説明

燃料電池部材用樹脂組成物及び燃料電池部材

【課題】高強度・高剛性で、低反り・低比重を実現し、溶出イオン量が少なく、燃焼残渣が無いために燃焼による熱回収(サーマルリサイクル)が容易な燃料電池部材用樹脂組成物及び燃料電池部材を提供する。
【解決手段】下記成分(1),(2)及び(3)を含む燃料電池部材用樹脂組成物。
(1)ポリプロピレン系樹脂: 67〜89重量%
(2)酸変性ポリプロピレン系樹脂: 1〜3重量%
(3)炭素繊維、及び灰分量が0.5重量%未満の高純度超薄片化黒鉛粉末: 10〜30重量%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池部材用樹脂組成物及びそれからなる燃料電池部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池、従来型の二次電池のシステムに用いられる材料は、冷却効率を維持したり、配管の詰まりや腐食を防止するために金属材としては最もイオン溶出が低いとされるステンレスSUS316が使用されてきた。自動車用燃料電池の場合も、熱交換器や冷却液の循環配管の材料にイオン溶出の極めて少ない材料(例えばSUS316等)を使用することで対応していた。
【0003】
しかし、SUS材では熱交換器の形状や製造方法等に制約を受けることとなり、熱交換器の大型化や重量増大、コストアップ等を引き起こした。
【0004】
また、金属材料では金属イオンを徐々に溶出し、わずかな表面の傷から腐食が進むことがある。腐食を防ぐため、イオン溶出を低減するように熱交換器等の内部にコーティングを施す等で対処する方法もあるが、コーティングが劣化するとイオンが溶け出す場合もある(例えば、特許文献1及び2)。
【0005】
上記問題を鑑みて、成形加工性、賦形性の自由度の高さから、金属材料に替わる樹脂材が望まれており、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン等樹の脂材の使用が検討されている。
しかし、樹脂材は単体で用いる場合に製品に反りや変形が生じたり、使用環境によって耐熱性、剛性が不足することがある。
【0006】
高強度・高剛性の樹脂組成物を得るために、樹脂にタルク、マイカ、ガラス繊維、炭酸カルシウム等の無機フィラー等の充填材の配合が試みられている。しかし、これらの充填材は、鉱物を微粉砕した無機粉末であり金属イオンを溶出しやすく、満足できるレベルではなかった。
また、無機フィラーは比重が大きく、目標強度・剛性に近づけると得られる製品の重量が重くなる欠点がある。加えて、燃焼した際に、そのまま残り、燃焼炉を痛める可能性があり、リサイクル性に改善点がある。
【0007】
高強度・高剛性を維持したままでの軽量化や燃焼残渣の低減のため、フィラーとして炭素繊維を使用する方法が挙げられるが、炭素繊維のみで強化した場合、射出成形時の樹脂の流れによる配向で成形品に反り・変形が発生する。
【特許文献1】特開2001−035519号公報
【特許文献2】特開2003−123804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高強度・高剛性で、低反り・低比重を実現し、溶出イオン量が少なく、燃焼残渣が少ないために燃焼による熱回収(サーマルリサイクル)が容易な燃料電池部材用樹脂組成物及び燃料電池部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、鋭意研究の結果、炭素繊維及び黒鉛粉末を含む樹脂組成物において、特定の炭素繊維と黒鉛粉末を使用することで、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下の燃料電池部材用樹脂組成物等が提供される。
1.下記成分(1),(2)及び(3)を含む燃料電池部材用樹脂組成物。
(1)ポリプロピレン系樹脂: 67〜89重量%
(2)酸変性ポリプロピレン系樹脂: 1〜3重量%
(3)炭素繊維、及び灰分量が0.5重量%未満の高純度超薄片化黒鉛粉末: 10〜30重量%
2.下記成分(i),(ii)及び(iii)を含む燃料電池部材用樹脂組成物。
