説明

燃料電池用電極の製造方法

【課題】ガス拡散層の電解質膜への接合が常温で行え、また全工程を通して電解質膜の補強効果を失うことのない燃料電池用電極の製造方法を提供する。
【解決手段】電解質膜1、触媒層6及びガス拡散層7からなる燃料電池用電極の製造方法において、第1層3を両面粘着層で、第2層4を第1層3から剥がし除去可能なマスク層で構成し、電解質膜1表面の一定領域に対応する領域が第1,第2両層3,4を連続貫通する窓穴5をなす2層フィルム2を、電解質膜1上に第1層3側から貼り付ける。次に、第2層4表面側から窓穴5を通して上記一定領域に触媒層6を塗布する。その後、第2層4のみを剥がし、続いて、触媒層6を含み、第1層3の窓穴5周囲部分に至る領域をガス拡散層7で覆う。第1層3は、所定の触媒層パターンを得るための第2層4の除去後も電解質膜1外周部に残り、電解質膜補強とガス拡散層常温止着に機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池、特に固体高分子形燃料電池に用いられる電極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては例えば特許文献1に記載の発明があった。
これは、所望形状の穴を開けたマスキング部材を電解質膜に引き剥がし可能に貼り付け、その電解質膜に上記穴を通して電極材料を塗布(触媒層を付着形成)し、その後、マスキング部材を電解質膜から剥がす、というものである。
【0003】
【特許文献1】特開2005−63780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来技術では、マスキング部材を電解質膜から剥がした後、電極材料(触媒層)上にガス拡散層を覆い形成する場合に、このガス拡散層の電解質膜への接合が常温では困難であり、例えば熱圧プレスを必要とした。
また、燃料電池用電極の電解質膜は、高出力化のため薄膜化する傾向にあるが、薄膜化されると膜強度、特に膜周辺部の強度の低下が懸念される。上記従来技術では、マスキング部材を電解質膜から剥がすと電解質膜のみとなり、膜強度が低下するが、これに対する配慮はされていなかった。
【0005】
本発明は、上記のような実情に鑑みなされたもので、ガス拡散層の電解質膜への接合が常温で、つまり容易に行え、また、製造工程を通して電解質膜の補強効果を失うことのない燃料電池用電極の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、燃料電池用電極の製造方法を下記各態様の構成とすることによって解決される。
各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも本発明の理解を容易にするためであり、本明細書に記載の技術的特徴及びそれらの組合わせが以下の各項に記載のものに限定されると解釈されるべきではない。また、1つの項に複数の事項が記載されている場合、それら複数の事項を常に一緒に採用しなければならないわけではなく、一部の事項のみを取り出して採用することも可能である。
【0007】
以下の各項のうち、(1)項が請求項1に、(3)項が請求項2に、各々対応する。(2)項は請求項に係る発明ではない。
【0008】
(1)電解質膜表面の一定領域に触媒層を形成し、該触媒層表面にガス拡散層を覆い形成してなる燃料電池用電極の製造方法において、前記電解質膜側の第1層が両面粘着層からなり、前記電解質膜側とは反対側の第2層が前記第1層から剥がし除去可能なマスク層からなり、前記電解質膜表面の一定領域に対応する領域がこれら第1、第2両層を連続貫通する触媒層形成用窓穴をなす2層フィルムを、前記電解質膜の所定領域に第1層側から貼り付ける第1工程と、前記2層フィルムの第2層表面側から前記触媒層形成用窓穴を通して前記電解質膜表面の一定領域に触媒層を付着形成する第2工程と、前記2層フィルムの第2層のみを第1層から剥がし除去する第3工程と、前記触媒層を含み、前記第1層との粘着接合のための該第1層の触媒層形成用窓穴周囲部分に至る領域を前記ガス拡散層で覆い形成する第4工程とを、具備することを特徴とする燃料電池用電極の製造方法。
