説明

物体検出装置

【課題】監視領域がレーザレーダの近辺から遠方まで広く分布する場合であっても、監視領域の物体を正確に検出すること。
【解決手段】走査光LB1の主走査方向Xにおけるレーザレーダヘッド5からの距離が遠い監視領域では、反射光LB2の拡散の度合いが大きいので、反射光LB2の強度が弱くなる。そこで、主走査方向Xにおけるレーザレーダヘッド5からの距離が遠い監視領域では、レーザ投光器1のドライバ回路1aのパルス信号周期を長くする。すると、光ファイバ増幅器1bの光ファイバ1dに励起原子が蓄積される周期が長くなる。これにより、種光がレーザダイオード1cから入射されることにより光ファイバ1dのコアの電子が励起されて蓄積される励起エネルギが大きくなり、種光の増幅のゲインが大きくなって、光ファイバ1dから出力されるレーザ光LBの強度が強くなる。よって、走査光LB1の強度が強くなり、反射光LB2の強度も強くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視領域に存在する物体を検出する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
測距用の走査光により3次元空間を主走査方向及び副走査方向に走査させるレーザレーダを用い、走査光の反射光を解析することで物体を検出する技術は、例えば、監視領域における侵入物の監視の分野にも利用可能な技術である(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−212129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したレーザレーダは、監視領域の全体からの見通しがよい高さに設置されることになる。そして、監視領域がレーザレーダの近辺から遠方まで広いエリアに亘る場合、レーザレーダの発光手段から監視領域に照射された走査光は、照射を受けた対象物の表面で拡散反射され、その反射光をレーザレーダの受光手段が受光する。反射光は拡散しながらレーザレーダまで到来するため、受光手段が受光する反射光の強度は、レーザレーダから走査光の照射箇所までの距離の二乗に反比例して弱まる。そのため、遠方の監視領域からの反射光を解析可能な強度で受光手段に受光させるには、発光手段が出力する走査光を相応の強度とする必要がある。
【0005】
しかし、遠方の監視領域に合わせて走査光の強度を高くすると、近辺の監視領域から受光する反射光の強度が強すぎてしまう場合がある。受光する反射光の強度が強すぎると、反射光の受光強度に応じた受光手段の出力信号が光学的に飽和してその出力波形が歪み、正しい物体検出を行うことができなくなる。その結果、例えば近辺の監視領域の地表面が実際よりも高い位置にあると誤って判断される等の支障を生じる。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、レーザレーダから監視領域に走査光を照射しその反射光をレーザレーダで受光し解析することで、監視領域に存在する物体を検出する際に、監視領域がレーザレーダの近辺から遠方まで広く分布する場合であっても、監視領域の物体を正確に検出することができる物体検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載した本発明の物体検出装置は、レーザレーダから出力されて所定の監視領域を走査した走査光の反射光を前記レーザレーダで受光することで、前記監視領域に存在する物体を検出する装置において、前記レーザレーダが、種光を出力する種光源と、前記種光が入射され自身のスイッチング周期に応じたゲインで前記種光を増幅しレーザ光を発振する光ファイバ増幅器と、該光ファイバ増幅器が発振する前記レーザ光を所定の走査方向に走査させて前記走査光とする走査手段とを有しており、前記光ファイバ増幅器が、前記監視領域の前記走査光によって走査される箇所が該走査光の走査方向において前記レーザレーダから遠ざかるほど、長いスイッチング周期に応じたゲインで、前記走査光に対応する前記種光を増幅することを特徴とする。
