説明

燃料電池

【課題】 発電性能を低下させることなく電解質膜の耐久性を向上させることが可能な燃料電池を提供する。
【解決手段】 電解質膜1と、当該電解質膜1の両側に配置される電極2a、2bとを備え、電解質膜1の面と交差する方向に貫通する貫通孔11S、11S、…、11B、11B、…を有するシート10S、10Bが、電解質膜1の内部に備えられている、燃料電池100とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、特に、発電性能を低下させることなく電解質膜の耐久性を向上させることが可能な、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質と、当該電解質の両側に配置される電極(カソード及びアノード)とを備える膜電極接合体(以下において、「MEA(Membrane Electrode Assembly)」と記述する。)における電気化学反応により発生した電気エネルギーを、MEAの両側に配設されるセパレータを介して外部に取り出している。燃料電池の中でも、家庭用コージェネレーション・システムや自動車等に使用される固体高分子型燃料電池(以下において、「PEFC(Polymer Electrolyte Fuel Cell)」と記述する。)は、低温領域での運転が可能であり、50〜100℃の運転温度で使用されるのが一般的である。また、PEFCは、50〜60%の高いエネルギー変換効率を示し、起動時間が短く、かつシステムが小型軽量であることから、電気自動車や携帯用電源の最適な動力源として注目されている。
【0003】
PEFCのユニットセルは、電解質膜、触媒層と拡散層とを備えるカソード及びアノード、並びに、セパレータを含み、その理論起電力は1.23Vである。しかし、かかる低起電力では電気自動車等の動力源として不十分であるため、通常は、ユニットセルを直列に積層した積層体の積層方向両端にエンドプレート等を配置して構成されるスタック形態の燃料電池が使用されている。
【0004】
他方、PEFCの発電時にアノードの触媒層で過酸化水素が生成され、この過酸化水素に起因するラジカルにより電解質膜が損傷することが明らかになりつつある。また、PEFCでは、発電停止時に、内部に残留するアノード側の水素ガスが電解質膜を透過してカソード側へ、また、カソード側の酸素ガス等が電解質膜を透過してアノード側へと移動する、クロスリークが生じることが知られている。このクロスリークが生じると、電解質膜の近くで水素と酸素とが反応するため、電解質膜が損傷する虞がある。電解質膜が損傷すると、燃料電池の発電性能低下の一因となるため、発電性能を低下させることなく電解質膜の耐久性を向上させることが望まれている。
【0005】
電解質膜の性能向上、又は燃料電池の性能向上を目的とした技術は、これまでにいくつか開示されてきている。例えば、特許文献1には、ポリイミド不織布を基材とし、基材の細孔中にプロトン伝導性樹脂が充填されていることを特徴とする電解質膜に関する技術が開示されており、かかる構成とすることで、高温下での寸法安定性に優れた電解質膜を提供することが可能になるとしている。また、特許文献2には、アラミド樹脂からなる多孔性シートをフッ素樹脂でコーティングした補強部材を備える電解質膜に関する技術が開示されており、かかる構成とすることで、プロトン伝導性、強度、及び耐熱性を兼ね備えた電解質膜を提供することが可能になるとしている。さらに、特許文献3には、イオン交換膜、カソード用触媒層、及びアノード用触媒層に微細粒子のシリカ及び/又は繊維状のシリカファイバーが含有されている高分子固体電解質型燃料電池に関する技術が開示されており、かかる構成とすることで、イオン伝導性が改良されると共に無加湿運転が可能な燃料電池を提供することが可能になるとしている。
【特許文献1】特開2004−185973号公報
【特許文献2】特開2001−113141号公報
