説明

爪障害の治療のための局所殺菌剤

乳酸、リンゴ酸、酒石酸またはクエン酸の1つまたは複数のC1−C4アルキルエステル、および生理学的に許容される賦形剤を含む局所適用のための無水薬剤を、真菌症によって引き起こされた爪障害の治療、およびネイルケアのために記述する。本発明に従う薬剤は、ペットおよび家畜ならびに捕獲生活における野生動物の蹄、鉤爪および(猛禽類の)爪のかび感染の治療のための獣医学領域においてもまた適切である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真菌症によって引き起こされる爪障害の治療およびネイルケアを意図し、乳酸、リンゴ酸、酒石酸またはクエン酸のC1−C4アルキルエステル、および適用可能な場合には生理学的に許容される賦形剤を含む、無水局所薬剤に関する。
【0002】
本発明は、任意の投与形態の殺菌剤の使用にもまた関する。
【0003】
特許文献1は、酸性エステル、および適用可能な場合には生理学的に許容される賦形剤を含む、担体に加えて1つまたは複数の活性物質を含む局所薬剤について記述する。
【0004】
意外にも、乳酸、リンゴ酸、酒石酸もしくはクエン酸の1つのC1−C4アルキルエステルのみ、またはその混合物を含む薬剤が、さらなる添加剤なしで、真菌感染(かび感染)によって引き起こされた爪障害の治療に著しく適切であることが見出された。
【0005】
意外にも、これらの局所抗真菌剤は、さらなる活性物質の追加、およびさらなる担体の追加なしで非常に効果的に使用することができる。
【0006】
乳酸、リンゴ酸、酒石酸およびクエン酸のC1−C4アルキルエステルの殺菌効果は、先行技術において周知である。
【0007】
特許文献2において、例えば、低級アルキルエステルの乳酸、リンゴ酸、酒石酸およびクエン酸の殺菌効果は、他の活性物質との組合せにおいて、記述も言及もされていない。様々な乳酸エステルは殺菌剤としてもまた言及されていない。
【0008】
特許文献3において、にきび、粃糠疹および頭部油性脂漏症(oleosa capitis)の治療に効果的なものとして、担体としての低級アルカノールと共に乳酸エステルが記述されている。殺菌効果または抗真菌効果は言及されず、殺菌効果のみが言及されている。エステルは、担体としてのアルコール溶液中のアルコールとの組合せで使用される。
【0009】
特許文献4において、アルコール溶液中にある遊離乳酸を脱臭剤として使用できるとして、静菌溶液の製造が記述される。乳酸エステルは言及されないが、これらのエステルの加水分解には言及されている。平衡があると結論すべきである。溶液の殺菌効果は記述されない。殺菌効果の一部は使用したアルコールに起因するという疑いが示されている。
【0010】
特許文献5は、手の細菌を減少させ、乳酸のエステルを含み、特に静菌に効果的な組成物について記述する。乳酸のエステルは様々な溶媒中に溶解される。殺菌効果は、記述または主張されていない。
【0011】
特許文献6は、殺菌剤としての乳酸塩およびクエン酸塩の使用を記載する。特に、細菌に対抗するために、皮膚上での、および特に毛髪のためのこれらの薬剤の使用について記述する。殺菌効果は、言及または主張されていない。界面活性物質(表面活性剤)の使用、および特に有利なものとして第2の酸の使用が記述される。
【0012】
言及した特許明細書のどれにおいても、乳酸、リンゴ酸、酒石酸またはクエン酸のエステルの殺菌効果(かび感染から生じる爪床の疾患の治療に適切である)に言及した参照はない。
【0013】
意外にも、C1−C4アルキルエステルは、殺菌活性物質として、および、必要ならば、同時に任意のさらなる添加剤を不必要にする担体としてもまた使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】PCT/CH99/0049
【特許文献2】GBP1234297
【特許文献3】USP−3806513
【特許文献4】GBP1561475
【特許文献5】USP−2005019355
【特許文献6】WO2004032886
【0015】
追加の担体なしでまたは追加の活性物質なしで使用する、真菌症(かび)によって引き起こされた爪障害の局所治療のための満足な薬剤はまだない。乳酸、リンゴ酸、酒石酸およびさらにクエン酸のC1−C4アルキルエステルは、意外にも優れた抗真菌効果、および同時に、爪障害の局所治療のための化粧用剤として持続する治療用効果のための活性物質の必要な量を保証する担体自体としての優れた特性、すなわち、対応する酸のC1−C4アルキルエステルの、下層にある爪床および爪根(マトリックス)の中への爪を介する輸送、を示す。