【0008】
請求項1に記載した本発明の物体検出装置によれば、種光源によるレーザ媒質の励起中に、Qスイッチ等により励起原子を蓄積させ放出する方法により、スイッチングの周期が長ければ長いほど放出されるエネルギー量が増大し、光ファイバ増幅器から出力されるレーザ光や走査手段から出力される走査光の強度が高くなる。
【0009】
監視領域における走査光の照射箇所が走査光の走査方向において移動するのに合わせて、走査光の種光強度を動的に高速で変化させるのは、レーザ光の発光メカニズムからして技術的に困難である。しかし、光ファイバからの励起原子放出の周期(即ち、光ファイバ増幅器のスイッチング周期)を動的に高速で変化させることは、技術的に可能である。
【0010】
したがって、走査光が走査方向におけるレーザレーダの近辺の監視領域に照射されるか遠方の監視領域に照射されるかに応じて、光ファイバからの励起原子放出の周期(即ち、光ファイバ増幅器のスイッチング周期)を動的に高速で変化させることで、反射光の拡散の度合いが大きい遠方の監視領域には強い強度の走査光を照射させ、反射光の拡散の度合いが小さい近辺の監視領域には弱い強度の走査光を照射させることができる。これにより、遠方の監視領域からの反射光を解析可能な強度とし、かつ、近辺の監視領域からの反射光を光学的に飽和しない程度の強度に抑えることができる。よって、レーザレーダからの走査光により走査される監視領域がレーザレーダの近辺から遠方まで広く分布する場合であっても、監視領域からレーザレーダが受光する走査光の反射光によって監視領域の物体を正確に検出することができる。
【0011】
また、請求項2に記載した本発明の物体検出装置は、請求項1に記載した本発明の物体検出装置において、前記光ファイバ増幅器が、前記走査手段による前記走査光の前記監視領域に対する前記走査方向における走査角度に基づいて決定した、前記走査方向における、前記監視領域の前記走査光によって走査される箇所に対応する前記スイッチング周期に応じたゲインで、前記種光を増幅することを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載した本発明の物体検出装置によれば、請求項1に記載した本発明の物体検出装置において、走査光の監視領域に対する走査角度に基づいて決定する光ファイバ増幅器のスイッチング周期とそれに応じた種光の増幅時のゲインは、監視領域の走査光によって走査される箇所の、走査光の走査方向におけるレーザレーダからの遠近に応じたものとなる。したがって、監視領域の走査光によって走査される箇所が走査光の走査方向においてレーザレーダから遠ざかるほど、光ファイバ増幅器のスイッチング周期を長くして、走査光に対応する種光を大きいゲインで増幅することができる。
【0013】
さらに、請求項3に記載した本発明の物体検出装置は、請求項1又は2に記載した本発明の物体検出装置において、前記光ファイバ増幅器が、前記監視領域を前記走査方向において複数の領域に区分した各区分領域にそれぞれ照射される前記走査光に対応する前記種光を、前記各区分領域の前記発光手段からの前記走査方向における距離に対応する前記スイッチング周期に応じたゲインで増幅することを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載した本発明の物体検出装置によれば、請求項1又は2に記載した本発明の物体検出装置において、光ファイバ増幅器が種光を増幅する際のゲインを定めるスイッチング周期の長短を変化させる段階を、監視領域の走査方向における区分数によって定めることができる。したがって、監視領域の区分数を通じて、光ファイバ増幅器による種光の増幅時のゲインを変化させる段階を適切な段階数に設定することができる。なお、監視領域の区分数は、例えば、走査方向における走査光の走査線数を最大値とする2以上の整数とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、レーザレーダからの走査光により走査される監視領域がレーザレーダの近辺から遠方まで広く分布する場合であっても、監視領域からレーザレーダが受光する走査光の反射光によって監視領域の物体を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る物体検出装置を示す概略構成図である。
