説明

燃料電池

【課題】安定して高出力を得ることが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【解決手段】 アノード触媒層11及びアノード触媒層11の上に配置されたアノードガス拡散層12を有するアノード13と、カソード触媒層14及びカソード触媒層14に積層されたカソードガス拡散層15を有するカソード16と、アノード触媒層11とカソード触媒層14との間に挟持された電解質膜17と、を有する膜電極接合体2と、膜電極接合体2のアノード13に燃料を供給する燃料供給機構3と、を備え、アノードガス拡散層12の燃料供給機構3と対向する燃料供給面12Aの表面粗さは、アノードガス拡散層12のアノード触媒層11と対向する面12Bの表面粗さより大きいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液体燃料を用いた燃料電池の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンや携帯電話等の各種携帯用電子機器を長時間充電なしで使用可能とするために、これら携帯用電子機器の電源に燃料電池を用いる試みがなされている。燃料電池は燃料と空気を供給するだけで発電することができ、燃料を補給すれば連続して長時間発電することが可能であるという特徴を有している。このため、燃料電池を小型化できれば、携帯用電子機器の電源として極めて有利なシステムといえる。
【0003】
例えば、メタノールを燃料として用いた直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell:DMFC)は小型化が可能であり、さらに燃料の取り扱いも容易であるため、携帯用電子機器の電源として有望視されている。
【0004】
DMFCは、アノードとカソードとの間に電解質膜を挟持させた構造の膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)を備えている。アノードに燃料としてのメタノールを供給すると、メタノールが酸化分解され、二酸化炭素、プロトン及び電子が生成される。一方、カソードに空気を導入すると、空気中の酸素とアノード側から移動してきたプロトンとアノードから外部回路を通じて供給される電子とが反応して水を生成するとともに、外部回路を通る電子によって電力が供給される。
【0005】
このような構成で発電を促進するために、メタノールを供給するポンプや空気を送り込むブロワを補器として備えたシステムとして複雑な形態を成したDMFCが開発されてきたが、小型化を図ることはきわめて難しい。
【0006】
そこで、ブロワを用いず、発電素子に直接取り付けた吸気口を設置する構造による小型のDMFCが開示されている(例えば、特許文献1)。また、メタノールの供給量を制御するために、燃料収容室部分と負極の間に多孔体を設置し、メタノール供給量を絞る技術が開示されている(例えば、特許文献2)。
【0007】
また、空孔をもつカーボン基体に触媒を染み込ませることによって触媒層を形成する方法が開示されており、且つ、電解質膜に直接触媒を形成する方法が開示されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、触媒としては、一般的に白金(Pt)などの高価な貴金属が用いられることが多い。このため、触媒量を抑制し、高効率で高出力を生む方法が必要とされる。
【0008】
そこで、アノード触媒層とアノードガス拡散層との間にカーボン粒子と固体高分子電解質よりなる吸水層を設けた技術が開示されている(例えば、特許文献4)。
【特許文献1】特開2007−157462号公報
【特許文献2】特開2004−171844号公報
【特許文献3】米国特許公報US6,221,523B1
【特許文献4】特開2006−85984号公報、
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献4のような構成においては、カーボン粒子と固体分子電解質の量のバランスに注意をして作成する必要がある。また、作動中の燃料電池において、メタノールの濃度変化に対しても最適なバランスがくずれてしまうことがある。そのため、出力にばらつきが生じやすく、十分に触媒量を抑制することが困難である。
【0010】
この発明は、上述した問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、安定して高出力を得ることが可能な燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の第1態様による燃料電池は、
アノード触媒層及び前記アノード触媒層の上に配置されたアノードガス拡散層を有するアノードと、カソード触媒層及び前記カソード触媒層に積層されたカソードガス拡散層を有するカソードと、前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に挟持された電解質膜と、を有する膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の前記アノードに燃料を供給する燃料供給機構と、を備え、
前記アノードガス拡散層の前記燃料供給機構と対向する燃料供給面の表面粗さは、前記アノードガス拡散層の前記アノード触媒層と対向する面の表面粗さより大きいことを特徴とする。
【0012】
この発明の第2態様による燃料電池は、
アノード触媒層及び前記アノード触媒層の上に配置されたアノードガス拡散層を有するアノードと、カソード触媒層及び前記カソード触媒層に積層されたカソードガス拡散層を有するカソードと、前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に挟持された電解質膜と、を有する膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の前記アノードに燃料を供給する燃料供給機構と、
前記燃料供給機構との間で前記膜電極接合体を保持するカバープレートと、を備え、
前記カソードガス拡散層の前記カバープレートと対向する空気供給面の表面粗さは、前記カソードガス拡散層の前記カソード触媒層と対向する面の表面粗さより大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、安定して高出力を得ることが可能な燃料電池を提供することができる。
【0014】
