説明

燃料電池

【課題】燃料電池において、電極に供給される反応ガスの量にばらつきが生じる可能性を低減する技術を提供することを目的とする。
【解決手段】燃料電池は、第1のガス拡散層を有する発電モジュールと、第1のセパレータとを備える。第1のセパレータの面には、燃料電池の設置状態において、一次流路と、二次流路と、流路壁部と、が設けられている。第1のガス拡散層は、上部領域と、一次流下部領域とを有する。上部領域と下部領域とは、少なくとも一部において、ガス拡散性と親水性の少なくとも一方の程度が異なるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜の両面に電極を接合した膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly、以下、「MEA」とも呼ぶ)と、MEAの両側を挟むように積層されたガス拡散層と、外部からの反応ガスをMEAに供給すると共に外部へ排ガス(未反応ガス)を排出するための反応ガス流路とを備える。
【0003】
従来、反応ガス流路として、外部からの反応ガスをガス拡散層に供給するための一次流路と、排ガスを外部へ排出するための二次流路とが、互いに独立して配置されている流路が知られている(例えば、特許文献1)。この反応ガス流路は、一次流路の末端が閉塞している。また、この反応ガス流路は、反応ガス流路が形成された部材の面方向について一次流路を挟むように二次流路が配置されている。
【0004】
このような、反応ガス流路を有する燃料電池では、一次流路の末端が閉塞しているため、一次流路を流れる反応ガスの殆どをガス拡散層に流入させることができる。従って、ガス拡散層へ流入することなく、二次流路から外部へ排出される反応ガスの量を低減できるため、発電効率の向上が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−171608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、燃料電池のカソード側では、電気化学反応により水が生成する。また、カソード側で生成した水の一部は、電解質膜内を移動(拡散)してアノード側に流入する。一次流路に存在する水は、外部へ排出させるためにガス拡散層を介して二次流路に移動させる必要がある。しかしながら、従来、一次流路から二次流路への水の移動が良好に行われない場合があった。この場合、一次流路の水は反応ガスの流れに沿って下流側へと移動してしまい、一次流路下流側では水が大量に滞留する場合があった。一次流路下流側で水が大量に滞留すると、一次流路下流側への反応ガスの流通が阻害され、電極に供給される反応ガスの量にばらつきが生じ、発電効率が低下する場合があった。また、燃料電池の設置状態によっては、ガス拡散層内の水の分布にばらつきが生じる場合があった。特に、燃料電池の設置状態において、一次流路を挟んで上下に二次流路が配置される場合、重力の影響によりガス拡散層内における水の分布のばらつきが顕著になる場合があった。ガス拡散層に存在する水の分布にばらつきが生じると、電極に供給される反応ガスの量にばらつきが生じ発電効率が低下する場合があった。
【0007】
従って、本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、燃料電池において、電極に供給される反応ガスの量にばらつきが生じる可能性を低減する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することができる。
【0009】
[適用例1]燃料電池であって、
電解質膜と前記電解質膜の両面に積層された電極とを含む膜電極接合体と、前記膜電極接合体の両面に積層された第1と第2のガス拡散層と、を有する発電モジュールと、
前記発電モジュールの前記第1のガス拡散層側に更に積層された第1のセパレータと、を備え、
前記第1のセパレータの2つの面のうち前記第1のガス拡散層と対向する面には、前記燃料電池の設置状態において、
下流側が閉塞した略水平方向に延びる凹状の一次流路であって、外部から供給された第1の反応ガスを流通させる一次流路と、
上流側が閉塞し、略水平方向に延びると共に前記一次流路の上下にそれぞれ位置する凹状の二次流路であって、前記第1のガス拡散層を介して導入された前記第1の反応ガスを外部へ排出させるための二次流路と、
前記一次流路と前記二次流路との間に配置され、面方向において前記一次流路と前記二次流路とを区画する凸状の流路壁部と、が設けられ、
前記第1のガス拡散層は、前記発電モジュールの各構成の積層方向に沿って見たときに、前記一次流路の上側に設けられた前記流路壁部である上部流路壁部と重なる領域である上部領域と、前記一次流路の下側に設けられた前記流路壁部である下部流路壁部と重なる領域である下部領域とを有し、
前記上部領域と前記下部領域とは、少なくとも一部において、ガス拡散性と親水性の少なくとも一方の程度が異なるように構成されている、燃料電池。
【0010】
適用例1に記載の燃料電池によれば、一次流路からその上下を挟む二次流路へと反応ガスが流通する際に通過する第1のガス拡散層の上部領域と下部領域について、ガス拡散性と親水性の少なくとも一方の程度が異なるように構成されている。これにより、電極に供給される反応ガスの量にばらつきが生じる可能性を低減できる。ここで、本明細書において、「ガス拡散性」とは、多孔質部材などのガス透過性を有する部材において、一方の側から流入したガスが内部を通って他方の側から流出する場合における、一方の側から他方の側へのガスの移動のしやすさを表す度合いである。
【0011】
[適用例2]適用例1に記載の燃料電池であって、
前記上部領域の少なくとも一部は、前記下部領域よりも高い親水性を有する、燃料電池。
【0012】
下部領域は重力が加わる方向と反応ガスの流れが同じ方向(重力下方向)であるため、一次流路と二次流路を繋ぐような水(「水パス」ともいう。)が生じやすい。水パスが生じると、一次流路と二次流路の差圧を利用して一次流路から一次流路の下側に位置する二次流路へと容易に水を移動させることができる。これに対し、上部領域は重力が加わる方向(重力下方向)と反応ガスの流れ(重力上方向)が異なるため、一次流路から一次流路の上側に位置する二次流路へは水パスが生成されにくい。よって、反応ガスの流れを利用して水を移動させる必要がある。適用例2に記載の燃料電池によれば、上部領域の少なくとも一部は下部領域よりも親水性の程度が高いため、上部領域においても水パスの生成を促進できる。これにより、一次流路と二次流路との差圧を利用して一次流路から一次流路の上側に位置する二次流路へと水を容易に移動させることができる。これにより、一次流路内に水が滞留する可能性を低減できるため、電極に供給される反応ガスの量にばらつきが生じる可能性を低減できる。
【0013】
[適用例3]適用例1に記載の燃料電池であって、
前記上部領域の少なくとも一部は、前記下部領域よりも高いガス拡散性を有する、燃料電池。
【0014】
下部領域は重力が加わる方向と反応ガスの流れが同じ方向(重力下方向)であるため、一次流路と二次流路を繋ぐような水(「水パス」ともいう。)が生じやすい。水パスが生じると、一次流路と二次流路の差圧を利用して一次流路から一次流路の下側に位置する二次流路へと容易に水を移動させることができる。これに対し、上部領域は重力が加わる方向(重力下方向)と反応ガスの流れ(重力上方向)が異なるため、一次流路から一次流路の上側に位置する二次流路へは水パスが生成されにくい。よって、反応ガスの流れを利用して水を移動させる必要がある。適用例3に記載の燃料電池によれば、上部領域の少なくとも一部は、下部領域よりもガス拡散性が高いため、より多くの反応ガスを一次流路から上部領域に流通させることができる。これにより、反応ガスの流れによって一次流路(特に一次流路内の上部)に存在する水を上部領域を介して二次流路へと移動させることができる。これにより、一次流路内に水が滞留する可能性を低減できるため、電極に供給される反応ガスの量にばらつきが生じる可能性を低減できる。
【0015】
[適用例4]適用例1に記載の燃料電池であって、
前記下部領域の少なくとも一部は、前記上部領域よりも高いガス拡散性を有する、燃料電池。
下部領域では、重力が加わる方向と反応ガスの流れが同じ方向(重力下方向)であるため、上部領域に比べ多くの水が存在する傾向にある。適用例4に記載の燃料電池によれば、下部領域の少なくとも一部は、上部領域よりも高いガス拡散性を有することから、一次流路を流れる第1の反応ガスのより多くを下部領域に分配することができる。よって、第1の反応ガスの流れによって、下部領域の水を二次流路へと容易に移動させることができる。これにより、下部領域に滞留する水の量を低減できるため第1のガス拡散層内の面方向の水の分布のばらつきを低減できる。よって、電極に供給される反応ガスの量にばらつきが生じる可能性を低減できる。
【0016】
[適用例5]適用例3又は適用例4に記載の燃料電池であって、
前記上部領域と前記下部領域のいずれか一方の少なくとも一部は、他の領域よりも透気度が高い部分を有する、燃料電池。