【特許文献3】特開平6−111827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されている技術では、電解質膜の基材である不織布の細孔中に電解質成分を均一に充填することが困難であるほか、ポリイミド不織布が電解質膜の全体に亘って存在するため、電解質膜のプロトン伝導性が低下しやすく、燃料電池の発電性能が低下しやすいという問題があった。また、特許文献2及び3に開示されている技術によっても、発電性能を低下させることなく電解質膜の耐久性を向上させることは困難であるという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、発電性能を低下させることなく電解質膜の耐久性を向上させることが可能な燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
請求項1に記載の発明は、電解質膜と、当該電解質膜の両側に配置される電極とを備え、電解質膜の面と交差する方向に貫通する貫通孔を有するシートが、電解質膜の内部に備えられていることを特徴とする、燃料電池により、上記課題を解決する。
【0009】
ここに、本発明において、貫通孔を有するシートは、電解質膜の積層面と交差する方向に貫通する貫通孔を有し、かつ、電解質膜内の環境に耐えることが可能なシート状部材であれば、その形態は特に限定されるものではない。当該シートの形態例としては、親水性を有する高分子材料により構成される平織メッシュや綾織メッシュ、又はパンチングシート等を挙げることができ、シートの具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)よりも大きい表面張力(200μN/cm以上)を有するポリエステル、ポリアラミド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリアリレート、ポリビニルアセテート、ポリアミド繊維等からなる平織メッシュや綾織メッシュ、又は、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド等に孔加工を施したパンチングシート等を挙げることができる。
また、当該シートの開孔率は、特に限定されるものではないが、電解質膜の導電性低下を抑制するとともに電解質膜の保水性を充分に向上させるという観点から、30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上である。一方、電解質膜を効果的に補強して電解質膜の耐久性を向上させるという観点から、開孔率は、80%以下とすることが好ましい。なお、上記開孔率とは、JIS Z8843:1998「工業用板ふるい」に準じて測定して得られる値を意味している。
さらに、貫通孔を有するシートの配置形態は、電解質膜内部にシートの全体が埋没する形態で備えられていれば、特に限定されるものではない。当該シートの配置形態例としては、電解質膜内部の、少なくとも一方の面の表面近傍にシートの全体が埋没するように配置されている形態(例えば、電解質膜の内部に埋没しているシート面と電解質膜表面との距離が5μm程度となるような形態)、又は、電解質膜内部の厚み方向の略中央にシートの全体が埋没するように配置されている形態等を挙げることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の燃料電池において、貫通孔を有するシートは、電解質膜よりも、湿潤時の寸法変化量が小さいことを特徴とする。
【0011】
ここに、本発明において、湿潤時におけるシートの寸法変化量は、湿潤時における電解質膜の寸法変化量よりも小さければ特に限定されるものではないが、電解質膜の膨潤を効果的に抑制するという観点から、湿潤時における電解質膜の寸法変化量の50%以下であることが好ましい。また、電解質膜を効果的に補強して電解質膜の耐久性を向上させるという観点から、湿潤時におけるシートの寸法変化量は、湿潤時における電解質膜の寸法変化量の5%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、電解質膜の内部に、貫通孔を有するシートが備えられているので、電解質膜を補強することが可能になり、電解質膜の耐久性を向上させることが可能になる。また、当該シートは電解質膜の積層面と交差する方向に貫通する貫通孔を有しているので、電解質膜の厚み方向にプロトン伝導パスを形成することが可能になり、効率的にプロトンを伝導し得る電解質膜とすることが可能になる。