説明

燃料電池

【課題】燃料電池の発電停止時のカソード側触媒層の部分的なカーボン酸化による劣化を、エネルギ効率の低下を招くことなく抑制することを目的とする。
【解決手段】発電停止時に、燃料ガスの供給、および、排出が停止される燃料電池に用いられる膜電極接合体410において、燃料ガス供給口、および、アノードオフガス排出口からの距離が比較的長いアノード上の領域に対して電解質膜を挟んで対向する領域、すなわち、発電停止時に、カソード電位が部分的に上昇しやすく、カーボン酸化が生じやすいカソード側触媒層414の一部の領域に、酸化に対する耐久性が第1の触媒層414bよりも高い第1の触媒層414aを配置し、その他の領域には、酸化に対する耐久性が比較的低い第1の触媒層414bを配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、詳しくは、燃料電池に用いられる膜電極接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水素と酸素との電気化学反応によって発電する燃料電池がエネルギ源として注目されている。この燃料電池は、プロトン伝導性を有する所定の電解質膜の両面に、それぞれアノード(水素極)、および、カソード(酸素極)を接合した膜電極接合体を備えており、アノード、および、カソードには、反応ガスとしての水素(燃料ガス)、および、酸素(酸化剤ガス)が、燃料ガス供給口、および、酸化剤ガス供給口からそれぞれ供給され、これらの電気化学反応によって発電する。アノードで未消費のアノードオフガス、および、カソードで未消費のカソードオフガスは、それぞれアノードオフガス排出口、および、カソードオフガス排出口から、燃料電池の外部に排出される。電解質膜としては、例えば、固体高分子膜が用いられる。
【0003】
なお、アノード、および、カソードは、一般に、それぞれ上記電気化学反応を促進するための触媒層(アノード側触媒層、および、カソード側触媒層)と、この触媒層に上記反応ガスを拡散させつつ供給するためのガス拡散層(アノード側ガス拡散層、および、カソード側ガス拡散層)とを備えている。そして、一般に、アノード側触媒層、および、カソード側触媒層は、白金等の触媒金属を担持したカーボンを含んでいる。
【0004】
このような燃料電池では、発電停止時には、一般に、アノードへの水素(燃料ガス)の供給や、アノードオフガスの排出は停止され、供給された水素は、燃料電池の外部に排出されずにアノード上に滞留する。そして、アノード上に水素が残留したまま水素の流れがない状態で放置されると、この残留した水素は、カソード上に滞留する酸素との電気化学反応によって消費され、水素が不足すると、アノード電位、および、カソード電位が上昇する。このとき、カソード電位が過度に上昇すると、カソード側触媒層に含まれるカーボンが、カソード反応によって生成された生成水に含まれる酸素と電気化学反応を起こして酸化し(いわゆるカーボン酸化)、劣化することが知られている。このカーボン酸化は、一般に、カソード電位が1(V)以上になると、急激に進行する。
【0005】
そこで、近年では、燃料電池において、触媒層の劣化を抑制するための種々の技術が提案されている(例えば、下記特許文献1ないし4参照)。例えば、下記特許文献1に記載された技術では、発電停止時に、アノード排気(アノードオフガス)をアノードに再循環させ、アノードオフガスに含まれる水素を消費することによって、触媒層の劣化を抑制している。また、下記特許文献2ないし4に記載された技術では、触媒層の構成に改良を施すことによって、発電中の触媒層や電解質膜の劣化を抑制している。
【0006】
【特許文献1】特表2004−521447号公報
【特許文献2】特開2005−19270号公報
【特許文献3】特許第3354550号明細書
【特許文献4】特開2003−187840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載された技術では、発電停止中に、アノードオフガスを再循環させるためにポンプ等を駆動する必要があり、エネルギ効率の低下を招いていた。また、上記特許文献2ないし4に記載された技術では、発電中の触媒層の劣化を抑制することは可能ではあるが、発電停止時の触媒層の劣化については考慮されていなかった。
【0008】
ところで、本願発明者は、発電停止中における、上述したカソード側触媒層のカーボン酸化は、カソード側触媒層の一部の領域で、特に顕著に生じることを見出した。これは、以下の理由による。すなわち、発電停止時に、水素の供給、および、アノードオフガスの排出が停止されると、水素供給口近傍、および、アノードオフガス排出口近傍に滞留している水素が、上記電気化学反応による消費に伴い、それぞれアノード側ガス拡散層中を拡散して、アノード側触媒層上において、水素の濃度分布が生じる。そして、アノード側触媒層における水素濃度が所定濃度以下に低下した一部の領域に対して電解質膜を挟んで対向するカソード側の領域において、カソード電位が部分的に所定値以上に上昇し、その領域におけるカソード側触媒層に含まれるカーボンが酸化して、特に顕著に劣化するのである。
【0009】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池の発電停止時のカソード側触媒層の部分的なカーボン酸化による劣化を、エネルギ効率の低下を招くことなく抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題の少なくとも一部を解決するため、本発明では、以下の構成を採用した。
本発明の燃料電池は、
所定の電解質膜の両面に、それぞれアノード、および、カソードを接合した膜電極接合体を備え、前記アノードに供給された燃料ガスと、前記カソードに供給された酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池であって、