一般に、透気度が高いほど、ガス拡散性が高くなる。適用例5に記載の燃料電池によれば、上部領域と下部領域のいずれか一方の一部の透気度を、他の領域の透気度よりも高くすることで、第1のガス拡散層内の面方向の水の分布のばらつきを低減できる。ここで、「透気度」とは、板状(膜状)の繊維基材や多孔質基材について、一方の面の側と他方の面の側との間に所定の圧力差を付与したときに、当該基材を厚み方向に通過する気体の単位時間あたりの量として求めることができる値である。
【0017】
[適用例6]適用例3に記載の燃料電池であって、
前記上部領域に、前記一次流路と前記二次流路とを繋ぐように切り込みが形成されている、燃料電池。
適用例6に記載の燃料電池によれば、第1のガス拡散層に切り込みを形成することで容易にガス拡散性の程度を高くすることができる。
【0018】
[適用例7]適用例6に記載の燃料電池であって、
前記切り込みは、前記一次流路側から前記二次流路側に向かうに従い、前記一次流路及び前記二次流路を流れる前記第1の反応ガスの流れ方向について、下流側に位置するように形成されている、燃料電池。
適用例7に記載の燃料電池によれば、一次流路と二次流路の反応ガスの流れ方向に沿って切り込みが形成されていることから、第1の反応ガスの流れを効率良く利用して一次流路の水を切り込みを介して二次流路に移動させることができる。これにより、第1のガス拡散層内の面方向の水の分布のばらつきを低減し、電極に供給される反応ガスの量にばらつきが生じる可能性を低減できる。
【0019】
[適用例8]適用例6又は適用例7に記載の燃料電池であって、
前記切り込みは、複数箇所に形成され、
前記一次流路及び前記二次流路を流れる前記第1の反応ガスの流れ方向について、
上流側から下流側に向かうに従って、隣り合う前記切り込みの距離が短くなる、燃料電池。
一般に、一次流路や二次流路の反応ガスの流れ方向について、一次流路において、下流側の方が上流側よりも存在する水の量が多くなる傾向にある。適用例9に記載の燃料電池によれば、下流側に向かうに従って、隣り合う切り込み同士の距離が短くなることから、より多くの水が存在する領域部分において、切り込みを介して一次流路から二次流路により多くの水を移動させることができる。これにより、一次流路内に水が滞留する可能性をより低減できるため、電極に供給される反応ガスの量をより均一にできる。
【0020】
[適用例9]適用例8に記載の燃料電池であって、
前記上流側から前記下流側に向かうに従って、前記切り込みの幅が大きくなる、燃料電池。
適用例9に記載の燃料電池によれば、一次流路の下流側に存在するより多くの水を、切り込みを介して一次流路から二次流路へと移動させることができる。これにより、一次流路内に水が滞留する可能性をより低減できるため、電極に供給される反応ガスの量をより均一にできる。
【0021】
[適用例10]適用例1,適用例3,適用例4のいずれか一つに記載の燃料電池であって、
前記上部流路壁部と前記下部流路壁部のいずれか一方の流路壁部は、他方の流路壁部よりも幅の小さい狭小部分を有する、燃料電池。
適用例10に記載の燃料電池によれば、第1のセパレータの流路壁部の幅を小さくすることによって、幅を小さくした流路壁部と重なる第1のガス拡散層のガス拡散性の程度を容易に高くすることができる。
【0022】
[適用例11]適用例10に記載の燃料電池であって、
前記狭小部分の幅は、前記一次流路及び前記二次流路を流れる前記第1の反応ガスの流れ方向について、上流側から下流側に向かうに従って単調減少する、燃料電池。
適用例11に記載の燃料電池によれば、水がより多く存在する一次流路及び第1のガス拡散層の下流側に向かうに従ってガス拡散性の程度を高くすることで、下流側に存在するより多くの水を一次流路から二次流路に容易に移動させることができる。これにより、第1の反応ガスの流通を良好に維持でき、電極に供給される反応ガスの量にばらつきが生じる可能性を低減できる。
【0023】
[適用例12]適用例1,適用例3,適用例4のいずれか一つに記載の燃料電池であって、
前記上部領域と前記下部領域のいずれか一方の領域は、他方の領域よりも厚みの大きい肉厚部分を有する、燃料電池。
適用例12に記載の燃料電池によれば、第1のガス拡散層の厚みを大きくすることで、ガス拡散性の程度を容易に高くすることができる。
【0024】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば燃料電池、燃料電池を搭載する車両等の移動体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施例としての燃料電池1の構成を示す概略図である。
【図2】アノードセパレータ30の詳細構成を説明するための図である。
【図3】カソードセパレータ50の詳細構成を説明するための図である。
【図4】発電モジュール20の詳細構成を説明するための図である。
【図5】第1実施例の効果を説明するための図である。
【図6】比較例の燃料電池1kを説明するための図である。
【図7】第2実施例の燃料電池1aを説明するための図である。
【図8】第3実施例の燃料電池1bを説明するための図である。
【図9】第3実施例の変形態様を説明するための図である。
【図10】第4実施例のアノードセパレータ30cを説明するための図である。
【図11】第4実施例の燃料電池1dを説明するための図である。
【図12】第4実施例の変形態様のアノードセパレータ30dを説明するための図である。
【図13】第5実施例のアノードセパレータ30eについて説明するための図である。
【図14】第5実施例の燃料電池1eを説明するための図である。
【図15】幅Tfと幅Tgの好ましい設定方法を説明するための図である。
【図16】第6及び第7実施例の燃料電池1f,1gを説明するための図である。
【図17】第8実施例の燃料電池1hを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
A.各種実施例及び変形態様:
B.変形例:
【0027】
A.各種実施例及び変形態様:
A−1:第1実施例:
図1は、本発明の第1実施例としての燃料電池1の構成を示す概略図である。図1では方向を特定するために互いに直交するXYZ軸を付している。なお、これ以降の図についても、必要に応じて互いに直交するXYZ軸を付している。燃料電池1は、水素と酸素の供給を受けて発電する固体高分子型燃料電池である。燃料電池1は、例えば車両等の移動体に搭載され、移動体の動力源として使用される。また、定置型の家庭用電源としても使用される。燃料電池1の設置状態では、Z軸方向が重力方向となり、Z軸負方向が重力下方向となる。燃料電池1は、複数の単セル10が積層されたスタック構造を有する。単セル10は、発電モジュール20と、発電モジュール20を挟むように両側に積層(配置)されたアノードセパレータ30及びカソードセパレータ50とを備える。
【0028】
発電モジュール20は、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)27と、MEA27の両側を挟むように積層(配置)されたアノードガス拡散層24及びカソードガス拡散層25と、を備える。MEA27は、電解質膜21と、電解質膜21の両側を挟むように積層(配置)された電極としてアノード22及びカソード23と、を備える。
【0029】
電解質膜21は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。すなわち、電解質膜21は、固体高分子電解質膜である。
【0030】
アノード22及びカソード23は、触媒(例えば白金、あるいは白金合金)を備えており、これらの触媒を、導電性を有する担体(例えば、カーボン粒子)上に担持させることによって形成されている。アノード22及びカソード23を形成するには、例えば、白金等の触媒金属を担持させたカーボン粉を作製し、この触媒担持カーボンと、電解質膜21を構成する電解質と同様の電解質とを用いてペーストを作製し、作製した触媒ペーストを電解質膜21上に塗布すればよい。なお、アノード22及びカソード23は全域に亘って電気化学的表面積(ESCA)が略均一になるように作製されている。
【0031】
アノードガス拡散層24及びカソードガス拡散層25は、ガス透過性を有する導電性部材、例えば、カーボンペーパやカーボンクロス等によって形成することができる。また、多孔質の金属焼結体を用いて形成することもできる。MEA27とガス拡散層24,25とは、MEA27をガス拡散層24,25によって挟持して、プレス接合することによって一体化されている。2つのガス拡散層24,25は各セパレータ30,50から供給された反応ガスを拡散させるために用いられる。
【0032】
2つのセパレータ30,50は、ガス不透過な導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、焼成カーボン、あるいはステンレス鋼などの金属材料により形成される板状部材である。各セパレータ30,50のうち発電モジュール20と対向する側の面には、反応ガス(酸化剤ガスとしての空気、燃料ガスとしての水素)を発電モジュール20に供給するための凹状(溝状)の反応ガス流路32,52が形成されている。具体的には、反応ガス流路32,52は、外部から供給された反応ガスが流通する一次流路32in,52inと、反応ガスを外部へ排出するための二次流路32out,52outとを備える。燃料電池1の設置状態において、一次流路32in,52inと二次流路32out,52outとは上下に交互になるように配置されている。すなわち、燃料電池1の設置状態において、一次流路32in,52inの上下に二次流路32out,52outが位置する。燃料電池1の設置状態において、一次流路32in,52in、及び、二次流路32out,52outは、略平行に延びている。図中の矢印の向きに示すように、一次流路32in,52inを流れる反応ガスは、ガス拡散層24,25を介して二次流路32out,52outに流入する。すなわち、一次流路32in,52inと二次流路32out,52outは、発電モジュール20を介して連通している。
