燃料電池用触媒層及び膜電極接合体
【課題】全条件下で高電流性能を確保可能な燃料電池用触媒層及びこの燃料電池用触媒層を備えた膜電極接合体を提供する。
【解決手段】MEA1のカソード触媒層、電解質膜11の一面に接合され、カーボン担体91にPt微粒子92が担持されてなる無数の触媒90と、高分子電解質93と、水を保持可能な保水材とを含有している。保水材はカーボン担体96を含む。触媒90、カーボン担体96及び高分子電解質93は、触媒90が高分子電解質93で被覆された触媒複合体94と、カーボン担体96が高分子電解質93で被覆された保水複合体95とを構成している。触媒複合体94の高分子電解質93の被覆厚は、保水複合体95の高分子電解質93の被覆厚よりも薄い。
【解決手段】MEA1のカソード触媒層、電解質膜11の一面に接合され、カーボン担体91にPt微粒子92が担持されてなる無数の触媒90と、高分子電解質93と、水を保持可能な保水材とを含有している。保水材はカーボン担体96を含む。触媒90、カーボン担体96及び高分子電解質93は、触媒90が高分子電解質93で被覆された触媒複合体94と、カーボン担体96が高分子電解質93で被覆された保水複合体95とを構成している。触媒複合体94の高分子電解質93の被覆厚は、保水複合体95の高分子電解質93の被覆厚よりも薄い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用触媒層及び膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池のカソード極やアノード極といった電極は、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等のガス透過性のある基材と、この基材の一面に形成された触媒層とからなる。触媒層以外の部分は基材によって構成されており、ここは非電解質層側で触媒層に空気や燃料を拡散する拡散層とされている。触媒層は、触媒と高分子電解質とを含有している。触媒は、カーボン担体に白金(Pt)等の触媒微粒子を担持させてなる。また、この燃料電池において、フラッディングを防止し、電気化学反応の円滑な進行を図るべく、水を保持可能な保水材を触媒層に含ませることも知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−174765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、触媒活性の向上と、高加湿条件下のフラッディング及び低加湿条件下のドライアップの防止とを実現し、全条件下で高電流性能を確保可能な燃料電池用触媒層及びこの燃料電池用触媒層を備えた膜電極接合体が求められている。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、全条件下で高電流性能を確保可能な燃料電池用触媒層及びこの燃料電池用触媒層を備えた膜電極接合体を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者等の試験結果によれば、触媒層中の高分子電解質とカーボン担体との重量比(E/C比)が小さいほど、図1(A)に示すように、カーボン担体91に触媒微粒子92を担持させた触媒90は少量の高分子電解質93しか被覆しない。つまり、この触媒複合体94は、触媒91が少量の高分子電解質93で薄く被覆されている。このため、図1(B)に示すように、この触媒複合体94のみで触媒層81を形成し、電解質層11とともに燃料電池を構成した場合、酸素や水素が触媒に供給されやすい。
【0007】
逆に、E/C比が大きいほど、図2(A)に示すように、触媒複合体94は、触媒90が多量の高分子電解質93で被覆される。このため、図2(B)に示すように、この触媒複合体94のみで触媒層81を形成した燃料電池では、酸素や水素が触媒に供給され難い。
【0008】
このため、この燃料電池では、図3に示すように、E/C比が小さいほど触媒活性が向上し、E/C比が大きいほど触媒活性が低下する。図3は、カソード触媒層を構成する触媒ペーストのE/C比と、触媒微粒子(Pt微粒子92)の重量比活性との関係を示すグラフである。このカソード触媒層は、カーボン担体91としてのBLACKPEARL880(CABOT社製の商品名、以下、BP880と省略する。)にPt微粒子92を担持させて得られた触媒90を採用している。また、重量比活性とは、電位を0.9Vに設定した際に、カソード触媒層における1gあたりのPt微粒子92に流れる電流の値を意味し、触媒活性の指標となる値である。このグラフでは上記のカソード触媒層を有する膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を備えたセルを用意し、そのセルの温度を50°C、相対湿度を100%RHに設定し、アノード極に水素、カソード極に空気を各々常圧で流している。
【0009】
このグラフが示すように、カソード触媒層におけるE/C比が小さい、すなわちカーボン担体91の重量に対するアイオノマー溶液中のナフィオンの重量比が小さいほど、カソード触媒層における1gあたりのPt微粒子92に流れる電流の値が大きくなる。つまり、図1(B)に示すように、触媒90の周囲に形成される高分子電解質93による層が薄くなるほど、電気化学反応時に酸素、水素の拡散又は供給が速やかに行われ、Pt微粒子92の重量比活性が向上する。
【0010】
しかしながら、この触媒層81は、全体中の高分子電解質93の量が少なくなることから水が移動し難い。このため、高加湿条件下では、主にフラッディングにより高電流性能が低下する。また、低加湿条件下では、触媒層がドライアップしやすく、プロトン伝導性が悪化し、やはり高電流性能が低下してしまう。
【0011】
発明者等は、カーボンを保水材の一部として採用した場合、この課題を解決できることを発見したのである。
【0012】
すなわち、本発明の燃料電池用触媒層は、電解質層の一面に接合され、カーボン担体に触媒微粒子が担持されてなる無数の触媒と、高分子電解質と、水を保持可能な保水材とを含有し、
前記保水材は前記カーボン担体を含み、
前記触媒、該カーボン担体及び前記高分子電解質は、該触媒が該高分子電解質で被覆された触媒複合体と、該カーボン担体が該高分子電解質で被覆された保水複合体とを構成し、
該触媒複合体の該高分子電解質の被覆厚は、該保水複合体の該高分子電解質の該被覆厚よりも薄いことを特徴とする(請求項1)。
【0013】
図4(A)及び(B)に示すように、本発明の燃料電池用触媒層82は、触媒複合体94と保水複合体95とを有している。触媒複合体94は、図4(A)に示すように、保水複合体95と比較して、触媒91が少量の高分子電解質93で被覆されている。これにより、それぞれのカーボン担体が同じ比表面積である場合、触媒複合体94を被覆する高分子電解質93は、保水複合体95を被覆する高分子電解質93よりも平均の被覆厚が薄くなる。そして、これらを混合して本発明の燃料電池用触媒層を形成すると、触媒複合体94が有する高分子電解質93の量は保水複合体95が有する高分子電解質93の量よりも少なく、E/C比が小さいままである。このため、この触媒層82は、触媒90が少量の高分子電解質93で薄く被覆されている触媒複合体94により、高い触媒活性を確保する。
【0014】
また、この触媒層82では、保水複合体95が保水材として機能する。そして、保水複合体95はカーボン担体96が触媒複合体94と比較して多量の高分子電解質93で被覆されていることから、触媒層82中の高分子電解質93の量を確保し、水が容易に移動できる。このため、この触媒層82は、高加湿条件下のフラッディング及び低加湿条件下のドライアップの防止を実現する。
【0015】
したがって、この燃料電池用触媒層によれば、全条件下で高電流性能を確保することが可能である。
【0016】
触媒を構成するカーボン担体と、保水複合体を構成するカーボン担体とは、同一のカーボン担体が採用されても良く、互いに異なるカーボン担体が採用されても良い。なお、触媒複合体94を構成するカーボン担体の比表面積が保水複合体95を構成するカーボン担体よりも大きい場合、適宜E/C比を調整して、触媒複合体94の高分子電解質93の平均の被覆厚が、保水複合体95の高分子電解質93の平均の被覆厚よりも薄くなるようにすればよい。
【0017】
本発明の膜電極接合体は、電解質層と、該電解質層の一面に接合されたカソード触媒層と、該電解質層の他面に接合されたアノード触媒層とを有する膜電極接合体であって、
少なくとも前記カソード触媒層は、カーボン担体に触媒微粒子が担持されてなる無数の触媒と、高分子電解質と、水を保持可能な保水材とを含有し、
