説明

片側スポット溶接装置

【課題】接合部を安定して形成し、且つ、穴明き不良の発生を防止できる片側スポット溶接装置を提供する。
【解決手段】制御装置4は、溶接ガン2を制御して、重ね合わせた一方側のプレス部品10に電極20を押し込みながら加圧力が所定値まで上昇した際、電流供給装置3を制御して電流の供給を開始させる。制御装置4は、溶接ガン2を制御して、プレス部品10の溶融により電極20が次第に押し込み移動してプレス部品10間の接合部5の接合幅5aが所定値になった際、加圧力を次第に下降させて電極20の押し込み位置が電流の供給を停止するまで固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車生産ラインにおいて使用する片側スポット溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車生産ラインでは、重ね合わせたプレス部品に溶接ガンの先端に装着保持した電極を押し付けて加圧し、電流を供給することによりプレス部品間を抵抗発熱させて溶接するスポット溶接が用いられている。スポット溶接により形成される接合部の品質は、電流値、電流の供給時間、加圧力及び電極先端の状態を適切に管理することにより安定させることができる。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されているスポット溶接装置は、サーボモータ制御の溶接ガンを用いて、重ね合わせたプレス部品の重合部分を一対の電極で挟み込んで加圧するようになっていて、所定の加圧力による加圧状態でサーボモータ制御により電極の押し込み位置を所定の位置で固定し、当該電極の押し込み位置が固定された状態で電極間に電流の供給を開始して溶接することで、溶接中の電極の押し込み過ぎによる溶融部分からのスパッタの発生を抑制して接合部の品質を安定させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−128552号公報(段落0025欄、図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動車のフレーム構造が閉断面で、且つ、複数のプレス部品を組み合わせて形成されるような場合において、フレームの構造上、各プレス部品が組み合わされたときの重合部分を一対の電極で挟み込むだけの十分なスペースを確保できないような場合がある。このような重合部分をスポット溶接により接合する場合、上記重合部分の一方側から1つの電極を押し込んだ加圧状態で電流を供給して溶接する片側スポット溶接が行われる。
【0006】
しかし、片側スポット溶接の場合、電極の反対側からの支持がないので、特許文献1のように、電極を所定の押し込み位置に固定した状態で電流を供給し始めると、重合部分が溶融することで加圧力が弱くなり、電流供給直後の熱膨張による溶融部分周辺の不規則な変動を抑制し難く、接合部の形成が不安定になってしまうとともに、接合部の溶融部分が溶けすぎると、支持のない電極の反対側から溶け落ちて穴明き不良が発生するという問題がある。
【0007】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、接合部を安定して形成し、且つ、穴明き不良の発生を防止できる片側スポット溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、片側スポット溶接において、電極を被溶接材に押し付けて所定の加圧力で保持すると同時に電流を供給して溶接を開始し、接合部が所定の接合幅となった段階で電極の押し込み位置を固定するようにしたことを特徴とする。
【0009】
具体的には、電極を装着保持し、少なくとも2枚以上重ね合わせた被溶接材に向かって上記電極を移動させて一方側の被溶接材に接触させるサーボモータ制御の電極移動手段と、アース端子を有し、上記一方側の被溶接材に接触させた電極と他方側の被溶接材に接触させたアース端子との間に電流を供給する電流供給手段と、上記電極移動手段及び電流供給手段に接続され、上記他方側の被溶接材に上記アース端子を接触させた状態で、上記電極移動手段を制御して上記一方側の被溶接材に上記電極を押し込むように移動させて当該被溶接材を加圧し、且つ、上記電流供給手段を制御して上記電極と上記アース端子との間に電流を供給して上記被溶接材間に抵抗発熱による接合部を形成させて上記被溶接材同士を繋ぐ制御装置とを備えた片側スポット溶接装置を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0010】