【0033】
2つのセパレータ30,50には、一次流路32in,52inと、二次流路32out,52outとの間に配置された凸状の流路壁部35,55が設けられている。流路壁部35,55は、セパレータ30,50の面方向において一次流路32in,52inと二次流路32out,52outとを区画する。また、燃料電池1の設置状態において、流路壁部35は、上部流路壁部35f,55fと、下部流路壁部35g,55gと、を備える。上部流路壁部35f、55fは、燃料電池1の設置状態において、一次流路32in,52inの上側に位置する。下部流路壁部35g,55gは、燃料電池1の設置状態において、一次流路32in,52inの下側に位置する。各セパレータ30,50における、上部流路壁部35f,55fと、下部流路壁部35g,55とは略同一の幅を有する。
【0034】
図2は、アノードセパレータ30の詳細構成を説明するための図である。図2は、アノードガス拡散層24と対向(接触)する側の面を図示している。また、図2には、アノードセパレータ30に設けられた流路を通過する水素の流れを矢印で図示している。なお図2には、発電モジュール20(図1)のうち、発電領域GE(詳細は後述)の外縁と重なる部分が一点鎖線で図示されている。
【0035】
アノードセパレータ30の外周部分には、反応ガスや冷却媒体(例えば、冷却水)が流通するマニホールドM1〜M6が貫通孔として設けられている。また、アノードセパレータ30には、供給側連絡流路31と、分配流路38と、一次流路32inと、二次流路32outと、合流流路36と、排出側連絡流路37と、を備える。マニホールドM1〜M6は、複数の単セル10を積層し燃料電池1が組み立てられた場合に、積層方向に延びる流路を形成する。燃料ガス供給マニホールドM1には、外部からの水素が流通する。燃料ガス排出マニホールドM2には、外部に排出される水素や水が流通する。なお、排出される水素の少なくとも一部は、再び燃料ガス供給マニホールドM1に供給され、発電モジュール20における電気化学反応に利用しても良い。酸化剤ガス供給マニホールドM3には、外部からの空気(酸素)が流通する。酸化剤ガス排出マニホールドM4には、外部に排出される空気や水が流通する。冷却媒体供給マニホールドM5には、外部からの冷却水が流通する。冷却媒体排出マニホールドM6には、外部へ排出される冷却水が流通する。冷却媒体排出マニホールドM6を流通した冷却水は、再び冷却媒体供給マニホールドM5に供給され利用される。冷却水は、燃料電池1の温度調節のために用いられる。
【0036】
分配流路38は、供給側連絡流路31を介して燃料ガス供給マニホールドM1から流入した水素を各一次流路32inに分配するための流路である。分配流路38は、凹状であり底面には水素の流れ方向を分散させるための複数の突起部33が設けられている。各突起部33は、各一次流路32inへの水素の分配量が均一化されるように、略千鳥状に配列されている。
【0037】
一次流路32in及び二次流路32outは、燃料電池1の設置状態において略水平方向に直線状に延びる凹状の流路である。また、一次流路32in及び二次流路32outは、交互になるようにアノードセパレータ30に設けられている。また、燃料電池1の設置状態において、一次流路32inと二次流路32outは上下方向について異なる位置に配置される。すなわち、一次流路32inと二次流路32outとは互いに噛み合う略櫛歯状となるようにアノードセパレータ30に設けられている。
【0038】
反応ガス(水素)の流れ方向について、一次流路32inは下流側が閉塞している。具体的には、一次流路32inの下流側末端は、凸状の壁部が設けられることで閉塞している。反応ガス(水素)の流れ方向について、二次流路32outは上流側が閉塞している。具体的には、二次流路32outの上流側末端は、凸状の壁部が設けられることで閉塞している。
【0039】
合流流路36は、各二次流路32outからの反応ガス(水素)や水が流入する。合流流路36に流入した水素や水は、排出側連絡流路37を介して燃料ガス排出マニホールドM2に流入する。なお、合流流路36の底面にも、分配流路38と同様に複数の突起部33が設けられている。なお、アノードセパレータ30の他方の面には、冷却水が流通する流路(図示せず)が形成されている。
【0040】
図3は、カソードセパレータ50の詳細構成を説明するための図である。図3は、カソードガス拡散層25と対向(接触)する側の面を図示している。また、図3には、カソードセパレータ50に設けられた流路を通過する空気の流れを矢印で図示している。なお図3には、発電モジュール20(図1)のうち、発電領域GE(詳細は後述)の外縁と重なる部分が一点鎖線で図示されている。
【0041】
カソードセパレータ50の外周部分には、アノードセパレータ30と同様に、反応ガスや冷却媒体(例えば、冷却水)のためのマニホールドM1〜M6が貫通孔として設けられている。マニホールドM1〜M6は、燃料電池1としてカソードセパレータ50が積層された場合に、他の構成部材(例えば、アノードセパレータ30)に設けられたマニホールドM1〜M6と重なるように設けられている。また、カソードセパレータ50には、アノードセパレータ30と同様に、供給側連絡流路51と、分配流路58と、一次流路52inと、二次流路52outと、合流流路36と、排出側連絡流路57と、を備える。なお、各流路の名称に付している符号は異なるが、アノードセパレータ30及びカソードセパレータ50に設けられた各流路は、同様の構成である。また、カソードセパレータ50の分配流路58及び合流流路56の底面には、アノードセパレータ30と同様に突起部53が設けられている。なお、カソードセパレータ50の他方の面には、冷却水が流通する流路(図示せず)が形成されている。
【0042】
図4は、発電モジュール20の詳細構成を説明するための図である。図4は、発電モジュール20の2つの面のうち、アノードガス拡散層24側の面の構成を示している。また、理解の容易のために、アノードセパレータ30に設けられた反応ガス流路32を流れる水素の流れを矢印で示している。さらに、アノードセパレータ30の流路壁部35が重なる領域を破線で示している。なお、カソードガス拡散層25側の面の構成は、アノードガス拡散層24側の面の構成と同様であるため、図示を省略すると共に説明を省略する。
【0043】
発電モジュール20は、シール一体型膜電極接合体とも呼ばれる。発電モジュール20は、電気化学反応が行われ発電に寄与する発電領域GEと、発電領域GEの外周に設けられた外周シール部28とを備える。
【0044】
アノードガス拡散層24は、一次領域24eと、上部領域24fと、下部領域24gと、二次上部領域24hと、二次下部領域24iとを備える。各領域24e〜24iは、発電モジュール20の各構成(電解質膜21や電極22,23)の積層方向(Y軸方向)に沿ってアノードガス拡散層24を見たときに、アノードセパレータ30の異なる構成とそれぞれ重なる。一次領域24eは、一次流路32in(図2)と重なる領域である。上部領域24fは、上部流路壁部35fと重なる領域である。下部領域24gは、下部流路壁部35gと重なる領域である。二次上部領域24hは、燃料電池1の設置状態において一次流路32inと隣り合う二次流路32outのうち、上側に位置する二次流路32outと重なる領域である。二次下部領域24iは、燃料電池1の設置状態において一次流路32inと隣り合う二次流路32outのうち、下側に位置する二次流路32outと重なる領域である。
【0045】
アノードガス拡散層24は、上部領域24fが下部領域24gを含む他の領域よりも親水性の程度が高くなるように構成されている。このようなアノードガス拡散層24は、上部領域24fにのみシリコンコートやプラズマ処理等の親水処理を行うことで作製される。また、上部領域24fのみ親水性材料を用い、下部領域24gを含む他の領域を上部領域24fよりも親水性の程度が低い材料を用いてアノードガス拡散層24を作製しても良い。例えば、上部領域24fを二酸化チタン等のチタン酸化物で作製し、上部領域24fを含む他の領域をカーボンペーパやカーボンクロスにより作製する。なお、発電モジュール20のうち、カソードガス拡散層25はカーボンペーパやカーボンクロスにより作製され、全領域に亘って親水性の程度は略同一である。親水性の高低は、水滴接触角の大小により判別でき、水滴接触角が低ければ親水性の程度が高いことになる。
【0046】
外周シール部28は、MEA27(図1)を一体的に保持すると共に、燃料電池1の外部への反応ガスや冷却媒体の漏洩を防止する。外周シール部28は、樹脂部材をMEA27の外周端を被覆するように射出成形することにより形成されている。