前記アノードに前記燃料ガスを供給するための燃料ガス供給口と、
前記アノードから排出されるアノードオフガスを前記燃料電池の外部に排出するためのアノードオフガス排出口と、を備え、
前記カソードは、
前記電解質膜の一方の面に接合され、前記電気化学反応を促進するためのカソード側触媒層を備えており、
前記カソード側触媒層は、該カソード側触媒層の面内において、
第1の触媒層と、
該第1の触媒層よりも酸化に対する耐久性が高い第2の触媒層と、を有し、
前記第2の触媒層は、前記燃料ガス供給口、および、前記アノードオフガス排出口からの距離が比較的長い前記アノード上の領域に対して前記電解質膜を挟んで対向する領域に配置されており、
前記第1の触媒層は、前記燃料ガス供給口、および、前記アノードオフガス排出口からの距離が比較的短い前記アノード上の領域に対して前記電解質膜を挟んで対向する領域に配置されていることを要旨とする。
【0011】
先に説明した通り、発電停止時に、アノードへの水素(燃料ガス)の供給や、アノードオフガスの排出を停止するタイプの燃料電池では、発電停止時に、アノード上の領域において、燃料ガス供給口、および、アノードオフガス排出口からの距離が比較的長い領域には、燃料ガス供給口近傍、および、アノードオフガス排出口近傍に滞留している水素が、燃料ガス供給口、および、アノードオフガス排出口からの距離が比較的短い領域よりも拡散しにくいため、燃料ガス供給口、および、アノードオフガス排出口からの距離が比較的長い領域の水素濃度は、他の領域と比較して低下しやすい。このため、燃料ガス供給口、および、アノードオフガス排出口からの距離が比較的長い領域に対して電解質膜を挟んで対向するカソード上の領域では、カソード電位が部分的に過度に上昇しやすく、カーボン酸化が生じやすくなる。
【0012】
本発明では、燃料電池において、上述したカソード電位が部分的に上昇しやすく、カーボン酸化が生じやすいカソード側触媒層の一部の領域に、酸化に対する耐久性が第1の触媒層よりも高い第2の触媒層を配置しているので、燃料電池の発電停止時の、カソード側触媒層の部分的なカーボン酸化による劣化を抑制することができる。また、本発明では、触媒層の劣化を抑制するために、アノードオフガスをアノードに再循環させる必要がないので、エネルギ効率の低下を招くこともない。
【0013】
なお、本明細書において、「酸化に対する耐久性が高い」という文言は、「酸化しにくい、あるいは、酸化しない」こと、および、「酸化しても、その寿命がより長くなる」ことの双方の意味を有している。
【0014】
上記燃料電池において、
前記第1の触媒層、および、前記第2の触媒層は、それぞれ触媒金属を担持したカーボンを含み、
前記第2の触媒層における前記カーボンの黒鉛化度が、前記第1の触媒層における前記カーボンの黒鉛化度よりも高くなるようにしてもよい。
【0015】
黒鉛化度が高いカーボンは、黒鉛化度が低いカーボンよりも酸化しにくいため、酸化に対する耐久性が高い。したがって、本発明によって、第2の触媒層の酸化に対する耐久性を、第1の触媒層の酸化に対する耐久性よりも高くすることができる。
【0016】
また、本発明の燃料電池において、
前記第1の触媒層、および、前記第2の触媒層は、それぞれ触媒金属を担持したカーボンを含み、
前記第2の触媒層の厚さが、前記第1の触媒層の厚さよりも厚くなるようにしてもよい。
【0017】
こうすることによって、第2の触媒層のカーボン酸化に対する寿命をより長くし、第2の触媒層の酸化に対する耐久性を、第1の触媒層の酸化に対する耐久性よりも高くすることができる。
【0018】
また、本発明の燃料電池において、
前記第2の触媒層は、カーボンを含まない触媒からなり、
前記第1の触媒層は、触媒金属を担持したカーボンを含むようにしてもよい。
【0019】
こうすることによって、第2の触媒層のカーボン酸化を回避し、第2の触媒層の酸化に対する耐久性を、第1の触媒層の酸化に対する耐久性よりも高くすることができる。
【0020】
なお、上述したように、カソード側触媒層に、酸化に対する耐久性が比較的高い触媒(第2の触媒層)を適用する場合、第2の触媒層は、一般に、酸化に対する耐久性が比較的低い触媒層(第1の触媒層)よりも、触媒性能が劣る場合が多い。したがって、第2の触媒層を配置する面積や、位置は、燃料ガス供給口、および、アノードオフガス排出口の位置等に応じて、燃料電池の発電性能をなるべく低下させないように、適宜、設計変更することが好ましい。
【0021】
上記いずれかの燃料電池において、
前記燃料ガス供給口には、前記燃料ガスを導入するための導入流路が接続されており、
前記アノードオフガス排出口には、前記アノードオフガスを排出するための排出流路が接続されており、
前記導入流路上には、前記燃料ガスを流すか否かを切り換えるための第1の切換バルブが配設されており、
前記排出流路上には、前記アノードオフガスを流すか否かを切り換えるための第2の切換バルブが配設されており、
前記燃料電池は、発電停止時に、前記第1の切換バルブ、および、前記第2の切換バルブを閉弁することによって、前記導入流路、および、前記排出流路が遮断され、
前記第2の触媒層が配置される領域の位置は、
前記導入流路における前記燃料ガス供給口から前記第1の切換バルブまでの容積、および、前記排出流路における前記アノードオフガス排出口から前記第2の切換バルブまでの容積に基づいて決定されるようにしてもよい。
【0022】
上述した、発電停止時に、アノード、および、カソードへの水素(燃料ガス)、および、酸素(酸化剤ガス)の供給や、アノードオフガス、および、カソードオフガスの排出を停止するタイプの燃料電池では、上記導入流路における燃料ガス供給口から第1の切換バルブまでの容積、および、上記排出流路におけるアノードオフガス排出口から第2の切換バルブまでの容積によって、発電停止時の、燃料ガス供給口、および、アノードオフガス排出口からのアノードへの水素の拡散量がそれぞれ異なる。本発明では、これらに基づいて、第2の触媒層の配置位置を決定するので、適切な位置に第2の触媒層を配置することができる。