(i)メルトフローレート(温度230℃、荷重2.16kg)が5〜70g/10分のポリプロピレン系樹脂: 67〜89重量%、
(ii)酸変性ポリプロピレン系樹脂: 1〜3重量%、
(iii)繊維径(D1)が5μm<D1<10μmの炭素繊維、及び灰分量が0.5重量%未満、平均粒径(D2)が5μm≦D2≦15μm、見掛け密度(ρ)が0.02g/cm≦ρ≦0.10g/cmの黒鉛粉末: 10〜30重量%
3.電導度が2μS/cm以下である1又は2記載の燃料電池部材用樹脂組成物。
4.前記燃料電池部材が、燃料電池冷却回路部品、燃料電池イオン交換部品、又は燃料電池イオン交換カートリッジである1〜3いずれか記載の燃料電池部材用樹脂組成物。
5.JIS K7171に準拠して測定される、曲げ強度が80MPa以上、曲げ弾性率が3800MPa以上であり、かつ、燃焼残渣測定試験において前記炭素繊維及び黒鉛粉末由来の燃焼残渣が3%以下である1〜4いずれか記載の燃料電池部材用樹脂組成物。
6.1〜5いずれか記載の樹脂組成物からなる燃料電池部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低反り・低比重を維持し、高強度・高剛性であり、低溶出性でかつサーマルリサイクルが容易な燃料電池部材用樹脂組成物及び燃料電池部材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の燃料電池部材用樹脂組成物は、下記成分(1),(2)及び(3)を含む。
(1)ポリプロピレン系樹脂: 67〜89重量%
(2)酸変性ポリプロピレン系樹脂: 1〜3重量%
(3)炭素繊維及び灰分量が0.5重量%未満の高純度超薄片化黒鉛粉末: 10〜30重量%
【0012】
また、本発明の燃料電池部材用樹脂組成物は、下記成分(i),(ii)及び(iii)を含む。
(i)メルトフローレート(温度230℃、荷重2.16kg)が5〜70g/10分のポリプロピレン系樹脂: 67〜89重量%、
(ii)酸変性ポリプロピレン系樹脂: 1〜3重量%、
(iii)繊維径(D1)が5μm<D1<10μmの炭素繊維、及び灰分量が0.5重量%未満、平均粒径(D2)が5μm≦D2≦15μm、見掛け密度(ρ)が0.02g/cm≦ρ≦0.10g/cmの黒鉛粉末: 10〜30重量%
【0013】
以下、本発明の組成物の各成分について説明する。
1.ポリプロピレン系樹脂
本発明の組成物において、ポリプロピレン系樹脂はマトリックス樹脂である。ポリプロピレン系樹脂はホモポリマー、ブロックコポリマー又はこれらの混合物でもよく、具体例としては、例えば、プロピレン単独重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体等が挙げられる。
本発明の組成物に用いるポリプロピレン系樹脂は、メルトフローレート(MFR)(温度230℃、荷重2.16kg、JIS K7210に準拠して測定)が、好ましくは5〜70g/10分であり、より好ましくは20〜70g/10分である。MFRが20g/10分未満では、成形が困難な場合があり、70g/10分を超えると、衝撃強度が低下する場合がある。
【0014】
ポリプロピレン系樹脂は、市販品を用いることができ、その具体例としては、例えば、J−2003GP(出光石油化学社製、MFR=20g/10分)、J−3000GP(出光石油化学社製、MFR=30g/10分)、Y−6005GM(出光石油化学社製、MFR=60g/10分)、J−6083HP(出光石油化学社製、MFR=60g/10分)、J−3054MP(出光石油化学社製、MFR=30g/10分)、等が挙げられる。
【0015】
本発明の組成物における、ポリプロピレン系樹脂の配合量は、67〜89重量%であり、好ましくは77〜89重量%である。ポリプロピレン系樹脂の配合量が67重量%未満では、成形性が悪く、89重量%を超えると、剛性、耐熱性が不十分となる。
【0016】
2.酸変性ポリプロピレン系樹脂
酸変性ポリプロピレン系樹脂を、本発明の組成物に添加することにより、ポリプロピレン系樹脂と炭素繊維との界面強度を向上させることができる。
