説明

燃料電池

【課題】押圧装置へ荷重を安定的に付与し、セル積層体へ均一に圧縮荷重を付与することが可能な燃料電池を提供する。
【解決手段】複数のセル21が積層されてなるセル積層体22と、セル積層体22の積層方向の外側に配置されたエンドプレート12と、セル積層体22とエンドプレート12との間に設けられてセル積層体22への圧縮荷重を調整するスプリングモジュール23とを設ける。スプリングモジュール23は、アッパプレート51とロアプレート52との間に配置されて弾性力によってアッパプレート51及びロアプレート52を互いに離間させるコイルスプリング53を備え、エンドプレート12は、複数の荷重調整ネジ41を備える。スプリングモジュール23は、荷重調整ネジ41によって複数の荷重入力部28aにて荷重が付与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電セルを積層させたセル積層体を有する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池をエネルギ源とした燃料電池自動車等が注目されている。
【0003】
このような燃料電池は、通常、燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応によって発電するセルを所要数積層したセル積層体と、このセル積層体の積層方向の外側に配置されるとともに荷重調整ネジで調整された圧縮荷重をセル積層体に与えるエンドプレートとを備えた燃料電池スタックとして構成されている。
【0004】
そして、この燃料電池では、セル積層体への圧縮荷重の均一化及び圧縮荷重の変動の低減のため、プレート間に複数のスプリングを配置したスプリングモジュールをセル積層体とエンドプレートとの間に介在させている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−288618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記スプリングモジュールでは、エンドプレートの中央に設けられた1本の荷重調整ネジによって一方のプレートの一点に荷重を付与する構造であるので、プレートへの荷重のかかり方が不安定となり、セル積層体へ付与する圧縮荷重が不均一となる恐れがある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、押圧装置へ荷重を安定的に付与し、セル積層体へ均一に圧縮荷重を付与することが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の燃料電池は、複数のセルが積層されてなるセル積層体と、該セル積層体の積層方向の外側に配置されたエンドプレートと、前記セル積層体と前記エンドプレートとの間に設けられて前記セル積層体への圧縮荷重を調整する押圧装置とを備えた燃料電池であって、前記エンドプレートは、複数の荷重付与部を備え、前記押圧装置は、一対の板体と、これら板体間に配置されて弾性力によって前記板体同士を互いに離間させる弾性部材と、前記荷重付与部によって荷重が付与される複数の荷重入力部と、を備える。
【0008】
この構成によれば、複数の荷重付与部によって押圧装置に対して複数の荷重入力部にて荷重を付与するので、押圧装置の板体に対して安定的に荷重を付与することができ、これにより、押圧装置の板体同士の面方向への相対的な位置ずれや傾きを抑制することができので、弾性部材による弾性力を円滑に発揮させてセル積層体に対して均一な圧縮荷重を安定的に付与することができる。
【0009】
前記押圧装置は、一方向(長手方向)に沿って他方向よりも長い平面形状を有し、前記複数の荷重入力部は、当該押圧装置の長手方向に沿って配置されていてもよい。
【0010】
これにより、押圧装置の板体に対して複数の荷重入力部にて付与される荷重の安定化を図ることができる。
【0011】
複数の前記荷重入力部にて付与される荷重の入力中心は、前記セル積層体の反力中心に合わされた前記押圧装置の弾性力中心に一致されていてもよい。
【0012】
この構成によれば、セル積層体に対して均一に荷重を付与することができ、しかも、セル積層体における不要なモーメントの発生を抑制することができる。
【0013】