【0023】
本発明は、上述の燃料電池としての構成の他、この燃料電池を備える燃料電池システムの発明として構成することもできる。また、上述の燃料電池に備えられる膜電極接合体の発明として構成することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき以下の順序で説明する。
A.燃料電池システムの構成:
B.第1実施例:
B1.セルの構成:
B2.膜電極接合体の構成:
C.第2実施例:
C1.セルの構成:
C2.膜電極接合体の構成:
D.第3実施例:
E.第4実施例:
F.変形例:
【0025】
A.燃料電池システムの構成:
図1は、一実施例としての燃料電池スタック100を備える燃料電池システム1000の概略構成を示す説明図である。
【0026】
燃料電池スタック100は、水素と酸素との電気化学反応によって発電するセル40を、セパレータを介在させて、複数積層させたスタック構造を有している。各セル40は、後述するように、概ね、プロトン伝導性を有する電解質膜の両面に、それぞれアノード、および、カソードを接合した膜電極接合体をセパレータによって挟持した構成となっている。本実施例では、電解質膜として、ナフィオン(登録商標)等の固体高分子膜を用いるものとした。各セパレータには、アノードに供給すべき燃料ガスとしての水素の流路や、カソードに供給すべき酸化剤ガスとしての空気の流路や、冷却水の流路が形成されている。なお、セル40の積層数は、燃料電池スタック100に要求される出力に応じて任意に設定可能である。
【0027】
燃料電池スタック100は、一端から、エンドプレート10、絶縁板20、集電板30、複数のセル40、集電板30、絶縁板20、エンドプレート10の順に積層することによって構成されている。これらには、燃料電池スタック100内に、水素や、空気や、冷却水を流すための供給口や、排出口が設けられている。また、燃料電池スタック100内部には、水素や、空気や、冷却水を、それぞれ各セル40に分配して供給するための供給マニホールド(水素供給マニホールド、空気供給マニホールド、冷却水供給マニホールド)や、各セル40のアノードおよびカソードからそれぞれ排出されるアノードオフガスおよびカソードオフガスや、冷却水を集合させて燃料電池スタック100の外部に排出するための排出マニホールド(アノードオフガス排出マニホールド、カソードオフガス排出マニホールド、冷却水排出マニホールド)が形成されている。
【0028】
エンドプレート10は、剛性を確保するため、鋼等の金属によって形成されている。絶縁板20は、ゴムや、樹脂等の絶縁性部材によって形成されている。集電板30は、緻密質カーボンや、銅板などのガス不透過な導電性部材によって形成されている。集電板30には、それぞれ図示しない出力端子が設けられており、燃料電池スタック100で発電した電力を出力可能となっている。
【0029】
なお、図示は省略しているが、燃料電池スタック100には、スタック構造のいずれかの箇所における接触抵抗の増加等による電池性能の低下を抑制したり、ガスの漏洩を抑制したりするために、スタック構造の積層方向に、押圧力が加えられている。
【0030】
燃料電池スタック100のアノードには、配管53を介して、高圧水素を貯蔵した水素タンク50から、燃料ガスとしての水素が供給される。水素タンク50の代わりに、アルコール、炭化水素、アルデヒドなどを原料とする改質反応によって水素リッチなガスを生成し、アノードに供給するものとしてもよい。配管53は、本発明における導入流路に相当する。
【0031】
水素タンク50に貯蔵された高圧水素は、水素タンク50の出口に設けられたシャットバルブ51、レギュレータ52によって圧力、および、供給量が調整されて、アノードに供給される。アノードからの排出されるアノードオフガスは、排出配管54上に配設された排出バルブ55を開弁することによって、外部に排出することができる。なお、発電停止時には、シャットバルブ51、および、排出バルブ55は、閉弁され、水素の供給、および、アノードオフガスの排出は停止される。排出配管54は、本発明における排出流路に相当する。また、シャットバルブ51、および、排出バルブ55は、それぞれ本発明における第1の切換バルブ、および、第2の切換バルブに相当する。アノードオフガスを外部に排出する際には、アノードオフガスに含まれる水素は、図示しない希釈器や、燃焼器によって処理される。
【0032】
燃料電池スタック100のカソードには、配管61を介して、コンプレッサ60によって圧縮された圧縮空気が、酸素を含有した酸化剤ガスとして供給される。カソードから排出されるカソードオフガスは、配管62を介して、外部に排出される。配管62には、カソードオフガスとともに、燃料電池スタック100のカソードで、水素と酸素との電気化学反応によって生成された生成水も排出される。
【0033】
B.第1実施例:
B1.セルの構成:
図2は、第1実施例のセル40の概略構成を示す説明図である。ここでは、セル40の分解斜視図を示した。図示するように、本実施例のセル40は、矩形形状を有しており、膜電極接合体410の周囲にシール構造(図示省略)を有するフレーム部材を配置したユニット(以下、「シール一体型MEA41(MEA:Membrane Electrode Assembly)」と呼ぶ)の両面を、カソード側セパレータ42、および、アノード側セパレータ43によって挟持することによって構成されている。本実施例では、フレーム部材として、シリコーンゴムを用いるものとした。膜電極接合体410の詳細な構造については、後述する。
【0034】