したがって、かかる構成とすることで、発電性能を低下させることなく電解質膜の耐久性を向上させることが可能な、燃料電池を提供することが可能になる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、電解質膜の内部に備えられるシートは、湿潤時における寸法変化量が電解質膜の寸法変化量よりも小さいため、電解質膜の膨潤を抑制することが可能になり、MEA作製中や発電中に当該膨潤に起因して生じる電解質膜の剥離等を抑制することが可能になる。したがって、かかる構成とすることで、発電性能を低下させることなく電解質膜の耐久性を容易に向上させることが可能な、燃料電池を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
燃料電池(PEFC)を運転すると、電解質膜が、その表面から破損することが知られている。この破損の原因は未だ確定しておらず、PEFCの発電停止時に生じるクロスリークや、PEFCの発電時に生成される過酸化水素に起因するラジカル等が、上記破損の一因になると考えられている。電解質膜の破損防止方法としては、従来から、補強部材を備える電解質膜とする等の方法が試されてきている。しかし、このような方法では、電解質膜の機械的強度を向上させることは可能である反面、電解質膜のプロトン伝導性が損なわれやすいという問題があった。
【0015】
かかる問題を解決し得る形態を鋭意検討した結果、発明者は、電解質膜の積層面と交差する方向に貫通する貫通孔を有する、電解質成分よりも機械的強度に優れる材料により形成されるシートを、内部の一部に備える電解質膜とすれば、上記課題を解決し得ることを見出した。すなわち、かかるシートを内部に備える構成とすれば、プロトンはシートに形成されている貫通孔に入り込んでいる電解質成分のみを選択的に通過しようとするため、結果的に、電解質膜の貫通方向にプロトンの伝導パスを形成することが可能になり、プロトンの伝導効率を向上させ得る電解質膜とすることが可能になる。したがって、かかる構成とすることで、発電性能を低下させることなく電解質膜の機械的強度を向上させることが可能な燃料電池を提供することが可能になる。
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明の燃料電池に備えられる、第1実施形態にかかる電解質膜を概略的に示す正面図及び断面図である。図1(A)は電解質膜の表面を、図1(B)は当該電解質膜の裏面を、それぞれ拡大して示す正面図であり、図1(C)は、図1(A)及び(B)の矢視断面を概略的に示す図である。理解を容易にするため、図1(A)及び(B)では、シートを構成する繊維を適宜透過させて示している。図1(A)及び(B)において、電解質膜の積層方向は紙面に垂直な方向である一方、図1(C)では図の上下方向が電解質膜の積層方向である。なお、図1(C)の矢印は、プロトンの伝導方向を示している。
【0018】
図1(A)及び(B)に示すように、第1実施形態にかかる電解質膜1は、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を含む膜であり、その内部に、矩形の貫通孔を有する開孔率50%のシートを備え、当該貫通孔には上記樹脂が入り込んでいる。本実施形態にかかるシートは、ポリアリレート繊維からなる平織メッシュであり、図示のように、電解質膜1の表面側に備えられる、貫通孔11S、11S、…を有するシート10Sと、同裏面側に備えられる、貫通孔11B、11B、…を有するシート10Bとは、その繊維方向が約45度の角度を有するような形態で配置されている。一方、図1(C)に示すように、電解質膜1は、その内部の表面近傍及び裏面近傍に、繊維15、15、…からなるシート10S、10Bを備えている。そして、本実施形態では、表面近傍に備えられているシート10Sの上側面と電解質膜1表面との距離X、及び、裏面近傍に備えられているシート10Bの下側面と電解質膜1裏面との距離Yが、それぞれ5μm程度となるように、配置されている。なお、以下の説明において、電解質膜1の表裏面近傍に配置されているシート10S、10B、並びに、これらのシート10S、10Bに備えられる貫通孔11S、11S、…及び11B、11B、…の区別をする必要がない場合には、単に、「シート10」、「貫通孔11」と表記する。
