説明

燻製調理米の製造方法

【課題】消費者の味の趣向の多様化が一段と進んでいるにもかかわらず、食するときに燻製の香りと風味を楽しむことができる米食品は、従来存在しなかった。そこで、本発明の目的は、燻製の香りと風味を楽しむことができる、新規な米食品の製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は燻製の香りと風味を有する燻製調理米の製造方法であって、米穀にイーストを混合する段階と、米穀を炊く、蒸す、茹でるからなる群から選択される1つの方法により調理して調理米とする段階と、調理米を冷ます段階と、冷ました調理米を燻煙する段階とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燻製の香りと風味を有する新規な燻製調理米の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米食品は、長い間日本人の主食となっており、その調理方法も多様である。
【0003】
例えば、その1つとして米飯が挙げられる。米飯は、炊飯して米穀に水分を吸収させ、ふっくらと炊き上げる。米飯には、白米をそのまま炊飯したものの他、炊飯するときに具や調味料を加えて味付けした炊き込みご飯などがある。
【0004】
また、炊飯以外にも、例えば蒸すなどの調理方法がある。蒸す場合の調理例としては、もち米と小豆を一緒に蒸した赤飯などが挙げられる。
【0005】
一方、肉や魚、チーズ等を燻煙することにより、燻製とする調理方法が知られている。燻製については、枝豆などに応用して、燻製の風味を有する枝豆などが提案されている(例えば特許文献1)。
【0006】
米食品については、生米に燻液を散布して、燻液の保存剤としての特性を利用した、長期保存が可能な米が提案されている(例えば特許文献2)。なお、燻液とは、木材を燃焼する際に排出される煤煙を冷却して得られる木酢液を精製したものをいう。しかしながら、燻液が処理された米は、煙でいぶったものではないため、燻製特有の香りや風味が劣る。さらに、生米であるため、食するためには炊飯などの調理が必要であるところ、このような調理により、燻製の香りなどが消えやすい。よって、食するときに香りや風味を楽しむことは困難である。
【0007】
また、スモークライスが公知となっている(例えば特許文献3)。特許文献3のスモークライスは、皮を除去した生米を多孔質のホルダーに入れ、温度、湿度、時間を調整することにより、燻煙する。しかしながら、特許文献3に記載のスモークライスもまた、生米を燻煙しており、食するためには炊飯などの調理を行う必要がある。したがって、燻煙によって付いた香りや風味は、調理によって消えやすい。
【0008】
また、活性燻液による寿司用の米が公知となっている(例えば特許文献4)。しかしながら、活性燻液は、寿司用の米飯を長期保存しても劣化しないように適用されるものであって、寿司用の米飯に風味を付けたりするものではない。
【0009】
このように、近年、消費者の味の趣向の多様化が一段と進んでいるにもかかわらず、食するときに燻製の香りと風味を楽しむことができる米食品は、従来存在しなかった。
【特許文献1】特開2006−187226号公報
【特許文献2】特開平10−28547号公報
【特許文献3】米国特許第6835403号公報
【特許文献4】特開2003−304822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、燻製の香りと風味を有する、新規な米食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は燻製の香りと風味を有する燻製調理米の製造方法であって、米穀にイーストを混合する段階と、米穀を炊く、蒸す、茹でるからなる群から選択されるいずれかの方法により調理して調理米とする段階と、調理米を冷ます段階と、冷ました調理米を燻煙する段階とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る米穀を調理して調理米とする段階は、炊くことによって調理してもよい。このとき、イーストを米穀に対し0.08質量%〜0.42質量%の割合で混合するようにしてもよい。一方、調理米とする段階を蒸すまたは茹でることによって行う場合、イーストを、米穀に対して0.83質量%〜0.83質量%の割合で混合するようにしてもよい。
【0013】
さらに、本発明の燻製調理米の製造方法は、イーストが混合された後、米穀を5〜18分間常温で放置する段階を備えるようにしてもよい。さらにまた、米穀に混合されるイーストは、生イーストとすることができる。
