説明

燃焼式水質測定装置

【課題】試料水を燃焼部内に滴下したときの燃焼部内の滴下ポイントの局部的な急激な温度低下に伴う目的成分の不完全燃焼を防止することができる燃焼式水質分析装置を提供する。
【解決手段】内部で試料水を燃焼させる燃焼部30と、試料水の滴下ノズル48とを備え、滴下ノズルから試料水の液滴を燃焼部内に落下させるとともに、この落下させた液滴を燃焼部内で燃焼させて得られるガス中の成分を測定する燃焼式水質分析装置において、滴下ノズルを横方向に移動させる滴下ノズル移動手段を設ける。滴下ノズル移動手段としては、例えば、回転モータ44および回転体46によって構成され、滴下ノズルを水平面に沿って回転させるものを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料水を燃焼部内で燃焼させて得られるガス中の成分を測定する燃焼式水質分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内部で試料水を燃焼させる燃焼部と、試料水の滴下ノズルとを備え、前記滴下ノズルから試料水の液滴を燃焼部内に落下させるとともに、この落下させた液滴を燃焼部内で燃焼させて得られるガス中の成分を測定する燃焼式水質分析装置が知られている。このような燃焼式水質分析装置としては、例えば、排水や河川の汚濁度を測定するために試料水中に含まれる有機物量を測定する全有機炭素測定装置(TOC計)や、同様の目的で窒素量を測定する全窒素測定装置、あるいはこれらを組み合わせた装置などがある。
【0003】
この場合、上記燃焼式水質分析装置の燃焼部および滴下ノズルとして、従来、図5に示す構造のものが使用されている。図5において、10は燃焼部、12は滴下ノズルを示す。燃焼部10は、石英ガラスなどからなる燃焼管14の内部に触媒を充填した触媒充填層16を配置するとともに、触媒充填層16の上方に触媒保護材料を充填した触媒保護層18を配置し、燃焼管14の周囲に燃焼管14内を加熱するための加熱部20を設けたものである。この場合、触媒としては白金触媒等の酸化触媒が使用され、触媒保護材料としてはセラミックビーズ、石英ウール等が使用される。また、加熱部20はヒータや断熱材によって構成される。
【0004】
本例の燃焼式水質分析装置を用いて水質分析を行う場合、加熱部20によって燃焼管14内を加熱するとともに、燃焼管14内に上方からキャリヤガスを流した状態で、滴下ノズル12により試料水の液滴22を燃焼管14内に上方から落下させる。なお、試料水は、例えばスライドバルブやシリンジポンプにより計量され、エアやポンプによって滴下ノズル12から滴下される。上記液滴22は、燃焼管14内で加熱されて気化し、この気化したガス中の所定成分が触媒充填層16の触媒の作用により酸化される。そして、上記ガス成分がキャリヤガスにより検出器24に導入され、ガス中の成分が測定されるものである。
【0005】
上述した燃焼式水質分析装置では、試料水を高温で燃焼させ、燃焼ガス中の所定の成分を非分散型赤外分析計(NDIR)等の検出器で測定し、測定対象物の濃度換算を行っている。例えば、TOC計においては、試料水の液滴を燃焼部内に滴下して燃焼させるとともに、試料水中の有機物を酸化させて二酸化炭素(CO)に変換し、燃焼ガス中のCO濃度をNDIRで測定することにより、試料水中の有機体炭素濃度を求めている。
【0006】
この場合、燃焼部内は通常約600〜950℃程度に加熱されているが、試料水の滴下量が多い場合には、試料水を滴下したときに滴下ポイント(燃焼部内の試料水の液滴が当たった箇所)の局部的な急激な温度低下が起こり、試料水中の目的成分が完全に燃焼しないことがあった。
【0007】
上記の問題を解決するための技術として、燃焼部内に滴下された試料水を所定の間隔で数段に設けた分散体(白金網)によって分散してから触媒に接触させるというものがある(特許文献1)。しかし、この技術は、白金網の加工やスペースの小さい加熱部内に白金網を保持するための構成が必要となる。
【0008】