【0019】
ここに、本実施形態にかかるシート10を形成するポリエステル繊維15、15、…は、親水性を有する高分子材料であり、そのプロトン伝導性は、電解質膜1を構成する上記樹脂よりも劣っている。そのため、かかる形態を有する電解質膜1の一方の面へと到達したプロトンは、シート10の貫通孔11、11、…に入り込んでいる上記樹脂を選択的に通過して他方の面へと到達する。すなわち、かかる形態とすることで、電解質膜1の厚み方向にプロトン伝導パスを形成することが可能になり、電解質膜1の内部におけるプロトンの蛇行を抑制してプロトンの移動経路の短縮化を図ることが可能になる(図1(C)参照)。したがって、本実施形態にかかる電解質膜1によれば、プロトンの伝導効率を向上させることが可能になる。
【0020】
一方で、本実施形態にかかる繊維15、15、…は、代表的な撥水性材料であるポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)よりも大きい、200μN/cm以上の表面張力を有しており、湿潤時における寸法変化量が電解質膜1の寸法変化量よりも小さい。そのため、図示の形態でシート10S、10Bを配置すれば、電解質膜1の湿潤時に、その内部に圧縮応力を発生させることが可能になり、特に、電解質膜1表裏面の強度を向上させることが可能になるため、電解質膜1の表裏面から生じる損傷を抑制することが可能になる。さらに、上述のように、矩形の貫通孔11S、11S、…、及び11B、11B、…を有するシート10S及び10Bは、その繊維方向が、電解質膜1の表裏面側で約45度の角度を有するように配置されているため、本実施形態にかかる電解質膜1は、様々な方向から加えられる応力に耐えることが可能になる。したがって、このような形態でシート10S、10Bを配置することで、電解質膜1を効果的に補強することが可能になり、発電の際等にMEA表面に生じる皺を低減することが可能になる。
【0021】
以上より、本実施形態によれば、プロトンの伝導効率を低下させることなく電解質膜1の耐久性を向上させることが可能になる。すなわち、本実施形態にかかる電解質膜1を備えることで、発電性能を低下させることなく電解質膜の耐久性を容易に向上させることが可能な、燃料電池を提供することが可能になる。
【0022】
図2は、第1実施形態にかかる電解質膜1を備える燃料電池の形態例を概略的に示す断面図である。図示の燃料電池100は、電解質膜1、並びに、当該電解質膜1の両側に備えられるアノード電極2a及びカソード電極2bを備えるMEA5と、MEA5の両側に配置されるアノード拡散層3a及びカソード拡散層3bと、拡散層3a及び3bの外側に配置されるセパレータ8a及び8bとを備えている。セパレータ8a及び8bの拡散層3a及び3b側には、反応ガス流路9a、9a、…が、その反対側には冷却媒体流路9b、9b、…がそれぞれ形成されており、アノード側のセパレータ8aの反応ガス流路9a、9a、…からは水素含有ガス(以下において、「水素」と記述する。)が、カソード側のセパレータ8bの流路9a、9a、…からは酸素含有ガス(以下において、「酸素」と記述する。)がそれぞれ供給されている。上記アノード側の反応ガス流路9a、9a、…から供給される水素は、アノード拡散層3aを介してアノード電極2aへと到達し、当該電極2aに含まれる触媒上において水素が水素イオンと電子とに分解される。そして、上記アノード電極2aにて発生した水素イオンは、電解質膜1を通ってカソード電極2bへと到達する。一方、カソード側の反応ガス供給路9a、9a、…から供給される酸素は、カソード拡散層3bを介してカソード電極2bへと供給され、当該電極2bの触媒上において、水素イオン、酸素、及び電子が反応することにより水(水蒸気)が生成される。ここに、燃料電池100には、加湿された水素及び酸素(以下において、水素及び酸素をまとめて「供給ガス」と記述することがある。)が供給されているが、燃料電池の通常運転時において、これらの供給ガス中に含まれる水蒸気は飽和水蒸気量に満たないことが多い。そのため、電解質膜1内の水分は供給ガスにより持ち去られやすく、特に、電解質膜1の表面は乾燥しやすい。
【0023】
