説明

燃料電池

【課題】発電セルが積層された発電領域の端部に非発電セルを具備する燃料電池に関し、非発電セルからガスや冷却媒体が外部等にリークすることが抑止され、もって発電性能に優れた燃料電池を提供する。
【解決手段】複数の発電セル50,…からなる発電領域におけるセル積層方向の端部には、膜電極接合体を具備しない非発電セル40が配されてなる燃料電池100であり、非発電セル40は、分離板12と、該分離板12を挟んで凹溝を有するセパレータ11,13とからなるガスバイパス層10、導電性を有する断熱材21を備えた断熱材層20、第3のセパレータ30、の積層構造を呈し、第2のセパレータ13は分離板12よりも発電セル50側に配されており、該第2のセパレータ13の線膨張係数に比して、該分離板12の線膨張係数が大きくなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電セルが積層された発電領域の端部に非発電セルを具備する燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池の燃料電池セル(発電セル)は、イオン透過性の電解質膜と、該電解質膜を挟持するアノード側およびカソード側の触媒層とから膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)が形成され、このMEAとこれを挟持するアノード側およびカソード側のガス拡散層(GDL)とから電極体(MEGA:Membrane Electrode & Gas Diffusion Layer Assembly)が形成され、電極体に燃料ガスもしくは酸化剤ガスを提供するとともに電気化学反応によって生じた電気を集電するためのセパレータが電極体の両側に配されて構成されている。実際の燃料電池は、所要電力に応じた基数の発電セルが積層され、スタッキングされることによって形成されている。
【0003】
上記する燃料電池では、アノード電極に燃料ガスとして水素ガス等が提供され、カソード電極には酸化剤ガスとして酸素や空気が提供され、各電極ではセパレータに形成されたガス用溝流路にて面内方向にガスが流れ、次いでガス拡散層にて拡散されたガスが電極触媒層に導かれて電気化学反応がおこなわれるものである。
【0004】
ところで、多数の燃料電池セル(発電セル)が積層されてなる燃料電池の最端部の発電セルは、外部に最も近接していることから熱容量が大きく、たとえば、燃料電池を低温起動させた際に、特に燃料電池の最端部、もしくは最端から数基の発電セルにおいては、外部に熱が奪われることで燃料電池停止時等にそれらの内部に存在する水分を効果的に気化させることができない。したがって、液水状態で発電セル外へ排出せざるを得ないことから、気化させて外部排出し易い他の発電セルと比較して排水性が格段に悪く、フラッティングの原因となり易いといった課題を有している。
【0005】
そこで、最端の発電セルのうち、各発電セル積層方向の端部に断熱層を有し、かつ膜電極接合体を具備しない非発電セルを配した構造とすることで、この断熱層にて端部の発電セルの熱容量を低減させ、もって上記課題の解消を図る燃料電池が現在開発されている。
【0006】
また、燃料電池では、上記課題のほかにも、該燃料電池に提供される燃料ガスや酸化剤ガス中において、それらが燃料電池へ流入するまでの過程で不純物が混入することが往々にしてあり、このような不純物濃度の高いガスが発電セルに提供されると、燃料電池の発電性能低下に直結する。そこで、発電セルの外周側にあって、最先にガスが流通可能である上記非発電セルには、上記断熱層のほかにも、燃料ガスや酸化剤ガスをバイパスさせ、そのバイパス過程で不純物を除去する、もしくは不純物濃度を低下させるためのバイパス層がさらに具備されたものも開発されており、この発電セルと非発電セルからなる燃料電池の一実施の形態が特許文献1に開示されている。
【0007】
なお、特許文献1に開示の燃料電池では、発電セルと非発電セルを貫通して流体連通されたマニホールドとその周囲領域、さらには、各セルの外周側(燃料電池の外周側)の図示やその具体的な説明が省略されている。そこで、その具体的な構造をも含め、図3には、上記する非発電セルを含む燃料電池の構造、特に、非発電セルと、その側方にあって発電セルの中でも最端に位置する発電セルを含む燃料電池の端部領域を示している。なお、実際の燃料電池は、1列の発電セルの積層体からなるもののほかにも、2列以上の積層体が並列し、共通するエンドプレートにて一体とされるとともに、電気的には直列に繋がれた形態発であってもよい。
