【0020】
また、本複合膜において、最大時の引張強度の縦および横方向の伸度比が0.4以上のものは、0.4未満のものに比べ高耐久性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】燃料電池用電解質膜の強度平均と耐久時間(常温条件、高温高湿条件)の相関関係を示す。
【図2】燃料電池用電解質膜の耐久時間と伸度比(常温条件、高温高湿条件)の関係を示す。
【図3】燃料電池用電解質膜の耐久時間と弾性率比の関係を示す。
【図4】燃料電池用電解質膜の耐久時間と強度比の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の燃料電池用補強型電解質膜、その製造方法、及び機能を説明する。
本発明で用いる多孔質基材は、その表面(特に細孔内表面)に高分子電解質を担持する担体として機能するものであり、強度及び形状安定性に優れたフッ素系樹脂であるポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリブロモトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン−ブロモトリフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等からなる多孔質基材が好適に用いられる。このようなフッ素系樹脂の重合度や分子量は特に制限されないが、強度及び形状安定性等の観点からフッ素系樹脂の重量平均分子量は10000〜10000000程度であることが好ましい。
【0023】
また、本発明で用いる多孔質基材の平均細孔径や空隙率も特に制限されないが、平均細孔径は0.001μm〜100μm程度、空隙率は10%〜99%程度であることが好ましい。平均細孔径が0.001μm未満では高分子電解質の細孔内への導入が阻害され易くなる傾向にあり、他方、100μmを超えると高分子電解質を担持する多孔質基材の表面積が不十分となって電気伝導性が低下する傾向にある。また、空隙率が10%未満では細孔内に担持される高分子電解質の量が不十分となって電気伝導性が低下する傾向にあり、他方、99%を超えると多孔質基材の強度及び形状安定性が低下する傾向にある。
【0024】
本発明で用いる多孔質基材の形状も特には制限されないが、得られた複合電解質をそのまま燃料電池用の電解質膜として用いることができることからフィルム状又は膜状のものが好ましい。その場合、フィルム状又は膜状の多孔質基材の厚さは特に制限されないが、5〜200μm程度が好ましい。多孔質基材の厚さが上記下限未満では得られる電解質膜の強度が低下する傾向にあり、他方、上記上限を超えると得られる電解質膜の膜抵抗が増加して電気伝導性が低下する傾向にある。
【0025】
本発明の燃料電池用補強型電解質膜に用いられる多孔質基材及びその製造方法は、上記特許文献3に開示されている。即ち、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質高分子膜の製造方法であって、
(a)ペースト成形押出方法によって、約95%以上の結晶化度を有するポリテトラフルオロエチレン成形品を押出し、
(b)該成形品から液状潤滑剤を、該液状潤滑剤の蒸発温度より高く且つ該ポリテトラフルオロエチレンの結晶融点より低い温度で、該成形品を乾燥し、
(c)該成形品を該ポリテトラフルオロエチレンの結晶融点よりも低い温度で、1方向以上に延伸するに際し、単位時間当たりの延伸比率が10%/秒より大きな延伸操作を、該ポリテトラフルオロエチレンの結晶融点よりも低い昇温で施し、それによって延伸された成形品のマトリックス引張強さを14kg/cm以上とする、
ことが開示されている。
【0026】
同様に、上記特許文献4には、本発明の燃料電池用補強型電解質膜に用いられる多孔質基材及びその製造方法が開示されている。即ち、多孔質高分子膜を含む複合体であって、前記膜の細孔に、少なくとも部分的に樹脂が充填されており、前記樹脂の室温曲げ弾性率が約1GPa超であり、且つ前記膜が下式:75MPa<(縦膜引張弾性率+横膜引張弾性率)/2を満たす多孔質高分子膜を含む複合体が開示され、また、多孔質高分子膜が延伸ポリテトラフルオロエチレンである場合に、延伸ポリテトラフルオロエチレンが実質的に結節材料を含まないことが開示されている。
【0027】
