説明

燃料電池

【課題】触媒層の周縁であって、ガス拡散層と電解質膜の間に保護フィルムを備えた電極体を具備する燃料電池において、カソード側およびアノード側の保護フィルムの特に触媒層側端部から作用する圧縮力によって、電解質膜等に亀裂が生じることを効果的に抑止することのできる燃料電池を提供する。
【解決手段】膜電極接合体4とガス透過層(ガス拡散層5,6)とからなる電極体10を具備する燃料電池セルが積層されてなる燃料電池において、少なくとも、電解質膜1が触媒層2,3で被覆されていない周縁の露出領域とガス拡散層5,6の間には、保護フィルム7A,7Bが介在しており、保護フィルム7A,7Bの触媒層2,3に対向する端面は滑らかな曲率を備えた凹凸状をなしている。また、触媒層側に凸の領域Y1,Y2は触媒層2,3上に積層しており、それぞれの保護フィルム7A,7Bにおいて、双方の凸の領域Y1,Y2は相互にずらされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒層の周縁であって、ガス拡散層と電解質膜の間に保護フィルムを備えた燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池の燃料電池セルは、たとえば、イオン透過性の電解質膜と、該電解質膜を挟持するアノード側およびカソード側の触媒層とから膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)が形成され、このMEAとこれを挟持するアノード側およびカソード側のガス拡散層(GDL)とから電極体(MEGA:Membrane Electrode & Gas Diffusion Layer Assembly)が形成され、電極体に燃料ガスもしくは酸化剤ガスを提供するとともに電気化学反応によって生じた電気を集電するための多孔体からなるガス流路層とセパレータが電極体の両側に配されて構成されている。なお、セパレータにガス流路溝が形成された燃料電池セルも従来一般のものであり、この形態の場合にはガス流路層となる多孔体は不要である。実際の燃料電池スタックは、所要電力に応じた基数の燃料電池セルが積層され、スタッキングされることによって形成されている。
【0003】
上記する燃料電池では、アノード電極に燃料ガスとして水素ガス等が提供され、カソード電極には酸化剤ガスとして酸素や空気が提供され、各電極では固有のガス流路層(またはセパレータに形成されたガス流路溝)にて面内方向にガスが流れ、次いでガス拡散層にて拡散されたガスが電極触媒層に導かれて電気化学反応がおこなわれるものである。
【0004】
上記するガス拡散層の形態として、拡散層基材と集電層(MPL:Micro Porous Layer)とから構成されるものは一般に知られるところである。一般には、触媒層は電解質膜よりも狭小な平面積(小さな平面積)を有しており、電解質膜が触媒層にて被覆されていない触媒層の周縁の露出領域には、ポリマー素材の保護フィルムが配設されており、この保護フィルムが拡散層基材と電解質膜の間に介在した構造が一般的である。保護フィルムを触媒層の周縁領域で拡散層基材と電解質膜の間に介在させることにより、触媒層を有する電解質膜とガス拡散層をたとえば100〜130℃程度の高温雰囲気下、1〜3MPa程度の圧縮力で熱圧着する(電解質膜に影響を与えない熱圧着条件)際に、繊維質の拡散層基材の表面から突出する毛羽が電解質膜に突き刺さることを抑止することができる。
【0005】
その具体的な構成を図5をもとに説明する。電極体は、電解質膜aと、カソード側およびアノード側の触媒層b1、b2と、から膜電極接合体cが形成され、この膜電極接合体cをカソード側およびアノード側のガス拡散層d(拡散層基材d1と集電層d2とから構成される)が挟持して形成される。触媒層b1、b2は電解質膜aに比して狭小であり、電解質膜aが触媒層b1、b2で被覆されていない露出領域にはカソード側およびアノード側の保護フィルムe1,e2が配され、これらが電解質膜aと拡散層基材d1の間に介在している。
【0006】
図示例のごとく、保護フィルムe1,e2は、その触媒層側端部が触媒層b1、b2にラップ(積層)しているのが一般的である。この保護フィルムは、熱圧着時に拡散層基材の毛羽が電解質膜に突き刺さると、この突き刺さり箇所がガスのクロスリークを助長することとなり、燃料電池のクロスリーク耐久性が低下し、発電性能の低下に直結するという課題を解消するために設けられている。すなわち、電解質膜aが触媒層b1、b2と接触している領域は、該触媒層b1、b2にて電解質膜aが毛羽の突き刺さりから保護されている一方で、上記する電解質膜aの露出領域は保護フィルムe1,e2で毛羽の突き刺さりから保護される。ここで、触媒層b1、b2の端部から毛羽が電解質膜aに通じることを回避するべく、図示するように、保護フィルムe1,e2の端部を触媒層b1、b2にラップさせるようにしている。
【0007】