上述のように、本実施形態にかかる電解質膜1に備えられているシート10S、10Bの開孔率は50%である。そのため、かかる形態のシート10S、10Bを電解質膜1内部の表裏面近傍に配置することで、燃料電池内へと供給される供給ガスにより電解質膜1から持ち去られる水分量を低減することが可能になり、電解質膜1の保水性を向上させることが可能になる。したがって、かかる形態の電解質膜1を備えることで、無加湿運転を実施し得る燃料電池を提供することも可能になる。
【0024】
図3は、本発明の燃料電池に備えられる、第2実施形態にかかる電解質膜を概略的に示す正面図及び断面図である。図3(A)は電解質膜の表面を、図3(B)は当該電解質膜の裏面を、それぞれ拡大して示す正面図であり、図3(C)は、図3(A)及び(B)の矢視断面を概略的に示す図である。理解を容易にするため、図3(A)では、シートを構成する繊維を適宜透過させて示している。図3(A)及び(B)において、電解質膜の積層方向は紙面に垂直な方向である一方、図3(C)では図の上下方向が電解質膜の積層方向である。図3(C)の矢印は、プロトンの伝導方向を示している。なお、重複記載を避けるため、図3において、図1と同じ構成を採る部位には図1にて使用した符号と同符号を付し、その詳細説明を省略する。
【0025】
図3に示すように、第2実施形態にかかる電解質膜20は、内部の表面近傍にのみ、矩形の貫通孔21S、21S、…を有する開孔率50%のシート210Sを備えており、その他の部位にはシートが備えられていない。かかる形態であっても、電解質膜20の表面近傍にシート210Sが備えられているので、シート210Sにより表面を補強することが可能になり、当該表面から生じる電解質膜20の破損を抑制することが可能になる。また、電解質膜20中を通過するプロトンは、シート210Sの貫通孔21S、21S、…に入り込んでいる電解質成分中を選択的に通過するため、電解質膜20の厚み方向にプロトン伝導パスを形成することが可能になる(図3(C)参照)。さらに、かかる形態とすることで、電解質膜20へと供給されるガスにより当該表面から持ち去られる水分量を低減することが可能になるため、電解質膜20の保水性を向上させることも可能になる。したがって、本実施形態にかかる電解質膜20を備えることで、発電性能を低下させることなく電解質膜の耐久性を容易に向上させることが可能であるとともに、無加湿運転を実施することが可能な、燃料電池を提供することが可能になる。
【0026】
図4は、本発明の燃料電池に備えられる、第3実施形態にかかる電解質膜を概略的に示す正面図及び断面図である。図4(A)は電解質膜の表面を、図4(B)は当該電解質膜の裏面を、それぞれ拡大して示す正面図であり、図4(C)は、図4(A)及び(B)の矢視断面を概略的に示す図である。理解を容易にするため、図4(A)及び(B)では、シートを構成する繊維を適宜透過させて示している。図4(A)及び(B)において、電解質膜の積層方向は紙面に垂直な方向である一方、図4(C)では図の上下方向が電解質膜の積層方向である。図4(C)の矢印は、プロトンの伝導方向を示している。なお、重複記載を避けるため、図4において、図1と同じ構成を採る部位には図1にて使用した符号と同符号を付し、その詳細説明を省略する。
【0027】
図4(C)に示すように、第3実施形態にかかる電解質膜30は、内部の略中央にのみ、矩形の貫通孔31C、31C、…を有する開孔率50%のシート310Cを備えており、その他の部位にはシートが備えられていない。かかる形態であっても、電解質膜30の略中央にシート310Cが備えられているので、電解質膜30の表面及び/又は裏面から生じた破損の進行を、当該シート310Cによって抑制することが可能になる結果、電解質膜30の破損を抑制することが可能になる。また、電解質膜30中を通過するプロトンは、シート310Cの貫通孔31C、31C、…に入り込んでいる電解質成分中を選択的に通過するため、電解質膜30の厚み方向にプロトン伝導パスを形成することが可能になる。したがって、本実施形態にかかる電解質膜30を備えることで、発電性能を低下させることなく電解質膜の耐久性を容易に向上させることが可能な、燃料電池を提供することが可能になる。
【0028】
