説明

燃料電池

【課題】押圧装置を構成する同士の傾きを許容しつつ面方向への位置ずれを抑制し、セル積層体へ良好に圧縮荷重を付与することが可能な燃料電池を提供する。
【解決手段】複数のセルが積層されてなるセル積層体と、セル積層体の積層方向の外側に配置されたエンドプレートと、セル積層体とエンドプレートとの間に設けられてセル積層体への圧縮荷重を調整するスプリングモジュール23とを設ける。アッパプレート51とロアプレート52との間にコイルスプリング53及びスプリングユニット54を配置させてスプリングモジュール23を構成する。第1ケース63と第2ケース64とからなる伸縮可能な筒状ケース61内にコイルスプリング62を収納させてスプリングユニット54を構成し、第1ケース63の底部の端部を球面状の曲面として、ロアプレート52に対して揺動可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電セルを積層させたセル積層体を有する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池をエネルギ源とした燃料電池自動車等が注目されている。
【0003】
このような燃料電池は、通常、燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応によって発電するセルを所要数積層したセル積層体と、このセル積層体の積層方向の外側に配置されるとともに荷重調整ネジで調整された圧縮荷重をセル積層体に与えるエンドプレートとを備えた燃料電池スタックとして構成されている。
【0004】
そして、この燃料電池では、セル積層体への圧縮荷重の均一化及び圧縮荷重の変動の低減のため、プレート間に複数のスプリングを配置したスプリングモジュールをセル積層体とエンドプレートとの間に介在させている(例えば、特許文献1参照)。このスプリングモジュールには、各プレート間に、オイルダンパを有するショックアブソーバを備えており、このショックアブソーバによって急激な弾性変形が抑制されるようになっている。
【特許文献1】特開2004−288618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記スプリングモジュールでは、コイルバネが軸方向以外にも変形することより、プレート同士の傾きを許容することができるが、これらプレート同士の面方向への相対的な位置ずれが生じてしまう。ここで、ショックアブソーバを設けると、プレート同士の面方向への位置ずれをある程度抑制することができるが、このショックアブソーバは、プレート同士の傾きを許容することができず、このため、セル積層体へ付与する圧縮荷重が不均一となる恐れがある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、押圧装置を構成する板体同士の傾きを許容しつつ面方向への位置ずれを抑制し、セル積層体へ良好に圧縮荷重を付与することが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の燃料電池は、複数のセルが積層されてなるセル積層体と、該セル積層体の積層方向の外側に配置されたエンドプレートと、前記セル積層体と前記エンドプレートとの間に設けられて前記セル積層体への圧縮荷重を調整する押圧装置とを備えた燃料電池であって、前記押圧装置には、前記板体間に、これら板体の面方向への相対変位を制限する変位制限部材が前記弾性部材を内包して設けられ、該変位制限部材は、少なくとも一方の板体に対して揺動可能とされている。
【0008】
かかる構成とすることにより、変位制限部材によって板体同士の面方向への相対的な位置ずれが抑制される。また、変位制限部材は、少なくとも一方の板体に対して揺動可能とされているので、板体同士の傾きは許容される。これにより、押圧装置では、板体同士の傾きを許容しつつ面方向への位置ずれを抑制し、弾性部材による弾性力を円滑に発揮させることができ、セル積層体へ良好に圧縮荷重を付与することができる。
【0009】
前記変位制限部材は、前記押圧装置に複数備えられた前記弾性部材の少なくとも1つを内包した(少なくとも1つと組み合わされた)うえで、前記板体間における複数箇所に配置されていてもよい。
【0010】
この構成によれば、複数の変位制限部材によって板体同士の傾きを許容しつつ面方向への位置ずれを十分に抑制することができる。
【0011】
前記変位制限部材は、前記弾性部材の輪郭に沿って(前記弾性部材の伸縮方向に沿って)延在する伸縮可能な筒体を有する構成でもよい。
【0012】
この構成によれば、筒体内に収納可能な小さな弾性部材を用いることができる。
【0013】
前記筒体には、内部と外部とを連通させる孔が形成されていてもよい。
【0014】
この構成によれば、筒体が伸縮した際に、筒体内の圧力変動を極力抑えることができ、弾性部材の弾性力に対する圧力変動の影響を極力抑制することができる。
【0015】
前記筒体は、少なくとも一端面が曲面とされていてもよい。
【0016】
この構成によれば、板体に対する筒体の一端面の揺動の円滑化を図ることができ、板体の傾きを円滑に許容することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の燃料電池によれば、押圧装置を構成する板体同士の傾きを許容しつつ面方向への位置ずれを抑制し、セル積層体へ良好に圧縮荷重を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明に係る燃料電池の第1実施形態を図1〜図3を参照しつつ説明する。
【0019】
図1は、燃料電池10を示すものである。この燃料電池10は、燃料電池自動車の車載発電システムや船舶、航空機、電車あるいは歩行ロボット等のあらゆる移動体用の発電システム、さらには、建物(住宅、ビル等)用の発電設備として用いられる定置用発電システム等に適用可能であるが、具体的には自動車用となっている。