ところで、カソード側およびアノード側の保護フィルムe1,e2が図示のごとく触媒層b1、b2にラップしている電極体においては、この保護フィルムe1,e2の端部が触媒層b1、b2や電解質膜aを介して同一ライン:L1(もしくは同一面内)上に位置している。
【0008】
複数の燃料電池セルが積層されてスタッキングされた際の圧縮力がそれぞれの燃料電池セルの電極体に作用すると(圧縮力P)、薄くて低剛性な電解質膜aや触媒層b1、b2に対して相対的に高剛性な保護フィルムe1,e2の端部から過度の圧縮力が膜電極接合体cに作用し、この圧縮力にて亀裂が生じ易くなってしまうという課題が存在している。ここで、触媒層b1、b2にラップしている保護フィルムe1,e2の触媒層側端部が同一ライン:L1上に存在することにより、膜電極接合体はそのL1ライン付近でその上下位置から作用する圧縮力にて圧縮される結果、上記する亀裂の発生がより生じ易くなってしまうというものである。
【0009】
なお、図5で示す構造を呈した電極体と異なり、保護フィルムが触媒層とラップしない形態の電極体を備えた燃料電池に関する技術が特許文献1に開示されている。この形態によれば、保護フィルムと触媒層がラップしている場合に比して、保護フィルムに作用する圧縮力は低減され、したがってこの保護フィルムから膜電極接合体に作用する圧縮力が低減されるものの、触媒層に比して高剛性の保護フィルムに相対的に多くの圧縮力が作用すること、および依然としてカソード側およびアノード側で保護フィルムの触媒層側の端部が同一ライン上にあること、から、電解質膜に亀裂が生じ易いことに変わりはない。
【0010】
【特許文献1】特開2004−319153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、触媒層の周縁であって、ガス拡散層と電解質膜の間に保護フィルムを備えた電極体を具備する燃料電池において、カソード側およびアノード側の保護フィルムの特に触媒層側端部から作用する圧縮力によって、電解質膜等に亀裂が生じることを効果的に抑止することのできる燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明による燃料電池は、電解質膜と、これよりも狭小な平面積で該電解質膜に当接するカソード側およびアノード側の触媒層と、から膜電極接合体が形成され、該膜電極接合体の両側にガス透過層が配されて燃料電池セルを成し、該燃料電池セルが積層されてなる燃料電池であって、少なくとも、前記電解質膜が触媒層で被覆されていない周縁の露出領域とガス透過層の間には、保護フィルムが介在しており、前記保護フィルムの触媒層に対向する端面が滑らかな曲率を備えた凹凸状をなしているものである。
【0013】
本発明の燃料電池を構成するセル構造は、膜電極接合体(MEA)のアノード側とカソード側の双方に拡散層基材と集電層からなるガス拡散層を具備する形態、アノード側とカソード側のいずれか一方は集電層のみを具備する(拡散層基材が廃された)形態の双方を含んでいる。また、本明細書では、これらのいずれの形態も電極体(MEGA)と称呼している。また、電極体の両側にガス流路溝が形成されたセパレータが直接配された形態は勿論のこと、いわゆるフラットタイプのセパレータと電極体の間に、ガス流路層(エキスパンドメタル等の金属多孔体)が配された形態を含むものである。さらに、「ガス透過層」とは、ガス拡散層とガス流路層の双方を含む意味である。したがって、ガス流路層を具備しないセル形態においては「ガス透過層」は「ガス拡散層」を意味するものであり、ガス拡散層とガス流路層の双方を具備するセル形態においては「ガス透過層」は「ガス拡散層」と「ガス流路層」の双方もしくはいずれか一方を意味するものである。
【0014】
燃料電池セルの電極体に具備された保護フィルムの触媒層側の端面(端部)を滑らかな曲率を備えた凹凸状とすることにより、電解質膜等に作用する圧縮力(もしくは圧縮応力)を効果的に緩和することが可能となる。すなわち、保護フィルムの触媒層側の端面が滑らかな曲率を備えた凹凸状を呈していることで、上記する従来構造(端面が直線状)の保護フィルムに比して端面の線長が長くなり、同一の圧縮荷重が作用した場合を想定すると、該端面から作用する荷重(線荷重)は効果的に低減される。したがって、仮にアノード側およびカソード側双方の保護フィルムの触媒層側の端面が同一ライン上にあっても、電解質膜等に過度の荷重が作用しないことから、該電解質膜等には亀裂が生じ難くい。
【0015】
また、好ましい実施の形態として、前記保護フィルムのうち、触媒層側に凸の領域が触媒層上に積層している形態や、前記保護フィルムのうち、触媒層側に凸の領域は触媒層の端面に当接している形態であってもよい。
【0016】
さらに好ましい実施の形態として、カソード側およびアノード側のそれぞれの保護フィルムにおいて、双方の前記凸の領域が相互にずらされている形態であってもよい。
【0017】
