燃料電池用電極触媒の製造方法
【課題】燃料電池用電極触媒成分に高価な白金を全く使用することなく、いわゆる白金系貴金属燃料電池用電極触媒に匹敵する程度の十分な触媒活性及び耐久性を有する電極触媒を、簡易かつ容易に、しかも安価に製造する。
【解決手段】コバルトのポルフィリン錯体と、炭素系材料と、タングステンのポリ酸(ポリタングステン酸)とを混合して前駆体を作製し、得られた前駆体を、500℃〜600℃の温度範囲内で熱処理することにより、電極触媒として、燃料電池用電極触媒を製造する。
【解決手段】コバルトのポルフィリン錯体と、炭素系材料と、タングステンのポリ酸(ポリタングステン酸)とを混合して前駆体を作製し、得られた前駆体を、500℃〜600℃の温度範囲内で熱処理することにより、電極触媒として、燃料電池用電極触媒を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒の製造方法に関する。さらに詳しくは、固体高分子型燃料電池(PEFC)に好適に使用することができる、コバルト、鉄等のポルフィリン錯体と遷移金属のポリ酸とを主要な触媒成分原料とした、有機−無機ハイブリッド燃料電池用触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンなエネルギー源として、燃料電池が注目されている。燃料電池の中でも、特に固体高分子型燃料電池(PEFC)は、室温動作が可能であり、かつ小型化が可能であるので、ノートパソコン、携帯電話等の携帯機器から、自動車、鉄道、民生用産業用コジェネレーション、発電所等の多様な用途や規模をカバーするエネルギー源として期待されている。
固体高分子型燃料電池(PEFC)は、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)やリン酸型燃料電池(PAFC)等の燃料電池に比べて、高発電効率、高電流密度であり、諸物性に優れているものである。
【0003】
固体高分子型燃料電池(PEFC)は、その中央部分に、プロトン(水素イオン)を水素極から空気極へ移動させるための50μm程度のフィルム状イオン交換膜があり、このイオン交換膜に高分子膜を採用した燃料電池である。この高分子膜の両側には、触媒層が存在し、水素極には、白金触媒、白金・ルテニウム触媒が使用され、空気極には、白金触媒が使用されている。さらに、グラファイト等の特殊構造を有する炭素系材料を使用して、白金等の貴金属触媒成分の量を向上させた構成も提案されている(例えば、特許文献1乃至特許文献3を参照)。
【0004】
しかしながら、上述したグラファイト等の特殊構造を有する炭素系材料を使用した燃料電池用触媒は、いわゆる白金系貴金属触媒であり、白金をその触媒成分とするものである。白金は非常に高価であるため、燃料電池の普及の障害となっている、という問題点を有する。
また、白金系貴金属触媒は、燃料として炭化水素やメタノール等の改質ガスを使用した場合に、改質ガスに含まれる一酸化炭素と反応して失活してしまう、という問題がある。
【0005】
このような観点から、燃料電池用触媒成分に白金を使用しない、非白金触媒の開発が行われており、燃料電池用触媒成分に白金を使用する代わりに、ポルフィリンやフタロシアニンといった、N4−大環状配位子を有する鉄(Fe)やコバルト(Co)の錯体が研究されている。鉄(Fe)やコバルト(Co)錯体においては、カーボンに担持した錯体を600℃付近の温度で熱処理した際に形成される活性点が高活性である一方、耐久性が低いといわれている。このことから耐久性向上のために酸性条件下で安定な酸化物を原料とした触媒の開発がなされている。例えば含浸法により調製したカーボン担持コバルトタングステン触媒を窒化処理した触媒が開示されている。しかしながら、上記触媒の酸化還元開始電位(ORR開始電位)及び定常分極線における電流密度(リニアスイープボルタモメトリー:LSV)測定値は、白金系触媒と対比して十分ではなく、実用化レベルの触媒活性や耐久性が未だ十分でないという問題点を有する。
【0006】
なお、本件特許出願人は、本件発明に関連する文献公知発明が記載された刊行物として、以下の技術文献を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−19332号公報
【特許文献2】特開2008−123810号公報
【特許文献3】特開2006−058578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した状況に鑑み、本発明の課題は、燃料電池用電極触媒成分に高価な白金を全く使用することなく、いわゆる白金系貴金属燃料電池用電極触媒に匹敵する程度の十分な触媒活性及び耐久性を有する電極触媒を、簡易かつ容易に、しかも安価に製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、コバルトのポルフィリン錯体とカーボン(炭素)とポリタングステン酸とを混合し、所定の温度範囲で熱処理することにより、得られる燃料電池用電極触媒が、ORR特性等の諸物性に優れたものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の技術的事項から構成される。即ち
(1)燃料電池用電極触媒を製造する方法であって、
コバルト、鉄、ニッケル、クロム、マンガンから選ばれる1種以上の金属元素を中心金属とするポルフィリン錯体と、炭素系材料と、遷移金属を中心金属とするポリ酸とを混合して前駆体を作製する工程と、
前記前駆体を500℃〜600℃の温度範囲内で熱処理することにより、電極触媒を形成する工程とを有する
燃料電池用電極触媒の製造方法。
(2)前記ポルフィリン錯体として、5,10,15,20−テトラキス(N−メチル−4−ピリジル)ポルフィリナトコバルト(II)・4トルエンスルホナートを使用する、(1)に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
(3)前記ポリ酸として、アンモニウムメタタングステートを使用する、(1)に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
(4)前記ポリ酸として、H3PW12O40又はFePW12O40を使用する、(1)に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
(5)前記炭素系材料は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレンから選ばれる1種以上の炭素系微粒子を使用する、(1)に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
(6)前記炭素系微粒子は、炭素間結合部分に窒素原子が導入された炭素微粒子を使用する、(5)に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法によれば、触媒成分として白金を使用することなく、白金を電極触媒成分とする電極触媒と同程度の触媒活性及び耐久性を有する電極触媒成分を製造することができる。
また、本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法によれば、初期の大きな活性劣化がなく、従来提案されている非白金触媒と比較して、高い活性を有し、かつ、高い耐久性を有する電極触媒を製造することができる。
さらに、本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法によれば、触媒成分として白金を使用することなく、安価な燃料電池用電極触媒を提供することができる。例えば、本発明では、ポリ酸のカーボンに対する強い親和性を利用することにより、触媒原料となるコバルト等のポルフィリン錯体を無駄なく、カーボンに担持することができ、経済的であり、かつ触媒調製が非常に容易となる。同時に、電極触媒成分として白金を使用していないことから、改質ガス等の燃料ガス中に一酸化炭素が存在した場合であっても、電極触媒成分の劣化が全くない、という利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】サイクリックボルタンメトリー(CV)の測定方法を説明するフローチャートである。
【図2】未熱処理状態の各試料のCV曲線を比較した図である。
【図3】熱処理温度を変えた各試料のCV曲線を比較した図である。
【図4】600℃で熱処理したCV曲線を比較した図である。
【図5】カーボン粒子を変えたCV曲線を比較した図である。
【図6】実施例1、実施例2、比較例1、対照例1の各試料の定常分極曲線を比較した図である。
【図7】A、B 耐久性試験の前後におけるLSV測定の結果を示す図である。
【図8】三電極測定の測定方法を説明するフローチャートである。
【図9】ディスク電極への触媒の塗布量と0.8Vvs.RHEでの電流密度の値との関係を示す図である。
【図10】各試料の定常分極曲線を比較した図である。
【図11】図10の0.8V付近の拡大図である。
【図12】各試料のTafel plotを比較した図である。
【図13】各試料の反応電子数を比較した図である。
【図14】各試料の過酸化水素発生量を比較した図である。
【図15】各試料の定常分極曲線を比較した図である。
【図16】図15の0.8V付近の拡大図である。
【図17】熱処理温度と、Co2+/(Co2++Co3+)の比の値及び過酸化水素の発生量との関係を示す図である。
【図18】金属イオンの電荷/イオン半径の比と0.8Vにおける電流密度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、コバルト、鉄、ニッケル、クロム、マンガンから選ばれる1種以上の金属元素を中心金属とするポルフィリン錯体と、炭素系材料と、遷移金属を中心金属とするポリ酸(例えば、ポリタングステン酸)とを混合して前駆体を作製する工程と、この前駆体を500℃〜600℃の温度範囲内で熱処理することにより、電極触媒を作製する工程とを有するものである。
【0013】
まず、本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法において、第一成分として使用されるポルフィリン錯体は、下記の化学式で表される構造を基本的な構造とする、ポルフィリン錯体である。即ち、ポルフィリンのメソ位にカチオン性置換基を有するものであれば、特に限定されるものではない。
ポルフィリン錯体の中心金属Mとしては、コバルトが最も好ましく、鉄、ニッケル、クロム、マンガン、マグネシウム、アルミニウム等の元素であることが好ましい。例えば、中心金属Mをコバルトのみとしたコバルトポルフィリン錯体としても良いし、また、中心金属Mをコバルトと鉄とをモル比1:0.1〜1で混合したコバルト−鉄ポルフィリン錯体としても良い。
【0014】
【化1】
【0015】
上記一般式を満たすコバルトポルフィリン錯体としては、具体的には、例えば、5,10,15,20−テトラキス(N−メチル−4−ピリジル)ポルフィリナトコバルト(II)・4トルエンスルホナート(CoTMPyP・4Tosyl)、5,10,15,20−テトラキス[4−(トリメチル)フェニル]ポルフィリナトコバルト(II)・4トルエンスルホナート等を例示することができる。上記コバルトポルフィリン錯体の中でも、構造が容易で製造が容易である、5,10,15,20−テトラキス(N−メチル−4−ピリジル)ポルフィリナトコバルト(II)・4トルエンスルホナート(CoTMPyP・4Tosyl)が好ましい。
上記コバルトポルフィリン錯体は、水溶性の化合物であり、公知の方法によって製造することができる。一般的には、ポルフィリンスルホン酸にピロールとアルデヒドを酸性下で縮合反応させることによって、製造することができる。例えば、ピリジン−4−アルデヒドとピロールとを適当な割合で混合し、プロピオン酸中で加熱し、その後それぞれのポルフィリン類をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、ヨウ化メチルによってN−メチルピリジニウムイオンに変換することによって製造することができる。なお、化合物の精製には、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを使用し、移動相には、クロロホルム−メタノールを使用することができる。
【0016】
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法において、第二成分として使用されるポリ酸としては、ポリ酸を形成することができる遷移金属を含むポリ酸であれば、特に限定されるものではない。具体的には、タングステン、モリブデン、バナジウム、クロム、マンガン、ニオブ等の周期律表第5A族乃至第7A族に属する遷移金属を中心金属とするポリ酸を例示することができる。