すなわち、第1の発明では、上記制御装置は、上記一方側の被溶接材に上記電極を押し込みながら加圧力が所定値まで上昇した際、電流の供給を開始させ、被溶接材の溶融により上記電極が次第に押し込み移動して上記被溶接材間の接合部の接合幅が所定値になった際、上記加圧力を次第に下降させて上記電極の押し込み位置が電流の供給を停止するまで固定するように上記電極移動手段及び電流供給手段を制御することを特徴とする。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、上記被溶接材を重ね合わせた部分に上記電極が対応するように上記被溶接材を保持する金属製クランプ装置を備え、上記アース端子は、上記クランプ装置の上記他方側の被溶接材に接触する部分に設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、少なくとも2枚以上重ね合わせた被溶接材の一方側から当該被溶接材に電極を押し込むように移動させて加圧するとともにアース端子を上記他方側の被溶接材に接触させ、上記電極と上記アース端子との間に電流を供給して上記被溶接材間に抵抗発熱による接合部を形成させて上記被溶接材同士を繋ぐ片側スポット溶接方法をも対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0013】
すなわち、第5の発明は、上記一方側の被溶接材に上記電極を押し込んで加圧力が所定値まで上昇した後、加圧力を所定値で保持すると同時に電流の供給を開始し、その後、上記被溶接材の溶融により上記電極が次第に押し込み移動して上記被溶接材間の接合部の接合幅が所定値になると、上記加圧力を次第に下降させて電流の供給を停止させるまで上記電極の押し込み位置を固定して溶接することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1及び第3発明によれば、被溶接材へ電流の供給を開始した直後に加圧力を所定値で保持しているので、電流供給直後に発生する熱膨張による溶融部分周辺の不規則な変動を抑制し、接合部の形成を安定させることができる。また、被溶接材間に接合部が形成される途中の段階で電極の押し込み位置を固定するので、電極の押し込み過ぎによる接合部の溶融部分の電極の反対側からの飛び出しを防止して穴明き不良の発生を防止することができる。
【0015】
第2の発明によれば、クランプ装置で被溶接材の位置決めを行うと同時にアース端子が他方側の被溶接材に接触するようになるので、被溶接材の位置決めを行う工程とアース端子を他方側の被溶接材に接触させる工程とを分ける必要がなく、設備レイアウトをコンパクトにできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る片側スポット溶接装置の構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る片側スポット溶接装置の溶接中の電流値、加圧力及び電極位置の関係を示すグラフである。
【図3】重ね合わせた被溶接材を溶接する手順において、電極が被溶接材に接触した直後の状態を示す断面図である。
【図4】重ね合わせた被溶接材を溶接する手順において、電極で被溶接材を加圧しながら電流を供給し始めた直後の状態を示す断面図である。
【図5】重ね合わせた被溶接材を溶接する手順において、電極の押し込み位置を固定した直後の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る片側スポット溶接装置1を示す。該片側スポット溶接装置1は、自動車の生産ラインで複数のプレス部品(被溶接材)10を片側スポット溶接で組み立てるのに用いられるものであり、溶接ガン(電極移動手段)2を備えている。
【0019】
該溶接ガン2は、上下に延びるケース本体21を備えていて、該ケース本体21の上端は、ブラケットBkを介して装置固定側Rに締結されている。
【0020】
上記ケース本体21内部には、回転軸心を上下方向に向けたボールナット22が回転可能に設けられていて、該ボールナット22には、上記ケース本体21内部を上下に貫通するボールネジ23が螺合している。
【0021】
上記ボールネジ23の下端には、電極ホルダ24が取り付けられていて、該電極ホルダ24の下端には、該電極ホルダ24より小径の銅製シャンク25が固定され、該シャンク25先端に銅製電極20が装着保持されている。
【0022】
上記ケース本体21の上部側面には、上下方向に延びる出力軸27aを有するサーボモータ制御の電動機27が取り付けられていて、該電動機27内部には、当該電動機27の出力トルク及び出力軸27aの回転角度を検出可能なエンコーダ27bが設けられている。
【0023】