これはすなわち、カソード側の保護フィルムの凸の領域とアノード側の保護フィルムの凹の領域が対応するようにして配されていることを意味しており、図5の従来形態のように、カソード側とアノード側双方の保護フィルムの端部が同一ライン上に位置しないような構造である。この構成によれば、アノード側およびカソード側の保護フィルムの触媒層側端部が電解質膜等を介して同一ライン上に位置することがなくなり、双方の保護フィルムの端部から電解質膜等に作用する圧縮力の作用位置を異ならしめることができる。したがって、図5で説明したような電解質膜等に亀裂が生じる可能性を格段に低減することができる。
【0018】
触媒層側に凸の領域が触媒層上に積層していて、かつ、カソード側およびアノード側のそれぞれの保護フィルム双方の前記凸の領域が相互にずらされている形態においては、保護フィルムの凹の領域は触媒層とラップした構成にはなっていないが、これに対応する他方の電極側の凸の領域は触媒層とラップしている。したがって、仮に、この凹の領域において拡散層基材の毛羽が電解質膜に到達したとしても、他方の電極側の対応する領域では保護フィルムによって毛羽の突き刺さりが完全に抑止されていることから、双方の電極側から毛羽が突き刺さり、これに起因してガスのクロスリーク路が形成されるという危険性はない。
【0019】
また、上記する本発明の燃料電池は、従来の燃料電池の構造に対して、その保護フィルムの触媒層側端部の形状に変更を加え、さらに、カソード側とアノード側双方の保護フィルムの対応する端部同士が同一ライン上に位置しないようにしただけの極めて簡易な構造変更によるものであることから、燃料電池の製造コストを何等高騰させるものではない。
【0020】
また、前記保護フィルムのうち、触媒層側に凸の領域は触媒層の端面に当接していて、かつ、カソード側およびアノード側のそれぞれの保護フィルム双方の前記凸の領域が相互にずらされている形態においては、保護フィルムが触媒層とラップしないことから、ラップした領域から過度の圧縮力が電解質膜に作用するという課題が完全に解消される。また、カソード側とアノード側で双方の保護フィルムの触媒層側端部が同一ライン上に位置しない構成であることから、電解質膜に亀裂が生じる可能性を低減できることは上記形態の燃料電池と同様である。
【0021】
なお、上記する保護フィルムの触媒層側の端面の凹凸状は、矩形の山と谷が交互に連続したパルス状をなす形態や、滑らかな波形をなす形態など、任意の形態を適用できるが、端面がパルス状の場合には、その山と谷の隅角部から相対的に大きな圧縮力が作用し易くなってしまうことに鑑みれば、滑らかな波形を呈した形状であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
以上の説明から理解できるように、本発明の燃料電池によれば、保護フィルムの触媒層側の端面を凹凸状とすることにより、保護フィルムを介して電解質膜等に作用するスタッキング時の圧縮力、もしくは、電解質膜等に生じる圧縮応力を効果的に緩和でき、もって電解質膜等における亀裂発生の可能性を、従来構造の燃料電池に比して格段に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図示例は、その保護フィルムの触媒層側端面の凹凸状が滑らかな波形を呈したものであるが、この凹凸状は矩形が連続するパルス状のものなど、図示例以外の形態であってもよいことは勿論のことである。
【0024】
図1は、燃料電池セルを形成する電極体の一実施の形態を示したものであり、図2は、図1のII−II矢視図である。この電極体10は、電解質膜1と、カソード側およびアノード側の触媒層2,3と、から膜電極接合体4が形成され、これをカソード側およびアノード側のガス拡散層5,6(ガス透過層)が挟持して形成されている。
【0025】
ここで、触媒層2,3は電解質膜1に比してそれらの面積が狭小であり、したがって、電解質膜1の両側の触媒層2,3の周縁には該触媒層2,3が存在しない露出領域が形成される。
【0026】
この露出領域には、カソード側およびアノード側の保護フィルム7A,7Bが配されており、ガス拡散層5,6から突出する毛羽が電解質膜1に突き刺さるのを防護している。
【0027】
ここで、膜電極接合体4を構成する電解質膜1は、たとえば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成される。
【0028】