上記ポリ酸の中でも、特に好ましくは、タングステンを中心金属とし、その構造がいわゆるKeggin-type(一般式:XM12O40n−、Xは、周期率表第3B族乃至第5B族元素を表す。Mは、W(タングステン)を示す。n=3〜7の整数を表す。)又はDawson-type(一般式:X2M18O626−)及びM6O19n−(n=3〜7の整数を表す。)に属するポリタングステン酸が好ましい。具体的に、例えば、アンモニウムメタタングステート(NH4)6・[H2W12O40]・nH2O、12−タングストリン酸(H3[PW12O40]・nH2O)のように、W12O404−の他、W10O324−、PW11O397−、SiW11O398−、P2W17O6110−等をアニオンとして含むポリ酸を使用することができる。上記タングステンのポリ酸の中でも、耐酸性の観点から、耐酸性が最も高い、12−タングストリン酸(H3[PW12O40]・nH2O)が最も好ましい。この12−タングストリン酸を使用することにより、製造される電極触媒において高い活性が得られる。
また、12−タングストリン酸と同様の構造を有する化合物として、H8−nXn+W12O24・xH2O(特に、X=P,Si)を使用することができる。さらに、この化合物の水素を他の金属元素で置換した、金属交換ポリオキソタングステートMn/3PW12O40(Mn+=Mg,Ca,Sc,Y,ランタノイド,Ti,Zr,Hf,V,Nd,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Ru,Co,Ni,Cu,Ag,Zn,Al,Ga,Sn,Bi,Se)を使用することもできる。この金属交換ポリオキソタングステートの中では、特に、製造される電極触媒において高い活性が得られる、FePW12O40が好ましい。さらに、上記ポリタングステン酸の他にも、ヘテロポリリン酸アニオン(ポリオキソメタレート)やこの化合物の中心金属に種々の遷移金属、Cs等のアルカリ金属、Mg等のアルカリ土類金属、ランタノイド、セリウム等のランタノイド類を交換した化合物も使用することができる。
【0017】
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法において、第三成分として使用される炭素系材料は、上記第一成分と上記第二成分を担持させて電極触媒を構成するためのものである。第三成分として使用される炭素系材料としては、カーボンを主成分とし、直径3.0〜500nm程度の炭素の微粒子で電気伝導性を有する炭素系材料であれば、特に制限されるものではない。上記炭素系材料としては、いわゆるカーボンブラックは、勿論のこと、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン、シリコンナノチューブ等の炭素系素材を使用することができる。そして、上記炭素系材料として、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレンから選ばれる1種以上の炭素系微粒子を使用することが好ましい。さらに、この炭素系微粒子として、炭素間結合部分に窒素原子が導入された炭素微粒子を使用することが好ましい。ポリ酸の炭素系材料への吸着力の観点から、これらの炭素系材料には、表面官能基が存在し、その表面官能基としては電子供与性であることが好ましい。例えば、ピリジン、ピロール、アミノ基等の非共有電子対を有する電子供与基が存在することが好ましい。
また、炭素系材料の表面積が大きいほど、第一成分及び第二成分を多く担持させることが可能になるので、電極触媒の活性を向上させることができる。
炭素系材料の具体例としては、固体高分子燃料電池用電極触媒の担体として一般的に使用されているバルカン(Vulcan XC−72R)、ケッチェンブラック(Ketjen Black)、ブラックパール(Ketjen Black Pearl 2000)等を例示することができる。これらの炭素系材料の諸物性については、例えば、バルカン(Vulcan XC−72R)は、表面積252m2/g、粒径30nm、電気伝導性4Scm-1であり、ブラックパール(Ketjen Black Pearl 2000)は、表面積1475m2/g、粒径15nmである。
【0018】
次に、本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法においては、第一成分のポルフィリン錯体と第二成分のポリ酸の二成分を必須触媒成分とし、これを担体である第三成分の炭素系材料に担持させて、燃料電池用電極触媒の前駆体とする。このように本発明においては、上記三成分系とすることによって、第二成分であるポリ酸が、第三成分の炭素系材料であるカーボンに強く吸着し、この吸着作用によるカーボンの更なる微粒子化が進行することを特徴とする。また同時に、炭素系材料であるカーボンの内部構造へのポリ酸及びポルフィリン錯体の導入を図ることができる。
つまり、本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法においては、カーボンの微粒子化及び電極触媒成分である第一成分のポルフィリン錯体と第二成分のポリ酸の炭素系材料であるカーボンへの導入の2つの作用により、触媒活性及び耐久性の向上を図ることができるものである。
【0019】
即ち、上記燃料電池用電極触媒の前駆体において、第二成分としてタンスグテンのポリ酸(ポリタングステン酸)を使用することにより、ポリ酸中の酸化タングステン(WOx)がカーボンの微細構造内部に侵入して、さらにカーボンの微細化を促進しているものと考えられる。
また、第一成分であるカチオン性ポルフィリン錯体と、第二成分であるアニオン性ポリタングステン酸との自己組織化が起こり、錯体の分散が進むと考えられる。
本発明においては、このように酸化タングステン(WOx)の還元による第三成分である炭素系材料内部へのプロトンの拡散が進み、各成分の界面が増大するものと考えられる。その結果、燃料電極触媒成分の三相界面が増大することにより、電極触媒活性及び耐久性を向上させることができる。
そして、本発明の製造方法では、触媒成分として白金を使用しないため、安価な燃料電池用触媒を提供することができる。また、触媒成分として白金を使用しないため、改質ガス等の燃料ガス中に一酸化炭素が存在している場合でも電極触媒成分の劣化が全くなくなる。
【0020】
第一成分のポルフィリン錯体と第二成分のポリ酸の二成分を触媒成分とし、これを担体である第三成分の炭素系材料に担持した燃料電池用電極触媒の前駆体を製造するためには、これらの成分を溶媒中で、混合し、所定時間攪拌することによって行う。使用する溶媒としては、各触媒成分が拡散し混合することができ、混合後に燃料電池用電極触媒の前駆体を容易に乾燥できる溶媒であれば、特に制限されるものではない。例えば、水、水−アルコールの混合物を例示することができる。攪拌手段としては、例えばスターラーを例示することができ、スターラーによって所定の回転数により攪拌する。
各成分を混合する順序は特に限定されるものではなく、二成分を混合してから残りの一成分を混合する方法や、三成分を同時に混合する方法が可能である。具体的には、例えば、第一成分のポルフィリン錯体と第三成分の炭素系材料とを混合して、その後に第二成分であるポリ酸を混合させる方法が挙げられる。
【0021】
上記各成分を混合、攪拌終了後に下層の燃料電池用電極触媒の前駆体と上層の溶媒とを分離して、上記前駆体を採取し、その後乾燥させる。さらに、メノウ鉢等により前駆体の粉砕を行い、更に微粒子化を行う。
上記前駆体は、炭素系材料であるカーボンのグラファイト構造がピラーの役割をする上記ポリ酸によって押し広げられた構造を採っており、これにより活性点への酸素の拡散を容易にしているものと考えられる。
【0022】
さらに、本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法においては、上記各電極触媒成分を混合し、攪拌して製造した燃料電池用電極触媒の前駆体を、所定温度かつ所定時間にて熱処理を行う。熱処理を施すことにより、さらに各電極触媒成分の三相界面が増大する。
熱処理を行う所定の温度は、500℃〜600℃の範囲内であることが好ましい。好ましくは、525℃〜585℃であり、最も好ましくは550℃で処理することが好ましい。処理温度が500℃未満であると、十分な活性及び耐久性を得ることができないため、好ましくない。処理温度が600℃を超えると、電極触媒の構造が不安定となり好ましくない。
【0023】
熱処理を行うために、所定量の上記燃料電池用電極触媒前駆体の粉末を、熱処理用の装置や熱処理炉に入れる。例えば、石英リアクターに入れる。
そして、室温からスタートして、所定時間、所定の流量で不活性ガスをパージし、その後、不活性ガスの流量を減少させて、所定の昇温速度にて目的温度まで昇温し、所定時間保持して熱処理を行う。熱処理後、放冷し、燃料電池用電極触媒を得る。
【0024】
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法によって製造される燃料電池用電極触媒を、以下、「本発明に係る燃料電池用電極触媒」と呼ぶこととする。
本発明に係る燃料電池用電極触媒は、特に固体高分子形燃料電池(PEFC)用の電極触媒として用いて好適である。
【0025】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、電解質を介して、水素を導入する一方の極(アノード又は燃料極)と、酸素を導入する反対極(カソード又は空気極)とを配置して、各極にそれぞれ導線等を接続して、構成される。
そして、本発明に係る燃料電池用電極触媒は、上記アノード及び/又はカソードの電極用触媒として使用することができるが、カソード又は空気極側の触媒として用いて好適である。また、ダイレクトメタノール方への適用も可能である。
なお、本発明に係る燃料電池用電極触媒を、カソード又は空気極側の触媒だけではなく、アノード又は燃料極側の触媒としても使用することも可能である。
【0026】
本発明に係る燃料電池用電極触媒を、燃料電池用電極に使用するには、例えば、電極(例えば、カソード又は空気極)に、電極触媒を分散した液を塗布して乾燥させればよい。
また、電極触媒を使用して、所謂MEA(膜・電極接合体)を構成しても良い。
【実施例】
【0027】
以下、本発明について、実施例を用いて説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
上記第一成分のポルフィリン錯体として5,10,15,20−テトラキス(N−メチル−4−ピリジル)ポルフィリナトコバルト(II)・4トルエンスルホナート(CoTMPyP・4Tosyl)を使用し、上記第二成分のポリ酸としてアンモニウムメタタングステートを使用し、上記第三成分の炭素系材料としてバルカン(VulcanXC−72R)を使用して、以下の手順によって、燃料電池用電極触媒の試料を作製した。
まず、4mgのCoCl2をメタノール5mlに混合し、攪拌して第1の溶液を得た。
また、19.8mgのH2TMPyP・4Tosylをイオン交換水5mlに混合し、攪拌して第2の溶液を得た。
次に、第1の溶液を第2の溶液に加えて、さらに2,6−ルチジンを数滴加えて、2日間攪拌した。
このようにして、上記第一成分として、水溶性錯体である、5,10,15,20−テトラキス(N−メチル−4−ピリジル)ポルフィリナトコバルト(II)・4トルエンスルホナート(CoTMPyP・4Tosyl)のイオン交換水水溶液を得た。
【0029】
次に、このCoTMPyP・4Tosylのイオン交換水水溶液に、上記第三成分の炭素系材料として、46.2mgのカーボン粉末(バルカン:VulcanXC−72R粉末)を加えて、1時間ほど攪拌した。
その後、上記第二成分として、42.9mgの(NH4)6・[H2W12O40]・nH2Oを使用して調整した(NH4)6・[H2W12O40]・nH2O水溶液を滴下して、さらに1時間ほど攪拌した。
(NH4)6・[H2W12O40]・nH2Oを加えた際に、カーボン粉末の微粒子化が見られ、無色透明の上澄み溶液とカーボンの沈殿が生成した。
得られた沈殿を濾過してメタノール約20mlで洗浄した後に、120℃で12時間乾燥した。このようにして、電極触媒を作製するための前駆体を得た。
【0030】
さらに、前駆体に対して熱処理を行うために、乾燥して得られた粉末100gを、石英リアクターに入れた。
そして、室温、流量100ml/分で30分間、不活性ガスとしてHeをパージした。
その後、20ml/分までHeの流量を下げて、10K/分で目的温度である550℃まで昇温させて、2時間保持して熱処理した後、放冷した。
このようにして電極触媒を作製して、実施例1の試料とした。この条件において、CoTMPyPと(NH4)6・[H2W12O40]とのモル比は1:1となっている。
【0031】
(実施例2)
第三成分の炭素系材料として、136.6mgのケッチェンブラック(Ketjen Black)を使用した他は、実施例1と同様にして電極触媒を作製して、実施例2の試料とした。
【0032】
(比較例1)
第二成分の(NH4)6・[H2W12O40]・nH2Oは使用せず、その分炭素系材料に担持させるCoTMPyP・4Tosylの量を増やした。その他は実施例1と同様にして電極触媒を作製して、比較例1の試料とした。