図示するように、シール一体型MEA41、カソード側セパレータ42、および、アノード側セパレータ43の一方の短辺部には、それぞれ水素供給マニホールドを形成する貫通孔41ai,42ai,43ai、および、空気供給マニホールドを形成する貫通孔41ci,42ci,43ciが形成されている。また、これらと対向する側の短辺部には、アノードオフガス排出マニホールドを形成する貫通孔41ao,42ao,43ao、および、カソードオフガス排出マニホールドを形成する貫通孔41co,42co,43coが形成されている。シール一体型MEA41に形成された貫通孔41ai,41ao,41ci,41coと、カソード側セパレータ42に形成された貫通孔42ai,42ao,42ci,42coと、アノード側セパレータ43に形成された貫通孔43ai,43ao,43ci,43coとは、シール一体型MEA41と、カソード側セパレータ42と、アノード側セパレータ43とを積層したときに、それぞれ同じ位置に重なるように配置されている。
【0035】
そして、図示するように、膜電極接合体410のアノードと対向するアノード側セパレータ43の表面には、貫通孔43aiから貫通孔43aoに、膜電極接合体410のアノード表面全体に沿って水素が流れるように、溝部43dが形成されており、この溝部43dには、膜電極接合体410のアノード表面全体に水素がほぼ均一に流れるように、複数の仕切板43bが形成されている。図中に破線で示した矢印は、水素、および、アノードオフガスの流れを示している。
【0036】
また、図示は省略しているが、膜電極接合体410のカソードと対向するカソード側セパレータ42の表面にも、アノード側セパレータ43と同様に、膜電極接合体410のカソード表面全体に空気をほぼ均一に流すための溝部、および、仕切板が形成されている。図中に一点鎖線で示した矢印は、空気、および、カソードオフガスの流れを示している。
【0037】
なお、シール一体型MEA41、カソード側セパレータ42、および、アノード側セパレータ43には、実際には、冷却水供給マニホールド、および、冷却水排出マニホールドを形成する貫通孔や、冷却水流路も形成されているが、ここでは図示の簡略化のため、省略した。
【0038】
B2.膜電極接合体の構成:
図3は、第1実施例の膜電極接合体410の構成を示す説明図である。図3(a)には、カソード側から見た膜電極接合体410の平面図を示した。なお、図3(a)では、説明の都合上、カソード側触媒層414のみが描かれており、カソード側ガス拡散層415は描かれていない。また、図3(b)には、膜電極接合体410の断面図を示した。
【0039】
図3(b)に示したように、膜電極接合体410は、電解質膜411の一方の面に、アノード側触媒層412、および、アノード側ガス拡散層413をこの順に接合するとともに、電解質膜411の他方の面に、カソード側触媒層414、および、カソード側ガス拡散層415をこの順に接合したものである。そして、図3(a),(b)に示したように、カソード側触媒層414における中央の領域には、膜電極接合体410の短手方向全体に亘って、触媒金属を担持したカーボンを含む第2の触媒層414aが配置されており、その他の領域には、触媒金属を担持したカーボンを含む第1の触媒層414bが配置されている。本実施例では、第2の触媒層414aに含まれるカーボンの黒鉛化度は、第1の触媒層414bに含まれるカーボンの黒鉛化度よりも高い。したがって、第2の触媒層414aの酸化に対する耐久性は、第1の触媒層414bに含まれるカーボンの黒鉛化度よりも高い。なお、これらの触媒層414a,414bに含まれるカーボンの黒鉛化度の差により、第2の触媒層414aが配置された領域における発電性能は、第1の触媒層414bが配置された領域における発電性能よりも低くなるため、第2の触媒層414aを配置する領域の面積は、適宜、狭くすることが好ましい。
【0040】
膜電極接合体410のカソード側触媒層414において、第2の触媒層414a、および、第1の触媒層414bを上述したように配置するのは、本実施例の膜電極接合体410において、発電停止時に、カソード側触媒層414の中央部でカーボン酸化が生じやすいためである。以下、この理由について説明する。
【0041】
図4は、発電停止時におけるカソード側触媒層414の酸化について、概略的に示す説明図である。本実施例の膜電極接合体410の代わりに、カソード側触媒層414に第2の触媒層414aを配置せずに、カソード側触媒層414として、酸化に対する耐久性が第2の触媒層414aよりも低い第1の触媒層414bのみを配置した膜電極接合体を用いる場合を例に示した。なお、ここでは、理解を容易にするため、発電停止時に、膜電極接合体410の一方の短辺部に配置された水素供給口側に滞留する水素の量と、他方の短辺に配置されたアノードオフガス排出口側に滞留する水素の量とは、ほぼ等しいものとする。
【0042】
発電中には、図4(a)中に矢印で示したように、水素は、水素供給口から水素供給口とほぼ対向する位置に配置されたアノードオフガス排出口に向かってアノード側ガス拡散層413の表面上を流れつつ、アノード側ガス拡散層413中を拡散し、アノード側触媒層412に供給されて、カソード側の空気に含まれる酸素と反応する。
【0043】