さらにまた、本発明の燻製調理米の製造方法は、燻製調理米が所定の色を呈するように、着色する段階を備えてもよい。着色は、着色するための食品を混合することにより行うようにしてもよい。さらに、着色は、調理米を燻煙する段階の前に行うようにしてもよい。
【0014】
さらにまた、本発明の一の具体的な態様とは、合わせ酢を添加する段階を含む燻製調理米の製造方法により得られた燻製調理米を用いて調理した、押し寿司である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、イーストを混合した米穀を炊く、蒸す、茹でるのいずれかから選択される1つの方法で調理した後に燻煙処理して燻製調理米とすることにより、従来技術と比較して、燻製の香りと風味を強く保持している。そのため、食するときに燻製の香りと風味を有する、新規な米食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の好適な実施形態を説明する。
【0017】
本実施形態の燻製の香りと風味を有する燻製調理米の製造方法は、米穀にイーストを混合する段階と、イーストが混合された米穀を、炊く、蒸す、茹でるからなる群から選択されるいずれかの方法により調理して調理米とする段階と、調理米を冷ます段階と、冷ました調理米を燻煙する段階とを備えることを特徴とする。
【0018】
従来技術においては、生米を燻煙していたため、その後の炊飯などの調理で燻製の香りや風味が消えやすいという問題があった。そのため、香りや風味が保持されるようにするために、米穀を調理した後に燻煙を行うことが、本発明者により考えられた。
【0019】
しかしながら、一般に水分を多く含む食品は、水分が少ないものと比較して、燻煙したときに香りや風味が付きにくいという問題があった。調理米の場合もまた、乾燥している生米と比較して多量の水分を含むため、香り、風味が付きにくいという問題を有していた。
【0020】
本発明者は鋭意研究の結果、調理米とするための米穀にイーストを混合すると、混合しない場合と比較して、燻煙した後の調理米の香ばしさが増すことを見出した。イーストの作用機構については必ずしも明らかでない。しかしながら、お菓子「こつ」の科学(柴田書店 河田昌子 大阪あべの辻製菓専門学校)P.206〜216によれば、イーストの酵素により、まず米に含まれるショ糖やデンプンの一部がぶどう糖や果糖に分解され、それらがイーストの細胞内に取り込まれて発酵が進行することにより、分解産物である炭酸ガスや有機酸が生成されると考えられる。そして、細胞内から排出されたこれら炭酸ガスや有機酸の働きによって、イーストを加えない場合と異なり、燻煙後の調理米はより香ばしい香りと風味を有するようになるものと推察される。
【0021】
すなわち、本発明者は、水分を多く含む調理米を燻煙したときにも、生米を燻煙したときと同じか、それ以上に燻製独特の香りや風味が付きやすくなることを見出し、本発明を成すに至った。また、本発明の燻製調理米は、発酵により生じるエタノールにより、イーストを加えない場合よりも、表面に艶を有する。
【0022】
なお、本明細書において調理米とは、例えばうるち米、もち米などの米穀を、炊く、蒸す、茹でるなどの方法により調理したものをいう。調理米は、水分を含み、一般的に軟らかい食感である。また、本明細書において燻製調理米とは、燻煙処理を行った調理米をいう。
【0023】
また、本明細書における燻製の香りと風味とは、煙で燻した後の、香ばしい、例えば醤油のような香り、および風味である。燻煙処理による香ばしい香りや風味は、食欲を増進する効果を有する。
【0024】
図1を参照しながら、本実施形態の燻製調理米を製造する方法を詳述する。
【0025】
本実施形態に係る米穀は、イネ(Oryza)属に属するものであれば、種、品種等は限定されず、例えばコシヒカリ、ミルキークィーン、ひとめぼれなどのうるち米や、ヒヨクモチ、はくちょうもち、ヒメノモチなどのもち米を用いることができる。また、精白していない玄米や、古代米、赤米、黒米なども用いることができる。さらに、無洗米を使用することも可能である。無洗米を用いる場合は、洗米等をすることなく、そのままイーストを混合すればよく、手間を省くことができる。
【0026】
まず、本実施形態においては、図1に示すように、イースト混合工程において、洗米等により糠等を除去した米穀にイーストを混合する(ステップS1)。
【0027】
米穀に混合するイーストは、一般にパン生地の調製などに使用されるインスタントイーストや生イースト、天然酵母などを適宜選択して用いることができるが、予備発酵や厳密な温度管理を要しない、生イーストを用いることが好ましい。
【0028】
生イーストを用いる場合は、生イーストを量り取り、発酵させるために必要な水や発酵を促進する塩とともに、米穀に均一に混合する。
【0029】
