説明

燃料電池発電セル

【課題】燃料電池スタック内のガス拡散層内部に液水等が滞留することを抑制し、ガス拡散層表面の空孔閉塞を抑制し得る燃料電池発電セルを提供すること。
【解決手段】撥水処理又は撥油処理又は親水処理がなされた多孔質体であり、この多孔質体の内部に縦断面がテーパー状の管部6が形成されているガス拡散層2を備えた燃料電池発電セルである。テーパー状管部が複数形成され、これらの長手方向の横断面変化率が不均一である。テーパー状管部が集合体をなし、中央にあるテーパー状管部から離間するに従い、テーパー状管部の半径が小さくなるように他のテーパー状管部が周設されている。隣接するテーパー状管部同士が流路により連通している。テーパー状管部が消失型によって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池発電セルに係り、更に詳細には、スタック化したときにガス拡散層内に対流する液水等を効率良く誘導し、常に安定性した運転が可能な燃料電池発電セルに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、燃料が有する化学エネルギを直接電気エネルギに変換する装置であり、電解質膜を挟んで設けられた一対の電極のうち陽極に水素を含有する燃料ガスを供給するとともに、他方の陰極に酸素を含有する酸素剤ガスを供給し、これら一対の電極の電解質膜側の表面で生じる下記の電気化学反応を利用して電極から電気エネルギを取り出すものである(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−106914号公報
【0003】
陽極反応: H → 2H + 2e …(1)
陰極反応: 2H + 2e + (1/2)O → HO …(2)
【0004】
ここで、陽極へ燃料ガスを供給する方法としては、水素貯蔵装置から直接供給する方法、水素を含有する燃料を改質して改質した水素含有ガスを供給する方法などが知られている。上記水素貯蔵装置には、高圧ガスタンク、液化水素タンク、水素吸蔵合金タンク等があり、上記水素含有燃料には、天然ガス、メタノール、ガソリン等が考えられる。
また、陰極へ供給する酸化剤ガスとしては、一般的に空気中の酸素が利用されている。
【0005】
燃料電池システムにより発電を行うと、上記(2)式の右辺にあるように水が必然的に生成される。この水は発電部位の周囲環境により、ガス又は液体として発生する。
例えば、自動車の動力源として燃料電池システムを使用する場合は、セルの温度が40℃以下、ガス流速が遅い、圧力が約2気圧などの使用条件下で、酸化剤ガス側のガス拡散層内で水蒸気が液水へと相変化し、ガス拡散層内の空間を通り、表面に多数の水滴が生成されることが、観察実験から確認されている。
【0006】
かかる水滴の生成量が多いと、ガス拡散層の内部の空間を液水が占有し、酸化剤ガスが発電セル内部の発電面まで到達できず、いわゆるフラッディング現象が生じる。
このフラッディング現象が発生すると、電圧が低下し、ひいては発電不能となり、これを動力源とするアプリケーションが運転不能となる事態に陥ってしまう。
【0007】
このため、親水性処理又は撥水性処理を施した多孔質且つ膜状の熱硬化性樹脂を、層状に1層以上積層することで液水の排出を行うことが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献2】特開2004−288400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の技術では、層状の樹脂膜を燃料電池スタックとともに積層するが、樹脂膜は電気伝導性が低いためセル電圧の低下を招き、また、膜状の樹脂はガスの流通のためには閉塞物となる抵抗体であり、フラッディングを起こさない運転条件では燃料ガスや酸化剤ガスの拡散・流動を妨げ、逆効果となっていた。