【0047】
外周シール部28には、2つのセパレータ30,50(図2,3)と同様に、反応ガスや冷却媒体のためのマニホールドM1〜M6が貫通孔として設けられている。マニホールドM1〜M6は、燃料電池1として発電モジュール20が積層された場合に、他の構成部材(例えば、アノードセパレータ30)に設けられたマニホールドM1〜M6と重なるように設けられている。
【0048】
図5は、第1実施例の効果を説明するための図である。図5(A)は、燃料電池1を構成したときの、図4の5−5断面図におけるアノードセパレータ30とアノードガス拡散層24とを示す図である。図5(B)は、図5(A)をY軸正方向から見た場合の、アノードガス拡散層24の表面近傍の様子を模式的に示した図である。図5(A)には、アノードガス拡散層24の各領域24e〜24iの境界には破線を付している。図5(B)には、アノードガス拡散層24の各領域24e〜24iの境界には実線を付している。
【0049】
図5(A)に示すように、燃料電池1の設置状態において、一次流路32inの上部32in1と下部32in2には水GWが存在する。ここで、下部32in2に存在する水は、重力及び水素の流れによって、下部領域24gを介して一次流路32inの下側に位置する二次流路32outの水と連続する。すなわち、下部領域24gを介して一次流路32inと二次流路32outを繋ぐような水GW(「水パス」ともいう。)が生じる。水パスが生じると、一次流路32inと二次流路32outの差圧を利用して、一次流路32in及び下部領域24gの水GWを二次流路32outに容易に移動させることができる。二次流路32outに移動した水GWは、反応ガスの流れによって下流側へと移動し、燃料ガス排出マニホールドM2から外部へ排出される。一般に、差圧を利用した方が水素の流れ(風速)を利用するよりも、水を移動させやすい。
【0050】
また、上部領域24fは他の領域に比べ親水性の程度が高いためことから、一次流路32inと一次流路32inの上側に位置する二次流路32outを繋ぐような水GW(水パス)の生成を促進することができる。よって、一次流路32inと二次流路32outの差圧を利用して、一次流路32inの上部32inに存在する水GWを二次流路32outに容易に移動させることができる。二次流路32outに移動した水GWは、反応ガスの流れによって下流側へと移動し、燃料ガス排出マニホールドM2から外部へ排出される。
【0051】
さらに理解の容易のために、図5(B)を用いて水GWの移動について説明を行う。上部領域24fは下部領域24gに比べ親水性の程度が高いために、上部領域24fにおいても下部領域24gと同様に、一次流路32inと二次流路32outとを繋ぐ水の生成が促進される。これにより、一次流路32inと二次流路32outの差圧を利用して、一次流路32inの上部32in1及び下部32in2に存在する水GWを、上部領域24f及び下部領域24gを介して二次流路32outへと容易に移動させることができる。特に、一次流路32inを流れる水素の流れ方向について、一次流路32inの中流付近においても、一次流路32inの水を上部領域24f及び下部領域24gを介して二次流路32outに移動させることができるため、一次流路32inの下流側に大量の水が滞留する可能性を低減できる。以上より、一次流路32inの上流側から下流側に亘って反応ガスである水素を効率良く流通させることができる。よって、アノード22(図1)の面方向について、アノードに供給される水素の量にばらつきが生じる可能性を低減し、発電効率の低下を抑制できる。
【0052】
図6は、比較例の燃料電池1kを説明するための図である。図6(A)は図5(A)に相当する図あり、図6(B)は図5(B)に相当する図である。比較例の燃料電池1kと第1実施例の燃料電池1との違いは、アノードガス拡散層24kの構成の違いである。その他の構成については、第1実施例の燃料電池1の構成と同様の構成であるため、同様の構成いついては同一符号を付すと共に、説明を省略する。
【0053】
比較例の燃料電池1kのアノードガス拡散層24kは全域において親水処理が施されていない部材(例えば、カーボンクロスやカーボンペーパ)により作製されている。図6(A)に示すように、一次流路32inと一次流路32inの下側に位置する二次流路32outとの間には、重力及び水素の流れ(風速)によってアノードガス拡散層24kを介して一次流路32inと二次流路32outを繋ぐような水GWが生成する。これにより、図6(A)及び図6(B)に示すように、一次流路32inの下部32in2に存在する水GWは二次流路32outに容易に移動し、外部へと排出される。一方、一次流路32inの上部32in1に位置する水GWは、水パスが形成されにくい。よって、水素の流れ(風速)によって、一次流路32inから一次流路32inの上側に位置する二次流路32outへと水GWを移動させなければならない。しかしながら、重力に反して、水GWを移動させる必要があるため、水GWの一部は二次流路32outに移動することなく一次流路32inの上部32in1に滞留することになる。一次流路32inに水GWが滞留すると、水素の流通が阻害される。特に、一次流路32inの中流付近に滞留した水GWは、水素の流れによって下流側へと移動し、一次流路32inの下流側では大量に水が滞留する場合がある。よって、アノードガス拡散層24kに水素を均一に流通させることができず、燃料電池1kの発電効率が低下する。なお、図6(A)及び(B)に示す破線の矢印は、水素は流通しているが水GWは移動してない様子を示している。
【0054】
上記のように、第1実施例の燃料電池1は、アノードガス拡散層24のうち、上部領域24fは下部領域24gを含む他の領域よりも親水性の程度が高いため、一次流路32inから一次流路32in上側の二次流路32outを繋ぐ水(水パス)の生成を促進できる。これにより、一次流路32inの下部32in2のみならず上部32in1に存在する水についても二次流路32outにスムーズに移動させることができる。よって、一次流路32inに滞留する水の量を低減し、一次流路32in内の水素の流通が阻害される可能性を低減できる。これにより、一次流路32inの全域(全長)を利用して、アノードガス拡散層24に水素を供給できる。よって、アノードガス拡散層24全域で水素が拡散されてアノード22に供給されるため、燃料電池の発電効率の低下を低減できる。また、一次流路32inの下流(末端)に水が大量に滞留する可能性を低減できる。これにより、アノード22の一部分が他の部分より水素濃度が低い部分(水素欠乏部分)が生じる可能性を低減できる。よって、水素欠乏部分の発生により生じる電極(特にカソード23)の劣化を抑制できる。さらに、一次流路32in内に滞留する水の量を低減できるため、燃料電池1の発電を停止する際に、燃料電池1内の水を外部へ排気する動作を短時間で行うことができる。
【0055】
なお、上記第1実施例では、一次流路32in及び二次流路32outの水素の流れ方向について、全長に亘って上部領域24fが、下部領域24gよりも親水性の程度を高い構成であったが、これに限定されるものではない。例えば、上部領域24fの上流端から下流端の間の少なくとも一部において、少なくとも下部領域24gよりも親水性の程度が高い領域(「高親水性領域」ともいう。)が設けられていれば良い。このようにしても、上部領域24fは、高親水性領域を一部に有することから、水パスの形成が促進され、差圧を利用して二次流路32outに上部32in1に存在する水を容易に移動させることができる。なお、高親水性領域は、燃料電池1の設置状態において、一次流路32inと一次流路32inの上側に位置する二次流路32outを繋ぐように上下に亘って形成されることが好ましい。こうすることで、より一層水パスの形成を促進できる。
【0056】
A−2.第2実施例:
図7は、第2実施例の燃料電池1aを説明するための図である。図7(A)は第1実施例の図5(A)に相当する図であり、図7(B)は第1実施例の図5(B)に相当する図である。第2実施例の燃料電池1aと第1実施例の燃料電池1との違いは、アノードガス拡散層24aの構成である。その他の構成(例えばアノードセパレータ30等)は第1実施例と同様の構成であるため、同様の構成については同一符号を付すと共に説明を省略する。
【0057】
図7(A)に示すように、アノードガス拡散層24aは、上部領域24fが下部領域24gを含む他の領域よりも透気度が高くなるように構成されている。このようなアノードガス拡散層24aは、例えばカーボンペーパの作製時に用いられるバインダの量を変えることで作製できる。より具体的には、例えば、上部領域24fのバインダの量を他の領域よりも少なくすることで、上部領域24fの透気度を高くできる。なお、アノードガス拡散層24aは、第1実施例と異なり上部領域24fに親水処理を施すことや、親水性材料を用いることはしていない。よって、親水性の程度は各領域24e〜24iにおいて略同一である。
【0058】