【特許文献1】実開昭52−155592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされてもので、試料水を燃焼部内に滴下したときの燃焼部内の滴下ポイントの局部的な急激な温度低下に伴う目的成分の不完全燃焼を防止することができる燃焼式水質分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記目的を達成するため、内部で試料水を燃焼させる燃焼部と、試料水の滴下ノズルとを備え、前記滴下ノズルから試料水の液滴を燃焼部内に落下させるとともに、この落下させた液滴を燃焼部内で燃焼させて得られるガス中の成分を測定する燃焼式水質分析装置において、前記滴下ノズルを横方向に移動させる滴下ノズル移動手段を設け、前記滴下ノズル移動手段によって滴下ノズルを横方向に移動させてから、または移動させつつ、試料水の滴下を行うことを特徴とする燃焼式水質測定装置を提供する。
【0011】
本発明の燃焼式水質分析装置は、滴下ノズルを横方向に移動させる滴下ノズル移動手段を設け、滴下ノズル移動手段によって滴下ノズルを横方向に移動させてから、または移動させつつ試料水の滴下を行うことにより、燃焼部内の滴下ポイントの位置を滴下の都度変化させることができる。そのため、試料水が連続的に同じ箇所に滴下されることがなく、前回までの滴下によって温度が低下した箇所に試料水が滴下されることがないので、滴下ポイントの局部的な急激な温度低下が生じない。したがって、本発明の燃焼式水質分析装置によれば、滴下ポイントの局部的な急激な温度低下に伴う目的成分の不完全燃焼を防止することが可能となる。
【0012】
本発明において、「滴下ノズルを横方向に移動させる」とは、滴下ノズルを平面視したときに、滴下ノズルの位置が変化するように、滴下ノズルを動かすことをいう。したがって、滴下ノズルを水平面に沿って動かしてもよく、傾斜面に沿って動かしてもよく、その他の面あるいは線に沿って動かしてもよく、上下動のみを行うのでなければ、どのような態様で動かしてもよい。特に好ましいのは、滴下ノズルを水平面に沿って回転またはスライドさせることである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の燃焼式水質分析装置は、燃焼部内の滴下ポイントの局部的な急激な温度低下に伴う目的成分の不完全燃焼を防止して、高精度の水質分析を行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態の一例を示す。
【0015】
(第1実施形態)
図1は本発明に係る燃焼式水質分析装置の燃焼部および滴下部の一例を示す概略斜視図である。図1において、30は燃焼部、32は滴下部を示す。燃焼部30は、図5に示したのと同じものである。すなわち、燃焼管34の内部に触媒充填層36および触媒保護層38を配置するとともに、燃焼管34の周囲に加熱部40を設けたものである。
【0016】
滴下部32は、燃焼部30上に設置した基台42に回転モータ44を固定し、回転モータ44の回転軸45に円盤状の回転体46の一端側を固定し、この回転体46の他端側に滴下ノズル48を取り付けるとともに、滴下ノズル48と試料水供給管50とを回転体46内で連結したもので、回転モータ44および回転体46によって滴下ノズル移動手段が構成されている。
【0017】
本例の滴下部32は、回転モータ44の回転軸45を回転させると、回転体46が回転し、これにより滴下ノズル48の先端位置が水平面に沿って回転する。したがって、回転モータ44の作動により、回転体46を間欠的に任意の距離だけ回転させてから、あるいは連続的に回転させつつ、滴下ノズル48から試料水52の滴下を行うことにより、燃焼部30内の滴下ポイント54の位置を滴下の都度変化させることができる。なお、本例の燃焼式水質分析装置による水質分析方法は、図5の燃焼式水質分析装置と同様である。
【0018】
(第2実施形態)
図2は本発明に係る燃焼式水質分析装置の燃焼部の他の例を示す概略斜視図である。本例の滴下部62は、平行な一対の支持部材64、64を有する枠体66の支持部材64、64間に角板状のスライド体68をスライド可能に保持し、このスライド体68に滴下ノズル70を取り付け、エアの出入によりロッド72を進退させるエアシリンダ74のロッド72の先端をスライド体68に固定するとともに、滴下ノズル70と試料水供給管76とをスライド体68内で連結したもので、枠体66、スライド体68およびエアシリンダ74によって滴下ノズル移動手段が構成されている。なお、本例の滴下部62は適宜手段で加熱部の上方に配置することができる。