また、積層面内で親水性が均一で、生成した液水が樹脂膜面を一様に覆ってしまい、結果的にガス拡散層の表面を覆うように液膜が形成され、ガスの流通を妨げられることがあり、必ずしも発電性能が向上するわけではなかった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、燃料電池スタック内のガス拡散層内部に液水等が滞留することを抑制し、ガス拡散層表面の空孔閉塞を抑制し得る燃料電池発電セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、テーパー状管部を形成した多孔質体をガス拡散層とすることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の燃料電池発電セルは、ガス拡散層を備える燃料電池発電セルにおいて、上記ガス拡散層は、撥水処理又は撥油処理又は親水処理がなされた多孔質体であり、この多孔質体の内部に縦断面がテーパー状の管部が形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の燃料電池発電セルの好適形態は、上記テーパー状管部が複数形成され、これらの長手方向の横断面変化率が不均一であることを特徴とする。
【0013】
更に、本発明の燃料電池発電セルの他の好適形態は、上記ガス拡散層が複数のテーパー状管部を有し、隣接するテーパー状管部同士が流路により連通していることを特徴とする。
【0014】
更にまた、本発明の燃料電池発電セルの更に他の好適形態は、上記ガス拡散層のテーパー状管部が、消失型によって形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、テーパー状管部を形成した多孔質体をガス拡散層とすることとしたため、燃料電池スタック内のガス拡散層内部に液水等が滞留することを抑制し、ガス拡散層表面の空孔閉塞を抑制し得る燃料電池発電セルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の燃料電池発電セルについて詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「%」は特記しない限り質量百分率を示す。
【0017】
上述の如く、本発明の燃料電池発電セルは、ガス拡散層(GDL)を備えており、このガス拡散層は、撥水処理又は撥油処理又は親水処理がなされた多孔質体から成る。また、この多孔質体の内部には、縦断面がテーパー状の管部が形成されている。
なお、上記縦断面は、テーパー状管部の長手方向の断面を示し、上記テーパー状管部は、一端から他端にかけて断面積が減少している限り、その断面積の形状は円に限定されるものではない。
【0018】
このような構成により、ガス拡散層が撥水性又は撥油性のときは、ガス拡散層中の空間に点在していた水や油などの液体は、集まって凝集しようとする液滴の表面張力により、微細なガス拡散層中の空間からテーパー状管部の広い空間へ移動する。そのため、ガス拡散層中の微細空間は空になるので、ガスの流通が妨げられるのが抑制される。
また、多孔質体の有する細孔より広い空間がテーパー形状をなしているため、液滴自身の表面張力により、流路の一部に断面を塞ぐよう付着した水や油は、テーパー状管部の広い側と狭い側とで、液界面形状の半径が異なるように着座する。このとき、半径が異なることから圧力差が発生するため、圧力の低い側へ移動しガス拡散層から排出される。
こうして、水発生量の多い高負荷運転時や、飽和温度に較べて低い温度下での発電が持続できる。
【0019】
一方、ガス拡散層が親水性のときは、ガス拡散層内の流路に留まることなく、ガス拡散層の多孔空間内に液水が浸透する。これにより、水が不足する箇所での湿潤機構となるため、乾き勝手な条件下での発電が抑制される。
【0020】
ここで、上記テーパー状管部を複数形成し、これらの長手方向の横断面変化率を不均一とすることが好適である。言い換えれば、ガス拡散層中に設けたテーパー状管部の連続的な断面積変化率、即ちテーパー角をテーパー状管部ごとに異ならせることができる。
これにより、液水等の移動速度を変化させることができ、所望の排水性能を設定することが可能となる。
なお、テーパー状管部の横断面とは、ガス拡散層の延在方向の断面(水平断面)に現れるテーパー状管部の断面を言う。また、不均一とは、隣接するテーパー状管部同士が異なる横断面変化率の形状であれば足り、必ずしも全てのテーパー状管部について異なる横断面変化率の形状を付与することを意味するものではない。
