説明

燃料電池

【課題】スタック構造を有する燃料電池において、積層方向の締結荷重による、セパレータの端部における変形や破損を防止する技術を提供することを目的とする。
【解決手段】アノード側セパレータ41bでは、接着剤Bbは、アノード側セパレータ41bの4辺のうち、上下辺に沿って直線状に、また、嵌合部418の周囲、および貫通孔412i等の周囲を囲むように塗布されている。また、カソード側セパレータ47bでも、同様の箇所に接着剤Bbが塗布されている。セパレータ41b、47bの上下辺に沿って直線状に塗布された接着剤Bbは、セパレータの端部において上記した締結加重を支えるための、支持部材として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関するものであり、特に、単電池を複数積層したスタック構造を有する燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解質膜と、電解質膜の両面に配置された1対の電極と、その外側に配置された1対のセパレータとを備える単電池を、複数積層した積層体を有する燃料電池スタックにおいて、燃料ガスは、燃料ガス供給マニホールドを通って、各単電池のアノードにそれぞれ供給される。同様に、酸化剤ガスは、酸化剤ガス供給マニホールドを通って、各単電池のカソードにそれぞれ供給される。これらのマニホールドは、それぞれ、燃料電池スタックを、積層方向に貫通している。各セパレータには、外周部に貫通孔が設けられており、単電池を積層した際に、それら貫通孔が、マニホールドを構成することになる。従来から、上記単電池において、燃料ガスおよび酸化剤ガスの漏洩を防止するために、1対のセパレータ間にシール部材を配設することがある。例えば、上記したセパレータに設けられた貫通孔の周囲、および発電部の周囲に、シール部材を設けるものが提案されている (特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−223903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池スタックにおいて、上記したシール部材によるシール性を高めるためや、燃料電池スタック内における接触不良による電池性能の低下を抑制するために、燃料電池スタックの積層方向に、締結加重が加えられている場合がある。例えば、上記した積層体の両端にエンドプレートを備え、エンドプレートの四隅にそれぞれテンションロッドを貫通させ、そのテンションロッドの両端にそれぞれナットを螺合させて締め付けることにより、燃料電池スタックの積層方向に締結荷重を加える方法がある。
【0005】
従来の燃料電池スタックにおけるセパレータの平面図を図7(a)に、燃料電池スタックを、図7(a)におけるA−Aで切断した場合の断面図を図7(b)に示す。
【0006】
図7(a)に示すように、セパレータ41の外周部には、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却媒体を流すための貫通孔416i等が設けられており、貫通孔の周囲に沿ってシール部材Sが設けられている。また、発電部の周囲に沿ってシール部材Sが設けられている。なお、図7(a)において、シール部材Sを斜線ハッチングで示している。
例えば、燃料電池スタックにおいて、MEA48をセパレータ41で挟持した単電池を積層する際の位置ずれによって、セパレータを両側から押圧するシール部材Sのシールラインが互いにずれているものとする。このとき、燃料電池スタックを、図7(a)におけるA−Aで切断した場合の断面図をみると、図7(b)に示すように、MEA48の上部にシール部材Sが設けられている。上記したように、セパレータを両側から押圧するシール部材Sのシールラインが互いにずれているため、図7(b)において、矢印で示すような押圧力がかかり、曲げ応力が働く。従って、金属のセパレータの場合、図7(b)において破線で示すようにセパレータが曲がり、セパレータの端部が接触して電気的に短絡する恐れがあった。また、カーボンのセパレータの場合は、上記のように、シール部材Sのシールラインがずれた場合に、シール部材で押圧されている位置から割れが生じる恐れがあった。
【0007】
従って、本発明は、上述の従来技術の問題点を解決し、スタック構造を有する燃料電池において、積層方向の締結荷重による、セパレータの端部における変形や破損を防止する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題の少なくとも一部を解決するために、本発明における燃料電池は、電解質膜と、該電解質膜の両面に配置された1対の電極と、1対の前記電極の外側に配置された1対のセパレータとを備える単電池を、複数積層した積層体を有し、前記積層体の積層状態を維持するために積層方向に締結荷重がかけられている燃料電池であって、前記セパレータの外周部に形成され、少なくとも反応ガスを流すための貫通孔と、前記1対のセパレータの間に配置され、前記セパレータの外周部の前記貫通孔が形成されていない部位において、前記締結荷重を支えるための支持部材とを備えることを要旨とする。
