説明

物品位置特定システム、物品位置特定方法および物品位置特定プログラム

【課題】屋内の対象物品の位置をより少ない計算量でより正確に特定可能な物品位置特定システムを提供する。
【解決手段】事前学習用の既知の箇所に配置したテスト発信機PL1〜PLmからのテスト用無線電波信号のRSSI値を特定箇所に設置した受信機AP1〜APnにより一定時間の間連続的に収集する。収集した該RSSI値に対してガウス過程回帰処理を施すことによりテスト発信機が配置されていなかった箇所からのテスト無線電波信号のRSSI値を推定して屋内の空間的な全域をカバーした事前学習RSSI値マップを事前学習RSSI値マップ生成部12にて生成する。その後、位置を特定しようとする対象物品Tからの無線電波信号のRSSI値を受信機AP1〜APnにより対象物品RSSI値として収集して、収集した該対象物品RSSI値と前記RSSI値マップとに基づいて対象物品位置推定部14にて対象物品Tの位置を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品位置特定システム、物品位置特定方法および物品位置特定プログラムに関し、特に、屋内に配置した物品に取り付けた無線電波発信機(例えば、無線タグ、無線装置等)を用いて各物品の位置を特定する物品位置特定システム、物品位置特定方法および物品位置特定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、屋内において、様々な設備資産管理のために、さらには、「エネルギー見える化システム」などの目的から設置した各種センサ管理などのために、屋内に配置した各物品がその屋内のどこにあるのかを簡単に検知することができるような位置特定の仕組みが重要な課題になってきている。
【0003】
屋内における無線電波信号による物品位置の特定技術としては、従来より、位置を特定しようとする対象物品が発する無線電波信号のRSSI値(Received Signal Strength Indicator:受信信号強度)を測定し、該無線電波信号の発出源である対象物品の位置を推定する手法が用いられてきている。
【0004】
ここで、測定されたRSSI値に基づいて無線電波信号の発出源の物品位置を推定する従来からの手法として、図8に示すように、複数の箇所に配置された各受信機(アクセスポイント:Access Point)によって受信された無線電波信号のRSSI値を同時に測定して、受信した該無線電波信号の周波数帯やその屋内の種類によって適用される伝播損失式を適用して距離を推定する方法が用いられている。図8は、従来の無線電波信号のRSSI値から物品の位置を特定する手法を説明するための模式図である。
【0005】
つまり、図8において、位置を特定したい対象物品Tは、特定の周波数帯の無線電波信号を発信している。また、配置した箇所が事前に分かっている複数の受信機AP1〜APn(図8の場合、n=5)は、対象物品Tからの無線電波信号を同時に受信して、それぞれ、受信した該無線電波信号のRSSI値を位置推定装置LS(Location Estimating System)に対して送信している。
【0006】
ここで、位置推定装置LSは、該無線電波信号の発出源になっている対象物品Tの位置を特定するために、配置した箇所が事前に分かっている複数の受信機AP1〜APnそれぞれにおける無線電波信号のRSSI値を収集した結果に対して、使用されている無線電波信号の種類、周波数帯等によって固有に定めた伝播損失式を適用して、対象物品Tの座標位置を推定する。
【0007】
しかしながら、図8のような従来の物品位置の推定方法を適用する場合、事前に、伝播損失式およびその係数が明らかになっていることが必要である。さらには、実際の屋内環境においては、屋内の電波環境は一様ではなく、対象物品Tが、屋内に存在している机や物品収納箱等の什器や壁等の周辺に位置している場合と、中央付近の広い空間に位置している場合とでは、各受信機AP1〜APnにおいて受信される無線電波信号に関する伝播損失の特性が異なるので、使用されている無線電波信号の種類、周波数帯等によって固有に定めた唯一つの伝播損失式を用いて推定された物品位置の推定結果だけでは、推定される物品位置に誤差が生じ易いという問題がある。
【0008】
一方、屋内の異なる電波環境条件それぞれに対応するために、屋内のあらゆる場所ごとに、それぞれの伝播損失を表す式を事前に定めるということも非常に困難であり、現実的ではない。
【0009】