【0019】
本例の滴下部62は、エアシリンダ74のロッド72を進退させると、スライド体68が前後方向にスライドし、これにより滴下ノズル70の先端位置が水平面に沿って前後方向にスライドする。したがって、エアシリンダ74の作動により、スライド体68を間欠的に任意の距離だけスライドさせてから、あるいは連続的にスライドさせつつ、滴下ノズル70から試料水の滴下を行うことにより、燃焼部内の滴下ポイントの位置を滴下の都度変化させることができる。なお、本例の燃焼式水質分析装置による水質分析方法は、図5の燃焼式水質分析装置と同様である。
【0020】
なお、滴下ノズル移動手段の構成は上述した例に限定されるものではなく、他の適宜構成とすることができる。例えば、第2実施形態においては、エアシリンダ74に代えて、図3に示すように、ラック80とピニオン82によってスライド体68をスライドさせてもよい。
【0021】
上述した実施形態の燃焼部および滴下部は、例えば図4に示すような構成の全有機炭素測定装置の燃焼部および滴下部として使用することができる。図4において、100は試料水槽、102は希釈水槽、104はIC除去液槽、106は希釈槽、108は滴下部、110は燃焼部、112はキャリヤガス供給手段、114は除湿器、116は検出器(NDIR)を示す。
【0022】
本例の全有機炭素測定装置は、希釈槽106において試料水、希釈水およびIC除去液(塩酸等)を混合し、これにより試料水を希釈するとともに、試料水中に含まれる二酸化炭素等のIC(無機体炭素)を除去した後、キャリヤガス供給手段112により燃焼部110内にキャリヤガスを流した状態で、試料水を滴下部108によって燃焼部110内に滴下する。この液滴は、燃焼部110内で加熱されて気化し、この気化したガス中の有機物が触媒の作用により酸化され、COに変換される。その後、除湿器114を通して検出器116に導入し、ガス中のCO濃度を測定することにより、試料水中の有機体炭素濃度を求めるものである。前述した実施形態の燃焼部および滴下部は、本例の全有機炭素測定装置の燃焼部110および滴下部108として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る燃焼式水質分析装置の燃焼部および滴下部の一例を示す概略斜視図である。
【図2】本発明に係る燃焼式水質分析装置の燃焼部の他の例を示す概略斜視図である。
【図3】滴下ノズル移動手段の一例を示す概略斜視図である。
【図4】全有機炭素測定装置の一例を示す概念図である。
【図5】燃焼式水質分析装置の燃焼部および滴下部の従来例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0024】
30 燃焼部
32 滴下部
34 燃焼管
36 触媒充填層
38 触媒保護層
40 加熱部
44 回転モータ
46 回転体
48 滴下ノズル
62 滴下部
66 枠体
68 スライド体
74 エアシリンダ
80 ラック
82 ピニオン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部で試料水を燃焼させる燃焼部と、試料水の滴下ノズルとを備え、前記滴下ノズルから試料水の液滴を燃焼部内に落下させるとともに、この落下させた液滴を燃焼部内で燃焼させて得られるガス中の成分を測定する燃焼式水質分析装置において、前記滴下ノズルを横方向に移動させる滴下ノズル移動手段を設け、前記滴下ノズル移動手段によって滴下ノズルを横方向に移動させてから、または移動させつつ、試料水の滴下を行うことを特徴とする燃焼式水質測定装置。
【請求項2】
前記滴下ノズル移動手段は、滴下ノズルを水平面に沿って回転またはスライドさせるものであることを特徴とする請求項1に記載の燃焼式水質測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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