【0009】
本発明の燃料電池では、セパレータの外周部において、貫通孔が形成されていない部位に、支持部材が配置されている。従って、反応ガスが流れる貫通孔の周囲および発電部の周囲にシール部材が配置されている場合に、セパレータの両側からセパレータを押圧するシール部材の位置が、互いにずれることによって、曲げ応力が加わっても、セパレータの端部が支持部材によって支持されているため、セパレータは曲がりにくい。従って、金属製のセパレータの場合、セパレータが曲がってセパレータの端部同士が接触することがなく、電気的な短絡を防止することができる。また、カーボン製のセパレータの場合も同様に、シール部材の位置がずれている箇所における割れを防止することができる。
【0010】
上記した燃料電池において、少なくとも前記貫通孔の周囲の一部に沿って形成されたシール部材をさらに有し、前記支持部材は、前記シール部材と一体化して形成されていることが好適である。
【0011】
本明細書中において、シール部材としては、例えば、シールガスケット、シールガスケット一体型MEA、接着シール等を含む種々の形態を利用することができる。そして、シール部材は、貫通孔の周囲を囲むように形成されるものであってもよいし、例えば、反応ガス流路と連通する箇所はシール部材を設けないような形状としてもよい。このようにシール部材を設けると、反応ガスの流通を妨げることがなく、好適である。
【0012】
本発明の燃料電池は、上記した燃料電池において、支持部材がシール部材と一体化して形成されているため、部品点数を減らすことができ、燃料電池スタックの組み付けが容易になる。
【0013】
上記した燃料電池において、1対の前記セパレータと、前記シール部材と、前記支持部材と、によって、閉塞空間を形成しないことが好ましい。
【0014】
本明細書中において、閉塞空間とは、閉じた空間であり、他の空間と繋がる開口部がない空間をいう。例えば、貫通孔の周囲に沿って形成されたシール部材と、そのシール部材と一体的に形成された支持部材とによって、閉塞した枠(例えば、四角形状の枠)が形成された場合に、1対のセパレータの間に、その支持部材を配置すると、セパレータと、支持部材と、シール部材とによって、閉塞空間が形成される場合が想定できる。
【0015】
本発明の燃料電池では、1対のセパレータと、シール部材と、支持部材と、によって閉塞された閉塞空間を形成しない。そのため、以下のような効果を奏する。
例えば、セパレータと、支持部材と、シール部材と、によって閉塞空間が形成される場合、燃料電池の運転時に自己発熱により、閉塞空間の空気は膨張し、シール部材や支持部材を越えて、貫通孔側に流入することがある。そうすると、貫通孔の周囲に形成されたシール部材のシール性能が低下し、貫通孔を流れる反応ガスが外部へ流出することがある。しかしながら、本発明の燃料電池によれば、閉塞空間が形成されないため、貫通孔の周囲に形成されたシール部材を越えて気体が移動しようとする力が働かない。従って、シール性能の低下を防止することができる。
【0016】
上記した燃料電池において、前記支持部材は、接着剤から成るものであってもよい。
【0017】
本発明の燃料電池は、支持部材が接着剤から成るため、単電池が一体化される。そのため、単電池を複数積層する場合に、セパレータ、電極、電解質膜等をそれぞれ積層する場合に比較して、燃料電池スタックの組み付けが容易になり、また、組み付け精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.第1の実施例:
B.第2の実施例:
C.第3の実施例:
D.第4の実施例:
E:変形例
【0019】
A.第1の実施例:
A1.燃料電池スタックの構成:
図1は、本発明の第1の実施例としての燃料電池スタック100の概略構成を示す斜視図である。この燃料電池スタック100は、燃料ガスとしての水素と、酸化剤ガスとしての空気中の酸素が、各電極において電気化学反応を起こすことによって起電力を得るものである。燃料電池スタック100は、図示する通り、単電池40aを所定数積層して形成される。単電池40aの積層数は、燃料電池スタック100に要求される出力に応じて任意に設定可能である。本実施例では、各単電池40aは、それぞれ固体高分子型燃料電池として形成されているものとする。
【0020】
