説明

燃料電池

【課題】燃料タンクと気化室との間の内部シールが破れ難く、かつ燃料タンクと外装ケースとの間の外部シールも破れ難い燃料電池を提供する。
【解決手段】膜電極接合体10と、カバープレート12と、カバープレートと対向配置されるタンク構造体14と、タンク構造体との間に液体燃料の貯留空間としての燃料タンク17を規定するとともに、膜電極接合体との間に気化成分の通流空間としての気化室18を規定し、燃料タンク側から気化室側へ気化成分を透過させる気液分離膜16と、セル積層体20に面圧力を印加するように取り付けられ、カソード触媒層に空気を供給するための通気孔を有する外装ケース21と、外装ケースとセル積層体との間をシールする第1のシール構造8a、8b、23と、タンク構造体とカバープレートとの間をシールする第2のシール構造15とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯機器の動作に有効な平面配置の燃料電池に係り、特に内部気化型直接メタノール燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ、携帯電話等の各種電子機器は、半導体技術の発達と共に小型化され、燃料電池をこれらの小型機器用の電源に用いることが試みられている。燃料電池は、燃料と酸化剤を供給するだけで発電することができ、燃料のみを補充・交換すれば連続して発電できるという利点を有している。このため、小型化が出来れば携帯電子機器の作動に極めて有利なシステムといえる。特に直接メタノール燃料電池(DMFC;Direct Methanol Fuel Cell)は、エネルギー密度の高いメタノールを燃料に用い、メタノールから電極触媒上で直接電流を取り出せるため、小型化が可能であり、また燃料の取り扱いも水素ガス燃料に比べて容易なことから小型機器用電源として有望であることから、ノートパソコン、携帯電話、携帯オーディオ、携帯ゲーム機などのコードレス携帯機器に最適な電源としてその実用化が期待されている。
【0003】
DMFCの燃料の供給方法としては、液体燃料を気化してからブロア等で燃料電池内に送り込む気体供給型DMFCと、液体燃料をそのままポンプ等で燃料電池内に送り込む液体供給型DMFC、液体燃料をセル内で気化させる内部気化型DMFC等が知られている。
【0004】
例えば特許文献1に記載された内部気化型DMFCでは、図示しない液注入口を介して外部カートリッジから燃料タンク114内に液体燃料を注入し、タンク114内で液体燃料を気化させ、その気化成分を気液分離膜116に透過させて気化室118へ送り込み、図示しない供給孔を通して気化室118から膜電極接合体(MEA;Membrane Electrode Assembly)110に気化燃料を供給する。燃料タンク114は、図8に示すように、単数または複数の単位セルに隣接して設けられ、単位セルとともに外装ケース121により全体が覆われている。外装ケース121は、図8に示すように端部121aを燃料タンク114の外面にかしめて取り付けるか、またはボルトとナットで締め付けることにより、燃料タンク114から液体燃料が外部に漏れ出さないようにしている。また、セル内部においても、外装ケース121の押圧力を利用して、気液分離膜116を間に挟んで単位セル積層体119,107a,110,107bを燃料タンク114のフランジに押し付け、燃料タンク114と気化室118との間で液体と気体が自由に移動できないようにシールしている。なお、符号108a,108bはOリングやゴムパッキン等からなるシール部材、符号111はOリングやゴムパッキン等からなるシール部材、符号119は空気透過層としての保湿板である。
【特許文献1】特許第3413111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のDMFCにおいては、発電時の反応熱によりセル全体の温度が上昇し、内部のガス圧力が高まると、外装ケース121や燃料タンク114が膨出変形し、燃料タンク114と気化室118との間のシールや燃料タンク114と外装ケース121との間のシールが破れて燃料タンク114から液体燃料が外部に漏れ出すおそれがある。
【0006】
また、特にノートパソコン、携帯電話、携帯オーディオ、携帯ゲーム機などの小型携帯機器に組み込む際には、燃料電池の単位体積あたりの出力密度が大きくすることが要求されるため、シール構造にかかる圧力が大きく、セル内部のシールが破れやすい。
【0007】