【0017】
酸変性ポリプロピレン系樹脂のポリプロピレン系樹脂は、上記のポリプロピレン系樹脂と同様である。酸変性ポリプロピレン系樹脂の酸基としては、マレイン酸基、フマル酸基、アクリル酸基等のカルボン酸が例示され、マレイン酸基が好ましい。酸付加量は通常0.1〜10重量%程度である。
酸変性ポリプロピレン系樹脂は、市販品を用いてもよく、その具体例としては、例えば、ポリボンド3200、ポリボンド3150(白石カルシウム社製、マレイン酸変性ポリプロピレン)、ユーメックス1001、ユーメックス1010、ユーメックス1003、ユーメックス1008(三洋化成工業社製、マレイン酸変性ポリプロピレン)、アドマーQE800、アドマーQE810(三井化学社製、マレイン酸変性ポリプロピレン)、トーヨータックH−1000P(東洋化成工業社製、マレイン酸変性ポリプロピレン)等が挙げられる。
【0018】
本発明の組成物における、酸変性ポリプロピレン系樹脂の配合量は、1〜3重量%である。酸変性ポリプロピレン系樹脂の配合量が1重量%未満では、曲げ強度及び耐熱性(熱変形温度)が低下し、3重量%を超えると、製造コストが高くなり現実的でない。
【0019】
3.炭素繊維
炭素繊維は、本発明の組成物に、高剛性を付与し、組成物から得られる成形体のいわゆる補強強化成分であると同時に、本発明の組成物が低密度、低灰分となるために必要な成分である。
【0020】
本発明の組成物で用いる炭素繊維の種類は特に制限されず、PAN系(HT、IM、HM)、ピッチ系(GP、HM)、レーヨン系のいずれも使用可能であるが、PAN系が好ましい。
【0021】
本発明の組成物で用いる炭素繊維は、繊維径(D1)が5μm<D1<10μmであることが好ましい。繊維径が5μm以下であると、繊維が折れやすく、強度が低下する場合があるだけでなく、工業的に製造コストが高くなり実用的でなくなる恐れがある。10μm以上であると繊維のアスペクト比が小さくなりコストが高くなり実用的でなくなる恐れがある。
炭素繊維の繊維径は、電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0022】
上記範囲の繊維径を有する炭素繊維を製造する方法としては、例えば、特開2004−11030号公報、特開2001−214334号公報、特開平5−261792号公報、新・炭素材料入門(炭素材料学会編、(株)リアライズ社、1996年発行)等に記載の方法が挙げられる。
【0023】
炭素繊維としては、上記繊維径を有するものであれば特に制限なく使用することができ、市販品を用いてもよく、その具体例としては、例えば、ベスファイト(登録商標)・チョップドファイバーHTA−C6−S、HTA−C6−SR、HTA−C6−SRS、HTA−C6−N、HTA−C6−NR、HTA−C6−NRS、HTA−C6−US、HTA−C6−UEL1、HTA−C6−UH、HTA−C6−OW、HTA−C6−E、MC HTA−C6−US;ベスファイト(登録商標)・フィラメントHTA−W05K、HTA−W1K、HTA−3K、HTA−6K、HTA−12K、HTA−24K、UT500−6K、UT500−12K、UT−500−24K、UT800−24K、IM400−3K、IM400−6K、IM400−12K、IM600−6K、IM600−12K、IM600−24K、LM16−12K、HM35−12K、TM35−6K、UM40−12K、UM40−24K、UM46−12K、UM55−12K、UM63−12K、UM68−12K(以上、東邦テナックス社製);パイロフィル(登録商標)チョップドファイバーTR066、TR066A、TR068、TR06U、TR06NE、TR06G(以上、三菱レイヨン社製);トレカチョップドファイバーT008A−003、T010−003(以上、東レ社製)等が挙げられる。
【0024】