【0021】
上記ガス拡散層となる多孔質体の内部には、複数のテーパー状管部が集合体(コロニー状態)をなしていることが好適である。
具体的には、該集合体の中央にあるテーパー状管部から離間するに従い、テーパー状管部の半径が小さくなるように他のテーパー状管部を周設することができる。ここで、半径とは、ガス拡散層の同一面(表面又は裏面)における開口の半径、又はガス拡散層の水平断面にて形成される開口の半径を示す。
また、該集合体の中央にあるテーパー状管部から離間するに従い、横断面変化率が小さくなるように他のテーパー状管部を周設することもできる。
【0022】
これにより、1の集合体には、流路半径の大きなテーパー状管部を中心に、その周囲に段階的に流路半径の小さいテーパー状管部が形成されているので、中心から遠いところから中心へ液水等を移動させることができ、より広範囲に液水等の移動を制御可能となるため、更に液水生成量が多い条件下での発電が可能となる。
なお、テーパー状管部の集合体は、燃料電池発電セルの大きさ、形状、多孔質体の種類などに応じて、ガス拡散層の任意の部位に1個又は複数個形成できる。
【0023】
また、上記ガス拡散層に複数のテーパー状管部を形成するときは、隣接するテーパー状管部同士を流路により連通させることが好適である。
このときは、発生した液水等は、ガス拡散層の細孔を介して近くのテーパー状管部に移動するだけでなく、流路によりガス拡散層内のテーパー状管部が面内方向に接続されているため、半径が大きく圧力の低いテーパー状管部へ容易に移動できる。言い換えれば、液水等は、相対的に流路の径が小さいテーパー状管部から流路の径が相対的に大きいテーパー状管部へ、より広い空間を有するテーパー状管部へ移動し得る。これより、液を凝集させ排出させることができるため、液水生成量が多い条件下での発電が持続できる。
【0024】
更に、上記テーパー状管部を連通させる流路は、テーパー状であり且つ終端部を有することが好適である。
流路をテーパー状とすることで、テーパー状管部からテーパー状管部へと移動する液水等の方向を制御できる。また、終端部をテーパー状管部以外の多孔質体の内部に存在させることで、面内方向に移動する液水等をより多く確保することができる。これにより、液水等の回収量が増大し、更に困難な条件下での発電が可能となる。
【0025】
本発明の燃料電池発電セルにおいて、上記ガス拡散層は、カソード極側、アノード極側の一方又は双方に配設することができる。
このとき、カソード極側に配設するガス拡散層は、テーパー状管部が、発電面側からガスチャンネル側へ拡径しつつ連通していることが好適である。これにより、液水生成が起こり易いカソード極での液水回収・排出機能を付与できるので、液水生成量が多い困難な条件下での発電が可能となる。
また、アノード極側に配設するガス拡散層は、テーパー状管部が、ガスチャンネル側から発電面側へ拡径しつつ連通していることが好適である。これにより、液水生成が起こりにくいアノード極、即ち乾燥がちなアノード極側に、何らかの原因により電解質膜を通して水蒸気が入った際、ガス拡散層内で液化した液水を回収・排出させる機能を付与できるので、アノード極でのドライアウトを抑制できる。
【0026】
本発明の燃料電池発電セルにおいては、ガス拡散層のテーパー状管部は、消失型によって形成することが好適である。
このときは、所望の液水回収・排出機能を有する多孔質体を容易に作製することが可能となる。
【0027】
また、上記ガス拡散層となる多孔質体としては、代表的には、カーボン繊維、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア又はタンタル、及びこれらの任意の組合わせに係るものを使用できる。
更に、上記消失型は、素材を適宜変更することで、形成されるテーパー状管部に、撥水処理又は撥油処理又は親水処理を施すことができる。