かくのごとき問題点を解決する方法として、例えば、非特許文献1に示すP.Bahlらによる“RADAR:An In-building RF-based User Location and Tracking System”に記載されているような事前学習方式による物品位置特定技術が用いられるようになってきている。すなわち、図9に示すように、事前学習のためのRSSI値測定用として準備したテスト発信機PL1〜PLm(図9の場合、m=9)を用いて、異なる事前学習用の電波環境条件として任意に定めた屋内の複数の各箇所から発信した際のテスト用無線電波信号のRSSI値を各受信機AP1〜APn(図9の場合、n=5)においてあらかじめ計測して、事前学習用データとしてデータベースに保存しておく。
【0010】
ここで、図9は、従来の事前学習方式による無線電波信号のRSSI値の推定方法を説明するための模式図であり、図9(A)は、事前学習フェーズにおけるテスト用無線電波信号のRSSI値を事前学習用データとして収集する状況を示し、図9(B)は、事前学習後における位置推定フェーズにおいて位置を特定しようとする実際の対象物品の位置を推定する状況を示している。
【0011】
つまり、図9(A)の事前学習フェーズにおいては、事前学習用データの収集用としてあらかじめ用意したテスト発信機PL1〜PLm(図9の場合、m=9)を用いて、事前学習用の箇所としてあらかじめ任意に定めた複数の屋内の各箇所それぞれにおいて、テスト用無線電波信号を発信して、各受信機AP1〜APn(図9の場合、n=5)において測定した結果を、位置推定装置LSに送信して、位置推定装置LSのデータベースに事前学習用データとしてあらかじめ保存する。ここで、テスト発信機PL1〜PLmそれぞれが配置された各箇所は事前に分かっている位置であり、テスト発信機PL1〜PLmそれぞれからのテスト用無線電波信号を受信する各受信機AP1〜APnの配置箇所も事前に分かっている。
【0012】
しかる後、図9(B)の位置推定フェーズにおいて、位置を特定しようとする実際の対象物品Tからの無線電波信号のRSSI値を各受信機AP1〜APnにおいて計測した際に、その計測データを、位置推定装置LSの前記データベースにあらかじめ保存しておいた事前学習用データと比較することによって、当該対象物品Tの位置を推定する。ここで、対象物品Tが発信する無線電波信号は、事前学習用データの収集用に用いたテスト発信機PL1〜PLmが発信するテスト用無線電波信号の周波数帯と同一の信号方式、周波数帯である。
【0013】
一般に、図9に示すような事前学習方式において、対象物品Tの位置の推定精度を高めるためには、事前学習用データの収集用としてあらかじめ用意したテスト発信機PL1〜PLmを用いて、より多くの箇所におけるテスト用無線電波信号のRSSI値を事前に測定して、より多くの事前学習用データを位置推定装置LSのデータベースに保存しておくことが必要である。しかし、より多くの事前学習用データを該データベースに保存するためには、その測定の作業量やデータベース量などの各資源をより多く必要とするという課題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】P.Bahl, and V.N. Padmanabhan,“RADAR:An In-building RF-based User Location and Tracking System”,Proceedings of IEEE Infocom2000, vol.2,pp.775-784.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、前述のような事情に鑑みてなされたものであり、事前学習方式を適用する場合において、事前学習用としてあらかじめ用意するテスト発信機の台数や該テスト発信機を事前学習用として配置する屋内の配置箇所数、屋内の特定箇所に配置する受信機の台数等が少ない状況下であっても、屋内に配置されている対象物品の位置を、より少ない計算量でより正確に特定することを可能にする物品位置特定システム、物品位置特定方法および物品位置特定プログラムを提供することを、その目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前述の課題を解決するために、以下のごとき各技術手段から構成されている。
【0017】
第1の技術手段は、屋内に設置した物品の位置を特定する物品位置特定システムであって、
