説明

燃料電池

【課題】安定した発電が可能であり高い発電効率を維持しながら発電部のドライアップを抑制することが可能な燃料電池を提供する。
【解決手段】自然吸気型の燃料電池の発電部1において、空間を挟んで酸化剤極31と対向した隔壁33を備え、第1の端部361と第1の端部361より低い第2の端部362のそれぞれの近傍に配置された第1連通口371と第2連通口372を備えることにより、酸化剤極31と垂直方向への水蒸気の拡散を防ぎながら、燃料である空気が発電時の発熱での熱対流によって第2連通口372から供給され、発電後の空気は第1連通口371から排気することによって、安定した発電が可能であり高い発電効率を維持しながら発電部1のドライアップを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は外部負荷の内部電源として用いられる燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ノートパソコンや携帯電話等の電子機器の電源として、主にリチウムイオン電池に代表される二次電池が使用されている。しかし、これらの電子機器の更なる使用時間の長期化の要望、近年の電子機器の高機能化に伴い、高出力で充電の必要がない燃料電池の利用が期待されている。また燃料電池には多数の方式が存在するが、上記の電子機器に用いられる燃料電池には、そのシステムの小型化・簡素化が容易である事から固体高分子形燃料電池の適用が有望である。
【0003】
固体高分子形燃料電池では燃料極に燃料を、酸化剤極に空気中の酸素を与える事によって発電をする。この時燃料極から固体高分子膜中を移動してきたプロトンが、酸化剤極で酸素と結合して水を生成する。酸化剤極で生成された水は固体高分子膜中に保持されるが、その多くは酸化剤極に供給される空気中に蒸発していく。また固体高分子膜中をプロトンが移動する為には水が必要であるが、燃料電池が発電時に発生する熱により発電部が高温になり、例えば酸化剤ガスの湿度が低下してしまうドライアップ(ドライアウト)が生じて発電性能が低下する。その為、発電部は一定の湿度を保つ必要がある。
【0004】
そこで、酸化剤極に対してファンを用いて強制的に空気を供給し、放熱性能を向上させ、発電部が高温になるのを防ぐことでドライアップを生じさせない技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、ファンを動作させる為に電力が必要であり、該電力を燃料電池や二次電池から供給する必要がある為、燃料電池システムの発電効率が低下してしまう。
【0006】
また、電力を用いずに発電部のドライアップを防ぐ技術として、酸化剤極から突出して触媒層上に備えられ水蒸気を結露させるコの字状の結露手段を備え、被覆領域の水蒸気圧を高くする技術が提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−95581
【特許文献2】特開2008−198385
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2の構成では、水蒸気を結露させる結露手段が燃料の触媒層上の一部を覆う構成となっており、燃料極に対する空気の供給が阻害されてしまい、特に多くの燃料を必要とする高電流密度条件では発電効率が低下してしまう。
【0009】
そこで、本発明は上記の点に鑑みてなされたもので、安定した発電が可能であり高い発電効率を維持しながら発電部のドライアップを抑制することが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明の燃料電池の第1の特徴は、燃料極と酸化剤極と燃料極及び酸化剤極に挟持された電解質膜から構成される発電部と、大気と連通する連通口とを有し、連通口を介して大気中の空気が酸化剤として酸化剤極に自然吸気によって供給される燃料電池であって、酸化剤極と、酸化剤極の電解質膜が配置された面に対向するように設けられた隔壁と、酸化剤極と隔壁とによって構成された空間と、を有する酸化剤極部を備え、酸化剤極側部は、第1の端部と、第1の端部とは逆側の第2の端部とを備え、第1の端部は、第2の端部よりも高い位置に備えられ、第1の端部と第2の端部との中心から第1の端部寄りの少なくとも1つの第1連通口と、第1の端部と第2の端部との中心から第2の端部寄りの少なくとも1つの第2連通口と、を備えることを要旨とする。