例えば、撥水性および撥油性を付与するときは、ポリエチレンテレフタレート(PTFE)や、4フッ化エチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体などのフッ素樹脂、およびHfO、などを使用できる。親水性を付与するときは、TiO、SiO、CeOなどを使用できる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の燃料電池発電セルの実施形態を図面に基づいて更に詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
図1は、燃料電池発電セルの一実施形態を示すものであり、一般的な燃料電池スタックのセル構造の繰り返しをなす要素の1つとなるものである。
また、燃料電池発電セルは、セパレーター1、ガス拡散層(GDL)2、触媒層が表面に設置された固体電解質膜3から構成される。セパレーター1の凹凸形状のうち、凹部は流体の流通するチャンネル1a、凸部はリブ又はランド部1bと称する。
【0030】
図2は、図1の燃料電池発電セルで使用できる第1のガス拡散層2の縦断面を示すものである。
ガス拡散層2は、内部にテーパー状管部6を有する。テーパー状管部6は、何らかの流体に対して流路となり、その流通に使用できる。
【0031】
図3は、接触角が160°程度の撥水性を有するガス拡散層2において、テーパー状管部6中に液滴が存在した場合の、液滴が移動する駆動力を表している。
図示するように、気液界面がなす幾何学的な形状から、テーパー状管部内の上流下流において、液滴の球面をつくる半径が決まる。このとき、上流下流ではそれぞれ、流路断面積が異なり、球面の半径に差が生じる。それぞれの表面液体側の圧力は、2σ/r1又は2σ/r2だけ周囲ガスの圧力より高い。つまり、上面の半径r1がr2よりも大きいため、周囲ガスの圧力<2σ/r1<2σ/r2となる圧力の大小関係が現れ、結果として、圧力の小さいほう、即ち半径の大きい側(図3の上側)へ移動することとなる。
このことは、ガス拡散層2中に点在していた液水等は、凝縮により体積を増加してゆき、たがいに接続するようになると、狭い空間から広い空間へ接触角が大きいため移動しようとすることを意味している。ガス拡散層2が狭い空間であるとすると、テーパー状管部6が形成する空間はガス拡散層2の細孔径に対し、十分大きいとみなすことができ、細孔中の液はテーパー状管部6へ移動してくる。このため、細孔中ではガスの移動には若干の拡散率低下にすぎないガス拡散をとりもどすことが可能であり、細孔中に液水等が介在する場合の極度の拡散抵抗が大な場合よりも、燃料電池の発電が良好に行われることを意味する。
なお、接触角が5°程度の親水性を有するガス拡散層は、撥水性の場合と逆に、半径の小さいほうへ液滴が移動することになる。
【0032】
以上のように、ガス拡散層2に形成したテーパー状管部6は、燃料電池が発電をした際に行われる上記(2)式により生成される液水、加湿のための投入水蒸気の結露による液水、又はアノード側から拡散によりカソード側に移流してきた蒸気が結露した液水、などの通路として利用することができる。また、テーパー状管部6は、一定間隔に設けても良いし、不定間隔に設けても構わない。更に、所望の条件や液水等の発生の大小に合わせて適宜設置されることが望ましい。
【0033】
図4は、図1の燃料電池発電セルで使用できる第2のガス拡散層2の縦断面である。
テーパー状管部6は、ガス拡散層2のチャンネル1aに面する表面の法線方向に対し、ある角度をもって備えられている。
この場合は、チャンネル1aに酸化剤ガス又は燃料ガスを流通させる際、ガス拡散層2のチャンネル表面において、テーパー状管部6が流通ガスの流れる向きに偏向していた場合、ガスの流速が上がるほどチャンネル表面では圧力が下がる。このため、液水等が移動するテーパー状管部6が傾きを有することで、テーパー状管部6の出口付近のチャンネル表面での圧力が下がり、液水等の移動が助長されるため、積極的な排水が可能となる。
【0034】
図5は、図1の燃料電池発電セルで使用できる第3のガス拡散層2の縦断面である。
テーパー状管部6は、ガス拡散層2の厚さ方向に対して自由な深さで形成されている。即ち、上面から下面へ貫通しているテーパー状管部6と、上面からガス拡散層2の中間部までのテーパー状管部6が混在している。
この場合は、燃料電池発電セルによる発電中に温度が高温となり、固体電解質膜表面で蒸気として発生した水が、チャンネル1aへ向かう途中のガス拡散層2の中間部で液化することがあるが、多孔質中にテーパー状管部6があることで、液化が促進され易い。