また、燃料タンク114や外装ケース121は、内部の液体燃料の残量が外部から見えるように透明のプラスチック材料(例えばPET,PEN)でつくることが好ましいため、比強度が高く、かつ熱変形にも強い金属材料を用いることが難しい。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、燃料タンクと気化室との間の内部シールが破れ難く、かつ燃料タンクと外装ケースとの間の外部シールも破れ難い燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る燃料電池は、カソード触媒層とアノード触媒層との間にプロトン伝導膜を配置した膜電極接合体と、前記膜電極接合体を支持するカバープレートと、前記カバープレートと対向して配置され、開口部と該開口部を取り囲む周壁を有するタンク構造体と、前記カバープレートと前記タンク構造体との間に設けられ、前記タンク構造体との間に液体燃料の貯留空間としての燃料タンクを規定するとともに、前記膜電極接合体との間に気化成分の通流空間としての気化室を規定し、前記燃料タンク側から前記気化室側へ気化成分を透過させる気液分離膜と、前記膜電極接合体、前記カバープレート、前記タンク構造体および前記気液分離膜を含むセル積層体を取り囲み、前記セル積層体に面圧力を印加するように取り付けられ、前記カソード触媒層に空気を供給するための通気孔を有する外装ケースと、前記外装ケース(21,21A-21C)と前記セル積層体(20,20A-20C)との間をシールする第1のシール構造(8a,8b,11,23,14f,21f,31,32)と、前記タンク構造体(14,14A-14C)と前記カバープレート(12,12A-12C)との間をシールする第2のシール構造(13,15,12f,14f,21f,31,32)と、を有することを特徴とする。
【0010】
タンク構造体およびカバープレートはそれぞれ樹脂でつくられ、樹脂同士を溶着させることにより、第2のシール構造を形成することができる。
【0011】
さらに、カバープレートの外周部に張り出し形成された第1のフランジと、第1のフランジと対応するようにタンク構造体の外周部に張り出し形成された第2のフランジと、第1及び第2のフランジを締結する締結部材と、を有することができる。この場合に、第2のシール構造は、締結部材の締め付けにより、カバープレートとタンク構造体との間に所定の面圧力を印加された相互接触面よりなることができる。
【0012】
さらに、カバープレートは、その周縁部から前記タンク構造体に向けて延び出し、かしめ加工により折り曲げられてタンク構造体の底部外面に密着するかしめ部を有することができる。カシメ構造でなくてもセル積層体20に対して面圧力をかけられる構造であればその方法は選ばない。この場合に、第2のシール構造は、かしめ加工により、カバープレートとタンク構造体との間に所定の面圧力を印加された相互接触面よりなることができる。なお、第2のシール構造における所望の面圧力は、例えば5〜50kg/cm2の範囲である。面圧力が5kg/cm2を下回るとシールが破れやすくなる。一方、面圧力が50kg/cm2を上回ると、セル積層体およびタンク構造体の剛性を高めるためにこれらの構成部材が重厚長大になり、携帯電子機器の軽量小型化の目的に反するからである。
【0013】
さらに、外装ケースの外周部に張り出し形成された第3のフランジと、この第3のフランジと対応するようにタンク構造体の外周部に張り出し形成された第2のフランジと、第2及び第3のフランジを締結する締結部材と、を有することができる。この場合に、第1のシール構造は、締結部材の締め付けにより、外装ケースとタンク構造体との間に所定の面圧力を印加された相互接触面よりなることができる。
【0014】
さらに、外装ケースは、その周縁部からタンク構造体に向けて延び出し、かしめ加工により折り曲げられてタンク構造体の底部外面に密着するかしめ部を有することができる。この場合に、第1のシール構造は、かしめ加工により、外装ケースとタンク構造体との間に所望の面圧力を印加された相互接触面で構成することができる。また、第2のシール構造は、タンク構造体の周壁の端面にカバープレートの面を押圧することにより形成することができる。
【0015】
タンク構造体は、周壁の端面に段部を有し、この段部に気液分離膜の周縁部を載せ、この上にさらにカバープレートを被せることにより、気液分離膜の周縁部がタンク構造体とカバープレートとの間に挟みこませることができる。
【0016】
タンク構造体の開口部のシール部の幅は0.5mm〜3mmの範囲とすることが好ましく、さらに1.5mm〜2.5mmの範囲にすることが好ましい。シール部の幅が小さすぎると、シール構造に弱い部分ができやすくなり、不完全シールにより液体燃料が外部リークしやすくなる。また、シール部の幅を広くし過ぎると全体の外形に対して発電部の面積が小さくなり面積効率を落とすことになるからである。
【0017】