【0008】
同図において、多数の発電セルが積層する積層体のうち、図示する端部の発電セルEの側方には、非発電セルDが配され、この側方には、ターミナルプレートf1、インシュレータf2、エンドプレートf3が配されており、冷却媒体や燃料ガス、酸化剤ガスが流通するマニホールドMが、これらの周縁に同軸で貫通するようにして設けられている。そして、各部材の接合界面は、マニホールドを囲繞する位置に設けられた凹溝R5内のガスケットGにてシールされ、流体シール性が担保されている。なお、同図において、端部の発電セルEの右側側方には、同構造の発電セルEが所定基数配されて燃料電池が構成される(隣接する発電セルEのセパレータとの間で冷却媒体用の溝流路R4が形成されている)。
【0009】
各構成をより具体的に説明するに、発電セルEは、電解質膜とその両側の触媒層とからなる膜電極接合体e1、アノード側およびカソード側のガス拡散層e2,e3、アノード側およびカソード側のセパレータe4,e5の積層構造を呈している。また、図示例では、ガス拡散層e2,e3よりも側方に張り出した膜電極接合体e1の端部を樹脂フレームe6が把持し、この樹脂フレームe6と各セパレータe4,e5が接着剤層h5を介して固定されている。なお、非発電セルD,発電セルEを貫通するマニホールドMは、燃料ガスや酸化剤ガス、冷却媒体それぞれに固有のものが存在し、さらには、燃料電池への提供用のマニホールドと、燃料電池からの排出用のマニホールドと、が存在することは勿論のことである。
【0010】
一方、非発電セルDは、文字通り発電をおこなうものでないことから膜電極接合体を具備せず、基本的に5つの部材の積層構造を呈しており、発電セルEと反対側の端部から順に、凹溝を有する第1のセパレータa1と、分離板a2と、凹溝を有する第2のセパレータa3と、からなるガスバイパス層A、断熱材b1と、この周縁の樹脂フレームb2と、からなる断熱材層B、この断熱材層Bの一側面と発電領域端部の発電セルEのセパレータe4の間に介層されて該発電セルEのセパレータe4との間で、冷却媒体用の溝流路R3を形成する第3のセパレータC、が積層構造を呈してなるものである。分離板a2と第1、第2のセパレータa1,a3の各凹溝との間で第1、第2のガス用溝流路R1,R2が形成され、マニホールドMを通して燃料電池に提供された酸化剤ガスや燃料ガスはそれぞれ、まず、この第1、第2のガス用溝流路R1,R2を流通されることで、それらが内包している不純物の全部もしくは一部が取り除かれ、不純物を具備しない、もしくはその濃度が極めて低い燃料ガスや酸化剤ガスが各発電セルE,…に提供される。
【0011】
また、非発電セルDを構成する断熱材層Bにより、端部の発電セルE,もしくは端部から数基の発電セルE,…の熱容量が低減され、特に低温起動時におけるそれらの内部に残留する水分の気化が促進されて、発電セルEの排水性が向上される。
【0012】
ここで、燃料電池の発電初期の内部温度は、非発電セル、発電セルを問わず、同等の温度であり、燃料電池が発電し、定常状態となった際には、発電セルは自身が発電して昇温する一方で、非発電セルは昇温しないことから、非発電セルを構成する構成部材間には、発電セルとの相対距離の相違によって各部材の線膨張量(熱膨張量)に差が生じてしまう。このことは、非発電セルを構成する第1、第2、第3の各セパレータ、分離板のすべてが、同素材、すなわち同一の線膨張係数の素材から形成されることによるものである。
【0013】
特に、ガスバイパス層Aを構成する分離板a2と、これよりも発電セルE側にある第2のセパレータa3との線膨張量の差により(同図で、第2のセパレータの線膨張量:δ1、分離板の線膨張量:δ2で、δ1>δ2)、第2のセパレータa3はその中央が発電セルE側に突の反り変形を生じ、この反りに起因して各部材界面の接着が剥がれ、ガスや冷却媒体の漏れの原因となり得る。
【0014】