【0011】
かかる特徴によれば、自然吸気型の燃料電池の酸化剤極において、熱対流によって上昇する空気の流れの入り口と出口に連通口が備えられているため空気の供給と排気を十分確保しながら、隔壁によって電解質膜と垂直方向の大気への水蒸気の拡散が防止する事ができる。従って、高い発電性能を保持しながら、発電時のドライアップを抑制することができる。
【0012】
本発明の燃料電池の第2の特徴は、第1の特徴の燃料電池において、前記第2の端部の側方には、前記酸化剤極に対して水を供給する加水手段を備えることを要旨とする。
【0013】
かかる特徴によれば、空気供給側の連通口から酸化剤極に対して水を供給する事により酸化剤極の湿度を高く保つことができる。
【0014】
本発明の燃料電池の第3の特徴は、第2の特徴の燃料電池において、前記加水手段は水貯留部から供給された水を蒸発する蒸発部を備える事を要旨とする。
【0015】
かかる特徴によれば、水貯留部に備えられた水を水蒸気として蒸発させるために、ドライアップを長時間抑制する事ができる。
【0016】
本発明の燃料電池の第4の特徴は、第3の特徴の燃料電池において、前記加水手段は加熱手段を備え、前記蒸発部は前記加熱手段によって加熱される事を要旨とする。
【0017】
かかる特徴によれば、蒸発手段が加熱手段によって高温に保たれ、より多くの水の蒸発が可能であるため、ドライアップの抑制をより効果的におこなう事ができる。
【0018】
本発明の燃料電池の第5の特徴は、第4の特徴の燃料電池において、前記加熱手段は発電時に前記発電部で発生する熱を前記蒸発部へと伝熱する伝熱体であることを要旨とする。
【0019】
かかる特徴によれば、加熱手段は発電部の発電時に発生する熱を利用するため、蒸発部を高温にするために特別にエネルギーを利用することがないので、低エネルギーでドライアップを抑制することができる。
【0020】
本発明の燃料電池の第6の特徴は、第3の特徴から第5の特徴のいずれかの燃料電池において、前記加水手段は、前記蒸発部以外で大気と接する面に断熱手段を有することを要旨とする。
【0021】
かかる特徴によれば、加水手段に与えられた熱エネルギーが水の蒸発にのみ利用されるため、ドライアップの抑制をより低エネルギーで行う事ができる。
【0022】
本発明の燃料電池の第7の特徴は、第3の特徴から第6の特徴のいずれかの燃料電池において、前記蒸発部は表面に1つ以上の隆起形状を有する面であることを要旨とする。
【0023】
かかる特徴によれば、蒸発部の表面積が大きく、蒸発部の単位面積当たりの水が蒸発することができる面積を大きく確保することができるため、小型の加水手段によりドライアップ抑制の効果が得られる。
【0024】
本発明の燃料電池の第8の特徴は、第3の特徴から第7の特徴のいずれかの燃料電池において、前記発電部の温度を検出する検出部を備え、前記検出部で得た検出値が所定値以上の場合に前記蒸発部にて前記水を蒸発させるよう加水手段を制御する制御部を備えることを要旨とする。
【0025】
かかる特徴によれば、制御部は検出部で得た温度情報をもとに、発電部が高温となってドライアップ状態になった時に蒸発部で水を蒸発するよう制御する。従ってドライアップでない状態では水は蒸発しないため、無駄なエネルギーを必要としない効率的なドライアップ抑制効果が得られる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、安定した発電が可能であり高い発電効率を維持しながら発電部のドライアップを抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態に係る燃料電池の概略図である。
【図2】図1の点線で示した領域の断面外略図である。
【図3】図1の破線で示した領域の断面外略図である。
【図4】本発明の第1実施形態の連通口のその他の設置例である。