前記セル積層体の反力中心は、例えば、前記セルを構成するセパレータの外形、前記セパレータの少なくとも一面側に形成された流体流路(例えば、燃料ガス流路、酸化ガス流路、冷媒流路)の位置や形状、前記流体流路に燃料ガス、酸化ガス、冷媒等の流体を給排するマニホールドの位置や形状、前記セパレータ間を接着する接着剤の特性(例えば、弾性係数)や位置、前記セパレータと共に前記セルを構成する膜電極接合体との間をシールするシール部材の特性(例えば、弾性係数)や位置のうち、少なくとも1つが考慮されて決定されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料電池によれば、押圧装置へ荷重を安定的に付与し、セル積層体へ均一に圧縮荷重を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明に係る燃料電池の第1実施形態を図1〜図5を参照しつつ説明する。
【0016】
図1は、燃料電池10を示すものである。この燃料電池10は、燃料電池自動車の車載発電システムや船舶、航空機、電車あるいは歩行ロボット等のあらゆる移動体用の発電システム、さらには、建物(住宅、ビル等)用の発電設備として用いられる定置用発電システム等に適用可能であるが、具体的には自動車用となっている。
【0017】
燃料電池10は、燃料電池スタック11と、この燃料電池スタック11の外側を覆う合成樹脂等の絶縁材料からなる図示しないスタックケースとを有している。燃料電池スタック11は、一対の矩形状のエンドプレート12(一方は図示略)を、互いの外縁部同士をテンションプレート13で連結して外側部分が構成されており、これらエンドプレート12及びテンションプレート13は例えばジュラルミン等で形成されている。
【0018】
また、燃料電池スタック11は、エンドプレート12同士の間に燃料ガス及び酸化ガスの供給を受けて発電する平面視矩形状のセル21を所要数積層してなるセル積層体22が設けられている。そして、一方のエンドプレート12とセル積層体22との間には、エンドプレート12側から順に、スプリングモジュール(押圧装置)23、絶縁プレート24、ターミナルプレート25及びカバープレート26が配置されている。なお、カバープレート26は省略することも可能である。
【0019】
なお、図示はしないが他方のエンドプレート12とセル積層体22との間には、エンドプレート12側から順に、絶縁プレート24、ターミナルプレート25及びカバープレート26が配置されている。
【0020】
そして、スプリングモジュール23が設けられた側のエンドプレート12は、テンションプレート13に連結される矩形状のエンドプレート本体30と、このエンドプレート本体30のテンションプレート13への連結位置よりも内側の範囲に設けられたストッパ31とで構成されている。
【0021】
エンドプレート本体30には、厚さ方向に貫通する複数の貫通穴32が形成されている。ストッパ31は、エンドプレート本体30のスプリングモジュール23側に当接することで、エンドプレート本体30を含むエンドプレート12を補強する。このストッパ31は、内側に雌ネジ34が形成された円筒状のボス部35と、このボス部35の軸線方向の中間位置から全周にわたって半径方向外側に延出する、ボス部35と同軸の一定厚の略円板状のフランジ部36とを有している。
【0022】
そして、ストッパ31は、ボス部35のうちフランジ部36から軸線方向一側に突出する一方の円筒部37においてエンドプレート本体30の貫通穴32に挿入され、フランジ部36の全面がエンドプレート本体30当接されている。なお、ストッパ31の一方の円筒部37の軸方向長は、エンドプレート本体30の貫通穴32の軸方向長と同等とされており、円筒部37の端面がエンドプレート本体30の外側の端面と面一となっている。
【0023】
そして、エンドプレート12は、上記ストッパ31の雌ネジ34に螺合される複数の荷重調整ネジ(荷重付与部)41を有しており、この荷重調整ネジ41がスプリングモジュール23のエンドプレート12側に形成された球面状の突起部28に当接する。ここで、荷重調整ネジ41には、突起部28側に凹部43が形成され、この凹部43が突起部28に係合するようになっている。
【0024】
また、荷重調整ネジ41には突起部28とは反対側に六角ボルト等の工具を嵌合させる工具嵌合部42が形成されており、荷重調整ネジ41は、この工具嵌合部42に嵌合する工具を介して回転させられることで、エンドプレート12とセル積層体22の端部との距離を調整してセル積層体22に作用する圧縮荷重を調整する。