すなわち、この発明の第1態様によれば、アノードガス拡散層は、その燃料供給機構と対向する燃料供給面の表面粗さがアノード触媒層と対向する面の表面粗さより大きく形成されている。これにより、燃料供給面の表面積を拡大することができ、燃料供給機構から供給された燃料の引き込み速度を速くすることが可能となる。したがって、補器を必要とすることなく、効率よくアノード触媒層に燃料を供給することができ、触媒量を抑制しても、安定して高出力を得ることが可能となる。
【0015】
また、この発明の第2態様によれば、カソードガス拡散層は、そのカバープレートと対向する空気供給面の表面粗さがカソード触媒層と対向する面の表面粗さより大きく形成されている。これにより、空気供給面の表面積を拡大することができ、カバープレート側からの空気(あるいは酸素)の取り込み及び発電反応によって生成した二酸化炭素の放出を促進することが可能となる。したがって、補器を必要とすることなく、発電反応に必要な酸素を効率よくカソード触媒層に供給することができ、触媒量を抑制しても、安定して高出力を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の一実施の形態に係る燃料電池に関する技術について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、この実施の形態に係る燃料電池1の構造を概略的に示す断面図である。
【0018】
燃料電池1は、起電部を構成する膜電極接合体(MEA)2と、膜電極接合体2に燃料を供給する燃料供給機構3と、から主として構成されている。
【0019】
すなわち、燃料電池1において、膜電極接合体2は、アノード触媒層11及びアノード触媒層11の上に配置されたアノードガス拡散層12を有するアノード(燃料極)13と、カソード触媒層14及びカソード触媒層14に積層されたカソードガス拡散層15を有するカソード(空気極/酸化剤極)16と、アノード触媒層11とカソード触媒層14とで挟持されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜17とを備えて構成されている。
【0020】
アノード触媒層11やカソード触媒層14に含有される触媒としては、例えば白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、パラジウム(Pd)等の白金族元素の単体、白金族元素を含有する合金等が挙げられる。アノード触媒層11には、メタノールや一酸化炭素等に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Mo等を用いることが好ましい。カソード触媒層14には、PtやPt−Ni等を用いることが好ましい。ただし、触媒は、これらに限定されるものではなく、触媒活性を有する各種の物質を使用することができる。また、触媒は、炭素材料のような導電性担持体を使用した担持触媒、あるいは無担持触媒のいずれであってもよい。
【0021】
アノード触媒層11及びカソード触媒層14は、例えば、スルホン酸基を有する、例えば、パーフルオロスルホン酸重合体等のフッ素系樹脂(ナフィオン(商品名、デュポン社製)、フレミオン(商品名、旭硝子社製)等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂、タングステン酸やリンタングステン酸、硝酸リチウムなどの無機物等のプロトン導電剤を含んでいても良い。
【0022】
電解質膜17を構成するプロトン伝導性材料としては、例えばスルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸重合体のようなフッ素系樹脂(ナフィオン(商品名、デュポン社製)やフレミオン(商品名、旭硝子社製)等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂等の有機系材料、あるいはタングステン酸やリンタングステン酸等の無機系材料が挙げられる。ただし、プロトン伝導性の電解質膜17は、これらに限られるものではない。
【0023】
アノード触媒層11に積層されるアノードガス拡散層12は、アノード触媒層11に燃料を均一に供給する役割を果たすと同時に、アノード触媒層11の集電機能を有するものである。カソード触媒層14に積層されるカソードガス拡散層15は、カソード触媒層14に酸化剤(空気あるいは酸素)を均一に供給する役割を果たすと同時に、カソード触媒層14の集電機能を有するものである。アノードガス拡散層12及びカソードガス拡散層15は、例えばカーボンペーパーなどの導電性を有する多孔質基材によって構成されている。
【0024】
膜電極接合体2は、電解質膜17のアノード13側及びカソード16側にそれぞれ配置されたゴム製のOリング等のシール部材19によってシールされており、これにより、膜電極接合体2からの燃料漏れや酸化剤漏れが防止されている。
【0025】
膜電極接合体2のカソード16側には、絶縁材料によって形成された板状体20が配置されている。この板状体20は、主に保湿層として機能する。すなわち、この板状体20は、カソード触媒層14で生成された水の一部が含浸されて水の蒸散を抑制するとともに、カソード触媒層14への空気の取入れ量を調整し且つ空気の均一拡散を促進するものである。この板状体20は、例えば多孔質構造の部材で構成され、具体的な構成材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンの多孔質体などが挙げられる。
【0026】
上述した膜電極接合体2は、燃料供給機構3とカバープレート21との間に配置されている。カバープレート21は、外観が略矩形状のものであり、例えばステンレス鋼(SUS)によって形成されている。また、カバープレート21は、酸化剤である空気を取入れるための複数の開口部(空気導入孔)21Aを有している。
【0027】
燃料供給機構3は、膜電極接合体2のアノード13に対して燃料を供給するように構成されているが、特に、特定の構成に限定されるものではない。以下に、燃料供給機構3の一例について説明する。
【0028】
燃料供給機構3は、例えば、箱状に形成された容器30を備えている。この燃料供給機構3は、液体燃料を収容する燃料収容部4と流路5を介して接続されている。容器30は、燃料導入口30Aを有しており、この燃料導入口30Aと流路5とが接続されている。この容器30は、例えば樹脂製容器によって構成される。容器30を形成する材料としては、液体燃料に対する耐性を有している材料が選択される。
【0029】
燃料供給機構3は、膜電極接合体2のアノード13の面方向に燃料を分散並びに拡散させつつ供給する燃料供給部31を備えている。ここでは、特に、燃料供給部31が燃料分配板31Aを備えた構成について説明するが、燃料供給部31は他の構成であっても良い。
【0030】