また、触媒層2,3は、触媒が担持された導電性担体(粒子状のカーボン担体など)と、電解質と、分散溶媒(有機溶媒)と、を混合して触媒溶液(触媒インク)を生成し、これを電解質膜1やガス拡散層5,6等の基材に塗工ブレードにて層状に引き伸ばして塗膜を形成し、温風乾燥炉等で乾燥することで触媒層が形成される。ここで、触媒溶液を形成する電解質は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質などを挙げることができる。なお、市販素材としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標、デュポン社製)やフレミオン(Flemion)(登録商標、旭硝子株式会社製)などを挙げることができる。また、分散溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、芳香族系あるいはハロゲン系の種々の溶媒を挙げることができ、さらには、これらを単独で、もしくは混合液として使用することができる。さらに、触媒が担持された導電性担体に関し、この導電性担体としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができ、この触媒(金属触媒)としては、たとえば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどのうちのいずれか一種を使用することができ、好ましくは白金または白金合金を使用するのがよい。さらに、この白金合金としては、たとえば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタンおよび鉛のうちの少なくとも一種との合金を挙げることができる。
【0029】
また、ガス拡散層5,6は、拡散層基材51,61と集電層52,62(MPL)からなるものであり、拡散層基材51,61としては、電気抵抗が低く、集電を行えるものであれば特に限定されるものではないが、たとえば、導電性無機物質を主とするものを挙げることができ、この導電性無機物質としては、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛等の炭素材やこれらのナノカーボン材料、ステンレススチール、モリブデン、チタン等を挙げることができる。また、拡散層基材51,61の導電性無機物質の形態は特に限定されるものではなく、たとえば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、ガス透過性の点から無機導電性繊維であって、特に炭素繊維が好ましい。無機導電性繊維を用いた拡散層基材51,61としては、織布あるいは不織布いずれの構造のものも使用することができ、カーボンペーパーやカーボンクロスなどを挙げることができる。織布としては、平織、紋織、綴織など、特に限定されるものではなく、不織布としては、抄紙法、ニードルパンチ法、ウォータージェットパンチ法によるものなどが挙げられる。さらに、この炭素繊維としては、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などを挙げることができる。さらに、集電層52,62はアノード側、カソード側の触媒層3,2から電子を集める電極の役割を果たすものであり、導電性材料である、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、金、銀、銅及びこれらの化合物または合金、導電性炭素材料などから形成できる。
【0030】
さらに、保護フィルム7A,7Bは、ポリテトラフルオロエチレン、PVDF(二フッ化ポリビニル)、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、コポリアミド、ポリアミドエラストマ、ポリイミド、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマ、シリコーン、シリコンゴム、シリコンベースのエラストマなどから形成されるものである。
【0031】
図1,2で示すように、カソード側およびアノード側の保護フィルム7A,7Bは、ともにそれらの触媒層側端面が滑らかな曲率を備えた凹凸状を呈しており、より具体的には、触媒層側に凸な領域Y1,Y2と、触媒層側に凹な領域T1,T2が交互に滑らかな波形を呈して連続したものである。
【0032】
そして、保護フィルム7A,7Bの凸な領域Y1,Y2は触媒層2,3上にラップ(積層)しており、凹な領域T1,T2は触媒層2,3上にラップせずにその端面に当接している。
【0033】
さらに、図2から明らかなように、保護フィルム7A,7Bそれぞれの凸な領域Y1,Y2は平面的に交互にずらされており、保護フィルム7Aの凸な領域Y1と保護フィルム7Bの凹な領域T2が対応している。
【0034】
上記する形態により、保護フィルム7A,7Bの端面が同一ライン上に位置することはなく(平面的に見た場合の双方の交点は除く)、したがって、スタッキング時に保護フィルム7A,7Bの端面から膜電極接合体4に作用する圧縮力は、相互にずれた位置で該膜電極接合体4に作用することとなる。したがって、従来構造のごとく、カソード側とアノード側双方の保護フィルムの端面が同一ラインにある場合に、双方から膜電極接合体に作用する圧縮力によって電解質膜等が圧縮され、亀裂が生じ易くなるといった課題は効果的に解消される。さらに、それぞれの保護フィルム7A,7Bの端面が滑らかな波形を呈していることによっても、過度の圧縮力が膜電極接合体に作用することが抑止されるものである。