ガスや冷却媒体がリークすることにより、燃料電池の発電性能低下が必至であることに鑑みれば、この非発電セルの構造の見直しは、当該技術分野における解決されるべき急務の課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第2007/058054号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、発電セルが積層された発電領域の端部に非発電セルを具備する燃料電池に関し、非発電セルからガスや冷却媒体が外部等にリークすることが抑止され、もって発電性能に優れた燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成すべく、本発明による燃料電池は、少なくとも、膜電極接合体と、これを挟持してガス用溝流路を有するアノード側およびカソード側のセパレータと、からなる発電セルが複数積層されて発電領域を形成し、前記発電領域におけるセル積層方向の端部には、膜電極接合体を具備しない非発電セルが配され、該非発電セルを介して発電領域を構成する各発電セルに燃料ガスと酸化剤ガスが提供されるようになっており、各発電セルと非発電セル双方の周縁において同軸で貫通する流体連通マニホールドを有した燃料電池において、前記非発電セルは、分離板と、該分離板を挟んで凹溝を有する第1、第2のセパレータと、からなるガスバイパス層と、該ガスバイパス層の一側面に当接して少なくとも導電性を有する断熱材を備えた断熱材層と、該断熱材層の一側面と発電領域端部の発電セルのセパレータの間に介層されて該発電セルのセパレータとの間で溝流路を形成する第3のセパレータと、の積層構造を呈し、分離板と、第1、第2のセパレータと、断熱材層と、第3のセパレータは、相互にそれらのマニホールド周りで接着剤層を介して固定されており、前記第2のセパレータは前記分離板よりも発電セル側に配されており、該第2のセパレータの線膨張係数に比して、該分離板の線膨張係数が大きくなっているものである。
【0018】
本発明の燃料電池は、所定基数の燃料電池セル(発電セル)の端部に、非発電セルを具備するものにおいて、この非発電セルを構成する分離板、これよりも発電セル側にある第2のセパレータ双方の線膨張係数を調整し、具体的には、第2のセパレータの線膨張係数に比して、分離板の線膨張係数を大きくすることにより、発電初期状態から発電後の定常状態までの温度上昇度が双方の部材で異なる場合であっても、双方の部材の線膨張量をたとえば近似させ、第2のセパレータが過度の反りを生じないようにした燃料電池である。この第2のセパレータの過度の反りが抑制されたことで、従来構造の場合の課題、すなわち、第2のセパレータの過度の反りに起因して非発電セルの各構成部材界面の接着が剥がれ、ガスや冷却媒体のリーク路が形成され得る、という課題は解消される。
【0019】
たとえば、燃料電池の発電初期の内部温度をT0℃、発電後の定常状態における分離板の温度をT1℃、第2のセパレータの温度をT2℃とした際に、T2>T1>T0の関係が成立し、分離板の線膨張係数をα1、第2のセパレータの線膨張係数をα2、T1とT0の差分をΔT1、T2とT0の差分をΔT2、とした場合に、α1×ΔT1とα2×ΔT2とが同一の値、もしくは近似した値となるような、分離板および第2のセパレータ双方の線膨張係数となっているのが好ましい。なお、この「近似した値」とは、第2のセパレータの線膨張量と分離板の線膨張量の差分が、これによって非発電セル構成部材間の界面接着が剥がされない程度の差分となることを意味している。
【0020】
このような線膨張係数の相違は、分離板、第2のセパレータ双方の形成素材を相違させるのが最も効果的であり、たとえば、第2のセパレータは相対的に線膨張係数の小さなステンレス等から形成し、分離板は相対的に線膨張係数の大きな炭素鋼等から形成することができる。
【0021】
また、本発明の燃料電池の好ましい実施の形態は、第1のセパレータの凹溝と分離板とから第1のガス用溝流路が形成され、第2のセパレータの凹溝と分離板とから第2のガス用溝流路が形成され、第1のガス用溝流路と第2のガス用溝流路の一方に燃料ガスが、他方に酸化剤ガスがそれぞれ流通し、この流通過程でそれぞれのガス中の不純物の全部もしくは一部が除去されるようになっているものである。
【0022】
本発明の燃料電池は、従来構造の接着剤層を具備する非発電セルを備えた燃料電池の奏する効果、すなわち、低温起動時の端部の発電セルの残留水の気化排出性が良好となり、不純物濃度の極めて低い燃料ガスや酸化剤ガスを各発電セルに提供できる、という効果を奏するものである。そして、本発明の燃料電池は、非発電セルの特に第2のセパレータと分離板を上記構成としたことで、従来構造の非発電セルを備えた燃料電池に比して、発電後の定常状態において、非発電セル内で部材相互の線膨張量が過度に異なることを抑止し、もって、部材界面の接着性を良好に維持でき、ガスや冷却媒体のリーク路形成を効果的に抑止できるものである。