【0033】
(比較例2)
第二成分のポリ酸である(NH4)6・[H2W12O40]・nH2Oの代わりに、W酸化物であるNaWO4・2H2Oを使用して、その他は実施例1と同様にして電極触媒を作製して、比較例2の試料とした。
【0034】
(比較例3)
熱処理を行わず、未熱処理の状態の前駆体をそのまま使用する他は、比較例1と同様にして、比較例3の試料とした。
【0035】
(比較例4)
熱処理を行わず、未熱処理の状態の前駆体をそのまま使用する他は、実施例1と同様にして、比較例4の試料とした。
【0036】
(比較例5)
実施例1及び比較例4ではCoTMPyPをカーボンに担持させた後に、(NH4)6・[H2W12O40]・nH2Oを添加していた(操作の略称;IAA)が、その代わりに、CoTMPyPと(NH4)6・[H2W12O40]・nH2Oとを自己組織化させた後に、カーボンに担持させた(操作の略称;IBA)。その他は比較例4と同様に未熱処理の状態の試料を作製して、比較例5の試料とした。
【0037】
(比較例6)
熱処理の目的温度を300℃とする他は、実施例1と同様にして電極触媒を作製して、比較例6の試料とした。
【0038】
(比較例7)
熱処理の目的温度を400℃とする他は、実施例1と同様にして電極触媒を作製して、比較例7の試料とした。
【0039】
(比較例8)
熱処理の目的温度を800℃とする他は、実施例1と同様にして電極触媒を作製して、比較例8の試料とした。
【0040】
(対照例1)
市販の20質量%のPt/C電極触媒を、対照例1として用意した。
【0041】
<特性の測定>
作製した炭素触媒の試料に対して、以下のようにして、各種特性の測定を行った。
【0042】
(サイクリックボルタンメトリー)
各試料について、サイクリックボルタンメトリー(CV)の測定を行った。具体的な測定条件は、以下のようにした。
アルゴン(Ar)雰囲気と、酸素(O2)雰囲気とで、それぞれサイクリックボルタンメトリー(CV)とリニアスイープメトリー(LSV)とを、表1に示す条件で、かつ、図1に示すフローチャートに従って実行した。図1のフローチャートにおいて、S4,S8,S15の各ステップは、アルゴンから酸素に、或いは、酸素からアルゴンに、雰囲気を変えることを示している。
【0043】
【表1】
【0044】
図1のフローチャートに示すステップS1〜S17のうち、S14の測定結果とS17の測定結果との差から、CV曲線を求めた。これは、始めの方のステップでは、測定結果が安定しないことがあるからである。
【0045】
(未熱処理状態での比較)
未熱処理状態の比較例3〜比較例5の各試料について、CV測定により得られたCV曲線を、図2に示す。
図2からわかるように、比較例3のCo/Vulcanの場合と、比較例4及び比較例5のCoW12/Vulcanの場合とで、CV曲線の大きさにはほとんど差が見られなかった。
また、比較例4と比較例5との差は小さいが、ポテンシャルが最小及び最大の部分では、比較例4の方のCV曲線が大きくなっており、先にCoTMPyPをカーボンに担持させた方が良いようである。
【0046】
(熱処理温度による比較)
CoW12/Vulcanの各試料(未熱処理状態の比較例4と、熱処理温度が550℃の実施例1と、比較例6〜比較例8)について、CV測定により得られたCV曲線を、図3に示す。
図3からわかるように、熱処理温度の上昇とともにCV曲線が大きくなっていくが、800℃で熱処理した比較例8の試料では、550℃で熱処理した実施例1の試料よりもCV曲線が小さくなっている。
550℃で熱処理した実施例1の試料のCV曲線には、WO3−xのエレクトロクロミック特性特有の酸化還元ピークが見られる。このことから、Wのポリ酸が熱処理によってWO3−xに変化し、その酸化還元に伴いプロトンが触媒層内部に拡散し、ORRに不可欠な三相界面増大につながっていると考えられる。
即ち、触媒活性を十分に高くするためには、熱処理温度を550℃を含む範囲(前述した500℃〜600℃)とすることが好ましく、熱処理温度が300℃や400℃では低すぎ、熱処理温度が800℃では高すぎることがわかる。
【0047】
(550℃で熱処理した電極触媒の比較)
550℃で熱処理した、実施例1及び比較例1の各試料について、CV測定により得られたCV曲線を、図4に示す。
図4からわかるように、550℃で熱処理したときには、CoWをカーボンに担持させた触媒の方が、Coをカーボンに担持させた触媒と比較して、非常に大きなCV曲線を示す。
即ち、第一成分のコバルトに加えて第二成分のタングステンを使用することにより、電極触媒の活性が向上することがわかった。
【0048】
(カーボン粒子の違いによる比較)
次に、VulcanXC−72Rを用いた実施例1の試料及びKetjen Blackを用いた実施例2の試料について、CV測定により得られたCV曲線を、図5に示す。
図5からわかるように、カーボンとして、より高表面積のKetjen Blackを用いた実施例2の試料は、VulcanXC−72Rを用いた実施例1の試料と比較して、さらに大きなCV曲線が観測された。
即ち、Ketjen Blackを使用することにより、VulcanXC−72Rを使用した場合と比較して、カーボン粒子実表面積が大きいために、電極触媒の活性が向上することがわかった。
【0049】
(定常分極曲線の比較)
実施例1、実施例2、比較例1、対照例1の各試料について、酸素を飽和させた室温の0.5MのH2SO4水溶液中で、三電極セルを使用して、0.2Vvs.RHEで活性の測定を行った。電極への触媒の塗布量を510μg/cm2とし、回転速度を2000rpmとした。
測定により得られた、各試料の定常分極曲線を比較して、図6に示す。
【0050】
図6より、Co−W触媒は、Co触媒と比較して、高電位領域で大きな電流密度を有していることが窺える。即ち、Co−W触媒は、Co触媒と比較して、対照例1のPt/C触媒により近い、高い触媒活性を有することがわかる。
ただし、図6に示したCo触媒及びCo−W触媒の酸素還元開始電位は、いずれも約0.85Vvs.RHEであり、大きな違いは見られなかった。
即ち、第一成分のコバルトに加えて第二成分のタングステンを使用することにより、電流密度が向上することがわかった。
【0051】
(耐久性の比較)
実施例1及び比較例1の各試料について、以下のように耐久性試験を行った。
酸素を飽和させた0.5MのH2SO4水溶液中で、0.2Vvs.RHEで24時間の耐久性試験を行い、耐久性試験の前後においてそれぞれ酸素飽和下で、リニアスイープメトリー(LSV)測定を行った。掃引速度は5mV/sとして、回転速度は2000rpmとした。
比較例1の試料の測定結果を図7Aに示し、実施例1の試料の測定結果を図7Bに示す。
【0052】
図7Aからわかるように、比較例1のCo触媒では、耐久性試験の後に、走査電位全体で電流密度の低下が見られる。
一方、図7Bに示すように、実施例1のCo−W触媒では、耐久性試験の前後で電流密度にほとんど変化が見られなかった。従って、耐久性が大きく向上していることがわかった。
【0053】
なお、実施例1及び比較例1の各試料は、いずれも550℃で熱処理を行っているが、このような熱処理条件で調整した触媒は、一般に900℃といった高温で熱処理した触媒に比べて初期活性は高いが耐久性が低い。
しかしながら、実施例1の触媒は、初期の大きな活性劣化が見られない上に、高い活性も有している。
このように、CoTMPyPとアンモニウムメタタングステートから調製したCo−W触媒は、高い耐久性と活性を示すことがわかった。
【0054】
さらに、実施例1の試料について、得られた測定結果からKoutecky-Levitchプロットを行って、得られる直線の傾きから反応電子数を求めた。
その結果、0.6−0.1Vvs.RHEにおいて、3.82−4.02という値を示した。これにより、O2からH2Oへの高選択的な還元が起こっていることがわかる。
【0055】
(過酸化水素の発生量の比較)
実施例1、比較例1の各試料について、過酸化水素の発生量を比較した。
0.5Vvs.RHEの条件で、発生する過酸化水素の量を測定した。
その結果、実施例1は4.3%、比較例1は11.1%であった。
実施例1のCo−W触媒は、比較例1のCo触媒よりも過酸化水素の発生量を半分程度に低減できることがわかる。
即ち、第一成分のコバルトに加えて第二成分のタングステンを使用することにより、過酸化水素の発生量を大幅に低減できることがわかった。
【0056】
(タングステンの原料の違い)
カーボンの微粒子化は、Mo,Wのポリ酸に限らず、Mo,Wの水溶性酸化物一般に見られる。
比較例2のNaWO4・2H2Oを使用した場合でも、NaWO4・2H2Oを添加した後にカーボンの微粒子化が見られた。
しかしながら、この場合には、(NH4)6・[H2W12O40]・nH2Oを用いた場合において見られた、上澄み液が透明になるほど完全なCoTMPyPのカーボンへの吸着は見られず、カーボンの沈殿後も上澄みにCoTMPyPの色が残っていた。
このように、CoTMPyP・4Tosylといったカチオン性錯体と、Mo,Wといった金属のアニオン性酸化物のイオン結合はMo,Wのポリ酸で特に起こりやすいといえる。
即ち、第二成分である遷移金属のポリ酸を使用することにより、同じ遷移金属の酸化物を使用した場合と比較して、カーボンへの吸着量が増えることがわかる。その結果として、電極触媒の活性を向上することができる。
【0057】
(実施例3)
上記第一成分のポルフィリン錯体として5,10,15,20−テトラキス(N−メチル−4−ピリジル)ポルフィリナトコバルト(II)・4トルエンスルホナート(CoTMPyP・4Tosyl)を使用し、上記第二成分のポリ酸としてタングストリン酸H3PW12O40を使用し、上記第三成分の炭素系材料としてケッチェンブラック(Ketjen black)を使用して、以下の手順によって、燃料電池用電極触媒の試料を作製した。
まず、4.6mgのCoCl2(3.54×10−2mmol)をメタノール5mlに混合し、攪拌して第1の溶液を得た。
また、20.0mg(1.47×10−2mmol)のH2TMPyP・4Tosylをイオン交換水5mlに混合し、攪拌して第2の溶液を得た。
次に、第1の溶液を第2の溶液に加えて、さらに2,6−ルチジンを数滴加えて、2日間攪拌した。
このようにして、上記第一成分として、水溶性錯体である、5,10,15,20−テトラキス(N−メチル−4−ピリジル)ポルフィリナトコバルト(II)・4トルエンスルホナート(CoTMPyP・4Tosyl)のイオン交換水水溶液を得た。
【0058】
次に、このCoTMPyP・4Tosylのイオン交換水水溶液に、上記第三成分の炭素系材料として、47.0mgのカーボン粉末(ケッチェンブラック粉末)を加えて、1時間ほど攪拌した。
その後、上記第二成分として、42.9mgのH3PW12O40を添加した。タングストリン酸水溶液を加えた際に、カーボン粉末の微粒子化が見られ、無色透明の上澄み溶液とカーボンの沈殿が生成した。
得られた沈殿を吸引濾過して、120℃で12時間乾燥させた後に、乳鉢ですりつぶして保存した。このようにして、電極触媒を作製するための前駆体を得た。
【0059】
さらに、前駆体に対して熱処理を行うために、乾燥して得られた粉末を、石英リアクターに入れた。
そして、室温、流量100ml/分で30分間、不活性ガスとしてHeをパージした。
その後、20ml/分までHeの流量を下げて、10K/分で目的温度である550℃まで昇温させて、2時間保持して熱処理した後、放冷した。
このようにして電極触媒を作製して、実施例3の試料とした。この条件において、CoTMPyPとH3PW12O40とのモル比は1:1となっている。
【0060】
(実施例4)
第二成分として、H4SiW12O40の水溶液を使用した他は、実施例3と同様にして電極触媒を作製して、実施例4の試料とした。
【0061】
(実施例5)
実施例3と同様に濃度0.1mol/Lのタングストリン酸水溶液を調整した。また、濃度0.1mol/Lの塩化鉄水溶液を調整した。そして、タングストリン酸水溶液を攪拌した状態で、塩化鉄水溶液を添加して、混合溶液とした。タングストリン酸アニオン(PW12O403−)が3価であるため、金属カチオンが3価である塩化鉄をタングストリン酸と当量添加した。さらに、2日間攪拌した後、50〜80℃を保ったまま、溶媒留去及び乾燥させて、Fe[PW12O40]を得た。
そして、このFePW12O40の水溶液を第二成分として使用した他は、実施例3と同様にして電極触媒を作製して、実施例5の試料とした。
【0062】
(実施例6)
実施例3と同様に濃度0.1mol/Lのタングストリン酸水溶液を調整した。また、濃度0.1mol/Lの塩化コバルト水溶液を調整した。そして、タングストリン酸水溶液を攪拌した状態で、塩化コバルト水溶液を添加して、混合溶液とした。タングストリン酸アニオン(PW12O403−)が3価であるため、金属カチオンが2価である塩化コバルトをタングストリン酸の1.5当量添加した。さらに、2日間攪拌した後、50〜80℃を保ったまま、溶媒留去及び乾燥させて、Co3[PW12O40]2を得た。