【0035】
図3は、燃料電池セルを形成する電極体の他の実施の形態を示したものであり、図4は、図3のIV−IV矢視図である。
【0036】
図1で示す電極体10と図3,4で示す電極体10Aの構成上の相違点は、電極体10Aにおいては、カソード側およびアノード側双方の保護フィルム8A,8Bのいずれの端面も触媒層2,3にラップしていない点である。
【0037】
したがって、カソード側およびアノード側の保護フィルム8A,8Bの端面が、触媒層側に凸な領域Y3,Y4と、触媒層側に凹な領域T3,T4が交互に滑らかな波形を呈して連続したものであること、および、保護フィルム8A,8Bそれぞれの凸な領域Y3,Y4が平面的に交互にずらされていること、は電極体10と同様である。
【0038】
この電極体10Aでは、保護フィルム8A,8Bがいずれも触媒層2,3とラップしないことから、ラップした領域から過度の圧縮力が膜電極接合体に作用するという課題が生じ得ない。
【0039】
実際の燃料電池は、図示する電極体10,10Aの両側にさらにガス流路溝を備えたセパレータが配され、もしくはガス流路層となる多孔体と3層構造のセパレータが配されて燃料電池セルをなし、所望する発電量に応じて該燃料電池セルが所定段積層されて燃料電池スタックが形成される。さらに、この燃料電池スタックは、最外側にエンドプレート、テンションプレート等を備え、両端のテンションプレート間に圧縮力が加えられて燃料電池が形成される。電気自動車等に車載される燃料電池システムは、この燃料電池と、水素ガスや空気を収容する各種タンク、これらのガスを燃料電池に提供するためのブロア、燃料電池を冷却するためのラジエータ、燃料電池で生成された電力を蓄電するバッテリ、この電力で駆動する駆動モータ等から大略構成されるものである。
【0040】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の燃料電池の電極体の一実施の形態を示した縦断面図である。
【図2】図1のII−II矢視図である。
【図3】本発明の燃料電池の電極体の他の実施の形態を示した縦断面図である。
【図4】図3のIV−IV矢視図である。
【図5】従来の燃料電池の電極体を示した縦断面図であり、スタッキング時の圧縮力が作用している状況を説明した図である。
【符号の説明】
【0042】
1…電解質膜、2…カソード側の触媒層、3…アノード側の触媒層、4…膜電極接合体、5…カソード側のガス拡散層(ガス透過層)、51…拡散層基材、52…集電層、6…アノード側のガス拡散層(ガス透過層)、61…拡散層基材、62…集電層、7A,8A…カソード側の保護フィルム、7B,8B…アノード側の保護フィルム、10,10A…電極体、Y1,Y2,Y3,Y4…凸の領域、T1,T2,T3,T4…凹の領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、これよりも狭小な平面積で該電解質膜に当接するカソード側およびアノード側の触媒層と、から膜電極接合体が形成され、該膜電極接合体の両側にガス透過層が配されて燃料電池セルを成し、該燃料電池セルが積層されてなる燃料電池であって、
少なくとも、前記電解質膜が触媒層で被覆されていない周縁の露出領域とガス透過層の間には、保護フィルムが介在しており、
前記保護フィルムの触媒層に対向する端面が滑らかな曲率を備えた凹凸状をなしている、燃料電池。
【請求項2】
前記保護フィルムのうち、触媒層側に凸の領域が触媒層上に積層している、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記保護フィルムのうち、触媒層側に凸の領域は触媒層の端面に当接している、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項4】
カソード側およびアノード側のそれぞれの保護フィルムにおいて、双方の前記凸の領域が相互にずらされている、請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項5】
前記凹凸状が滑らかな波形である、請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項6】
前記ガス透過層は、ガス拡散層、金属多孔体からなるガス流路層、該ガス拡散層と該ガス流路層の組み合わせ、のいずれかの形態からなり、
アノード側とカソード側双方のガス透過層が、複数の前記形態中の同一の形態、もしくは異なる形態のいずれかからなる、請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−140716(P2010−140716A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314544(P2008−314544)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】