前記保水材は前記カーボン担体を含み、
前記触媒、該カーボン担体及び前記高分子電解質は、該触媒が該高分子電解質で被覆された触媒複合体と、該カーボン担体が該高分子電解質で被覆された保水複合体とを構成し、
該触媒複合体の該高分子電解質の被覆厚は、該保水複合体の該高分子電解質の該被覆厚よりも薄いことを特徴とする(請求項2)。
【0018】
本発明の膜電極接合体では、少なくともカソード触媒層が上記特徴を備えている。このため、このMEAによれば、全条件下で高電流性能を確保することが可能である。
【0019】
この膜電極接合体において、少なくともカソード触媒層は、保水複合体からなる保水層が電解質層の逆側に積層されて層状に形成され得る(請求項3)。この場合、カソード触媒層において、別途に保水層が積層されることとなる。このため、この膜電極接合体は、保水層が積層されることにより、上記効果をより高めることができると考えられる。なお、保水層は一層に限定されない。
【0020】
本発明の燃料電池用触媒層は、カーボン担体以外の保水材を含み得る。他の保水材としては、導電性樹脂、導電性セラミックス、導電性を付与した金属酸化物、吸水性高分子、吸水性繊維等を採用することが可能である。また、金属酸化物としては、TiO2、SiO2等が挙げられる。また、吸水性高分子としては、シリカゲル、ポリアクリル酸等が挙げられる。さらに、吸水性繊維としては、錦糸、化学繊維等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】E/C比が小さい場合の触媒周りの模式拡大図である。図(A)が触媒及び高分子電解質を示し、図(B)がMEAの一部を示す。
【図2】E/C比が大きい場合の触媒周りの模式拡大図である。図(A)が触媒及び高分子電解質を示し、図(B)がMEAの一部を示す。
【図3】カソード触媒層を構成する触媒ペーストのE/C比と、触媒微粒子の重量比活性との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の触媒周りの模式拡大図である。図(A)が混合ペースト中における触媒、高分子電解質及び保水材を示し、図(B)がMEAの一部を示す。
【図5】約3.5nmの細孔を有するカーボン担体におけるPt微粒子の分布を示す3D−TEM像である。図(A)が2D−TEM画像を示し、図(B)が3方向スライス像を示す。
【図6】約3.5nmの細孔を有するカーボン担体を有する触媒層における電気化学反応を示す拡大模式図である。
【図7】約3.5nmの細孔を有するカーボン担体を有する触媒を有する触媒層において、E/C比を変化させたときの触媒層の細孔の分布を示すグラフである。
【図8】E/C比と触媒層の細孔容積との関係を示すグラフである。
【図9】約4nm以上の細孔を有するカーボン担体を有する触媒層における電気化学反応を示す拡大模式図である。
【図10】実施例1のMEAの一部を示す部分拡大模式図である。
【図11】保水材ペーストのE/C比と、重量比/体積比と、触媒層の厚さ増加率との関係を示すグラフである。
【図12】実験例2に係り、E/C比の相違の下、フル加湿状態におけるセル電流とセル電圧との変化を示すグラフである。
【図13】実験例3に係り、E/C比の相違の下、低加湿状態におけるセル電流とセル電圧との変化を示すグラフである。
【図14】実験例4に係り、保水材の有無の下、フル加湿状態におけるセル電流とセル電圧との変化を示すグラフである。
【図15】実験例5に係り、保水材の有無の下、低加湿状態におけるセル電流とセル電圧との変化を示すグラフである。
【図16】実験例6に係り、保水材の有無の下、低加湿状態におけるセル電流とセル電圧との変化を示すグラフである。
【図17】実施例2のMEAの一部を示す部分拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実験例1)
発明者等は、燃料電池の性能を向上させるため、反応の活性点における密度の向上が必要と考え、カーボン担体の比表面積を大きくするとともに、このカーボン担体へより多くの触媒微粒子を高い分散率で担持させることを目指してきた。
【0023】
例えば、比表面積が800m2/g以上のカーボン担体を採用し、これにPt微粒子を50wt%以上担持させた場合、Pt微粒子の比表面積は100m2/g−Pt以上とすることができる。このようなカーボン担体としては、ケッチェンブラックEC(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製の商品名(以下、同様))、ケッチェンブラックEC−600JD(以下、KB600JDと省略する。)等を挙げることができる。
【0024】
このように触媒微粒子の担持量を多くすることで触媒層の薄膜化が可能となり、高活性でかつ濃度過電圧の低いMEAを提供できる。
【0025】
図5にカーボン担体91としてのKB600JDにPt微粒子92を担持密度60wt%で担持した触媒の3D−TEM観察結果を示す。図5(A)は2D−TEM画像を示し、図5(B)は3方向スライス像を示す。右図より、触媒の内部にPt微粒子92が存在することが確認される。また、この触媒で触媒層を製造し、この触媒層をもつMEAの一部を図6に拡大して模式的に示す。図6中、Pt微粒子92aを黒丸で示す。図5及び図6に示すように、観察対象の触媒90では、Pt微粒子92の約6割がカーボン担体91内に存在し、その結果、活性点となるPt微粒子92の表面の約5割の面積がカーボン担体91内にあることとなる。
【0026】
このカーボン担体91内に存在しているPt微粒子92が発電に寄与していないのであれば、担持したPt微粒子92のうちのかなりの割合が無駄に存在していることになる。Pt微粒子92の担持量が十分に多ければ、カーボン担体91の外表面に存在するPt微粒子92のみで充分な高性能を得られるが、Pt微粒子92の使用量の低減のためにPt微粒子92の担持量を減らして、かつ性能を維持するためには、Pt微粒子92がカーボン担体91内に存在する比率をできるだけ少なくし、Pt微粒子92の利用率を上げる必要がある。
【0027】
図7は触媒層におけるN2吸着の測定結果である。触媒層は、アイオノマーとして機能する高分子電解質と、カーボン担体との重量比(E/C比)を変えて作製されている。
【0028】
図7によれば、E/C比を大きくしたときに減少するカーボン担体の細孔容積は、主に細孔径4nm以上の細孔によるものである。カーボン担体内の細孔径約4nm未満の細孔による細孔容積は、E/C比を大きくしても、ほとんど変化しない。このことから、カーボン担体内の細孔は高分子電解質によって殆どふさがれていないことが分かる。
【0029】
図8は、図7の結果に基づき、E/C比とカーボン担体の細孔容積との関係をグラフ化したものである。図8より、E/C比を大きくしたときに減少する細孔容積は主に細孔径4nm以上のものであり、細孔径4nm未満の細孔による細孔容積はほとんど変化しないことが分かる。
【0030】
以上の結果から、高分子電解質はカーボン担体の4nm未満の細孔には入らず、4nm未満の細孔に存在する触媒微粒子は電解質に接することができないことが分かる。このような触媒微粒子の周囲には三相界面が形成されず、発電に寄与することができないことも分かる。
【0031】
発明者等は、上記知見に基づき、燃料電池用の触媒として、細孔径が4nm以上の細孔のみを有するカーボン担体に触媒微粒子を担持させてなるものが好適であるとの特許出願を行った(特願2009−013219号)。この触媒によれば、高分子電解質が入り込めない細孔に触媒微粒子が入ることを防ぐことができる。このため、このカーボン担体を用いることで触媒微粒子の利用率を高めることができ、結果として白金の使用量の削減が可能となる。
【0032】
また、発明者等は、図6に示すように、約3.5nmの細孔を有するカーボン担体を用いた触媒において、E/C比を大きくして触媒層を形成すれば、酸素や水素が触媒に供給され難いことを確認したのである。一方、図9に示すように、細孔径が4nm未満の細孔を持たないカーボン担体、すなわち低比表面積カーボン担体を用いた触媒において、E/C比を小さくして触媒層を形成すれば、酸素や水素が触媒に供給されやすいことも確認した。
【0033】
(実施例1)
図10に示すように、実施例1のMEA1は、ナフィオンからなる電解質膜11と、この電解質膜11の一面に接合されて空気が供給されるカソード極3と、電解質膜11の他面に接合されて水素等の燃料が供給されるアノード極5とを有している。
【0034】