上部領域24fが下部領域24gよりも透気度が高いことで、上部領域24fと下部領域24gの透気度が同一の場合に比べ、一次流路32inから上部領域24fにより多くの水素を送り込む(分配する)ことができる。すなわち、一次流路32inから一次流路32inの上側に位置する二次流路32outへと流れる水素の風速を増加させることができる。これにより、図7(A)及び図7(B)に示すように、水素の流れによって一次流路32inの上部32in1に存在する水GWを上部領域24fを介して二次流路32outへと移動させることができる。また、一次流路32inの下部32in2に存在する水GWは、第1実施例と同様に、一次流路32inと二次流路32outの差圧を利用して二次流路32outに容易に移動できる。
【0059】
上記のように、第2実施例の燃料電池1aは、第1実施例と同様に、一次流路32inの下部32in2のみならず上部32in1に存在する水についても二次流路32outにスムーズに移動させることができる。よって、第1実施例と同様に、一次流路32inの全域(全長)に亘って、アノードガス拡散層24aに水素を供給できる。よって、アノードガス拡散層24a全域で水素が拡散されてアノード22に水素を供給されるため、燃料電池の発電効率の低下を低減できる。また、第1実施例と同様に、水素欠乏部分の発生により生じる電極(特にカソード23)の劣化を抑制できる。さらに、第1実施例と同様に、燃料電池1の発電を停止する際に、燃料電池1内の水を外部へ排気する動作を短時間で行うことができる。また、上部領域24fの透気度が高いため、一次流路32inと二次流路32outの圧力損失を低減でき、外部から燃料電池1内部に水素を供給するための動力の負荷を低減できる。
【0060】
なお、第2実施例の燃料電池1aにおいて、アノードガス拡散層24aの上部領域24fが下部領域24gを含む他の領域よりも親水性の程度が高くなるように構成しても良い。このようにすることで、一次流路32inと一次流路32inの上側に位置する二次流路32outとを繋ぐような水パスの生成が促進され、一次流路32inと二次流路32outとの差圧を利用してよりスムーズに一次流路32inの上部32in1に存在する水を二次流路32outに移動させることができる。
【0061】
なお、上記第2実施例では、一次流路32in及び二次流路32outの水素の流れ方向について、全長に亘って上部領域24fが、下部領域24gよりも透気度の程度が高い構成であったが、これに限定されるものではない。上部領域24fの上流端から下流端の間の少なくとも一部において、少なくとも下部領域24gよりも透気度の程度が高い部分(「高透気度部分」ともいう。)が設けられていれば良い。このようにしても、上部領域24fは、高透気度部分を一部に有することから、高透気度部分では水素の風速が他の領域よりも増加する。よって、一次流路32inの上部32in1に存在する水を、水素の流れによって二次流路32outにスムーズに移動できる。なお、高透気度部分は、燃料電池1aの設置状態において、一次流路32inと一次流路32inの上側に位置する二次流路32outを繋ぐように上下に亘って形成することが好ましい。こうすることで、水素の流れによって、よりスムーズに一次流路32inの上部32in1に存在する水を二次流路32outに移動できる。
【0062】
A−3.第3実施例:
図8は、第3実施例の燃料電池1bを説明するための図である。図8(A)は第1実施例の図5(A)に相当する図であり、図8(B)は第1実施例の図5(B)に相当する図である。第3実施例の燃料電池1bと第1実施例の燃料電池1との違いは、アノードガス拡散層24aの構成である。その他の構成(例えばアノードセパレータ30等)は第1実施例と同様の構成であるため、同様の構成については同一符号を付すと共に説明を省略する。
【0063】
アノードガス拡散層24bは、カーボンペーパやカーボンクロス等により作製される。アノードガス拡散層24bは、第1実施例と異なり上部領域24fに親水処理を施すことや、親水性材料を用いることはしていない。よって、親水性の程度は各領域24e〜24iにおいて略同一である。図8(A)及び図8(B)に示すように、アノードガス拡散層24bのうち、上部領域24fには、一次流路32inと二次流路32outとを繋ぐように切り込み24zが形成されている。切り込み24zは、一次流路32in及び二次流路32outを流れる水素の流れ方向について、全長に亘って一定間隔毎に複数箇所形成されている。切り込み24zを形成した領域は、アノードガス拡散層24bの他の領域よりもガス拡散性が高い。なお、図8(B)には、複数箇所形成された切り込み24zの一部を図示している。
【0064】
また図8(B)に示すように、切り込み24zは一次流路32in及び二次流路32outを流れる水素の流れに沿って形成されている。すなわち、一次流路32in及び二次流路32outを流れる水素の流れ方向について、切り込み24zは一次流路32in側から二次流路32out側に向かうに従い、下流側に位置するように形成されている。
【0065】
上記のように、上部領域24fに切り込み24zを形成することで、上部領域24fは下部領域24gよりも一方の側である一次流路32inから他方の側である二次流路32outに水素が移動しやすい領域を有する。これにより、切り込み24zを通過する水素の風速は高くなり、水素の風速によって一次流路32inの上部32in1に存在する水を切り込み24zを介して二次流路32outにスムーズに移動させることができる。また、切り込み24zを形成することで、切り込み24zを介して一次流路32inと二次流路32outを繋ぐような水パスの形成が促進される。切り込み24zに水パスが形成されることで、一次流路32inの上部32in1に存在する水を、一次流路32inと二次流路32outの差圧を利用して二次流路32outによりスムーズに移動させることができる。なお、一次流路32inの下部32in2に存在する水は、上記第1及び第2実施例と同様に、水パスを形成することで一次流路32inと二次流路32outの差圧を利用してスムーズに二次流路32outへと移動する。よって、第1実施例と同様に、一次流路32inに滞留する水の量を低減し、一次流路32inの水素の流通が阻害される可能性を低減できる。よって、アノードガス拡散層24全域で水素が拡散されてアノード22に水素を供給されるため、燃料電池の発電効率の低下を低減できる。また、第1実施例と同様に、水素欠乏部分の発生により生じる電極(特にカソード23)の劣化を抑制できる。さらに、第1実施例と同様に、一次流路32in内に滞留する水の量を低減できるため、燃料電池1の発電を停止する際に、燃料電池1内の水を外部へ排気する動作を短時間で行うことができる。
【0066】
A−3−1.第3実施例の変形態様:
図9は、第3実施例の変形態様を説明するための図である。図9(A)は第3実施例の第1の変形態様を説明するための図である。図9(B)は第3実施例の第2の変形態様を説明するための図である。図9(A)は、第1の変形態様のアノードガス拡散層24b1の構成を模式的に示した図であり、図8(B)に相当する図である。図9(B)は、第2変形態様のアノードガス拡散層24b2の構成を模式的に示した図であり、図8(B)に相当する図である。なお、図9(A)及び図9(B)は、アノードガス拡散層24b1,24b2の各領域24e〜24iを全長に亘って図示している。また、図中の矢印の向きは、アノードセパレータ30の一次流路32in及び二次流路32outを流れる水素ガスの向きを表している。
【0067】
上記第3実施例のアノードガス拡散層24b1では、上部領域24fに形成された切り込み24zは、一次流路32in及び二次流路32outを流れる水素の流れ方向について、全長に亘って一定間隔毎に形成されていた(図8(B))。これに対し、第1変形態様のアノードガス拡散層24b1は、上部領域24fに形成された切り込み24zの間隔が、上流側から下流側に向かうに従って短くなっている。言い換えれば、上流側から下流側に向かうに従って、隣り合う切り込み24zの距離Dが短くなっている。なお、その他の構成については、第3実施例と同様の構成であるため、説明は省略する。このようにすることで、第3実施例と同様の効果を奏する。また、アノードセパレータ30の一次流路32inに存在する水は、水素の流れと共に下流側に流される傾向にある。すなわち、一次流路32inの長さ方向(X軸方向)において、下流側の方が上流側よりもより多くの水が存在する。よって、上部領域24fの切り込み24zを下流側に向かうに従い密に形成することで、一次流路32inの下流側に存在する水を効率良く二次流路32outに移動させることができる。
【0068】
また、図9(B)の第2変形態様に示すように、上流側から下流側に向かうに従って隣り合う切り込み24zの距離Dを短くすると共に、上流側から下流側に向かうに従って切り込みの幅を大きくしても良い。こうすることで、さらに効率的に一次流路32inの下流側に存在する水を二次流路32outに移動させることができる。なお、上部領域24fに複数形成する切り込み24zの間隔を一定間隔にしつつ、下流側に向かうに従って切り込み24zの幅を大きくしても良い。このようにしても、一次流路32inの下流側に存在する水を効率良く二次流路32outに移動させることができる。
【0069】