また、インスタントイーストを用いる場合は、インスタントイーストについて予備発酵を行った後、生イーストの場合と同様に、水、塩とともに米穀に均一に混合する。予備発酵は、一般的に行われている条件とすることができる。例えば、容器中でインスタントイーストに25℃から30℃の水を加えて混合し、蓋、ラップフィルムで覆う。そして、これを25℃から30℃で30分程度放置することにより予備発酵が進行する。本実施形態では、このようにして予備発酵を行ったインスタントイーストを量り取り、米穀に混合する。
【0030】
天然酵母を用いる場合も、インスタントイーストの場合と同様に、熟成を行った後、水、塩とともに米穀に均一に混合する。熟成は、例えば容器中に水(25℃から30℃)を加えて混合し、蓋、ラップフィルムで覆う。そして、これを25℃から30℃で30時間程度放置することにより熟成が進行する。本実施形態では、このようにして熟成を行ったイーストを量り取り、米穀に混合する。
【0031】
ここで、後述する調理米とする工程が炊くことによる場合、イーストは、米穀に対して0.08質量%〜0.42質量%の割合で混合されることが好ましく、0.19質量%〜0.36質量%の割合で混合されるとより一層好ましい。0.08質量%より生イーストの割合が低い場合には、感じられる燻製の香りと風味が当該割合の範囲内のものより弱くなる。また、割合が0.42質量%より高い場合には、味に酸味、渋み、苦味が出やすくなる。
【0032】
一方、調理米工程(ステップS3)が蒸す、あるいは茹でるとき、混合されるイーストの量は、炊く場合と同様の理由から、米穀に対し0.56質量%〜0.83質量%が好ましい。
【0033】
また、イーストが混合された米穀は、5〜18分、常温で放置されることが好ましい(ステップS2)。混合してから5分未満の場合は、イーストによる発酵が十分進行しないため、当該時間の範囲内で放置した場合と比較して、燻煙処理による香りと風味のつき具合が弱い。一方、18分より長く放置した場合は、発酵が進行することにより、当該時間の範囲内で放置した場合と比較して、酸味のほか、渋味、苦味が出やすくなる。なお、本明細書中における、放置する場合の常温とは、20〜25℃の温度条件をいう。
【0034】
次に、イーストが混合された米穀について、調理米工程において、炊く、蒸す、茹でるからなる群から選択される1つの方法により調理して、調理米とする(ステップS3)。
【0035】
ここで、炊くとは、米穀に水分を加えて加熱することをいい、蒸すとは、米穀に湯気をとおして加熱することをいう。また、茹でるとは、熱湯の中に米穀を入れ、加熱することをいう。茹でる、または蒸す方法と比較して、使用するイーストの量がこれらより少量でも同等の効果を得ることができ、また他の2種の方法より味のばらつきを抑えることができることから、米穀を炊くことにより調理米工程(ステップS3)を行うことが特に適している。
【0036】
調理米工程(ステップS3)で得られた調理米は、後述する燻煙工程が行われる前に、冷まし工程において、冷風をあてて冷まされる(ステップS4)。これにより、調理米から熱が除かれ、燻煙したときに香りや風味が調理米に付きやすくなる。また、当該工程により、調理米は味がなじみ、艶が出るようになる。
【0037】
続いて、燻煙工程において、調理米を燻煙して燻製調理米を得る(ステップS5)。
【0038】
燻煙工程(ステップS5)では、チップなどを燃やし、発生する煙を調理米に当てて、調理米に燻製独特の香りと風味を付ける。これにより、調理米は、燻製独特の香りと風味を有するようになる。
【0039】
燻煙に用いるチップ(木材)としては、サクラ、ヒッコリー、オニグルミ、ナラ、ブナ、リンゴなどを例示することができる。また、木材以外にも、例えば、藁や茶葉、コーヒー豆、果実の皮や種などを燻煙に用いることが可能である。
【0040】
本実施形態に係る燻煙工程(ステップS5)は、スモーカー(燻製機、燻製器)などのほか、例えば、中華なべや一斗缶等を用いて行うことが可能である。スモーカーを用いる場合は、例えばスモーカー内部のチップ等の上方に網を設置し、該網に調理米を載置して燻煙処理をするようにすることができる。このとき、例えばおにぎり型などの種々の形状に成形してもよく、適当な容器に調理米を収容して載置してもよい。また、調理米を、布、紙、ハスの葉や柿の葉などの植物の葉で包んで載置してもよい。
【0041】
燻煙する際の温度条件は、これまで様々な条件が公知となっており、例えば食材を約15〜30℃程度の低温で燻煙する冷燻法、約50〜80℃程度の温度で燻煙する温燻法、約90〜140℃程度の高温で燻煙する熱燻法等が挙げられる。本実施形態に係る調理米を燻煙する場合にも仕上がりの好み等に応じて種々の条件を選択することが可能であるが、例えば、30〜50℃で行うことができる。
【0042】