2層フィルムの第1層を構成する両面粘着層には、例えば耐熱性両面テープが用いられる。また、2層フィルムの第2層を構成するマスク層には、耐熱性、電解質膜の補強ないし保護に必要な剛性、及び化学的安定性を有する合成樹脂材からなるフィルム、例えばPENフィルムやPETフィルム等が好適である。
(2)前記マスク層は、耐熱性、前記電解質膜の補強ないし保護に必要な剛性、及び化学的安定性を有する合成樹脂材からなるフィルムにより構成されることを特徴とする(1)項に記載の燃料電池用電極の製造方法。
本項の発明によれば、製造工程中、マスク層に高温、機械的応力及び化学的な雰囲気が加わってもマスク層としての機能を高精度に保持できる。
(3)前記電解質膜及び2層フィルムが帯状に引き出され、前記第1工程から第4工程中の該当する工程を順次経て帯状に連続する膜・電極・ガス拡散層接合体列を作製し、この膜・電極・ガス拡散層接合体列を予め定められた間隔で切断することにより、単体の膜・電極・ガス拡散層接合体を連続的に製造することを特徴とする(1)項又は(2)項に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
(1)項に記載の発明によれば、触媒層付着形成後にマスク層が剥がし除去されても、電解質膜周辺部の補強(保護)機能は保持され、また、触媒層をガス拡散層で覆い形成する際のガス拡散層の止着を常温によって容易に行える燃料電池用電極の製造方法を提供できる。
(3)項に記載の発明によれば、(1)項に記載の燃料電池用電極の製造を効率よく行うことができる。
なお、(2)項に記載の発明は、本発明(特許請求の範囲に記載した発明)ではないので、上記課題を解決するための手段の欄に、その効果を述べた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。なお、各図間において、同一符号は同一又は相当部分を示す。
図1〜図5は、本発明による燃料電池用電極の製造方法の一実施形態を説明するための図である。
本実施形態は、電解質膜の表面の一定領域に触媒層を形成し、その触媒層の表面にガス拡散層を覆い形成することにより固体高分子形燃料電池用の電極を製造する方法であって、上記電解質膜及び触媒層は、固体高分子形燃料電池用の電極の製造に通常用いられる材料からなる。例えば、電解質膜はイオン交換樹脂材からなり、また触媒層は白金等からなる。
【0011】
まず、図1及び図2に示すように、電解質膜1に2層フィルム2をその第1層3側から貼り付ける(第1工程)。
ここで2層フィルム2は、電解質膜1側の第1層3が両面粘着層からなり、電解質膜1側とは反対側の第2層4が上記第1層3から剥がし除去可能なマスク層からなる。そして、電解質膜1表面の一定領域(触媒形成領域)に対応する領域がこれら第1、第2両層3,4を連続貫通する触媒層形成用窓穴5をなす複合フィルムである。
【0012】
2層フィルム2は、後述するように、電解質膜1表面の上記一定領域以外の無用な箇所まで後述する触媒層が付着形成されるのを防ぎ、つまり、触媒層パターン(外形設計寸法)を正確に得、また電解質膜1周辺部の補強ないし保護を行うための部材である。この2層フィルム2は、第2層4が第1層3から比較的容易に剥がせ、かつ、その剥がし除去された第1層3の表面には少なくとも後述する拡散層を粘着接合(止着)可能な程度の粘着力が保持されるように構成されている。
2層フィルム2の第1層3を構成する両面粘着層には、例えば耐熱性両面テープが用いられる。また、2層フィルム2の第2層4を構成するマスク層には、耐熱性、電解質膜1の補強ないし保護に必要な剛性、及び化学的安定性を有する合成樹脂材からなるフィルム、例えばPENフィルムやPETフィルムが好適である。フッ素系樹脂、例えばPVFEを用いてもよい。
【0013】
次に、図3に示すように、2層フィルム2の第2層であるマスク層4の表面側から触媒層形成用窓穴5を通して電解質膜1の表面1aの一定領域に触媒層6を付着形成、ここでは塗布する(第2工程)。