【0025】
スプリングモジュール23は、エンドプレート12側のアッパプレート(板体)51と、セル積層体22側のロアプレート(板体)52とを有した一方向(長手方向)に沿って他方向よりも長い平面視長方形状に形成されたもので、これらアッパプレート51とロアプレート52の間に、複数のコイルスプリング(弾性部材)53が配設されている。
【0026】
アッパプレート51及びロアプレート52は、例えば、アルミニウムなどの比重の小さい金属材料から形成されており、アッパプレート51に、荷重調整ネジ41が当接される突起部28が形成されている。
【0027】
また、スプリングモジュール23は、アッパプレート51に設けられた目盛板57及びロアプレート52に設けられた指針板58を有しており、目盛板57によって指針板58の端部位置を読み取ることにより、スプリングモジュール23を介してセル積層体22に付与される圧縮荷重を把握することができるようになっている。
【0028】
ここで、図2は、スプリングモジュール23が受けるセル積層体22の反力中心Aを示している。このセル積層体22の反力中心Aの位置は、セル21を構成するセパレータの形状(例えば、セパレータの外形、セパレータの少なくとも一面側に形成された流体流路(例えば、燃料ガス流路、酸化ガス流路、冷媒流路)や該流体流路に燃料ガス、酸化ガス、冷媒等の流体を給排するマニホールドの位置、形状等)、セパレータ間を接着する接着剤あるいはセパレータと共にセル21を構成するMEA(Membrane Electrode Assembly、膜電極接合体)との間をシールするシール部材の弾性係数(ヤング率)や位置等によって定まるもので、シミュレーションや計算等で求められる。
【0029】
また、図3は、スプリングモジュール23における弾性力中心Bを示している。この弾性力中心Bは、例えば、アッパプレート51とロアプレート52との間にてコイルスプリング53を均等に配置すると、スプリングモジュール23の幾何学中心となるが、この幾何学中心からなる弾性力中心Bがセル積層体22の反力中心Aと常に一致するとは限らない。
【0030】
このため、このスプリングモジュール23では、弾性力中心Bがセル積層体22の反力中心Aと一致するように、コイルスプリング53の位置あるいは個々のコイルスプリング53のバネ定数が決定されている。
【0031】
図4及び図5は、スプリングモジュール23への荷重入力中心Cを示している。この荷重入力中心Cは、スプリングモジュール23へ付与(入力)される荷重の中心位置であり、本実施形態では、エンドプレート12に設けた2つの荷重調整ネジ41によって2カ所の突起部28にて付与される荷重の中心位置である。具体的には、この荷重入力中心Cは、突起部28の中心点からなる荷重入力部28aを結ぶ直線上の中点となる。
【0032】
そして、上記スプリングモジュール23では、この荷重入力中心Cが、セル積層体22の反力中心A及び弾性力中心Bに一致されている。なお、1カ所にて荷重を付与する場合は、その荷重を付与する荷重入力部が荷重入力中心Cとなり、3箇所以上にて荷重を付与する場合は、各荷重入力部を結んでできる多角形の重心位置となる。また、スプリングモジュール23の各コイルスプリング53等のバネ定数を変えることにより、荷重入力中心Cを設定することも可能である。
【0033】
上記のように、反力中心A、弾性力中心B及び荷重入力中心Cを一致させる手順としては、まず、セル積層体22の反力中心Aをシミュレーションや机上計算等で求め、次に、コイルスプリング53の位置あるいは個々のコイルスプリング53のバネ定数を調整することにより、スプリングモジュール23の弾性力中心Bをセル積層体22の反力中心Aに一致させる。
【0034】
その後、荷重を付与する突起部28の中心点からなる荷重入力部28aの位置を調整するとともに、荷重調整ネジ41によって荷重を調整し、スプリングモジュール23へ付与する荷重入力中心Cを、反力中心A及び弾性力中心Bに一致させる。
【0035】
そして、上記燃料電池10では、荷重調整ネジ41によってセル積層体22へ付与される圧縮荷重が、複数のコイルスプリング53を有するスプリングモジュール23によって面方向に均一化され、また、発電時の膨張収縮による圧縮荷重の変動が吸収される。
【0036】
このとき、上記燃料電池10によれば、複数の荷重調整ネジ41によってスプリングモジュール23に対して複数の荷重入力部28aにて荷重を付与しているので、スプリングモジュール23のアッパプレート51に対して安定的に荷重を付与することができる。