特許文献4には、より具体的に以下の開示がある。『予想外にも、複合体構造で使用したときに、本発明による多孔質高分子膜構造は、複合体の破壊靱性に顕著に寄与することが判明した。本発明の一態様によれば、膜構造体は、「ノード」と称される非フィブリル形態で存在する材料が最小である延伸ポリテトラフルオロエチレン膜である。本発明のさらなる態様によれば、膜には、実質的にノード材料が存在しない。応力が複数の方向からロードされるときには、等方的フィブリル配向が好ましい。応力が異方性であるときは、より多くの数のフィブリルが最大応力の方向に平行であることが好ましい。多層構造が意図されるときには、層をクロスプライして性能を最大化することが望ましい。フィブリル配向と密度の一つの尺度は、膜の引張弾性率である。弾性率が高い膜ほど、好ましい。通常の高弾性率繊維強化材(例えば、ガラス、カーボン等)とは異なり、本発明の膜は、実質的に非線形膜様構造を有する。延伸ポリテトラフルオロエチレン膜の特定の場合において、膜は、容易には他の材料に濡れたり又は接着したりしない。高分子材料を含む膜が、好ましい。伸張ポリマーを含む膜が好ましい。延伸PTFEを含む膜が、最も好ましい。高分子膜は、実質的にいずれの高分子材料、例えば、ビニルポリマー、スチレン、アクリレート、メタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリ塩化ビニル、フルオロポリマー、例えば、PTFE、縮合ポリマー、ポリスルホン、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルフィド、ポリエステル、ポリ酸無水物、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリウレア、セルロース、セルロース誘導体、多糖類、ペクチンポリマー及び誘導体、アルギンポリマー及び誘導体、キチン及び誘導体、フェノール樹脂、アルデヒドポリマー、ポリシロキサン、それらの誘導体、コポリマー及びブレンドを含むことができる。多孔質高分子膜フィルムは、公知の方法により製造できる。好ましいものとして、最小結節材料を有するePTFE膜と呼ばれる高分子膜が挙げられる。最も好ましいものは、ノードのないePTFE膜である。このようなePTFE膜は、例えば、上記特許文献5の教示により製造できる。このような膜は、PTFEの二軸延伸により高度にフィブリル化され、実質的に粗い結節構造をなくすことにより形成される。その結果、構造体は、フィブリル交差点で交差する微細フィブリルの極めて強度の高いウエブを含む。このような構造体をSEMで見ると、大きなノード構造は、このような膜フィルムには存在しない。』
【0028】
特許文献5による延伸PTFE材料は、以下のようにして製造できる。非晶質含量が低く、結晶化度が少なくとも98%であるPTFE微粉末を、原料として使用する。好適なPTFE微粉末として、例えば、ICI Americans社製FLUON(登録商標)CD−123及びFLUON(登録商標)CD−1微粉末、並びにE.I.duPont de Nemours社製TEFLON(登録商標)微粉末が挙げられる。PTFE微粉末を、まず凝固させた後、炭化水素押出し助剤、好ましくは、無臭ミネラルスピリット、例えば、ISOPAR(登録商標)K(Exxon社製)で潤滑する。潤滑した粉末を、圧縮して円筒形にし、ラムエキストルーダーで押出してテープを形成する。テープの2層以上をいっしょに積層し、2つのロールの間で圧縮する。テープ(単一又は複数)を、ロール間で圧縮して適当な厚さ、例えば、0.1〜1mm等とする。湿ったテープを横方向に伸張してその最初の幅の1.5〜5倍とする。加熱して、押出し助剤を除去する。次に、乾燥したテープを、ポリマーの融点(327℃)より低い温度に加熱されたロール列間のスペースで縦方向に延伸する。縦方向の延伸は、ロールの第二列の速度の、ロールの第一列の速度に対する比が、10〜100:1である。縦方向の延伸を、1〜1.5:1の比で反復する。次に、縦方向の延伸後のテープを、327℃未満の温度で、膜が縦方向に収縮しないようにしながら、最初の押出し物の入幅の少なくとも1.5倍、好ましくは6〜15倍に横方向に延伸する。まだ、拘束しながら、膜を、好ましくはポリマーの融点(327℃)より高くまで加熱した後、冷却する。特に好ましい膜は、意図する複合体ボディにおける最大応力の方向において配向した高密度のフィブリルを有するノードのないePTFE膜である。応力が、複数の方向からロードされるときには、等方的フィブリル配向が好ましい。ePTFE膜は、好適なボイド率を有することができる。本発明の一態様によれば、膜のボイド率は、約1〜約99.5容積%である。本発明のさらなる態様によれば、ボイド率は、約50〜約90%であることができる。好ましいボイド率は、約70〜90%である。膜は、必要に応じて樹脂成分への接着を容易にしたり、又は樹脂成分への接着を容易にするために処理してもよい。処理としては、例えば、コロナ、プラズマ、化学酸化などが挙げられる。本発明の複合体を形成するために、樹脂を、膜の細孔の少なくとも一部分に吸収させる。高分子樹脂が好ましく、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂及びそれらの組み合わせ又は混合物などが挙げられる。本発明の一態様によれば、樹脂は、高分子であり、非晶質成分のガラス転移温度が>80℃である。