続いて、図3、図4から分かるように、2層フィルム2のマスク層4のみを第1層である両面粘着層3から剥がし除去する(第3工程)。これにより、電極をなす膜・電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)が形成される。本実施形態では、単なるMEAではなく、表面に両面粘着層3が四角枠状に露出していて、この両面粘着層3にガス拡散層7を常温環境で止着可能な状態にされている。
【0014】
そして、図4、図5から分かるように、触媒層6を含み、両面粘着層3との粘着接合(止着)のための両面粘着層3の触媒層形成用窓穴5の周囲部分に至る領域をガス拡散層7で覆い形成する(第4工程)。このガス拡散層7は、図示例ではほぼ四角形の平板状をなし、その周辺部分の裏面が両面粘着層3の四角枠状に露出する表面に常温下において加圧により粘着接合される。
これにより、広義の電極(電極組立体)をなす膜・電極・ガス拡散層接合体(MEGA:Membrane Electrode Gas diffusion layer Assembly)が形成される。
図5はガス拡散層7の下層に触媒層6があることを示すために、ガス拡散層7の一部を切除して示している。
【0015】
以上に述べた実施形態によれば、電解質膜1表面にマスク層4の上から触媒層6を塗布するので、従来技術と同様に触媒層6の外形状がぼけず、所定のパターン(外形設計寸法)が得られるという効果を有しつつ、次の効果をも有する。
すなわち上記マスク層4は、電解質膜1表面の所定領域に位置付けされて触媒層6塗布時のマスクとして機能するが、同マスク層4は、2層フィルム2の第2層を形成するもので、第1層の両面粘着層3に積層されている。したがって、触媒層6塗布後にマスク層4が剥がし除去されても、電解質膜1周辺には2層フィルム2の第1層、つまり両面粘着層3が残存し、電解質膜1周辺部の補強(保護)機能は保持される。また、電解質膜1周辺に残存する2層フィルム2の第1層が両面粘着層3であるので、触媒層6をガス拡散層7で覆い形成する際の、ガス拡散層7の電極部(MEA)側への止着を両面粘着層3への粘着接合によって、換言すれば常温下で行える。
【0016】
なお上述実施形態では、予め定められた大きさに裁断した枚葉状の電解質膜1に対して触媒層6及びガス拡散層7を形成し、1個の電極組立体(MEGA)製造する例について述べたが、帯状に連続する未裁断の電解質膜1に対して一定間隔で触媒層6及びガス拡散層7を形成し、複数の電極組立体(MEGA)を連続的に製造する形態(電極連続製造形態)を採ってもよい。
【0017】
以下、帯状に連続する未裁断の電解質膜1を用いた電極連続製造形態を採った燃料電池用電極の製造方法の実施形態(本発明の他の実施形態)について説明する。
図6において、電解質膜1についてはロール状に巻かれた状態から、2層フィルム2については両面粘着層3とマスク層4とが積層された後に所定間隔で触媒層形成用窓穴5が連続貫通形成された状態で、各々帯状に引き出されて積層貼付けされ、矢印ア方向に走行される。なお、矢印イはそれら相互間が製造工程上、続いていることを示す。
【0018】
次に、2層フィルム2のマスク層4の表面側から触媒層形成用窓穴5を通して電解質膜1の表面1aの一定領域に触媒層6を付着形成、ここでは塗布し(第2工程)、その後、2層フィルム2のマスク層4のみを両面粘着層3から剥がし除去する(第3工程)。
第3工程を経ると、両面粘着層3が外周部に残された、したがって電解質膜1の補強ないし保護機能が保持され、かつ外周部が粘着性を有して露出した膜・電極接合体(MEA)が帯状に連続作製される。
【0019】
続いて、触媒層6を含み、両面粘着層3の触媒層形成用窓穴5の周囲部分に至る領域をガス拡散層7で覆い形成する(第4工程)。このガス拡散層7は、周辺部分の裏面をそれと対向する位置に露出する両面粘着層3の表面に押圧するだけ、つまり常温下の加圧のみで両面粘着層3に粘着接合される。
【0020】
第4工程を経ると、膜・電極・ガス拡散層接合体(MEGA)が帯状に連続作製される。したがって、最後にこの連続形成された膜・電極・ガス拡散層接合体列に対して予め定められた間隔で切断すれば、電解質膜1周辺部が両面粘着層3で補強された単体の電極(MEGA)が連続的に製造される。