燃料電池スタック100は、一端から、エンドプレート10、絶縁板20、集電板30、複数の単電池40a、集電板50、絶縁板60、エンドプレート70の順に積層することによって構成されている。これらには、燃料電池スタック100内に、燃料ガスとしての水素や、酸化剤ガスとしての空気や、冷却水を流すための図示しない供給口や、排出口や、流路が設けられている。水素は、図示しない水素タンクから供給される。また、空気や、冷却水は、図示しないポンプによって加圧されて供給される。なお、冷却水を流すための冷却水流路が形成された冷却水セパレータが、単電池40aを5つ積層した毎に1つ配設されている(図示しない)。
【0021】
燃料電池スタック100には、また、図示するように、テンションプレート80が備えられている。燃料電池スタック100には、燃料電池スタック100内における接触不良による電池性能の低下を抑制し、また、シール部材のシール性能を十分に得るために、スタック構造の積層方向に押圧力が加えられ、テンションプレート80をボルト82によって燃料電池スタック100の両端のエンドプレート10、70に固定することによって、各単電池40aは、積層方向に所定の締結力で締結されている。
【0022】
なお、エンドプレート10、70、および、テンションプレート80は、剛性を確保するため、鋼等の金属によって形成されている。絶縁板20、60は、ゴムや、樹脂等の絶縁性部材によって形成されている。集電板30、50は、緻密質カーボンや、銅板などのガス不透過な導電性部材によって形成されている。集電板30、50には、それぞれ図示しない出力端子が設けられており、燃料電池スタック100で発電した電力を出力可能となっている。
【0023】
次に、単電池40aについて、図2に基づいて説明する。図2(a)は、アノード側セパレータ41aの、アノード側拡散層42と当接する面を示す平面図である。図示するように、アノード側セパレータ41aは、平面略正方形状を成す平板であり、その外周部に、平面略長方形状を成す貫通孔である水素供給用貫通孔412i、水素排出用貫通孔412o、空気供給用貫通孔414i、空気排出用貫通孔414o、冷却水供給用貫通孔416i、および冷却水排出用貫通孔416oが形成されている。そして、図2(c)に示す膜電極接合体(以下、単に「MEA」ともいう。)48が勘合するように、平面略正方形の凹状を成す嵌合部418が形成されている。さらに、水素供給用貫通孔412iおよび水素排出用貫通孔412oと連通し、溝状を成す水素流路412pが形成されている。
【0024】
図2(b)は、カソード側セパレータ47aの、カソード側拡散層46と当接する面を示す平面図である。図示するように、カソード側セパレータ47aも、上記したアノード側セパレータと同様の平面略正方形状を成す平板であり、その外周部には、平面略長方形状を成す貫通孔である水素供給用貫通孔472i、水素排出用貫通孔472o、空気供給用貫通孔474i、空気排出用貫通孔474o、冷却水供給用貫通孔476i、および冷却水排出用貫通孔476oが形成されている。そして、上記したアノード側セパレータ41aと同様に、平面略正方形状を成す嵌合部478が形成され、さらに、空気供給用貫通孔474i、空気排出用貫通孔474oと連通し、溝状を成す空気流路474pが形成されている。
なお、本実施例において、セパレータ41a、47aはステンレス鋼製の平板を用いるものとするが、チタンやアルミニウム等、他の金属製の平板を用いるものとしてもよいし、カーボン製の平板を用いるものとしてもよい。
【0025】
図2(c)は、単電池40aを図2(a)におけるA−Aで切断した場合の断面図である。単電池40aは、アノード側拡散層42、アノード43、電解質膜44、カソード45、カソード側拡散層46の順に積層されたMEA48を、アノード側拡散層42の側に配置されたアノード側セパレータ41aと、カソード側拡散層46の側に配置されたカソード側セパレータ47aとによって、挟持することにより構成される。本実施例において、電解質膜44としては、フッ素系樹脂により形成された高分子電解質膜を、アノード43およびカソード45としては、触媒として白金および白金合金を担持したカーボンクロスより形成された触媒電極を、それぞれ用いるものとした。拡散層42、46としてはカーボン多孔体を用いるものとした。このような拡散層42、46を用いることにより、アノード43およびカソード45の全面に効率よく拡散させてガスを供給することができる。なお、電解質膜として、固体酸化物等、他の電解質を用いるものとしてもよい。また、電極は、炭素繊維からなるカーボンペーパーまたはカーボンフェルトにより形成してもよい。
【0026】
単電池40aは、アノード側セパレータ41aおよびカソード側セパレータ47aに塗布された接着剤Baによって、一体化されている。図2に基づいて、接着剤Baの塗布ライン(斜線ハッチング部分)について、以下に説明する。ここで、接着剤Baとしては、シリコーン、エポキシ樹脂、エポキシ変性シリコーン、オレフィン、オレフィン変性シリコーンなどの材料を利用することができる。