【0023】
なお、上記する本発明の燃料電池のより具体的な構成としては、非発電セルのうち、前記発電領域と反対側の側面には、ターミナルプレート、インシュレータ、エンドプレートが積層姿勢で配される形態となり得る。
【0024】
また、上記する燃料電池、すなわち、所定基数の発電セルの積層体と、その両端部の非発電セルと、からなる燃料電池が2列以上併設され、共通するエンドプレートにて一体とされるとともに、相互に電気的に直列に繋がれて、燃料電池の外部に存在する、負荷装置を備えた発電電気回収用の回路に、この電気的に直列な正極と負極が繋がっている形態であってもよい。
【発明の効果】
【0025】
以上の説明から理解できるように、本発明の燃料電池によれば、発電セルが積層された発電領域の端部に非発電セルを具備する燃料電池に関し、この非発電セルを構成する分離板、これよりも発電セル側にある第2のセパレータ双方の線膨張量を同一、もしくは近似させるように、双方の線膨張係数を調整したことにより、従来構造の燃料電池の有する、低温起動時の端部発電セルの排水性の向上、不純物のない、もしくはその濃度が格段に低減されたガスの発電セルへの提供に加えて、非発電セルの構成部材界面の接着剥離に起因する流体漏れの抑止が図られ、より一層発電性能に優れた燃料電池を提供できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の燃料電池の一実施の形態の概略図である。
【図2】図1のII部の拡大横断図である。
【図3】従来の燃料電池を構成する、端部の発電セルと非発電セル等を示す横断図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図示例では、発電セルや非発電セル等からなる積層体が2列並列で、かつ電気的に直列に接続されている燃料電池を示しているが、本発明の燃料電池の特徴構成である非発電セルの構造を有することを前提として、1列の上記積層体からなる形態、3列以上の上記積層体が電気的に直列に接続された形態などであってもよいことは勿論のことである。
【0028】
図1は、本発明の燃料電池の一実施の形態の概略図である。図示する燃料電池100は、複数の発電セル50,…が一列に積層され、その両端部に非発電セル40,40が配され、さらにそれらの両端部に、ターミナルプレート71,71、インシュレータ72,72が配されて1列の積層体を構成し、この積層体を2列併設するとともに、それらの両端部を共通するエンドプレート73,73にて一体化することで、その全体が大略構成される。
【0029】
一方のエンドプレート73には、燃料ガスもしくは酸化剤ガス供給用の分岐配管81がそれぞれの積層体内のガス供給用マニホールド(不図示)に流体連通しており、各積層体内では、分岐配管81を流れ(X1方向)、分岐して(X2方向)さらにガス供給用マニホールドを流れ(X3方向)、各発電セル50,…内に層状にガスが提供されるとともに(X3'方向)、不図示のガス排気用マニホールドを介し、これに流体連通する排気配管82を介して外部排気されるようになっている(X4方向)。なお、燃料ガスもしくは酸化剤ガスの他方のガスも不図示の分岐配管を介して、同様の形態で各発電セルに提供され、外部排気されるようになっている。
【0030】
また、冷却水等の冷却媒体が、冷媒提供用の配管83を介して各積層体の冷却媒体提供用のマニホールド(不図示)に提供され(X5方向)、これも各発電セル50を層状に流れて、別途の冷却媒体排出用のマニホールド(不図示)を介し、これに流体連通する排出配管84を介して外部排出されるようになっている(X6方向)。
【0031】
ここで、図示する燃料電池100は、2列の積層体が電気的に直列に繋がれており、図示のように、一方の積層体の端部に正極があり、他方の積層体の端部に負極があって、これら正極、負極が負荷装置92を具備する外部回路91に繋がれて、発電電気の回収(集電)が実行されるようになっている。
【0032】
次に、図2を参照して、燃料電池100を構成する非発電セル40と、発電セル50,…の積層体(発電領域)の端部に位置する発電セル50の各構成と、さらにそれら相互の接続形態について概説する。
【0033】