上記説明では、便宜上、矩形の貫通孔を有するシートについて記述したが、本発明にかかる貫通孔を有するシートに形成される貫通孔の形状は矩形に限定されるものではない。当該貫通孔形状の他の具体例としては、円形、楕円形等を挙げることができる。図5に、円形の貫通孔を有するシートを備える電解質膜を概略的に示す。
【0029】
図5は、本発明の燃料電池に備えられる、第4実施形態にかかる電解質膜を概略的に示す正面図及び断面図である。図5(A)は電解質膜の表面を、図5(B)は当該電解質膜の裏面を、それぞれ拡大して示す正面図であり、図5(C)は、図5(A)及び(B)の矢視断面を概略的に示す図である。理解を容易にするため、図5(A)及び(B)では、シートを適宜透過させて示している。図5(A)及び(B)において、電解質膜の積層方向は紙面に垂直な方向である一方、図5(C)では図の上下方向が電解質膜の積層方向である。なお、図5(C)の矢印は、プロトンの伝導方向を示している。
【0030】
図5に示すように、第4実施形態にかかる電解質膜40は、内部の表面近傍に、円形の貫通孔41S、41S、…を有する開孔率50%のパンチングシート45Sを備えるとともに、内部の裏面近傍に、円形の貫通孔41B、41B、…を有する開孔率50%のパンチングシート45Bを備えている。そして、当該貫通孔41S、41S、…、及び41B、41B、…には、電解質膜40を構成する電解質成分(例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂)が入り込んでいる。本実施形態にかかるシート45S、45Bは、湿潤時における寸法変化量が電解質膜1の寸法変化量よりも小さいポリエーテルエーテルケトンからなり、円形の貫通孔41S、41S、…、及び41B、41B、…は千鳥状に配置されている。
【0031】
このように、シートに形成されている貫通孔が等方形状の円であれば、様々な方向からの応力に耐えることが可能になるため、表裏面近傍に配置されるシート45S、45Bの方向を変えずとも、様々な方向からの応力に耐え得る電解質膜40とすることが可能になる。なお、この他は、貫通孔の形状が異なるシートを配置することにより得られる効果に大きく変わる所はない。したがって、第4実施形態にかかる電解質膜40を備えることで、発電性能を低下させることなく電解質膜の耐久性を容易に向上させることが可能であるとともに、無加湿運転を実施することが可能な、燃料電池を提供することが可能になる。
【0032】
上記形態の電解質膜は、次のようにして作製することができる。例えば、表裏面の内側にシート10S、10Bが配置されている電解質膜1を作製する場合には、貫通孔11B、11B、…が形成されているシート10Bの上に溶融状態の電解質成分を配置し、さらに当該電解質成分の上に、貫通孔11S、11S、…が形成されているシート10Sを配置する。このようにすることで、シート10B及び10Sは毛細管現象により溶融状態の電解質成分中へと入り込むため、表裏面の内側にシート10S及び10Bが備えられている電解質膜1とすることが可能になる。この他、電解質膜1の表裏面側から、シート10S及び10Bを熱圧着する等の方法によっても、上記形態の電解質膜1とすることが可能になる。なお、シート面と電解質膜1の表裏面との距離(上記X及びY)は、シート10S、10Bを備える電解質膜1の表裏面側から加える圧力を調節する等の方法により、制御することが可能になる。
【0033】
本発明において、貫通孔を有するシートの厚みは、上記効果を奏する燃料電池とすることが可能な厚みであれば特に限定されるものではなく、例えば、5μm〜50μm程度とすることができる。なお、電解質膜の膜厚が過度に厚くなることを防ぐという観点から、貫通孔を有するシートの厚みは10μm以下とすることが好ましい。
【0034】
また、本発明にかかるシートの開孔率は、特に限定されるものではなく、電解質膜のプロトン伝導性能、強度、及び保水性等を総合的に勘案して適当な値とすることができる。電解質膜のプロトン伝導性能の低下を抑制する等の観点から、開孔率は30%以上とすることが好ましく、より好ましくは50%以上である。一方で、電解質膜の耐久性を効果的に向上させる等の観点から、開孔率は80%以下とすることが好ましい。
【0035】