【図5】本発明の第1実施形態の連通口のその他の設置例である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る燃料電池の概略図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る燃料電池の概略図である。
【図8】本発明の第4実施形態に係る燃料電池の概略図である。
【図9】蒸発部の一具体例の概略図である。
【図10】本発明の第5実施形態に係る燃料電池の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[第1実施形態]
図1から図5に基づいて本発明の第1実施形態に係る燃料電池を説明する。
【0029】
図1には本発明の第1実施形態に係る燃料電池の概略、図2及び図3には図1の断面図、図4及び図5には図1に示す本実施形態の別の形態の概略を示してある。
【0030】
図1に示すように、発電部1は鉛直方向に備えられた電解質膜11が燃料極21を含む燃料極部2と酸化剤極31を含む酸化剤極部3に挟持されることによって構成される構造体である。電解質膜11は鉛直方向に配置されていることが望ましいが、この姿勢での使用に限定されるものではない。即ち燃料電池が備えられた機器の使用者が一時的に燃料電池を傾けたり、電解質膜11が水平になるように使用される事も可能である。燃料極21、酸化剤極31に対して固体高分子形燃料電池に用いられる燃料が供給される。ここで燃料極21に供給される燃料とは例えばメタノール、エタノール、水素化ホウ素ナトリウム水溶液等の液体燃料、水素、等がある。一方、酸化剤極31には燃料として空気中の酸素が供給される。また燃料極部2はこれら燃料を外部と遮断する為に燃料極外壁23が備えられていることが好ましい。酸化剤極部3は発電に用いる燃料として空気中の酸素が供給される。
【0031】
図2には図1の点線で示した箇所の断面図を示してある。電解質膜11を境に燃料が供給される側(図中右側)が燃料極部2であり、空気が供給される側(図中左側)が酸化剤極部3である。電解質膜11の両側表面には触媒が担持された炭素で構成された触媒層が形成されている。ここで触媒の例としては白金粒子を担持させた触媒、ルテニウムとセレンの合金触媒などが挙げられるが、燃料に対して触媒活性を有するものであれば特にこれに限らない。触媒層表面には触媒層に対する燃料の拡散性を確保しながら導電性を得るガス拡散層(GDL)が形成される。ガス拡散層は多孔質の導電材料であり、最も多く用いられる例として炭素繊維が挙げられる。またガス拡散層は多孔質である事からバルクの金属程の高い導電性は得られず、それ自体を電極として使用するには抵抗損失が大きい。その為ガス拡散層表面には金、SUS、アルミ、ニッケル等の金属部材やカーボンで構成される集電部材が配置され、小さい抵抗損失で集電を行う。ここでは触媒層とGDLと集電部材を含めたものをまとめて燃料電池の電極として扱い、燃料が供給される側の電極を燃料極21、空気が供給される側の電極を酸化剤極31とよぶ。
【0032】
燃料極21には燃料を供給するための燃料供給口22が備えられており、図示していない燃料源から燃料が供給される。燃料源には液体燃料や圧縮水素等の燃料そのものを貯蔵した燃料タンクや、水素化ホウ素ナトリウムや水素化アルミ等の水素貯蔵金属類を加水分解する事によって水素を得る水素発生器、メタノールを改質して水素を得る改質器が挙げられる。
【0033】
大気中の酸素を供給する必要がある為、酸化剤極31表面は空間32が確保され、空間32を中心に酸化剤極31と対面するように隔壁33が備えられている。酸化剤極31に対する空気の拡散性を確保するために空間32には基本的に遮蔽物がない構造が望ましいが、発電部1の形状保持や導電性を得る為の積層方向の締結力を負荷するために、酸化剤極31と隔壁33を接続する接続部34が備えられていても良い。
【0034】