【0029】
本発明の多孔質基材で補強された燃料電池用電解質膜に用いられる高分子電解質としては、公知のものを広く用いることが出来る。その中で、下記一般式(1)で表される(式中、a:b=1:1〜9:1、n=0,1,2)イオン交換能を有する固体高分子電解質を溶媒に分散もしくは溶解させた液が好ましく例示される。
【0030】
【化1】

【0031】
溶媒は、水、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、及びtert−ブチルアルコール等のアルコール類や、n−ヘキサンなどの炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン、クロロホルムなどが挙げられる。本発明において、特に1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン、クロロホルムから選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの水及び溶媒は単独でも、2種以上混合しても良い。
【0032】
本発明の燃料電池用膜−電極接合体における電解質は、複数の補強用多孔質基材が積層されていても良い。この場合、該複数の多孔質基材のうち少なくとも一枚の多孔質基材は、本発明の補強型電解質膜である。積層される電解質膜は、電解質として使用できる高分子膜であれば、その種類を特に限定するものではない。また、積層される電解質膜は、すべて同じ電解質膜でもよく、また、異なる種類の電解質膜を混合して用いてもよい。例えば、全フッ素系スルホン酸膜、全フッ素系ホスホン酸膜、全フッ素系カルボン酸膜、それらの全フッ素系膜にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を複合化したPTFE複合化膜等の全フッ素系電解質膜や、含フッ素炭化水素系グラフト膜、全炭化水素系グラフト膜、全芳香族膜等の炭化水素系電解質膜等を溶媒に分散もしくは溶解させた液を用いることができる。
【0033】
本発明の固体高分子形燃料電池は、上述した本発明の燃料電池膜−電極接合体を用いた固体高分子形燃料電池である。本発明の燃料電池用膜−電極接合体を用いる以外は、一般に知られている固体高分子形燃料電池の構成に従えばよい。上記本発明の燃料電池用膜−電極接合体を用いることで、本発明の固体高分子形燃料電池は、出力が大きく、かつ安価で耐久性の高い固体高分子形燃料電池となる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例及び比較例を説明する。
実施例及び比較例に用いる多孔質基材は、下記の方法によりPTFEテープを二軸延伸し高度にフィブリル化することにより作製した。
【0035】
PTFE微粉末(PTFE601A、Dupont社製)に押出し助剤(IsoperK,Exxon社製)をPTFE微粉末1kg当たり285mg加えた。押出し助剤を添加したPTFE微粉末を圧縮して円柱状に成形し、それをラムエクストルダーで押出し、テープ状に形成した。押出されたテープを圧延ロール間にて20μm程度の厚さにまで圧延した。圧延したテープを送風オーブンにて210℃で押出し助剤の除去を行なった。
【0036】
次に、下記表1に示した長さ方向時の延伸温度に調温した。加熱ゾーン中のロール列間で長さ方向に延伸し、その後、膜が縦方向に収縮しないようにしながら表1に示した幅方向時の延伸温度に調温された加熱ゾーン中で横方向に延伸を行なった。その後、膜が収縮しないように固定した状態で380℃にて熱処理を行い多孔質基材を得た。
【0037】
用いる延伸速度及び延伸倍率を変えることにより比較例及び実施例1〜3に用いられる多孔質基材を得た。
【0038】
【表1】

【0039】