タンク構造体およびカバープレートに用いる樹脂材料として、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK:ヴィクトレックス ピーエルシー社の商標)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの液体燃料で膨潤等を生じにくい硬質の樹脂を用いることが望ましい。また、加熱溶着される樹脂材料として、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルナフタレート(PEN)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を用いることが望ましい。樹脂を溶着させる方法には熱溶着法、超音波溶着法またはレーザー溶接法を用いることができる。
【0018】
樹脂以外の他の材料として、耐食性に優れたコーティングを施せばステンレス鋼やニッケル金属などの金属材料を用いることもできる。
【0019】
液体燃料には、メタノール水溶液や純メタノール、エタノール水溶液や純エタノール、ジメチルエーテル、ギ酸、水素化ホウ素ナトリウム水溶液、水素化ホウ素カリウム水溶液、水素化リチウム水溶液などを用いることができる。また、燃料は濃度100%から数%までの範囲で種々の濃度のものを用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、燃料タンクと気化室との間の内部シールが破れ難く、かつ燃料タンクと外装ケースとの間の外部シールも破れ難い構造を採用するので、良好な電池性能が安定して得られるようになり、ノートパソコン、携帯電話、携帯オーディオ、携帯ゲーム機などのコードレス携帯機器などの電源としてバラツキの少ない出力特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0022】
(第1の実施の形態)
先ず、燃料電池の全体概要について図1を参照して説明する。燃料電池1は、外側が外装ケース21で覆われ、内部にセル積層体20が収納されている。外装ケース21の端部23はセル積層体20のタンク構造体14にかしめ加工され、これによりセル積層体20と外装ケース23とが一体化されている。また、セル積層体20の内部の適所には第1のシール構造としてのOリング8a,8b及びシール部材11がそれぞれ設けられ、外装ケース21とセル積層体20との間がシールされ、内部の燃料が外部に漏れ出さないようにされている。
【0023】
セル積層体20は、複数の単位セル、液体燃料タンク17および気化室18を有している。複数の単位セルは、ほぼ同一平面上に並んで配置され、直列に電気接続されている。単位セルの各々は、膜電極接合体(MEA;Membrane Electrode Assembly)10、カソード導電層7aおよびアノード導電層7bを備えている。カソード導電層7aの側には保湿板19が設けられ、外気の空気の通過を阻害せず、外部からの微笑の埃や異物の混入、さらには接触などを防止するようになっている。この保湿板19としては、好ましくは気孔率が例えば20〜60%の多孔性フィルムなどが用いられる。なお、エア導入のために、外装ケース21の主面に複数の通気孔22が開口している。エアは、通気孔22を通って内部に入り、保湿板19を透過して、MEAのカソード触媒層2に供給される。
【0024】
セル積層体20の内部には種々のフレームや部材によって各種のスペースや間隙が形成されている。それらのスペースや間隙のうち、アノード側のスペースは液体燃料タンク17および気化室18として用いられ、カソード側のスペースには保湿板19が収納されている。液体燃料タンク17の適所、例えば燃料タンクの側面において図示しない液受入口が開口している。液受入口には例えばバイオネット式のカプラーが取り付けられ、燃料を補給するときを除いて、カプラーにより開口が閉鎖されている。この燃料電池本体側のカプラーには外部カートリッジ側のカプラーが液密に係合され得るような形状に形成されている。例えばカートリッジ側のカプラーの溝を燃料電池本体側のカプラーの突起に係合させて案内しながら、カートリッジカプラーを燃料電池カプラーのなかに押し込むと、カプラーの内蔵バルブが開いてカートリッジ側の流路が燃料電池本体側の流路に連通し、カートリッジの内圧によって液体燃料が液受入口から液体燃料タンク17内に流入するようになっている。
【0025】
膜電極接合体10は、カソード触媒層2及びカソードガス拡散層4からなるカソード極と、アノード触媒層3及びアノードガス拡散層5からなるアノード極と、カソード触媒層2とアノード触媒層3の間に配置されるプロトン伝導性の電解質膜6とを備えている。カソード触媒層2及びアノード触媒層3に含有される触媒としては、例えば、白金族元素の単体金属(Pt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等)、白金族元素を含有する合金などを挙げることができる。アノード触媒には、メタノールや一酸化炭素に対する耐性の強いPt−Ru、カソード触媒には、白金を用いることが望ましいが、これに限定されるものでは無い。また、炭素材料のような導電性担持体を使用する担持触媒を使用しても、あるいは無担持触媒を使用してもよい。
