説明

燃料電池

【課題】本発明の目的は、電解質膜の乾燥を抑制し、安定した燃料電池の発電性能を維持する燃料電池を提供することにある。
【解決手段】本発明の燃料電池は、電解質膜の両側にアノード極及びカソード極を備え、前記アノード極及び前記カソード極は、触媒層と拡散層を備えるとともに、前記拡散層は、基材と、前記基材と触媒層との間に設けられる撥水層とを備え、前記カソード極の撥水層の水蒸気拡散係数ε(ε:多孔度、n:屈曲度)が0.01以上であり、前記アノード極の撥水層の水蒸気拡散係数εは、前記カソード極の撥水層の水蒸気拡散係数以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水層を備える燃料電池の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に燃料電池は、電解質膜の両側にアノード極及びカソード極を備え、前記アノード極及び前記カソード極は、触媒層と拡散層とを備えるとともに、前記拡散層は、基材と、前記基材と触媒層との間に撥水層とを備える。
【0003】
燃料電池の発電時における電解質膜のプロトン伝導度は、含有する水分量に影響を受ける。そして、燃料電池の発電時には、水が生成されるため、電解質膜は多少加湿されるものの、その多くはカード極側から燃料電池系外へ排出されてしまう。例えば、無加湿状態でかつ高温(例えば、75度以上)の環境下では、電解質膜が乾燥し易く、プロトン伝導度が低下してしまう。その結果、燃料電池の電圧が低下し、発電性能を維持することが困難となる。
【0004】
【特許文献1】国際公開第02/015303号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、電解質膜の乾燥を抑制し、安定した燃料電池の発電性能を維持する燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の燃料電池は、電解質膜の両側に設けられるアノード極及びカソード極を備え、前記アノード極及び前記カソード極は、触媒層と拡散層を備えるとともに、前記拡散層は、基材と、前記基材と触媒層との間に設けられる撥水層とを備え、前記カソード極の撥水層の水蒸気拡散係数ε(ε:多孔度、n:屈曲度)が0.01以上であり、前記アノード極の撥水層の水蒸気拡散係数εは、前記カソード極の撥水層の水蒸気拡散係数以下である。
【0007】
また、前記燃料電池において、前記カソード極及び前記アノード極の撥水層の水蒸気拡散係数εにおいて、多孔度εは0.3〜0.6の範囲であり、屈曲度nは3〜6の範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電解質膜の乾燥を抑制し、安定した燃料電池の発電性能を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施の形態について以下説明する。
【0010】
本発明の実施形態に係る燃料電池は、電解質膜と、電解質膜の両側に設けられるカソード極及びアノード極と、カソード極及びアノード極の外側に設けられるセパレータとを備えている。カソード極及びアノード極はそれぞれ、触媒層及び拡散層を備え、拡散層は、基材と、基材と触媒層との間に設けられる撥水層とを備えている。
【0011】
本実施形態において、カソード極及びアノード極の撥水層は、撥水性並びに良好な導電性及び通気性を有し、かつ、燃料電池内の環境に耐え得る物質により形成されることが好ましい。かかる物質の具体例としては、特に制限されるものではないが、撥水性樹脂と導電性物質との混合物等が挙げられる。撥水性樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素系樹脂等が挙げられる。導電性物質としては、例えば、気相法炭素繊維(VGCF)、カーボンブラック、グラファイト等が挙げられる。
【0012】
本実施形態のカソード極の撥水層の水蒸気拡散係数εは0.01以上であり、アノード極の撥水層の水蒸気拡散係数εは、カソード極の撥水層の水蒸気拡散係数以下である。ここで、εは撥水層の多孔度であり、nは屈曲度である。カソード極及びアノード極の撥水層の水蒸気拡散係数は上記条件を満たすものであれば特に制限されるものではないが、カソード極及びアノード極の水蒸気拡散係数において、多孔度εは0.3〜0.6の範囲であり、屈曲度は3〜6の範囲であることが好ましい。
【0013】
燃料電池の発電時には、カソード極側で水が生成されるため、カソード極側の電解質膜は多少加湿されるものの、無加湿状態でかつ高温の環境下では、アノード極側の電解質膜は乾燥し易い。しかし、本実施形態のように、カソード極の撥水層の水蒸気拡散係数εを0.01以上とし、アノード極の撥水層の水蒸気拡散係数εをカソード極の撥水層の水蒸気拡散係数以下(好ましくは0.01近傍)にすること、すなわち、カソード極の拡散層を緻密にすることにより、カソード極側で生成した水が電解質膜を介してアノード極側に移動し易くなり、電解質膜の乾燥を抑制することができる。その結果、上記環境下でも、燃料電池の電圧低下を抑制し、安定した発電性能を維持することが可能となる。例えば、カソード極の撥水層の水蒸気拡散係数εを0.01より低くすると、上記環境下で、燃料電池の電圧低下が起こり易くなる。
【0014】
特に、カソード極及びアノード極の水蒸気拡散係数において、多孔度εを0.3〜0.6の範囲とし、屈曲度を3〜6の範囲とすることにより、燃料電池の運転温度が高くても、燃料電池の電圧低下を抑制し、安定した発電性能を維持することができる。
【0015】