なお、上記第3実施例及び上記第3実施例の変形態様では、切り込み24zが一次流路32in側から二次流路32out側に向かうに従って、下流側に位置するように構成されていたが、これに限定されるものではない。例えば、切り込み24zの一次流路32in側と二次流路32out側が一次流路32in及び二次流路32outの水素の流れ方向について、同一の位置にあっても良い。このようにしても、上記第3実施例及び上記第3実施例の変形態様と同様の効果を奏する。
【0070】
A−4.第4実施例:
図10及び図11を用いて第4実施例の説明を行う。図10は、第4実施例のアノードセパレータ30cを説明するための図である。図10は、図2に相当する図であり、アノードセパレータ30cをY軸正方向から見たときの図である。図11は、第4実施例の燃料電池1cを説明するための図である。図11(A)は第1実施例の図5(A)に相当する図であり、図11(B)は第1実施例の図5(B)に相当する図である。なお、図11(B)には、アノードセパレータ30cの一次流路32in及び二次流路32outを流れる水素の流れを矢印で示している。第1実施例の燃料電池1(図5)との違いは、アノードセパレータ30cとアノードガス拡散層24cの構成である。その他の構成(例えば、一次流路32in等)については同様の構成であるため、同様の構成については同一符号を付すと共に説明を省略する。
【0071】
図10に示すように、上部流路壁部35fcは、一次流路32in及び二次流路32outを流れる水素の流れ方向(長さ方向)全域について、下部流路壁部35gよりも幅が小さい。図11(A)に示すように、燃料電池1cとしてアノードセパレータ30cとアノードガス拡散層24cを積層した場合、上部領域24fの幅Tfは、下部領域24gよりも小さくなる。上部領域24fの幅Tfが下部領域24gの幅Tgよりも小さいことで、上部領域24fは下部領域24gよりもガス拡散性の程度が高くなる。なお、アノードガス拡散層24cは、第1実施例と異なり上部領域24fに親水処理を施すことや、親水性材料を用いることはしていない。よって、親水性の程度は各領域24e〜24iにおいて略同一である。
【0072】
上記のように、上部領域24fは下部領域24gよりもガス拡散性の程度が高いことから、上部領域24fと下部領域24gのガス拡散性の程度が略同一の場合に比べ、一次流路32inからより多くの水素が上部領域24fに流通(分配)する。すなわち、一次流路32inから一次流路32inの上側に位置する二次流路32outへと流れる水素の風速は高くなる。よって、一次流路32inの上部32in1に存在する水を水素の風速によって上部領域24fを介して二次流路24outに容易に移動させることができる。また、上部領域24fの幅Tfが下部領域24gの幅Tgよりも小さいことから、幅が同一の場合に比べ、上部32in1に存在する水をよりスムーズに上部領域24fを介して二次流路32outに移動させることができる。また、第4実施例の燃料電池1cは、第1実施例と同様に、一次流路32inの下流側で水が大量に滞留する可能性を低減できるため、燃料電池の発電効率の低下を低減できる。また、第1実施例と同様に、水素欠乏部分の発生により生じる電極(特にカソード23)の劣化を抑制できる。さらに、第1実施例と同様に、燃料電池1内の水を外部へ排気する動作を短時間で行うことができる。
【0073】
A−4−1.第4実施例の変形態様:
図12は、第4実施例の変形態様のアノードセパレータ30dを説明するための図である。上記第4実施例では、上部流路壁部35fcは全長に亘って下部流路壁部35gよりも幅が小さい構成であったが、これに限定されるものではない。上部流路壁部35fcの上流端から下流端の間の少なくとも一部において、下部流路壁部35gよりも幅の小さい狭小部分を有すれば良い。この場合において、上流側よりも下流側の方がより幅が小さくなるように構成することが好ましい。例えば、図12に示すように、上流側よりも下流側の方が、幅を次第に小さくすることが好ましい。上流側よりも下流側の方が上部流路壁部35fdの幅を小さくすることで、より多くの水が滞留する一次流路32inの下流側の水を二次流路32outにスムーズに移動させることができる。なお、上流側から下流側に向かうに従って、次第に幅が小さくなる構成でなくても良い。例えば、上部流路壁部35fdは、上流側から下流側に向かうに従って段階的に幅が小さくなる構成でも良い。すなわち、上部流路壁部35fdは上流側から下流側に向かうに従って幅が単調減少する構成でも良い。こうすることで、より多くの水が存在する一次流路32in(詳細には上部32in1)の水をスムーズに二次流路32outに移動させることができる。これにより、上記第4実施例と同様の効果を奏する。
【0074】
A−5.第5実施例:
図13及び図14を用いて第5実施例の燃料電池1eについて説明を行う。図13は、第5実施例のアノードセパレータ30eについて説明するための図であり、アノードセパレータ30eをY軸正方向側から見た図である。図14は、第5実施例の燃料電池1eを説明するための図である。図14(A)は第1実施例の図5(A)に相当する図であり、図14(B)は第1実施例の図5(B)に相当する図である。なお、図14(B)には、アノードセパレータ30eの一次流路32in及び二次流路32outを流れる水素の流れを矢印で示している。第1実施例の燃料電池1(図5)との違いは、アノードセパレータ30eとアノードガス拡散層24e1の構成である。その他の構成(例えば、一次流路32in等)については第1実施例と同様の構成であるため、同様の構成については同一符号を付すと共に説明を省略する。
【0075】
図13に示すように、下部流路壁部35geは、一次流路32in及び二次流路32outを流れる水素の流れ方向(長さ方向)全域について、上部流路壁部35fよりも幅が小さい。図14(A)に示すように、燃料電池1eとしてアノードセパレータ30eとアノードガス拡散層24cを積層した場合、下部領域24gの幅Tgは、上部領域24fの幅Tfよりも小さくなる。ここで、アノードガス拡散層24e1内の水の分布に着目すると、図14(B)に示すように、重力の影響によって下部領域24gは上部領域24fに比べ密に水が存在する。下部領域24gにおいて、一次流路32inと二次流路32outを繋ぐ水(水パス)が形成されると、一次流路32inと二次流路32outの差圧により水を二次流路32outに容易に移動させることが可能となる。しかしながら、水パスが形成されるまでにはある程度の時間を要し、水パスが形成されるまでは下部領域24g内には水が密に存在し、水素の拡散が阻害される。
【0076】
しかしながら、上記のように第5実施例の燃料電池1eは、水が密に存在する下部領域24gの幅Tgを上部領域24fの幅Tfよりも小さくすることで、下部領域24gの幅が上部領域24fの幅Tfと同一の場合に比べ、アノードガス拡散層24e1内のより多くの領域によって水素を良好に拡散できる。これにより、アノード22に供給される水素の量にばらつきが生じる可能性が低減でき、発電効率の低下を抑制できる。
【0077】
図15は、幅Tfと幅Tgの好ましい設定方法を説明するための図である。図15(A)は、幅Tfと幅Tgとを決定するために用いる参照燃料電池1kであり、図6(A)の比較例に示す燃料電池1kと同様の燃料電池である。すなわち、上部流路壁部35f及び下部流路壁部35gの幅(Z軸方向の長さ)は同一であることから、上部領域24f及び下部領域24gの幅も同一である。なお、理解の容易のために、アノードガス拡散層24kの各領域には符号を付すと共に、各領域の境界には破線を付している。図15(B)は、参照燃料電池1kの発電量と上部領域24f及び下部領域24gの圧力損失の関係を示す図である。
【0078】
図15(B)に示すように、燃料電池1kに供給する反応ガスの流量を増大させ、発電量を増加させると、燃料電池1k内部で生成する水の量が増大し、上部領域24f及び下部領域24gの圧力損失は増大する。ここで、上部領域24f及び下部領域24gの圧力損失は、各領域24f,24gの含水率に依存(比例)する。よって本実施例では、各領域24f,24gの含水率に基づいて圧力損失を決定している。なお、直接に各領域24f,24gの圧力損失を求めても良い。
【0079】
アノードガス拡散層24k内部の水の滞留は、水素の流量が比較的低い低負荷電流領域で顕著に発生する傾向にある。よって、低負荷電流領域(例えば、電流密度0.2A/cm)における上部領域24fと下部領域24gの圧力損失の比に基づいて、第5実施例のアノードセパレータ30eの幅Tfと幅Tg(図14(A))の比を決定することが好ましい。具体的には、以下の式(1)の関係が成立するように幅Tfと幅Tgを決定する。
幅Tf:幅Tg=Pg:Pf (1)
ここで、Pfは所定の発電量(発電量Wt)における上部領域24fの圧力損失であり、Pgは所定の発電量(発電量Wt)における下部領域24gの圧力損失である。
【0080】
例えば、Pf:Pg=1:2である場合、幅Tf:幅Tg=2:1の関係になるようにアノードセパレータ30eの幅Tfと幅Tgを設定する。
【0081】
上記のように、幅Tfと幅Tgとを、低負荷電流領域の上部領域24fと下部領域24gの圧力損失の比によって定めることで、アノードガス拡散層24e1内の水素をより均一に流通させることができ、アノード22への水素の均一配流を達成することが可能となる。これにより、燃料電池1eの発電効率の低下をより一層抑制することができる。また、圧力損失が高くなる下部領域24gの幅Tgを小さくすることで、燃料電池1e全体の圧力損失を低減させ、燃料電池1eの運転効率を向上できる。