一方、発電停止時には、先に説明したように、水素供給口、および、アノードオフガス排出口は閉塞されるので、図4(b)中に矢印で示したように、水素供給口近傍、および、アノードオフガス排出口近傍から、それぞれほぼ同量の水素がアノード側ガス拡散層413中を拡散し、アノード側触媒層412に供給されて、カソード側の空気に含まれる酸素と反応する。このとき、アノード上に残留する水素は、カソード側触媒層414の全面で、カソード上に残留する酸素とほぼ均等に反応するため、図3(c)に示したように、水素供給口、および、アノードオフガス排出口からの距離が比較的短い領域では、水素供給口、および、アノードオフガス排出口から水素が拡散されやすいため、アノード上の水素濃度の低下が少ないが、水素供給口とアノードオフガス排出口とのほぼ中間地点、すなわち、水素供給口、および、アノードオフガス排出口からの距離が比較的長く、水素供給口、および、アノードオフガス排出口から水素が拡散されにくい中央部において、アノード上の水素濃度が低下する。そして、図3(d)に示したように、水素濃度が過度に低下した中央部において、カソード電位が1(V)よりも高くなると、先に説明したように、カソード側触媒層414においてカーボン酸化が生じ、このカーボン酸化によるカソード側触媒層414の劣化によって、燃料電池の発電性能が低下するのである。
【0044】
これに対して、先に説明した本実施例の膜電極接合体410では、発電停止時に、上述した、水素濃度が低下してカソード電位が高くなりやすい領域に、酸化に対する耐久性が第1の触媒層414bよりも高い第2の触媒層414aを配置しているので、この領域において、カーボン酸化によるカソード側触媒層414の劣化を抑制することができる。
【0045】
なお、上述した例では、水素供給口側に滞留する水素の量と、アノードオフガス排出口側に滞留する水素の量とは、ほぼ等しいものとしたため、カソード側触媒層414における第2の触媒層414aの配置位置は、カソード側触媒層414の中央部としたが、カソード側触媒層414において、第2の触媒層414aを配置する位置は、水素供給口側に滞留する水素の量と、アノードオフガス排出口側に滞留する水素の量に基づいて、決定することができる。以下、カソード側触媒層414における第2の触媒層414aを配置する位置の決定方法の一例を説明する。
【0046】
図5は、発電停止時のカソード側触媒層414における劣化位置を示す説明図である。この図は、カソード側触媒層414に第2の触媒層414aを配置せずに、カソード側触媒層414として、酸化に対する耐久性が比較的低い第1の触媒層414bのみを配置した膜電極接合体を用いて、発電停止時に、実験的にカソード側触媒層414が劣化した位置を調査した実験結果を表している。この実験では、発電停止時に、カソード側触媒層414上の各位置でのカソード電位の上昇を検出することによって、カソード側触媒層414の劣化位置を特定した。
【0047】
図の横軸は、水素供給口からアノードオフガス排出口までの距離を1とし、カソード側触媒層414の中央部を0とした場合の位置を表している。また、縦軸は、水素供給口からシャットバルブ51までの容積をV1とし、アノードオフガス排出口から排出バルブ55までの容積をV2とし、発電面の容積をVgとしたときの(V1−V2)/Vgの値を表している。すなわち、(V1−V2)/Vgの値が正のときは、水素供給口からシャットバルブ51までの容積V1がアノードオフガス排出口から排出バルブ55までの容積V2よりも大きく、(V1−V2)/Vgの値が負のときは、アノードオフガス排出口から排出バルブ55までの容積V2が水素供給口からシャットバルブ51までの容積V1よりも大きいことを表している。
【0048】
図5から分かるように、(V1−V2)/Vgの値が正のとき、すなわち、水素供給口からシャットバルブ51までの容積V1がアノードオフガス排出口から排出バルブ55までの容積V2よりも大きいときには、アノードオフガス排出口に比較的近い側のカソード側触媒層414でカーボン酸化による劣化が生じる。これは、水素供給口側からの水素の拡散量が、アノードオフガス排出口側からの水素の拡散量よりも多くなるからであると考えられるからである。また、(V1−V2)/Vgの値が0のとき、すなわち、水素供給口からシャットバルブ51までの容積V1とアノードオフガス排出口から排出バルブ55までの容積V2とが等しいときには、カソード側触媒層414の中央部でカーボン酸化による劣化が生じる。これは、水素供給口側からの水素の拡散量が、アノードオフガス排出口側からの水素の拡散量と等しくなるからであると考えられる。また、(V1−V2)/Vgの値が負のとき、すなわち、アノードオフガス排出口から排出バルブ55までの容積V2が水素供給口からシャットバルブ51までの容積V1よりも大きいときには、水素供給口に近い側のカソード側触媒層414でカーボン酸化による劣化が生じる。これは、アノードオフガス排出口側からの水素の拡散量が、水素供給口側からの水素の拡散量よりも多くなるからであると考えられる。つまり、(V1−V2)/Vgの値の変動に応じて、水素供給口側からの水素の拡散量、および、アノードオフガス排出口側からの水素の換算量が変動し、カソード側触媒層414では、ほぼ図5中に描かれた2本の一点鎖線の間の領域でカーボン酸化による劣化が生じることが分かる。
【0049】
したがって、図示した例では、例えば、水素供給口からシャットバルブ51までの容積V1とアノードオフガス排出口から排出バルブ55までの容積V2とが等しいとき、すなわち、(V1−V2)/Vgの値が0のときには、図中において、2本の一点鎖線の間の領域、すなわち、カソード側触媒層414における−0.15〜0.15の領域に、第2の触媒層414aを配置することによって、発電停止時のカソード側触媒層414のカーボン酸化による劣化を抑制することができる。
【0050】
以上説明した第1実施例の膜電極接合体410によれば、上述したカソード電位が部分的に上昇しやすく、カーボン酸化が生じやすいカソード側触媒層414の一部の領域に、酸化に対する耐久性が第1の触媒層414bよりも高い第2の触媒層414aを配置し、その他の領域には、酸化に対する耐久性が比較的低い第1の触媒層414bを配置しているので、燃料電池スタック100の発電停止時の、カソード側触媒層414の部分的なカーボン酸化による劣化を抑制することができる。また、本実施例の燃料電池システム1000では、アノードオフガスをアノードに再循環させる必要がないので、エネルギ効率の低下を招くこともない。