アノード側セパレータ41aでは、図2(a)に示すように、接着剤Baは、アノード側セパレータ41aの外周を、各辺に沿って一周するように、塗布されている。また、接着剤Baは、MEA48が勘合する嵌合部418の周囲、および貫通孔412i、412o、414i、414o、416i、416oの周囲を囲むように、塗布されている。但し、水素供給用貫通孔412i、水素排出用貫通孔412oの周囲のうち、水素流路が形成されている箇所には、水素の流入、流出を阻害しないように、接着剤Baは塗布されていない。
【0027】
また、同様に、カソード側セパレータ47aでは、図2(b)に示すように、接着剤Baは、カソード側セパレータ47aの外周を、各辺に沿って一周するように、塗布されている。また、接着剤Baは、MEA48が勘合する嵌合部478の周囲、および貫通孔472i、472o、474i、474o、476i、476oの周囲を囲むように塗布されている。但し、空気供給用貫通孔474i、空気排出用貫通孔474oの周囲のうち、空気流路が形成されている箇所には、空気の流入、流出を阻害しないように、接着剤Baは塗布されていない。
【0028】
そして、図2(a)、(b)において、アノード側セパレータ41aの下辺と、カソード側セパレータ47aの上辺とが接着され、アノード側セパレータ41aの上辺と、カソード側セパレータ47aの下辺とが接着されるように、間にMEA48を挟みこんで押圧荷重を加え、接着剤Baを硬化させることによって、一体化された単電池40aが形成される。そうすると、嵌合部418、478および各貫通孔の周囲に塗布された接着剤Baは、水素、空気、冷却水の漏洩を防止するためのシール部材として機能する。一方、セパレータ41a、47aの各辺に沿って一周するように塗布された接着剤Baは、セパレータの端部において上記した締結加重を支えるための支持部材として機能する。なお、接着剤Baを硬化させる際に、押圧荷重が加えられているため、接着剤Baは広がり、図2(c)に示すように、セパレータ41a、47aの端部まで接着剤Baが及ぶ。
上記したように、本実施例における接着剤Baが、本請求項におけるシール部材および支持部材に相当する。この効果については、後ほど詳しく説明する。
【0029】
以上のように構成された単電池40aを、複数積層して燃料電池スタック100を構成すると、水素供給用貫通孔412i、472iによって、燃料電池スタック100の積層方向に貫通する水素供給用マニホールドが形成される(図示しない)。同様に、水素排出用貫通孔412o、472oによって水素排出用マニホールドが、空気供給用貫通孔414i、474iによって空気供給用マニホールドが、空気排出用貫通孔414o、474oによって空気排出用マニホールドが、冷却水供給用貫通孔416i、476iによって冷却水供給用マニホールドが、冷却水排出用貫通孔416o、476oによって冷却水排出用マニホールドが形成される(図示しない)。そして、水素タンク(図示せず)から燃料電池スタック100に供給された水素は、水素供給用マニホールドを通って、各単電池40aの水素流路412pに分配されてアノード43に供給され、電極反応に用いられなかった水素は、水素排出用マニホールドを通って燃料電池スタック100から排出される。同様に、大気からポンプ(図示せず)で加圧されて燃料電池スタック100に供給された空気は、空気供給用マニホールドを通って、各単電池40aの空気流路474pに分配されてカソード45に供給され、電極反応に用いられなかった空気は、空気排出用マニホールドを通って燃料電池スタック100から排出される。燃料電池スタック100に供給された冷却水は、冷却水供給用マニホールドを通って、複数の冷却水セパレータに分配され、冷却水流路を通って単電池を冷却した後、冷却水排出用マニホールドを通って燃料電池スタック100から排出される。
【0030】
A2.効果:
本実施例における燃料電池スタック100の効果について、図3に基づいて、以下に説明する。図3は、燃料電池スタック100を、図2(a)におけるA−Aで切断した場合の断面図である。なお、図3において、複数のセパレータ41aおよび47aのうち、一部のセパレータについてのみ、セパレータを押圧する押圧力を矢印で記載し、その他は省略した。
従来の燃料電池スタックでは、「発明が解決しようとする課題」で述べたように、セパレータの外周部において、貫通孔が形成されていない箇所においては、セパレータを両側から押圧する押圧力の荷重点が互いにずれると、曲げ応力が働いて、セパレータが曲がる恐れがあった(図7(b))。