【0016】
活性物質および同時に担体として使用されるC1−C4アルキルエステルは、メチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、イソプロピルエステル、n−ブチルエステル、sec−ブチルエステル、イソブチルエステルおよびtert−ブチルエステルを含む。多塩基酸のリンゴ酸、クエン酸および酒石酸のエステルの中で、エステル基中に含まれるC1−C4アルキル基は、同じまたは異なるものでありうる。前述の多塩基酸において、カルボキシ基のすべてまたはカルボキシ基の一部はエステル化することができる。したがってリンゴ酸および酒石酸のC1−C4アルキルエステル以外に、対応するリンゴ酸および酒石酸のC1−C4ジアルキルエステル、ならびに対応するリンゴ酸および酒石酸のモノアルキルエステルもまた考慮することができる。
【0017】
クエン酸のC1−C4アルキルエステルのうちで、対応するモノアルキルエステル、ジアルキルエステルおよびトリアルキルエステルが適切である。
好ましいエステルはエチルエステルである。さらに好ましいエステルはイソプロピルエステルである。
好ましい単一化合物は乳酸エチルである。さらに好ましい単一化合物はリンゴ酸ジエチルおよびリンゴ酸ジイソプロピルである。同様に、酒石酸モノエチルおよびクエン酸モノエチルは好ましい化合物として記載される。
【0018】
本発明に従う局所適用のための薬剤は、乳酸、リンゴ酸、酒石酸またはクエン酸の1つまたは複数のC1−C4アルキルエステルの他に、通例の生理学的に許容される賦形剤を含みうる。
【0019】
このタイプの適切な賦形剤は、例えば、テルペン、アルコール、ケトン、脂肪酸エステル、ポリグリコール、界面活性剤、尿素、抗酸化剤および錯化剤を含む、テルペンまたは油である。
【0020】
適切なテルペンは、非環式テルペン、単環式テルペンおよび二環式テルペン、ならびにさらにこれらのテルペンを含む油である。非環式テルペンの例は、例えばシトラール、α−イオノンおよびβ−イオノンなどの非環式テルペンアルデヒドおよび非環式テルペンケトンに加えて、例えばミルセンなどの非環式テルペン炭化水素、例えばシトロネロールおよびゲラニオールなどの非環式テルペンアルコールである。
【0021】
単環式テルペンの例は、例えばメントンおよびカルボンなどの単環式テルペンケトンに加えて、例えばα−テルペン、γ−テルペンおよびリモネンなどの単環式テルペン炭化水素、例えばチモール、メントール、シネオールおよびカルバクロールなどの単環式テルペンアルコールである。
【0022】
二環式テルペンの例は、例えばカロンなどのカラングループからのテルペン、例えばα−ピネンおよびβ−ピネンなどのピナングループからのテルペン、ならびにさらに例えばカンファーおよびボルネオールなどのボルナングループからのテルペンである。特に適切なテルペンは、例えばチモールおよびメントールなどの単環式テルペンアルコールである。テルペンを含む適切な油の例は、薄荷油、カルダモン油、ゼラニウム油、薔薇油、ニオイヒバ油およびタイム油である。特に適切な油は、薄荷油、ラベンダー油、ティーツリー油、ABC油(カリトゥリス・イントラトロピカ(callitris intratropica)木の油)およびタイム油である。
【0023】
適切なアルコールは、1〜3のヒドロキシ基および2〜6の炭素原子を備えた、分岐または非分岐のアルコールであり、そこでヒドロキシル基は、部分的にまたは完全にエーテル化およびエステル化できる。特に適切なアルコールは、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロパノール)、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール)、2−フェニルエタノール(フェニルエチルアルコール)、1−ブタノール(ブチルアルコール)、エチレングリコールモノメチルエーテル(メトキシエタノール)、エチレングリコールモノフェニルエーテル(フェノキシエタノール)、1,2,3−トリヒドロキシプロパン(グリセリン)、酢酸エチル、酢酸ブチル、グリセリンジアセタート(ジアセチン(diacetine))およびグリセリントリアセタート(トリアセチン)である。
考慮できる適切なケトンは、例えばアセトンおよびメチルエチルケトン(2−ブタノン)である。