【0082】
A−6.第6及び第7実施例:
図16は第6及び第7実施例の燃料電池1f,1gを説明するための図である。図16(A)は第6実施例の燃料電池1fを説明するための図であり、第1実施例の図5(A)に相当する図である。図16(B)は第7実施例の燃料電池1gを説明するための図であり、第1実施例の図16(B)に相当する図である。第6実施例の燃料電池1fと第1実施例の燃料電池1との違いは、アノードガス拡散層24f1の構成である。その他の構成(例えば、一次流路32in等)については第1実施例と同様の構成であるため、同様の構成については同一符号を付すと共に説明を省略する。また、第7実施例の燃料電池1gと第1実施例の燃料電池1との違いは、アノードガス拡散層24g1とアノードセパレータ30gの構成である。その他の構成については第1実施例と同様の構成であるため、同様の構成については同一符号を付すと共に説明を省略する。
【0083】
図16(A)に示すように、第6実施例のアノードガス拡散層24f1は、下部領域24gが上部領域24fを含む他の領域よりも透気度が高くなるように構成されている。なお、アノードガス拡散層24f1は、第1実施例と異なり特定の領域(例えば上部領域24f)に親水処理を施すことや、親水性材料を用いることはしていない。よって、親水性の程度は各領域24e〜24iにおいて略同一である。
【0084】
上記のように、第6実施例の燃料電池1fは、下部領域24gが少なくとも上部領域24fよりも透気度が高くなるように構成されている。よって、下部領域24gと上部領域24fの透気度が同じ場合に比べ、一次流路32inから下部領域24gにより多くの水素を送り込む(分配する)ことができる。すなわち、一次流路32inから一次流路32inの下側に位置する二次流路32outへと流れる水素の風速を増加させることができる。これにより、アノードガス拡散層24f1内において、上部領域24fよりも下部領域24gに大量に存在する水を、水素の流れによって二次流路32outに移動させることができる。これにより、下部領域24gのガス拡散性を向上させ、アノード22に供給される水素の量にばらつきが生じる可能性を低減できる。よって、燃料電池1fの発電効率の低下を抑制できる。
【0085】
図16(B)に示すように、第7実施例のアノードガス拡散層24g1は、下部領域24gが上部領域24fを含む他の領域よりも厚さ(Y軸方向における長さ、燃料電池1gの各構成の積層方向における長さ)が大きい。すなわち、アノードガス拡散層24g1について、一次流路32inから二次流路32outに向かって水素が流れる方向(Z軸方向)と垂直な面である通気断面の面積を、厚さを大きくすることで大きくする。また、下部領域24gの厚さを大きくするために、下部流路壁部35ggの厚さは(Y軸方向における長さ)は、上部流路壁部35fの厚さよりも小さい。なお、アノードガス拡散層24g1は、第1実施例と異なり特定の領域(例えば上部領域24f)に親水処理を施すことや、親水性材料を用いることはしていない。よって、親水性の程度は各領域24e〜24iにおいて略同一である。
【0086】
下部領域24gを、上部領域24fを含む他の領域よりも厚さを大きくすることで、下部領域24gは上部領域24fよりもガス拡散性が高くなる。よって、厚さが一定のアノードガス拡散層に比べ、一次流路32inから下部領域24gにより多くの水素を送り込む(分配する)ことができる。すなわち、一次流路32inから一次流路32inの下側に位置する二次流路32outへと流れる水素の風速を増加させることができる。これにより、アノードガス拡散層24g1内において、上部領域24fよりも下部領域24gに大量に存在する水を、水素の流れによって二次流路32outに移動させることができる。これにより、アノード22に供給される水素の量にばらつきが生じる可能性を低減でき、燃料電池1gの発電効率の低下を抑制できる。
【0087】
なお、上記第6及び第7実施例では、一次流路32in及び二次流路32outの水素の流れ方向について、下部領域24gの全長に亘って、上部領域24fよりも透気度の程度が高い構成であったり、又は、厚さが大きい構成であったりしたが、これに限定されるものではない。下部領域24gの上流端から下流端の間の少なくとも一部において、少なくとも上部領域24fよりも透気度の程度が高い領域(「高透気度部分」ともいう。)、又は、少なくとも上部領域24fよりも厚さが大きい部分(「肉厚部分」ともいう。)が設けられていれば良い。このようにしても、高透気度部分又は肉厚部分では水素の風速が他の領域よりも増加することから、下部領域24gに存在する水を高透気度部分又は肉厚部分が設けられていない場合に比べ、二次流路32outにスムーズに移動させることができる。なお、高透気度部分又は肉厚部分は、燃料電池1f,1gの設置状態において、一次流路32inと一次流路32inの下側に位置する二次流路32outを繋ぐように上下に亘って形成することが好ましい。こうすることで、水素の流れによって、よりスムーズに下部領域24gに存在する水を二次流路32outに移動させることができる。さらに、第6実施例と第7実施例を組み合わせても良い。すなわち、下部領域24gが上部領域24fよりも、透気度の程度が高く、かつ、厚さが大きくなるように構成されても良い。こうすることで、下部領域24gに存在する水をより一層スムーズに二次流路32outに移動させることができる。
【0088】
A−6−1.第6実施例の変形態様:
上記第6実施例では、下部領域24gは、上部領域24fを含む他の領域よりも透気度の程度が高い構成であったが、上部領域24fの透気度の程度を、下部領域24gを含む他の領域よりも低くしても良い。このようにしても、第6実施例と同様の効果を奏する。
【0089】
A−6−2.第7実施例の変形態様:
上記第7実施例では、下部領域24gは、上部領域24fを含む他の領域よりも厚さが大きい構成であったが、上部領域24fの厚さを、下部領域24gを含む他の領域よりも小さくしても良い。このようにしても、第7実施例と同様の効果を奏する。例えば、上部流路壁部35fの厚さを下部流路壁部35ggの厚さよりも大きくし、上部領域24fへの荷重を増加させることで、厚さを小さくする。
【0090】
A−7.第8実施例:
図17は、第8実施例の燃料電池1hを説明するための図である。図17(A)は、第1実施例の図5(A)に相当する図であり、MEA20も図示されている。図17(B)は、第8実施例のアノード22kの作製方法を説明するための図である。第1実施例の燃料電池1との違いは、アノードガス拡散層24kの構成と、アノード22kの構成である。その他の構成(アノードセパレータ30等)については、第1実施例と同様の構成であるため、同様の構成については同一符号を付すと共に説明を省略する。
【0091】
図17(A)に示すように、アノード22kは、一次電極領域22eと、上部電極領域22fと、下部電極領域22gと、二次上部電極領域22hと、二次下部電極領域22iとを備える。各領域22e〜22iは、発電モジュール20の各構成(電解質膜21、電極22k,23)の積層方向(Y軸方向)に沿ってアノード22kを見たときに、アノードセパレータ30の異なる構成と重なる。一次電極領域22eは、一次流路32inと重なる領域である。上部電極領域22fは、上部流路壁部35fと重なる領域である。下部電極領域22gは、下部流路壁部35gと重なる領域である。二次上部電極領域22hは、燃料電池1hの設置状態において一次流路32inと隣り合う二次流路32outのうち、上側に位置する二次流路32outと重なる領域である。二次下部電極領域22iは、燃料電池1hの設置状態において一次流路32inと隣り合う二次流路32outのうち、上側に位置する二次流路32outと重なる領域である。なお、各領域22e〜22iの境界には破線を付している。第1実施例のアノード22との違いは、下部電極領域22gが少なくとも上部電極領域22fよりも電気化学的表面積が大きいことである。なお、アノードガス拡散層24kは、第1実施例と異なり、全域において親水処理が施されていない部材(例えば、カーボンクロスやカーボンペーパ)により作製されている。
【0092】
図17(B)に示すように、アノード22kの作製方法の一例を示す。作製方法No.1は、下部電極領域22gの触媒量(例えば、白金の量)を少なくとも上部電極領域22fの触媒量よりも多くする作製方法である。作製方法No.2は、下部電極領域22gの触媒の粒子径の平均値を少なくとも上部電極領域22fの触媒の粒子径の平均値よりも小さくする作製方法である。作製方法No.3は、下部電極領域22gの触媒粒子の表面粗さを少なくとも上部電極領域22fの触媒粒子の表面粗さよりも大きくする作製方法である。作製方法No.4は、下部電極領域22gの電解質と導電性を有する担体との含有質量比率(I/C:Ionomer/Carbon)を少なくとも上部電極領域22fのI/Cよりも多くする作製方法である。上記作製方法No.1〜No.4のいずれか1つの方法、又は、作製方法を2つ以上組み合わせて作製する方法によって、下部電極領域22gの電気化学的表面積を少なくとも上部電極領域22fの電気化学的表面積よりも大きくできる。