しかしながら、本実施例における燃料電池スタック100では、カソード側セパレータ41aおよびアノード側セパレータ47aそれぞれの外周を、各辺に沿って一周するように、接着剤Baが塗布されている。すなわち、図3に示すように、貫通孔が形成されていない箇所(図3における上部)においても、セパレータ41a、47aの端部は、接着剤Baによって支持されている。そのため、単電池40aを複数積層した際の位置ずれ等によって、セパレータ41a、47aを両側から押圧している接着剤Baの位置が互いにずれた場合であっても、セパレータ41a、47aの端部が支持されているため、セパレータは曲がらない。従って、セパレータの外周部における変形を防止することができる。
【0031】
B.第2の実施例:
B1.燃料電池スタックの構成:
第2の実施例の燃料電池スタックの構成は、単電池40bにおける接着剤Bbの塗布ライン以外は、第1の実施例の燃料電池スタック100の構成と同じであるため、説明を省略する。以下、本実施例の単電池40bにおける接着剤Bbの塗布ライン(図4における斜線ハッチング部)について図4に基づいて説明する。
【0032】
図4(a)は、アノード側セパレータ41bの、アノード側拡散層42と当接する面を示す平面図である。アノード側セパレータ41bでは、図4(a)に示すように、接着剤Bbは、アノード側セパレータ41bの4辺のうち、冷却水供給用貫通孔416i、および冷却水排出用貫通孔416oが形成されている側の2辺(上下辺)に沿って直線状に、また、MEA48が勘合する嵌合部418の周囲、および貫通孔412i、412o、414i、414o、416i、416oの周囲を囲むように塗布されている。但し、水素供給用貫通孔412i、水素排出用貫通孔412oの周囲のうち、水素流路412pが形成されている箇所には、水素の流入、流出を阻害しないように、接着剤Bbは塗布されていない。
【0033】
図4(b)は、カソード側セパレータ47bのカソード側拡散層46と当接する面を示す平面図である。カソード側セパレータ47bでは、図4(b)に示すように、接着剤Bbは、カソード側セパレータ47bの4辺のうち、冷却水排出用貫通孔476oおよび冷却水供給用貫通孔476iが形成されている側の2辺(上下辺)に沿って直線状に、また、MEA48が勘合する嵌合部418の周囲、および貫通孔472i、472o、474i、474o、476i、476oの周囲を囲むように塗布されている。但し、空気供給用貫通孔474i、空気排出用貫通孔474oの周囲のうち、空気流路474pが形成されている箇所には、空気の流入、流出を阻害しないように、接着剤Bbは塗布されていない。
【0034】
そして、第1の実施例と同様に、図4(a)、(b)において、アノード側セパレータ41bの下辺と、カソード側セパレータ47bの上辺とが接着され、アノード側セパレータ41bの上辺と、カソード側セパレータ47bの下辺とが接着されるように、間にMEA48を挟みこんで押圧荷重を加え、接着剤Bbを硬化させることによって、一体化された単電池40bが形成される(図4(c))。そうすると、嵌合部418、478および各貫通孔の周囲に塗布された接着剤Baは、水素、空気、冷却水の漏洩を防止するためのシール部材として機能する。一方、セパレータ41b、47bの上下辺に沿って直線状に塗布された接着剤Bbは、セパレータの端部において上記した締結加重を支えるための、支持部材として機能する。なお、接着剤Baを硬化させる際に、押圧荷重が加えられているため、接着剤Baは広がり、図4(c)に示すように、セパレータ41a、47aの端部まで接着剤Baが及ぶ。
上記したように、本実施例における接着剤Bbが、本請求項におけるシール部材および支持部材に相当する。
【0035】
B2.効果:
本実施例の燃料電池スタックでは、セパレータ41b、47bの外周部の貫通孔が形成されていない箇所において、セパレータ41b、47bの上下辺に沿って接着剤Bbが塗布されている。そのため、貫通孔が形成されていない箇所において、両側からセパレータ41b、47bを押圧する接着剤Bbの塗布ラインが互いにずれたとしても、第1の実施例と同様に、セパレータ41b、47bの端部が接着剤Bbによって支持されているため、セパレータは曲がらない。従って、セパレータの外周部における変形を防止することができる。
【0036】
また、例えば、第1の実施例のように接着剤Bbを塗布した場合、セパレータ41b、47bの角部において、接着剤Bbの塗布ラインによって閉塞した枠が形成され、アノード側セパレータ41bとカソード側セパレータ47bとを接着して、一体化した単電池40bを構成した場合に、閉塞空間(図2(c)におけるO)ができる。単電池40bを構成する際は、加圧しながら接着するため、閉塞空間の空気がその圧力により、接着剤Bbの塗布ラインを割って、貫通孔の方へ流出する恐れがある。また、燃料電池スタックの運転および停止時の温度変化により、閉塞空間の空気が膨張および収縮し、閉塞空間の空気が貫通孔の方へ流出したり、逆に、貫通孔から閉塞空間へ水素や空気が流入したりする恐れがある。すなわち、上記のように閉塞空間の空気が膨張および収縮することにより、接着剤Bbによる接着部分のいずれかが、剥れてシール部材としての機能が損なわれる恐れがある。