そして、第二成分として、このCo3[PW12O40]2の水溶液を使用した他は、実施例3と同様にして電極触媒を作製して、実施例6の試料とした。
【0063】
(実施例7)
第二成分として、ポリオキソモリブデートH3PMo12O40の水溶液を使用した他は、実施例3と同様にして電極触媒を作製して、実施例7の試料とした。
【0064】
(実施例8)
第二成分として、AlPW12O40の水溶液を使用した他は、実施例3と同様にして電極触媒を作製して、実施例8の試料とした。
【0065】
(実施例9)
第一成分として、FeTMPyPを使用した他は、実施例3と同様にして電極触媒を作製して、実施例9の試料とした。
【0066】
(実施例10)
第二成分として、AgPW12O40の水溶液を使用した他は、実施例3と同様にして電極触媒を作製して、実施例10の試料とした。
【0067】
(対照例2)
50質量%のPtを炭素系材料であるバルカン(VulcanXC−72R;VC)に担持させた電極触媒を、対照例2として用意した。
【0068】
<特性の測定>
作製した炭素触媒の試料に対して、以下のようにして、各種特性の測定を行った。
【0069】
(三電極測定)
実施例3〜実施例9、対照例2の各試料について、三電極測定を行った。具体的な測定方法及び条件は、以下のようにした。
電極触媒の試料を15mlチューブ内に入れて、超音波によって15分間分散させた後、さらにチューブミキサーで2分間攪拌した。これをエッペンドルフでディスク電極に塗布して、乾燥させた。さらに、5wt%のNafion溶液2.5μlを塗布して、乾燥させた。
このようにして得られた、電極触媒を塗布したディスク電極を使用して、三電極測定を行った。
アルゴン(Ar)雰囲気と、酸素(O2)雰囲気とで、それぞれサイクリックボルタンメトリー(CV)とリニアスイープメトリー(LSV)とを、表2及び表3に示す条件で、かつ、図8に示すフローチャートに従って実行した。図8のフローチャートにおいて、S24,S27の各ステップは、アルゴンから酸素に、或いは、酸素からアルゴンに、雰囲気を変えることを示している。
【0070】
【表2】
【表3】
【0071】
LSVを、0.05−1.0Vvs.RHE(0.05−1.15Vvs.RHE)で掃引することにより、カソード活性を評価した。
図8のフローチャートに示すステップS21〜S29のうち、Ar飽和下のLSV(S29)の測定結果をベースラインとして、O2飽和下のLSV(S26)の測定結果から、定常分極曲線を作成した。そして、この定常分極曲線から、ORR開始電位(5μA/cm2又は0.2μA/cm2)、0.8Vvs.RHEでの電流密度の値、0.9Vvs.RHEでの電流密度の値を求めた。
【0072】
(塗布量と活性との関係)
実施例3の試料について、ディスク電極への触媒の塗布量を変えて、それぞれ三電極測定を行った。測定結果として、触媒の塗布量と0.8Vvs.RHEでの電流密度の値i0.8Vとの関係を、表4及び図9に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
表4及び図9より、塗布量の増加に伴い、0.8Vvs.RHEでの電流密度の値が直線的に増加していることがわかる。
なお、塗布量が376μgのときの電流密度は206μA/cm−2であった。対照例2の50wt%Pt/VC触媒について同様の測定を行ったところ、0.8Vにおける電流密度で比較すると、実施例3の触媒の場合、対照例2の触媒の52%の活性を示した。また、同様の塗布量で比較した場合、(NH4)6・[H2W12O40]とケッチェンブラックとを使用した触媒よりも活性は向上していた。
【0075】
(ポリ酸の材料による比較)
実施例3〜実施例10の各試料について、それぞれ、触媒の塗布量を376μgとして、触媒をディスク電極へ塗布した。また、対照例2の試料について、触媒の塗布量を10μgとして、触媒をディスク電極に塗布した。そして、掃引範囲0.05−1.0Vvs.RHE及び掃引範囲1.15−0.05Vvs.RHEにおいて、それぞれ上述した方法により三電極測定を行った。
また、測定結果から、ORR開始電位として、0.2μA/cm2の電流が流れたときの電位と、5μA/cm2の電流が流れたときの電位とを求めた。
【0076】
まず、掃引範囲0.05−1.0Vvs.RHEの場合について、各試料の定常分極曲線を比較して図10に示し、図10の0.8V付近の拡大図を図11に示す。
また、各試料のORR開始電位と0.8Vにおける電流密度及び0.9Vにおける電流密度とを、比較して、表5に示す。表5において、ORR開始電位は、0.2μA/cm2の電流が流れたときの電位の後に、()内に5μA/cm2の電流が流れたときの電位を記載している。
【0077】
【表5】
【0078】
表5より、ORR開始電位(0.2μA/cm2)は、それぞれ、H3PW12O40が0.922V、H4SiW12O40が0.861V、FePW12O40が0.935V、CoPW12O40が0.89V、H3PMo12O40が0.868V、AlPW12O40が0.881V、H3PW12O40(FeTMPyP)が0.875V、AgPW12O40が0.866Vを示した。また、0.8Vの電流密度は、FePW12O40が287μA/cm2、H3PW12O40が207μA/cm2であり、電極活性が高い結果が得られた。0.9Vの電流密度は、FePW12O40が8.1μA/cm2、H3PW12O40が5μA/cm2であり、従来の電極触媒では得られなかった高い電極活性が得られている。
【0079】
また、三電極測定の測定結果を利用して、Tafel plotを作成した。
さらに、リング電流により反応電子数を求めた。さらにまた、過酸化水素の発生量を測定した。
各試料のTafel plotを比較して図12に示し、各例の反応電子数を比較して図13に示し、各例の過酸化水素発生量を比較して図14に示す。
また、図12のTafel plotから、各試料のスロープの傾きと、交換電流密度iexと、縦軸の切片Aとを、比較して表6に示す。
【0080】
【表6】
【0081】
表6より、FePW12O40の交換電流密度は5.49×10−6mA/cm2であり、50wt%Pt/VCの交換電流密度7.35×10−6mA/cm2に近い値が得られている。
従って、従来の白金代替触媒よりも高い活性を有することがわかる。
また、図13より、FePW12O40の反応電子数はほぼ4であり、高い4電子還元性を有していることがわかる。
図14より、FePW12O40の過酸化水素生成量は、電圧に関わらず常に1%付近であり、最大でも1.35%と、ほとんど過酸化水素が生成していない。
これらのことから、FePW12O40とコバルトポリフィリンをカーボンに担持した触媒は今後の燃料電池非白金カソード電極触媒に有望な触媒と考えられる。
【0082】
なお、コバルトポリフィリンを使用した実施例3の触媒と、鉄ポリフィリンを使用した実施例9の触媒とを比較すると、0.8Vでの電流密度が、206.5μA/cm−2と49.7μA/cm−2であり、ORR開始電圧が0.922Vと0.875Vである。即ち、第二成分のポリフィリンには、コバルトポリフィリンを使用した方が、鉄ポリフィリンを使用するよりも、活性が高くなることがわかる。
【0083】
次に、掃引範囲1.15−0.05Vvs.RHEの場合について、各試料の定常分極曲線を比較して図15に示し、図15の0.8V付近の拡大図を図16に示す。
また、各試料のORR開始電位と0.8Vにおける電流密度及び0.9Vにおける電流密度とを、比較して、表7に示す。表7において、ORR開始電位は、0.2μA/cm2の電流が流れたときの電位の後に、()内に5μA/cm2の電流が流れたときの電位を記載している。
【0084】
【表7】
【0085】
表7より、この掃引範囲の場合も、FePW12O40のORR開始電圧及び電流密度が、他の例よりも高く、対照例2の50wt%Pt/VCに近い、高い活性が得られていることがわかる。
【0086】
(熱処理温度によるCoの状態の違い)
実施例1、比較例6〜比較例8と同様にして、熱処理温度を、573K(300℃)、673K(400℃)、773K(500℃)、823K(550℃)、973K(700℃)、1073K(800℃)とした触媒の試料を作製した。
これらの各試料について、XPS測定によりCo2+/(Co2++Co3+)の比の値を求め、また、0.5Vvs.RHEでの過酸化水素の発生量を測定した。
これらの結果を、図17に示す。
【0087】
図17より、熱処理温度の上昇と共に、Co2+/(Co2++Co3+)の比の値は増加し、823Kで最大値を取って、それ以上は減少していくことがわかる。
また、過酸化水素の発生量は、Co2+/(Co2++Co3+)の比の値とは逆の傾向である。即ち、Co2+イオンの活性に対する寄与を示すことがわかる。
【0088】
(ポリ酸の金属イオンによる違い)
ポリ酸の金属イオンMn+の電荷/イオン半径の比(e/r)の活性への影響を調べた。
表5に示した測定値から、4つの測定値を抽出し、金属イオンMn+(Ag+,Co2+,Fe3+,Al3+)の電荷/イオン半径の比(e/r)と0.8Vにおける電流密度との関係をプロットして、図18に示す。
図18より、ポリオキソタングステートは、水素イオンの脱プロトン化エネルギー及び交換金属イオンの酸強度序列に関係し、適度な強度のルイス酸(山型の曲線)として作用することがわかる。
さらに、コバルトポリフィリンとタングステンとの2量化を促進させ、コバルトポルフィリンと交換金属を含むタングストリン酸(交換金属としては鉄を用いると活性が高くなる)とによる相乗効果により、著しい酸素還元活性が出現したと考えられる。
また、タングストリン酸は、カソードで発生する過酸化水素と反応して、より強力な酸化剤となるペルオキソ種に変化すると考えられる。
この2価のコバルトポリフィリンとポリオキソタングステートの金属イオンとの自己組織化によるシナジー効果(金属がない場合はプロトン酸さえも作用)により、グラファイト炭素上にコバルトポリフィリンの窒素を介して結合すると考えられる。
【0089】
また、実施例5のFePW12O40と、対照例2の50wt%Pt/VCとについて、金属の単位質量当たりの活性を比較して、表8に示す。
【0090】
【表8】
【0091】
表8より、0.8Vでの活性は、実施例5のFePW12O40が、対照例の50wt%Pt/VCの12.4%の活性であった。また、0.9Vでの活性は、実施例5のFePW12O40が、対照例の50wt%Pt/VCの4.5%の活性であった。
【0092】
本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、上記の通り、触媒成分として白金を使用することなく、白金を電極触媒成分とする電極触媒と同程度の触媒活性及び耐久性を有する電極触媒成分を製造することができ、初期の大きな活性劣化がなく、安価な燃料電池用電極触媒を提供することができるという優れた効果を有するので、ノートパソコン、携帯電話等の携帯機器から、自動車、鉄道、民生用産業用コジェネレーション、発電所等の多様な用途や規模をカバーする燃料電池の分野において活用でき、産業上の利用可能性を有する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒の製造方法に関する。さらに詳しくは、固体高分子型燃料電池(PEFC)に好適に使用することができる、コバルト、鉄等のポルフィリン錯体と遷移金属のポリ酸とを主要な触媒成分原料とした、有機−無機ハイブリッド燃料電池用触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンなエネルギー源として、燃料電池が注目されている。燃料電池の中でも、特に固体高分子型燃料電池(PEFC)は、室温動作が可能であり、かつ小型化が可能であるので、ノートパソコン、携帯電話等の携帯機器から、自動車、鉄道、民生用産業用コジェネレーション、発電所等の多様な用途や規模をカバーするエネルギー源として期待されている。
固体高分子型燃料電池(PEFC)は、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)やリン酸型燃料電池(PAFC)等の燃料電池に比べて、高発電効率、高電流密度であり、諸物性に優れているものである。
【0003】
固体高分子型燃料電池(PEFC)は、その中央部分に、プロトン(水素イオン)を水素極から空気極へ移動させるための50μm程度のフィルム状イオン交換膜があり、このイオン交換膜に高分子膜を採用した燃料電池である。この高分子膜の両側には、触媒層が存在し、水素極には、白金触媒、白金・ルテニウム触媒が使用され、空気極には、白金触媒が使用されている。さらに、グラファイト等の特殊構造を有する炭素系材料を使用して、白金等の貴金属触媒成分の量を向上させた構成も提案されている(例えば、特許文献1乃至特許文献3を参照)。
【0004】
しかしながら、上述したグラファイト等の特殊構造を有する炭素系材料を使用した燃料電池用触媒は、いわゆる白金系貴金属触媒であり、白金をその触媒成分とするものである。白金は非常に高価であるため、燃料電池の普及の障害となっている、という問題点を有する。