【0026】
電解質膜6は、アノード触媒層3において発生したプロトンをカソード触媒層2に輸送するためのものであり、電子伝導性を持たず、プロトンを輸送することが可能な材料により構成されている。例えば、スルホン酸基を有するフッ素系樹脂(例えば、パーフルオロスルホン酸重合体)、スルホン酸基を有するハイドロカーボン系樹脂、タングステン酸やリンタングステン酸などがあげられるが、具体的には、デュポン社製のナフィオン膜(登録商標)、旭硝子社製のフレミオン膜(登録商標)、あるいは旭化成工業社製のアシプレックス膜(登録商標)などにより構成されている。なお、ポリパーフルオロスルホン酸系の樹脂膜以外にも、トリフルオロスチレン誘導体の共重合膜、リン酸を含浸させたポリベンズイミダゾール膜、芳香族ポリエーテルケトンスルホン酸膜、あるいは脂肪族炭化水素系樹脂獏などプロトンを輸送可能な電解質膜6を構成するようにしてもよい。
【0027】
カソード触媒層2はカソードガス拡散層4上に積層され、かつアノード触媒層3はアノードガス拡散層5上に積層されている。カソードガス拡散層4はカソード触媒層2に酸化剤を均一に供給する役割を担うものであるが、カソード触媒層2の集電体も兼ねている。一方、アノードガス拡散層5はアノード触媒層3に燃料を均一に供給する役割を果たすと同時に、アノード触媒層3の集電体も兼ねている。カソード導電層7aの内側の面はカソードガス拡散層4に接し、アノード導電層7bの内側の面はアノードガス拡散層5に接している。これらのカソード導電層7a及びアノード導電層7bには、例えば金などの電気特性と化学安定性に優れた金属材料からなる多孔質層(例えばメッシュ)をそれぞれ使用することができる。
【0028】
矩形枠状のカソードシール材8aは、カソード導電層7aとプロトン伝導性電解質膜6との間に位置すると共に、カソード触媒層2及びカソードガス拡散層4の周囲を囲んでいる。一方、矩形枠状のアノードシール材8bは、アノード導電層7bとプロトン伝導性電解質膜6との間に位置すると共に、アノード触媒層3及びアノードガス拡散層5の周囲を囲んでいる。カソードシール材8a及びアノードシール材8bは、MEA10からの燃料漏れ及び酸化剤漏れを防止するためのオーリングである。
【0029】
膜電極接合体10のアノード側にはカバープレート12が設けられている。カバープレート12は、MEA10を燃料電池1内の所定の位置に位置決め支持するための支持部材である。カバープレート12には複数の孔12aが開口している。気液分離膜16を通って気化室18に入った気化燃料は、これらの孔12を通ってさらに気化室18からMEA10に供給されるようになっている。
【0030】
カバープレート12の周縁部にはフランジ12fが形成されている。また、タンク17のスペースを規定するタンク構造体14の周縁部にもフランジ14fが形成されている。カバープレート12およびタンク構造体17は、耐メタノール性に優れ、液体燃料で膨潤等を生じにくい、ポリフェニレンサルファイド(PPS)同士でつくられている。タンク構造体のフランジ14fには段差14aが形成されている。段差14aは、気液分離膜16の周縁部を両フランジ12f,14f間に挟み込み保持するための保持溝を形成する。
【0031】
両フランジ12f,14fはヒートシール加工により熱溶融接着され、第2のシール構造としてのシール面15が形成されている。本実施形態では、タンク構造体14の開口部の二次元投影面積A2に対する第2のシール構造(シール面15)の二次元投影面積A1のタンク構造体14の開口部のシール幅A1を2mmで形成した。
【0032】
気液分離膜16は、液体燃料(例えばメタノール溶液)の気化成分のみを透過させて、液体燃料そのものは透過させない性質を有している。これにより液体燃料タンク17と気化室18とが仕切られている。気液分離膜16には例えばシリコンシートやPTFE膜などの多孔膜を用いる。ここで、液体燃料の気化成分とは、液体燃料として液体のメタノールを使用した場合は気化したメタノールを意味し、液体燃料としてメタノール水溶液を使用した場合にはメタノールの気化成分と水の気化成分からなる混合ガスを意味する。
【0033】
気化室18は、気液分離膜16を透過してきた気化燃料を一時的に収容しておく蒸気溜りとして機能する。この気化室18及び気液分離膜16の透過メタノール量抑制効果により、一度に多量の気化燃料がアノード触媒層3に供給されるのを回避することができ、メタノールクロスオーバーの発生を抑えることができる。
【0034】