また、燻製する時間についても特に限定されるものではなく、温度条件や好み等に応じて変化させることができるが、温度条件を上記の30〜50℃として行う場合にあたっては、例えば1分から5分とすることができる。
【0043】
燻煙工程(ステップS5)を経た調理米は、燻製の香りと風味を有する、燻製調理米となる。
【0044】
本実施形態の燻製調理米は、そのまま食することも可能であるが、食欲を増進する燻製の香りや風味を有するため、香りや味を楽しむことに重点を置いた米食品、例えば寿司飯として使用することに適している。なお、本明細書中で米食品とは、米穀を材料(または原料)とする食品をいう。
【0045】
特に、本実施形態の燻製調理米は、より米と具の香り、風味を楽しむことを目的とする大阪寿司、棒寿司などの押し寿司の寿司飯に用いることができる。また、本実施形態の燻製調理米は、米本来の甘さ、ねばり、艶等を有するとともに、燻煙工程を経ることにより、香しい、例えば醤油のような燻製の香りや風味を有するので、従来のものと異なり、押し寿司にして醤油等を付けなくとも、そのまま食することができる。さらに、燻煙処理により、寿司飯に用いられる従来の調理米より消費期限が長い。すなわち、持ち帰り用や弁当としての押し寿司に適している。
【0046】
押し寿司にする場合は、例えば以下のようにして調理することができる。なお、押し寿司とする方法はこれに限定されるものではなく、公知となっている種々の方法、器具を用いることができる。
【0047】
まず、燻煙処理前の冷まし工程において、調理米に、酢、砂糖、みりん、塩を混合した合わせ酢を混ぜ合わせる。これを燻煙処理し、燻製調理米とする。次に、押し寿司用の押し枠に具材を並べて敷く。続いて押し枠に燻製調理米を入れ、これを押し枠に付随する押し蓋で押す。最後に押し枠を逆さにし、押し枠を外して押し寿司とする。しかしながら、燻製調理米を押し枠に例えば半分程度入れ、具材を敷き、さらに燻製調理米を入れるようにしてもよい。言い換えれば、燻製調理米によって具材を挟むようにして押し寿司としてもよい。また、合わせ酢についても燻煙処理の後に混ぜ合わせるようにしてもよい。
【0048】
なお、押し寿司の具材としては、様々なものが選択できるが、好適な具材としては焼きさばを挙げることができる。
【0049】
本実施形態の燻製調理米は、寿司飯としてのほか、おにぎり、きりたんぽ、雑炊、ピラフ、オムライス、ライスコロッケ、パエリア、リゾット、チャーハン、ライスサラダ、麺類、お菓子、粉類などの米食品を調理または製造するための材料(または原料)として使用することができる。
【0050】
さらに、本実施形態に係る燻製調理米は、例えば真空パックにより常温で保存し、電子レンジなどを用いて温め直して食するようにしてもよい。温め直す場合も、生米を炊いたりする場合と比較して非常に短時間であるため、燻製調理米が有する燻製の香りと風味が失われることはほとんどない。その他、低温保存、冷蔵保存、冷凍保存することも可能である。
【0051】
なお、種々の着色料や着色するための食品を調理米に混合することにより、燻製の香りと風味を維持したままで、燻製調理米が所定の色、例えば白色、黄色、緑色、赤色、茶色、黒色を呈するように着色することができる。特に、着色するための食品を混ぜ合わせた場合、燻製調理米が、これら食品の香りや風味も併せて有するようにすることが可能である。
【0052】
本実施形態に係る燻製調理米は、イーストの酵素により生じる糖分やイーストの発酵により生じるアルコールなどを含むため、着色料や着色するための食品を混ぜ合わせた場合に、イーストを混合しないものと比較して、色素が米の表面や内部に移りやすくなる。言い換えれば、着色料、食品を混ぜ合わせたときの調理米の色付きがよくなる。
【0053】
着色する段階をいつ行うかについては種々選択することができ、特に限定されないが、例えば燻煙する前の冷まし工程(ステップS4)、調理米とする工程(ステップS3)、常温で放置する段階(ステップS2)において併せて行うことができる。また、調理米を燻煙した後に行ってもよいが、燻煙することにより着色した色のつやが更に増すことから、調理米を燻煙する前に着色することが好ましい。
【0054】
着色料は、食品に使用できるものであれば特に限定されず、例えばサフラン、ウコン、クチナシ、ベニバナなどの天然着色料のほか、赤色40号、赤色102号、青色1号、黄色4号等の着色料製剤といった合成着色料などを使用することができる。また、着色するための食品としては、ハーブ、野菜、海藻、味噌、竹炭、緑茶などを例示することができる。
【0055】
また、燻煙する前の冷まし工程(ステップS5)や米穀を調理米とする工程(ステップS4)において、上述した押し寿司の合わせ酢のように、種々の調味料や、着色を目的としない様々な食品を調理米に混ぜ合わせてもよい。この場合、燻製の香りと風味を維持したままで、燻製調理米の味を調整したり、他の食品の香りや風味を併せて有するようにすることもできる。