カソード極3は、カーボンペーパーからなる基材と、この基材の一面に形成されたカソード触媒層10とからなる。カソード極3におけるカソード触媒層10以外の部分は基材によって構成されており、ここは非電解質層側でカソード触媒層10に空気を拡散するカソード拡散層13とされている。アノード極5はアノード触媒層12とアノード拡散層14とされている。このMEA1のカソード触媒層10は触媒ペーストと、保水材ペーストとによって形成されている。
【0035】
触媒複合体94を構成する触媒ペーストは以下の製造方法で製造されている。まず、図4の(A)に示すカーボン担体91として、市販のBP880を用意した。このBP880は1次粒径が15nm程度である。BP880に対し、触媒微粒子としてのPt微粒子92を担持密度20wt%で担持させ、触媒90とした。この触媒90に対して水を添加し、自転/公転式遠心攪拌機(キーエンス社製、商品名「ハイブリッドミキサーHM−500」)によって脱泡及び攪拌を行い、触媒90と水とをなじませたプレペーストを得た。
【0036】
このプレペーストに対し、5重量%のアイオノマー溶液(ナフィオン溶液(5質量%溶液))を添加した。この際、(アイオノマー溶液中のナフィオンの重量)/(カーボン担体91の重量)(E/C比)が0.15となるように、触媒90に対してアイオノマー溶液を添加した。その後、これらを自転/公転式遠心攪拌機によってさらに攪拌し、触媒ペーストを得た。触媒ペーストでは、触媒90が薄い高分子電解質93で被覆された触媒複合体94を構成している。
【0037】
一方、保水複合体95を構成する保水材ペーストは、以下に示す製造方法で製造されている。まず、保水性のあるカーボン担体96として、Vulcan−XC72R(CABOT社製の商品名)を用意した。このVulcan−XC72Rに溶媒及び5重量%のナフィオン溶液を添加した。この際、(ナフィオン溶液中のナフィオンの重量)/(カーボンの重量)(E/C比)が1.0となるようにナフィオン溶液を添加した。その後、これらを自転/公転式遠心攪拌機によって攪拌し、保水材ペーストを得た。保水材ペーストでは、カーボン担体96が厚い高分子電解質93で被覆された保水複合体95を構成している。
【0038】
得られた触媒ペースト及び保水材ペーストを固形分重量比0.65:0.35の比率で混合し、混合ペーストを得た。この比率でこれらを混合することにより、混合ペースト全体でのE/C比は0.35となる。
【0039】
この混合ペーストを基材にスクリーン印刷をした後、乾燥させ、カソード極3を得た。印刷した部分がカソード触媒層10である。なお、混合ペーストを基材へ塗布する方法としては、スクリーン印刷の他に、スプレー法、インクジェット法等の手段によっても行い得る。また、アノード極5のアノード触媒層12は、上記の触媒ペーストを基材にスクリーン印刷することで得た。
【0040】
図11は、保水材ペーストのE/C比と、重量比/体積比と、触媒層の厚さ増加率との関係を示すグラフである。触媒層は、Pt微粒子92の担持量を0.1mg/cm2としている。
【0041】
図11において、保水材において、プロトンのパスのためのネットワークを確保しつつ、カソード触媒層10全体が極端に厚くならない条件で各数値の最適値を求めると、カソード触媒層10の体積に対する保水材ペーストの固形分の体積比は0.15〜0.25の範囲となる。
【0042】
また、図11において、カソード触媒層10の厚さの増加率が2以下で保水材ペーストのE/C比を決めると、保水材ペーストのE/C比は0.6〜1.2の範囲となる。なお、カソード触媒層10の厚さの増加率(触媒層厚さ増加率)とは、カソード触媒層10を触媒ペーストのみで製造した場合の厚さと、カソード触媒層10を触媒ペースト及び保水材ペーストで製造した場合の厚さとの比である。
【0043】
上記の条件から、保水材ペーストのE/C比を1.0とした場合、保水材ペーストにおける固形分の重量比は0.35となり、体積比は0.17となる。また、カソード触媒層10の厚さ増加率は1.4となる。
【0044】
こうして得られたカソード極3とアノード極5とを電解質層11に接合し、図10に示すMEA1が得られる。
【0045】
得られたMEA1では、カソード極3を構成するカソード触媒層10が触媒ペーストと保水材ペーストとで形成される。このため、図4(B)に示すように、カソード触媒層10には、水を保持可能な保水複合体95が含まれている。そして、この保水複合体95には、高分子電解質93が含まれている。そして、この保水複合体95を構成する保水材ペーストは、上記の図11に示される関係に基づいて、Vulcan−XC72Rと高分子電解質93とが混合されている。このため、このカソード触媒層10では、図4に示すように、保水複合体95中の高分子電解質93によって、このカソード触媒層10には、水パスと同時に、プロトンと電子とのパスのためのネットワークが確保されている。このため、このカソード触媒層10では、高電流領域においてフラッディングが生じ難く、電気化学反応の円滑な進行が妨げられ難くなる。また、このカソード触媒層10は、低加湿環境下での電気化学反応時にカソード触媒層10が乾き難くなり、低加湿環境下においても電気化学反応の円滑な進行が妨げられ難い。
【0046】
さらに、このカソード触媒層10では、上記のように、触媒ペーストのE/C比が0.15となっており、保水材ペーストのE/C比が1.0となっている。このため、触媒複合体94が有する高分子電解質93の量は保水複合体95が有する高分子電解質93の量よりも少ない。このため、触媒複合体94は触媒90の周囲に形成される高分子電解質93による層が薄くなる。特に、触媒ペーストのE/C比が0.15と低い値であることから、このカソード触媒層10では、電気化学反応時に酸素が充分に供給され、かつ、Pt微粒子92の重量比活性が高いため、低電流領域における電気化学反応が円滑に進行されてMEAの性能が高くなっている(図9参照)。
【0047】
したがって、実施例1のMEA1は、全条件下で高電流性能を確保することが可能である。また、このMEA1は、触媒90中のPt微粒子92の使用量を低減できることから、製造コストの低廉化を実現可能である。
【0048】
{検証}
次に、実施例1のMEA1の電圧特性を把握するため、実施例1のMEA1を備えたセルと、比較例1〜5のMEAを備えたセルとで、以下の各実験による検証を行った。なお、実施例1のMEA1及び比較例1〜5のMEAを備えたセルの構成及び製造方法は、公知の構成及び方法と同様である。
【0049】
比較例1〜4のMEAのカソード触媒層は、いずれも保水複合体95を含有させていない単独触媒層である。また、各MEAのカソード触媒層(触媒ペースト)におけるE/C比は以下の通りである。
比較例1:E/C比=0.10
比較例2:E/C比=0.15
比較例3:E/C比=0.35
比較例4:E/C比=0.60
この比較例2のMEAは、保水複合体95の有無を除き、実施例1のMEA1におけるカソード触媒層10と同じ条件とされている。比較例1〜4のMEAにおける他の構成及び製造方法は実施例1のMEAと同様である。
【0050】
(実験例2)
実験例2では、比較例1〜3のMEAを備えた各セルの温度を50°Cに設定し、湿度が100%RHの測定環境(以下、フル加湿状態という。)の下、アノード極5に水素を、カソード極3に空気を流した場合の、各セルの電流及び各セルの電圧の変化を測定した。測定結果を図12に示す。
【0051】
図15では、横軸にセル電流(A)を示し、縦軸にセル電圧(V)を示している(以下に示す、図13〜16も同様である。)。図12に示されるように、フル加湿状態において、E/C比が高いカソード触媒層を備えたセル(MEA)の方が高電流領域で高い電圧を発揮することが可能である。また、E/C比が高いカソード触媒層を備えたセル(MEA)の方が電流の変化に対する電圧の変化の度合いが小さい。
【0052】
(実験例3)
実験例3では、比較例2、3、4のMEAを備えた各セルの温度を70°Cに設定し、湿度が40%RHの測定環境(以下、低加湿状態という。)の下、アノード極5に水素を、カソード極3に空気を流した場合の、各セルの電流及び電圧の変化を測定した。測定結果を図13に示す。
【0053】
図13に示されるように、低加湿状態においても、E/C比が高いカソード触媒層を備えたセルの方が高電流領域で高い電圧を発揮することが可能である。また、この環境下でも、E/C比が高いカソード触媒層を備えたセルの方が電流の変化に対する電圧の変化の度合いが小さい。
【0054】