外装ケース21は、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK:ヴィクトレックス ピーエルシー社の商標)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、などの液体燃料で膨潤等を生じいくい硬質のプラスチックでつくることが望ましいが、耐食性に優れたコーティングを施せばステンレス鋼やニッケル金属などの金属材料でつくることもできる。
【0035】
液体燃料タンク17の内部に積層された液体燃料含浸層を設けるようにしてもよい。液体燃料含浸層として、例えば多孔質ポリエステル繊維、多孔質オレフィン系樹脂等多硬質繊維や、連続気泡多孔質体樹脂が好ましい。液体燃料含浸層は、燃料タンク17内の液体燃料が減少した場合や燃料電池本体が傾斜して載置され燃料供給が偏った場合においても、気液分離膜16に均等に液体燃料が供給され、その結果、アノード触媒層3に均等に気化された液体燃料を供給することが可能となる。ポリエステル繊維以外にも、アクリル酸系の樹脂などの各種吸水性ポリマーにより構成してもよく、スポンジまたは繊維の集合体など液体の浸透性を利用して液体を保持することができる材料により構成する。本液体燃料含浸部は,本体の姿勢に関わらず適量の燃料を供給するのに有効である。なお、液体燃料としては、例えばメタノール水溶液、純メタノール、エタノール水溶液、純エタノール、プロパノール水溶液、ギ酸水溶液、ギ酸ナトリウム水溶液、酢酸水溶液、エチレングリコール水溶液、ジメチルエーテルなどの水素を含む有機系の水溶液が用いられる。中でもメタノール水溶液は、炭素数が1で反応の際に発生するのが炭酸ガスであると共に、低温での発電反応が可能であり、産業廃棄物から比較的容易に製造することができるので好ましい。
【0036】
本実施形態の燃料電池1においては、Oリング8a,8b及びシール部材11を適所に配置したセル積層体20をかしめ加工により外装ケース21内にて押圧力が掛かるように取り付け、第1のシール構造を形成するとともに、さらにカバープレートのフランジ12fとタンク構造体のフランジ14fとを超音波溶着にて接合し、第2のシール構造(シール面15)を形成している。このような二重のシール構造とすることにより、非発電時はいうに及ばず発電時にセルが発熱して温度上昇した場合においても、内部の液体燃料が外部に漏れ出さなくなる。また、セル積層体内部のシール性も従来に比べて向上するので、アノード側からカソード側への未反応燃料のクロスオーバーを生じなくなり、発電効率が向上する。
【0037】
(第2の実施の形態)
図2、図5、図6を用いて第2の実施の形態について説明する。なお、本実施の形態が上記の実施の形態と重複する部分の説明は省略する。
【0038】
本実施の形態の燃料電池1Aでは、かしめ加工を用いて第2のシール構造を形成している。すなわち、カバープレート12Aのフランジ部を下方に延長して長めに形成し、その端部13をタンク構造体14Aの外面に沿ってほぼ90°以上に折り曲げてかしめる。これによりカバープレート12Aとタンク構造体14Aとが所望レベル以上の押圧力をもって一体化し、独立のシール構造体を形成することとなる。なお、第1のシール構造は上記の実施形態とほぼ同様のかしめ加工を用いて形成される。すなわち、Oリング8a,8b及びシール部材11をそれぞれ適所に配置してセル積層体20Aを形成し、このセル積層体20Aに外装ケース21Aを被せて、外装ケース21Aの端部23をタンク構造体14Aにかしめることにより、外装ケース21Aとセル積層体20Aとが一体化し、これにより上記の第2のシール構造とは独立の第1のシール構造が形成される。
【0039】
本実施の形態によれば、第1のシール構造のかしめ加工と第2のシール構造のかしめ加工とはまったく別個独立のものであり、各シール構造がそれぞれ所望レベル以上の押圧力を各部材間に与えるので、内部の液体燃料が外部に漏れ出さなくなるとともに、未反応燃料のクロスオーバーが有効に防止されるようになり、発電効率が向上する。
【0040】
(第3の実施の形態)
図3、図6、図7を用いて第3の実施の形態について説明する。なお、本実施の形態が上記の実施の形態と重複する部分の説明は省略する。
【0041】
本実施の形態の燃料電池1Bでは、ボルト・ナットの締結構造を用いて第2のシール構造を形成している。すなわち、カバープレート12Bとタンク構造体14Bの各フランジ12f,14fを側方に延長してそれぞれ長めに形成し、第1のフランジ12fと第2のフランジ14fとをボルト31とナット32で締め付けている。これによりカバープレート12Bとタンク構造体14Bとが所望レベル以上の押圧力をもって一体化し、独立のシール構造体を形成することとなる。なお、第1のシール構造は図6に示すようにかしめ加工を用いて形成される。すなわち、Oリング8a,8b及びシール部材11をそれぞれ適所に配置してセル積層体20Bを形成し、このセル積層体20Bに外装ケース21Bを被せて、外装ケース21Bの端部23をタンク構造体14Bにかしめることにより、外装ケース21Bとセル積層体20Bとが一体化し、これにより上記の第2のシール構造とは独立の第1のシール構造が形成される。