【図2】図1の走査光により走査する監視領域とレーザレーダヘッドの設置位置との関係を示す説明図である。
【図3】図1のレーザ投光器の詳細な構成を示す説明図である。
【図4】図2の監視領域を主走査方向におけるレーザレーダヘッドからの距離に応じて複数に区分した区分領域を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1は本発明の一実施形態に係る物体検出装置を示す概略構成図である。図1に示す物体検出装置は、監視領域を走査光により走査してその反射光により監視領域内に侵入した物体を検出するもので、走査光を出力しその反射光を受光するレーザレーダヘッド5と、走査光及び反射光に基づいてエリア内の物体の検出処理を行う制御装置6とを有している。
【0019】
図1の物体検出装置を例えば敷地内の監視領域における侵入物の検出に用いる場合、前記レーザレーダヘッド5は、図2の説明図に示すように、監視領域Aの全体を見通せる支柱Bの上端付近に取り付け設置される。このような高所にレーザレーダヘッド5を設置することで、レーザレーダヘッド5からの走査光LB1で監視領域Aの全体を走査することができる。本実施形態では、支柱Bの地上高H[m]のところにレーザレーダヘッド5を設置しているものとする。
【0020】
なお、本実施形態では、監視領域Aは、レーザレーダヘッド5からの走査光LB1の主走査方向X(請求項中の走査方向に相当)において、支柱BからLmin[m]〜Lmax[m]の範囲に延在している。このLmin[m]は、Lmin=0[m]としてもよい。つまり、レーザレーダヘッド5からの走査光LB1が届くのであれば、監視領域Aを支柱Bの根元から延在させることもできる。
【0021】
また、図2のθは、走査光LB1の監視領域Aに対する主走査方向Xにおける走査角度を示す。この走査角度θは、主走査方向Xにおける走査光LB1の走査箇所のレーザレーダヘッド5乃至支柱Bからの距離をLとした場合、θ=tan-1(L/H)で表すことができる。走査角度θは、主走査方向Xにおける走査光LB1の走査箇所がレーザレーダヘッド5乃至支柱Bに近いほど小さく、遠いほど大きい値となる(但し、θ<90゜)。
【0022】
そして、レーザレーダヘッド5は、図1に示すように、レーザ光LBを間欠的に出力するレーザ投光器1と、レーザ光LBを垂直及び水平方向に走査させて走査光LB1とするポリゴンミラー11及びガルバノミラー12と、物体に照射された走査光LB1の反射光LB2をガルバノミラー12及びポリゴンミラー11による反射後に受光する受光器2と、ポリゴンミラー11を回転駆動させるポリゴンスキャナ11aと、ガルバノミラー12を回転駆動させるガルバノスキャナ12aとを有している。
【0023】
前記レーザ投光器1は、図3の説明図に示すように、パルス信号を出力するドライバ回路1aと、このパルス信号に同期してレーザ光LBを間欠的に出力する光ファイバ増幅器1bとを有している。
【0024】
光ファイバ増幅器1bは、ドライバ回路1aが出力するパルス信号のオン期間中に種光を出力するレーザダイオード(LD)1c(請求項中の種光源に相当)と、種光が一端から入力される光ファイバ1dとを有している。光ファイバ1dのコアには、希土類元素(例えば、イッテルビウムYbやエルビウムEr)が添加(ドープ)されている。
【0025】
光ファイバ1dにおいては、反転分布状態で種光が入射されることで生じる電子の誘導放出を、コアの両端間で共振させることで、種光を増幅させたレーザ光LBを他端側から出力する。具体的には、種光によるレーザ媒質(光ファイバ1dのコアの電子)の励起中に、Qスイッチ等のスイッチングにより励起原子を蓄積させて放出する。このスイッチングの周期が長ければ長いほど、光ファイバ1dの他端側から放出されるレーザ光LBのエネルギー量が増大する。Qスイッチ等のスイッチングの周期は、ドライバ回路1aのパルス信号の周期に同期する。そのため、レーザ投光器1の光ファイバ増幅器1bは、ドライバ回路1aのパルス信号の周期が長ければ長いほど、つまり、Qスイッチのスイッチング周期が長ければ長いほど、励起原子を多く光ファイバ1dに蓄積する。したがって、Qスイッチのスイッチング周期が長いほど、光ファイバ増幅器1bが種光を増幅する際のゲインが大きくなり、言い換えると、光ファイバ1dが出力するレーザ光LBの強度が強くなる。