事前学習用として任意に設定された前記屋内の1ないし複数の箇所それぞれに配置した1ないし複数のテスト発信機それぞれから発信されたテスト用無線電波信号に関するRSSI値(Received Signal Strength Indicator:受信信号強度)を、あらかじめ定めた1ないし複数の特定箇所それぞれに設置した1ないし複数の受信機それぞれによってあらかじめ定めた一定時間の間連続的に収集する事前学習用データ収集部と、
該事前学習用データ収集部によって事前学習用として収集された前記テスト用無線電波信号のRSSI値に対してガウス過程による回帰処理を施すことにより、前記テスト発信機が配置されていない前記屋内の箇所から発信された場合の前記テスト用無線電波信号のRSSI値を推定して、前記屋内の空間的な全域をカバーした事前学習RSSI値マップを生成する事前学習RSSI値マップ生成部と、
前記屋内に設置されている物品のうち位置を特定しようとする対象物品から発信された無線電波信号のRSSI値を、1ないし複数の前記特定箇所それぞれに設置した1ないし複数の前記受信機それぞれにより対象物品RSSI値として収集する対象物品RSSI値収集部と、
該対象物品RSSI値収集部によって収集された前記対象物品RSSI値と前記事前学習RSSI値マップ生成部によって生成された前記事前学習RSSI値マップとに基づいて前記対象物品の位置を推定する対象物品位置推定部と、
を少なくとも備えていることを特徴とする。
【0018】
第2の技術手段は、前記第1の技術手段に記載の物品位置特定システムにおいて、
前記事前学習RSSI値マップ生成部は、前記事前学習RSSI値マップを生成する際に、前記事前学習用データ収集部によって前記一定時間の間連続的に収集した前記テスト用無線電波信号のRSSI値に関して算出した離散的な確率密度関数に対してガウス過程による回帰処理を施して連続的な確率密度関数に変換することによって、前記屋内の空間的な全域をカバーした前記事前学習RSSI値マップを連続的なRSSI値の確率分布マップとして生成することを特徴とする。
【0019】
第3の技術手段は、前記第1または第2の技術手段に記載の物品位置特定システムにおいて、
前記対象物品位置推定部は、前記対象物品RSSI値と前記事前学習RSSI値マップとに基づいて前記対象物品の位置を特定する際に、前記対象物品RSSI値および前記事前学習RSSI値マップに対して最尤法を適用して、前記対象物品RSSI値に最も類似した位置を推定することを特徴とする。
【0020】
第4の技術手段は、屋内に設置した物品の位置を特定する物品位置特定方法であって、
事前学習用として任意に設定された前記屋内の1ないし複数の箇所それぞれに配置した1ないし複数のテスト発信機それぞれから発信されたテスト用無線電波信号に関するRSSI値(Received Signal Strength Indicator:受信信号強度)を、あらかじめ定めた1ないし複数の特定箇所それぞれに設置した1ないし複数の受信機それぞれによってあらかじめ定めた一定時間の間連続的に収集する事前学習用データ収集ステップと、
該事前学習用データ収集ステップにおいて事前学習用として収集された前記テスト用無線電波信号のRSSI値に対してガウス過程による回帰処理を施すことにより、前記テスト発信機が配置されていない前記屋内の箇所から発信された場合の前記テスト用無線電波信号のRSSI値を推定して、前記屋内の空間的な全域をカバーした事前学習RSSI値マップを生成する事前学習RSSI値マップ生成ステップと、
前記屋内に設置されている物品のうち位置を特定しようとする対象物品から発信された無線電波信号のRSSI値を、1ないし複数の前記特定箇所それぞれに設置した1ないし複数の前記受信機それぞれにより対象物品RSSI値として収集する対象物品RSSI値収集ステップと、
該対象物品RSSI値収集ステップにおいて収集された前記対象物品RSSI値と前記事前学習RSSI値マップ生成ステップにおいて生成された前記事前学習RSSI値マップとに基づいて前記対象物品の位置を推定する対象物品位置推定ステップと、
を少なくとも有していることを特徴とする。
【0021】
第5の技術手段は、前記第4の技術手段に記載の物品位置特定方法において、
前記事前学習RSSI値マップ生成ステップは、前記事前学習RSSI値マップを生成する際に、前記事前学習用データ収集ステップにおいて前記一定時間の間連続的に収集した前記テスト用無線電波信号のRSSI値に関して算出した離散的な確率密度関数に対してガウス過程による回帰処理を施して連続的な確率密度関数に変換することによって、前記屋内の空間的な全域をカバーした前記事前学習RSSI値マップを連続的なRSSI値の確率分布マップとして生成することを特徴とする。
