説明

爆薬

【課題】輸送等による成分の分離が生じにくく、装填機で容易に装填が可能で、水孔にも使用できる低威力の制御発破用に使用できる油中水滴型エマルション爆薬を得ること。
【解決手段】粒状に成型した油中水滴型エマルション爆薬と嵩比重が0.1〜0.5である無機質中空体を混合したことを特徴とした爆薬。本発明の爆薬は、好ましくは一粒当りの平均重量が0.03〜5gの粒状体に成型された油中水滴型エマルション爆薬の表面に平均粒径2〜8mmのシラスバルーンを付着させて得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は爆薬に関する。更に詳しくは隧道掘進、採石、採鉱等の産業用爆破作業に用いられ、特に岩盤の損傷を出来るだけ少なくするための制御発破に用いられる爆薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネルの側面や露天採掘切羽の斜面などの側面の保持を必要とする場合や、余掘りの防止などを目的とした制御発破が行われている。制御発破とは、例えば壁面の岩盤に影響が及ばないような発破を行い、目的とした部分だけを破壊する方法で、爆発によって生ずる力を破壊してしまう岩盤の方にだけ作用させ、破壊しないでおきたい岩盤には力が向かないように発破の力を制御しようとする発破方法である。
【0003】
このような制御発破は、デカップリング効果を求めて大きい穿孔に細径の樹脂筒入り爆薬、あるいはポリ袋入り爆薬を用いられることが良く知られている。発破現場においては、爆薬の装薬作業の簡便化や爆薬取扱時の安全性の確保という観点から、爆薬の装薬作業の機械化が要望されるようになってきており、特許文献1に記載された、ANFO爆薬に無機質中空体を含有した爆薬をローダー等によって機械装填する方法が鉱山や採石場等で使用されることもある。
【0004】
水孔で使用可能で、機械装填が可能な爆薬として、特許文献2、3に記載された、油中水滴型エマルション爆薬を粒状に成型した爆薬が開発されている。これらの爆薬は空気装填機のように比較的簡単な機械で装填が可能で、耐水性が優れているため、比較的多くの水が存在する発破孔でも使用可能である。
【0005】
【特許文献1】特開2001−181081号公報
【特許文献2】特開2003−246694号公報
【特許文献3】特開2004−238235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された爆薬は、発破孔中に水が存在する場合、ANFO爆薬が水に溶解して所定の爆発性能が得られなくなるために、使用することができないという問題がある。特許文献2、3に記載された爆薬は、爆轟速度が3500m/s以上の性能を持つため、制御発破を行う場合には、威力が大きすぎるという問題があったり、水孔に使用した場合に成分分離が見られる場合がある。このため、機械装填が可能で、水孔にも使用できる低威力の制御発破用の爆薬の開発が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、油中水滴型エマルション爆薬を粒状に成型した爆薬と無機質中空体を混合することで、機械装填が可能で、水孔にも使用できる低威力の爆薬が得られる事を見出し、本発明を完成させたものである。
【0008】
すなわち本発明は、
(1)粒状に成型した油中水滴型エマルション爆薬と嵩比重が0.1〜0.5である無機質中空体を混合して得られることを特徴とした爆薬、
(2)無機質中空体の平均粒径が2〜8mmである(1)に記載の爆薬、
(3)無機質中空体が、爆薬全体の5〜40重量%の含有率である(1)または(2)に記載の爆薬、
(4)油中水滴型エマルション爆薬の一粒当りの平均重量が0.03〜5gである(1)〜(3)のいずれか1項に記載の爆薬
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の爆薬は、成分分離が生じにくく、より性能が安定した爆薬であり、制御発破においては、機械装填が可能で、水孔にも使用できる低威力の爆薬として使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の爆薬は、粒状に成型された油中水滴型エマルション爆薬と無機質中空体を混合して得られる爆薬である。混合工程は、コンクリートミキサー等の、粒状に成型された油中水滴型エマルション爆薬と無機質中空体を均一に混合できる装置を使用して行う。本発明の爆薬は、この油中水滴型エマルション爆薬と無機質中空体が独立して存在する混合物である。