また酸化剤極31に対して垂直な外面である端部は、発電部1外部からの物質の混入による機械的な破壊や、電気的なショートを防ぐ為に酸化剤極外壁35が備えられていることが望ましい。しかし発電時は空間32に空気中の酸素を供給する必要がある為、全ての酸化剤極外壁35が覆われているのではなく、一部は発電部1外部の空気と空間32を繋ぐ連通口が設けられている。
【0035】
ここで本発明の作用について説明する。燃料電池の発電時には燃料極21の触媒層・燃料・電解質膜11の三相界面でプロトンと電子が生成される反応が起こる。燃料極21側で生成したプロトンは電解質膜11中を通して酸化剤極31へと移動し、電子は集電体を介して外部回路を流れて酸化剤極31へと移動する。酸化剤極31へと移動したプロトンは酸化剤極31中の三相界面において空気中の酸素と外部回路を移動してきた電子と結合し水を生成する。上記プロセスにより発電部1は発熱を伴い発電を行う。酸化剤極31で生成された水は発電時の熱により蒸発し水蒸気となって空間32中に拡散する。また空間32に存在する空気は発電時の発熱による熱対流によって上方へと流動する。
【0036】
また図1,2に示すように発電部1の上側に存在する第1の端部361寄り、発電部1の下側に存在する第2の端部362寄りにそれぞれ一つ以上の連通口が配置されている。ここで第1の端部361寄りの連通口を第1連通口371、第2の端部362寄りの連通口を第2連通口372と呼ぶ。空間32中の空気は熱対流によって下方から上方へと流動する。本例は無駄な電力消費を省き発電システムのエネルギー効率を高くするために、ポンプやブロアー等を用いた強制的な空気供給は行わない。そのため空気供給は主に先述した熱対流によって行われる。即ち第2連通口372から空気が供給され、第1連通口371から発電で用いられたカソードオフガスが排気されるため、効果的な拡散性を得ることが出来る。ここで第1連通口371と第2連通口372の位置であるが、第1の端部361と第2の端部362の中央を中心線38として、中心線38から第1の端部361と第2の端部362までのそれぞれの中央よりも端部よりであることが望ましい。即ち発電部1を縦方向に4分割した時の最も上方の領域に第1連通口371が、最も下方の領域に第2連通口372がある事が好ましい。図3に図1の破線で示す面の断面図を示してある。図中のドットで示す領域は発電領域311であり、この領域に触媒層が形成されている。また第1連通口371と第2連通口372は上記の領域に集中して配置されている。これにより下方の第2連通口372から空間32内に発電部1外部から空気が供給され、上方の第1連通口371から空間32内の空気が排出されるという効果が顕著に得られる。
【0037】
ここで仮に隔壁33が備えられていない場合には空間32中の水蒸気は拡散により上方だけでなく電解質膜31の垂直方向にも移動して水蒸気が非常に拡散しやすい状態となる。その為、発電部1が高温の場合、水蒸気が過剰に拡散されてしまいドライアップ状態に陥りやすい。一方隔壁33が存在する場合には電解質膜31の垂直方向への水蒸気の拡散が防がれる為、隔壁33が存在する場合よりも空間32内の水蒸気圧が高く保たれる。また空気は空間32内を上方に向かって移動する過程で、酸化剤極31上で発生した水蒸気を含む事になるため、空間32の上方の方が高い水蒸気圧に保たれる。酸化剤極31からの放熱により温められた空気が下方から上方に移動しているために、上方に存在する空気のほうが高温になる。そのため酸化剤極31の熱は上方では放熱されにくい為に高温となり、水蒸気の蒸発が著しくドライアップが起こりやすい。つまり隔壁33を配置することにより、ドライアップしやすい上方の酸化剤極31に対して水蒸気を供給できるため、ドライアップの効率的な抑制をすることができる。
【0038】
また図4、図5に連通口の別の配置例の概略を示す。図4は隔壁33に幅広の第1連通口371(a)と第2連通口372(a)が備えられた例である。また、第1連通口371(a)と第2連通口372(a)は酸化剤極31に対して垂直な壁面だけでなく、隔壁33に設けられていても同様の効果を得る事ができる。また本例では第1連通口371(a)と第2連通口372(a)は酸化剤極31の発電領域311と同等の幅を有している。そのため、空気の供給と排気が行われやすく、隔壁33を備えた事による空気の拡散性の阻害が生じにくくなっている。さらに図5に示すように壁面と隔壁33の両方に第1連通口371(a)、(b)と第2連通口372(a)、 (b)が複数備えられている場合も同様の効果が得られる。