水が液化しない場合は、体積が液の場合よりガスでは1000倍(密度で1/1000)もあるため、上記(2)式の酸化のために酸素が供給されなければならないが、同時に発生する蒸気(水のガス)と酸素が相互に対向する向きに流れようとするので、酸素の供給が妨げられ易い。このため、液化が行われる付近のみにテーパー状管部6を形成することで、多孔質体部分を残し、積極的な液化を図り、水蒸気ガスが酸化剤ガスの遡上を妨げるのを抑制できる。
以上のようなテーパー状管部6を備えるガス拡散層2は、テーパー形状をもったオスの型をカーボン繊維とバインダとよばれる樹脂のスラリー状の物体である中に型を介在させ、固着・焼成されることで製作できる。また、テーパー形状の突起をもった基盤上に前記スラリーを載せ、固着・焼成させることでも製作できる。
【0035】
図6は、図1の燃料電池発電セルで使用できる第4のガス拡散層2の縦断面である。
テーパー状管部6は、自由な方向を向いて形成されている。
この場合は、リブ1bの下で生成した液水等をスムーズにチャンネル1aへ移動させるのに有効となる。
【0036】
図7は、図1の燃料電池発電セルで使用できる第5のガス拡散層2の縦断面である。
テーパー状管部6をメッシュ状物体7で予め作製しておき、これがガス拡散層2内に配設された構成を有する。このメッシュの細孔径は、焼成後のガス拡散層2の細孔径よりも大きいことが望ましい。図8はメッシュ状物体7の拡大図である。メッシュ状物体7は、例えば、スパッタリング、ポリイミドによりコーティングされた微細細線等で作製できる。
【0037】
図9は、図1の燃料電池発電セルで使用できる第6のガス拡散層2の縦断面である。
ガス拡散層2を構成する多孔質体が、マイクロビーズと呼ばれる微小な粒径0.01μm〜0.1mm程度の電気伝導性の良い粒子を用いて作製されたものである。マイクロビーズは、例えば、スパッタリング、ポリイミドによりコーティングされた微細細線等で作製できる。
なお、マイクロビーズを用いた多孔質体は、該マイクロビーズを用いたシートを積層して作製できるが、テーパー状管部6は、積層される層ごとにテーパー状管部6となる孔の粒径を段階的に変化させて形成できる。
【0038】
図10は、図1の燃料電池発電セルで使用できる第7のガス拡散層2の縦断面である。
複数存在するテーパー状管部6は、ガス拡散層2の面内に形成した流路8により、連通している。この連通する流路8の本数は、テーパー状管部6の本数に関係なく設置することができる。望ましくは、液水生成の頻度や生成量の多い箇所に合わせて設置できる。
なお、流路8を設けて連通する場合、図11に示すように、隣り合うテーパー状管部6間で繋がった液水等が、テーパー状管部6内での平均的な半径に差があるときは、小さい液滴9は半径が小さいため液内で圧力が高くなり、大きい液滴10は半径が大きいため圧力が周囲より高くなるが、小さい液滴9よりも相対的に低くなる。このため、小さい液滴9は大きい液滴10側へと寄せ集められる。
【0039】
図12は、図1の燃料電池発電セルで使用できる第8のガス拡散層2の縦断面である。
複数存在するテーパー状管部6のテーパー角を変え、平均径をそれぞれ変化させている。テーパー状管部6の流路径が変わっているので、液水回収・排出機能の作用を更に引き出すことが可能となる。
【0040】
図13は、図1の燃料電池発電セルで使用できる第9のガス拡散層2の縦断面である。
連通流路8は、終端部9がガス拡散層2の内部に存在し、且つテーパー状管部6同士が連通するように形成されている。これにより、上述のように、液水回収・排出機能を更に向上させ得る。
一方、図13に示すガス拡散層2を、撥水性材料ではなく親水性材料(例えば接触角5°)で構成することもできる。このときは、ガス拡散層2の細孔に液水等が引き込まれ、テーパー状管部6の空間には液水等が存在しにくくなる。むしろテーパー状管部6がガスの流通に使用され易くなる。液水等は電解質膜3に接する箇所を通じ、電解質膜3へ供給されるので、電解質膜3の乾燥を抑制できる。
【0041】