【0024】
8〜21の炭素原子を有する、飽和および不飽和の、分岐および非分岐の脂肪酸のエステルが、脂肪酸エステルとして適切であり、そこでアルコール成分は1〜6の炭素原子を有する分岐および非分岐のアルコールを含む。特に適切な脂肪酸エステルは、トリデカンカルボン酸イソプロピルエステル、テトラデカンカルボン酸イソプロピルエステル(ミリスチン酸イソプロピル)、ペンタデカンカルボン酸メチルエステルおよび9−オクタデセン酸グリセリンモノエステル(グリセリンモノオレエート)である。
【0025】
適切なポリグリコールは、例えば、ポリグリコール400である。
適切な界面活性剤は、例えば、非イオン性界面活性物質である。特に適切な界面活性剤は、ソルビタンの部分的脂肪酸エステル(スパン)、ポリオキシエチレンソルビタンの部分的脂肪酸エステル(ツイーン)、ポリオキシエチレンの脂肪酸エステル(ミルジ)およびポリオキシエチレンの脂肪アルコールエーテル(ブリジ)である。
【0026】
適切な抗酸化剤は、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル−4−メトキシ−フェノール(BHA)、トコフェロールおよびアスコルビン酸塩である。
【0027】
適切な錯化剤は、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(Na−ETDA)である。
【0028】
適切であると判断できる本発明に従う局所適用のための製剤形態は、例えば無水溶液、チンキ、エマルジョン、ゲル、軟膏、クリームおよびペーストである。好ましい局所投薬形態は、無水溶液である。得られた溶液は、それゆえ好ましくは局所適用に直接使用される。
しかしながら、得られた無水溶液は、溶解、混合および懸濁の従来の方法を使用して、生理学的に許容される製剤形態のさらなる補助の追加を伴う他の局所投与量形態においてもまた産生できる。
【0029】
本発明に従う局所使用のための薬剤は、好ましくは無水溶液の形態で使用される。
局所使用のための好ましい薬剤は、本発明に従って、乳酸、リンゴ酸、酒石酸またはクエン酸の1つまたは複数のC1−C4アルキルエステルを重量で1〜99.9%、および1つまたは複数の生理学的に許容される賦形剤を重量で0〜98.99%含む。
【0030】
イントロダクションにおいて言及されたように、本発明は、爪障害および爪周囲の疾患の治療、予防、フォローアップまたは補助的治療のための、およびネイルケアのための、 本発明に従う局所使用のための薬剤の使用に関する。特に、本発明は、かび感染、例えば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)または毛瘡白癬菌に感染した手指爪または足指爪の治療に関する。さらに、本発明に従う薬剤は、ペットおよび家畜ならびに捕獲生活における野生動物の蹄、鉤爪および(猛禽類の)爪のかび感染の治療にもまた使用できる。
【0031】
典型的には局所使用を意図し、前記酸のC1−C4アルキルエステルを含む薬剤は、例えば、
−皮膚糸状菌、酵母もしくは菌類または混合感染によって引き起こされた爪真菌症の治療、予防およびフォローアップ治療、
−乾癬、糖尿病またはさらにAIDSの患者における爪のかび感染の治療、予防およびフォローアップ治療、
−例えばカンジダ・パロニイチウム(Candida paronychium)、カンジダ・アルビカンスまたは毛瘡白癬菌などの爪周囲の感染のための補助療法、
のための、抗真菌剤として適切である。
【0032】
既に言及されているように、本発明に従う医薬品は、足指および手指の爪の爪障害および爪周囲の疾患の治療、ならびにさらにペットおよび家畜ならびに捕獲された野生動物(動物園)の蹄、鉤爪および(猛禽類の)爪の治療に適切である。
【0033】
本発明に従う薬剤を適用する頻度は、障害の程度および局在に依存する。
【0034】
一般的に、毎日1〜3回の適用で十分である。
【0035】
この事例における無水溶液は、病気の爪または蹄、鉤爪もしくは(猛禽類の)爪に直接、および、必要ならば、ピペットまたはアプリケーターを使用して、同様に感染した皮膚の周辺領域にもまた適用される。
【0036】
本発明に従う局所使用のための薬剤は、病気の爪に浸透し、数日内に爪床または爪根において完全な効果を発揮することができるという長所を有する。
【実施例1】
【0037】
乳酸エチルエステル(添加剤なしで純粋)を含む爪アプリケーター。