すなわち、燃料分配板31Aは、1つの燃料注入口32と、複数の燃料排出口33とを有しており、細管34のような燃料通路を介して燃料注入口32と燃料排出口33とを接続した構成である。燃料通路は、燃料分配板31A内に形成した細管34に代えて燃料流通溝等で構成してもよい。この場合、燃料流通溝を有する流路板を複数の燃料排出口を有する拡散板で覆うことによって、燃料分配板31Aを構成することも可能である。複数の燃料排出口33には、例えば液体燃料の気化成分のみを透過し、液体成分は透過しない気液分離膜を配置してもよい。
【0031】
細管34の一端(始端部)には、燃料注入口32が設けられている。細管34は、途中で複数に分岐しており、これらの分岐した細管34の各終端部に燃料排出口33がそれぞれ設けられている。燃料注入口32は、容器30の燃料導入口30Aと連通している。これにより、燃料分配板31Aの燃料注入口32が流路5を介して燃料収容部4に接続される。燃料排出口33は、例えば128箇所にあり、液体燃料もしくはその気化成分を排出する。
【0032】
燃料注入口32から注入された液体燃料は、複数に分岐した細管34を介して複数の燃料排出口33にそれぞれ導かれる。このような燃料分配板31Aを使用することによって、燃料注入口32から注入された液体燃料を方向や位置に係わりなく、複数の燃料排出口33に均等に分配することができる。従って、膜電極接合体2の面内における発電反応の均一性をより一層高めることが可能となる。
【0033】
さらに、細管34で燃料注入口32と複数の燃料排出口33とを接続することによって、燃料電池1の特定箇所により多くの燃料を供給するような設計も可能となる。これは、膜電極接合体2の発電度合いの均一性の向上等に寄与する。
【0034】
膜電極接合体2は、そのアノード13が上述したような燃料分配板31Aの燃料排出口33に対向するように配置されている。カバープレート21は、燃料供給機構3との間に膜電極接合体2を保持した状態で容器30に対してカシメあるいはネジ止めなどの手法により固定されている。これにより、燃料電池(DMFC)1の発電ユニットが構成されている。
【0035】
燃料供給部31は、燃料分配板31Aと膜電極接合体2との間に燃料拡散室31Bとして機能する空間を形成するような構成であることが望ましい。この燃料拡散室31Bは、燃料排出口33から液体燃料が排出されたとしても気化を促進するとともに、面方向への拡散を促進する機能を有している。
【0036】
膜電極接合体2と燃料供給部31との間には、膜電極接合体2をアノード13側から支持する支持部材を配置しても良い。
【0037】
また、膜電極接合体2と燃料供給部31との間には、少なくとも1つの多孔体を配置しても良い。
【0038】
燃料収容部4には、膜電極接合体2に応じた液体燃料が収容されている。液体燃料としては、各種濃度のメタノール水溶液や純メタノール等のメタノール燃料が挙げられる。なお、液体燃料は、必ずしもメタノール燃料に限られるものではない。液体燃料は、例えば、エタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料収容部4には、膜電極接合体2に応じた液体燃料が収容される。
【0039】
さらに、流路5には、ポンプ6が介在していても良い。ポンプ6は、燃料を循環させる循環ポンプではなく、あくまでも燃料収容部4から燃料供給部31に液体燃料を送液する燃料供給ポンプである。燃料供給部31から膜電極接合体2に供給された燃料は、発電反応に使用され、その後に循環して燃料収容部4に戻されることはない。
【0040】
この実施の形態の燃料電池1は、燃料を循環しないことから、従来のアクティブ方式とは異なるものであり、装置の小型化等を損なうものではない。また、液体燃料の供給にポンプ6を使用しており、従来の内部気化型のような純パッシブ方式とも異なる。図1に示す燃料電池1は、例えばセミパッシブ型と呼称される方式を適用したものである。
【0041】
ポンプ6の種類は、特に限定されるものではないが、少量の液体燃料を制御性よく送液することができ、さらに小型軽量化が可能という観点から、ロータリーベーンポンプ、電気浸透流ポンプ、ダイアフラムポンプ、しごきポンプ等を使用することが好ましい。
【0042】
ロータリーベーンポンプは、モータで羽を回転させて送液するものである。電気浸透流ポンプは、電気浸透流現象を起こすシリカ等の焼結多孔体を用いたものである。ダイアフラムポンプは、電磁石や圧電セラミックスによりダイアフラムを駆動して送液するものである。しごきポンプは、柔軟性を有する燃料流路の一部を圧迫し、燃料をしごき送るものである。これらのうち、駆動電力や大きさ等の観点から、電気浸透流ポンプや圧電セラミックスを有するダイアフラムポンプを使用することがより好ましい。
【0043】
なお、ポンプ6と燃料供給部31との間にリザーバを設けてもよい。
【0044】
また、燃料電池1の安定性や信頼性を高めるために、ポンプ6と直列に燃料遮断バルブを配置してもよい。燃料遮断バルブには、電磁石、モータ、形状記憶合金、圧電セラミックス、バイメタル等をアクチュエータとして、開閉動作を電気信号で制御することが可能な電気駆動バルブが適用される。燃料遮断バルブは、状態保持機能を有するラッチタイプのバルブであることが好ましい。
【0045】
また、燃料収容部4や流路5には、燃料収容部4内の圧力を外気とバランスさせるバランスバルブを装着してもよい。燃料収容部4から燃料供給機構3で膜電極接合体2に燃料を供給する場合、ポンプ6に代えて燃料遮断バルブのみを配置した構成とすることも可能である。この際の燃料遮断バルブは、流路5による液体燃料の供給を制御するために設けられるものである。
【0046】
この実施の形態の燃料電池1においては、ポンプ6を用いて燃料収容部4から燃料供給部31に液体燃料が間欠的に送液される。ポンプ6で送液された液体燃料は、燃料供給部31を経て膜電極接合体2のアノード13の全面に対して均一に供給される。
【0047】
すなわち、複数の単セルCの各アノード13の平面方向に対して均一に燃料が供給され、これにより発電反応が生起される。燃料供給用(送液用)のポンプ6の運転動作は、燃料電池1の出力、温度情報、電力供給先である電子機器の運転情報等に基づいて制御することが好ましい。
【0048】
上述したように、燃料供給部31から放出された燃料は、膜電極接合体2のアノード13に供給される。膜電極接合体2内において、燃料は、アノードガス拡散層12を拡散してアノード触媒層11に供給される。液体燃料としてメタノール燃料を用いた場合、アノード触媒層11で下記の(1)式に示すメタノールの内部改質反応が生じる。なお、メタノール燃料として純メタノールを使用した場合には、カソード触媒層14で生成した水や電解質膜17中の水をメタノールと反応させて(1)式の内部改質反応を生起させる。あるいは、水を必要としない他の反応機構により内部改質反応を生じさせる。