【0022】
第6の技術手段は、前記第5の技術手段に記載の物品位置特定方法において、前記離散的な確率密度関数を前記連続的な確率密度関数に変換する際に適用する共分散関数として、Squared Exponential共分散関数、Matern共分散関数、Rational Quadratic共分散関数のいずれかを適用することを特徴とする。
【0023】
第7の技術手段は、前記第4ないし第6の技術手段のいずれかに記載の物品位置特定方法において、
前記対象物品位置推定ステップは、前記対象物品RSSI値と前記事前学習RSSI値マップとに基づいて前記対象物品の位置を特定する際に、前記対象物品RSSI値および前記事前学習RSSI値マップに対して最尤法を適用して、前記対象物品RSSI値に最も類似した位置を推定することを特徴とする。
【0024】
第8の技術手段は、前記第4ないし第7の技術手段のいずれかに記載の物品位置特定方法を、コンピュータによって実行可能なプログラムとして実施している物品位置特定プログラムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の物品位置特定システム、物品位置特定方法および物品位置特定プログラムによれば、以下のごとき効果を奏することができる。
【0026】
すなわち、事前学習用としてあらかじめ任意に定めた1ないし複数の既知の箇所それぞれに配置した事前学習用のテスト発信機から発信した無線電波信号のRSSI値を事前学習用データとして収集し、収集した該事前学習用データに対してガウス過程による回帰分析を適用して、事前学習RSSI値マップを連続的なRSSI値の確率分布マップとしてあらかじめ作成しておくことによって、背景技術において前述したような従来の事前学習方式の技術に比して、大幅に少ない事前学習用データ量であっても、対象物品の位置をより正確に推定して特定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る物品位置特定システムのシステム構成の一例を示すシステム構成図である。
【図2】図1の物品位置特定システムの動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【図3】図1の事前学習用データ計測部によって事前学習RSSI値マップを生成する具体的な処理手順の一例を説明するための説明図である。
【図4】事前学習RSSI値マップを生成するガウス過程回帰処理に共分散関数として適用するSquared Exponential共分散関数を説明する説明図である。
【図5】事前学習RSSI値マップを生成するガウス過程回帰処理に共分散関数として適用するMatern共分散関数を説明する説明図である。
【図6】事前学習RSSI値マップを生成するガウス過程回帰処理に共分散関数として適用するRational Quadratic共分散関数を説明する説明図である。
【図7】図1の対象物品位置推定部によって対象物品Tの位置を推定するための位置特定アルゴリズムとして適用する最尤法の具体的な処理手順の一例を説明するための説明図である。
【図8】従来の無線電波信号のRSSI値から物品の位置を特定する手法を説明するための模式図である。
【図9】従来の事前学習方式による無線電波信号のRSSI値の推定方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明に係る物品位置特定システム、物品位置特定方法および物品位置特定プログラムの好適な実施形態について、その一例を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明においては、本発明による物品位置特定システムおよび物品位置特定方法について説明するが、かかる物品位置特定方法をコンピュータにより実行可能な物品位置特定プログラムとして実施するようにしても良いし、さらに、かかる物品位置特定プログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録するようにしても良いことは言うまでもない。
【0029】
(本発明の特徴)