【0026】
図1に示すように、前記ポリゴンミラー11(請求項中の走査手段に相当)は、高速回転する6面体を有しており、鏡面化された4側面を除く対峙する2面(上下面)の中心を回転軸としてポリゴンスキャナ11aにより回転されるように構成されている。このポリゴンミラー11の4側面のいずれかでレーザ光LBが反射されることで、レーザ光LBは主走査方向(垂直走査方向)Xに走査される。
【0027】
前記ガルバノミラー12は、ガルバノスキャナ12aにより限られた角度範囲で往復回動される回動軸の側面に接続されており、この回動軸の往復回動により往復揺動される。このガルバノミラー12の一面でレーザ光LBが反射されることで、レーザ光LBは副走査方向(水平走査方向)Yに走査される。
【0028】
なお、ポリゴンスキャナ11a及びガルバノスキャナ12aは、後述する制御装置6の制御器13からの速度指令により指令される回転速度で、ポリゴンミラー11を回転させ、また、ガルバノミラー12を揺動させる。また、ポリゴンスキャナ11a及びガルバノスキャナ12aは、ポリゴンミラー11の回転角度やガルバノミラー12の揺動角度を示す角度情報を制御器13に出力する。したがって、本実施形態では、ポリゴンスキャナ11aが請求項中の走査角度検出手段に相当している。なお、上述したポリゴンミラー11及びガルバノミラー12は単なる一例であり、レーザ光LBの走査光学系は図示した構成に限定されるものではない。
【0029】
図1に示す構成のレーザレーダヘッド5は、ポリゴンミラー11によるレーザ光LBの走査方向(主走査方向X)が、図2に示すように、監視領域Aの支柱Bに接近離間する方向と一致するように、支柱Bに取り付けられる。したがって、ガルバノミラー12によるレーザ光LBの走査方向(副走査方向Y)は、図2の監視領域Aの幅方向、つまり、図2の紙面の表裏方向に延在することになる。
【0030】
図1に示す制御装置6は、制御器13及び距離演算器14を有している。制御器13と距離演算器14とは別々のマイクロコンピュータで構成することもでき、一つのマイクロコンピュータで構成することもできる。
【0031】
制御器13は、レーザ投光器1に対して投光指令を間欠的に出力する。この投光指令の間欠周期に同期して、レーザ投光器1のドライバ回路1aは光ファイバ増幅器1bのQスイッチ(図示せず)にパルス信号を出力する。なお、この投光指令は、距離演算器14にも並行して出力される。
【0032】
距離演算器14には、上述した投光指令が制御器13から入力されると共に、反射光LB2を受光したときに受光器2が出力する受光タイミング信号が入力される。距離演算器14は、投光指令の入力から受光タイミング信号の入力までの時間差と、光の速度V[m/sec]とに基づいて、走査光LB1の光路上に存在する物体のレーザレーダヘッド5からの距離を演算し、演算した距離を示す距離情報を制御器13に出力する。
【0033】
制御器13は、上述したように、ポリゴンスキャナ11aやガルバノスキャナ12aに速度指令をそれぞれ出力する。各速度指令で指令するポリゴンミラー11の回転速度やガルバノミラー12の揺動速度は、図2の監視領域Aの主走査方向X及び副走査方向Yにそれぞれ間欠的に照射する走査光LB1のピッチ、つまり、監視領域Aにおける走査光LB1の空間分解能に応じて決定される。
【0034】