【0049】
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- …(1)
この反応で生成した電子(e-)は、集電体を経由して外部に導かれ、いわゆる電気として携帯用電子機器等を動作させた後、集電体を経由してカソード16に導かれる。(1)式の内部改質反応で生成したプロトン(H+)は、電解質膜17を経てカソード16に導かれる。カソード16には、酸化剤として空気が供給される。カソード16に到達した電子(e-)とプロトン(H+)は、カソード触媒層14で空気中の酸素と下記の(2)式にしたがって反応し、この反応に伴って水が生成する。
【0050】
6e-+6H++(3/2)O2 → 3H2O …(2)
上述した燃料電池1の発電反応において、発電する電力を増大させるためには触媒反応を円滑に行わせるとともに、膜電極接合体2の電極全体に均一に燃料を供給し、電極全体をより有効に発電に寄与させることが重要となる。
【0051】
ところで、この実施の形態においては、図2及び図3に示すように、膜電極接合体2は、単一の電解質膜17の一方の面において間隔をおいて配置された複数のアノード13と、電解質膜17の他方の面においてアノード13のそれぞれと対向するように間隔をおいて配置された複数のカソード16と、を備えている。ここでは、アノード13及びカソード16がそれぞれ4個である場合を示している。
【0052】
これらのアノード13とカソード16との各組み合わせは、それぞれ電解質膜17を挟持し、単セルCをなしている。ここでは、単セルCのそれぞれは、同一平面上において、その長手方向と直交する方向に間隔をおいて並んで配置されている。なお、膜電極接合体2の構造は、この例に限らず他の構造であっても良い。
【0053】
図2及び図3に示したような複数の単セルCを有する膜電極接合体2においては、各単セルCは、集電体18によって電気的に直列に接続されている。
【0054】
すなわち、この集電体18は、図1に示したように、アノード集電体18A及びカソード集電体18Cを有している。図2などに示した膜電極接合体2に対応するために、集電体18は、それぞれ4個のアノード集電体18A及びカソード集電体18Cを有している。
【0055】
アノード集電体18Aのそれぞれは、各単セルCにおいてアノードガス拡散層12に積層されている。また、カソード集電体18Cのそれぞれは、各単セルCにおいてカソードガス拡散層15に積層されている。アノード集電体18A及びカソード集電体18Cとしては、例えば金(Au)、ニッケル(Ni)などの金属材料からなる多孔質膜(例えばメッシュ)または箔体、あるいはステンレス鋼(SUS)などの導電性金属材料に金などの良導電性金属を被覆した複合材などをそれぞれ使用することができる。
【0056】
≪第1実施形態≫
第1実施形態に係る燃料電池1において、図4に示すように、アノードガス拡散層12の燃料供給機構3と対向する燃料供給面12Aの表面粗さは、アノードガス拡散層12のアノード触媒層11に対向する面12Bの表面粗さより大きく形成されている。ここでは、燃料供給面12Aは、アノード集電体18Aと接触するように配置されている。なお、図4では、主要部のみを図示している。
【0057】
ここでの表面粗さとは、表面の凹凸の程度を表し、JIS B 0601−2001によって定義されている。この表面粗さには、対象物の表面からランダムに抜き取った各部分における算術平均粗さRa及び最大高さRzがある。算術平均粗さRaは、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取った部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値である。最大高さRzは、断面曲線から基準長さを抜き取った部分の最大高さである。この基準長さは、傷とみなされるような並みはずれて高い山や深い谷のない部分から、基準長さだけを抜き取って求めた値である。
【0058】
この第1実施形態において、燃料供給面12Aの表面粗さは、算術平均粗さRa>15um、かつ、最大高さRz>200umである。
【0059】
すなわち、この実施の形態においては、アノードガス拡散層12の一方の表面が積極的に粗くなるように加工を施している。加工の手法としては、例えば、紙やすりを用いて粗くしたり、エンボス加工を施したりする手法が適用可能である。粗くする加工を何ら施さなかったアノードガス拡散層12の表面の表面粗さは、概ね平坦であり、算術平均粗さRaで10〜15umであり、また、最大高さRzで130〜160umであった。
【0060】
アノード側において、アノードガス拡散層12の燃料供給面12Aが平坦である場合、燃料との界面においては燃料と触れ合う接触面積がそれほど大きくないため、必要以上に燃料を供給しても、アノードガス拡散層12に入り込む量は限られている。このため、アノード触媒層11に取り込まれる燃料が限られているため、触媒が効率的に作用せず、安定して高出力を得ることが困難となる。
【0061】
これに対して、アノードガス拡散層12の燃料供給面12Aの表面粗さを大きくすることによって、アノードガス拡散層12の燃料供給面12Aの表面積が大きくなる。つまり、アノードガス拡散層12において、燃料と触れ合う表面積が大きくなる。なお、アノードガス拡散層12に流入する燃料は気体、つまり気化した燃料であることが望ましい。
【0062】
これにより、気化されている燃料の引き込みが早くなり、反応速度を速くすることが可能となる。つまり、アノード触媒層11における触媒を効率よく作用させることが可能となる。したがって、第1実施形態に係る燃料電池1によれば、安定して高出力を得ることが可能となる。
【0063】
≪第2実施形態≫
第2実施形態に係る燃料電池1において、図5に示すように、カソードガス拡散層15のカバープレート21と対向する空気供給面15Aの表面粗さは、カソードガス拡散層15のカソード触媒層14に対向する面15Bの表面粗さより大きく形成されている。ここでは、空気供給面15Aは、カソード集電体18Cと接触するように配置されている。なお、図5では、主要部のみを図示している。
【0064】
この第2実施形態において、空気供給面15Aの表面粗さは、算術平均粗さRa>15um、かつ、最大高さRz>200umである。
【0065】
カソードガス拡散層15の一方の表面を、積極的に粗くするための加工方法については第1実施形態で説明した通りである。
【0066】