また、白金系貴金属触媒は、燃料として炭化水素やメタノール等の改質ガスを使用した場合に、改質ガスに含まれる一酸化炭素と反応して失活してしまう、という問題がある。
【0005】
このような観点から、燃料電池用触媒成分に白金を使用しない、非白金触媒の開発が行われており、燃料電池用触媒成分に白金を使用する代わりに、ポルフィリンやフタロシアニンといった、N4−大環状配位子を有する鉄(Fe)やコバルト(Co)の錯体が研究されている。鉄(Fe)やコバルト(Co)錯体においては、カーボンに担持した錯体を600℃付近の温度で熱処理した際に形成される活性点が高活性である一方、耐久性が低いといわれている。このことから耐久性向上のために酸性条件下で安定な酸化物を原料とした触媒の開発がなされている。例えば含浸法により調製したカーボン担持コバルトタングステン触媒を窒化処理した触媒が開示されている。しかしながら、上記触媒の酸化還元開始電位(ORR開始電位)及び定常分極線における電流密度(リニアスイープボルタモメトリー:LSV)測定値は、白金系触媒と対比して十分ではなく、実用化レベルの触媒活性や耐久性が未だ十分でないという問題点を有する。
【0006】
なお、本件特許出願人は、本件発明に関連する文献公知発明が記載された刊行物として、以下の技術文献を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−19332号公報
【特許文献2】特開2008−123810号公報
【特許文献3】特開2006−058578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した状況に鑑み、本発明の課題は、燃料電池用電極触媒成分に高価な白金を全く使用することなく、いわゆる白金系貴金属燃料電池用電極触媒に匹敵する程度の十分な触媒活性及び耐久性を有する電極触媒を、簡易かつ容易に、しかも安価に製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、コバルトのポルフィリン錯体とカーボン(炭素)とポリタングステン酸とを混合し、所定の温度範囲で熱処理することにより、得られる燃料電池用電極触媒が、ORR特性等の諸物性に優れたものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の技術的事項から構成される。即ち
(1)燃料電池用電極触媒を製造する方法であって、
コバルト、鉄、ニッケル、クロム、マンガンから選ばれる1種以上の金属元素を中心金属とするポルフィリン錯体と、炭素系材料と、遷移金属を中心金属とするポリ酸とを混合して前駆体を作製する工程と、
前記前駆体を500℃〜600℃の温度範囲内で熱処理することにより、電極触媒を形成する工程とを有する
燃料電池用電極触媒の製造方法。
(2)前記ポルフィリン錯体として、5,10,15,20−テトラキス(N−メチル−4−ピリジル)ポルフィリナトコバルト(II)・4トルエンスルホナートを使用する、(1)に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
(3)前記ポリ酸として、アンモニウムメタタングステートを使用する、(1)に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
(4)前記ポリ酸として、H3PW12O40又はFePW12O40を使用する、(1)に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
(5)前記炭素系材料は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレンから選ばれる1種以上の炭素系微粒子を使用する、(1)に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
(6)前記炭素系微粒子は、炭素間結合部分に窒素原子が導入された炭素微粒子を使用する、(5)に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法によれば、触媒成分として白金を使用することなく、白金を電極触媒成分とする電極触媒と同程度の触媒活性及び耐久性を有する電極触媒成分を製造することができる。
また、本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法によれば、初期の大きな活性劣化がなく、従来提案されている非白金触媒と比較して、高い活性を有し、かつ、高い耐久性を有する電極触媒を製造することができる。
さらに、本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法によれば、触媒成分として白金を使用することなく、安価な燃料電池用電極触媒を提供することができる。例えば、本発明では、ポリ酸のカーボンに対する強い親和性を利用することにより、触媒原料となるコバルト等のポルフィリン錯体を無駄なく、カーボンに担持することができ、経済的であり、かつ触媒調製が非常に容易となる。同時に、電極触媒成分として白金を使用していないことから、改質ガス等の燃料ガス中に一酸化炭素が存在した場合であっても、電極触媒成分の劣化が全くない、という利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】サイクリックボルタンメトリー(CV)の測定方法を説明するフローチャートである。
【図2】未熱処理状態の各試料のCV曲線を比較した図である。
【図3】熱処理温度を変えた各試料のCV曲線を比較した図である。
【図4】600℃で熱処理したCV曲線を比較した図である。
【図5】カーボン粒子を変えたCV曲線を比較した図である。
【図6】実施例1、実施例2、比較例1、対照例1の各試料の定常分極曲線を比較した図である。
【図7】A、B 耐久性試験の前後におけるLSV測定の結果を示す図である。
【図8】三電極測定の測定方法を説明するフローチャートである。
【図9】ディスク電極への触媒の塗布量と0.8Vvs.RHEでの電流密度の値との関係を示す図である。
【図10】各試料の定常分極曲線を比較した図である。
【図11】図10の0.8V付近の拡大図である。
【図12】各試料のTafel plotを比較した図である。
【図13】各試料の反応電子数を比較した図である。
【図14】各試料の過酸化水素発生量を比較した図である。
【図15】各試料の定常分極曲線を比較した図である。
【図16】図15の0.8V付近の拡大図である。
【図17】熱処理温度と、Co2+/(Co2++Co3+)の比の値及び過酸化水素の発生量との関係を示す図である。
【図18】金属イオンの電荷/イオン半径の比と0.8Vにおける電流密度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、コバルト、鉄、ニッケル、クロム、マンガンから選ばれる1種以上の金属元素を中心金属とするポルフィリン錯体と、炭素系材料と、遷移金属を中心金属とするポリ酸(例えば、ポリタングステン酸)とを混合して前駆体を作製する工程と、この前駆体を500℃〜600℃の温度範囲内で熱処理することにより、電極触媒を作製する工程とを有するものである。
【0013】
まず、本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法において、第一成分として使用されるポルフィリン錯体は、下記の化学式で表される構造を基本的な構造とする、ポルフィリン錯体である。即ち、ポルフィリンのメソ位にカチオン性置換基を有するものであれば、特に限定されるものではない。
ポルフィリン錯体の中心金属Mとしては、コバルトが最も好ましく、鉄、ニッケル、クロム、マンガン、マグネシウム、アルミニウム等の元素であることが好ましい。例えば、中心金属Mをコバルトのみとしたコバルトポルフィリン錯体としても良いし、また、中心金属Mをコバルトと鉄とをモル比1:0.1〜1で混合したコバルト−鉄ポルフィリン錯体としても良い。
【0014】
【化1】
【0015】
上記一般式を満たすコバルトポルフィリン錯体としては、具体的には、例えば、5,10,15,20−テトラキス(N−メチル−4−ピリジル)ポルフィリナトコバルト(II)・4トルエンスルホナート(CoTMPyP・4Tosyl)、5,10,15,20−テトラキス[4−(トリメチル)フェニル]ポルフィリナトコバルト(II)・4トルエンスルホナート等を例示することができる。上記コバルトポルフィリン錯体の中でも、構造が容易で製造が容易である、5,10,15,20−テトラキス(N−メチル−4−ピリジル)ポルフィリナトコバルト(II)・4トルエンスルホナート(CoTMPyP・4Tosyl)が好ましい。
上記コバルトポルフィリン錯体は、水溶性の化合物であり、公知の方法によって製造することができる。一般的には、ポルフィリンスルホン酸にピロールとアルデヒドを酸性下で縮合反応させることによって、製造することができる。例えば、ピリジン−4−アルデヒドとピロールとを適当な割合で混合し、プロピオン酸中で加熱し、その後それぞれのポルフィリン類をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、ヨウ化メチルによってN−メチルピリジニウムイオンに変換することによって製造することができる。なお、化合物の精製には、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを使用し、移動相には、クロロホルム−メタノールを使用することができる。
【0016】
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法において、第二成分として使用されるポリ酸としては、ポリ酸を形成することができる遷移金属を含むポリ酸であれば、特に限定されるものではない。具体的には、タングステン、モリブデン、バナジウム、クロム、マンガン、ニオブ等の周期律表第5A族乃至第7A族に属する遷移金属を中心金属とするポリ酸を例示することができる。
上記ポリ酸の中でも、特に好ましくは、タングステンを中心金属とし、その構造がいわゆるKeggin-type(一般式:XM12O40n−、Xは、周期率表第3B族乃至第5B族元素を表す。Mは、W(タングステン)を示す。n=3〜7の整数を表す。)又はDawson-type(一般式:X2M18O626−)及びM6O19n−(n=3〜7の整数を表す。)に属するポリタングステン酸が好ましい。具体的に、例えば、アンモニウムメタタングステート(NH4)6・[H2W12O40]・nH2O、12−タングストリン酸(H3[PW12O40]・nH2O)のように、W12O404−の他、W10O324−、PW11O397−、SiW11O398−、P2W17O6110−等をアニオンとして含むポリ酸を使用することができる。上記タングステンのポリ酸の中でも、耐酸性の観点から、耐酸性が最も高い、12−タングストリン酸(H3[PW12O40]・nH2O)が最も好ましい。この12−タングストリン酸を使用することにより、製造される電極触媒において高い活性が得られる。
また、12−タングストリン酸と同様の構造を有する化合物として、H8−nXn+W12O24・xH2O(特に、X=P,Si)を使用することができる。さらに、この化合物の水素を他の金属元素で置換した、金属交換ポリオキソタングステートMn/3PW12O40(Mn+=Mg,Ca,Sc,Y,ランタノイド,Ti,Zr,Hf,V,Nd,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Ru,Co,Ni,Cu,Ag,Zn,Al,Ga,Sn,Bi,Se)を使用することもできる。この金属交換ポリオキソタングステートの中では、特に、製造される電極触媒において高い活性が得られる、FePW12O40が好ましい。さらに、上記ポリタングステン酸の他にも、ヘテロポリリン酸アニオン(ポリオキソメタレート)やこの化合物の中心金属に種々の遷移金属、Cs等のアルカリ金属、Mg等のアルカリ土類金属、ランタノイド、セリウム等のランタノイド類を交換した化合物も使用することができる。
【0017】
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法において、第三成分として使用される炭素系材料は、上記第一成分と上記第二成分を担持させて電極触媒を構成するためのものである。第三成分として使用される炭素系材料としては、カーボンを主成分とし、直径3.0〜500nm程度の炭素の微粒子で電気伝導性を有する炭素系材料であれば、特に制限されるものではない。上記炭素系材料としては、いわゆるカーボンブラックは、勿論のこと、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン、シリコンナノチューブ等の炭素系素材を使用することができる。そして、上記炭素系材料として、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレンから選ばれる1種以上の炭素系微粒子を使用することが好ましい。さらに、この炭素系微粒子として、炭素間結合部分に窒素原子が導入された炭素微粒子を使用することが好ましい。ポリ酸の炭素系材料への吸着力の観点から、これらの炭素系材料には、表面官能基が存在し、その表面官能基としては電子供与性であることが好ましい。例えば、ピリジン、ピロール、アミノ基等の非共有電子対を有する電子供与基が存在することが好ましい。
