説明

燃料電池用電極の製造方法

【課題】高いプロトン導電率を有する燃料電池用電極の製造方法を提供する。
【解決手段】含浸時間を所定時間に定め、含浸時の雰囲気温度を変えて含浸させたときのイオン液体の含浸量を測定し、該イオン液体の含浸量が触媒層の気孔容積の10〜50%となるように、含浸時の雰囲気温度を設定して触媒層にイオン液体を含浸させるときの条件を設定する。含浸時の雰囲気温度を50〜200℃の間で設定し、含浸時間を3〜150時間の間で設定することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒層にイオン液体が含浸した燃料電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素と酸素との結合エネルギーを直接電気エネルギーに変換する発電装置である。かかる燃料電池の基本構成は、一般的には、電解質膜を一対の電極、すなわちアノードおよびカソードにより挟持されてなるものである。電極は、電極触媒および電解質を含み、外部から供給される反応ガスを拡散させるために多孔質構造をなしている。
【0003】
近年、イオン液体を電解質とする燃料電池が注目されている。イオン液体を電解質として用いることで、100℃以上の高温かつ無加湿で運転が可能となる。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、プロトン伝導性を有する電解質膜、電解質膜の一方の表面に形成された燃料極、および他方の表面に形成された空気極からなる膜電極複合体と、燃料極に液体燃料を供給するための液体燃料室と、燃料極および液体燃料室それぞれに接するように設けられた透過層とを備え、燃料極は燃料極触媒層と、電極触媒及びイオン液体などのプロトン伝導性を有する電解質成分とで構成される燃料極導電層と、を有する燃料電池が開示されている。
【0005】
また、下記特許文献2には、低分子ゲル化剤と、イオン液体と、揮発性物質と、を混合する工程(I)と、前記工程(I)で得られる混合物を触媒と触媒担体とを含む層に塗布する、あるいは触媒、触媒担体および前記工程(I)で得られる混合物を混合したものを電解質膜およびガス拡散層のいずれか一方または両方に塗布する工程(II)と、揮発性物質を揮発させる工程(III)と、を含む燃料電池用触媒電極の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−218098号公報
【特許文献2】特開2008−177134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電解質としてイオン液体を用いた燃料電池において、高い発電効率を得るためには、電極中の触媒層に高いプロトン導電率を保ったまま、プロトンネットワークを形成する必要がある。
【0008】
しかしながら、引用文献1には、イオン液体の含浸量を制御していないため、触媒層にイオン液体が含浸されすぎて、触媒層の細孔を塞いでしまったり、イオン液体の含浸量が十分でなく、プロトン導電性が十分得られないことがあった。
【0009】
また、上記特許文献2のように、イオン液体を触媒層に固定化する方法では、作業工程が増加し、製造コストが嵩む問題があった。また、イオン液体を固定化してしまうことにより、イオン液体本来の高いプロトン導電性が失われ、発電効率が低下することがあった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、高いプロトン導電率を有する燃料電池用電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、触媒層にイオン液体を含浸する際、含浸時の雰囲気温度を高めることで、所定時間におけるイオン液体の含浸量が増加する傾向にあることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明の燃料電池用電極の製造方法は、ガス拡散層と触媒層を備え、前記触媒層にイオン液体が含浸された燃料電池用電極の製造方法であって、前記触媒層にイオン液体を含浸させるときの条件を設定する際に、含浸時間を所定時間に定め、含浸時の雰囲気温度を変えて含浸させたときのイオン液体の含浸量を測定し、該イオン液体の含浸量が前記触媒層の気孔容積の10〜50%となるように、含浸時の雰囲気温度を設定することを特徴とする。
本発明の燃料電池用電極の製造方法は、前記触媒層として、体積当たりの気孔容積が30〜80%であるものを用いることが好ましい。
本発明の燃料電池用電極の製造方法は、含浸時の雰囲気温度を50〜200℃の間で設定することが好ましい。
本発明の燃料電池用電極の製造方法は、含浸時間を3〜150時間の間で設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、触媒層にイオン液体を含浸させるときの条件を設定する際に、含浸時間を所定時間に定め、含浸時の雰囲気温度を変えて含浸させたときのイオン液体の含浸量を測定して、該測定結果に基づいて含浸温度を設定するので、触媒層に所望の含浸量でイオン液体を含浸できる。そして、イオン液体の含浸量が触媒層の気孔容積の10〜50%となるように、含浸時の雰囲気温度を設定するので、燃料電池特性を得る上で最適な三相界面量を触媒層内に形成することができ、燃料電池の発電特性を向上できる。
また、触媒層として、体積当たりの気孔容積が30〜80%であるものを用いることで、ガス拡散性、電子導電性をより良好にできる。