このように、カソードガス拡散層15の空気供給面15Aの表面粗さを大きくすることによって、カソードガス拡散層15の空気供給面15Aの表面積が大きくなる。これにより、発電反応に必要な空気(あるいは酸素)の取り込み及び発電反応によって生成した二酸化炭素の放出が促進され、反応速度を速くすることが可能となる。つまり、カソード触媒層14における触媒を効率よく作用させることが可能となる。したがって、第2実施形態に係る燃料電池1によれば、安定して高出力を得ることが可能となる。
【0067】
≪第3実施形態≫
第3実施形態に係る燃料電池1は、第1実施形態に係る燃料電池1の構成と第2実施形態に係る燃料電池1の構成とを組み合わせた構成である。つまり、図6に示すように、アノードガス拡散層12の燃料供給面12Aの表面粗さは、アノードガス拡散層12のアノード触媒層11に対向する面12Bの表面粗さより大きく形成されており、且つ、カソードガス拡散層15の空気供給面15Aの表面粗さは、カソードガス拡散層15のカソード触媒層14に対向する面15Bの表面粗さより大きく形成されている。なお、図6では、主要部のみを図示している。
【0068】
このように、アノードガス拡散層12の燃料供給面12Aの表面粗さを大きくし、カソードガス拡散層15の空気供給面15Aの表面粗さを大きくすることによって、第1実施形態に係る燃料電池1及び第2実施形態に係る燃料電池1と同様の効果を得ることが可能となる。つまり、第3実施形態に係る燃料電池1によれば、アノード13側及びカソード16側の双方でバランスよく触媒を作用させることができ、さらに、安定して高出力を得ることが可能となる。
【0069】
なお、本実施形態においては、以下の方法にて、アノードガス拡散層12及びカソードガス拡散層15の表面粗さを測定することができる。
【0070】
まず、膜電極接合体2をエポキシ樹脂で固め、膜電極接合体2の断面が見えるように切断する。このとき、電極が矩形状の場合においては、膜電極接合体2を長手方向と直交する方向の中央部において長手方向と平行に切断する。そして、その切断面の中央部および両端部から10%中央寄りの位置の合計3箇所の断面をそれぞれ切り取り樹脂に埋め込む。したがって、本発明の数値はそれら測定箇所3箇所で得られた値の平均値となる。そして、顕微鏡を用いて、それらサンプルの断面を10倍で観察し、凹凸3回分となる範囲を特定し、その範囲に2点(仮に、A点及びB点とする)の印をつける。さらに、顕微鏡を用いて、200倍で観察し、A点からB点までの距離を基準長さとしてアノードガス拡散層12又はカソードガス拡散層15の外表面側(つまり燃料供給面又は空気供給面の断面)を観察し、AB間の凹凸を測定して算術平均粗さRa及び最大高さRzを求めることができる。
【0071】
≪効果の検証−1≫
次に、アノードガス拡散層12の燃料供給面12Aの表面粗さを大きくした燃料電池1、カソードガス拡散層15の空気供給面15Aの表面粗さを大きくした燃料電池1及びアノードガス拡散層12の燃料供給面12A及びカソードガス拡散層15の空気供給面15Aの表面粗さを大きくした燃料電池1についての効果を検証した。
【0072】
まず、アノードガス拡散層12用のカーボンペーパー(東レ(株)製TGP−H−120)を用意した。そして、4つのアノードガス拡散層12のサンプルA、B、C及びDを用意した。何も施さないカーボンペーパーをサンプルA(Ra=15μm、Rz=160μm)とした。片面を紙やすり(♯180)を用いて粗くしたカーボンペーパーをサンプルB(Ra=25μm、Rz=230μm)とした。エンボス加工したカーボンペーパーをサンプルC(Ra=80μm、Rz=450μm)とした。片面を紙やすり(♯180)を用いて粗くし、さらに、エンボス加工したカーボンペーパーをサンプルD(Ra=105μm、Rz=520μm)とした。
【0073】
カソードガス拡散層15用のカーボンペーパー(東レ(株)製TGP−H−90)を用意した。そして、4つのカソードガス拡散層15のサンプルE、F、G、Hを用意した。何も施さないカーボンペーパーをサンプルE(Ra=10μm、Rz=130μm)とした。片面を紙やすり(♯180)を用いて粗くしたカーボンペーパーをサンプルF(Ra=20μm、Rz=250μm)とした。エンボス加工したカーボンペーパーをサンプルG(Ra=90μm、Rz=470μm)とした。片面を紙やすり(♯180)を用いて粗くし、さらに、エンボス加工したカーボンペーパーをサンプルH(Ra=110μm、Rz=550μm)とした。
【0074】
そして、触媒である白金ルテニウム合金微粒子を担持したカーボン粒子10重量部に対し、ナフィオン溶液(デュポン社製DE2020)の固形分が1重量部、さらに溶媒を加えてホモジナイザで混合し、固形分として約15%のスラリーを作製した。
【0075】
上述したアノードガス拡散層12用のサンプルA乃至Dのそれぞれの何も施していない面に上述したスラリーをバーコード法により塗布してアノード触媒層11を形成した。
【0076】
一方、触媒である白金微粒子を担持したカーボン粒子とナフィオン溶液(デュポン社製DE2020)と、さらに溶媒を加えてホモジナイザで混合し、固形分として約15%のスラリーを作製した。
【0077】
上述したカソードガス拡散層15用のサンプルE乃至Hのそれぞれの何も施していない面に上述したスラリーをバーコード法により塗布してカソード触媒層14を形成した。
【0078】
続いて、電解質膜17として固定電解質膜ナフィオン112(デュポン社製)を用い、最初にこの電解質膜17とカソード16とをカソード触媒層14が電解質膜17側を向くように重ね合わせる。続いて、電解質膜17のカソード16を重ね合わせた面とは反対の面に、アノード触媒層11が電解質膜側を向くようにアノード13を重ね合わせる。その後、温度150℃のホットプレスにて、圧力30kgf/cmの条件で加圧して、膜電極接合体2を形成した。
【0079】
なお、電極面積は、アノード13及びカソード16ともに12cmとした。
【0080】
ここでは、アノードガス拡散層12のサンプルA、B、C及びDと、カソードガス拡散層15のサンプルE、F、G及びHとをそれぞれ組み合わせて、膜電極接合体2を形成した。
【0081】
続いて、空気および気化したメタノールを取り入れるための複数の開孔を有する集電体18として機能する金箔で膜電極接合体2を挟み、アノード集電体18A及びカソード集電体18Cを形成した。
【0082】
そして、膜電極接合体2、アノード集電体18A、カソード集電体18Cが積層された積層体を樹脂製の2つのフレームで挟み込んだ。なお、膜電極接合体2のカソード16側と一方のフレームとの間、膜電極接合体2のアノード13側と他方のフレームとの間には、それぞれシール部材19として機能するゴム製のOリングを挟持してシールを施した。