【0039】
また本発明は単層セルのみならず積層セルに適用した場合においても有効である。積層セルに適用した場合には燃料極外壁23を隔壁33として利用することも可能である。単層セルの場合でも燃料電池に用いる制御ユニットや燃料源等の、発電部1以外のユニットや、燃料電池の電力を用いて使用される使用機器の一部を隔壁33として利用しても良い。
【0040】
即ち本実施形態によれば発電時に十分な空気拡散性を確保したまま、ドライアップの効率的な抑制をすることが出来る。
[第2実施形態]
図6に基づいて本発明の第2実施形態に係る燃料電池を説明する。
【0041】
図6には本発明の第2実施形態に係る燃料電池の概略を説明する概略図を示してある。尚、第1実施形態の燃料電池と同一部材には同一符号を付してある。
【0042】
図6に示すように発電部1の第2連通口372付近に加水手段4が備えられている。加水手段4は酸化剤極31に対して水を送る構造体である。ここで加水手段4の例としては噴霧によって酸化剤極31を加湿することで加水する噴出装置や、毛細管力を利用して酸化剤極31まで配置された液水路等が挙げられる。発電部1の使用環境が分かっている場合では、酸化剤極31による発熱とそれに伴う水蒸気の蒸発量が得られるため、発電に必要な水量を予め設定し水を噴霧し続ける事でドライアップを抑制することが出来る。また液水路に関しても同様に発電時の水必要量に合わせて毛細管力を設定することでドライアップを効果的に抑制することが出来る。
【0043】
即ち本実施形態によれば第1実施形態に示す効果に加え、ドライアップの更なる抑制をすることができる。
[第3実施形態]
図7に基づいて本発明の第3実施形態に係る燃料電池を説明する。
【0044】
図7には本発明の第3実施形態に係る燃料電池の概略を説明する概略図を示してある。尚、第1実施形態及び第2実施形態の燃料電池と同一部材には同一符号を付してある。
【0045】
図7に示すように加水手段4には導水路41を介して貯留手段42が接続されている。貯留手段42には水が蓄えられており、導水路41を通る事によって加水手段4へと水が供給される。そのため加水手段4において貯留手段42の水を供給する事で連続的な水の蒸発が可能である。ここで加水手段4は水を水蒸気へと蒸発させ、第2連通口372に対して水蒸気を与える蒸発部43を備えている。第2連通口372では付近の空気を取り込むので、蒸発部43で蒸発した水蒸気も空気と一緒に取り込む。ここで加水手段4は水が蒸発するための機能を備えていれば良いため、水が存在する板材や、貯留手段そのものでも構わない。しかしより多くの水蒸気を蒸発させる為に蒸発部43に近接して加熱手段44が備えられていても良い。加熱手段44の例としてはヒーターによる発熱、水素発生器の水素発生反応の反応熱、改質器の改質反応に用いる熱、燃料電池を使用する電子機器の発熱等が挙げられる。むろん水を蒸発させるための熱エネルギーが与えられる物質であれば上記に限らない。加熱手段44によって温められた蒸発部43は高温となり、蒸発部43に接触するより多くの水を蒸発することができる。
【0046】
即ち本実施形態によればドライアップの抑制を長時間持続することができる。
[第4実施形態]
図8に基づいて本発明に係る第4実施形態について説明する。
【0047】
図8には本発明の第4実施形態に係る燃料電池の概略を説明する概略図を示してある。尚、第1実施形態乃至第3実施形態の燃料電池と同一部材には同一符号を付してある。
【0048】