さらに、作製した多孔質基材に、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂/アルコール溶媒と水との混合液(高分子電解質分散液と呼ぶ)を含浸した。多孔質基材を収縮しないように固定枠に固定し、高分子電解質分散液を多孔質基材の両側に塗布し、次にヘアドライアで乾燥して、溶媒を除去した。多孔質基材と固定枠とを180℃のオーブンで8分間乾燥した。多孔質基材と固定枠をオーブンから取り出し、多孔質基材を固定枠から取り外した。取り外した多孔質基材/高分子電解質複合膜は透明であり、多孔質基材への高分子電解質による完全な含浸を確認した。このような工程で作製した多孔質基材/高分子電解質複合膜3枚に高分子電解質を層間に塗布、重ね合わせ、100℃、3MPaで3分間加圧加熱を実施し、複合膜を作製した。
【0040】
得られた複合膜の常温条件での引張試験を実施した結果を表2に、得られた複合膜の高温高湿条件での引張試験を実施した結果を表3に、イオン伝導度を表4に、イオン溶出量を表5に示す。
【0041】
[最大強度引張強度、伸度、弾性率]
引っ張り試験機にて、常温条件での環境温湿度(23℃、50%RH)又は高温多湿条件での環境温湿度(80℃、90%RH)において、初期チャック間距離:80mm、試験片形状:10mm幅矩形、引張速度200mm/minにて測定を行い、強度が最大になった時点での強度及び伸度を求めた。また、弾性率は伸度が2%の際の値を用いた。
【0042】
[イオン伝導度]
10mm幅の試験片を電極間距離5mmの白金電極の付いた治具に取り付け、治具ごと30±0.5℃の蒸留水に1時間浸漬させる。その後に、LCRメーターを用いて測定周波数100kHzにてインピーダンスを測定する。その後、次式を用いてプロトン伝導度を計算する。
κ(S/cm)=1/インピーダンス(Ω)×端子間距離(cm)/試料断面積(cm
【0043】
[Fイオン溶出量]
4×5cmに切り出した膜をフェントン試験液(H:1%、Fe2+:100ppm)に浸漬し、80℃、8時間保持させた後の試験液のFイオン量をイオン電極により測定した。
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
表2の結果より、常温条件(23℃、50%RH)での実施例1〜3の燃料電池用補強型電解質膜は、電解質膜の、シート状に加工する際の流れ方向(MD)及びMDの垂直方向(TD)の最大引張強度のいずれか一方が70N/mm以上であるのに対して、比較例の燃料電池用補強型電解質膜は、上記規定から外れていることが分かる。
【0049】
表3の結果より、高温高湿条件(80℃、90%RH)での実施例1〜3の燃料電池用補強型電解質膜は、電解質膜の、シート状に加工する際の流れ方向(MD)及びMDの垂直方向(TD)の最大引張強度のいずれか一方が40N/mm以上であるのに対して、比較例の燃料電池用補強型電解質膜は、上記規定から外れていることが分かる。
【0050】
表4の結果より、実施例1〜3の燃料電池用補強型電解質膜は、比較例の燃料電池用補強型電解質膜に比べて、イオン伝導度において遜色ないことが分かる。
【0051】
表5の結果より、実施例1〜3の燃料電池用補強型電解質膜は、比較例の燃料電池用補強型電解質膜に比べて、引張強度の向上に伴い、イオン溶出量が格段に減少していることが分かる。即ち、本発明の燃料電池用補強型電解質膜は耐久性に優れていることが分かる。
【0052】
次に、実施例1〜3及び比較例の燃料電池用補強型電解質膜を用いた燃料電池の発電性能を調べた。
【0053】
得られた各複合膜を用いて、燃料電池セルを常法により作製し、初期性能および耐久性を評価した。初期電圧の評価は、以下のように行なった。作動温度を80℃、水素バブラ温度及び空気バブラ温度を50℃に設定した。燃料極には、燃料ガスとして水素を背圧約0.1MPa、ストイキ比の2.0倍量で供給した。酸素極には、酸化剤ガスとして空気を背圧約0.1MPa、ストイキ比の2.5倍量で供給した。負荷を0.84A/cmとして放電し、20分間後の電圧値を初期電圧とした。また、耐久時間は、前述環境でオン−オフを繰返し、これに伴う膜劣化により、アノードからカソードへの水素のクロスリーク量が増大した時間とした。
【0054】
初期電圧を測定した結果を表6に、強度平均と対比した耐久時間の結果を表7に示す。また、図1に、表7の結果を図示した。
【0055】
【表6】

【0056】
【表7】

【0057】
表6の結果より、実施例1〜3の燃料電池用補強型電解質膜は、比較例の燃料電池用補強型電解質膜に比べて、初期電圧が同等もしくはそれ以上であり、発電性能が優れていることが分かる。
【0058】