図14は、図1の燃料電池発電セルで使用できる第8のガス拡散層2の横断面である。即ち、複数のテーパー状管部6がなす集合体(コロニー状態)の一例である。
ガス拡散層2中のテーパー状管部6は、平均径の大きいものが中心に配設され、その周囲に離れるに従い小さい径のものが配設されている。
また、図15に示すように、ガス拡散層2内部には、連通管8により放射状、木の根状にテーパー状管部6が連通されていることが良い。この構造により、狭い空間から広い空間へ液が集まってくる機構を応用して、面内の方向へ液水等を移動可能になる。これより、テーパー状管部6によりガス拡散層2外部の意図した位置へ液水等を移動させることが可能となる。
更に、図16に示すように、木の根状のコロニー構成は、ガス拡散層2の全域にわたって配設することができる。また、これらのコロニー構成は、ガス拡散層2の面内方向において、テーパー状管部6の存在密度を適宜変化させることができる。例えば、液水等が発生しやすい場所には多く設置し、発生しない場所には設置しないことにより、液水等の移動性を更に向上させ得る。
【0042】
図17は、テーパー状管部6を備えるガス拡散層2をカソード側のみに設置し、テーパー状管部6の開口がカソードチャンネル12側へ拡径するように設置された燃料電池発電セルである。
この場合は、ガス拡散層2の内部で発生した液水等は、ガス拡散層2内部からテーパー状管部6を介して、カソードガスチャンネル12へ積極的に排出され得る。なお、図17はテーパー状管部6を含むようにした縦断面である。
【0043】
図18は、テーパー状管部6を備えるガス拡散層2をアノード側のみに設置し、テーパー状管部6の開口がアノードチャンネル13側へ縮径するように設置された燃料電池発電セルである。
この場合は、ガス拡散層2の内部で発生した液水等は、ガス拡散層2内部からテーパー状管部6を介して、電解質膜3へ積極的に移動できる。なお、図18はテーパー状管部6を含むようにした縦断面である。
【0044】
図19は、テーパー状管部6を備えるガス拡散層2が、カソード側及びアノード側に設置された燃料電池発電セルの断面概略図である。カソード側のガス拡散層2は、テーパー状管部6の開口がカソードチャンネル12側へ拡径するように設置されている。アノード側のガス拡散層2は、テーパー状管部6の開口がアノードチャンネル13側へ縮径するように設置されている。
これにより、液水等がカソード側及びアノード側の両側に発生する条件であっても、液水等をより確実に誘導でき、片側のガス拡散層2だけにテーパー状管部6を備えた場合に比べて相乗的な効果が得られる。
【0045】
図20は、ガス拡散層のテーパー状管部を形成する消失型とその製造方法の一例を模式的に示した図である。
例えば、PTFEを用いた消失型14を用いれば、ガス拡散層に撥水処理が施されるとともに、意図したテーパー状管部6のネットワーク空間を形成することが可能である。
【0046】
また、消失型14の作製方法としては、例えば、まずマスター型15を、耐久性のあるメタルなどを用いたオス型にて作製する。ここで、代表的なガス拡散層の厚さが約200μmであることを考慮すると、テーパー状管部6や連通流路8は、数十μmオーダーのサイズである。そのため、このマスター型15は、微細加工のMEMSや、超微細な切削により得られる。
次いで、このマスター型15をベースとして、消失型をつくるためのメス型16を柔軟な樹脂等により作製する。このメス型16にPTFEを流し込み、固化させることで消失型14が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】燃料電池スタックのセル構造の一例を示す概略断面図である。
【図2】ガス拡散層の一例を示す概略断面図である。
【図3】テーパー状管部内の液滴が移動するメカニズムを示す概略断面図である。
【図4】ガス拡散層の一例を示す概略断面図である。
【図5】ガス拡散層の一例を示す概略断面図である。
【図6】ガス拡散層の一例を示す概略断面図である。
【図7】ガス拡散層の一例を示す概略断面図である。
【図8】メッシュ状物体の一例を示す概略図である。
【図9】導電性マイクロビーズを積層して得たガス拡散層の一例を示す概略断面図である。
【図10】ガス拡散層の一例を示す概略断面図である。