なお、膜・電極接合体(MEA)が連続作製された段階でこれを切断して単体の電極(ここではMEAを指す。)を得、これに対してガス拡散層7の接合を行うようにしてもよい。いずれにしてもガス拡散層7は、両面粘着層3が露出する箇所に当てて押圧するだけで両面粘着層3に粘着接合されるので、ガス拡散層7による触媒層6の覆い形成は容易に行える。
【0021】
上述した実施形態によれば、単体の電極(MEGA)が連続的に製造できるので、図1〜図5に示す実施形態の効果に加えて、電極製造をライン上で効率よく行うことができるという効果がある。
【0022】
なお上述実施形態では、いずれも電解質膜1の片面(図中、上面)にのみに電極(MEA、MEGA)を形成する場合について述べたが、通常、電解質膜1のもう片面(図中、下面)についても同様に電極が形成される。電解質膜1の下面についての電極の形成を図示すれば、図1〜図5については各図の上下を反転した状態で、その図を裏面側から透視した形態で例示される。
また図6において、電解質膜1及び2層フィルム2の幅寸法W1を等しく設定したが、これのみに限定されることはない。例えば、2層フィルム2の幅寸法を電解質膜1の幅寸法よりやや大きく設定してもよい。
2層フィルム2を構成する両面粘着層3及びマスク層4の幅寸法についても同様である。例えば、マスク層4の幅寸法を両面粘着層3の幅寸法よりやや大きく設定してもよく、これによれば、マスク層4は両面粘着層3から剥がし易くなる。
ガス拡散層7は、少なくとも触媒層6の全面を覆い形成可能で、かつ、マスク層4が剥がし除去されて露出する両面粘着層3に外周部が粘着接合可能な大きさに設定される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明方法の一実施形態における第1工程(2層フィルム貼付け前)の説明図である。
【図2】同じく第1工程(2層フィルム貼付け後)の説明図である。
【図3】同じく第2工程の説明図である。
【図4】同じく第3工程の説明図である。
【図5】同じく第4工程の説明図である。
【図6】本発明方法の他の実施形態の説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1:電解質膜、2:2層フィルム、3:両面粘着層(第1層)、4:マスク層(第2層)、5:触媒層形成用窓穴、6:触媒層、7:ガス拡散層。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜表面の一定領域に触媒層を形成し、該触媒層表面にガス拡散層を覆い形成してなる燃料電池用電極の製造方法において、
前記電解質膜側の第1層が両面粘着層からなり、前記電解質膜側とは反対側の第2層が前記第1層から剥がし除去可能なマスク層からなり、前記電解質膜表面の一定領域に対応する領域がこれら第1、第2両層を連続貫通する触媒層形成用窓穴をなす2層フィルムを、前記電解質膜の所定領域に第1層側から貼り付ける第1工程と、
前記2層フィルムの第2層表面側から前記触媒層形成用窓穴を通して前記電解質膜表面の一定領域に触媒層を付着形成する第2工程と、
前記2層フィルムの第2層のみを第1層から剥がし除去する第3工程と、
前記触媒層を含み、前記第1層との粘着接合のための該第1層の触媒層形成用窓穴周囲部分に至る領域を前記ガス拡散層で覆い形成する第4工程とを、
具備することを特徴とする燃料電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記電解質膜及び2層フィルムが帯状に引き出され、前記第1工程から第4工程中の該当する工程を順次経て帯状に連続する膜・電極・ガス拡散層接合体列を作製し、この膜・電極・ガス拡散層接合体列を予め定められた間隔で切断することにより、単体の膜・電極・ガス拡散層接合体を連続的に製造することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−92731(P2010−92731A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261889(P2008−261889)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】