表7の結果より、強度平均と耐久時間には強い相関関係があり、実施例1〜3の燃料電池用補強型電解質膜は、比較例の燃料電池用補強型電解質膜に比べて、耐久時間において格段に優れていることが分かる。
即ち、初期性能は従来膜と同等を維持し、耐久時間が2倍以上向上した。
【0059】
次に、燃料電池の耐久時間が、燃料電池用補強型電解質膜の流れ方向(MD)及びMDの垂直方向(TD)のそれぞれ最大強度を示した時の、伸度、弾性率、強度のいずれか大きい方を分母とした時の、伸度比、弾性率比、及び強度比のいずれと相関関係を有するかを検討した。表8に、実施例1〜3及び比較例の燃料電池用補強型電解質膜について、耐久時間、伸度比(室温条件、高温高湿条件)、弾性率比、及び強度比をまとめた。また、図2に、耐久時間と伸度比の関係を図示し、図3に、耐久時間と弾性率比の関係を図示し、図4に、耐久時間と強度比の関係を図示した。
【0060】
【表8】

【0061】
表8、図2〜図4の結果より、燃料電池用補強型電解質膜の耐久時間は、その弾性率比及び強度比とはどちらも良い相関が見られなかったのに対して、伸度比とは強い相関が見られた。具体的には、伸度比が0.4〜1.0の範囲である実施例1〜3の燃料電池用補強型電解質膜は、伸度比が0.4未満である比較例の燃料電池用補強型電解質膜に比べて、耐久性において優れていることが確認された。又、常温条件と同様に、高温高湿条件での実施例1〜3の燃料電池用補強型電解質膜は、電解質膜の、シート状に加工する際の流れ方向(MD)及びMDの垂直方向(TD)の最大引張強度のいずれか大きい方を分母としたときの伸度が0.4以上となる場合に、耐久時間が長い。つまり、耐久時間と伸度に相関関係があることが分かる。
【0062】
耐久時間と伸度比とが良い相関を示した理由として、湿潤や差圧運転が繰り返される燃料電池内で燃料電池用電解質膜の伸度比が0.4以上であると、電池内での変形に均一に追従するからであると考えられる。更に、燃料電池内環境に近い高温高湿条件でも常温条件と同様のことが言え、高温高湿条件でも電池内での湿潤に対しても等方的に変形に追従するため、乾湿の繰返しに強く、耐久性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の燃料電池用電解質膜は耐久性が向上しているので、それを用いた燃料電池の耐久性を向上させることが可能となる。これにより、燃料電池の実用化と普及に貢献する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延伸法によって多孔質化されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜に、高分子電解質としてスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体を含む分散液を含浸した燃料電池用補強型電解質膜であって、該電解質膜の、シート状に加工する際の流れ方向(MD)及びMDの垂直方向(TD)の最大引張強度のいずれか一方が、80℃、相対湿度90%の時に40N/mm以上であることを特徴とする燃料電池用補強型電解質膜。
【請求項2】
前記電解質膜の最大時引張強度の、流れ方向(MD)及びMDの垂直方向(TD)伸度のいずれか大きい方を分母とした時の伸度比が0.4〜1.0であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用補強型電解質膜。
【請求項3】
燃料ガスが供給される燃料極と酸化剤ガスが供給される酸素極とからなる一対の電極と、該一対の電極の間に挟装された高分子電解質膜とを含む燃料電池用膜−電極接合体であって、該高分子電解質膜は、請求項1又は2に記載の燃料電池用補強型電解質膜であることを特徴とする燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の燃料電池用補強型電解質膜を有する膜−電極接合体を備えた固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−152215(P2009−152215A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70494(P2009−70494)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【分割の表示】特願2008−44571(P2008−44571)の分割
【原出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】