本実施形態における屈曲度は、撥水層の厚さを変えることにより制御することが可能である(屈曲度は撥水層の厚さに比例)。例えば、撥水層の目付を7〜18g/cmとし、撥水層の厚さを30,50,150,190μmと厚くすると、屈曲度は1,1.5,4.5,5.5と増加する。また、本実施形態における多孔度は、拡散層のプレス圧を変えることにより制御することが可能である。例えば、4g/cmの撥水層を備える拡散層のプレス圧を5,7,14MPaと増加すると、多孔度は0.65,0.6,0.3と減少する。
【0016】
本実施形態において、基材は、良好な導電性及び通気性を有し、かつ、燃料電池内の環境に耐え得る物質により形成することができる。かかる物質の具体例は、特に制限されるものではないが、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス等が挙げられる。
【0017】
本実施形態において、電解質膜は、プロトンを電導するポリマーであれば特に制限されるものではないが、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンの重合体等が挙げられる。
【0018】
触媒層は、プロトン伝導性ポリマーと、触媒材料と、導電性物質等から構成される。触媒材料は、アノード極、カソード極において水素の酸化反応及び酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限されるものではないが、例えば、白金、ルテニウム等の金属又は合金等が挙げられる。導電性物質は、燃料電池内の環境に耐え得る電子伝導性物質であれば特に制限されるものではないが、例えば、カーボンブラック、活性炭、黒鉛等が挙げられる。プロトン伝導性ポリマーは、電解質に含まれるプロトン電導性ポリマーと同様のものを使用することができる。
【0019】
セパレータは、通常の燃料電池において好適に使用され得る物質により形成されていれば特に制限されるものではなく、例えば、チタン合金、ステンレス鋼等に代表される金属、カーボン、導電性樹脂等が挙げられる。なお、セパレータには、燃料電池の発電の際に供給される反応ガスが通過する流路が形成されていることが好ましいが、これに制限されるものではなく、通常の燃料電池に適用可能な形態であればよい。
【0020】
本実施形態の燃料電池は、例えば、携帯電話、携帯用パソコン等のモバイル機器用小型電源、自動車用電源、家庭用電源等として使用することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1では、屈曲度が4、多孔度が0.8の撥水層(カソード極側)を準備して、燃料電池を作製した。実施例2は、屈曲度が1.5で多孔度が0.6の撥水層(カソード極側)を準備して、燃料電池を作製した。実施例3は、屈曲度が4、多孔度が0.6の撥水層(カソード極側)を準備して、燃料電池を作製した。実施例1〜3では、電解質膜にフッ素系の電解質膜を用い、アノード極触媒層の触媒量を0.2mgPt/cm、カソード極触媒層の触媒量を0.5mgPt/cmとした。そして、実施例1〜3の燃料電池を以下の条件で発電させたときのセル電圧を測定した。
【0023】
<発電条件>
セル温度:可変
露点A/C:45℃/0℃
電流密度:1.2A/cm
背圧:40kPa−G
/Airストイキ:1.2/1.5
【0024】
比較例では、屈曲度が1.5、多孔度が0.8の撥水層(カソード極側)を準備して、燃料電池を作製した。その他の条件は、実施例と同様とした。
【0025】
図1は、実施例1と比較例における屈曲度とセル電圧との関係を示す図である。図2は、実施例2と比較例における多孔度とセル電圧との関係を示す図である。図3は、実施例3と比較例におけるセル温度とセル電圧との関係を示す図である。図1及び図2から判るように、カソード極側の撥水層の屈曲度、多孔度を実施例1,2の値に変更することで、無加湿、高温状態でも、高いセル電圧を維持させることができた。すなわち、高温状態でも燃料電池が安定して発電させることができたと云える。また、図3から判るように、比較例1では、セル温度が76℃を超えると、燃料電池の発電が不能になったが、実施例3では、セル温度が76℃を超えても、安定した発電が行われた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1と比較例における屈曲度とセル電圧との関係を示す図である。
【図2】実施例2と比較例における多孔度とセル電圧との関係を示す図である。
【図3】実施例3と比較例におけるセル温度とセル電圧との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両側にアノード極及びカソード極を備え、前記アノード極及び前記カソード極は、触媒層と拡散層とを備えるとともに、前記拡散層は、基材と、前記基材と触媒層との間に設けられる撥水層とを備え、
前記カソード極の撥水層の水蒸気拡散係数ε(ε:多孔度、n:屈曲度)は0.01以上であり、
前記アノード極の撥水層の水蒸気拡散係数εは、前記カソード極の撥水層の水蒸気拡散係数以下であることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池であって、前記カソード極及び前記アノード極の撥水層の水蒸気拡散係数εにおいて、多孔度εは0.3〜0.6の範囲であり、屈曲度nは3〜6の範囲であることを特徴とする燃料電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−146756(P2010−146756A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319892(P2008−319892)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】