また、含浸時の雰囲気温度を50〜200℃の間で設定することで、触媒層の劣化を抑制しつつ、より短時間で、所望の含浸量でイオン液体を触媒層に含浸できる。
また、含浸時間を3〜150時間の間で設定することで、生産性良く燃料電池用電極を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】燃料電池の概略構成図である。
【図2】含浸雰囲気温度と、イオン液体の含浸量との関係を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、燃料電池用電極を備えた、燃料電池について、図1を用いて説明する。
【0016】
この燃料電池1は、電解質膜10の一方の面に、アノード電極11が配置され、他方の面に、カソード電極12が配置されている。
【0017】
アノード電極11及びカソード電極12は、触媒層21とガス拡散層22とで主に構成されている。
【0018】
ガス拡散層22は、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルトなどの導電性繊維からなる織布、不織布、抄紙体等の多孔質性を有するシート状物で構成されている。
【0019】
触媒層21は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、活性炭、酸化物半導体等の触媒担体に、白金、白金系合金等の触媒金属を担持させた触媒と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、フッ化カーボンなどの有機バインダーとで主に構成された多孔質構造体であって、気孔容積中にイオン液体が含浸している。
【0020】
イオン液体は、1)高いプロトン導電性を有する、2)−30℃〜300℃の温度域で液体状を維持する、3)400℃以上の高温でも物性変化が少なく、耐熱性が高い、4)蒸気圧が低い等の特性を有する。イオン液体としては、カチオン成分とアニオン成分から構成されるものであれば特に限定はない。カチオン成分としては、イミダゾリウム、ピリジウム、アンモニウム、ピロリジニウム、ルチジニウム、トリアゾニウム、インドリウム、ピラゾリウム、カルバゾリウム化合物等を挙げることができる。アニオン成分としては、カルボン酸、スルホン酸、スルホン酸化合物、無機酸等を挙げることができる。具体的には、イオン液体としては、ジエチルメチルアンモニウム・トリフルオロメタンスルホネート、ジエチルメチルアンモニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、ジメチルエチルアンモニウム・トリフルオロメタンスルホネート、ジメチルエチルアンモニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド等が好ましい例として挙げられる。
【0021】
電解質膜10は、多孔質であり、耐熱性が高く、化学的耐久性に優れた多孔質膜であれば特に限定はない。これらの多孔質膜に、上述したイオン液体を含浸する。
【0022】
次に、本発明の燃料電極用電極の製造方法を含めた燃料電池の製造方法について説明する。
【0023】
触媒と、有機バインダーとを混合し、触媒層ペーストを調製する。必要に応じて、アセトン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソペンチルアルコール、エチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、キシレン、スチレン、トルエン、エタノール、メタノール、メチルエチルケトン等の溶剤を加えて、ペースト粘度を調整してもよい。
【0024】
得られた触媒層ペーストを、ガス拡散層に塗布して、ガス拡散層上に触媒層を形成する。触媒層ペーストの塗布方法としては、特に限定はなく、スクリーン印刷法、ロールコート法、スプレー法等が挙げられる。
【0025】
触媒層の膜厚は5〜300μmが好ましく、10〜40μmがより好ましい。触媒層膜厚は薄ければ薄いほど好ましいが、触媒層の膜厚が5μm未満であると、大面積で電極を作製した際に面内に均一に触媒を分散できないことがあり、電子導電性が低下す可能性がある。また、膜厚が300μmを超えると、セル抵抗が高くなり、IR損失が増加する可能性がある。
【0026】
触媒層の体積当たりの気孔容積は、30〜80%が好ましく、55〜75%がより好ましい。前記気孔容積が30%未満であると、触媒の凝集によりガス拡散が阻害される傾向にある。また、前記気孔容積が80%を超えると、触媒同士の密着性が低く、電子導電性が失われる傾向にある。触媒層の気孔容積を調整するには有機バインダーと触媒との質量比を調整し、選定した有機バインダーのガラス転移温度にあわせて、プレス温度やプレス圧を調整すればよい。
【0027】
次に、触媒層にイオン液体を含浸させる。
【0028】
本発明では、触媒層にイオン液体を含浸させるときの条件を設定する際に、含浸時間を所定時間に定め、含浸時の雰囲気温度を変えて含浸させたときのイオン液体の含浸量を測定し、含浸時の雰囲気温度を設定する。
【0029】
含浸時の雰囲気温度は、イオン液体の含浸量が、触媒層中の気孔容積の10〜50%となるように設定する。イオン液体の含浸量は、触媒層中の気孔容積の15〜45%となるように設定することが好ましい。イオン液体の含浸量が、触媒層の気孔容積の10%未満であると、良好なプロトンネットワークが形成されない傾向にある。また、イオン液体の含浸量が、触媒層の気孔容積の50%を超えると、含浸したイオン液体によって触媒層内のガス流路が閉塞され、反応ガスの拡散が阻害される傾向にある。