また、制御器13は、ポリゴンスキャナ11aやガルバノスキャナ12aからそれぞれ入力される角度情報によって、ポリゴンミラー11の回転角度やガルバノミラー12の揺動角度を算出することができる。したがって、制御器13は、ポリゴンスキャナ11aやガルバノスキャナ12aから受け取った角度情報に基づいて、レーザ投光器1に出力する投光指令により走査光LB1が照射される監視領域Aの箇所の座標値を特定することができる。特定した座標値は、距離演算器14からの距離情報に基づいて監視領域Aに侵入した物体を検出する際に利用する。
【0035】
ここで、上述した監視領域Aにおける走査光LB1の空間分解能のうち、主走査方向Xにおける走査光LB1の空間分解能について説明する。ポリゴンミラー11の回転角速度をω[°/sec](光学角)、走査光LB1の元となるレーザ光LBのレーザ投光器1による出力周波数を繰り返し周波数をS(Hz)とした場合、主走査方向Xにおいてレーザレーダヘッド5乃至支柱Bから距離Lの位置を走査する走査光LB1の、主走査方向Xにおける空間分解能Dは、D≒L×tan(ω/S)[m]となる。
【0036】
この式からも明らかなように、走査光LB1が走査する箇所が主走査方向Xにおいてレーザレーダヘッド5から遠くなるほど走査光LB1の空間分解能Dは大きくなる。このため、主走査方向Xにおいてレーザレーダヘッド5から距離Lmax離れた監視領域Aを走査光LB1が走査する際に、必要な空間分解能Dが得られるように、繰り返し周波数Sを決定する。
【0037】
また、光の速度はV[m/sec]であるから、レーザレーダヘッド5から距離Lmax離れた監視領域Aに走査光LB1が到達しその反射光LB2がレーザレーダヘッド5に戻るまでの所要時間は、およそ、2L/V[sec]で表すことができる。したがって、繰り返し周波数Sは、V/2L[Hz]以下に設定する。
【0038】
上述したようにして決まる繰り返し周波数Sは、レーザ投光器1によるレーザ光LBの出力周波数であるだけでなく、レーザ投光器1のドライバ回路1aが光ファイバ増幅器1bの不図示のQスイッチに出力するパルス信号の周波数でもある。パルス信号の周波数はパルス信号の周期の逆数であるから、上述した光ファイバ増幅器1bの特性からして、繰り返し周波数Sは走査光LB1の強度を左右する。
【0039】
ところで、受光器2により受光される反射光LB2の強度は、走査光LB1が照射される監視領域A中の箇所が主走査方向Xにおいてレーザレーダヘッド5から遠いほど弱くなる。これは、走査光LB1の照射箇所からの反射光LB2が拡散しながらレーザレーダヘッド5に到来し、その強度が、レーザレーダヘッド5から走査光LB1の照射箇所までの距離Lの二乗に反比例して弱まるからである。
【0040】
そのため、主走査方向Xにおいてレーザレーダヘッド5から最も遠い、監視領域Aのレーザレーダヘッド5から距離Lmax離れた箇所に照射する走査光LB1の強度は、そこからの反射光LB2が検出可能な強度で受光器2により受光されるような強度である必要がある。そこで、繰り返し周波数Sを決めたならば、レーザ投光器1の種光強度を、主走査方向Xにおいてレーザレーダヘッド5から最も遠い監視領域Aからの反射光LB2が十分な強度で受光器2により受光されるような強度に決定する。
【0041】
一方、走査光LB1の照射箇所が主走査方向Xにおいてレーザレーダヘッド5に近くなると、レーザレーダヘッド5から走査光LB1の照射箇所までの距離Lが短いことから、反射光LB2がレーザレーダヘッド5に到達するまでに拡散する度合いは、走査光LB1の照射箇所が主走査方向Xにおいてレーザレーダヘッド5から遠い場合に比べて少なくなる。したがって、例えば、主走査方向Xにおいてレーザレーダヘッド5から最も遠い距離Lmaxの監視領域Aに走査光LB1を照射するときと同じ強度で他の監視領域Aに走査光LB1を照射すると、距離Lの二乗に反比例する反射光LB2の強度が強すぎて、反射光LB2を受光した受光器2が出力する受光タイミング信号が光学的に飽和してしまう可能性がある。受光タイミング信号が光学的に飽和すると、レーザレーダによる三次元物体認識の精度に悪影響が及んでしまう。
【0042】
このため、監視領域Aの走査光LB1が照射される箇所が主走査方向Xにおいてレーザレーダヘッド5に近くなるほど、走査光LB1の強度を弱くする必要がある。
【0043】