【0056】
以上説明したように、本燻製調理米は、イーストを混合した米穀を炊く、蒸す、茹でるのいずれかから選択される1つの方法で調理した後に燻煙処理することにより、燻製調理米としたときに、従来のものと比較して、燻製の香りと風味を強く保持している。そのため、食するときに燻製の香りと風味を楽しむことができる、新規な米食品を提供することができる。
【実施例】
【0057】
以下実施例によって本発明の燻製調理米をより具体的に説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
【0058】
本実施例においては、米穀を炊くことにより、調理米を得た。
【0059】
米穀360gを水(2000ml)で研ぎ、生イースト(オリエンタルイーストLT−3、オリエンタル酵母工業株式会社、以下同じ)1g(米穀に対して0.28質量%、なお小数点3桁以下四捨五入、以下同じ)を水400g、塩1gとともに混合して常温で10分間放置した。その後、米穀を鍋(深型両手鍋、貝印株式会社)に移し、水400gと塩1gを入れ、強火で加熱し、沸騰(蓋の周囲から泡が出てくる)したら火を弱めた。その状態で15分間加熱を続けた後、10分間蒸らした。
【0060】
炊き上がった米穀(調理米)を冷風に当てて熱を除いた後、燻煙した。燻煙はスモーカー(スチームスモーカー、60×135cm、メコ社、以下同じ)を用いて行った。具体的には、スモーカー内部のチップの上方に網を設置し、該網上にプラスチック製容器に入れた調理米を載置して、温度条件を30〜35℃として3分間行った。
(実施例1−1)
【0061】
本実施例においては、燻製時間を5分に変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
(実施例2)
【0062】
本実施例においては、米穀を蒸すことにより、調理米を得た。
【0063】
米穀360gを水(2000ml)で研ぎ、生イースト2.5g(米穀に対して0.69質量%)を水400g、塩1gとともに混合して常温で10分間放置した。その後、米穀を布を敷いた蒸籠(販売元 照宝)上に移し、水400gと塩1gを蒸籠の底部に入れ、蓋をして強火で加熱し、20分間蒸した。蒸し具合が8分程度となった後、弱火に変更して5分間蒸らした。
【0064】
蒸し上がった米穀(調理米)を冷風に当てて熱を除いた後、燻煙した。燻煙はスモーカーを用い、実施例1と同じ方法で燻煙処理を行った。
(実施例3)
【0065】
本実施例においては、米穀を茹でることにより、調理米を得た。
【0066】
米穀360gを水(2000ml)で研ぎ、生イースト2.5g(米穀に対して0.69質量%)を混合して常温で10分間放置した。その後、米穀を塩5gを含む沸騰した水1800g中に入れ、中火で加熱し、15分間茹でた。米穀の茹で具合が8分程度となった後、火を止め、重湯を捨てて10分間蒸らした。
【0067】
茹で上がった米穀(調理米)を冷風に当てて熱を除いた後、燻煙した。燻煙はスモーカーを用い、実施例1と同じ方法で行った。
(実施例4)
【0068】
本実施例においては、生イーストの量を0.1g(米穀に対して0.03質量%)と変更したほかは、実施例1と同様の方法で行った。
(実施例5)
【0069】
本実施例においては、生イーストの量を0.3g(米穀に対して0.08質量%)と変更したほかは、実施例1と同様の方法で行った。
(実施例6)
【0070】
本実施例においては、生イーストの量を1.5g(米穀に対して0.42質量%)と変更したほかは、実施例1と同様の方法で行った。
(実施例7)
【0071】
本実施例においては、生イーストの量を1.8g(米穀に対して0.5質量%)と変更したほかは、実施例1と同様の方法で行った。
(実施例8)
【0072】
本実施例においては、生イーストの量を0.7g(米穀に対して0.19質量%)と変更したほかは、実施例1と同様の方法で行った。
(実施例9)
【0073】
本実施例においては、生イーストの量を1.3g(米穀に対して0.36質量%)と変更したほかは、実施例1と同様の方法で行った。
(実施例10)
【0074】
本実施例においては、生イーストの量を1.8g(米穀に対して0.5質量%)と変更したほかは、実施例2と同様の方法で行った。
(実施例11)
【0075】
本実施例においては、生イーストの量を2g(米穀に対して0.56質量%)と変更したほかは、実施例2と同様の方法で行った。
(実施例12)
【0076】
本実施例においては、生イーストの量を3g(米穀に対して0.83質量%)と変更したほかは、実施例2と同様の方法で行った。
(実施例13)