【0030】
具体的には、含浸時の雰囲気温度は、50〜200℃の間で設定することが好ましく、100〜150℃の間で設定することが特に好ましい。含浸時の雰囲気温度が50℃未満であると、イオン液体の含浸量が所望量に達するのに長時間を要するので、生産性が劣る傾向にある。また、雰囲気温度が200℃を超えると、触媒の劣化(シンタリングなど)が起きて電池特性が低下する傾向にある。
【0031】
また、含浸時間は、触媒層の組成やイオン液体の組成により異なるが、3〜150時間の間で設定することが好ましく、3〜100時間がより好ましい。含浸時間を短時間にするには、含浸時の雰囲気温度を上げる必要があるが、前述したように雰囲気温度を高めると触媒が劣化することがあるので、下限値は3時間が好ましい。また、150時間を超えると、生産性が劣るので、上限値は150時間が好ましい。
【0032】
一例を挙げると、触媒層として、体積当たりの気孔容積が30〜80%であるものを用い、雰囲気温度を70〜150℃(好ましくは70〜120℃)に維持し、3〜100時間イオン液体を含浸させることで、触媒層の気孔容積の10〜50%にイオン液体を含浸させることができる。なお、イオン液体の含浸量は、表面に付着した未含浸のイオン液体を取り除き、含浸前後の触媒層の質量変化から測定できる。
【0033】
イオン液体の含浸方法としては、特に限定はない。例えば、イオン液体を触媒層表面に塗布する方法、触媒層をイオン液体中に浸漬させる方法等が挙げられる。なかでも、イオン液体の塗布量により、イオン液体の含浸量を規定できるので、イオン液体を触媒層表面に塗布する方法がより好ましい。
【0034】
このようにすることで、イオン液体が、触媒層の気孔容積の10〜50%となるように含浸された電極を製造できるので、燃料電池特性を得る上で最適な三相界面量を触媒層に形成することができる。このため、電極における反応活性が向上し、燃料電池の発電性能を良好にできる。
【0035】
そして、この電極の触媒層側の面を、イオン液体を含浸した多孔質膜(電解質膜10)に対向するように、該多孔質膜の両面に配置することで、燃料電池が得られる。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
カーボンブラックに白金を担持した触媒と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンとを、カーボンブラック:PTFEの質量比で1:1の割合で混合して、触媒層ペーストを得た。この触媒層ペーストを、カーボンペーパーに塗布して、体積当たりの気孔容積が70%の触媒層を得た。
この触媒層の表面に、イオン液体(ジエチルメチルアンモニウム・トリフルオロメタンスルホネート)を1mL/cm塗布し、含浸雰囲気温度を50〜200℃とし、100時間含浸を行った。含浸工程終了の触媒層中のイオン液体含浸量を表面に付着した未含浸のイオン液体を取り除き、含浸前後の触媒層の質量変化から調べた。
結果を図2に記す。図2に示すように、含浸時の雰囲気温度を高めることで、イオン液体の含浸量が増加した。そして、含浸時の雰囲気温度を70〜120℃にした場合、気孔容積の10〜50%にイオン液体が含浸されていた。
【0037】
(実施例2)
カーボンブラック担体に白金を担時した触媒と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンとを、カーボンブラック:PTFEの質量比で1:1の割合で混合して、触媒層ペーストを得た。この触媒層ペーストを、カーボンペーパーに塗布して、体積当たりの気孔容積が70%の触媒層を得た。得られた触媒層の表面に、イオン液体(ジエチルメチルアンモニウム・トリフルオロメタンスルホネート)を1mL/cm塗布し、雰囲気温度を100℃で、100時間含浸させて、電極を製造した。この電極は、触媒層の気孔容積の45%がイオン液体で含浸されていた。
このようにして製造した電極を、イオン液体を含浸したSiCとPTFEを混合した多孔質膜(厚さ100μm、気孔率55%)の両側に配置し、燃料電池を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス拡散層と触媒層を備え、前記触媒層にイオン液体が含浸された燃料電池用電極の製造方法であって、
前記触媒層にイオン液体を含浸させるときの条件を設定する際に、含浸時間を所定時間に定め、含浸時の雰囲気温度を変えて含浸させたときのイオン液体の含浸量を測定し、該イオン液体の含浸量が前記触媒層の気孔容積の10〜50%となるように、含浸時の雰囲気温度を設定することを特徴とする燃料電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記触媒層として、体積当たりの気孔容積が30〜80%であるものを用いる、請求項1に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【請求項3】
含浸時の雰囲気温度を50〜200℃の間で設定する、請求項1又は2記載の燃料電池用電極の製造方法。
【請求項4】
含浸時間を3〜150時間の間で設定する、請求項1〜3のいずれか1つに記載の燃料電池用電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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