また、炭素繊維は、表面処理、特に電解処理されたものが好ましい。表面処理剤としては、例えば、エポキシ系サイジング剤、ウレタン系サイジング剤、ナイロン系サイジング剤、オレフィン系サイジング剤等が挙げられる。表面処理することによって、引張り強度、曲げ強度が向上するという利点が得られる。上記表面処理された炭素繊維は、市販品を用いてもよく、その具体例としては、例えば、東邦テナックス社製の、ベスファイト(登録商標)・チョップドファイバーHTA−C6−SRS、HTA−C6−S、HTA−C6−SR、HTA−C6−E(以上、エポキシ系サイジング剤で処理されたもの)、HTA−C6−N、HTA−C6−NR、HTA−C6−NRS(以上、ナイロン系サイジング剤で処理されたもの)、HTA−C6−US、HTA−C6−UEL1、HTA−C6−UH、MC HTA−C6−US(以上、ウレタン系サイジング剤で処理されたもの);三菱レイヨン社製の、パイロフィル(登録商標)チョップドファイバーTR066、TR066A(以上、エポキシ系サイジング剤で処理されたもの)、TR068(エポキシ−ウレタン系サイジング剤で処理されたもの)、TR06U(ウレタン系サイジング剤で処理されたもの)、TR06NE(ポリアミド系サイジング剤で処理されたもの)、TR06G(水溶性サイズされたもの)等が挙げられる。
【0025】
4.黒鉛粉末
本発明の組成物において、黒鉛粉末は、本発明の組成物から得られる成形体の反り・変形及びイオン溶出を防止する機能を有する成分である。
【0026】
本発明の組成物で用いる黒鉛粉末としては、高純度超薄片化黒鉛が好ましい。
高純度超薄片化黒鉛は、一般的な工程に加えて黒鉛と不純物を取り除く物理精錬及び薬品処理等により超薄片化及び高純度化したもので、通常灰分0.5重量%未満、平均粒径10μm以下、見掛け密度0.1g/cm以下である。
【0027】
本発明の組成物で用いる黒鉛粉末は、好ましくは灰分量が0.5重量%未満であり、より好ましくは、0.3重量%未満である。0.5%以上であると、溶出イオン量が多くなり、電導度が2μS/cmを超える恐れがある。黒鉛粉末の灰分量は、試料1gを850〜900℃に保った灰分燃焼用電気炉で黒鉛を完全に燃焼させ、残重量を測定し配分量を計算する。
【0028】
また、本発明の組成物で用いる黒鉛粉末は、好ましくは平均粒径(D2)が5μm≦D2≦15μmである。黒鉛粉末の平均粒径が5μm未満では、これを含む組成物から得られる成形体の反り・変形を防止する効果が十分発現せず、15μmを超えると、衝撃強度が低下し易い場合がある。黒鉛粉末の平均粒径の測定は、JIS R1629に準拠し、レーザー回折散乱法で測定する。
【0029】
さらに、黒鉛粉末は、好ましくは見掛け密度(ρ)が0.02g/cm≦ρ≦0.1g/cmである。黒鉛粉末の見掛け密度が0.02g/cm未満では、これを含む組成物から得られる成形体の反り・変形を防止する効果が十分発現せず、0.1g/cmを超えると、衝撃強度が低下し易い場合がある。黒鉛粉末の見掛け密度の測定は、JIS K5101に準拠し、静置法により測定する。
【0030】
黒鉛粉末としては、市販品を用いることができ、その具体例としては、例えば、UP−10(日本黒鉛工業社製)が挙げられる。
【0031】
本発明の組成物における、炭素繊維と黒鉛粉末の配合量は合わせて、10〜30重量%であり、好ましくは10〜20重量%である。配合量が10重量%未満では、反り低減効果が期待できず、30重量%を超えると、組成物又は組成物から得られる成形体自体の密度が大きくなり(重くなる)、炭素繊維を用いる利点(低密度)が損なわれる。
【0032】
本発明の組成物に含まれる炭素繊維と高純度超薄片化黒鉛粉末の割合は、好ましくは1:4〜4:1であり、より好ましくは1:3〜1:1である。
【0033】
本発明の燃料電池部材用樹脂組成物の電導度は、好ましくは2μS/cm以下である。
【0034】
本発明の組成物から得られる成形体の、JIS K7171に準拠して測定される、曲げ強度は好ましくは80MPa以上であり、曲げ弾性率は好ましくは3800MPa以上である。
また、本発明の組成物から得られる成形体の、燃焼残渣測定試験における、炭素繊維及び黒鉛粉末由来の燃焼残渣は、好ましくは3%以下である。
【0035】
本発明の組成物は、通常、次のようにして製造することができる。