【0011】
無機質中空体としては、嵩比重が通常0.1〜0.5、より好ましくは0.15〜0.4のものが使用される。また平均粒径は2〜8mmのものが好ましい。この嵩比重及び粒径の範囲の無機質中空体であれば、粒状に成型された油中水滴型エマルション爆薬と混合した際に、成分分離の問題が発生しにくいため好ましい。なお、嵩比重はタッピング比重であり、また、粒径は乾式振盪法で測定できる。本発明の爆薬に用いられる無機質中空体は、無機物質を構成成分とした中空体であれば、どのような成分のものでも使用できるが、経済的な観点から、シラスバルーン、パーライトのような天然産の無機質中空体を用いるのが好ましい。使用する無機質中空体の添加量が少なければ、爆薬としての破砕効果が大きく、添加量が多ければ破砕効果は減少するが岩盤のダメージを小さくする目的の制御発破には有効になる。したがって、無機質中空体の使用量は、制御発破に効果がある量を使用すればよいが、添加量が多すぎると伝爆しないおそれがあるので、それらの点を考慮に入れると、無機質中空体は、通常5〜40重量%、好ましくは重量10〜30%を占める割合で爆薬に含有される。
【0012】
本発明に使用される粒状に成型された油中水滴型エマルション爆薬は、例えば次のようにして製造される。硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム等の酸化剤を約85〜95℃の水に溶解させ酸化剤水溶液を得る。次いで約85〜95℃に加熱されたパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の油類とソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤の混合物に、十分攪拌しながら前述の酸化剤水溶液を徐々に添加する。できあがった油中水滴型エマルションにガラスマイクロバルーン等の微小中空体、必要に応じて他の添加剤を加えて、捏和機で混合し、油中水滴型エマルション爆薬を得る。次いでこの油中水滴型エマルション爆薬を押し出し成型機等で成型する。爆薬の形状については取り扱いやすい粒状であれば特に限定されるものではなく、球状、円柱、円盤状、角柱状等のいずれでもよく、成型に使用する成型機によって任意な形に成型される。爆薬は、一粒当たりの平均重量が0.03〜5gに成型するのが好ましく、その大きさは、形状により異なり一概には言えないが円柱状の場合、通常直径3〜10mm、長さ4〜15mm程度が好ましい。
【0013】
本発明の爆薬を機械装填する場合の爆薬装填機は、装薬孔に爆薬を装填することができればどのような形態のものでもかまわない。例えば、圧力容器、装薬ホース、空気圧送装置から構成されるANFO装填機などが使用できる。
【実施例】
【0014】
次に実施例をあげて本発明を更に詳しく説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0015】
実施例1
硝酸アンモニウム61.8重量部、硝酸ナトリウム4.1重量部、水9.0重量部からなる90℃の酸化剤水溶液を、マイクロクリスタリンワックス2.55重量部、ソルビタンモノオレート2.55重量部の混合物に加え、十分撹拌混合して油中水滴型エマルションを得た。これに微小中空粒子としてガラスマイクロバルーン5.0重量部を加えて撹拌混合し、油中水滴型エマルション爆薬を得た。この油中水滴型エマルション爆薬をダイスが4mm径の押出成型機で成型し、5mmの長さになるようにナイフで切断し、一粒当りの平均重量が0.06gである粒状油中水滴型エマルション爆薬を得た。この粒状油中水滴型エマルション爆薬85.0重量部と嵩比重0.28、平均粒径が5mmのシラスバルーン15.0重量部をコンクリートミキサーに投入、混合し、本発明の爆薬を得た。
【0016】
実施例2
硝酸アンモニウム58.1重量部、硝酸ナトリウム3.8重量部、水8.5重量部からなる90℃の酸化剤水溶液を、マイクロクリスタリンワックス2.4重量部、ソルビタンモノオレート2.4重量部の混合物に加え、十分撹拌混合して油中水滴型エマルションを得た。これに微小中空粒子としてガラスマイクロバルーン4.8重量部を加えて撹拌混合し、油中水滴型エマルション爆薬を得た。この油中水滴型エマルション爆薬をダイスが4mm径の押出し成型機で成型し、5mmの長さになるようにナイフで切断し、一粒当りの平均重量が0.06gである粒状油中水滴型エマルション爆薬を得た。この粒状油中水滴型エマルション爆薬80.0重量部と嵩比重0.28、平均粒径が5mmのシラスバルーンの20重量部をコンクリートミキサーに投入、混合し、本発明の爆薬を得た。