【0083】
また、アノード13側のフレームは、気液分離膜を介して、燃料供給機構3にネジ止めによって固定した。気液分離膜には、厚さ0.1mmのシリコーンシートを使用した。一方、カソード16側のフレーム上には、気孔率が30%の保湿層として機能する板状体20を配置した。この板状体20の上には、カバープレート21として、空気取り入れのための空気導入孔(口径4mm、口数64個)21Aが形成された厚さが2mmのステンレス板(SUS304)を配置してネジ止めによって固定した。このようにして燃料電池1を組み立てた。
【0084】
このような燃料電池1の燃料収容室に純メタノールを5ml注入した。そして、温度25℃、相対湿度50%の環境で、電流値と電圧値とを測定し、最大出力密度を求めた。この図7に測定結果を示す。
【0085】
図7に示すように、何も加工を施していないアノードガス拡散層12及びカソードガス拡散層15を備えた燃料電池1である比較例の最大出力密度は、28mW/cm(サンプルA及びサンプルE)であった。
【0086】
これに対して、アノード側において、燃料供給面12Aの表面粗さがアノード触媒層11と対向する面12Bの表面粗さより大きく形成されたアノードガス拡散層12を備えた燃料電池1については、その最大出力密度は、38mW/cm(サンプルB及びサンプルE)、39mW/cm(サンプルC及びサンプルE)、33mW/cm(サンプルD及びサンプルE)であり、比較例の燃料電池1の最大出力密度と比較して大きいことが分かる。
【0087】
この結果から、アノードガス拡散層12の燃料供給面12Aの表面粗さがアノードガス拡散層12のアノード触媒層11と対向する面12Bより大きく形成されると、高出力化が可能となることが確認された。
【0088】
一方、カソード側において、空気供給面15Aの表面粗さがカソード触媒層14と対向する面15Bの表面粗さより大きく形成されたカソードガス拡散層15を備えた燃料電池1については、その最大出力密度は、36mW/cm(サンプルA及びサンプルF)、36mW/cm(サンプルA及びサンプルG)、32mW/cm(サンプルA及びサンプルH)であり、比較例の燃料電池1の最大出力密度と比較して大きいことが分かる。
【0089】
この結果から、カソードガス拡散層15の空気供給面15Aの表面粗さがカソードガス拡散層15のカソード触媒層14と対向する面15Bの表面粗さより大きく形成されると、高出力化が可能となることが確認された。
【0090】
なお、図7に示すように、燃料供給面12Aの表面粗さがアノード触媒層11と対向する面12Bの表面粗さより大きく形成されたアノードガス拡散層12及び空気供給面15Aの表面粗さがカソード触媒層14と対向する面15Bの表面粗さより大きく形成されているカソードガス拡散層15を備えた燃料電池1の最大出力密度は、それぞれ以下の通りであった。
【0091】
すなわち、41mW/cm(サンプルB及びサンプルF)、38mW/cm(サンプルB及びサンプルG)、33mW/cm(サンプルB及びサンプルH)、42mW/cm(サンプルC及びサンプルF)、40mW/cm(サンプルC及びサンプルG)、34mW/cm(サンプルC及びサンプルH)、34mW/cm(サンプルD及びサンプルF)、34mW/cm(サンプルD及びサンプルG)、32mW/cm(サンプルD及びサンプルH)であって、いずれの組み合わせにおいても、最大出力密度は、比較例の燃料電池1の最大出力密度と比較して大きいことが分かる。
【0092】
この結果から、アノードガス拡散層12の燃料供給面12Aの表面粗さ及びカソードガス拡散層15の空気供給面15Aの表面粗さが、算術平均粗さRa>15um、かつ、最大高さRz>200umであることにより、高出力化が可能となることが確認された。
【0093】
なお、これらの燃料供給面12A及び空気供給面15Aについて、表面粗さが大きいほど高出力化が可能であるわけではなく、最大出力密度として35mW/cm以上を得るためには、燃料供給面12A及び空気供給面15Aの表面粗さが算術平均粗さRa<100μm、かつ、最大高さRz<500μmであることが望ましい。
【0094】
≪第4実施形態≫
第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態の何れの実施形態においても、アノード13は、さらに、アノード触媒層11とアノードガス拡散層12との間に多孔質層23を備えていてもよい。第4実施形態に係る燃料電池1において、第3実施形態に係る燃料電池1の構成に多孔質層23を組み合わせた場合には、図8に示すように構成される。
【0095】
多孔質層23は、特に材質は限定されないが、王研式透気度試験機での透気抵抗度が20〜500ガーレー秒である材料を用いて形成することが望ましい。この多孔質層23を構成する材料としては、特に、導電性と撥水性とを保つような材料であるカーボンとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)との混合物などが好適である。また、多孔質層23の膜厚は、透気抵抗度で限定されるが、可能であれば平均して50〜300μmであることが望ましい。
【0096】
上述した発電反応において、アノード触媒層11中及びカソード16から電解質膜17を介して還流した水は、アノード触媒層11を通り、アノードガス拡散層12に戻ってしまうことがある。アノードガス拡散層12はこの還流水を燃料供給機構3まで戻さないように、撥水処理を行い、燃料タンクからの燃料濃度を一定にするようにしている。このため、還流水は撥水性のアノードガス拡散層12上に存在し、アノード触媒層11との界面では、極端に燃料濃度が低下してしまう。
【0097】
そこで、この第4実施形態のように、アノードガス拡散層12とアノード触媒層11との間にさらに撥水剤とカーボンを混合したような多孔質層23を配置したことにより、アノードガス拡散層12への還流水の戻りを抑制することができる。また、上述したような透気抵抗度の多孔質層23を適用することにより、気化した燃料が多孔質層23を通る際に、透気に抵抗がかかるため、燃料供給機構3からの燃料が必要以上にアノード触媒層11に届かず、燃料供給機構からの供給量を調整することが可能となる。これにより、別途ポンプなどの補器を必要とせずに、燃料を十分に反応させることが可能となる。
【0098】
このように、アノードガス拡散層12とアノード触媒層11との間に多孔質層23が配置されているため、アノードガス拡散層12から液体燃料が供給されたとしても、多孔質層23で気化が促進される。このため、燃料供給機構3とアノード13との間に気液分離膜を配置する必要がなく、また燃料拡散室31Bも不要となることから、燃料電池1の厚さを薄くすることが可能となる。