【0042】
但し、第2のシール構造を構成するボルト31やナット32が第1のシール構造を構成するかしめ部23と相互に干渉しないようにするため、図7に示すように、両フランジ12f,14fを特定箇所のみに張り出させ、両フランジ12f,14fが張り出していない箇所のみにおいてかしめ加工するようにしている。折り曲げた第1のシール構造のかしめ部23と第2のシール構造のボルト・ナットの締結部とがオーバーラップすると、かしめが甘くなり、十分なシール性が発揮されなくなるからである。
【0043】
本実施の形態によれば、ボルト・ナットの締め付けを調整することにより、第2のシール構造の押圧力を高めたり低めたりすることができる。
【0044】
(第4の実施の形態)
図4、図5、図7を用いて第4の実施の形態について説明する。なお、本実施の形態が上記の実施の形態と重複する部分の説明は省略する。
【0045】
本実施の形態の燃料電池1Cでは、ボルト・ナットの締結構造を用いて第1のシール構造を形成している。すなわち、外装ケース21Cとタンク構造体14Cの各フランジ21f,14fを側方に延長してそれぞれ長めに形成し、第3のフランジ21fと第2のフランジ14fとをボルト31とナット32で締め付けている。これにより外装ケース21Cとタンク構造体14Cとが所望レベル以上の押圧力をもって一体化し、独立のシール構造体を形成することとなる。なお、第2のシール構造は図5に示すようにかしめ加工により形成される。但し、第1のシール構造を構成するボルト31やナット32が第2のシール構造を構成するかしめ部13と相互に干渉しないようにするため、図7に示すように、両フランジ14f,21fを特定箇所のみに張り出させ、フランジ14f,21fが張り出していない箇所のみにおいてかしめ加工するようにしている。折り曲げた第2のシール構造のかしめ部13と第1のシール構造のボルト・ナットの締結部とがオーバーラップすると、かしめが甘くなり、十分なシール性が発揮されなくなるからである。
【0046】
本実施の形態によれば、ボルト・ナットの締め付けを調整することにより、第1のシール構造の押圧力を高めたり低めたりすることができる。また、外装ケースを燃料電池本体から取り外しやすくなり、外装ケースの交換が容易になるとともに燃料電池を分解して修理しやすくなる。
【0047】
以上、種々の実施の形態を挙げて説明したが、本発明は上記各実施の形態のみに限定されるものではなく、種々変形および組み合わせることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1の実施形態の燃料電池の内部構造を示す断面模式図。
【図2】本発明の第2の実施形態の燃料電池の内部構造を示す断面模式図。
【図3】本発明の第3の実施形態の燃料電池の内部構造を示す断面模式図。
【図4】本発明の第4の実施形態の燃料電池の内部構造を示す断面模式図。
【図5】かしめ加工により一体化されるMEA支持部材とタンク部材を示す分解斜視図。
【図6】かしめ加工により一体化されるセル積層体と保護カバーを示す分解斜視図。
【図7】第3または第4の実施形態の燃料電池を燃料タンク側(アノード側)から見て示す平面模式図。
【図8】従来の燃料電池の内部構造を示す断面模式図。
【符号の説明】
【0049】
1,1A,1B,1C,100…燃料電池、
2…カソード触媒層、3…アノード触媒層、
4…カソードガス拡散層、5…アノードガス拡散層、
6…プロトン伝導膜(固体電解質膜)、
7a…カソード導電層(正極リード)、
7b…アノード導電層(負極リード)、
8a,8b…Oリング(第1のシール構造)、
11…シール部材(第1のシール構造)、
10…膜電極接合体(MEA)、
12…カバープレート(MEA支持部材)、12a…開口、12f…第1のフランジ、
13…かしめ部(第2のシール構造)、
14,14A,14B,14C…タンク構造体、
14a…段部、
14f…第2のフランジ、
15…シール面(第2のシール構造)、
16…気液分離膜、
17…燃料タンク(液体燃料収容室)、
18…気化室、
19…空気供給部(保湿板)、
20,20A,20B,20C…セル積層体、
21,21A,21B,21C…外装ケース、
21f…第3のフランジ、
22…通気孔、
23…かしめ部(第1のシール構造)、
31…ボルト(締結部材)、32…ナット(締結部材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード触媒層とアノード触媒層との間にプロトン伝導膜を配置した膜電極接合体と、