【0017】
比較例1
硝酸アンモニウム72.6重量部、硝酸ナトリウム4.8重量部、水10.6重量部からなる90℃の酸化剤水溶液を、マイクロクリスタリンワックス3.0重量部、ソルビタンモノオレート3.0重量部の混合物に加え、十分撹拌混合して油中水滴型エマルションを得た。これに微小中空粒子としてガラスマイクロバルーン6.0重量部を加えて撹拌混合し、油中水滴型エマルション爆薬を得た。この油中水滴型エマルション爆薬をダイスが4mm径の押出し成型機で成型し、5mmの長さになるようにナイフで切断し、一粒当りの平均重量が0.06gである比較用の爆薬を得た。
【0018】
比較例2
硝酸アンモニウム61.8重量部、硝酸ナトリウム4.1重量部、水9.0重量部からなる90℃の酸化剤水溶液を、マイクロクリスタリンワックス2.55重量部、ソルビタンモノオレート2.55重量部の混合物に加え、十分撹拌混合して油中水滴型エマルションを得た。これに微小中空粒子としてガラスマイクロバルーン5.0重量部を加えて撹拌混合し、油中水滴型エマルション爆薬を得た。この油中水滴型エマルション爆薬をダイスが4mm径の押出し成型機で成型し、5mmの長さになるようにナイフで切断し、一粒当りの平均重量が0.06gである粒状油中水滴型エマルション爆薬を得た。この粒状油中水滴型エマルション爆薬85.0重量部と嵩比重0.8、平均粒径が2mmのシラスバルーン15.0重量部をコンクリートミキサーに投入、混合し、比較用の爆薬を得た。
【0019】
表1に実施例1、2及び比較例1、2で得られた各爆薬の組成比を示す。
【0020】
試験例1
実施例1、2及び比較例1、2で得られた爆薬を、外径48.6mm、長さ1m、肉厚3.5mmの鋼管中に空気装填機を用いて装薬し、ブースターとして日本化薬(株)製の含水爆薬(商品名:アルテックス)50gを用いて起爆し、ドートリッシュ法により爆轟速度を測定した。また、同じ鋼管中に予め水を満たした後、上記と同様に空気装填機を用いて各爆薬を装填し、水孔中での爆轟速度も測定した。その結果を表2に示す。
【0021】
試験例2
実施例1、2及び比較例2で得られた爆薬の成分分離状況を調べるために振とう分離試験を実施した。各爆薬1kgを2Lのポリ容器に入れ、振とう機(Retsch GmbH社製)を用い、振とう強度60で1時間振とうさせることにより成分が分離するかどうか調べた。その結果を表2に示す。
【0022】
爆速の低さと制御発破効果は比例することが知られており、実施例1、2と比較例1の爆速を較べると実施例の爆薬は、制御発破に適した水孔でも使用可能な爆薬であることが分かる。また、比較例2の爆速は十分に低いが、振とう試験における成分分離により、一定の性能を保持することが困難であることが確認された。
【0023】
表1
組成
実施例1 実施例2 比較例1 比較例2
硝酸アンモニウム 61.8 58.1 72.6 61.8
硝酸ナトリウム 4.1 3.8 4.8 4.1
水 9.0 8.5 10.6 9.0
マイクロクリスタリンワックス 2.55 2.4 3.0 2.55
ソルビタンモノオレート 2.55 2.4 3.0 2.55
ガラスマイクロバルーン 5.0 4.8 6.0 5.0
シラスバルーン 15.0 20.0 − 15.0
【0024】
表2
性能試験
実施例1 実施例2 比較例1 比較例2
爆速 乾燥孔 2520 2360 3830 2610
(m/s) 水孔 2480 2320 3710 2580

振とう分離試験 分離なし 分離なし − シラスバルーン
が底部に分離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状に成型した油中水滴型エマルション爆薬と嵩比重が0.1〜0.5である無機質中空体を混合して得られることを特徴とした爆薬。
【請求項2】
無機質中空体の平均粒径が2〜8mmである請求項1に記載の爆薬。
【請求項3】
無機質中空体が、爆薬全体の5〜40重量%の含有率である請求項1または2に記載の爆薬。
【請求項4】
油中水滴型エマルション爆薬の一粒当りの平均重量が0.03〜5gである請求項1〜3のいずれか1項に記載の爆薬。

【公開番号】特開2007−284291(P2007−284291A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113131(P2006−113131)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)