上記出力軸27a及び上記ボールナット22の下端には、ゴム製ベルト28が図示しないプーリを介して掛け渡されていて、上記電動機27が正逆回転駆動すると、その回転トルクを上記ベルト28を介してボールナット22に伝え、該ボールナット22が正転・逆転することにより、上記ボールネジ23が上下方向に螺進・螺退して、上記電極20が上下に移動するようになっている。これにより、重ね合わせたプレス部品10の一方側上側のプレス部品10に上記電極20を移動させて接触させることができるようになっている。
【0024】
上記溶接ガン2下方には、上記プレス部品10を重ね合わせた部分に上記電極20が対応するように上記プレス部品10を保持する一対の金属製クランプ装置6が配置されていて、該一対のクランプ装置6は、上記一方側のプレス部品10と他方側のプレス部品10とをそれぞれ保持している。
【0025】
上記シャンク25には、電流を供給可能な電流供給装置(電流供給手段)3が接続されている。
【0026】
該電流供給装置3は、他方側(下側)のプレス部品10に接触させるためのアース端子3aを有していて、該アース端子3aは、上記クランプ装置6の上記他方側のプレス部品10に接触する部分に設けられている。そして、上記電流供給装置3は、上記一方側(上側)のプレス部品10に接触させた電極20と、他方側(下側)のプレス部品10に接触させたアース端子3aとの間に電流を供給できるようになっている。
【0027】
上記溶接ガン2及び電流供給装置3には、上記電極20の移動及び電流の供給をそれぞれ制御する制御装置4が接続されていて、該制御装置4は、上記他方側(下側)のプレス部品10に上記アース端子3aを接触させた状態で、上記一方側(上側)のプレス部品10に電極20を押し込むように移動させて当該プレス部品10を加圧し、且つ、上記電極20と上記アース端子3aとの間に電流を供給して上記プレス部品10間に抵抗発熱による接合部5(図4、5に示す)を形成させて上記プレス部品10同士を繋ぐように上記溶接ガン2及び電流供給装置3を制御するようになっている。
【0028】
上記制御装置4は、エンコーダ27bで検出する出力トルクから上記電極20がプレス部品10に加える加圧力を算出するようになっていて、算出した加圧力と予め記憶された加圧力の設定値とを比較し、加圧力が設定値となるように上記電極20を移動させるフィードバック制御を行うようになっている。
【0029】
また、上記制御装置4は、上記エンコーダ27bで検出する回転角度及び上記ボールネジ23のピッチから上記電極20の位置を算出するようになっている。尚、上記ボールネジ23のピッチは、0.1〜0.3mm程度が好ましい。
【0030】
そして、上記制御装置4は、図2及び図4に示すように、上記一方側のプレス部品10に上記電極20を押し込みながら加圧力が所定値Fまで上昇した際、所定値Cの電流の供給を開始させ、プレス部品10の溶融により上記電極20が次第に押し込み移動して、図5に示すように、上記プレス部品10間の接合部5の接合幅5aが所定値Dになった際、上記加圧力を次第に下降させて上記電極20の押し込み位置が所定値Cの電流の供給を停止するまで固定するように上記溶接ガン2及び上記電流供給装置3を制御するようになっている。
【0031】
尚、上記加圧力の所定値Fは、溶接するプレス部品10の弾性限界値の約80%を目安に設定している。
【0032】
次に、重ね合わせたプレス部品10を上記片側スポット溶接装置1で溶接する方法について説明する。
【0033】
まず、図3に示すように、アース端子3aが下側のプレス部品10に接触した状態で、制御装置4は、溶接ガン2を制御して重ね合わせたプレス部品10に向かって電極20を上方から下方に向かって移動させ、上側のプレス部品10に接触させる。
【0034】
また、上記接合幅5aの所定値Dは、例えば、プレス部品10の下面に接合部5が現れる直前の状態のときの接合幅5aとする。
【0035】
次に、図4に示すように、制御装置4は、溶接ガン2を制御して上側のプレス部品10に電極20を押し込んでプレス部品10を下方に撓ませながら加圧力を所定値Fまで上昇させる。
【0036】
しかる後、上記制御装置4は、溶接ガン2を制御して加圧力を所定値Fで保持すると同時に、上記電流供給装置3を制御して上記電極20と上記アース端子3aとの間に所定値Cの電流の供給を開始させる。すると、プレス部品10間が溶融し始めて接合部5が形成され始め、それに伴って、上記電極20が次第に押し込み移動する。
【0037】
そして、図2及び図5に示すように、上記制御装置4は、上記プレス部品10間の接合部5が次第に大きくなっていき、当該接合部5の接合幅5aが所定値Dになると、上記加圧力を次第に下降させて、上記電極20の押し込み位置を所定値Cの電流の供給を停止するまで固定するように制御する。