【0077】
本実施例においては、生イーストの量を4g(米穀に対して1.11質量%)と変更したほかは、実施例2と同様の方法で行った。
(実施例14)
【0078】
本実施例においては、生イーストの量を1.8g(米穀に対して0.5質量%)と変更したほかは、実施例3と同様の方法で行った。
(実施例15)
【0079】
本実施例においては、生イーストの量を2g(米穀に対して0.56質量%)と変更したほかは、実施例3と同様の方法で行った。
(実施例16)
【0080】
本実施例においては、生イーストの量を3g(米穀に対して0.83質量%)と変更したほかは、実施例3と同様の方法で行った。
(実施例17)
【0081】
本実施例においては、生イーストの量を4g(米穀に対して1.11質量%)と変更したほかは、実施例3と同様の方法で行った。
(実施例18)
【0082】
本実施例においては、生イーストを混合した後の放置時間を4分と変更したほかは、実施例1と同様の方法で行った。
(実施例19)
【0083】
本実施例においては、生イーストを混合した後の放置時間を5分と変更したほかは、実施例1と同様の方法で行った。
(実施例20)
【0084】
本実施例においては、生イーストを混合した後の放置時間を18分と変更したほかは、実施例1と同様の方法で行った。
(実施例21)
【0085】
本実施例においては、生イーストを混合した後の放置時間を20分と変更したほかは、実施例1と同様の方法で行った。
(実施例22)
【0086】
本実施例においては、生イーストをインスタントイースト(サフドライイースト、サフレビュール、日仏商事株式会社)とし、予備発酵を行って混合したほかは、実施例1と同様の方法で行った。具体的には、まず、ステンレス製ボウル中でインスタントイースト10gに対し25〜30℃の水45gを加えて混合した。次に、ラップフィルムで覆い、25〜30℃で30分間放置した。そして30分後、ボウル中から1gを量り取り、米穀に混合した。
(実施例23)
【0087】
本実施例においては、生イーストを天然酵母(ホシノ天然酵母パン種、有限会社ホシノ天然酵母パン種)とし、熟成を行って混合したこと、およびイーストの添加量を0.7g(米穀に対して0.19質量%)としたほかは、実施例1と同様の方法で行った。具体的には、まず、ホーロー容器中で天然酵母10gに対し25〜30℃の水20gを加えて混合した。次に、容器に付属する蓋で覆い、25〜30℃で30時間放置した。そして30時間後、容器中から0.7gを量り取り、米穀に混合した。
(実施例24)
【0088】
本実施例においては、調理米を冷ます段階と併せて、着色する段階として味噌30gを混合したほかは、実施例1と同様の方法で行った。
(実施例24−2)
【0089】
本実施例においては、味噌30gとともに、水1lとかつおぶし10gからだしをとっただし汁20g、みりん10g、砂糖5gからなる合わせ調味料を加えた以外は実施例24と同様の方法で燻製調理米を得た。そして、該燻製調理米を用いておにぎりを調理した。
(実施例25)
【0090】
本実施例においては、調理米を冷ます段階と併せて、着色する段階として竹炭0.3gを混合したほかは、実施例1と同様の方法で行った。
(実施例25−2)
【0091】
本実施例においては、竹炭0.3gとともに、酢30g、砂糖15g、塩3g、みりん5gからなる合わせ酢を加えた以外は実施例25と同様の方法で燻製調理米を得た。そして、該燻製調理米を用いて押し寿司を調理した。具体的には、押し寿司用の押し枠(内寸9×9×9cm、販売元 合羽橋川崎商店、以下同じ)に具材(焼きさば)を敷き、続いて押し枠に燻製調理米を入れた。これを押し枠に付随する押し蓋で押した。最後に押し枠を逆さにし、押し枠を外して押し寿司とした。
(実施例26)
【0092】
本実施例においては、調理米を冷ます段階と併せて、着色する段階として着色料(花紅色、食用赤色3号 0.51%および食用赤色106号 0.19%含有、販売元 株式会社 高上馬)を10倍希釈した水溶液0.1gを混合したほかは、実施例1と同様の方法で行った。
(実施例26−2)
【0093】
本実施例においては、花紅色10倍希釈水溶液0.1gとともに、酢30g、砂糖15g、塩3g、みりん5gからなる合わせ酢を加えた以外は実施例26と同様の方法で燻製調理米を得た。そして、該燻製調理米を用いて巻き寿司を調理した。具体的には、すだれ上に海苔、燻製調理米、具材(かんぴょう、玉子焼き、キュウリ)を敷き、巻いて巻き寿司とした。
(実施例27)
【0094】
本実施例においては、調理米を冷ます段階と併せて、酢30g、砂糖10g、みりん5g、塩5gよりなる合わせ酢を混合したほかは、実施例1と同様の方法で燻製調理米を得た。続いて、該燻製調理米を用いて、押し寿司とした。具体的には、押し寿司用の押し枠に具材であるヒラメを敷き、続いて押し枠に燻製調理米を入れた。これを押し枠に付随する押し蓋で押した。最後に押し枠を逆さにし、押し枠を外して押し寿司とした。