【0099】
さらに、図8に示すように、第4実施形態に係る燃料電池1は、アノードガス拡散層12と燃料供給機構3との間に、吸液層22を備えていても良い。この吸液層22を構成する材料としては、燃料を十分吸液できるようなものであれば良く、特に、耐溶剤性に優れたポリエチレン多孔質層などが望ましい。
【0100】
このような構成によれば、燃料供給機構3からアノード13に向かって流入する液体燃料は、吸液層22により吸収され、さらに、表面積が拡大された燃料供給面12Aからアノードガス拡散層12に吸収される。このとき、吸液層22によって吸収された液体燃料は、毛細管現象により、アノードガス拡散層12に均一に吸収され易くなり、吸液層22から多孔質層23までのパスの間で液体燃料の気化をさらに促進することが可能となる。
【0101】
≪効果の検証−2≫
次に、多孔質層23及び吸液層22を備えた燃料電池1についての効果を検証した。
【0102】
まず、第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態と同様の手順により、4つのアノードガス拡散層12のサンプルA、B、C及びD、4つのカソードガス拡散層15のサンプルE、F、G及びHを用意した。
【0103】
そして、カーボン粒子と60%PTEE溶液を1:1の割合で混ぜ、超音波及びスターラーで攪拌混合したものをカーボンペーパー(東レ(株)製TGP−H−060)に条件を変更してスプレー塗布した後に、温度350度で焼成し、4つの多孔質層23のサンプルを作製した。
【0104】
それぞれのサンプルについて、王研式透気抵抗度測定器で測定したところ、各サンプルの透気抵抗度は以下の通りであった。すなわち、サンプル1(18ガーレー秒)、サンプル2(22ガーレー秒)、サンプル3(480ガーレー秒)及びサンプル4(520ガーレー秒)であった。
【0105】
そして、第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態と同様の手順によりアノード触媒層11及びカソード触媒層14を形成するためのスラリーを作製した。そして、サンプル1乃至4のそれぞれの多孔質層23の上に、スラリーをバーコート法により塗布してアノード触媒層11を形成した。また一方で、カソードガス拡散層15の上に、スラリーをバーコート法により塗布してカソード触媒層14を形成した。
【0106】
そして、電解質膜17とカソード16とをカソード触媒層14が電解質膜側を向くように重ね合わせる。続いて、電解質膜17のカソード16を重ね合わせた面とは反対の面に、アノード触媒層11が電解質膜側を向くように多孔質層23を重ね合わせ、この多孔質層23の上にさらにアノードガス拡散層12を重ね合わせる。その後、温度150℃のホットプレスにて、圧力30kgf/cmで加圧して、膜電極接合体2を形成した。
【0107】
なお、電極面積は、アノード13及びカソード16ともに12cmとした。
【0108】
なお、アノードガス拡散層12のサンプルA、B、C及びDと、カソードガス拡散層15のサンプルE、F、G及びHとをそれぞれ組み合わせ、さらに多孔質のサンプル1、2、3及び4をそれぞれ組み合わせ、膜電極接合体2を形成した。
【0109】
続いて、空気および気化したメタノールを取り入れるための複数の開孔を有する集電体18として機能する金箔で膜電極接合体2を挟み、アノード集電体18A及びカソード集電体18Cを形成した。
【0110】
膜電極接合体2、アノード集電体18A、アノード集電体18Aと膜電極接合体2との間に吸液層22として機能する0.2mmの膜厚のポリエチレン多孔質膜、カソード集電体18Cが積層された積層体を樹脂製の2つのフレームで挟み込んだ。なお、膜電極接合体2のカソード16側と一方のフレームとの間、膜電極接合体2のアノード13側と他方のフレームとの間には、それぞれシール部材19として機能するゴム製のOリングを挟持してシールを施した。
【0111】
また、アノード13側のフレームは、燃料供給機構3にネジ止めによって固定した。一方、カソード16側のフレーム上には、気孔率が30%の保湿層として機能する板状体20を配置した。この板状体20の上には、カバープレート21として、空気取り入れのための空気導入孔(口径4mm、口数64個)21Aが形成された厚さが2mmのステンレス板(SUS304)を配置してネジ止めによって固定した。このようにして燃料電池1を組み立てた。
【0112】
このような燃料電池1の燃料収容室に純メタノールを5ml注入した。そして、温度25℃、相対湿度50%の環境で、電流値と電圧値とを測定し、出力の最大値を求めた。この図9に測定結果を示す。
【0113】
図9に示すように、サンプル1及び4の多孔質層を組み合わせた構成では、いずれも出力密度が30mW/cmを下回り、しかも、図7に示したような多孔質層を組み合わせる前の構成よりも出力密度が低下した。
【0114】
一方で、サンプル2及び3の多孔質層を組み合わせた構成では、図7に示したような多孔質層を組み合わせる前の構成よりも概ね高い出力密度が得られた。
【0115】
この結果から、多孔質層23の透気抵抗度が20〜500ガーレー秒であることにより、高出力化が可能となることが確認された。
【0116】
また、サンプル2及び3については、燃料供給面12Aの表面粗さがアノード触媒層11と対向する面12Bより大きく形成されたアノードガス拡散層12(つまりサンプルB、C、D)と、空気供給面15Aの表面粗さがカソード触媒層14と対向する面15Bより大きく形成されているカソードガス拡散層15(つまりサンプルF、G、H)とを組み合わせた燃料電池1の最大出力密度が高く、特に、図7を参照しながら規定した表面粗さの範囲のサンプル(サンプルB及びCと、サンプルF及びGとの組み合わせ)については、40mW/cm以上の出力密度が得られた。
【0117】
以上説明したように本実施形態によれば、安定して高出力を得ることが可能な燃料電池1を提供することが可能となる。
【0118】
上述した各実施形態の燃料電池1は、各種の液体燃料を使用した場合に効果を発揮し、液体燃料の種類や濃度は限定されるものではない。ただし、燃料を面方向に分散させつつ供給する燃料供給部31は、特に燃料濃度が濃い場合に有効である。このため、各実施形態の燃料電池1は、濃度が80wt%以上のメタノールを液体燃料として用いた場合に、その性能や効果を特に発揮することができる。したがって、各実施形態は、メタノール濃度が80wt%以上のメタノール水溶液や純メタノールを液体燃料として用いた燃料電池1に好適である。
【0119】
