説明

片流れプラウを備えた軌道用除雪車の車速制御方法

【課題】従来の軌道用除雪車に新たな部材を設けずとも安全で効率の良い除雪作業を実現するための除雪車車速制御方法を提供する。
【解決手段】片流れプラウを備えた軌道用除雪車の除雪時の車速を制御する方法であって、脱線係数に関わる片流れプラウにかかる除雪負荷の割合と走行蛇行の割合を除雪車の速度に応じて変更して、それぞれの速度領域における脱線係数での除雪負荷分に相当する限界サイドフォースを規定し、除雪負荷に関わるサイドフォースの実際値が該当の速度領域での上記限界サイドフォースを上回る場合に、その限界サイドフォースを下回るまで除雪車を減速するように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道上の積雪を除去する軌道用除雪車の車速制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前端にプラウ(除雪板)を備えた除雪車によって車道や鉄道軌道に積もった雪を除去するに際して、V型プラウで進行方向に対して左右均等に雪を掻き分け除雪するならば除雪車にサイドフォース(横方向力)は働かないが、片流れ型プラウで進行方向に対して片側にのみ雪を掻き分ける場合、サイドフォースが働き、車両を除雪方向と逆向きに回頭させようとする。除雪量あるいは走行速度が大きくなるにつれプラウに作用する除雪抵抗力が大きくなり、したがって進行方向に対してサイドフォースも大きくなる。道路のような路面用の除雪車においては、車両を直進させるために、常にサイドフォースに抗するように運転者が操舵を行っているが、軌道用除雪車では、そのような操舵を行うことができないので場合によっては脱線してしまう場合がある。
【0003】
このような事態を防止するために、出願人の製造・販売する従来の除雪機では、前方の掻き寄せ翼(右翼とも称する)を開閉する油圧シリンダの内圧を測定し、発生するサイドフォースを算出して、所定の速度で所定値を超えた場合に車速を下げる、という制御がとられ、車速が例えば30km/hを超える場合のみ30km/hまで減速する制御が行われていた。より具体的には、走行速度が30km/h以上で、掻き寄せ翼が半開又は全開の位置にあり、片流れプラウにかかる雪の負荷によるサイドフォースと走行蛇行(自励蛇行)によるサイドフォースの合力による脱線係数が0.8を超えると、30km/h(あるいは規定値)になるまで減速する。減速制御が作動するとモニタディスプレイに「速度制限中」の表示が出るようになっていて、減速制御が作動完了した後に再度加速するには、走行速度制御レバーを作動完了時の走行速度の位置まで戻して再度レバーを引くことになる。
【0004】
軌道用除雪車のプラウに作用する除雪抵抗力に起因したサイドフォースによる脱線等の危険を防止するために、特許文献1には、車両前端側に車両に対して斜めに設けられたプラウを備える軌道用除雪車において、車両後端に、車両に対して斜めに且つプラウの後端(車両の左右いずれか)側に、先端がプラウの後端より車両幅方向で突出した補助翼を設けることで、プラウに作用する除雪抵抗力の幅方向に作用するサイドフォースを分散することが提案されている。これは従来の軌道用除雪車に補助翼を追加して設けるものであり、製造工程および製造コストの増加が避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−212929
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、従来の軌道用除雪車に新たな部材を設けずとも安全で効率の良い除雪作業を実現するための除雪車車速制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、片流れプラウを備えた軌道用除雪車の除雪時の車速を制御する方法であって、脱線係数に関わる片流れプラウにかかる除雪負荷の割合と走行蛇行の割合を除雪車の速度に応じて変更して、それぞれの速度領域における脱線係数での除雪負荷分に相当する限界サイドフォースを規定し、除雪負荷に関わるサイドフォースの値が該当の速度領域での上記限界サイドフォースを上回る場合に、その限界サイドフォースを下回るまで除雪車を減速するように制御することによって、解決する。
【0008】
片流れプラウに可変式掻き寄せ翼が取り付けられ、上記掻き寄せ翼が除雪車の進行方向に対して傾いた位置にある際に上記掻き寄せ翼に取り付けられたセンサにより除雪負荷に関わるサイドフォースが検出されるようになっているのが好適である。片流れプラウにより除雪車に作用する回頭力を打ち消すように作用する尾翼が除雪車に取り付けられ、尾翼に取り付けられたセンサにより検出された打消し力を考慮すれば、一層効果的である。