これらの実験により、以下の点が明らかとなった。すなわち、比較例1、2のMEAのように、カソード触媒層(触媒ペースト)のE/C比を小さくすると、上記のように触媒90の周囲に形成される高分子電解質93による層が薄くなる。このため、電気化学反応時においてPt微粒子92の重量比活性を高めることできる(図3参照)。この一方で、比較例1のMEAでは、高分子電解質93による層が薄くなることで、水パスが不足してしまう。このため、図12に示すように、フル加湿状態下(高加湿条件下)の高電流領域では、カソード触媒層中で生成した水の移動が速やかに行われず、カソード触媒層を含めた触媒層全体において、フラッディングが発生してしまう。このため、E/C比が低い比較例1のMEAでは、電気化学反応の円滑な進行が妨げられ、高電流領域での電圧が低下が大きくなる。このため、燃料電池の性能が低下してしまうこととなる。
【0055】
また、同様に、比較例2のMEAのように、カソード触媒層のE/C比を小さくすると、触媒層全体の保水機能が低下する。このため、図13に示すように、低加湿状態下の高電流領域では、カソード触媒層を含めた触媒層全体が乾燥することで、ドライアップが発生してしまう。このため、フル加湿状態下と同様、電気化学反応の円滑な進行が妨げられ、高電流領域での電圧の低下が大きくなる。このため、上記と同様、燃料電池の性能が低下してしまうこととなる。
【0056】
(実験例4)
実験例4では、実施例1のMEA1を備えたセル及び比較例2のMEAを備えたセルについて、フル加湿状態の下、アノード極5に水素を、カソード極3に空気を流した場合の、各セルの電流及び電圧の変化を測定した。測定結果を図14に示す。
【0057】
図14に示されるように、フル加湿状態において、比較例2のMEAを備えたセルよりも、実施例1のMEA1を備えたセルの方が高電流領域で高い電圧を発揮することが可能である。また、実施例1のMEA1を備えたセルは電流の変化に対する電圧の変化の度合いが小さい。
【0058】
(実験例5)
実験例5では、実施例1のMEA1を備えたセル及び比較例2のMEAを備えたセルについて、低加湿状態の下、アノード極5に水素を、カソード極3に空気を流した場合の、各セルの電流及び電圧の変化を測定した。測定結果を図15に示す。
【0059】
図15に示されるように、低加湿状態においても、比較例2のMEAを備えたセルよりも、実施例1のMEA1を備えたセルの方が高電流領域で高い電圧を発揮することが可能である。また、この環境下でも、実施例1のMEA1を備えたセルは、比較例2のMEAを備えたセルと比べ、電流の変化に対する電圧の変化の度合いが小さい。
【0060】
これらの実験により、実施例1のMEA1を備えたセルは、比較例2のMEAを備えたセルと比較して、フル加湿状態及び低加湿状態のいずれにおいても電流に対する高い電圧特性を示した。つまり、実施例1のMEA1は比較例2のMEAより、環境や電流の変化に対する発電の安定性、すなわち、ロバスト性が高いことが証明された。
【0061】
この理由は、図4(B)に示すように、カソード触媒層10が有する保水複合体95による効果と考えられる。すなわち、実施例1のMEA1では、カソード触媒層10において、触媒微粒子の利用率が高くなる低比表面積カーボン単体を用い、触媒ペーストのE/C比を0.15と低い値に設定して、触媒90の周囲に形成される高分子電解質93による層を薄く保つことで、電気化学反応時に酸素、水素の拡散又は供給が速やかに行われるようになり、そのため触媒微粒子の重量比活性、すなわち低電流領域での燃料電池性能が高くなる。さらに、このカソード触媒層10中に保水複合体95を加えて、カソード触媒層10全体のE/Cを0.35と高めることにより、カソード触媒層10中の水パスを充分確保している。これにより低E/C時の問題点である、フル加湿状態でのフラッディング、低加湿状態でのドライアップを抑制することができた。この結果、実施例1のMEA1は、保水複合体95を含有しない比較例2のMEAと比較して、全ての状態において、高い性能を発揮することができる。
【0062】
(実験例6)
参考実験として、実験例6では、比較例5のMEAを用意した。このMEAは、実施例1のMEAと同様、カソード触媒層を構成する触媒ペーストのE/C比を0.15としている。また、比較例5のMEAは、実施例1の場合と、触媒ペーストと保水材ペーストの混合比率を変更しており、保水複合体を含めたMEA全体のE/C比が0.60となっている。この実験例6では、比較例5のMEAを備えたセル及び比較例2のMEAを備えたセルについて、低加湿状態の下、アノード極5に水素を、カソード極3に空気を流した場合の、各セルの電流及び電圧の変化を測定した。測定結果を図16に示す。
【0063】
図16に示されるように、低加湿状態において、比較例5のMEAを備えたセルは、高電流領域で高い電圧を発揮することが可能となっている。また、比較例5のMEAにおけるE/C比は0.60であることから、図15に示すE/C比が0.35である実施例1のMEA1と比較しても、電流の変化に対する電圧の変化の度合いが小さく、より高性能であることが示されている。
【0064】
(実施例2)
図17に示すように、実施例2のMEA31では、カソード極3におけるカソード触媒層30は、第1層42と第2層43とが順に積層されることで形成されている。この第1層42は実施例1の混合ペーストからなり、第2層は実施例1の保水材ペーストからなる。
【0065】
このカソード触媒層30は、以下の方法によって得られる。まず、保水材ペーストを基材にスクリーン印刷をした後、乾燥させる。こうして第2層43を形成する。その後、混合ペーストを第2層43の表面にスクリーン印刷をして乾燥させる。こうして得られたカソード触媒層30では、電解質膜11上に第1層42と第2層43とが順に層状に形成される。つまり、第2層43が電解質層11の逆側、すなわち、非電解質層側となる。MEA21における他の構成及び製造工程は実施例1と同様であり、同一の構成については同一符号を付して構成の詳細な説明は省略する。
【0066】
このように、このMEA31は、カソード触媒層30に第1層42と第2層43とが形成されている。上記のように、第1層42は、触媒ペーストと保水材ペーストとが混合された混合ペーストによって得られている。すなわち、このMEA31は、第1層42及び第2層43ともに保水複合体95を有している。このため、このMEA31は、実施例1のMEA1よりも高い効果を得られると考えられる。
【0067】
したがって、実施例2のMEA31も、触媒90中のPt微粒子92の使用量低減と高出力化との両立が可能である。
【0068】
以上において、本発明を実施例1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1、2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0069】
例えば、実施例1、2において、アノード触媒層12をカソード触媒層10と同様の構成とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、電気自動車等の移動用電源、屋外据え置き用電源、ポータブル電源等の燃料電池システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0071】
91…カーボン担体
92…Pt微粒子(触媒微粒子)
90…触媒
93…ナフィオン(高分子電解質)
94…触媒複合体
95…保水複合体
11…ナフィオン膜(電解質層)
10、30…カソード触媒層
12…アノード触媒層
1、31…MEA(膜電極接合体)
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用触媒層及び膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池のカソード極やアノード極といった電極は、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等のガス透過性のある基材と、この基材の一面に形成された触媒層とからなる。触媒層以外の部分は基材によって構成されており、ここは非電解質層側で触媒層に空気や燃料を拡散する拡散層とされている。触媒層は、触媒と高分子電解質とを含有している。触媒は、カーボン担体に白金(Pt)等の触媒微粒子を担持させてなる。また、この燃料電池において、フラッディングを防止し、電気化学反応の円滑な進行を図るべく、水を保持可能な保水材を触媒層に含ませることも知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−174765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、触媒活性の向上と、高加湿条件下のフラッディング及び低加湿条件下のドライアップの防止とを実現し、全条件下で高電流性能を確保可能な燃料電池用触媒層及びこの燃料電池用触媒層を備えた膜電極接合体が求められている。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、全条件下で高電流性能を確保可能な燃料電池用触媒層及びこの燃料電池用触媒層を備えた膜電極接合体を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者等の試験結果によれば、触媒層中の高分子電解質とカーボン担体との重量比(E/C比)が小さいほど、図1(A)に示すように、カーボン担体91に触媒微粒子92を担持させた触媒90は少量の高分子電解質93しか被覆しない。つまり、この触媒複合体94は、触媒91が少量の高分子電解質93で薄く被覆されている。このため、図1(B)に示すように、この触媒複合体94のみで触媒層81を形成し、電解質層11とともに燃料電池を構成した場合、酸素や水素が触媒に供給されやすい。