【0020】
燃料電池10は、燃料電池スタック11と、この燃料電池スタック11の外側を覆う合成樹脂等の絶縁材料からなる図示しないスタックケースとを有している。燃料電池スタック11は、一対の矩形状のエンドプレート12(一方は図示略)を、互いの外縁部同士をテンションプレート13で連結して外側部分が構成されており、これらエンドプレート12及びテンションプレート13は例えばジュラルミン等で形成されている。
【0021】
また、燃料電池スタック11は、エンドプレート12同士の間に燃料ガス及び酸化ガスの供給を受けて発電する平面視矩形状のセル21を所要数積層してなるセル積層体22が設けられている。そして、一方のエンドプレート12とセル積層体22との間には、エンドプレート12側から順に、スプリングモジュール(押圧装置)23、絶縁プレート24、ターミナルプレート25及びカバープレート26が配置されている。なお、カバープレート26は省略することも可能である。
【0022】
なお、図示はしないが他方のエンドプレート12とセル積層体22との間には、エンドプレート12側から順に、絶縁プレート24、ターミナルプレート25及びカバープレート26が配置されている。
【0023】
そして、スプリングモジュール23が設けられた側のエンドプレート12は、テンションプレート13に連結される矩形状のエンドプレート本体30と、このエンドプレート本体30のテンションプレート13への連結位置よりも内側の範囲に設けられたストッパ31とで構成されている。
【0024】
エンドプレート本体30には、厚さ方向に貫通する複数の貫通穴32が形成されている。ストッパ31は、エンドプレート本体30のスプリングモジュール23側に当接することで、エンドプレート本体30を含むエンドプレート12を補強する。このストッパ31は、内側に雌ネジ34が形成された円筒状のボス部35と、このボス部35の軸線方向の中間位置から全周にわたって半径方向外側に延出する、ボス部35と同軸の一定厚の略円板状のフランジ部36とを有している。
【0025】
そして、ストッパ31は、ボス部35のうちフランジ部36から軸線方向一側に突出する一方の円筒部37においてエンドプレート本体30の貫通穴32に挿入され、フランジ部36の全面がエンドプレート本体30に当接されている。なお、ストッパ31の一方の円筒部37の軸方向長は、エンドプレート本体30の貫通穴32の軸方向長と同等とされており、円筒部37の端面がエンドプレート本体30の外側の端面と面一となっている。
【0026】
そして、エンドプレート12は、上記ストッパ31の雌ネジ34に螺合される荷重調整ネジ41を有しており、この荷重調整ネジ41がスプリングモジュール23のエンドプレート12側に形成された球面状の突起部28に当接する。ここで、荷重調整ネジ41には、突起部28側に凹部43が形成され、この凹部43が突起部28に係合するようになっている。
【0027】
また、荷重調整ネジ41には突起部28とは反対側に六角ボルト等の工具を嵌合させる工具嵌合部42が形成されており、荷重調整ネジ41は、この工具嵌合部42に嵌合する工具を介して回転させられることで、エンドプレート12とセル積層体22の端部との距離を調整してセル積層体22に作用する圧縮荷重を調整する。
【0028】
図2にも示すように、スプリングモジュール23は、エンドプレート12側のアッパプレート(板体)51と、セル積層体22側のロアプレート(板体)52とを有し、これらアッパプレート51とロアプレート52の間に、複数のコイルスプリング(弾性部材)53及びスプリングユニット(変位制限部材)54が配設されている。アッパプレート51及びロアプレート52は、例えば、アルミニウムなどの比重の小さい金属材料から形成されており、アッパプレート51に、荷重調整ネジ41が当接される突起部28が形成されている。
【0029】
アッパプレート51及びロアプレート52には、互いの対向位置に、スプリング収納凹部55,56が形成されており、これらスプリング収納凹部55,56に、コイルスプリング53の端部が保持されている。また、アッパプレート51及びロアプレート52には、互いの対向位置に、ユニット収納凹部57,58が形成されており、これらユニット収納凹部57,58に、スプリングユニット54の端部が保持されている。
【0030】
図3に示すように、スプリングユニット54は、筒状ケース(筒体)61と、この筒状ケース61内に収納されたコイルスプリング(弾性部材)62と、を備えて構成されている。筒状ケース61は、それぞれ有底円筒形状に形成された第1ケース63と、第2ケース64とから構成されている。
【0031】
第1ケース63は、その内径が第2ケース64の外径よりも僅かに大きくされており、この第1ケース63の開口部側には、第2ケース64の開口部側が挿入され、互いに軸方向へ摺動可能とされ、これにより、筒状ケース61は、軸方向へ伸縮可能とされている。
【0032】
そして、この第1ケース63に第2ケース64を挿入することにより、これら第1ケース63と第2ケース64とによって収納空間65が形成され、この収納空間65内にコイルスプリング62が配置されている。つまり、スプリングユニット54は、コイルスプリング62の輪郭に沿って延在する、言い換えれば、コイルスプリング62の伸縮方向に沿って延在する伸縮可能な筒状ケース61を有する構造とされている。
【0033】
第1ケース63は、その底部63aが球面状に形成されており、この球面状の底部63aは、ロアプレート52の凹部58を構成する底面に形成された球面状の保持凹部58aに摺動可能に係合されている。これにより、スプリングユニット54は、第1ケース63側の端部にて揺動可能とされている。なお、この保持凹部58aは、その深さ寸法が球面状の底部63aの高さ寸法よりも小さくされており、スプリングユニット54が揺動した際に、第1ケース63の曲面とされた底部63a以外の部分が保持凹部58aに干渉することによる揺動への影響が抑制されている。