【0051】
C.第2実施例:
C1.セルの構成:
図6は、第2実施例のセル40Aの概略構成を示す説明図である。セル40Aの分解斜視図を示した。第2実施例のセル40Aも、第1実施例のセル40と同様に、矩形形状を有しており、膜電極接合体410Aの周囲にシール構造(図示省略)を有するフレーム部材を配置したシール一体型MEA41Aの両面を、カソード側セパレータ42A、および、アノード側セパレータ43Aによって挟持することによって構成されている。本実施例においても、フレーム部材として、シリコーンゴムを用いるものとした。膜電極接合体410Aの詳細な構造については、後述する。
【0052】
第2実施例のセル40Aでは、第1実施例のセル40と異なり、図示するように、シール一体型MEA41A、カソード側セパレータ42A、および、アノード側セパレータ43Aの一方の短辺部には、それぞれ水素供給マニホールドを形成する貫通孔41ai,42ai,43ai、および、アノードオフガス排出マニホールドを形成する貫通孔41ao,42ao,43aoが形成されている。また、これらと対向する側の短辺部には、空気供給マニホールドを形成する貫通孔41ci,42ci,43ci、および、カソードオフガス排出マニホールドを形成する貫通孔41co,42co,43coが形成されている。シール一体型MEA41Aに形成された貫通孔41ai,41ao,41ci,41coと、カソード側セパレータ42Aに形成された貫通孔42ai,42ao,42ci,42coと、アノード側セパレータ43Aに形成された貫通孔43ai,43ao,43ci,43coとは、第1実施例のセル40と同様に、シール一体型MEA41Aと、カソード側セパレータ42Aと、アノード側セパレータ43Aとを積層したときに、それぞれ同じ位置に重なるように配置されている。
【0053】
そして、図示するように、膜電極接合体410Aのアノードと対向するアノード側セパレータ43Aの表面には、貫通孔43aiから貫通孔43aoに、膜電極接合体410のアノード表面全体に沿って水素が蛇行して流れるように、溝部43dが形成されている。図中に破線で示した矢印は、水素、および、アノードオフガスの流れを示している。
【0054】
また、図示は省略しているが、膜電極接合体410Aのカソードと対向するカソード側セパレータ42Aの表面にも、アノード側セパレータ43Aと同様に、膜電極接合体410Aのカソード表面全体に沿って空気が蛇行して流れるように、溝部が形成されている。図中に一点鎖線で示した矢印は、空気、および、カソードオフガスの流れを示している。
【0055】
なお、本実施例の膜電極接合体410においても、シール一体型MEA41A、カソード側セパレータ42A、および、アノード側セパレータ43Aには、実際には、冷却水供給マニホールド、および、冷却水排出マニホールドを形成する貫通孔や、冷却水流路も形成されているが、ここでは図示の簡略化のため、省略されている。
【0056】
C2.膜電極接合体の構成:
図7は、第2実施例の膜電極接合体410Aの構成を示す説明図である。図7(a)には、カソード側から見た膜電極接合体410Aの平面図を示した。なお、図7(a)では、説明の都合上、カソード側触媒層414Aのみが描かれており、カソード側ガス拡散層415は描かれていない。また、図7(b)には、膜電極接合体410Aの断面図を示した。
【0057】
図7(b)に示したように、膜電極接合体410Aは、電解質膜411の一方の面に、アノード側触媒層412、および、アノード側ガス拡散層413をこの順に接合するとともに、電解質膜411の他方の面に、カソード側触媒層414A、および、カソード側ガス拡散層415をこの順に接合したものである。そして、図7(a),(b)に示したように、カソード側触媒層414Aにおける、水素供給口、および、アノードオフガス排出口と対向する短辺部近傍の領域、すなわち、水素供給口、および、アノードオフガス排出口からの距離が比較的長く、発電停止時に、アノード側での水素の部分的な低下によって、カーボン酸化が生じやすい領域に、膜電極接合体410Aの短手方向全体に亘って、触媒金属を担持したカーボンを含む第2の触媒層414Aaが配置されており、その他の領域には、触媒金属を担持したカーボンを含む第1の触媒層414Abが配置されている。本実施例においても、第1実施例と同様に、第2の触媒層414Aaに含まれるカーボンの黒鉛化度は、第1の触媒層414Abに含まれるカーボンの黒鉛化度よりも高く、第2の触媒層414Aaの酸化に対する耐久性は、第1の触媒層414Abに含まれるカーボンの黒鉛化度よりも高い。
【0058】
以上説明した第2実施例の膜電極接合体410Aによっても、上述したカソード電位が部分的に上昇しやすく、カーボン酸化が生じやすいカソード側触媒層414Aの一部の領域に、酸化に対する耐久性が第1の触媒層414Abよりも高い第2の触媒層414Aaを配置し、その他の領域には、酸化に対する耐久性が比較的低い第1の触媒層414Abを配置しているので、燃料電池スタック100の発電停止時の、カソード側触媒層414Aの部分的なカーボン酸化による劣化を抑制することができる。
【0059】
D.第3実施例:
第3実施例のセルの基本的な構成は、第1実施例のセル40と同じであり、膜電極接合体410Bの構成のみが第1実施例と異なる。したがって、ここでは、第3実施例の膜電極接合体410Bの構成についてのみ説明する。
【0060】
図8は、第3実施例の膜電極接合体410Bの構成を示す説明図である。図8(a)には、カソード側から見た膜電極接合体410Bの平面図を示した。なお、図8(a)では、説明の都合上、カソード側触媒層414Bのみが描かれており、カソード側ガス拡散層415は描かれていない。また、図8(b)には、膜電極接合体410Bの断面図を示した。
【0061】