【0007】
逆に、E/C比が大きいほど、図2(A)に示すように、触媒複合体94は、触媒90が多量の高分子電解質93で被覆される。このため、図2(B)に示すように、この触媒複合体94のみで触媒層81を形成した燃料電池では、酸素や水素が触媒に供給され難い。
【0008】
このため、この燃料電池では、図3に示すように、E/C比が小さいほど触媒活性が向上し、E/C比が大きいほど触媒活性が低下する。図3は、カソード触媒層を構成する触媒ペーストのE/C比と、触媒微粒子(Pt微粒子92)の重量比活性との関係を示すグラフである。このカソード触媒層は、カーボン担体91としてのBLACKPEARL880(CABOT社製の商品名、以下、BP880と省略する。)にPt微粒子92を担持させて得られた触媒90を採用している。また、重量比活性とは、電位を0.9Vに設定した際に、カソード触媒層における1gあたりのPt微粒子92に流れる電流の値を意味し、触媒活性の指標となる値である。このグラフでは上記のカソード触媒層を有する膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を備えたセルを用意し、そのセルの温度を50°C、相対湿度を100%RHに設定し、アノード極に水素、カソード極に空気を各々常圧で流している。
【0009】
このグラフが示すように、カソード触媒層におけるE/C比が小さい、すなわちカーボン担体91の重量に対するアイオノマー溶液中のナフィオンの重量比が小さいほど、カソード触媒層における1gあたりのPt微粒子92に流れる電流の値が大きくなる。つまり、図1(B)に示すように、触媒90の周囲に形成される高分子電解質93による層が薄くなるほど、電気化学反応時に酸素、水素の拡散又は供給が速やかに行われ、Pt微粒子92の重量比活性が向上する。
【0010】
しかしながら、この触媒層81は、全体中の高分子電解質93の量が少なくなることから水が移動し難い。このため、高加湿条件下では、主にフラッディングにより高電流性能が低下する。また、低加湿条件下では、触媒層がドライアップしやすく、プロトン伝導性が悪化し、やはり高電流性能が低下してしまう。
【0011】
発明者等は、カーボンを保水材の一部として採用した場合、この課題を解決できることを発見したのである。
【0012】
すなわち、本発明の燃料電池用触媒層は、電解質層の一面に接合され、カーボン担体に触媒微粒子が担持されてなる無数の触媒と、高分子電解質と、水を保持可能な保水材とを含有し、
前記保水材は前記カーボン担体を含み、
前記触媒、該カーボン担体及び前記高分子電解質は、該触媒が該高分子電解質で被覆された触媒複合体と、該カーボン担体が該高分子電解質で被覆された保水複合体とを構成し、
該触媒複合体の該高分子電解質の被覆厚は、該保水複合体の該高分子電解質の該被覆厚よりも薄いことを特徴とする(請求項1)。
【0013】
図4(A)及び(B)に示すように、本発明の燃料電池用触媒層82は、触媒複合体94と保水複合体95とを有している。触媒複合体94は、図4(A)に示すように、保水複合体95と比較して、触媒91が少量の高分子電解質93で被覆されている。これにより、それぞれのカーボン担体が同じ比表面積である場合、触媒複合体94を被覆する高分子電解質93は、保水複合体95を被覆する高分子電解質93よりも平均の被覆厚が薄くなる。そして、これらを混合して本発明の燃料電池用触媒層を形成すると、触媒複合体94が有する高分子電解質93の量は保水複合体95が有する高分子電解質93の量よりも少なく、E/C比が小さいままである。このため、この触媒層82は、触媒90が少量の高分子電解質93で薄く被覆されている触媒複合体94により、高い触媒活性を確保する。
【0014】
また、この触媒層82では、保水複合体95が保水材として機能する。そして、保水複合体95はカーボン担体96が触媒複合体94と比較して多量の高分子電解質93で被覆されていることから、触媒層82中の高分子電解質93の量を確保し、水が容易に移動できる。このため、この触媒層82は、高加湿条件下のフラッディング及び低加湿条件下のドライアップの防止を実現する。
【0015】
したがって、この燃料電池用触媒層によれば、全条件下で高電流性能を確保することが可能である。
【0016】
触媒を構成するカーボン担体と、保水複合体を構成するカーボン担体とは、同一のカーボン担体が採用されても良く、互いに異なるカーボン担体が採用されても良い。なお、触媒複合体94を構成するカーボン担体の比表面積が保水複合体95を構成するカーボン担体よりも大きい場合、適宜E/C比を調整して、触媒複合体94の高分子電解質93の平均の被覆厚が、保水複合体95の高分子電解質93の平均の被覆厚よりも薄くなるようにすればよい。
【0017】
本発明の膜電極接合体は、電解質層と、該電解質層の一面に接合されたカソード触媒層と、該電解質層の他面に接合されたアノード触媒層とを有する膜電極接合体であって、
少なくとも前記カソード触媒層は、カーボン担体に触媒微粒子が担持されてなる無数の触媒と、高分子電解質と、水を保持可能な保水材とを含有し、
前記保水材は前記カーボン担体を含み、
前記触媒、該カーボン担体及び前記高分子電解質は、該触媒が該高分子電解質で被覆された触媒複合体と、該カーボン担体が該高分子電解質で被覆された保水複合体とを構成し、
該触媒複合体の該高分子電解質の被覆厚は、該保水複合体の該高分子電解質の該被覆厚よりも薄いことを特徴とする(請求項2)。
【0018】
本発明の膜電極接合体では、少なくともカソード触媒層が上記特徴を備えている。このため、このMEAによれば、全条件下で高電流性能を確保することが可能である。
【0019】
この膜電極接合体において、少なくともカソード触媒層は、保水複合体からなる保水層が電解質層の逆側に積層されて層状に形成され得る(請求項3)。この場合、カソード触媒層において、別途に保水層が積層されることとなる。このため、この膜電極接合体は、保水層が積層されることにより、上記効果をより高めることができると考えられる。なお、保水層は一層に限定されない。
【0020】
本発明の燃料電池用触媒層は、カーボン担体以外の保水材を含み得る。他の保水材としては、導電性樹脂、導電性セラミックス、導電性を付与した金属酸化物、吸水性高分子、吸水性繊維等を採用することが可能である。また、金属酸化物としては、TiO2、SiO2等が挙げられる。また、吸水性高分子としては、シリカゲル、ポリアクリル酸等が挙げられる。さらに、吸水性繊維としては、錦糸、化学繊維等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】E/C比が小さい場合の触媒周りの模式拡大図である。図(A)が触媒及び高分子電解質を示し、図(B)がMEAの一部を示す。
【図2】E/C比が大きい場合の触媒周りの模式拡大図である。図(A)が触媒及び高分子電解質を示し、図(B)がMEAの一部を示す。
【図3】カソード触媒層を構成する触媒ペーストのE/C比と、触媒微粒子の重量比活性との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の触媒周りの模式拡大図である。図(A)が混合ペースト中における触媒、高分子電解質及び保水材を示し、図(B)がMEAの一部を示す。
【図5】約3.5nmの細孔を有するカーボン担体におけるPt微粒子の分布を示す3D−TEM像である。図(A)が2D−TEM画像を示し、図(B)が3方向スライス像を示す。