図8に示すように加熱手段44として伝熱体441を備えられており、加水手段4には断熱手段45が備えられている。伝熱体441は酸化剤極31と蒸発部43と接続されており、酸化剤極31で発生する発電反応における発熱を吸熱し、蒸発部43へと熱を伝える。伝熱体441は酸化剤極31での発熱をより効率的に吸熱するために図3に示した発電領域311の全体を覆う構造が好ましい。また酸化剤極31に対する空気供給の阻害をしないために多孔質体であることが良い。多孔質体の例としては発泡金属、パンチングメタル等の金属部材が高い熱伝導性を有するため好ましい。また発電部1の構成部材数を減少させるために伝熱体441と酸化剤極31の集電体部材は同一のものであっても良い。こうして伝熱体441は酸化剤極31で発電時の発熱を吸熱する事によって高温となり、伝熱体441の熱を蒸発部43に伝えることで蒸発部43での水蒸気の蒸発の促進をすることができる。また断熱手段45は加水手段4の蒸発部43以外で大気と接する箇所に設けられる。その為、加水手段4に伝えられた熱エネルギーは蒸発部43での水の蒸発にのみ有効に利用される。ここで断熱手段45の例としては内部に真空層を有する板材で形成された真空断熱層や、多孔質の樹脂で形成された断熱シート等が挙げられる。
【0049】
また蒸発部43は表面が隆起形状を有する事が好ましい。隆起形状は蒸発部43の見かけの面積に対して、水を蒸発させるための有効面積が広く確保できる形状であれば良い。上記の隆起形状を有する事により、蒸発部43はより多くの水を蒸発させることができる。
【0050】
図9に蒸発部43のその他の具体例を示す。図9は酸化剤極外壁35に備えられた第2連通口372の壁面が蒸発部43となっている構造である。また図3に示した発電領域311での発熱を効率良く吸熱できるように図8に示した伝熱体441を集電部材として利用するべく、図8に示した伝熱体441は酸化剤極31と接しており、熱的に接続状態となっている。こうして発電部1で発生した熱は図8に示した伝熱体441を通じて蒸発部43に与えることにより、蒸発部43を高温にすることが出来る。
【0051】
蒸発部43となっている第2連通口372の壁面には隆起形状として複数のフィン431が備えられている。また全ての面で有効に水を蒸発することが出来るよう、蒸発部43はその表面に水を拡散させることが望ましい。水の拡散手段としては、蒸発部43表面を親水処理にする、蒸発部43表面に吸水繊維を貼り付ける、蒸発部43表面に細かい溝を設け毛細管力を利用した水の移送を行う等の手段が挙げられる。上記拡散手段に限らず、蒸発部43全面に水を拡散させることができる手段であればよい。
【0052】
即ち本実施形態によれば第3実施形態に示す効果に加え、水の蒸発に用いるエネルギーは発電時の発熱を利用するため、加水手段4を動作させるために余分なエネルギーを利用する必要がなく、ドライアップの抑制を少ない低消費電力で行う事ができる。
[第5実施形態]
図10に基づいて本発明に係る第5実施形態について説明する。
【0053】
図10には本発明の第5実施形態に係る燃料電池の概略を説明する概略図を示してある。尚、第1実施形態乃至第4実施形態の燃料電池と同一部材には同一符号に付してある。
【0054】
図10に示すように発電部1には検出部5を備え、検出部5で得た値は破線で示す信号線を介して制御部6に入力され、制御部6は加水手段4と破線で示す信号線によって接続される。
【0055】
検出部5は発電部1の温度を検出する機能を持っており、発電部1の温度が測定することが出来れば配置される位置はどこでも良い。発電部分に最も近い酸化剤極31は温度状況によりドライアップ現象を生じるために、酸化剤極31の温度を測定する事が最も望ましい。
【0056】
こうして検出部5で得た発電部1の温度は信号線により制御部6へと入力される。温度を読み取った制御部6は、温度がある一定値以上の時に加水手段4にて水蒸気を蒸発させるように制御を行う。なお発電部1は外気温が25℃の場合70℃以上の高温になってくるとドライアップ現象により発電特性が大きく低下するため、検出部5で得た温度が70℃以上である場合には水蒸気を蒸発させると良い。
【0057】