【0037】
しかしながら、本実施例の燃料電池は、アノード側セパレータ41bの上下辺に沿って塗布された接着剤Bbと、貫通孔412i、412o、414i、414oの周囲に塗布された接着剤Bbとは、結合していない。同様に、カソード側セパレータ47bの上下辺に沿って塗布された接着剤Bbと、貫通孔472i、472o、474i、474oの周囲に塗布された接着剤Bbとは、結合していない。すなわち、接着剤Bbは、支持部材として機能する部分と、シール部材として機能する部分とにおいて、閉塞した枠を形成していない。従って、アノード側セパレータ41bとカソード側セパレータ47bとを接着して単電池40bを一体的に形成した場合であっても、単電池40bの内部に閉塞空間が形成されず、空気が溜まらないため、貫通孔の周囲に塗布された接着剤Bbが剥れて、シール部材としての機能が損なわれるのを防止することができる。
【0038】
C.第3の実施例:
C1.燃料電池スタックの構成:
第3の実施例の燃料電池スタックの構成は、単電池40cにおける接着剤Bcの塗布ライン以外は、第1の燃料電池スタック100の構成と同じであるため、説明を省略する。以下、本実施例における単電池40cにおける接着剤Bcの塗布ライン(図5における斜線ハッチング部)について図5に基づいて説明する。
【0039】
図5(a)は、アノード側セパレータ41cの、アノード側拡散層42と当接する面を示す平面図である。アノード側セパレータ41cにおいて、図5(a)に示すように、接着剤Bcは、嵌合部418の周囲、および貫通孔412i、412o、414i、414o、416i、416oの周囲を囲むように塗布されている。さらに、接着剤Bcは、アノード側セパレータ41cの上下辺に沿って、点状に塗布されている。
【0040】
また、図5(b)は、カソード側セパレータ47cのカソード側拡散層46と当接する面を示す平面図である。カソード側セパレータ47cにおいて、図5(b)に示すように、接着剤Bcは、嵌合部478の周囲、および貫通孔472i、472o、474i、474o、476i、476oの周囲を囲むように塗布されている。さらに、接着剤Bcは、カソード側セパレータ47cの上下辺に沿って、点状に塗布されている。なお、第1の実施例と同様に、水素供給用貫通孔412i、水素排出用貫通孔412oの周囲において、水素流路412pが形成されている箇所、および空気供給用貫通孔474i、空気排出用貫通孔474oの周囲において、空気流路474pが形成されている箇所には、水素および酸素の流入、流出を阻害しないように、接着剤Bcが塗布されていない。
【0041】
そして、第1の実施例と同様に、図5(a)、(b)において、アノード側セパレータ41cの下辺と、カソード側セパレータ47cの上辺とが接着され、アノード側セパレータ41cの上辺と、カソード側セパレータ47cの下辺とが接着されるように、間にMEA48を挟みこんで押圧荷重を加え、接着剤Bcを硬化させることによって、一体化された単電池40cが形成される(図5(c))。そうすると、嵌合部418、478、および各貫通孔の周囲に塗布された接着剤Bcは、水素、空気、冷却水の漏洩を防止するためのシール部材として機能する。一方、セパレータ41c、47cの上下辺に沿って点状に塗布された接着剤Bcは、セパレータの端部において上記した締結加重を支えるための、支持部材として機能する。
上記したように、本実施例における接着剤Bcが、本請求項におけるシール部材および支持部材に相当する。
【0042】
C2.効果:
本実施例の燃料電池スタックでは、セパレータ41c、47cの外周部の貫通孔が形成されていない箇所において、セパレータ41c、47cの上下辺に沿って点状に接着剤Bbが塗布されている。そのため、貫通孔が形成されていない箇所において、両側からセパレータ41c、47cを押圧する接着剤Bcの塗布ラインが互いにずれたとしても、第1の実施例と同様に、セパレータ41c、47cの端部が接着剤Bcによって支持されているため、セパレータは曲がらない。従って、セパレータの外周部における変形を防止することができる。
【0043】
また、本実施例の燃料電池スタックは、接着剤Bcの、シール部材として機能する部分と、セパレータにかかる締結荷重を支える支持部材として機能する部分とによって、閉塞された枠を形成していない。従って、アノード側セパレータ41cとカソード側セパレータ47cとを接着して単電池40cを一体に形成した場合であっても、第2の実施例と同様に、単電池40cの内部に閉塞空間が形成されず、空気が溜まらないため、貫通孔の周囲に塗布された接着剤Bcが剥れて、シール部材としての機能が損なわれるのを防止することができる。