【図6】約3.5nmの細孔を有するカーボン担体を有する触媒層における電気化学反応を示す拡大模式図である。
【図7】約3.5nmの細孔を有するカーボン担体を有する触媒を有する触媒層において、E/C比を変化させたときの触媒層の細孔の分布を示すグラフである。
【図8】E/C比と触媒層の細孔容積との関係を示すグラフである。
【図9】約4nm以上の細孔を有するカーボン担体を有する触媒層における電気化学反応を示す拡大模式図である。
【図10】実施例1のMEAの一部を示す部分拡大模式図である。
【図11】保水材ペーストのE/C比と、重量比/体積比と、触媒層の厚さ増加率との関係を示すグラフである。
【図12】実験例2に係り、E/C比の相違の下、フル加湿状態におけるセル電流とセル電圧との変化を示すグラフである。
【図13】実験例3に係り、E/C比の相違の下、低加湿状態におけるセル電流とセル電圧との変化を示すグラフである。
【図14】実験例4に係り、保水材の有無の下、フル加湿状態におけるセル電流とセル電圧との変化を示すグラフである。
【図15】実験例5に係り、保水材の有無の下、低加湿状態におけるセル電流とセル電圧との変化を示すグラフである。
【図16】実験例6に係り、保水材の有無の下、低加湿状態におけるセル電流とセル電圧との変化を示すグラフである。
【図17】実施例2のMEAの一部を示す部分拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実験例1)
発明者等は、燃料電池の性能を向上させるため、反応の活性点における密度の向上が必要と考え、カーボン担体の比表面積を大きくするとともに、このカーボン担体へより多くの触媒微粒子を高い分散率で担持させることを目指してきた。
【0023】
例えば、比表面積が800m2/g以上のカーボン担体を採用し、これにPt微粒子を50wt%以上担持させた場合、Pt微粒子の比表面積は100m2/g−Pt以上とすることができる。このようなカーボン担体としては、ケッチェンブラックEC(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製の商品名(以下、同様))、ケッチェンブラックEC−600JD(以下、KB600JDと省略する。)等を挙げることができる。
【0024】
このように触媒微粒子の担持量を多くすることで触媒層の薄膜化が可能となり、高活性でかつ濃度過電圧の低いMEAを提供できる。
【0025】
図5にカーボン担体91としてのKB600JDにPt微粒子92を担持密度60wt%で担持した触媒の3D−TEM観察結果を示す。図5(A)は2D−TEM画像を示し、図5(B)は3方向スライス像を示す。右図より、触媒の内部にPt微粒子92が存在することが確認される。また、この触媒で触媒層を製造し、この触媒層をもつMEAの一部を図6に拡大して模式的に示す。図6中、Pt微粒子92aを黒丸で示す。図5及び図6に示すように、観察対象の触媒90では、Pt微粒子92の約6割がカーボン担体91内に存在し、その結果、活性点となるPt微粒子92の表面の約5割の面積がカーボン担体91内にあることとなる。
【0026】
このカーボン担体91内に存在しているPt微粒子92が発電に寄与していないのであれば、担持したPt微粒子92のうちのかなりの割合が無駄に存在していることになる。Pt微粒子92の担持量が十分に多ければ、カーボン担体91の外表面に存在するPt微粒子92のみで充分な高性能を得られるが、Pt微粒子92の使用量の低減のためにPt微粒子92の担持量を減らして、かつ性能を維持するためには、Pt微粒子92がカーボン担体91内に存在する比率をできるだけ少なくし、Pt微粒子92の利用率を上げる必要がある。
【0027】
図7は触媒層におけるN2吸着の測定結果である。触媒層は、アイオノマーとして機能する高分子電解質と、カーボン担体との重量比(E/C比)を変えて作製されている。
【0028】
図7によれば、E/C比を大きくしたときに減少するカーボン担体の細孔容積は、主に細孔径4nm以上の細孔によるものである。カーボン担体内の細孔径約4nm未満の細孔による細孔容積は、E/C比を大きくしても、ほとんど変化しない。このことから、カーボン担体内の細孔は高分子電解質によって殆どふさがれていないことが分かる。
【0029】
図8は、図7の結果に基づき、E/C比とカーボン担体の細孔容積との関係をグラフ化したものである。図8より、E/C比を大きくしたときに減少する細孔容積は主に細孔径4nm以上のものであり、細孔径4nm未満の細孔による細孔容積はほとんど変化しないことが分かる。
【0030】
以上の結果から、高分子電解質はカーボン担体の4nm未満の細孔には入らず、4nm未満の細孔に存在する触媒微粒子は電解質に接することができないことが分かる。このような触媒微粒子の周囲には三相界面が形成されず、発電に寄与することができないことも分かる。
【0031】
発明者等は、上記知見に基づき、燃料電池用の触媒として、細孔径が4nm以上の細孔のみを有するカーボン担体に触媒微粒子を担持させてなるものが好適であるとの特許出願を行った(特願2009−013219号)。この触媒によれば、高分子電解質が入り込めない細孔に触媒微粒子が入ることを防ぐことができる。このため、このカーボン担体を用いることで触媒微粒子の利用率を高めることができ、結果として白金の使用量の削減が可能となる。
【0032】
また、発明者等は、図6に示すように、約3.5nmの細孔を有するカーボン担体を用いた触媒において、E/C比を大きくして触媒層を形成すれば、酸素や水素が触媒に供給され難いことを確認したのである。一方、図9に示すように、細孔径が4nm未満の細孔を持たないカーボン担体、すなわち低比表面積カーボン担体を用いた触媒において、E/C比を小さくして触媒層を形成すれば、酸素や水素が触媒に供給されやすいことも確認した。
【0033】
(実施例1)
図10に示すように、実施例1のMEA1は、ナフィオンからなる電解質膜11と、この電解質膜11の一面に接合されて空気が供給されるカソード極3と、電解質膜11の他面に接合されて水素等の燃料が供給されるアノード極5とを有している。
【0034】
カソード極3は、カーボンペーパーからなる基材と、この基材の一面に形成されたカソード触媒層10とからなる。カソード極3におけるカソード触媒層10以外の部分は基材によって構成されており、ここは非電解質層側でカソード触媒層10に空気を拡散するカソード拡散層13とされている。アノード極5はアノード触媒層12とアノード拡散層14とされている。このMEA1のカソード触媒層10は触媒ペーストと、保水材ペーストとによって形成されている。
【0035】
触媒複合体94を構成する触媒ペーストは以下の製造方法で製造されている。まず、図4の(A)に示すカーボン担体91として、市販のBP880を用意した。このBP880は1次粒径が15nm程度である。BP880に対し、触媒微粒子としてのPt微粒子92を担持密度20wt%で担持させ、触媒90とした。この触媒90に対して水を添加し、自転/公転式遠心攪拌機(キーエンス社製、商品名「ハイブリッドミキサーHM−500」)によって脱泡及び攪拌を行い、触媒90と水とをなじませたプレペーストを得た。
【0036】
このプレペーストに対し、5重量%のアイオノマー溶液(ナフィオン溶液(5質量%溶液))を添加した。この際、(アイオノマー溶液中のナフィオンの重量)/(カーボン担体91の重量)(E/C比)が0.15となるように、触媒90に対してアイオノマー溶液を添加した。その後、これらを自転/公転式遠心攪拌機によってさらに攪拌し、触媒ペーストを得た。触媒ペーストでは、触媒90が薄い高分子電解質93で被覆された触媒複合体94を構成している。
【0037】
一方、保水複合体95を構成する保水材ペーストは、以下に示す製造方法で製造されている。まず、保水性のあるカーボン担体96として、Vulcan−XC72R(CABOT社製の商品名)を用意した。このVulcan−XC72Rに溶媒及び5重量%のナフィオン溶液を添加した。この際、(ナフィオン溶液中のナフィオンの重量)/(カーボンの重量)(E/C比)が1.0となるようにナフィオン溶液を添加した。その後、これらを自転/公転式遠心攪拌機によって攪拌し、保水材ペーストを得た。保水材ペーストでは、カーボン担体96が厚い高分子電解質93で被覆された保水複合体95を構成している。
【0038】
得られた触媒ペースト及び保水材ペーストを固形分重量比0.65:0.35の比率で混合し、混合ペーストを得た。この比率でこれらを混合することにより、混合ペースト全体でのE/C比は0.35となる。
【0039】