上述したように、走査光LB1の強度を左右するファクタとしては、ドライバ回路1aが光ファイバ増幅器1bの不図示のQスイッチに出力するパルス信号の周波数と種光強度がある。このうち、種光強度を動的に変化させることは技術的に困難である。一方、パルス信号の周波数を動的に変化させることは技術的に可能である。上述した光ファイバ増幅器1bの特性から、パルス信号の周波数を高くする(周期を短くする)と、レーザ光LB乃至走査光LB1の強度が弱くなる。
【0044】
そこで、主走査方向Xにおけるレーザレーダヘッド5からの距離Lが距離Lmaxよりも近い監視領域Aについては、ドライバ回路1aがレーザダイオード1cに出力するパルス信号の周波数を、走査光LB1の照射箇所の主走査方向Xにおけるレーザレーダヘッド5からの距離Lが短くなるほど高い値に決定する。
【0045】
本実施形態では、パルス信号の周波数を上記の距離Lに応じて決定するために、図4の説明図に示すように、監視領域Aを主走査方向XにおいてN+1の領域に等間隔に区分している。各区分領域の境界位置L1〜LNは、各境界位置L1〜LNに照射される走査光LB1の主走査方向Xにおける走査角度θ1〜θNによって定義することもできる。
【0046】
そして、主走査方向Xにおけるレーザレーダヘッド5からの距離Lが最も遠い距離LN〜距離Lmaxの区分領域については、上述のようにして決定した繰り返し周波数Sを、ドライバ回路1aが出力するパルス信号の周波数とする。また、その他の区分領域については、各区分領域の主走査方向Xにおけるレーザレーダヘッド5からの距離Lに応じて、繰り返し周波数Sよりも高い周波数にそれぞれ決定する。
【0047】
ここで、上述した光ファイバ増幅器1bの特性から、ドライバ回路1aが出力するパルス信号の周波数をn倍すると、レーザ光LB乃至走査光LB1の強度は1/nに減る。これを利用して、本実施形態では、図4に示す各区分領域を走査光LB1が走査するときのドライバ回路1aが出力するパルス信号の周波数を、レーザレーダヘッド5からの距離Lが近い区分領域から、レーザレーダヘッド5からの距離Lが2番目に遠い距離LN−1〜LNの区分領域まで、順に、nS、(n−1)S、(n−2)S、・・・、2Sに決定する。
【0048】
これにより、レーザレーダヘッド5側への反射効率が高いレーザレーダヘッド5寄りの監視領域A(区分領域)ほど走査光LB1の強度を弱くして、反射光LB2を受光した受光器2から出力される受光タイミング信号が光学的に飽和しないようにすることができる。
【0049】
そのために、図1に示す制御器13は、走査光LB1が照射される区分領域が変わる毎に、ドライバ回路1aが出力するパルス信号の周波数を順次変化させる。走査光LB1が照射される区分領域は、ポリゴンスキャナ11aから入力される角度情報の示すポリゴンミラー11の回転角度に基づいて判別することができる。
【0050】
そして、制御器13は、距離演算器14からの距離情報と、ポリゴンスキャナ11aやガルバノスキャナ12aから受け取った角度情報に基づいて特定した、監視領域Aにおける走査光LB1の照射箇所の座標値とから、監視領域Aに侵入した物体を検出し、検出結果を出力する。
【0051】
なお、距離演算器14は、走査光LB1の光路上に存在する物体のレーザレーダヘッド5からの距離の演算を、制御器13からの投光指令と受光器2からの受光タイミング信号とが入力される度に行うことができる。そして、投光指令と受光タイミング信号は、ドライバ回路1aが出力するパルス信号の周期と同じ周期で入力される。したがって、投光指令と受光タイミング信号が入力される度に距離演算器14が距離を演算するとすれば、距離演算器14は、走査光LB1が照射される区分領域が主走査方向Xにおいてレーザレーダヘッド5に近いほど、短い周期で演算を行わなければならなくなる。そうすると、距離演算器14の処理上の負担が大きくなってしまう。
【0052】
そこで、例えば走査光LB1が、主走査方向Xにおけるレーザレーダヘッド5からの距離Lが最も遠い距離LN〜距離Lmaxの区分領域を除く他の区分領域に照射されているときに、制御器13からの投光指令と受光器2からの受光タイミング信号を用いた距離の演算を、距離演算器14が間引きして行うようにしても良い。