【0044】
さらに、本実施例の燃料電池スタックにおいて、接着剤Bcは、嵌合部418の周囲および貫通孔の周囲以外は、点状に塗布されているため、接着剤Bcの量を少なくすることができる。従って、燃料電池スタックのコストおよび重量を低減することができる。
【0045】
D.第4の実施例:
D1.燃料電池スタックの構成:
第4の実施例の燃料電池スタックの構成は、単電池40dの構成以外は、第1の燃料電池スタック100の構成と同じであるため、説明を省略する。以下、本実施例における単電池40dの構成について図6に基づいて説明する。なお、図6において、シールガスケット49に設けられているリブRを、斜線ハッチングで示している。
【0046】
図6(a)は、シールガスケット一体型MEA489の、アノード側セパレータ41dと当接する面を示す平面図、図6(b)は単電池40dを図6(a)におけるA−Aで切断した場合の断面図である。
シールガスケット49は、図6(a)に示すように、平面略正方形状を成すMEA48の外周に、電解質膜44を包み込むように形成されている。そして、シールガスケット49には、平面略長方形状を成す貫通孔である水素供給用貫通孔492i、水素排出用貫通孔492o、空気供給用貫通孔494i、空気排出用貫通孔494o、冷却水供給用貫通孔496i、冷却水排出用貫通孔496oが形成されている。そして、これら各貫通孔およびMEA48の周囲には、凸状を成すリブRがシールガスケット49と一体的に設けられている。さらに、シールガスケット49の上下辺に沿って直線状に、リブRがシールガスケット49と一体的に設けられている。各貫通孔およびMEA48の周囲に設けられたリブRは、水素、空気、冷却水の漏洩を防止するためのシール部材として機能し、シールガスケット49の上下辺に沿って設けられたリブRは、上記した締結加重を支えるための支持部材として機能する。なお、この効果については、後ほど詳しく説明する。本実施例では、シールガスケット49として、シリコーンゴムを用いるものとするが、これに限られず、ガス不透過性、弾力性、耐熱性を有する他の部材を用いるものとしてもよい。
上記したように、本実施例におけるリブRが、本請求項におけるシール部材および支持部材に相当する。
【0047】
アノード側セパレータ41dは、第1の実施例におけるアノード側セパレータ41aと同様に、平面略正方形状を成す平板であり、その外周部に、シールガスケット49に形成された複数の貫通孔と同一の貫通孔が形成されている。さらに、水素供給用貫通孔および水素排出用貫通孔と連通し、溝状を成す水素流路412pが形成されている(図6(b))。
同様に、カソード側セパレータ47dは、第1の実施例におけるカソード側セパレータ47aと同様に、平面略正方形状を成す平板であり、その外周部に、シールガスケット49に形成された複数の貫通孔と同一の貫通孔が形成されている。さらに、空気供給用貫通孔および空気排出用貫通孔と連通し、溝状を成す空気流路747pが形成されている(図6(b))。
なお、本実施例において、アノード側セパレータ41dおよびカソード側セパレータ47dは、カーボン製の平板を用いるものとするが、これに限られず、ステンレス、チタン、アルミ等の金属製の平板を用いるものとしてもよい。
【0048】
そして、図6(b)に示すように、シールガスケット一体型MEA489を、アノード側セパレータ41dおよびカソード側セパレータ47dによって両側から挟持することによって、単電池40dが形成される。単電池40dを複数積層すると、セパレータ41d、47d、およびシールガスケット一体型MEA489それぞれに形成された貫通孔によって、積層方向に貫通したマニホールドが形成される。そして、第1の実施例と同様に、燃料電池スタックに、燃料ガスとしての水素、酸化剤ガスとしての空気、および冷却媒体としての冷却水が供給される。
【0049】
D2.効果:
従来の燃料電池スタックのシールガスケット一体型MEAでは、MEAの周囲および貫通孔の周囲を囲むようにリブが設けられている。そして、燃料電池スタックを構成した場合に、セパレータは、リブによって両側から押圧されている。ここで、積層時にセパレータの両側に配置されるリブの位置が互いにずれたり、燃料電池スタックの運転時に、ガス圧によりリブの形状が変形したりすることがあったため、セパレータを両側から押圧する荷重点がずれることがあった。セパレータを両側から押圧する荷重点がずれると、「発明が解決しようとする課題」に述べたように、曲げ応力が働くため、カーボン製のセパレータの場合、割れが生じる恐れがあった。
【0050】
しかしながら、本実施例の燃料電池スタックでは、シールガスケット49の上下辺に沿って直線状にリブRが形成されている。そのため、例えば、セパレータ41d、47dを両側から押圧しているリブRの位置がずれている場合でも、セパレータの端部が、支持部材として機能するリブRによって支持されているため、セパレータは曲がらない。従って、セパレータの外周部における割れを防止することができる。