この混合ペーストを基材にスクリーン印刷をした後、乾燥させ、カソード極3を得た。印刷した部分がカソード触媒層10である。なお、混合ペーストを基材へ塗布する方法としては、スクリーン印刷の他に、スプレー法、インクジェット法等の手段によっても行い得る。また、アノード極5のアノード触媒層12は、上記の触媒ペーストを基材にスクリーン印刷することで得た。
【0040】
図11は、保水材ペーストのE/C比と、重量比/体積比と、触媒層の厚さ増加率との関係を示すグラフである。触媒層は、Pt微粒子92の担持量を0.1mg/cm2としている。
【0041】
図11において、保水材において、プロトンのパスのためのネットワークを確保しつつ、カソード触媒層10全体が極端に厚くならない条件で各数値の最適値を求めると、カソード触媒層10の体積に対する保水材ペーストの固形分の体積比は0.15〜0.25の範囲となる。
【0042】
また、図11において、カソード触媒層10の厚さの増加率が2以下で保水材ペーストのE/C比を決めると、保水材ペーストのE/C比は0.6〜1.2の範囲となる。なお、カソード触媒層10の厚さの増加率(触媒層厚さ増加率)とは、カソード触媒層10を触媒ペーストのみで製造した場合の厚さと、カソード触媒層10を触媒ペースト及び保水材ペーストで製造した場合の厚さとの比である。
【0043】
上記の条件から、保水材ペーストのE/C比を1.0とした場合、保水材ペーストにおける固形分の重量比は0.35となり、体積比は0.17となる。また、カソード触媒層10の厚さ増加率は1.4となる。
【0044】
こうして得られたカソード極3とアノード極5とを電解質層11に接合し、図10に示すMEA1が得られる。
【0045】
得られたMEA1では、カソード極3を構成するカソード触媒層10が触媒ペーストと保水材ペーストとで形成される。このため、図4(B)に示すように、カソード触媒層10には、水を保持可能な保水複合体95が含まれている。そして、この保水複合体95には、高分子電解質93が含まれている。そして、この保水複合体95を構成する保水材ペーストは、上記の図11に示される関係に基づいて、Vulcan−XC72Rと高分子電解質93とが混合されている。このため、このカソード触媒層10では、図4に示すように、保水複合体95中の高分子電解質93によって、このカソード触媒層10には、水パスと同時に、プロトンと電子とのパスのためのネットワークが確保されている。このため、このカソード触媒層10では、高電流領域においてフラッディングが生じ難く、電気化学反応の円滑な進行が妨げられ難くなる。また、このカソード触媒層10は、低加湿環境下での電気化学反応時にカソード触媒層10が乾き難くなり、低加湿環境下においても電気化学反応の円滑な進行が妨げられ難い。
【0046】
さらに、このカソード触媒層10では、上記のように、触媒ペーストのE/C比が0.15となっており、保水材ペーストのE/C比が1.0となっている。このため、触媒複合体94が有する高分子電解質93の量は保水複合体95が有する高分子電解質93の量よりも少ない。このため、触媒複合体94は触媒90の周囲に形成される高分子電解質93による層が薄くなる。特に、触媒ペーストのE/C比が0.15と低い値であることから、このカソード触媒層10では、電気化学反応時に酸素が充分に供給され、かつ、Pt微粒子92の重量比活性が高いため、低電流領域における電気化学反応が円滑に進行されてMEAの性能が高くなっている(図9参照)。
【0047】
したがって、実施例1のMEA1は、全条件下で高電流性能を確保することが可能である。また、このMEA1は、触媒90中のPt微粒子92の使用量を低減できることから、製造コストの低廉化を実現可能である。
【0048】
{検証}
次に、実施例1のMEA1の電圧特性を把握するため、実施例1のMEA1を備えたセルと、比較例1〜5のMEAを備えたセルとで、以下の各実験による検証を行った。なお、実施例1のMEA1及び比較例1〜5のMEAを備えたセルの構成及び製造方法は、公知の構成及び方法と同様である。
【0049】
比較例1〜4のMEAのカソード触媒層は、いずれも保水複合体95を含有させていない単独触媒層である。また、各MEAのカソード触媒層(触媒ペースト)におけるE/C比は以下の通りである。
比較例1:E/C比=0.10
比較例2:E/C比=0.15
比較例3:E/C比=0.35
比較例4:E/C比=0.60
この比較例2のMEAは、保水複合体95の有無を除き、実施例1のMEA1におけるカソード触媒層10と同じ条件とされている。比較例1〜4のMEAにおける他の構成及び製造方法は実施例1のMEAと同様である。
【0050】
(実験例2)
実験例2では、比較例1〜3のMEAを備えた各セルの温度を50°Cに設定し、湿度が100%RHの測定環境(以下、フル加湿状態という。)の下、アノード極5に水素を、カソード極3に空気を流した場合の、各セルの電流及び各セルの電圧の変化を測定した。測定結果を図12に示す。
【0051】
図15では、横軸にセル電流(A)を示し、縦軸にセル電圧(V)を示している(以下に示す、図13〜16も同様である。)。図12に示されるように、フル加湿状態において、E/C比が高いカソード触媒層を備えたセル(MEA)の方が高電流領域で高い電圧を発揮することが可能である。また、E/C比が高いカソード触媒層を備えたセル(MEA)の方が電流の変化に対する電圧の変化の度合いが小さい。
【0052】
(実験例3)
実験例3では、比較例2、3、4のMEAを備えた各セルの温度を70°Cに設定し、湿度が40%RHの測定環境(以下、低加湿状態という。)の下、アノード極5に水素を、カソード極3に空気を流した場合の、各セルの電流及び電圧の変化を測定した。測定結果を図13に示す。
【0053】
図13に示されるように、低加湿状態においても、E/C比が高いカソード触媒層を備えたセルの方が高電流領域で高い電圧を発揮することが可能である。また、この環境下でも、E/C比が高いカソード触媒層を備えたセルの方が電流の変化に対する電圧の変化の度合いが小さい。
【0054】
これらの実験により、以下の点が明らかとなった。すなわち、比較例1、2のMEAのように、カソード触媒層(触媒ペースト)のE/C比を小さくすると、上記のように触媒90の周囲に形成される高分子電解質93による層が薄くなる。このため、電気化学反応時においてPt微粒子92の重量比活性を高めることできる(図3参照)。この一方で、比較例1のMEAでは、高分子電解質93による層が薄くなることで、水パスが不足してしまう。このため、図12に示すように、フル加湿状態下(高加湿条件下)の高電流領域では、カソード触媒層中で生成した水の移動が速やかに行われず、カソード触媒層を含めた触媒層全体において、フラッディングが発生してしまう。このため、E/C比が低い比較例1のMEAでは、電気化学反応の円滑な進行が妨げられ、高電流領域での電圧が低下が大きくなる。このため、燃料電池の性能が低下してしまうこととなる。
【0055】
また、同様に、比較例2のMEAのように、カソード触媒層のE/C比を小さくすると、触媒層全体の保水機能が低下する。このため、図13に示すように、低加湿状態下の高電流領域では、カソード触媒層を含めた触媒層全体が乾燥することで、ドライアップが発生してしまう。このため、フル加湿状態下と同様、電気化学反応の円滑な進行が妨げられ、高電流領域での電圧の低下が大きくなる。このため、上記と同様、燃料電池の性能が低下してしまうこととなる。
【0056】
(実験例4)
実験例4では、実施例1のMEA1を備えたセル及び比較例2のMEAを備えたセルについて、フル加湿状態の下、アノード極5に水素を、カソード極3に空気を流した場合の、各セルの電流及び電圧の変化を測定した。測定結果を図14に示す。
【0057】
図14に示されるように、フル加湿状態において、比較例2のMEAを備えたセルよりも、実施例1のMEA1を備えたセルの方が高電流領域で高い電圧を発揮することが可能である。また、実施例1のMEA1を備えたセルは電流の変化に対する電圧の変化の度合いが小さい。
【0058】
(実験例5)
実験例5では、実施例1のMEA1を備えたセル及び比較例2のMEAを備えたセルについて、低加湿状態の下、アノード極5に水素を、カソード極3に空気を流した場合の、各セルの電流及び電圧の変化を測定した。測定結果を図15に示す。
【0059】
図15に示されるように、低加湿状態においても、比較例2のMEAを備えたセルよりも、実施例1のMEA1を備えたセルの方が高電流領域で高い電圧を発揮することが可能である。また、この環境下でも、実施例1のMEA1を備えたセルは、比較例2のMEAを備えたセルと比べ、電流の変化に対する電圧の変化の度合いが小さい。
【0060】