【0034】
また、第1ケース63の側部には、空気孔(孔)66が形成されており、この空気孔66を介して収納空間65と外部とが連通されている。また、アッパプレート51には、凹部57を構成する底面に、固定凹部57aが形成されており、この固定凹部57aには、第2ケース64の底部64aが嵌合されている。
【0035】
また、スプリングモジュール23は、図1に示すように、アッパプレート51に設けられた目盛板67及びロアプレート52に設けられた指針板68を有しており、目盛板67によって指針板68の端部位置を読み取ることにより、スプリングモジュール23を介してセル積層体22に付与される圧縮荷重を把握することができるようになっている。
【0036】
そして、上記燃料電池10では、荷重調整ネジ41によってセル積層体22へ付与される圧縮荷重が、複数のコイルスプリング53及びスプリングユニット54を有するスプリングモジュール23によって面方向に均一化され、また、発電時の膨張収縮による圧縮荷重の変動が吸収される。
【0037】
ここで、アッパプレート51とロアプレート52との間に配置されたコイルスプリング53は、軸方向以外にも、軸と直交する方向へも変位するのに対して、スプリングユニット54は、第1ケース63及び第2ケース64が互いに軸方向へ摺動するだけで軸と直交する方向へ変位することはない。
【0038】
したがって、コイルスプリング53とともにスプリングユニット54が設けられたアッパプレート51及びロアプレート52は、スプリングユニット54によって、面方向への相対的な位置ずれが抑制される。これにより、スプリングモジュール23では、コイルスプリング53及びスプリングユニット54内のコイルスプリング62による弾性力を円滑に発揮させることができる。
【0039】
さらに、スプリングユニット54は、その筒状ケース61の一端側である第1ケース63がロアプレート52に揺動可能に保持されているので、アッパプレート51とロアプレート52とが相対的に傾斜した際に、このスプリングユニット54がロアプレート52における保持箇所にて揺動して傾斜する。
【0040】
つまり、本実施形態に係る燃料電池10によれば、アッパプレート51及びロアプレート52の相対的な傾きを許容しつつこれらアッパプレート51及びロアプレート52の面方向への位置ずれを抑制し、セル積層体22へ良好に圧縮荷重を付与することができる。
【0041】
また、スプリングモジュール23に設けられたスプリングユニット54は、筒状ケース61を構成する第1ケース63に内部の収納空間65と外部とを連通させる空気孔66が形成されているので、第1ケース63と第2ケース64とが互いに摺動して伸縮した際に、収納空間65内の圧力変動を極力抑えることができ、収納空間65内のコイルスプリング62の弾性力への圧力変動の影響を極力抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施形態に係る燃料電池の一部の断面図である。
【図2】燃料電池に設けられたスプリングモジュールの構造を説明する断面図である。
【図3】スプリングモジュールに設けられたスプリングユニットの構造を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0043】
10…燃料電池、12…エンドプレート、21…セル、22…セル積層体、23…スプリングモジュール(押圧装置)、51…アッパプレート(板体)、52…ロアプレート(板体)、53…コイルスプリング(弾性部材)、54…スプリングユニット(変位制限部材)、62…コイルスプリング(弾性部材)、61…筒状ケース(筒体)、66…空気孔(孔)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルが積層されてなるセル積層体と、該セル積層体の積層方向の外側に配置されたエンドプレートと、前記セル積層体と前記エンドプレートとの間に設けられて前記セル積層体への圧縮荷重を調整する押圧装置とを備えた燃料電池であって、
前記押圧装置は、一対の板体と、これら板体間に配置されて弾性力によって前記板体同士を互いに離間させる弾性部材とを備え、
前記押圧装置には、前記板体間に、これら板体の面方向への相対変位を制限する変位制限部材が前記弾性部材を内包して設けられ、該変位制限部材は、少なくとも一方の板体に対して揺動可能とされている燃料電池。
【請求項2】
前記変位制限部材は、前記板体間における複数箇所に配置されている請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記変位制限部材は、前記弾性部材の輪郭に沿って延在する伸縮可能な筒体を有する請求項1又は請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記筒体には、内部と外部とを連通させる孔が形成されている請求項3に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記筒体は、少なくとも一端面が曲面とされている請求項3または請求項4に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−4301(P2008−4301A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−170435(P2006−170435)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】