また、炭素系材料の表面積が大きいほど、第一成分及び第二成分を多く担持させることが可能になるので、電極触媒の活性を向上させることができる。
炭素系材料の具体例としては、固体高分子燃料電池用電極触媒の担体として一般的に使用されているバルカン(Vulcan XC−72R)、ケッチェンブラック(Ketjen Black)、ブラックパール(Ketjen Black Pearl 2000)等を例示することができる。これらの炭素系材料の諸物性については、例えば、バルカン(Vulcan XC−72R)は、表面積252m2/g、粒径30nm、電気伝導性4Scm-1であり、ブラックパール(Ketjen Black Pearl 2000)は、表面積1475m2/g、粒径15nmである。
【0018】
次に、本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法においては、第一成分のポルフィリン錯体と第二成分のポリ酸の二成分を必須触媒成分とし、これを担体である第三成分の炭素系材料に担持させて、燃料電池用電極触媒の前駆体とする。このように本発明においては、上記三成分系とすることによって、第二成分であるポリ酸が、第三成分の炭素系材料であるカーボンに強く吸着し、この吸着作用によるカーボンの更なる微粒子化が進行することを特徴とする。また同時に、炭素系材料であるカーボンの内部構造へのポリ酸及びポルフィリン錯体の導入を図ることができる。
つまり、本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法においては、カーボンの微粒子化及び電極触媒成分である第一成分のポルフィリン錯体と第二成分のポリ酸の炭素系材料であるカーボンへの導入の2つの作用により、触媒活性及び耐久性の向上を図ることができるものである。
【0019】
即ち、上記燃料電池用電極触媒の前駆体において、第二成分としてタンスグテンのポリ酸(ポリタングステン酸)を使用することにより、ポリ酸中の酸化タングステン(WOx)がカーボンの微細構造内部に侵入して、さらにカーボンの微細化を促進しているものと考えられる。
また、第一成分であるカチオン性ポルフィリン錯体と、第二成分であるアニオン性ポリタングステン酸との自己組織化が起こり、錯体の分散が進むと考えられる。
本発明においては、このように酸化タングステン(WOx)の還元による第三成分である炭素系材料内部へのプロトンの拡散が進み、各成分の界面が増大するものと考えられる。その結果、燃料電極触媒成分の三相界面が増大することにより、電極触媒活性及び耐久性を向上させることができる。
そして、本発明の製造方法では、触媒成分として白金を使用しないため、安価な燃料電池用触媒を提供することができる。また、触媒成分として白金を使用しないため、改質ガス等の燃料ガス中に一酸化炭素が存在している場合でも電極触媒成分の劣化が全くなくなる。
【0020】
第一成分のポルフィリン錯体と第二成分のポリ酸の二成分を触媒成分とし、これを担体である第三成分の炭素系材料に担持した燃料電池用電極触媒の前駆体を製造するためには、これらの成分を溶媒中で、混合し、所定時間攪拌することによって行う。使用する溶媒としては、各触媒成分が拡散し混合することができ、混合後に燃料電池用電極触媒の前駆体を容易に乾燥できる溶媒であれば、特に制限されるものではない。例えば、水、水−アルコールの混合物を例示することができる。攪拌手段としては、例えばスターラーを例示することができ、スターラーによって所定の回転数により攪拌する。
各成分を混合する順序は特に限定されるものではなく、二成分を混合してから残りの一成分を混合する方法や、三成分を同時に混合する方法が可能である。具体的には、例えば、第一成分のポルフィリン錯体と第三成分の炭素系材料とを混合して、その後に第二成分であるポリ酸を混合させる方法が挙げられる。
【0021】
上記各成分を混合、攪拌終了後に下層の燃料電池用電極触媒の前駆体と上層の溶媒とを分離して、上記前駆体を採取し、その後乾燥させる。さらに、メノウ鉢等により前駆体の粉砕を行い、更に微粒子化を行う。
上記前駆体は、炭素系材料であるカーボンのグラファイト構造がピラーの役割をする上記ポリ酸によって押し広げられた構造を採っており、これにより活性点への酸素の拡散を容易にしているものと考えられる。
【0022】
さらに、本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法においては、上記各電極触媒成分を混合し、攪拌して製造した燃料電池用電極触媒の前駆体を、所定温度かつ所定時間にて熱処理を行う。熱処理を施すことにより、さらに各電極触媒成分の三相界面が増大する。
熱処理を行う所定の温度は、500℃〜600℃の範囲内であることが好ましい。好ましくは、525℃〜585℃であり、最も好ましくは550℃で処理することが好ましい。処理温度が500℃未満であると、十分な活性及び耐久性を得ることができないため、好ましくない。処理温度が600℃を超えると、電極触媒の構造が不安定となり好ましくない。
【0023】
熱処理を行うために、所定量の上記燃料電池用電極触媒前駆体の粉末を、熱処理用の装置や熱処理炉に入れる。例えば、石英リアクターに入れる。
そして、室温からスタートして、所定時間、所定の流量で不活性ガスをパージし、その後、不活性ガスの流量を減少させて、所定の昇温速度にて目的温度まで昇温し、所定時間保持して熱処理を行う。熱処理後、放冷し、燃料電池用電極触媒を得る。
【0024】
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法によって製造される燃料電池用電極触媒を、以下、「本発明に係る燃料電池用電極触媒」と呼ぶこととする。
本発明に係る燃料電池用電極触媒は、特に固体高分子形燃料電池(PEFC)用の電極触媒として用いて好適である。
【0025】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、電解質を介して、水素を導入する一方の極(アノード又は燃料極)と、酸素を導入する反対極(カソード又は空気極)とを配置して、各極にそれぞれ導線等を接続して、構成される。
そして、本発明に係る燃料電池用電極触媒は、上記アノード及び/又はカソードの電極用触媒として使用することができるが、カソード又は空気極側の触媒として用いて好適である。また、ダイレクトメタノール方への適用も可能である。
なお、本発明に係る燃料電池用電極触媒を、カソード又は空気極側の触媒だけではなく、アノード又は燃料極側の触媒としても使用することも可能である。
【0026】
本発明に係る燃料電池用電極触媒を、燃料電池用電極に使用するには、例えば、電極(例えば、カソード又は空気極)に、電極触媒を分散した液を塗布して乾燥させればよい。
また、電極触媒を使用して、所謂MEA(膜・電極接合体)を構成しても良い。
【実施例】
【0027】
以下、本発明について、実施例を用いて説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
上記第一成分のポルフィリン錯体として5,10,15,20−テトラキス(N−メチル−4−ピリジル)ポルフィリナトコバルト(II)・4トルエンスルホナート(CoTMPyP・4Tosyl)を使用し、上記第二成分のポリ酸としてアンモニウムメタタングステートを使用し、上記第三成分の炭素系材料としてバルカン(VulcanXC−72R)を使用して、以下の手順によって、燃料電池用電極触媒の試料を作製した。
まず、4mgのCoCl2をメタノール5mlに混合し、攪拌して第1の溶液を得た。
また、19.8mgのH2TMPyP・4Tosylをイオン交換水5mlに混合し、攪拌して第2の溶液を得た。
次に、第1の溶液を第2の溶液に加えて、さらに2,6−ルチジンを数滴加えて、2日間攪拌した。
このようにして、上記第一成分として、水溶性錯体である、5,10,15,20−テトラキス(N−メチル−4−ピリジル)ポルフィリナトコバルト(II)・4トルエンスルホナート(CoTMPyP・4Tosyl)のイオン交換水水溶液を得た。
【0029】
次に、このCoTMPyP・4Tosylのイオン交換水水溶液に、上記第三成分の炭素系材料として、46.2mgのカーボン粉末(バルカン:VulcanXC−72R粉末)を加えて、1時間ほど攪拌した。
その後、上記第二成分として、42.9mgの(NH4)6・[H2W12O40]・nH2Oを使用して調整した(NH4)6・[H2W12O40]・nH2O水溶液を滴下して、さらに1時間ほど攪拌した。
(NH4)6・[H2W12O40]・nH2Oを加えた際に、カーボン粉末の微粒子化が見られ、無色透明の上澄み溶液とカーボンの沈殿が生成した。
得られた沈殿を濾過してメタノール約20mlで洗浄した後に、120℃で12時間乾燥した。このようにして、電極触媒を作製するための前駆体を得た。
【0030】
さらに、前駆体に対して熱処理を行うために、乾燥して得られた粉末100gを、石英リアクターに入れた。
そして、室温、流量100ml/分で30分間、不活性ガスとしてHeをパージした。
その後、20ml/分までHeの流量を下げて、10K/分で目的温度である550℃まで昇温させて、2時間保持して熱処理した後、放冷した。
このようにして電極触媒を作製して、実施例1の試料とした。この条件において、CoTMPyPと(NH4)6・[H2W12O40]とのモル比は1:1となっている。
【0031】
(実施例2)
第三成分の炭素系材料として、136.6mgのケッチェンブラック(Ketjen Black)を使用した他は、実施例1と同様にして電極触媒を作製して、実施例2の試料とした。
【0032】
(比較例1)
第二成分の(NH4)6・[H2W12O40]・nH2Oは使用せず、その分炭素系材料に担持させるCoTMPyP・4Tosylの量を増やした。その他は実施例1と同様にして電極触媒を作製して、比較例1の試料とした。
【0033】
(比較例2)
第二成分のポリ酸である(NH4)6・[H2W12O40]・nH2Oの代わりに、W酸化物であるNaWO4・2H2Oを使用して、その他は実施例1と同様にして電極触媒を作製して、比較例2の試料とした。
【0034】
(比較例3)
熱処理を行わず、未熱処理の状態の前駆体をそのまま使用する他は、比較例1と同様にして、比較例3の試料とした。
【0035】
(比較例4)
熱処理を行わず、未熱処理の状態の前駆体をそのまま使用する他は、実施例1と同様にして、比較例4の試料とした。
【0036】
(比較例5)
実施例1及び比較例4ではCoTMPyPをカーボンに担持させた後に、(NH4)6・[H2W12O40]・nH2Oを添加していた(操作の略称;IAA)が、その代わりに、CoTMPyPと(NH4)6・[H2W12O40]・nH2Oとを自己組織化させた後に、カーボンに担持させた(操作の略称;IBA)。その他は比較例4と同様に未熱処理の状態の試料を作製して、比較例5の試料とした。
【0037】
(比較例6)
熱処理の目的温度を300℃とする他は、実施例1と同様にして電極触媒を作製して、比較例6の試料とした。
【0038】
(比較例7)
熱処理の目的温度を400℃とする他は、実施例1と同様にして電極触媒を作製して、比較例7の試料とした。
【0039】
(比較例8)
熱処理の目的温度を800℃とする他は、実施例1と同様にして電極触媒を作製して、比較例8の試料とした。
【0040】
(対照例1)
市販の20質量%のPt/C電極触媒を、対照例1として用意した。
【0041】
<特性の測定>
作製した炭素触媒の試料に対して、以下のようにして、各種特性の測定を行った。
【0042】
(サイクリックボルタンメトリー)
各試料について、サイクリックボルタンメトリー(CV)の測定を行った。具体的な測定条件は、以下のようにした。
アルゴン(Ar)雰囲気と、酸素(O2)雰囲気とで、それぞれサイクリックボルタンメトリー(CV)とリニアスイープメトリー(LSV)とを、表1に示す条件で、かつ、図1に示すフローチャートに従って実行した。図1のフローチャートにおいて、S4,S8,S15の各ステップは、アルゴンから酸素に、或いは、酸素からアルゴンに、雰囲気を変えることを示している。
【0043】
【表1】
【0044】
図1のフローチャートに示すステップS1〜S17のうち、S14の測定結果とS17の測定結果との差から、CV曲線を求めた。これは、始めの方のステップでは、測定結果が安定しないことがあるからである。
【0045】
(未熱処理状態での比較)
未熱処理状態の比較例3〜比較例5の各試料について、CV測定により得られたCV曲線を、図2に示す。