(比較例1)
【0095】
洗米後の米穀360gを、実施例1と同じ方法で炊き、比較例として用いた。
(比較例2)
【0096】
洗米後の米穀360gを、実施例2と同じ方法で蒸し、比較例として用いた。
(比較例3)
【0097】
洗米後の米穀360gを、実施例3と同じ方法で茹でて、比較例として用いた。
(比較例4)
【0098】
洗米後の米穀360gに生イースト3gを混合した後、実施例1に記載したのと同じ方法で炊き、比較例として用いた。
(比較例5)
【0099】
洗米後の米穀360gに生イースト3gを混合した後、実施例2に記載したのと同じ方法で蒸し、比較例として用いた。
(比較例6)
【0100】
洗米後の米穀360gに生イースト3gを混合した後、実施例3に記載したのと同じ方法で茹でて、比較例として用いた。
(比較例7)
【0101】
洗米後の米穀360gを実施例1と同じ方法で炊き、これに燻液(萬有栄養株式会社製、以下同じ)を処理して混ぜ合わせたものを比較例として用いた。
(比較例8)
【0102】
洗米後の米穀360gを実施例2と同じ方法で蒸し、これに燻液を処理して混ぜ合わせたものを比較例として用いた。
(比較例9)
【0103】
洗米後の米穀360gを実施例3と同じ方法で茹で、これに燻液を処理して混ぜ合わせたものを比較例として用いた。
(比較例10)
【0104】
本比較例においては、イーストを混合しなかったこと、および洗米後に常温で放置しなかったことのほかは、実施例1と同様の方法で行った。
(比較例11)
【0105】
本比較例においては、イーストを混合しなかったこと、および洗米後に常温で放置しなかったことのほかは、実施例2と同様の方法で行った。
(比較例12)
【0106】
本比較例においては、イーストを混合しなかったこと、および洗米後に常温で放置しなかったことのほかは、実施例3と同様の方法で行った。
(比較例13)
【0107】
本比較例においては、イーストを混合しなかったこと、および洗米後に常温で放置しなかったことのほかは、実施例24と同様の方法で行った。
(比較例14)
【0108】
本比較例においては、イーストを混合しなかったこと、および洗米後に常温で放置しなかったことのほかは、実施例25と同様の方法で行った。
(比較例15)
【0109】
本比較例においては、イーストを混合しなかったこと、および洗米後に常温で放置しなかったことのほかは、実施例26と同様の方法で行った。
(比較例16)
【0110】
本比較例においては、比較例1の調理米に合わせ酢を混ぜて寿司飯としたほかは、実施例27と同様の方法で押し寿司を得た。
【0111】
まず、実施例1の燻製調理米を用いて、本発明の燻製調理米が有する燻製の香り、および風味に関する、10名のパネラーによる官能評価を行った。
【0112】
【表1】

【0113】
このように、本発明の燻製調理米は、香ばしい、例えば醤油の香り、風味のような、燻製の香りおよび風味を備えていることが明らかである。
【0114】
続いて、本発明の燻製調理米を用いて押し寿司とした場合(実施例27)と、通常の寿司飯を用いて押し寿司とした場合(比較例16)との比較を行った。
【0115】
【表2】

【0116】
表2に示すように、実施例27は、10名すべてが醤油をつけずにそのまま食した。一方、比較例16は、醤油を付けずに食したものは2人に過ぎなかった。
【0117】
続いて、実施例1ないし26、比較例1ないし15の燻製調理米の香り、風味について、10名のパネラーによる官能評価を行った。
香り
◎強い燻製の香りがある
○燻製の香りがある
△燻製の香りがするが弱い
▲燻製の香りがほとんどしない
×全く燻製の香りがしない
風味
◎強い燻製の風味がある
○燻製の風味がある
△燻製の風味がするが弱い
▲燻製の風味がほとんどしない
×全く燻製の風味がしない
官能評価の結果を表3に示す。
【0118】
【表3】

【0119】
表3に示すように、本発明の実施例は、いずれも燻製の香りと風味を有している。
【0120】
米穀を炊く場合、イーストを米穀に対して0.08質量%〜0.42質量%の割合で混合すると、その作用は顕著になる。すなわち、燻製調理米は燻製の香りと風味を強く有し、食したときに酸味、苦味、渋みもあまり感じられない。特に、0.19質量%〜0.36質量%とすると、酸味、苦味、渋みはほとんど感じられない。一方、米穀を蒸すまたは茹でる場合にも、イーストを米穀に対して0.83質量%〜0.83質量%の割合で混合すると、燻製調理米は燻製の香りと風味を強く有し、食したときに酸味、苦味、渋みもあまり感じられない。
【0121】