【0053】
具体的には、例えば、主走査方向Xにおける監視領域Aのどの区分領域を走査光LB1が走査しているときにも、制御器13からの投光指令と受光器2からの受光タイミング信号が入力される最も長い周期(=1/繰り返し周波数S)毎に、距離演算器14が距離の演算を行うようにしても良い。
【0054】
なお、上述したように、距離演算器14が距離の演算を間引きして行う構成は省略しても良い。また、監視領域Aを図4に示すような区分領域に区分する場合、主走査方向Xにおける走査光LB1の走査本数と同じ数に監視領域Aを区分するようにしても良い。そうすれば、事実上、主走査方向Xにおける走査光LB1の照射箇所がレーザレーダヘッド5に近づくほど、走査光LB1の強度を弱くすることができる。
【0055】
また、本実施形態では、監視領域Aの主走査方向Xにおけるレーザレーダヘッド5からの距離によって、走査光LB1の強度が変化する場合の構成を例に取って説明した。しかし、監視領域Aの副走査方向Yにおけるレーザレーダヘッド5からの距離によって、走査光LB1の強度が変化する構成としても良い。その場合は、副走査方向Yが請求項中の走査方向に相当し、ガルバノミラー12が請求項中の走査手段に相当することになる。そして、制御器13が、監視領域Aにおける走査光LB1の照射箇所までのレーザレーダヘッド5からの距離が副走査方向Yにおいて変化するのに合わせて、ドライバ回路1aが出力するパルス信号の周波数を順次変化させることになる。
【符号の説明】
【0056】
1 レーザ投光器
1a ドライバ回路
1b 光ファイバ増幅器
1c レーザダイオード
1d 光ファイバ
2 受光器
5 レーザレーダヘッド
6 制御装置
11 ポリゴンミラー
11a ポリゴンスキャナ
12 ガルバノミラー
12a ガルバノスキャナ
13 制御器
14 距離演算器
A 監視領域
B 支柱
LB レーザ光
LB1 走査光
LB2 反射光
X 主走査方向
Y 副走査方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザレーダから出力されて所定の監視領域を走査した走査光の反射光を前記レーザレーダで受光することで、前記監視領域に存在する物体を検出する装置において、
前記レーザレーダは、種光を出力する種光源と、前記種光が入射され自身のスイッチング周期に応じたゲインで前記種光を増幅しレーザ光を発振する光ファイバ増幅器と、該光ファイバ増幅器が発振する前記レーザ光を所定の走査方向に走査させて前記走査光とする走査手段とを有しており、
前記光ファイバ増幅器は、前記監視領域の前記走査光によって走査される箇所が該走査光の走査方向において前記レーザレーダから遠ざかるほど、長いスイッチング周期に応じたゲインで、前記走査光に対応する前記種光を増幅する、
ことを特徴とする物体検出装置。
【請求項2】
前記光ファイバ増幅器は、前記走査手段による前記走査光の前記監視領域に対する前記走査方向における走査角度に基づいて決定した、前記走査方向における、前記監視領域の前記走査光によって走査される箇所に対応する前記スイッチング周期に応じたゲインで、前記種光を増幅することを特徴とする請求項1記載の物体検出装置。
【請求項3】
前記光ファイバ増幅器は、前記監視領域を前記走査方向において複数の領域に区分した各区分領域にそれぞれ照射される前記走査光に対応する前記種光を、前記各区分領域の前記発光手段からの前記走査方向における距離に対応する前記スイッチング周期に応じたゲインで増幅することを特徴とする請求項1又は2記載の物体検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−257192(P2011−257192A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130380(P2010−130380)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】