【0093】
ここで、アノードガス拡散層24kにおいて、重力の影響により、下部領域24gは他の領域よりも水が密に存在するため、水素の流通が阻害される。よって、下部電極領域22gに到達する水素の量が上部電極領域22fを含む他の電極領域に比べ少なくなる。しかしながら、第8実施例の燃料電池1hによれば、下部電極領域22gの電気化学的表面積は、少なくとも上部電極領域22fの電気化学的表面積よりも大きいことから、下部電極領域22gにおいて水素の消費効率を向上させ、燃料電池1hの発電効率の低下を抑制できる。
【0094】
B.変形例:
なお、上記実施例における構成要素の中の、特許請求の範囲の独立項に記載した要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、本発明の上記実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0095】
B−1.第1変形例:
上記実施例では、アノードガス拡散層24,24a,24b,24b1,24b2,24c,24eにおいて、上部領域24fと下部領域24gとが少なくとも一部について親水性の程度やガス拡散性の程度が異なるように構成されていたが、これに限定されるものではない。カソードガス拡散層25においても、上部領域と下部領域とが少なくとも一部において親水性の程度やガス拡散性の程度が異なるように構成されても良い。このようにしても上記実施例と同様の効果を奏する。また、両方のガス拡散層24,24a,24b,24b1,24b2,24c,24e,25において、上部領域と下部領域とが少なくとも一部において親水性の程度やガス拡散性の程度が異なるように構成されても良い。このようにしても上記実施例と同様の効果を奏する。
また、上記実施例では、アノードセパレータ30c,30d,30eについて、上部流路壁部35fと下部流路壁部35gのいずれか一方の少なくとも一部の幅を小さくするようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、カソードセパレータ50においても、上部流路壁部と下部流路壁部のいずれか一方の少なくとも一部の幅を小さくするようにしても良いし、両方のセパレータ30c,30d,30e,50について、上部流路壁部と下部流路壁部のいずれか一方の少なくとも一部の幅を小さくするようにしても良い。このようにしても、上記実施例と同様の効果を奏する。
また、上記実施例では、アノード22k(図17)において、電気化学的表面積を変化させたが、カソード23に適用しても良い。また、両極に適用しても良い。このようにしても、上記実施例と同様の効果を奏する。
【0096】
B−2.第2実施例:
上記実施例では、燃料電池1〜1hに固体高分子型燃料電池を用いたが、リン酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、固体酸化物形燃料電池等、種々の燃料電池を用いることができる。
【符号の説明】
【0097】
1…燃料電池
1a…燃料電池
1b…燃料電池
1c…燃料電池
1d…燃料電池
1e…燃料電池
1f…燃料電池
1g…燃料電池
1h…燃料電池
1k…参照燃料電池
10…単セル
20…発電モジュール
21…電解質膜
22…アノード
22e…一次電極領域
22f…上部電極領域
22g…下部電極領域
22h…二次上部電極領域
22i…二次下部電極領域
22k…アノード
23…カソード
24out…二次流路
24…アノードガス拡散層
24a…アノードガス拡散層
24b…アノードガス拡散層
24c…アノードガス拡散層
24e…一次領域
24f…上部領域
24g…下部領域
24h…二次上部領域
24i…二次下部領域
24k…アノードガス拡散層
24b1…アノードガス拡散層
24b2…アノードガス拡散層
24e1…アノードガス拡散層
24f1…アノードガス拡散層
24g1…アノードガス拡散層
25…カソードガス拡散層
28…外周シール部
30…アノードセパレータ
30c…アノードセパレータ
30d…アノードセパレータ
30e…アノードセパレータ
30g…アノードセパレータ
31…供給側連絡流路
32in…一次流路
32out…二次流路
32in1…上部
32in2…下部
32…反応ガス流路
33…突起部
35…流路壁部
35f…上部流路壁部
35g…下部流路壁部
35fc…上部流路壁部
35fd…上部流路壁部
35gc…下部流路壁部
35ge…下部流路壁部
35gg…下部流路壁部
36…合流流路
37…排出側連絡流路
38…分配流路
50…カソードセパレータ
51…供給側連絡流路
52out…二次流路
52in…一次流路
53…突起部
56…合流流路
57…排出側連絡流路
58…分配流路
M1…燃料ガス供給マニホールド
M2…燃料ガス排出マニホールド
M3…酸化剤ガス供給マニホールド
M4…酸化剤ガス排出マニホールド
M5…冷却媒体供給マニホールド
M6…冷却媒体排出マニホールド
GE…発電領域
GW…水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
電解質膜と前記電解質膜の両面に積層された電極とを含む膜電極接合体と、前記膜電極接合体の両面に積層された第1と第2のガス拡散層と、を有する発電モジュールと、
前記発電モジュールの前記第1のガス拡散層側に更に積層された第1のセパレータと、を備え、
前記第1のセパレータの2つの面のうち前記第1のガス拡散層と対向する面には、前記燃料電池の設置状態において、
下流側が閉塞した略水平方向に延びる凹状の一次流路であって、外部から供給された第1の反応ガスを流通させる一次流路と、
上流側が閉塞し、略水平方向に延びると共に前記一次流路の上下にそれぞれ位置する凹状の二次流路であって、前記第1のガス拡散層を介して導入された前記第1の反応ガスを外部へ排出させるための二次流路と、
前記一次流路と前記二次流路との間に配置され、面方向において前記一次流路と前記二次流路とを区画する凸状の流路壁部と、が設けられ、
前記第1のガス拡散層は、前記発電モジュールの各構成の積層方向に沿って見たときに、前記一次流路の上側に設けられた前記流路壁部である上部流路壁部と重なる領域である上部領域と、前記一次流路の下側に設けられた前記流路壁部である下部流路壁部と重なる領域である下部領域とを有し、
前記上部領域と前記下部領域とは、少なくとも一部において、ガス拡散性と親水性の少なくとも一方の程度が異なるように構成されている、燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池であって、
前記上部領域の少なくとも一部は、前記下部領域よりも高い親水性を有する、燃料電池。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池であって、
前記上部領域の少なくとも一部は、前記下部領域よりも高いガス拡散性を有する、燃料電池。
【請求項4】
請求項1に記載の燃料電池であって、
前記下部領域の少なくとも一部は、前記上部領域よりも高いガス拡散性を有する、燃料電池。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の燃料電池であって、
前記上部領域と前記下部領域のいずれか一方の少なくとも一部は、他の領域よりも透気度が高い部分を有する、燃料電池。
【請求項6】
請求項3に記載の燃料電池であって、
前記上部領域に、前記一次流路と前記二次流路とを繋ぐように切り込みが形成されている、燃料電池。
【請求項7】
請求項6に記載の燃料電池であって、
前記切り込みは、前記一次流路側から前記二次流路側に向かうに従い、前記一次流路及び前記二次流路を流れる前記第1の反応ガスの流れ方向について、下流側に位置するように形成されている、燃料電池。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の燃料電池であって、
前記切り込みは、複数箇所に形成され、
前記一次流路及び前記二次流路を流れる前記第1の反応ガスの流れ方向について、
上流側から下流側に向かうに従って、隣り合う前記切り込みの距離が短くなる、燃料電池。
【請求項9】
請求項8に記載の燃料電池であって、
前記上流側から前記下流側に向かうに従って、前記切り込みの幅が大きくなる、燃料電池。
【請求項10】
請求項1,請求項3,請求項4のいずれか一項に記載の燃料電池であって、
前記上部流路壁部と前記下部流路壁部のいずれか一方の流路壁部は、他方の流路壁部よりも幅の小さい狭小部分を有する、燃料電池。
【請求項11】
請求項10に記載の燃料電池であって、
前記狭小部分の幅は、前記一次流路及び前記二次流路を流れる前記第1の反応ガスの流れ方向について、上流側から下流側に向かうに従って単調減少する、燃料電池。
【請求項12】
請求項1,請求項3,請求項4のいずれか一項に記載の燃料電池であって、
前記上部領域と前記下部領域のいずれか一方の領域は、他方の領域よりも厚みの大きい肉厚部分を有する、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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