また、イースト混合後の放置時間を5〜18分とすると、燻製調理米は燻製の香りと風味をより強く有するようになる。なお、イーストを混合して燻煙した場合は、イーストを混合しない場合と比較して、米の甘味もより感じられるようになった。
【0122】
また、同様に、味噌、竹炭、花紅色を混合したときの燻製調理米、および該燻製調理米を用いて調理した食品の色についても、10名のパネラーによる官能評価を行った。
◎色の付きが非常によい
○色の付きがよい
△色の付きがある
▲色の付きがあまりない
×色の付きがない
【0123】
【表4】

【0124】
表4に示すように、味噌、竹炭、花紅色を調理米に混ぜ合わせて燻煙したときの燻製調理米、および該燻製調理米を用いて調理した食品の色は、イーストを混合することにより、色の付きがよくなった。
【0125】
さらに、実施例1の燻製調理米を常温で保存した場合、および真空パックに封入し、常温(20〜25℃)、または冷凍(−15〜30℃)で保存した場合の、電子レンジ(シャープ RE−D2 100V、470mm×375mm×320mm)にて温めたときの香り、や風味、および艶についても、10名のパネラーによる官能評価を行った。
◎強い燻製の香りがある
○燻製の香りがある
△燻製の香りがするが弱い
▲燻製の香りがほとんどしない
×全く燻製の香りがしない
風味
◎強い燻製の風味がある
○燻製の風味がある
△燻製の風味がするが弱い
▲燻製の風味がほとんどしない
×全く燻製の風味がしない

◎艶が非常によい
○艶がよい
△艶がある
▲艶があまりない
×艶がない
【0126】
【表5】

*真空パックに封入して30日間保存
【0127】
表5に示すように、一定時間経過した後にも、本実施例の燻製調理米は燻製の香りおよび風味と、艶を維持していた。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明を適用した燻製調理米の製造方法を説明するための工程図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燻製の香りと風味を有する燻製調理米の製造方法であって、
米穀にイーストを混合する段階と、
前記イーストを混合した米穀を炊く、蒸す、茹でるからなる群から選択されるいずれかの方法により調理して調理米とする段階と、
前記調理米を冷ます段階と、
冷ました前記調理米を燻煙する段階と、を備えることを特徴とする燻製調理米の製造方法。
【請求項2】
前記調理米とする段階は、前記イーストを混合した米穀を炊くことにより調理することを特徴とする請求項1に記載の燻製調理米の製造方法。
【請求項3】
前記イーストを、前記米穀に対して0.08質量%〜0.42質量%の割合で混合することを特徴とする請求項2に記載の燻製調理米の製造方法。
【請求項4】
前記調理米とする段階は、前記イーストを混合した米穀を蒸すまたは茹でることにより調理し、
前記イーストを、前記米穀に対して0.56質量%〜0.83質量%の割合で混合することを特徴とする請求項1に記載の燻製調理米の製造方法。
【請求項5】
前記イーストを混合した米穀を、5〜18分間常温で放置する段階をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の燻製調理米の製造方法。
【請求項6】
前記イーストは、生イーストであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の燻製調理米の製造方法。
【請求項7】
燻製調理米が所定の色を呈するように着色する段階をさらに備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の燻製調理米の製造方法。
【請求項8】
燻製調理米が所定の色を呈するように、着色するための食品を混合することを特徴とする請求項7に記載の燻製調理米の製造方法。
【請求項9】
前記着色する段階は、前記調理米を燻煙する段階の前に行うことを特徴とする請求項7または8に記載の燻製調理米の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のうちいずれか1項に記載の燻製調理米の製造方法により得られた燻製調理米を用いて調理または製造したことを特徴とする米食品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−72071(P2009−72071A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241394(P2007−241394)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(505467823)
【Fターム(参考)】