図8(b)に示したように、膜電極接合体410Bは、電解質膜411の一方の面に、アノード側触媒層412、および、アノード側ガス拡散層413をこの順に接合するとともに、電解質膜411の他方の面に、カソード側触媒層414B、および、カソード側ガス拡散層415をこの順に接合したものである。そして、図8(a),(b)に示したように、カソード側触媒層414Bにおける中央の領域、すなわち、水素供給口、および、アノードオフガス排出口からの距離が比較的長く、発電停止時に、アノード側での水素の部分的な低下によって、カーボン酸化が生じやすい領域に、膜電極接合体410Bの短手方向全体に亘って、触媒金属を担持したカーボンを含む第2の触媒層414Baが配置されており、その他の領域には、触媒金属を担持したカーボンを含む第1の触媒層414Bbが配置されている。なお、本実施例では、第2の触媒層414Baに含まれる物質と、第1の触媒層414Bbに含まれる物質とは同じであり、第2の触媒層414Baの厚さが、第1の触媒層414Bbの厚さよりも厚い。したがって、第2の触媒層414Baの酸化に対する耐久性は、第1の触媒層414Bbの酸化に対する耐久性よりも高い。
【0062】
以上説明した第3実施例の膜電極接合体410Bによっても、上述したカソード電位が部分的に上昇しやすく、カーボン酸化が生じやすいカソード側触媒層414Bの一部の領域に、酸化に対する耐久性が第1の触媒層414Bbよりも高い第2の触媒層414Baを配置し、その他の領域には、酸化に対する耐久性が比較的低い第1の触媒層414Bbを配置しているので、燃料電池スタック100の発電停止時の、カソード側触媒層414Bの部分的なカーボン酸化による劣化を抑制することができる。
【0063】
E.第4実施例:
第4実施例のセルの基本的な構成は、第2実施例のセル40Aと同じであり、膜電極接合体410Cの構成のみが第2実施例と異なる。したがって、ここでは、第4実施例の膜電極接合体410Cの構成についてのみ説明する。
【0064】
図9は、第4実施例の膜電極接合体410Cの構成を示す説明図である。図9(a)には、カソード側から見た膜電極接合体410Cの平面図を示した。なお、図9(a)では、説明の都合上、カソード側触媒層414Cのみが描かれており、カソード側ガス拡散層415は描かれていない。また、図9(b)には、膜電極接合体410Cの断面図を示した。
【0065】
図9(b)に示したように、膜電極接合体410Cは、電解質膜411の一方の面に、アノード側触媒層412、および、アノード側ガス拡散層413をこの順に接合するとともに、電解質膜411の他方の面に、カソード側触媒層414C、および、カソード側ガス拡散層415をこの順に接合したものである。そして、図9(a),(b)に示したように、カソード側触媒層414Cにおける、水素供給口、および、アノードオフガス排出口と対向する短辺部近傍の領域、すなわち、水素供給口、および、アノードオフガス排出口からの距離が比較的長く、発電停止時に、アノード側での水素の部分的な低下によって、カーボン酸化が生じやすい領域に、膜電極接合体410Cの短手方向全体に亘って、触媒金属を担持したカーボンを含む第2の触媒層414Caが配置されており、その他の領域には、触媒金属を担持したカーボンを含む第1の触媒層414Cbが配置されている。なお、本実施例においても、第3実施例と同様に、第2の触媒層414Caの厚さが、第1の触媒層414Cbの厚さよりも厚い。したがって、第2の触媒層414Caの酸化に対する耐久性は、第1の触媒層414Cbの酸化に対する耐久性よりも高い。
【0066】
以上説明した第4実施例の膜電極接合体410Cによっても、上述したカソード電位が部分的に上昇しやすく、カーボン酸化が生じやすいカソード側触媒層414Cの一部の領域に、酸化に対する耐久性が第1の触媒層414Cbよりも高い第2の触媒層414Caを配置し、その他の領域には、酸化に対する耐久性が比較的低い第1の触媒層414Cbを配置しているので、燃料電池スタック100の発電停止時の、カソード側触媒層414Cの部分的なカーボン酸化による劣化を抑制することができる。
【0067】
F.変形例:
以上、本発明のいくつかの実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、以下のような変形が可能である。
【0068】
F1.変形例1:
上記第1ないし第4実施例では、膜電極接合体のカソード側触媒層上の矩形領域に、上述した第2の触媒層を配置するものとしたが、本発明は、これに限られない。第2の触媒層の形状は、任意に設定可能である。
【0069】
F2.変形例2:
上記第1ないし第4実施例では、膜電極接合体のカソード側触媒層に配置する第2の触媒層として、比較的黒鉛化度が高い層を用いたり、比較的厚さが厚い層を用いたりするものとしたが、本発明は、これに限られない。例えば、第2の触媒層として、これらの代わりに、カーボンを含まない、すなわち、カーボン酸化しない触媒層(例えば、いわゆる白金シート)を用いるようにしてもよい。また、第1および第2実施例で用いた第2の触媒層の特徴と、第3および第4実施例で用いた第2の触媒層の特徴とを組み合わせるようにしてもよい。
【0070】
F3.変形例3:
上記第1実施例では、(V1−V2)/Vgの値に基づいて、カソード側触媒層414における第2の触媒層414aの配置位置を決定する方法を示したが、本発明は、これに限られず、他の方法によって決定するようにしてもよい。例えば、単に、水素供給口からシャットバルブ51までの容積V1と、アノードオフガス排出口から排出バルブ55までの容積V2との比に基づいて、カソード側触媒層414における第2の触媒層414aの配置位置を決定するようにしてもよい。
【0071】
F4.変形例4:
上記第1ないし第4実施例では、カソード側セパレータ42、および、アノード側セパレータ43として、それぞれに形成された溝部をガス流路として利用するものとしたが、本発明は、これに限られない。他の形状のセパレータを用いる場合にも、本願発明を利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】一実施例としての燃料電池スタック100を備える燃料電池システム1000の概略構成を示す説明図である。
【図2】第1実施例のセル40の概略構成を示す説明図である。
【図3】第1実施例の膜電極接合体410の構成を示す説明図である。
【図4】発電停止時におけるカソード側触媒層414の酸化について概略的に示す説明図である。
【図5】発電停止時のカソード側触媒層414における劣化位置を示す説明図である。
【図6】第2実施例のセル40Aの概略構成を示す説明図である。
【図7】第2実施例の膜電極接合体410Aの構成を示す説明図である。
【図8】第3実施例の膜電極接合体410Bの構成を示す説明図である。
【図9】第4実施例の膜電極接合体410Cの構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0073】
1000…燃料電池システム
100…燃料電池スタック
10…エンドプレート
20…絶縁板
30…集電板
40,40A…セル
41,41A…シール一体型MEA
41ai,41ao,…貫通孔
41ci,41co…貫通孔
410,410A,410B,410C…膜電極接合体
411…電解質膜
412…アノード側触媒層
413…アノード側ガス拡散層
414,414A,414B,414C…カソード側触媒層
414a,414Aa,414Ba,414Ca…第2の触媒層
414b,414Ab,414Bb,414Cb…第1の触媒層
415…カソード側ガス拡散層
42,41A…カソード側セパレータ
42ai,42ao…貫通孔
42ci,42co…貫通孔
43,43A…アノード側セパレータ
43ai,43ao…貫通孔
43ci,43co…貫通孔
43b…仕切板
43d…溝部
50…水素タンク
51…シャットバルブ
52…レギュレータ
53…配管
54…排出配管
55…排出バルブ
60…コンプレッサ
61,62…配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の電解質膜の両面に、それぞれアノード、および、カソードを接合した膜電極接合体を備え、前記アノードに供給された燃料ガスと、前記カソードに供給された酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池であって、
前記アノードに前記燃料ガスを供給するための燃料ガス供給口と、
前記アノードから排出されるアノードオフガスを前記燃料電池の外部に排出するためのアノードオフガス排出口と、を備え、
前記カソードは、
前記電解質膜の一方の面に接合され、前記電気化学反応を促進するためのカソード側触媒層を備えており、
前記カソード側触媒層は、該カソード側触媒層の面内において、
第1の触媒層と、
該第1の触媒層よりも酸化に対する耐久性が高い第2の触媒層と、を有し、
前記第2の触媒層は、前記燃料ガス供給口、および、前記アノードオフガス排出口からの距離が比較的長い前記アノード上の領域に対して前記電解質膜を挟んで対向する領域に配置されており、
前記第1の触媒層は、前記燃料ガス供給口、および、前記アノードオフガス排出口からの距離が比較的短い前記アノード上の領域に対して前記電解質膜を挟んで対向する領域に配置されている、
燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記第1の触媒層、および、前記第2の触媒層は、それぞれ触媒金属を担持したカーボンを含み、
前記第2の触媒層における前記カーボンの黒鉛化度は、前記第1の触媒層における前記カーボンの黒鉛化度よりも高い、
燃料電池。
【請求項3】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記第1の触媒層、および、前記第2の触媒層は、それぞれ触媒金属を担持したカーボンを含み、
前記第2の触媒層の厚さは、前記第1の触媒層の厚さよりも厚い、
燃料電池。
【請求項4】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記第2の触媒層は、カーボンを含まない触媒からなり、
前記第1の触媒層は、触媒金属を担持したカーボンを含む、
燃料電池。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の燃料電池であって、
前記燃料ガス供給口には、前記燃料ガスを導入するための導入流路が接続されており、
前記アノードオフガス排出口には、前記アノードオフガスを排出するための排出流路が接続されており、
前記導入流路上には、前記燃料ガスを流すか否かを切り換えるための第1の切換バルブが配設されており、
前記排出流路上には、前記アノードオフガスを流すか否かを切り換えるための第2の切換バルブが配設されており、
前記燃料電池は、発電停止時に、前記第1の切換バルブ、および、前記第2の切換バルブを閉弁することによって、前記導入流路、および、前記排出流路が遮断され、
前記第2の触媒層が配置される領域の位置は、
前記導入流路における前記燃料ガス供給口から前記第1の切換バルブまでの容積、および、前記排出流路における前記アノードオフガス排出口から前記第2の切換バルブまでの容積に基づいて決定される、
燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−59921(P2008−59921A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235981(P2006−235981)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】