【0037】
特に、一方向(長手方向)に沿って他方向よりも長い平面視長方形状のスプリングモジュール23に対してその長手方向に沿って荷重調整ネジ41による荷重入力部28aを配置させたので、スプリングモジュール23のアッパプレート51に対して複数の荷重入力部28aにて付与される荷重の安定化を図ることができる。
【0038】
これにより、スプリングモジュール23のアッパプレート51及びロアプレート52の面方向への相対的な位置ずれや傾きを抑制することができ、コイルスプリング53による弾性力を円滑に発揮させてセル積層体22に対して均一な圧縮荷重を安定的に付与することができる。
【0039】
しかも、複数の荷重入力部28aにて付与される荷重入力中心Cを、セル積層体22の反力中心Aに合わされたスプリングモジュール23の弾性力中心Bに一致させたので、セル積層体22に対して均一に荷重を付与することができ、しかも、セル積層体22における不要なモーメントの発生を抑制することができる。
【0040】
なお、スプリングモジュール23としては、複数のコイルスプリング53を備えたものに限らず、一つのコイルスプリングを備えたものでも良く、あるいは、コイルスプリングに代えて皿バネを備えたものでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施形態に係る燃料電池の一部の断面図である。
【図2】セル積層体の反力中心を示す図1におけるA−A断面図である。
【図3】スプリングモジュールの弾性力中心を示す図1におけるB−B断面図である。
【図4】スプリングモジュールに対する荷重入力中心を示す図1におけるC−C断面図である。
【図5】スプリングモジュールに対する荷重入力中心を示す図4とは別の断面図である。
【符号の説明】
【0042】
10…燃料電池、12…エンドプレート、21…セル、22…セル積層体、23…スプリングモジュール(押圧装置)、28a…荷重入力部、41…荷重調整ネジ(荷重付与部)、51…アッパプレート(板体)、52…ロアプレート(板体)、53…コイルスプリング(弾性部材)、A…反力中心、B…弾性力中心、C…荷重入力中心。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルが積層されてなるセル積層体と、該セル積層体の積層方向の外側に配置されたエンドプレートと、前記セル積層体と前記エンドプレートとの間に設けられて前記セル積層体への圧縮荷重を調整する押圧装置とを備えた燃料電池であって、
前記エンドプレートは、複数の荷重付与部を備え、
前記押圧装置は、一対の板体と、これら板体間に配置されて弾性力によって前記板体同士を互いに離間させる弾性部材と、前記荷重付与部によって荷重が付与される複数の荷重入力部と、を備える燃料電池。
【請求項2】
前記押圧装置は、一方向に沿って他方向よりも長い平面形状を有し、
前記複数の荷重入力部は、当該押圧装置の長手方向に沿って配置されている請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
複数の前記荷重入力部にて付与される荷重の入力中心は、前記セル積層体の反力中心に合わされた前記押圧装置の弾性力中心に一致されている請求項1または請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記セル積層体の反力中心は、前記セルを構成するセパレータの外形、前記セパレータの少なくとも一面側に形成された流体流路の位置や形状、前記流体流路に燃料ガス、酸化ガス、冷媒等の流体を給排するマニホールドの位置や形状、前記セパレータ間を接着する接着剤の特性や位置、前記セパレータと共に前記セルを構成する膜電極接合体との間をシールするシール部材の特性や位置のうち、少なくとも1つが考慮されて決定される請求項1から請求項3のいずれかに記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−4308(P2008−4308A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−170604(P2006−170604)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】