まず、発電セル50は、電解質膜とアノード側およびカソード側の触媒層とからなる膜電極接合体51、このアノード側およびカソード側に配されたガス拡散層52,53、これらのガス拡散層52,53を挟むアノード側およびカソード側のセパレータ54,55、の積層構造体からなる。そして、その一方側で隣接する非発電セル40を構成する第3のセパレータ30、その他方側で隣接する不図示の発電セルのセパレータ、双方との界面は、これら非発電セル40、発電セル50,…を同軸で貫通する流体用のマニホールドMを囲繞する位置に設けられた凹溝R5内のガスケットGにてシールされ、該界面における流体シール性が担保されている。なお、膜電極接合体1はその端部がガス拡散層52,53よりも側方に張り出しており、この張り出し箇所を樹脂フレーム56が挟持するとともに、セパレータ54,55と接着剤層65にて固定されている。
【0034】
なお、非発電セル40のうち、発電セル50と反対側の側面と、これに隣接するターミナルプレート71との界面、ターミナルプレート71とインシュレータ72の界面、インシュレータ72とエンドプレート73の界面も同様に、マニホールドMを囲繞する位置に設けられた凹溝R5内のガスケットGにてシールされ、各界面における流体シール性が担保されている。
【0035】
ここで、発電セル50を構成する各部材の適用素材を概説する。まず、膜電極接合体1を構成する電解質膜は、たとえば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成される。
【0036】
また、触媒層は、触媒が担持された導電性担体(粒子状のカーボン担体など)と、電解質と、分散溶媒(有機溶媒)と、を混合して触媒溶液(触媒インク)を生成し、これを電解質膜やガス拡散層52,53等の基材に塗工ブレードにて層状に引き伸ばして塗膜を形成し、温風乾燥炉等で乾燥することで触媒層が形成される。ここで、触媒溶液を形成する電解質は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質などを挙げることができる。なお、市販素材としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標、デュポン社製)やフレミオン(Flemion)(登録商標、旭硝子株式会社製)などを挙げることができる。また、分散溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、芳香族系あるいはハロゲン系の種々の溶媒を挙げることができ、さらには、これらを単独で、もしくは混合液として使用することができる。さらに、触媒が担持された導電性担体に関し、この導電性担体としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができ、この触媒(金属触媒)としては、たとえば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどのうちのいずれか一種を使用することができ、好ましくは白金または白金合金を使用するのがよい。さらに、この白金合金としては、たとえば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタンおよび鉛のうちの少なくとも一種との合金を挙げることができる。
【0037】
また、ガス拡散層52,53は、拡散層基材と集電層(MPL)から構成でき、拡散層基材としては、電気抵抗が低く、集電を行えるものであれば特に限定されるものではないが、たとえば、導電性無機物質を主とするものを挙げることができ、この導電性無機物質としては、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛等の炭素材やこれらのナノカーボン材料、ステンレススチール、モリブデン、チタン等を挙げることができる。また、拡散層基材の導電性無機物質の形態は特に限定されるものではなく、たとえば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、ガス透過性の点から無機導電性繊維であって、特に炭素繊維が好ましい。無機導電性繊維を用いた拡散層基材としては、織布あるいは不織布いずれの構造のものも使用することができ、カーボンペーパーやカーボンクロスなどを挙げることができる。織布としては、平織、綴織など、特に限定されるものではなく、不織布としては、抄紙法、ウォータージェットパンチ法によるものなどが挙げられる。さらに、この炭素繊維としては、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などを挙げることができる。さらに、集電層はアノード側、カソード側の触媒層から電子を集める電極の役割を果たすとともに、生成水等を排水する撥水作用を有するものであり、導電性材料である、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、金、銀、銅及びこれらの化合物または合金、導電性炭素材料と、フッ素樹脂(PTFE)などから形成できる。