水蒸気の蒸発を制御する手段には以下のような例が挙げられる。制御部6は加熱手段44に接続され、水蒸気を蒸発させる必要がある場合には加熱手段44を作動させて蒸発を促し、水蒸気を蒸発させる必要がない場合には加熱手段44を停止する。このように加熱手段44の作動時と停止時を使い分ける事により水蒸気の蒸発量を制御する方法がある。また他の方法として導水路41にはバルブが備えられており、制御部6はバルブと接続され、水蒸気が蒸発させる必要がある場合にはバルブを開状態にすることで水を蒸発部43に送液する。水蒸気を蒸発させる必要がない場合にはバルブを閉状態にし、蒸発部43への送液を停止することで蒸発部43における水蒸気の蒸発を停止する。このように蒸発部43への水の送液を制御することで、水蒸気の蒸発量を制御する方法もある。また発電部1が第4実施形態のような伝熱体441である場合には、伝熱体441の蒸発部43までの過程に断熱構造と伝熱構造を切り替える切替手段を有する例が挙げられる。切替手段の例としては水蒸気が必要な場合には伝熱体441は熱的に接続されるが、水蒸気が必要でない場合には伝熱体441の一部が離間することで熱的な該断熱状態にする手段がある。
【0058】
即ち本実施形態によれば、第2実施形態乃至第4実施形態のドライアップの抑制を、少ない水量と熱エネルギーにより効果的に行うことができる。
【符号の説明】
【0059】
1 発電部
2 燃料極部
3 酸化剤極部
4 加水手段
5 検出部
6 制御部
11 電解質膜
21 燃料極
22 燃料供給口
23 燃料極外壁
31 酸化剤極
32 空間
33 隔壁
34 接続部
35 酸化剤極外壁
361 第1の端部
362 第2の端部
38 中心線
41 導水路
42 貯留手段
43 蒸発部
44 加熱手段
45 断熱手段
371 第1連通口
372 第2連通口
431 フィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極と酸化剤極と前記燃料極及び前記酸化剤極に挟持された電解質膜から構成される発電部と、大気と連通する連通口とを有し、前記連通口を介して大気中の空気が酸化剤として前記酸化剤極に自然吸気によって供給される燃料電池であって、
前記酸化剤極と、前記酸化剤極の前記電解質膜が配置された面に対向するように設けられた隔壁と、前記酸化剤極と前記隔壁とによって構成された空間と、を有する酸化剤極部を備え、
前記酸化剤極側部は、第1の端部と、前記第1の端部とは逆側の第2の端部とを備え、
前記第1の端部は、前記第2の端部よりも高い位置に備えられ、
前記第1の端部と前記第2の端部との中心から前記第1の端部寄りの少なくとも1つの第1連通口と、
前記第1の端部と前記第2の端部との中心から前記第2の端部寄りの少なくとも1つの第2連通口と、
を備えることを特徴とした燃料電池。
【請求項2】
前記第2の端部の側方には、前記酸化剤極に対して水を供給する加水手段を備えることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記加水手段は水貯留部から供給された水を蒸発する蒸発部を備える事を特徴とする請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記加水手段は加熱手段を備え、前記蒸発部は前記加熱手段によって加熱される事を特徴とする請求項3記載の燃料電池。
【請求項5】
前記加熱手段は発電時に前記発電部で発生する熱を前記蒸発部へと伝熱する伝熱体であることを特徴とする請求項4記載の燃料電池。
【請求項6】
前記加水手段は、前記蒸発部以外で大気と接する面に断熱手段を有することを特徴とする請求項3から請求項5のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項7】
前記蒸発部は表面に1つ以上の隆起形状を有する面であることを特徴とする請求項3から請求項6のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項8】
前記発電部の温度を検出する検出部を備え、前記検出部で得た検出値が所定値以上の場合に前記蒸発部にて前記水を蒸発させるよう加水手段を制御する制御部を備えることを特徴とする請求項3から請求項7のいずれかに記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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