さらに、上述した各実施形態は、本発明をセミパッシブ型の燃料電池1に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、内部気化型の純パッシブ型の燃料電池に対しても適用可能である。
【0120】
なお、本発明は液体燃料を使用した各種の燃料電池に適用することができる。また、燃料電池の具体的な構成や燃料の供給状態等も特に限定されるものではなく、MEAに供給される燃料の全てが液体燃料の蒸気、全てが液体燃料、または一部が液体状態で供給される液体燃料の蒸気等、種々形態に本発明を適用することができる。実施段階では本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。さらに、上記実施形態に示される複数の構成要素を適宜に組み合わせたり、また実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除したりする等、種々の変形が可能である。本発明の実施形態は本発明の技術的思想の範囲内で拡張もしくは変更することができ、この拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】図1は、この発明の一実施の形態に係る燃料電池の構造を概略的に示す断面図である。
【図2】図2は、図1に示した燃料電池における膜電極接合体の一部の断面を概略的に示す斜視図である。
【図3】図3は、図2に示した膜電極接合体の平面図である。
【図4】図4は、第1実施形態に係る燃料電池の構造を概略的に示す断面図である。
【図5】図5は、第2実施形態に係る燃料電池の構造を概略的に示す断面図である。
【図6】図6は、第3実施形態に係る燃料電池の構造を概略的に示す断面図である。
【図7】図7は、アノードガス拡散層の燃料供給面の表面粗さ及びカソードガス拡散層の空気供給面の表面粗さを大きくしたことによる効果の検証結果を示す図である。
【図8】図8は、第4実施形態に係る燃料電池の構造を概略的に示す断面図である。
【図9】図9は、吸液層及び多孔質を配置したことによる効果の検証結果を示す図である。
【符号の説明】
【0122】
1…燃料電池 2…膜電極接合体 3…燃料供給機構
11…アノード触媒層 12…アノードガス拡散層 12A…燃料供給面
13…アノード
14…カソード触媒層 15…カソードガス拡散層 15A…空気供給面
16…カソード
17…電解質膜
22…吸液層 23…多孔質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード触媒層及び前記アノード触媒層の上に配置されたアノードガス拡散層を有するアノードと、カソード触媒層及び前記カソード触媒層に積層されたカソードガス拡散層を有するカソードと、前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に挟持された電解質膜と、を有する膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の前記アノードに燃料を供給する燃料供給機構と、を備え、
前記アノードガス拡散層の前記燃料供給機構と対向する燃料供給面の表面粗さは、前記アノードガス拡散層の前記アノード触媒層と対向する面の表面粗さより大きいことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
アノード触媒層及び前記アノード触媒層の上に配置されたアノードガス拡散層を有するアノードと、カソード触媒層及び前記カソード触媒層に積層されたカソードガス拡散層を有するカソードと、前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に挟持された電解質膜と、を有する膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の前記アノードに燃料を供給する燃料供給機構と、
前記燃料供給機構との間で前記膜電極接合体を保持するカバープレートと、を備え、
前記カソードガス拡散層の前記カバープレートと対向する空気供給面の表面粗さは、前記カソードガス拡散層の前記カソード触媒層と対向する面の表面粗さより大きいことを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
前記アノードガス拡散層の前記燃料供給機構と対向する燃料供給面の表面粗さは、前記アノードガス拡散層の前記アノード触媒層と対向する面の表面粗さより大きいことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記燃料供給面及び前記空気供給面の表面粗さは、算術平均粗さRa>15um、かつ、最大高さRz>200umであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1つに記載の燃料電池。
【請求項5】
前記燃料供給面及び前記空気供給面の表面粗さは、算術平均粗さRa<100um、かつ、最大高さRz<500umであることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池。
【請求項6】
さらに、前記アノードは、前記アノード触媒層と前記アノードガス拡散層との間に配置された多孔質層を備えたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記多孔質層は、透気抵抗度が20〜500ガーレー秒であることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池。
【請求項8】
さらに、前記アノードガス拡散層と前記燃料供給機構との間に吸液層を備えたことを特徴とする請求項6に記載の燃料電池。
【請求項9】
前記アノードガス拡散層の前記燃料供給面及び前記カソードガス拡散層の前記空気供給面の表面に、エンボス加工を施したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の燃料電池。
【請求項10】
前記膜電極接合体に供給される燃料は、メタノール濃度が80wt%以上のメタノール水溶液または純メタノールであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−27376(P2010−27376A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187179(P2008−187179)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000221339)東芝電子エンジニアリング株式会社 (238)
【Fターム(参考)】