さらに、電解質膜内部の表裏面近傍にシートが備えられる形態の電解質膜とする場合、これらのシートの開孔率は、同じ値としても良く、異なる値としても良い。シートの開孔率を適宜調整することで、電解質膜のプロトン伝導性能、強度、及び保水性能を制御することが可能になる。
【0036】
上記説明では、ポリアリレート繊維を平織りして形成されるシート、又はポリエーテルエーテルケトンからなるパンチングシートを備える電解質膜について記述したが、本発明にかかる電解質膜に備えられるシートの構成材料及び形態はこれらに限定されるものではない。本発明にかかるシートの具体例としては、200μN/cm以上の表面張力を有するポリエステル、ポリアラミド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリアリレート、ポリビニルアセテート、ポリアミド繊維等からなる平織メッシュや綾織メッシュ、又は、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド等に孔加工を施したパンチングシート等を挙げることができる。この他、金属を芯材とし、その表面からイオンが溶出しないように表面をコーティングした金属繊維からなる平織メッシュや綾織メッシュ、又は当該金属芯材に孔加工を施し、さらにその表面をコーティングしたパンチングシート等を用いることもできる。金属を芯材とする場合、当該金属の具体例としては、チタン及びチタン化合物等を挙げることができる。
【0037】
本発明において、平織メッシュや綾織メッシュのシートを内部の表裏面近傍に備える電解質膜とする場合、様々な方向からの応力に耐え得る電解質膜とする観点から、表裏面近傍に備えられる各シートを構成する繊維の方向は、異なる方向であることが好ましいが、本発明は、かかる形態に限定されるものではなく、当該繊維方向は同じであっても良い。また、平織メッシュや綾織メッシュのシートを内部に備える電解質膜とする場合、電解質膜内部に備えられるシートの繊維方向は、電解質膜が裂けやすい方向に対して略直角の方向を含んでいることが好ましい。かかる形態とすることで、電解質膜の強度を効果的に向上することが可能になる。
【0038】
便宜上、上記説明では、反応ガス流路が形成されている形態のセパレータを備える燃料電池について記述したが、本発明にかかる電解質膜が備えられる燃料電池の形態は当該形態に限定されるものではなく、反応ガス流路が形成されていないフラットタイプのセパレータを備える燃料電池であっても良い。また、本発明にかかる電解質膜を備える燃料電池において、電解質膜以外の構成要素(電極、拡散層、及びセパレータ等)の形態は特に限定されるものではなく、通常のPEFCにおいて使用される電極、拡散層、及びセパレータ等を好適に使用することができる。
【実施例】
【0039】
1.試験用MEAの作製
1.1.実施例用MEAの作製
厚さ40μm、開孔率50%、目開き0.1mmのポリアリレート製平織メッシュ(湿潤寸法変化1%未満)を電解質溶液に浸漬した後、当該電解質溶液からメッシュを取り出し、平坦な板上で乾燥させ、同様の手順で、もう1枚のメッシュを乾燥させた。そして、一対のメッシュで電解質膜を挟み、これらのメッシュを電解質膜両面に熱圧着することにより、内部の表裏面近傍にメッシュを備える電解質膜とした。その後、当該電解質膜の両面に、白金担持カーボンと電解質溶液とからなるスラリーを塗布し乾燥させて、実施例用のMEAを作製した。なお、上記熱圧着の際には、表裏面近傍に配置するメッシュの繊維方向を45度ずらした。
【0040】
1.2.比較例用MEAの作製
メッシュを電解質膜に配置しないことを除き、上記実施例用MEAと同様の手順を用いて、比較例用のMEAを作製した。
【0041】
2.試験
2.1.湿潤試験
実施例にかかるMEAと比較例にかかるMEAとを湿潤させることにより、湿潤時(湿度100%)におけるMEAの寸法変化と、MEA表面にて観察される単位長さ(1cm)当たりの皺の数を調査した。
【0042】
2.2.発電試験
実施例にかかるMEA、並びに、比較例にかかるMEAを用いて、低湿度(湿度60%)環境下にて発電試験を行った。
また、上記各MEAを用いて、フル加湿環境下において、電流密度0.1A/cmの条件にて発電を継続する耐久試験をあわせて実施し、上記各MEAの寿命を調べた。なお、MEAの寿命は、電解質膜の損傷等により発電が不可能になるまでの時間とした。