図2からわかるように、比較例3のCo/Vulcanの場合と、比較例4及び比較例5のCoW12/Vulcanの場合とで、CV曲線の大きさにはほとんど差が見られなかった。
また、比較例4と比較例5との差は小さいが、ポテンシャルが最小及び最大の部分では、比較例4の方のCV曲線が大きくなっており、先にCoTMPyPをカーボンに担持させた方が良いようである。
【0046】
(熱処理温度による比較)
CoW12/Vulcanの各試料(未熱処理状態の比較例4と、熱処理温度が550℃の実施例1と、比較例6〜比較例8)について、CV測定により得られたCV曲線を、図3に示す。
図3からわかるように、熱処理温度の上昇とともにCV曲線が大きくなっていくが、800℃で熱処理した比較例8の試料では、550℃で熱処理した実施例1の試料よりもCV曲線が小さくなっている。
550℃で熱処理した実施例1の試料のCV曲線には、WO3−xのエレクトロクロミック特性特有の酸化還元ピークが見られる。このことから、Wのポリ酸が熱処理によってWO3−xに変化し、その酸化還元に伴いプロトンが触媒層内部に拡散し、ORRに不可欠な三相界面増大につながっていると考えられる。
即ち、触媒活性を十分に高くするためには、熱処理温度を550℃を含む範囲(前述した500℃〜600℃)とすることが好ましく、熱処理温度が300℃や400℃では低すぎ、熱処理温度が800℃では高すぎることがわかる。
【0047】
(550℃で熱処理した電極触媒の比較)
550℃で熱処理した、実施例1及び比較例1の各試料について、CV測定により得られたCV曲線を、図4に示す。
図4からわかるように、550℃で熱処理したときには、CoWをカーボンに担持させた触媒の方が、Coをカーボンに担持させた触媒と比較して、非常に大きなCV曲線を示す。
即ち、第一成分のコバルトに加えて第二成分のタングステンを使用することにより、電極触媒の活性が向上することがわかった。
【0048】
(カーボン粒子の違いによる比較)
次に、VulcanXC−72Rを用いた実施例1の試料及びKetjen Blackを用いた実施例2の試料について、CV測定により得られたCV曲線を、図5に示す。
図5からわかるように、カーボンとして、より高表面積のKetjen Blackを用いた実施例2の試料は、VulcanXC−72Rを用いた実施例1の試料と比較して、さらに大きなCV曲線が観測された。
即ち、Ketjen Blackを使用することにより、VulcanXC−72Rを使用した場合と比較して、カーボン粒子実表面積が大きいために、電極触媒の活性が向上することがわかった。
【0049】
(定常分極曲線の比較)
実施例1、実施例2、比較例1、対照例1の各試料について、酸素を飽和させた室温の0.5MのH2SO4水溶液中で、三電極セルを使用して、0.2Vvs.RHEで活性の測定を行った。電極への触媒の塗布量を510μg/cm2とし、回転速度を2000rpmとした。
測定により得られた、各試料の定常分極曲線を比較して、図6に示す。
【0050】
図6より、Co−W触媒は、Co触媒と比較して、高電位領域で大きな電流密度を有していることが窺える。即ち、Co−W触媒は、Co触媒と比較して、対照例1のPt/C触媒により近い、高い触媒活性を有することがわかる。
ただし、図6に示したCo触媒及びCo−W触媒の酸素還元開始電位は、いずれも約0.85Vvs.RHEであり、大きな違いは見られなかった。
即ち、第一成分のコバルトに加えて第二成分のタングステンを使用することにより、電流密度が向上することがわかった。
【0051】
(耐久性の比較)
実施例1及び比較例1の各試料について、以下のように耐久性試験を行った。
酸素を飽和させた0.5MのH2SO4水溶液中で、0.2Vvs.RHEで24時間の耐久性試験を行い、耐久性試験の前後においてそれぞれ酸素飽和下で、リニアスイープメトリー(LSV)測定を行った。掃引速度は5mV/sとして、回転速度は2000rpmとした。
比較例1の試料の測定結果を図7Aに示し、実施例1の試料の測定結果を図7Bに示す。
【0052】
図7Aからわかるように、比較例1のCo触媒では、耐久性試験の後に、走査電位全体で電流密度の低下が見られる。
一方、図7Bに示すように、実施例1のCo−W触媒では、耐久性試験の前後で電流密度にほとんど変化が見られなかった。従って、耐久性が大きく向上していることがわかった。
【0053】
なお、実施例1及び比較例1の各試料は、いずれも550℃で熱処理を行っているが、このような熱処理条件で調整した触媒は、一般に900℃といった高温で熱処理した触媒に比べて初期活性は高いが耐久性が低い。
しかしながら、実施例1の触媒は、初期の大きな活性劣化が見られない上に、高い活性も有している。
このように、CoTMPyPとアンモニウムメタタングステートから調製したCo−W触媒は、高い耐久性と活性を示すことがわかった。
【0054】
さらに、実施例1の試料について、得られた測定結果からKoutecky-Levitchプロットを行って、得られる直線の傾きから反応電子数を求めた。
その結果、0.6−0.1Vvs.RHEにおいて、3.82−4.02という値を示した。これにより、O2からH2Oへの高選択的な還元が起こっていることがわかる。
【0055】
(過酸化水素の発生量の比較)
実施例1、比較例1の各試料について、過酸化水素の発生量を比較した。
0.5Vvs.RHEの条件で、発生する過酸化水素の量を測定した。
その結果、実施例1は4.3%、比較例1は11.1%であった。
実施例1のCo−W触媒は、比較例1のCo触媒よりも過酸化水素の発生量を半分程度に低減できることがわかる。
即ち、第一成分のコバルトに加えて第二成分のタングステンを使用することにより、過酸化水素の発生量を大幅に低減できることがわかった。
【0056】
(タングステンの原料の違い)
カーボンの微粒子化は、Mo,Wのポリ酸に限らず、Mo,Wの水溶性酸化物一般に見られる。
比較例2のNaWO4・2H2Oを使用した場合でも、NaWO4・2H2Oを添加した後にカーボンの微粒子化が見られた。
しかしながら、この場合には、(NH4)6・[H2W12O40]・nH2Oを用いた場合において見られた、上澄み液が透明になるほど完全なCoTMPyPのカーボンへの吸着は見られず、カーボンの沈殿後も上澄みにCoTMPyPの色が残っていた。
このように、CoTMPyP・4Tosylといったカチオン性錯体と、Mo,Wといった金属のアニオン性酸化物のイオン結合はMo,Wのポリ酸で特に起こりやすいといえる。
即ち、第二成分である遷移金属のポリ酸を使用することにより、同じ遷移金属の酸化物を使用した場合と比較して、カーボンへの吸着量が増えることがわかる。その結果として、電極触媒の活性を向上することができる。
【0057】
(実施例3)
上記第一成分のポルフィリン錯体として5,10,15,20−テトラキス(N−メチル−4−ピリジル)ポルフィリナトコバルト(II)・4トルエンスルホナート(CoTMPyP・4Tosyl)を使用し、上記第二成分のポリ酸としてタングストリン酸H3PW12O40を使用し、上記第三成分の炭素系材料としてケッチェンブラック(Ketjen black)を使用して、以下の手順によって、燃料電池用電極触媒の試料を作製した。
まず、4.6mgのCoCl2(3.54×10−2mmol)をメタノール5mlに混合し、攪拌して第1の溶液を得た。
また、20.0mg(1.47×10−2mmol)のH2TMPyP・4Tosylをイオン交換水5mlに混合し、攪拌して第2の溶液を得た。
次に、第1の溶液を第2の溶液に加えて、さらに2,6−ルチジンを数滴加えて、2日間攪拌した。
このようにして、上記第一成分として、水溶性錯体である、5,10,15,20−テトラキス(N−メチル−4−ピリジル)ポルフィリナトコバルト(II)・4トルエンスルホナート(CoTMPyP・4Tosyl)のイオン交換水水溶液を得た。
【0058】
次に、このCoTMPyP・4Tosylのイオン交換水水溶液に、上記第三成分の炭素系材料として、47.0mgのカーボン粉末(ケッチェンブラック粉末)を加えて、1時間ほど攪拌した。
その後、上記第二成分として、42.9mgのH3PW12O40を添加した。タングストリン酸水溶液を加えた際に、カーボン粉末の微粒子化が見られ、無色透明の上澄み溶液とカーボンの沈殿が生成した。
得られた沈殿を吸引濾過して、120℃で12時間乾燥させた後に、乳鉢ですりつぶして保存した。このようにして、電極触媒を作製するための前駆体を得た。
【0059】
さらに、前駆体に対して熱処理を行うために、乾燥して得られた粉末を、石英リアクターに入れた。
そして、室温、流量100ml/分で30分間、不活性ガスとしてHeをパージした。
その後、20ml/分までHeの流量を下げて、10K/分で目的温度である550℃まで昇温させて、2時間保持して熱処理した後、放冷した。
このようにして電極触媒を作製して、実施例3の試料とした。この条件において、CoTMPyPとH3PW12O40とのモル比は1:1となっている。
【0060】
(実施例4)
第二成分として、H4SiW12O40の水溶液を使用した他は、実施例3と同様にして電極触媒を作製して、実施例4の試料とした。
【0061】
(実施例5)
実施例3と同様に濃度0.1mol/Lのタングストリン酸水溶液を調整した。また、濃度0.1mol/Lの塩化鉄水溶液を調整した。そして、タングストリン酸水溶液を攪拌した状態で、塩化鉄水溶液を添加して、混合溶液とした。タングストリン酸アニオン(PW12O403−)が3価であるため、金属カチオンが3価である塩化鉄をタングストリン酸と当量添加した。さらに、2日間攪拌した後、50〜80℃を保ったまま、溶媒留去及び乾燥させて、Fe[PW12O40]を得た。
そして、このFePW12O40の水溶液を第二成分として使用した他は、実施例3と同様にして電極触媒を作製して、実施例5の試料とした。
【0062】
(実施例6)
実施例3と同様に濃度0.1mol/Lのタングストリン酸水溶液を調整した。また、濃度0.1mol/Lの塩化コバルト水溶液を調整した。そして、タングストリン酸水溶液を攪拌した状態で、塩化コバルト水溶液を添加して、混合溶液とした。タングストリン酸アニオン(PW12O403−)が3価であるため、金属カチオンが2価である塩化コバルトをタングストリン酸の1.5当量添加した。さらに、2日間攪拌した後、50〜80℃を保ったまま、溶媒留去及び乾燥させて、Co3[PW12O40]2を得た。
そして、第二成分として、このCo3[PW12O40]2の水溶液を使用した他は、実施例3と同様にして電極触媒を作製して、実施例6の試料とした。
【0063】
(実施例7)
第二成分として、ポリオキソモリブデートH3PMo12O40の水溶液を使用した他は、実施例3と同様にして電極触媒を作製して、実施例7の試料とした。
【0064】
(実施例8)
第二成分として、AlPW12O40の水溶液を使用した他は、実施例3と同様にして電極触媒を作製して、実施例8の試料とした。
【0065】
(実施例9)
第一成分として、FeTMPyPを使用した他は、実施例3と同様にして電極触媒を作製して、実施例9の試料とした。
【0066】
(実施例10)
第二成分として、AgPW12O40の水溶液を使用した他は、実施例3と同様にして電極触媒を作製して、実施例10の試料とした。
【0067】
(対照例2)
50質量%のPtを炭素系材料であるバルカン(VulcanXC−72R;VC)に担持させた電極触媒を、対照例2として用意した。
【0068】
<特性の測定>
作製した炭素触媒の試料に対して、以下のようにして、各種特性の測定を行った。
【0069】
(三電極測定)
実施例3〜実施例9、対照例2の各試料について、三電極測定を行った。具体的な測定方法及び条件は、以下のようにした。
電極触媒の試料を15mlチューブ内に入れて、超音波によって15分間分散させた後、さらにチューブミキサーで2分間攪拌した。これをエッペンドルフでディスク電極に塗布して、乾燥させた。さらに、5wt%のNafion溶液2.5μlを塗布して、乾燥させた。
このようにして得られた、電極触媒を塗布したディスク電極を使用して、三電極測定を行った。
アルゴン(Ar)雰囲気と、酸素(O2)雰囲気とで、それぞれサイクリックボルタンメトリー(CV)とリニアスイープメトリー(LSV)とを、表2及び表3に示す条件で、かつ、図8に示すフローチャートに従って実行した。図8のフローチャートにおいて、S24,S27の各ステップは、アルゴンから酸素に、或いは、酸素からアルゴンに、雰囲気を変えることを示している。
【0070】
【表2】
【表3】
【0071】
LSVを、0.05−1.0Vvs.RHE(0.05−1.15Vvs.RHE)で掃引することにより、カソード活性を評価した。
図8のフローチャートに示すステップS21〜S29のうち、Ar飽和下のLSV(S29)の測定結果をベースラインとして、O2飽和下のLSV(S26)の測定結果から、定常分極曲線を作成した。そして、この定常分極曲線から、ORR開始電位(5μA/cm2又は0.2μA/cm2)、0.8Vvs.RHEでの電流密度の値、0.9Vvs.RHEでの電流密度の値を求めた。
【0072】