【0038】
また、ガスケットGは、耐メタノール性を有するエポキシ系樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ウレタンRTVゴムやブチルゴム系樹脂、シリコーンRTVゴム、EPDM系樹脂等が使用され、これらを材料として射出成形等することで成形できる。
【0039】
また、セパレータ54,55は、集電性能のある、カーボン、ステンレス等から形成でき、これに形成された凹溝と、積層姿勢で対向する非発電セル40の第3のセパレータ30に形成された凹溝とが位置合わせされて、冷却媒体用の溝流路R3が画成される。
【0040】
次に、非発電セル40の構造を詳述する。
図示する非発電セル40は、分離板12と、該分離板12を挟んで凹溝を有する第1、第2のセパレータ11,13と、からなるガスバイパス層10と、該ガスバイパス層10の一側面に当接して導電性を有する断熱材21と、この側方で該断熱材21を支持する樹脂フレーム22と、からなる断熱材層20と、既述する第3のセパレータ30と、の積層構造体である。なお、これらの部材は導電性を有するものであり、発電セル50,…で発電された電気を外部回路91に通電できるようになっている。
【0041】
分離板12と第1、第2のセパレータ11,13の各凹溝との間で第1、第2のガス用溝流路R1,R2が形成され、マニホールドMを通して燃料電池に提供された酸化剤ガスや燃料ガスはそれぞれ、まず、この第1、第2のガス用溝流路R1,R2を流通されることで、それらが内包している不純物の全部もしくは一部が取り除かれ、不純物を具備しない、もしくはその濃度が極めて低い燃料ガスや酸化剤ガスが各発電セル50,…に提供される。ガスバイパス層10を設ける最大の理由は、この作用効果を奏する点である。
【0042】
分離板12と、第1、第2のセパレータ11,13と、断熱材層20の特に樹脂フレーム22と、第3のセパレータ30は、相互にマニホールドMの周りで接着剤層61,62、63,64を介して接着固定されている。
【0043】
ここで、分離板12と、これよりも発電セル50側に位置する第2のセパレータ13とは、燃料電池100の発電定常時において、双方の線膨張量が同一か、あるいは近似した値となるように双方の線膨張係数が調整されている。より具体的には、燃料電池100の発電初期の内部温度をT0℃、発電後の定常状態における分離板12の温度をT1℃、第2のセパレータ13の温度をT2℃とした際に、T2>T1>T0の関係が成立し(自明)、分離板12の線膨張係数をα1、第2のセパレータ13の線膨張係数をα2、T1とT0の差分をΔT1、T2とT0の差分をΔT2、とした場合に、α1×ΔT1とα2×ΔT2とが同一の値、もしくは近似した値となるような、線膨張係数α1、α2となっているものである。
【0044】
図示する燃料電池100によれば、従来構造の接着剤層を具備する非発電セルを備えた燃料電池の奏する効果、すなわち、低温起動時の端部の発電セルの残留水の気化排出性が良好となり、不純物濃度の極めて低い燃料ガスや酸化剤ガスを各発電セルに提供できる、という効果に加えて、発電後の定常状態において、非発電セル40内で部材相互の線膨張量が過度に異なることを抑止された結果、部材界面の接着性が良好に維持され、ガスや冷却媒体のリーク路形成が抑止され、より一層発電性能に優れた燃料電池となり得る。
【0045】
[実証実験]
本発明者等は、燃料電池を構成する非発電セルに関し、その構成部材である分離板と第2のセパレータ双方の形成素材を相違させて燃料電池を試作し、この燃料電池を発電させた際の非発電セル内における部材界面の接着剤層の剥離の有無を検証した。
【0046】
まず、発電前の燃料電池内の温度が20℃、発電後の燃料電池の定常状態における、第2のセパレータの温度が75℃、分離板の温度が70℃であることを事前に確認しておき、この条件を前提として、第2のセパレータ以外の部材、より具体的には、第1のセパレータ、分離板、第3のセパレータはいずれも、線膨張係数が1.2×10−5(1/K)の炭素鋼(S45C)から形成し、第2のセパレータは、線膨張係数が1.0×10−5(1/K)のステンレス(SUS410)から形成し、すべての部材の長さ(燃料電池のセル積層方向に直交する方向の長さ)を100mmのものとして燃料電池を試作した。