前記膜電極接合体を支持するカバープレートと、
前記カバープレートと対向して配置され、開口部と該開口部を取り囲む周壁を有するタンク構造体と、
前記カバープレートと前記タンク構造体との間に設けられ、前記タンク構造体との間に液体燃料の貯留空間としての燃料タンクを規定するとともに、前記膜電極接合体との間に気化成分の通流空間としての気化室を規定し、前記燃料タンク側から前記気化室側へ気化成分を透過させる気液分離膜と、
前記膜電極接合体、前記カバープレート、前記タンク構造体および前記気液分離膜を含むセル積層体を取り囲み、前記セル積層体に面圧力を印加するように取り付けられ、前記カソード触媒層に空気を供給するための通気孔を有する外装ケースと、
前記外装ケースと前記セル積層体との間をシールする第1のシール構造と、
前記タンク構造体と前記カバープレートとの間をシールする第2のシール構造と、
を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記タンク構造体および前記カバープレートはそれぞれ樹脂でつくられ、樹脂同士の相互接触面を加熱して溶着させる熱溶着、波動溶着、レーザー溶着により前記第2のシール構造が形成されることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
さらに、前記カバープレートの外周部に張り出し形成された第1のフランジと、前記第1のフランジと対応するように前記タンク構造体の外周部に張り出し形成された第2のフランジと、前記第1及び第2のフランジを締結する締結部材と、を有し、
前記第2のシール構造は、前記締結部材の締め付けにより、前記カバープレートと前記タンク構造体との間に所定の面圧力を印加された相互接触面よりなることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項4】
さらに、前記カバープレートは、その周縁部から前記タンク構造体に向けて延び出し、かしめ加工により折り曲げられて前記タンク構造体の底部外面に密着するかしめ部を有し、
前記第2のシール構造は、前記かしめ加工により、前記カバープレートと前記タンク構造体との間に所定の面圧力を印加された相互接触面よりなることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項5】
さらに、前記外装ケースの外周部に張り出し形成された第3のフランジと、前記第3のフランジと対応するように前記タンク構造体の外周部に張り出し形成された第2のフランジと、前記第2及び第3のフランジを締結する締結部材と、を有し、
前記第1のシール構造は、前記締結部材の締め付けにより、前記外装ケースと前記タンク構造体との間に所定の面圧力を印加された相互接触面よりなることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項6】
さらに、前記外装ケースは、その周縁部から前記タンク構造体に向けて延び出し、かしめ加工により折り曲げられて前記タンク構造体の底部外面に密着するかしめ部を有し、
前記第1のシール構造は、前記かしめ加工により、前記外装ケースと前記タンク構造体との間に所定の面圧力を印加された相互接触面よりなることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項7】
前記第2のシール構造は、前記タンク構造体の周壁の端面に前記カバープレートの面を押圧することにより形成されることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項8】
前記タンク構造体は、前記周壁の端面に段部を有し、この段部に前記気液分離膜の周縁部を載せ、この上にさらに前記カバープレートを被せることにより、前記気液分離膜の周縁部が前記タンク構造体と前記カバープレートとの間に挟みこまれることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項9】
前記タンク構造体の開口部のシール構造部A1の幅が0.5〜3mm、好ましくは1.5〜2.5mmであることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−16258(P2008−16258A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184632(P2006−184632)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000221339)東芝電子エンジニアリング株式会社 (238)
【Fターム(参考)】