(塗布量と活性との関係)
実施例3の試料について、ディスク電極への触媒の塗布量を変えて、それぞれ三電極測定を行った。測定結果として、触媒の塗布量と0.8Vvs.RHEでの電流密度の値i0.8Vとの関係を、表4及び図9に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
表4及び図9より、塗布量の増加に伴い、0.8Vvs.RHEでの電流密度の値が直線的に増加していることがわかる。
なお、塗布量が376μgのときの電流密度は206μA/cm−2であった。対照例2の50wt%Pt/VC触媒について同様の測定を行ったところ、0.8Vにおける電流密度で比較すると、実施例3の触媒の場合、対照例2の触媒の52%の活性を示した。また、同様の塗布量で比較した場合、(NH4)6・[H2W12O40]とケッチェンブラックとを使用した触媒よりも活性は向上していた。
【0075】
(ポリ酸の材料による比較)
実施例3〜実施例10の各試料について、それぞれ、触媒の塗布量を376μgとして、触媒をディスク電極へ塗布した。また、対照例2の試料について、触媒の塗布量を10μgとして、触媒をディスク電極に塗布した。そして、掃引範囲0.05−1.0Vvs.RHE及び掃引範囲1.15−0.05Vvs.RHEにおいて、それぞれ上述した方法により三電極測定を行った。
また、測定結果から、ORR開始電位として、0.2μA/cm2の電流が流れたときの電位と、5μA/cm2の電流が流れたときの電位とを求めた。
【0076】
まず、掃引範囲0.05−1.0Vvs.RHEの場合について、各試料の定常分極曲線を比較して図10に示し、図10の0.8V付近の拡大図を図11に示す。
また、各試料のORR開始電位と0.8Vにおける電流密度及び0.9Vにおける電流密度とを、比較して、表5に示す。表5において、ORR開始電位は、0.2μA/cm2の電流が流れたときの電位の後に、()内に5μA/cm2の電流が流れたときの電位を記載している。
【0077】
【表5】
【0078】
表5より、ORR開始電位(0.2μA/cm2)は、それぞれ、H3PW12O40が0.922V、H4SiW12O40が0.861V、FePW12O40が0.935V、CoPW12O40が0.89V、H3PMo12O40が0.868V、AlPW12O40が0.881V、H3PW12O40(FeTMPyP)が0.875V、AgPW12O40が0.866Vを示した。また、0.8Vの電流密度は、FePW12O40が287μA/cm2、H3PW12O40が207μA/cm2であり、電極活性が高い結果が得られた。0.9Vの電流密度は、FePW12O40が8.1μA/cm2、H3PW12O40が5μA/cm2であり、従来の電極触媒では得られなかった高い電極活性が得られている。
【0079】
また、三電極測定の測定結果を利用して、Tafel plotを作成した。
さらに、リング電流により反応電子数を求めた。さらにまた、過酸化水素の発生量を測定した。
各試料のTafel plotを比較して図12に示し、各例の反応電子数を比較して図13に示し、各例の過酸化水素発生量を比較して図14に示す。
また、図12のTafel plotから、各試料のスロープの傾きと、交換電流密度iexと、縦軸の切片Aとを、比較して表6に示す。
【0080】
【表6】
【0081】
表6より、FePW12O40の交換電流密度は5.49×10−6mA/cm2であり、50wt%Pt/VCの交換電流密度7.35×10−6mA/cm2に近い値が得られている。
従って、従来の白金代替触媒よりも高い活性を有することがわかる。
また、図13より、FePW12O40の反応電子数はほぼ4であり、高い4電子還元性を有していることがわかる。
図14より、FePW12O40の過酸化水素生成量は、電圧に関わらず常に1%付近であり、最大でも1.35%と、ほとんど過酸化水素が生成していない。
これらのことから、FePW12O40とコバルトポリフィリンをカーボンに担持した触媒は今後の燃料電池非白金カソード電極触媒に有望な触媒と考えられる。
【0082】
なお、コバルトポリフィリンを使用した実施例3の触媒と、鉄ポリフィリンを使用した実施例9の触媒とを比較すると、0.8Vでの電流密度が、206.5μA/cm−2と49.7μA/cm−2であり、ORR開始電圧が0.922Vと0.875Vである。即ち、第二成分のポリフィリンには、コバルトポリフィリンを使用した方が、鉄ポリフィリンを使用するよりも、活性が高くなることがわかる。
【0083】
次に、掃引範囲1.15−0.05Vvs.RHEの場合について、各試料の定常分極曲線を比較して図15に示し、図15の0.8V付近の拡大図を図16に示す。
また、各試料のORR開始電位と0.8Vにおける電流密度及び0.9Vにおける電流密度とを、比較して、表7に示す。表7において、ORR開始電位は、0.2μA/cm2の電流が流れたときの電位の後に、()内に5μA/cm2の電流が流れたときの電位を記載している。
【0084】
【表7】
【0085】
表7より、この掃引範囲の場合も、FePW12O40のORR開始電圧及び電流密度が、他の例よりも高く、対照例2の50wt%Pt/VCに近い、高い活性が得られていることがわかる。
【0086】
(熱処理温度によるCoの状態の違い)
実施例1、比較例6〜比較例8と同様にして、熱処理温度を、573K(300℃)、673K(400℃)、773K(500℃)、823K(550℃)、973K(700℃)、1073K(800℃)とした触媒の試料を作製した。
これらの各試料について、XPS測定によりCo2+/(Co2++Co3+)の比の値を求め、また、0.5Vvs.RHEでの過酸化水素の発生量を測定した。
これらの結果を、図17に示す。
【0087】
図17より、熱処理温度の上昇と共に、Co2+/(Co2++Co3+)の比の値は増加し、823Kで最大値を取って、それ以上は減少していくことがわかる。
また、過酸化水素の発生量は、Co2+/(Co2++Co3+)の比の値とは逆の傾向である。即ち、Co2+イオンの活性に対する寄与を示すことがわかる。
【0088】
(ポリ酸の金属イオンによる違い)
ポリ酸の金属イオンMn+の電荷/イオン半径の比(e/r)の活性への影響を調べた。
表5に示した測定値から、4つの測定値を抽出し、金属イオンMn+(Ag+,Co2+,Fe3+,Al3+)の電荷/イオン半径の比(e/r)と0.8Vにおける電流密度との関係をプロットして、図18に示す。
図18より、ポリオキソタングステートは、水素イオンの脱プロトン化エネルギー及び交換金属イオンの酸強度序列に関係し、適度な強度のルイス酸(山型の曲線)として作用することがわかる。
さらに、コバルトポリフィリンとタングステンとの2量化を促進させ、コバルトポルフィリンと交換金属を含むタングストリン酸(交換金属としては鉄を用いると活性が高くなる)とによる相乗効果により、著しい酸素還元活性が出現したと考えられる。
また、タングストリン酸は、カソードで発生する過酸化水素と反応して、より強力な酸化剤となるペルオキソ種に変化すると考えられる。
この2価のコバルトポリフィリンとポリオキソタングステートの金属イオンとの自己組織化によるシナジー効果(金属がない場合はプロトン酸さえも作用)により、グラファイト炭素上にコバルトポリフィリンの窒素を介して結合すると考えられる。
【0089】
また、実施例5のFePW12O40と、対照例2の50wt%Pt/VCとについて、金属の単位質量当たりの活性を比較して、表8に示す。
【0090】
【表8】
【0091】
表8より、0.8Vでの活性は、実施例5のFePW12O40が、対照例の50wt%Pt/VCの12.4%の活性であった。また、0.9Vでの活性は、実施例5のFePW12O40が、対照例の50wt%Pt/VCの4.5%の活性であった。
【0092】
本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、上記の通り、触媒成分として白金を使用することなく、白金を電極触媒成分とする電極触媒と同程度の触媒活性及び耐久性を有する電極触媒成分を製造することができ、初期の大きな活性劣化がなく、安価な燃料電池用電極触媒を提供することができるという優れた効果を有するので、ノートパソコン、携帯電話等の携帯機器から、自動車、鉄道、民生用産業用コジェネレーション、発電所等の多様な用途や規模をカバーする燃料電池の分野において活用でき、産業上の利用可能性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用電極触媒を製造する方法であって、
コバルト、鉄、ニッケル、クロム、マンガンから選ばれる1種以上の金属元素を中心金属とするポルフィリン錯体と、炭素系材料と、遷移金属を中心金属とするポリ酸とを混合して前駆体を作製する工程と、
前記前駆体を500℃〜600℃の温度範囲内で熱処理することにより、電極触媒を形成する工程とを有する
燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項2】
前記ポルフィリン錯体として、5,10,15,20−テトラキス(N−メチル−4−ピリジル)ポルフィリナトコバルト(II)・4トルエンスルホナートを使用する、請求項1に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項3】
前記ポリ酸として、アンモニウムメタタングステートを使用する、請求項1に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項4】
前記ポリ酸として、H3PW12O40又はFePW12O40を使用する、請求項1に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項5】
前記炭素系材料は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレンから選ばれる1種以上の炭素系微粒子を使用する、請求項1に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項6】
前記炭素系微粒子は、炭素間結合部分に窒素原子が導入された炭素微粒子を使用する、請求項5に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項1】
燃料電池用電極触媒を製造する方法であって、
コバルト、鉄、ニッケル、クロム、マンガンから選ばれる1種以上の金属元素を中心金属とするポルフィリン錯体と、炭素系材料と、遷移金属を中心金属とするポリ酸とを混合して前駆体を作製する工程と、
前記前駆体を500℃〜600℃の温度範囲内で熱処理することにより、電極触媒を形成する工程とを有する
燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項2】
前記ポルフィリン錯体として、5,10,15,20−テトラキス(N−メチル−4−ピリジル)ポルフィリナトコバルト(II)・4トルエンスルホナートを使用する、請求項1に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項3】
前記ポリ酸として、アンモニウムメタタングステートを使用する、請求項1に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項4】
前記ポリ酸として、H3PW12O40又はFePW12O40を使用する、請求項1に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項5】
前記炭素系材料は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレンから選ばれる1種以上の炭素系微粒子を使用する、請求項1に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項6】
前記炭素系微粒子は、炭素間結合部分に窒素原子が導入された炭素微粒子を使用する、請求項5に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−201416(P2010−201416A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22566(P2010−22566)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年11月30日 社団法人電気化学会電池技術委員会発行 「第50回「電池討論会」講演要旨集」
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年11月30日 社団法人電気化学会電池技術委員会発行 「第50回「電池討論会」講演要旨集」
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】
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