【0038】
尚、上記実施形態では、上記電流供給装置3が供給する電流を供給開始から供給終了まで所定値Cで一定としているが、加圧力及び電極20の位置に合わせて適切な電流値に変更するようにしてもよい。
【0039】
したがって、本発明の実施形態では、プレス部品10へ電流の供給を開始した直後に加圧力を所定値Fで保持しているので、電流供給直後に発生する熱膨張による溶融部分周辺の不規則な変動を抑制し、接合部5の形成を安定させることができる。また、プレス部品10間に接合部5が形成される途中の段階で電極20の押し込み位置を所定値Pで固定するので、電極20の押し込み過ぎによる接合部5の溶融部分の電極20の反対側からの飛び出しを防止して穴明き不良の発生を防止することができる。
【0040】
また、クランプ装置6でプレス部品10の位置決めを行うと同時にアース端子3aが他方側のプレス部品10に接触するようになるので、プレス部品10の位置決めを行う工程とアース端子3aを他方側のプレス部品10に接触させる工程とを分ける必要がなく、設備レイアウトをコンパクトにできる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、例えば、自動車生産ラインにおいて使用する片側スポット溶接装置に適している。
【符号の説明】
【0042】
1 片側スポット溶接装置
2 溶接ガン(電極移動手段)
3 電流供給装置(電流供給手段)
3a アース端子
4 制御装置
5 接合部
5a 接合幅
6 クランプ装置
20 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を装着保持し、少なくとも2枚以上重ね合わせた被溶接材に向かって上記電極を移動させて一方側の被溶接材に接触させるサーボモータ制御の電極移動手段と、
アース端子を有し、上記一方側の被溶接材に接触させた電極と他方側の被溶接材に接触させたアース端子との間に電流を供給する電流供給手段と、
上記電極移動手段及び電流供給手段に接続され、上記他方側の被溶接材に上記アース端子を接触させた状態で、上記電極移動手段を制御して上記一方側の被溶接材に上記電極を押し込むように移動させて当該被溶接材を加圧し、且つ、上記電流供給手段を制御して上記電極と上記アース端子との間に電流を供給して上記被溶接材間に抵抗発熱による接合部を形成させて上記被溶接材同士を繋ぐ制御装置とを備えた片側スポット溶接装置であって、
上記制御装置は、上記一方側の被溶接材に上記電極を押し込みながら加圧力が所定値まで上昇した際、電流の供給を開始させ、被溶接材の溶融により上記電極が次第に押し込み移動して上記被溶接材間の接合部の接合幅が所定値になった際、上記加圧力を次第に下降させて上記電極の押し込み位置が電流の供給を停止するまで固定するように上記電極移動手段及び電流供給手段を制御することを特徴とする片側スポット溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載の片側スポット溶接装置であって、
上記被溶接材を重ね合わせた部分に上記電極が対応するように上記被溶接材を保持する金属製クランプ装置を備え、
上記アース端子は、上記クランプ装置の上記他方側の被溶接材に接触する部分に設けられていることを特徴とする片側スポット溶接装置。
【請求項3】
少なくとも2枚以上重ね合わせた被溶接材の一方側から当該被溶接材に電極を押し込むように移動させて加圧するとともにアース端子を上記他方側の被溶接材に接触させ、上記電極と上記アース端子との間に電流を供給して上記被溶接材間に抵抗発熱による接合部を形成させて上記被溶接材同士を繋ぐ片側スポット溶接方法であって、
上記一方側の被溶接材に上記電極を押し込んで加圧力が所定値まで上昇した後、加圧力を所定値で保持すると同時に電流の供給を開始し、その後、上記被溶接材の溶融により上記電極が次第に押し込み移動して上記被溶接材間の接合部の接合幅が所定値になると、上記加圧力を次第に下降させて電流の供給を停止させるまで上記電極の押し込み位置を固定して溶接することを特徴とする片側スポット溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−166259(P2012−166259A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31270(P2011−31270)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(590000721)株式会社キーレックス (20)
【Fターム(参考)】