【0047】
上記条件によれば、燃料電池の発電定常時における、第2のセパレータと分離板双方の線膨張量はほぼ同一となる。
【0048】
燃料電池を所定時間発電させ、経過後の非発電セルの各構成部材を観察した結果、第2のセパレータの反りは確認されず、したがって、各構成部材界面の接着剤層の剥離も確認されなかった。
【0049】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0050】
10…ガスバイパス層、11…第1のセパレータ、12…分離板、13…第2のセパレータ、20…断熱材層、21…断熱材、22…樹脂フレーム、30…第3のセパレータ、40…非発電セル、50…発電セル、51…膜電極接合体、52,53…ガス拡散層、54,55…セパレータ、61,62,63,64,65…接着剤層、71…ターミナルプレート、72…インシュレータ、73…エンドプレート、100…燃料電池、G…ガスケット、R1、R2…ガス用溝流路(バイパス流路)、R3、R4…冷却媒体用の溝流路、R5…ガスケット用の凹溝、M…マニホールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、膜電極接合体と、これを挟持してガス用溝流路を有するアノード側およびカソード側のセパレータと、からなる発電セルが複数積層されて発電領域を形成し、
前記発電領域におけるセル積層方向の端部には、膜電極接合体を具備しない非発電セルが配され、該非発電セルを介して発電領域を構成する各発電セルに燃料ガスと酸化剤ガスが提供されるようになっており、各発電セルと非発電セル双方の周縁において同軸で貫通する流体連通マニホールドを有した燃料電池において、
前記非発電セルは、分離板と、該分離板を挟んで凹溝を有する第1、第2のセパレータと、からなるガスバイパス層と、該ガスバイパス層の一側面に当接して少なくとも導電性を有する断熱材を備えた断熱材層と、該断熱材層の一側面と発電領域端部の発電セルのセパレータの間に介層されて該発電セルのセパレータとの間で溝流路を形成する第3のセパレータと、の積層構造を呈し、分離板と、第1、第2のセパレータと、断熱材層と、第3のセパレータは、相互にそれらのマニホールド周りで接着剤層を介して固定されており、
前記第2のセパレータは前記分離板よりも発電セル側に配されており、該第2のセパレータの線膨張係数に比して、該分離板の線膨張係数が大きくなっている、燃料電池。
【請求項2】
前記燃料電池の発電初期の内部温度をT0℃、発電後の定常状態における前記分離板の温度をT1℃、第2のセパレータの温度をT2℃とした際に、T2>T1>T0の関係が成立し、
前記分離板の前記線膨張係数をα1、前記第2のセパレータの線膨張係数をα2、T1とT0の差分をΔT1、T2とT0の差分をΔT2、とした場合に、
α1×ΔT1とα2×ΔT2とが同一の値、もしくは近似した値となるような、分離板および第2のセパレータ双方の線膨張係数となっている、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
第1のセパレータの凹溝と分離板とから第1のガス用溝流路が形成され、第2のセパレータの凹溝と分離板とから第2のガス用溝流路が形成され、第1のガス用溝流路と第2のガス用溝流路の一方に燃料ガスが、他方に酸化剤ガスがそれぞれ流通し、この流通過程でそれぞれのガス中の不純物の全部もしくは一部が除去されるようになっている、請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項4】
非発電セルのうち、前記発電領域と反対側の側面には、ターミナルプレート、インシュレータ、エンドプレートが積層姿勢で配されている、請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池が、2列以上併設され、共通するエンドプレートにて一体とされるとともに、相互に電気的に直列に繋がれている、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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