これらの実験により、実施例1のMEA1を備えたセルは、比較例2のMEAを備えたセルと比較して、フル加湿状態及び低加湿状態のいずれにおいても電流に対する高い電圧特性を示した。つまり、実施例1のMEA1は比較例2のMEAより、環境や電流の変化に対する発電の安定性、すなわち、ロバスト性が高いことが証明された。
【0061】
この理由は、図4(B)に示すように、カソード触媒層10が有する保水複合体95による効果と考えられる。すなわち、実施例1のMEA1では、カソード触媒層10において、触媒微粒子の利用率が高くなる低比表面積カーボン単体を用い、触媒ペーストのE/C比を0.15と低い値に設定して、触媒90の周囲に形成される高分子電解質93による層を薄く保つことで、電気化学反応時に酸素、水素の拡散又は供給が速やかに行われるようになり、そのため触媒微粒子の重量比活性、すなわち低電流領域での燃料電池性能が高くなる。さらに、このカソード触媒層10中に保水複合体95を加えて、カソード触媒層10全体のE/Cを0.35と高めることにより、カソード触媒層10中の水パスを充分確保している。これにより低E/C時の問題点である、フル加湿状態でのフラッディング、低加湿状態でのドライアップを抑制することができた。この結果、実施例1のMEA1は、保水複合体95を含有しない比較例2のMEAと比較して、全ての状態において、高い性能を発揮することができる。
【0062】
(実験例6)
参考実験として、実験例6では、比較例5のMEAを用意した。このMEAは、実施例1のMEAと同様、カソード触媒層を構成する触媒ペーストのE/C比を0.15としている。また、比較例5のMEAは、実施例1の場合と、触媒ペーストと保水材ペーストの混合比率を変更しており、保水複合体を含めたMEA全体のE/C比が0.60となっている。この実験例6では、比較例5のMEAを備えたセル及び比較例2のMEAを備えたセルについて、低加湿状態の下、アノード極5に水素を、カソード極3に空気を流した場合の、各セルの電流及び電圧の変化を測定した。測定結果を図16に示す。
【0063】
図16に示されるように、低加湿状態において、比較例5のMEAを備えたセルは、高電流領域で高い電圧を発揮することが可能となっている。また、比較例5のMEAにおけるE/C比は0.60であることから、図15に示すE/C比が0.35である実施例1のMEA1と比較しても、電流の変化に対する電圧の変化の度合いが小さく、より高性能であることが示されている。
【0064】
(実施例2)
図17に示すように、実施例2のMEA31では、カソード極3におけるカソード触媒層30は、第1層42と第2層43とが順に積層されることで形成されている。この第1層42は実施例1の混合ペーストからなり、第2層は実施例1の保水材ペーストからなる。
【0065】
このカソード触媒層30は、以下の方法によって得られる。まず、保水材ペーストを基材にスクリーン印刷をした後、乾燥させる。こうして第2層43を形成する。その後、混合ペーストを第2層43の表面にスクリーン印刷をして乾燥させる。こうして得られたカソード触媒層30では、電解質膜11上に第1層42と第2層43とが順に層状に形成される。つまり、第2層43が電解質層11の逆側、すなわち、非電解質層側となる。MEA21における他の構成及び製造工程は実施例1と同様であり、同一の構成については同一符号を付して構成の詳細な説明は省略する。
【0066】
このように、このMEA31は、カソード触媒層30に第1層42と第2層43とが形成されている。上記のように、第1層42は、触媒ペーストと保水材ペーストとが混合された混合ペーストによって得られている。すなわち、このMEA31は、第1層42及び第2層43ともに保水複合体95を有している。このため、このMEA31は、実施例1のMEA1よりも高い効果を得られると考えられる。
【0067】
したがって、実施例2のMEA31も、触媒90中のPt微粒子92の使用量低減と高出力化との両立が可能である。
【0068】
以上において、本発明を実施例1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1、2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0069】
例えば、実施例1、2において、アノード触媒層12をカソード触媒層10と同様の構成とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、電気自動車等の移動用電源、屋外据え置き用電源、ポータブル電源等の燃料電池システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0071】
91…カーボン担体
92…Pt微粒子(触媒微粒子)
90…触媒
93…ナフィオン(高分子電解質)
94…触媒複合体
95…保水複合体
11…ナフィオン膜(電解質層)
10、30…カソード触媒層
12…アノード触媒層
1、31…MEA(膜電極接合体)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層の一面に接合され、カーボン担体に触媒微粒子が担持されてなる無数の触媒と、高分子電解質と、水を保持可能な保水材とを含有し、
前記保水材は前記カーボン担体を含み、
前記触媒、該カーボン担体及び前記高分子電解質は、該触媒が該高分子電解質で被覆された触媒複合体と、該カーボン担体が該高分子電解質で被覆された保水複合体とを構成し、
該触媒複合体の該高分子電解質の被覆厚は、該保水複合体の該高分子電解質の該被覆厚よりも薄いことを特徴とする燃料電池用触媒層。
【請求項2】
電解質層と、該電解質層の一面に接合されたカソード触媒層と、該電解質層の他面に接合されたアノード触媒層とを有する膜電極接合体であって、
少なくとも前記カソード触媒層は、カーボン担体に触媒微粒子が担持されてなる無数の触媒と、高分子電解質と、水を保持可能な保水材とを含有し、
前記保水材は前記カーボン担体を含み、
前記触媒、該カーボン担体及び前記高分子電解質は、該触媒が該高分子電解質で被覆された触媒複合体と、該カーボン担体が該高分子電解質で被覆された保水複合体とを構成し、
該触媒複合体の該高分子電解質の被覆厚は、該保水複合体の該高分子電解質の該被覆厚よりも薄いことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項3】
少なくとも前記カソード触媒層は、前記保水複合体からなる保水層が前記電解質層の逆側に積層されて層状に形成されている請求項2記載の膜電極接合体。
【請求項1】
電解質層の一面に接合され、カーボン担体に触媒微粒子が担持されてなる無数の触媒と、高分子電解質と、水を保持可能な保水材とを含有し、
前記保水材は前記カーボン担体を含み、
前記触媒、該カーボン担体及び前記高分子電解質は、該触媒が該高分子電解質で被覆された触媒複合体と、該カーボン担体が該高分子電解質で被覆された保水複合体とを構成し、
該触媒複合体の該高分子電解質の被覆厚は、該保水複合体の該高分子電解質の該被覆厚よりも薄いことを特徴とする燃料電池用触媒層。
【請求項2】
電解質層と、該電解質層の一面に接合されたカソード触媒層と、該電解質層の他面に接合されたアノード触媒層とを有する膜電極接合体であって、
少なくとも前記カソード触媒層は、カーボン担体に触媒微粒子が担持されてなる無数の触媒と、高分子電解質と、水を保持可能な保水材とを含有し、
前記保水材は前記カーボン担体を含み、
前記触媒、該カーボン担体及び前記高分子電解質は、該触媒が該高分子電解質で被覆された触媒複合体と、該カーボン担体が該高分子電解質で被覆された保水複合体とを構成し、
該触媒複合体の該高分子電解質の被覆厚は、該保水複合体の該高分子電解質の該被覆厚よりも薄いことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項3】
少なくとも前記カソード触媒層は、前記保水複合体からなる保水層が前記電解質層の逆側に積層されて層状に形成されている請求項2記載の膜電極接合体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−119209(P2011−119209A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88132(P2010−88132)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
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