【0009】
オペレータによって操作されるべき除雪車走行用速度制御レバーと、減速制御をオペレータに報知するブザーとを除雪機が備えて、減速制御が始まると上記ブザーが鳴動し、減速制御を完了する速度に対応する位置まで速度制御レバーを戻すまで上記鳴動が続くようになっていれば、好都合である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、脱線係数に関わる片流れプラウにかかる除雪負荷の割合と走行蛇行の割合を除雪車の速度に応じて変更して、それぞれの速度領域における脱線係数での除雪負荷分に相当する限界サイドフォースを規定し、除雪負荷に関わるサイドフォースの実際値が該当の速度領域での上記限界サイドフォースを上回る場合に、その限界サイドフォースを下回るまで除雪車を減速するように制御するので、安全で効率の良い除雪作業が実現し、除雪作業時間がダイヤ的に厳しい路線でも短時間に除雪作業を完了することができる。
【0011】
片流れプラウに可変式掻き寄せ翼が取り付けられ、上記掻き寄せ翼が除雪車の進行方向に対して傾いた位置にある際に上記掻き寄せ翼に取り付けられたセンサにより除雪負荷に関わるサイドフォースが検出されるようになっていれば、可変式掻き寄せ翼に掛かるサイドフォースも考慮することができ、適切な除雪作業が実現する。同様に、片流れプラウにより除雪車に作用する回頭力を打ち消すように作用する尾翼が除雪車に取り付けられ、尾翼に取り付けられたセンサにより検出された打消し力を考慮すれば、適切な除雪作業が実現する。
【0012】
オペレータによって操作されるべき除雪車走行用速度制御レバーと、減速制御をオペレータに報知するブザーとを備えて、減速制御が始まると上記ブザーが鳴動し、減速制御を完了する速度に対応する位置まで速度制御レバーを戻すまで上記鳴動が続くようになっていれば、減速制御が作動した後、改めて除雪車を加速させるに当たり、オペレータに適切なレバー操作を容易に知らしめることができ、効率的である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る速度制御を行う軌道用除雪車の平面図である。
【図2】図1の軌道用除雪車の側面図である。
【図3】本発明に係る速度制御を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず本発明に係る制御方法が実施される軌道用除雪車を図1及び図2に示す。不図示のレール上を車輪2,3により走行する軌道用除雪車1は、運転室4及び動力機関室5を中央領域に備え、前部に片流れプラウ6を角度固定して装着し、後部には3本の屈曲連結器7を有した連結装置8を装着している。
【0015】
片流れプラウ6には、除雪車1の進行方向(図1の左方向)に見て、右側に掻き寄せ翼(右翼)10が取り付けられ、連結装置8には、除雪車1の進行方向に見て、左側に尾翼11が取り付けられている。掻き寄せ翼10は閉じ、半開、全開の3位置をとることができ、その回動軸近傍に配された近接スイッチ(図示せず)を用いて、いずれの位置をとっているかが検出される。掻き寄せ翼10の位置は、回転軸と同軸上に配したポテンショメータの数値によって検出するようになっていてもよい。尾翼11は、閉じと開きの2位置をとることができ、その回動軸近傍に配された近接スイッチ(図示せず)を用いて、いずれの位置をとっているかが検出される。尾翼11の位置も、回転軸と同軸上に配したポテンショメータの数値によって検出するようになっていてもよい。
【0016】
このような構成を有した軌道用除雪車において、速度領域に応じて走行蛇行の分と除雪分のそれぞれのサイドフォースによる脱線係数の割合を変更して制御する。即ち、例えば
0〜30km/hでは走行蛇行分を0、除雪分を0.8とし、
30〜50km/hでは走行蛇行分を0.3、除雪分を0.5とし、
50〜60km/hでは走行蛇行分を0.5、除雪分を0.3とし、
60km/h以上では走行蛇行分を0.6、除雪分を0.2とする。
【0017】
つまり、車両重量が例えば30tの場合、脱線の危険性が考えられる横向きの力は24tとなり、30km/hまでは走行蛇行の影響を考慮せず、除雪によるサイドフォースが24tに達したと検知されたならば除雪によるサイドフォースが24tを下回るまで減速し、30〜50km/hの範囲では、24×0.5/0.8=15tに除雪によるサイドフォースが達したと検知されたならば除雪によるサイドフォースが15tを下回るまで減速制御を行うのである。これを概念化したグラフを図3に示す。
【0018】