【図11】連通したテーパー状管部間での液の移動を示す概略図である。
【図12】ガス拡散層の一例を示す概略断面図である。
【図13】ガス拡散層の一例を示す概略断面図である。
【図14】ガス拡散層の一例を示す概略断面図である。
【図15】ガス拡散層の一例を示す概略断面図である。
【図16】ガス拡散層の一例を示す概略断面図である。
【図17】燃料電池発電セルの一例を示す概略図である。
【図18】燃料電池発電セルの一例を示す概略図である。
【図19】燃料電池発電セルの一例を示す概略図である。
【図20】消失型とこれを作製するための各種の型の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0048】
1 セパレーター
1a チャンネル
1b リブ
2 ガス拡散層(GDL)
3 触媒層が表面に設置された固体電解質膜
6 テーパー状管部
7 メッシュ状物体
8 テーパー状管部を結ぶ連通流路
9 テーパー状管部にある半径が小さい液滴(圧力が大)
10 テーパー状管部にある半径が大きい液滴(圧力が相対的に小)
12 カソードガスチャンネル
13 アソードガスチャンネル
14 PTFEなどの樹脂による消失型
15 マスター型
16 消失型を作製するためのメス型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス拡散層を備える燃料電池発電セルにおいて、
上記ガス拡散層は、撥水処理又は撥油処理又は親水処理がなされた多孔質体であり、この多孔質体の内部に縦断面がテーパー状の管部が形成されていることを特徴とする燃料電池発電セル。
【請求項2】
上記テーパー状管部が複数形成され、これらの長手方向の横断面変化率が不均一であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池発電セル。
【請求項3】
上記テーパー状管部が集合体をなし、該集合体の中央にあるテーパー状管部から離間するに従い、テーパー状管部の半径が小さくなるように他のテーパー状管部が周設されていることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池発電セル。
【請求項4】
上記テーパー状管部が集合体をなし、該集合体の中央にあるテーパー状管部から離間するに従い、横断面変化率が小さくなるように他のテーパー状管部が周設されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の燃料電池発電セル。
【請求項5】
上記ガス拡散層が複数のテーパー状管部を有し、隣接するテーパー状管部同士が流路により連通していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の燃料電池発電セル。
【請求項6】
上記テーパー状管部を連通させる流路が、テーパー状であり且つ終端部を有することを特徴とする請求項5に記載の燃料電池発電セル。
【請求項7】
上記ガス拡散層をカソード極側に備え、テーパー状管部が、発電面側からガスチャンネル側へ拡径しつつ連通していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の燃料電池発電セル。
【請求項8】
上記ガス拡散層をアノード極側に備え、テーパー状管部が、ガスチャンネル側から発電面側へ拡径しつつ連通していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の燃料電池発電セル。
【請求項9】
上記ガス拡散層のテーパー状管部が、消失型によって形成されたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の燃料電池発電セル。燃料電池発電セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−242443(P2007−242443A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63859(P2006−63859)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】