原料を混合(ドライブレンド)後、押出機で溶融混練することで製造することができる。押出機は、短軸押出機、二軸押出機等の公知のものが使用でき、炭素繊維は、他の原料とともに混合投入しても、別途サイドフィードから投入してもよい。その他、特開昭62−60625号公報、特開平10−264152号公報、国際公開第WO97/19805号公報等に記載の方法を用いることもできる。
【0036】
本発明の組成物には、上記成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲内において、種々の添加剤を配合することができる。配合することができる添加剤としては、例えば、着色剤、酸化防止剤、金属不活性剤、カーボンブラック、増核剤、離型剤、滑剤、耐電防止剤等が挙げられる。
【0037】
本発明の樹脂組成物は、燃料電池用部材の原料として好適に使用できる。燃料電池部材として、冷却回路部品、燃料電池イオン交換部品又は燃料電池イオン交換カートリッジ等が例示される。
本発明の樹脂組成物から得られる燃料電池用部材は、低比重かつ十分な強度と寸法安定性を有し、特に溶出イオン量が少ない。また、フィラーに炭素繊維、黒鉛粉末を使用しているため、燃焼残渣がほとんど無く、サーマルリサイクル性に優れる(燃焼による熱エネルギーでの回収に優れる)。
【実施例】
【0038】
実施例及び比較例の組成物に使用した成分は以下の通りである。
1.ポリプロピレン系樹脂
ポリプロピレン(PP):J−3000GP(出光興産社製、MFR=30g/10分)
【0039】
2.酸変性ポリプロピレン系樹脂
マレイン酸変性ポリプロピレン(MAH−PP):ポリボンド3200(白石カルシウム社製)
【0040】
3.炭素繊維
炭素繊維:HTA−C6−SRS(東邦テナックス社製;繊維径7μm、エポキシ系サイジング剤で処理)
【0041】
4.黒鉛粉末
UP−10(日本黒鉛工業社製、人造黒鉛粉末、灰分0.19%以下、平均粒径10μm、見掛け密度0.04)
J−CPB(日本黒鉛工業社製、人造黒鉛粉末、灰分2.0%以下、平均粒径5μm、見掛け密度0.09)
【0042】
5.その他
タルク: JM209(浅田製粉社製、平均粒径4.5μm)
【0043】
実施例及び比較例の組成物の特性の測定方法は以下の通りである。
1.粒径
JIS R1629に準拠し、レーザー回折散乱法により測定した。
【0044】
2.見掛け密度
JIS K5101に準拠し、静置法により測定した。
【0045】
3.曲げ強度
実施例又は比較例で得られた組成物を、射出成形して80mm×10mm×4mmのサンプルを製造した。
このサンプルについて、JIS K7171に準拠して曲げ強度を測定した。
【0046】
4.曲げ弾性率
曲げ強度測定用サンプルについて、JIS K7171に準拠して曲げ弾性率を測定した。
【0047】
5.溶出性(電導度)
溶出イオン量を電導度で示すことにより以下の手順で測定した。
(1)実施例及び比較例毎にサンプル(64mm×12.7mm×3.2mm)を用意した。
(2)500mLのPFA製(フッ素樹脂製)容器を用意した。
(3)容器を純水にてオーバーフローした。
(4)容器を純水にてシェイク洗浄した。
(5)容器を超純水にてシェイク洗浄した。
(6)容器を乾燥した。
(7)容器を超純水にてシェイク洗浄した。
(8)サンプルを超純水にてカップ洗浄した。
(9)サンプルを容器に移した。
(10)容器とサンプルを超純水にて共洗いした。
(11)超純水を、UPレベルラインまで入れた。
(12)80℃で24時間撹拌した。
(13)10時間経過後、容器を恒温槽より取出し、常温になるまで冷却した。
(14)導電率計を確認した。
実施例と比較例毎にサンプルセットを変えるたび、サンプルを入れないブランク測定もした。
【0048】
6.灰分量(燃焼残渣)
実施例又は比較例で得られる組成物を溶融混練法によりペレットを製造した。
このペレットを用いて以下の手順で灰分量を測定した。
(1)坩堝の重量を測定し、この重量をW0とした。
(2)坩堝に灰分量を測定するペレットを入れ、重量を測定し、この重量をW1とした。
(3)坩堝ごとマッフル炉へ入れ、1000℃で灰化を行なった。