【0051】
E.変形例:
上記した第1および第2の実施例において、支持部材として接着剤を用いるものを示したが、シールガスケットを用いるものとしてもよい。また、第3の実施例において、支持部材として接着剤を点状に塗布するものを示したが、球状または柱状の部材を用いるものとしてもよい。
【0052】
また、上記した実施例において、支持部材は、セパレータの辺に沿って一周するように形成するもの(第1の実施例)、セパレータの向かい合う2辺に沿って直線状に形成するもの(第2の実施例)、セパレータの向かい合う2辺に沿って点状に形成するもの(第3の実施例)を示したが、本発明の支持部材は、この形状に限定されない。例えば、セパレータの角部に鉤状に形成したり、セパレータの辺に沿って鎖線状に形成する等、種々の形状に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施例としての燃料電池スタック100の概略構成を示す斜視図である。
【図2】第1の実施例におけるセパレータ41a、47aの平面図、および単電池40aの断面図である。
【図3】第1の実施例における燃料電池100の断面図である。
【図4】第2の実施例におけるセパレータ41b、47bの平面図、および単電池40bの断面図である。
【図5】第3の実施例におけるセパレータ41c、47cの平面図、および単電池40cの断面図である。
【図6】第4の実施例におけるシールガスケット一体型MEA489の平面図、および単電池40dの断面図である。
【図7】従来の燃料電池におけるセパレータ41の平面図、および燃料電池の断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10…エンドプレート
20…絶縁板
30…集電板
40a、40b、40c、40d…単電池
41a、41b、41c、41d…アノード側セパレータ
42…アノード側拡散層
43…アノード
44…電解質膜
45…カソード
46…カソード側拡散層
47a、47b、47c、47d…カソード側セパレータ
49…シールガスケット
50…集電板
60…絶縁板
70…エンドプレート
80…テンションプレート
82…ボルト
100…燃料電池スタック
412i…水素供給用貫通孔
412o…水素排出用貫通孔
412p…水素流路
414i…空気供給用貫通孔
414o…空気排出用貫通孔
416i…冷却水供給用貫通孔
416o…冷却水排出用貫通孔
418…嵌合部
472i…水素供給用貫通孔
472o…水素排出用貫通孔
474i…空気供給用貫通孔
474o…空気排出用貫通孔
474p…空気流路
476i…冷却水供給用貫通孔
476o…冷却水排出用貫通孔
478…嵌合部
492i…水素供給用貫通孔
492o…水素排出用貫通孔
494i…空気供給用貫通孔
494o…空気排出用貫通孔
496i…冷却水供給用貫通孔
496o…冷却水排出用貫通孔
489…シールガスケット一体型MEA
O…閉塞空間
R…リブ
Ba、Bb、Bc…接着剤
S…シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、該電解質膜の両面に配置された1対の電極と、1対の前記電極の外側に配置された1対のセパレータとを備える単電池を、複数積層した積層体を有し、前記積層体の積層状態を維持するために積層方向に締結荷重がかけられている燃料電池であって、
前記セパレータの外周部に形成され、少なくとも反応ガスを流すための貫通孔と、
前記1対のセパレータの間に配置され、前記セパレータの外周部の前記貫通孔が形成されていない部位において、前記締結荷重を支えるための支持部材と
を備えることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池であって、
少なくとも前記貫通孔の周囲の一部に沿って形成されたシール部材をさらに有し、
前記支持部材は、前記シール部材と一体化して形成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池であって、
1対の前記セパレータと、前記シール部材と、前記支持部材と、によって、閉塞空間を形成しないことを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちの任意のひとつに記載の燃料電池であって、
前記支持部材は、接着剤から成ることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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