【0043】
3.結果
3.1.湿潤試験結果
上記MEAを用いて湿潤試験を実施したところ、メッシュを備えない比較例にかかるMEAは、電解質膜の面方向における湿潤時の寸法変化は10%であった。これに対し、内部の表裏面近傍にメッシュを備える実施例にかかるMEAは、同寸法変化が5%であった。実施例にかかるMEAに備えられているメッシュは、湿潤時における寸法変化が1%未満であるため、実施例にかかる電解質膜内では、湿潤時に、圧縮応力が作用していたものと考えられる。したがって、本試験より、内部の表裏面近傍にメッシュを備える電解質膜とすることで、湿潤環境におけるMEAの膨潤を抑制し得ることが確認された。
一方で、同様のMEAを用いて湿潤試験を実施したところ、比較例にかかるMEAの表面にて観察された皺の数は5個であったのに対し、実施例にかかるMEAの表面では皺が観察されなかった。これは、実施例にかかるMEAの電解質膜には、内部の表裏面近傍にメッシュが備えられていたため、当該MEAの屈曲が抑制されたためであると考えられる。したがって、本試験より、内部の表裏面近傍にメッシュが配置されている電解質膜を備えるMEAとすることで、MEAの屈曲が抑制されることが確認された。
以上より、内部の表裏面近傍にメッシュが配置されている電解質膜を備えるMEAとすることで、当該MEAの寸法変化が抑制されることが確認された。MEAの寸法変化を抑制することができれば、当該寸法変化に起因する電解質膜の剥離等を抑制することが可能になるため、かかる形態のMEAを備える燃料電池とすることで、発電性能を低下させることなく電解質膜の耐久性を容易に向上させることが可能な、燃料電池を提供することが可能になる。
【0044】
3.2.発電試験結果
上記各MEAを用いて発電試験を実施したところ、実施例にかかるMEAは、電流密度が0.1A/cmの場合における抵抗値が17mΩであり、比較例にかかるMEAの同抵抗値は18mΩであった。かかる試験により、電解質膜の内部にメッシュが備えられていても、抵抗値の増加を抑制することが可能であり、発電性能の低下を防止し得ることが確認された。
一方で、耐久試験によれば、実施例にかかるMEAの寿命は、比較例にかかるMEAの寿命よりも100%の延びを示した。したがって、内部の表裏面近傍にメッシュが配置されている電解質膜を備えるMEAとすることで、耐久性を向上させ得ることが確認された。
以上より、本発明にかかるMEAを備える燃料電池とすることで、発電性能を低下させることなく電解質膜の耐久性を向上させることが可能な、燃料電池を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】第1実施形態にかかる電解質膜を概略的に示す正面図及び断面図である。
【図2】第1実施形態にかかる電解質膜を備える燃料電池の形態例を概略的に示す断面図である。
【図3】第2実施形態にかかる電解質膜を概略的に示す正面図及び断面図である。
【図4】第3実施形態にかかる電解質膜を概略的に示す正面図及び断面図である。
【図5】第4実施形態にかかる電解質膜を概略的に示す正面図及び断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1、20、30、40 電解質膜
2a アノード電極
2b カソード電極
3a アノード拡散層
3b カソード拡散層
5 MEA
10B、10S、210S、310C、45B、45S シート
11B、11S、21S、31C、41B、45S 貫通孔
100 燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、該電解質膜の両側に配置される電極とを備え、
前記電解質膜の面と交差する方向に貫通する貫通孔を有するシートが、前記電解質膜の内部に備えられていることを特徴とする、燃料電池。
【請求項2】
貫通孔を有する前記シートは、前記電解質膜よりも、湿潤時の寸法変化量が小さいことを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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