本例では、掻き寄せ翼10が全開若しくは半開位置をとることで建築限界幅(一般の軌道車両が走行可能となる幅)を確保するので、除雪作業は、掻き寄せ翼10が全開位置若しくは半開位置をとって行われ、除雪作業時の片流れプラウに係るサイドフォースは、掻き寄せ翼10に取り付けられた油圧検知センサによるセンシングに基づき算出される。掻き寄せ翼10が全開位置をとる場合には、除雪車1の進行方向に対する掻き寄せ翼10の傾きは片流れプラウ6の傾きに一致し、掻き寄せ翼10と片流れプラウ6に掛かる除雪時抵抗によるサイドフォースを単純に算出できる。掻き寄せ翼10が半開位置をとる場合には、片流れプラウ6の傾きとのずれに見合う係数を考慮することで、掻き寄せ翼10と片流れプラウ6のそれぞれに掛かる除雪時抵抗によるサイドフォースを同様に算出できる。掻き寄せ翼10の開き具合を任意に設定できるタイプの場合には、検出される開き角度に基づいて除雪時抵抗、ひいてはサイドフォースを算出できる。
【0019】
本例の除雪機においては、可変式掻き寄せ翼10のほかに、尾翼11も開閉するので、
掻き寄せ翼のみ半開、
掻き寄せ翼のみ全開、
尾翼を開いて掻き寄せ翼半開、
尾翼を開いて掻き寄せ翼全開
の4つのパターンでセンサ検知し、それぞれの組み合わせにおいて除雪時抵抗におけるサイドフォースを算出して制御するようにしてもよい。即ち、尾翼11にも油圧検知センサを設けて、尾翼11を開いた際の尾翼11に掛かるサイドフォースと片流れプラウ6、掻き寄せ翼10に掛かるサイドフォースの合算を算出して(サイドフォースとして除雪車に及ぼす回頭の向きは逆になるので「片流れプラウサイドフォース+掻き寄せ翼サイドフォース−尾翼サイドフォース」の関係となる)、減速制御を行う。
【0020】
減速制御が行われ強制的に、該当速度領域の除雪分の脱線係数割合に相当するサイドフォースを下回るまで除雪機速度が下げられた場合、走行速度制御レバー自体は減速制御が開始された時点での速度に相当する位置にあり、オペレータは走行速度制御レバーをいったん下げられた速度に相当する位置まで走行速度制御レバーを戻す必要がある。その戻し位置を容易に認識できるようにするため、減速制御の作動開始と共にブザーを鳴動させ、減速制御作動が完了しても、レバーを正しく戻し位置に戻すまではブザーが鳴り続けるようにするのがよい。オペレータはブザーの鳴動が止むまでレバーを戻した後に改めてレバーを操作すれば、希望の速度まで除雪機を加速させることができるようになる。
【符号の説明】
【0021】
1 軌道用除雪車
2,3 車輪
4 運転室
5 動力機関室
6 片流れプラウ
7 屈曲連結器
8 連結装置
10 掻き寄せ翼
11 尾翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片流れプラウを備えた軌道用除雪車の除雪時の車速を制御する方法であって、脱線係数に関わる片流れプラウにかかる除雪負荷の割合と走行蛇行の割合を除雪車の速度に応じて変更して、それぞれの速度領域における脱線係数での除雪負荷分に相当する限界サイドフォースを規定し、除雪負荷に関わるサイドフォースの実際値が該当の速度領域での上記限界サイドフォースを上回る場合に、その限界サイドフォースを下回るまで除雪車を減速するように制御することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の制御方法であって、片流れプラウに可変式掻き寄せ翼が取り付けられ、上記掻き寄せ翼が除雪車の進行方向に対して傾いた位置にある際に上記掻き寄せ翼に取り付けられたセンサにより除雪負荷に関わるサイドフォースが検出されることを特徴とする制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の制御方法であって、片流れプラウにより除雪車に作用する回頭力を打ち消すように作用する尾翼が除雪車に取り付けられ、尾翼に取り付けられたセンサにより検出された打消し力を考慮することを特徴とする制御方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の制御方法であって、オペレータによって操作されるべき除雪車走行用速度制御レバーと、減速制御をオペレータに報知するブザーとを除雪機が備えて、減速制御が始まると上記ブザーが鳴動し、減速制御を完了する速度に対応する位置まで速度制御レバーを戻すまで上記鳴動が続くようになっていることを特徴とする制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−148697(P2012−148697A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9664(P2011−9664)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(591117631)株式会社日本除雪機製作所 (18)