【実施例2】
【0038】
リンゴ酸ジエチルエステル 70%、
エタノール 30%、
さらなる添加剤はない、
を含む爪アプリケーター。
【実施例3】
【0039】
クエン酸トリエチルエステル 50%、
イソプロパノール 50%、
さらなる添加剤はない、
を含む爪アプリケーター。
【実施例4】
【0040】
酒石酸ジエチルエステル 40%、
エタノール 30%、
プロピレングリコール 30%、
さらなる添加剤はない、
を含む爪アプリケーター。
【0041】
以下のものは、例えば、可能なアプリケーターとして使用できる。
1)DE3202435C1およびUSP4.973.181中に記述され、例えばポリプロピレンなどの適切に耐性のある資材で作製されているテキスタイルライナーと同等である、キャピラリーシステムに基づいたアプリケーター、
2)マウントヴァーノン、ニューヨーク、アメリカのダブ−O−マティック(Dab−O−Matic)社からの、例えばダブ−O−マティックなどの自動ばねまたはロールクロージャーを備えたスワブボトル、または
3)キャップへと組み込まれたブラシまたはピペットを備えた、ガラスまたはプラスチックの通例のチンキボトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真菌症によって引き起こされた爪疾患の治療およびネイルケアのための局所適用のための無水薬剤であって、
a)乳酸、リンゴ酸、酒石酸またはクエン酸の1つまたは複数(必要ならば)のC1−C4アルキルエステルと、
b)必要ならば生理学的に許容される賦形剤と、
を含む無水薬剤。
【請求項2】
抗真菌剤として乳酸、リンゴ酸、酒石酸またはクエン酸のエチルエステルを含む、請求項1に記載の局所適用のための無水薬剤。
【請求項3】
抗真菌剤として乳酸、リンゴ酸、酒石酸またはクエン酸のイソプロピルエステルを含む、請求項1に記載の局所適用のための無水薬剤。
【請求項4】
抗真菌剤として乳酸エチルエステルを含む、請求項1に記載の局所適用のための無水薬剤。
【請求項5】
抗真菌剤としてリンゴ酸ジイソプロピルエステルを含む、請求項1に記載の局所適用のための無水薬剤。
【請求項6】
テルペン、アルコール、ケトン、脂肪酸エステル、ポリグリコール、界面活性剤、尿素、抗酸化剤および錯化剤を含む、テルペンまたは油を含む群から選択された1つまたは複数の賦形剤を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の局所適用のための無水薬剤。
【請求項7】
乳酸、リンゴ酸、酒石酸またはクエン酸のC1−C4アルキルエステルを重量で1〜99.99%、および賦形剤を重量で0〜98.99%含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の局所適用のための無水薬剤。
【請求項8】
乳酸、リンゴ酸、酒石酸またはクエン酸の1つまたは複数のC1−C4アルキルエステル、および均一溶液が得られるまで必要ならば加熱して均質に混合および撹拌された1つまたは複数の賦形剤を必要ならば含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の局所適用のための無水薬剤の製造のための方法。
【請求項9】
爪障害および爪周囲の疾患の治療、予防、フォローアップまたは補助的治療のための、請求項1〜7のいずれか一項に記載の局所適用のための無水薬剤の使用。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の局所適用のための無水薬剤のネイルケアのための使用。
【請求項11】
ペットおよび家畜ならびに捕獲生活における野生動物の蹄、鉤爪および(猛禽類の)爪のかび感染の治療のための、請求項1〜7のいずれか一項に記載の局所適用のための無水薬剤。

【公表番号】特表2010−524866(P2010−524866A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503371(P2010−503371)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/002642
【国際公開番号】WO2008/128627
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(503241283)バイオイコール ア−ゲー (2)
【Fターム(参考)】