(4)灰化終了後、装置より坩堝を取り出し重量を測定し、この重量をW2とした。
(5)以下の式より灰分量を計算した。
灰分量〔%〕=(W2−W0)/(W1−W0)×100
灰化後の重量 灰化前の重量
以下の機器を使用した。
(1)電子天秤:研精工業株式会社製 ER180A
(2)マッフル炉:ヤマト科学株式会社製 Muffle Furnace FP 310
【0049】
実施例1
ポリプロピレン(PP)(J−2003GP)83重量%、マレイン酸変性ポリプロピレン(MAH−PP)(ポリボンド3200)2重量%、炭素繊維(HTA−C6−SRS)5重量%、及び黒鉛粉末(UP−10)10重量%を、混合して組成物を製造した。
得られた組成物について、密度、曲げ強度、曲げ弾性率、溶出性、灰分量を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
比較例1
ポリプロピレン(J−2003GP)60重量%、タルク40重量%を、混合して組成物を製造した。
得られた組成物について、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0051】
比較例2
実施例1において、黒鉛粉末を、J−CPBに変えた他は、実施例1と同様にして組成物を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例1は一般的なフィラーであるタルクを使用した比較例1に対して、低比重・高強度・高剛性・低溶出性であることが分かる。
比較例2のように、一般的な高純度でない黒鉛粉末を用いると、溶出性が著しく悪化し、燃料電池用としての目標値に達しない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の組成物は、燃料電池用部材に使用できる。特に、燃料電池冷却回路部品、燃料電池イオン交換部品又は燃料電池イオン交換カートリッジ等に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(1),(2)及び(3)を含む燃料電池部材用樹脂組成物。
(1)ポリプロピレン系樹脂: 67〜89重量%
(2)酸変性ポリプロピレン系樹脂: 1〜3重量%
(3)炭素繊維、及び灰分量が0.5重量%未満の高純度超薄片化黒鉛粉末: 10〜30重量%
【請求項2】
下記成分(i),(ii)及び(iii)を含む燃料電池部材用樹脂組成物。
(i)メルトフローレート(温度230℃、荷重2.16kg)が5〜70g/10分のポリプロピレン系樹脂: 67〜89重量%、
(ii)酸変性ポリプロピレン系樹脂: 1〜3重量%、
(iii)繊維径(D1)が5μm<D1<10μmの炭素繊維、及び灰分量が0.5重量%未満、平均粒径(D2)が5μm≦D2≦15μm、見掛け密度(ρ)が0.02g/cm≦ρ≦0.10g/cmの黒鉛粉末: 10〜30重量%
【請求項3】
電導度が2μS/cm以下である請求項1又は2記載の燃料電池部材用樹脂組成物。
【請求項4】
前記燃料電池部材が、燃料電池冷却回路部品、燃料電池イオン交換部品、又は燃料電池イオン交換カートリッジである請求項1〜3いずれか一項記載の燃料電池部材用樹脂組成物。
【請求項5】
JIS K7171に準拠して測定される、曲げ強度が80MPa以上、曲げ弾性率が3800MPa以上であり、かつ、
燃焼残渣測定試験において前記炭素繊維及び黒鉛粉末由来の燃焼残渣が3%以下である請求項1〜4いずれか一項記載の燃料電池部材用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか一項記載の樹脂組成物からなる燃料電池部材。

【公開番号】特開2007−103297(P2007−103297A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294980(P2005−294980)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【出願人】(000223034)東洋▲ろ▼機製造株式会社 (51)
【Fターム(参考)】