本発明の実施形態の説明に先立って、本発明の特徴について、その概要をまず説明する。本発明は、アクティブ無線タグや無線装置などを搭載することにより無線電波信号を発する対象物品の位置を特定する技術に関するものであって、該対象物品から発せられた無線電波信号を利用して該対象物品の位置を特定するために、事前学習によって得られた事前学習用データ(すなわち、前記対象物品が発する無線電波信号と同一の信号方式、周波数帯および電界強度のテスト用無線電波信号に関するRSSI値(Received Signal Strength Indicator:受信信号強度))に対して、ガウス過程による回帰分析手法を適用して、連続的なRSSI値に関する確率分布マップを事前学習RSSI値マップとしてあらかじめ作成しておくことによって、より少ない計算量で、対象物品のより正確な位置を推定して特定することを可能にしている点に主要な特徴がある。
【0030】
従来より、前記非特許文献1にも記載されているように、無線タグ等を利用して、物品の位置情報を特定して追跡する技術としては、様々な方法のものが提案されている。
【0031】
この中で、無線電波信号のRSSI値(Received Signal Strength Indicator:受信信号強度)を使って、屋内に配置されているターゲット(対象物品)の位置を推定するという無線電波信号のRSSI値を用いた物品位置特定方式は、受信機として簡易な測定装置(センサ)を用いている場合であっても、正確なRSSI値が得られるというメリットがある一方、無線電波信号が雑音やマルチパス等の影響を受け易く、対象物品の正確な位置推定が難しいというデメリットも伴っている。
【0032】
そこで、受信した無線電波信号に関するRSSI値によって対象物品の位置の正確な特定を行うために、前記非特許文献1に記載されているように、事前学習用として用意したテスト発信機を用いてあらかじめ事前学習を実施することによって、該テスト発信機から発信される無線電波信号のRSSI値と該テスト発信機の位置との対応関係を登録したRSSIマップをあらかじめ作成しておくという事前学習方式が提案されている。
【0033】
しかし、かくのごとき従来の事前学習方式については、前述したように、事前学習を実施するに当たって問題がある。つまり、対象物品の位置の推定精度を高めるためには、より多数の地点における無線電波信号のRSSI値を事前に測定して、より多くの事前学習用データをデータベースに保存しておくことが必要になるため、事前学習フェーズにおける作業効率も悪く、その測定の作業量やデータベース量などの各資源もより多く必要とするという問題がある。
【0034】
これに対して、本発明においては、事前学習用データに対してガウス過程による回帰分析手法を適用することにより、対象とする屋内全域を連続的にカバーするRSSI値に関する確率分布マップを事前学習RSSI値マップとしてあらかじめ生成しておくことを可能にし、而して、事前収集した事前学習用データがより少ない状況下にあっても、より少ない計算量で、位置を特定しようとする対象物品の位置をより正確な推定して特定することを可能にしている。
【0035】
(本発明の実施形態)
次に、本発明に係る物品位置特定システムの実施形態について、その一例を説明する。図1は、本発明に係る物品位置特定システムのシステム構成の一例を示すシステム構成図である。
【0036】
図1に示すように、物品位置特定システムは、各種のデータを蓄積することができるデータベースを備えた位置推定装置LS、屋内の物品に備えた発信機(無線タグや無線装置等)からの無線電波信号を受信するためのセンサとして屋内のあらかじめ定めた1ないし複数の特定箇所に設置した1ないし複数の受信機(アクセスポイント)AP1〜APn(図1の場合、n=5)、事前学習用として任意に設定された屋内の1ないし複数の既知の箇所にそれぞれ配置されて、テスト用無線電波信号を発信する1ないし複数のテスト発信機(テスト用アクセスポイント)PL1〜PLm(図1の場合、m=9)、および、屋内に設置されている物品のうち位置を特定しようとするターゲットになる対象物品Tを少なくとも含んで構成されている。対象物品Tには、位置を特定してもらうための無線電波信号を発信する発信機(無線タグ、無線装置等)が取り付けられている。
【0037】
ここで、受信機(アクセスポイント)AP1〜APnは、位置を推定するための対象物品Tが配置される屋内のあらかじめ定めた1ないし複数の特定箇所にそれぞれ配置されており、事前学習用として用いる1ないし複数のテスト発信機PL1〜PLmそれぞれから発信されるテスト用無線電波信号および事前学習後において対象物品Tから発信される無線電波信号をそれぞれ受信する。ここで、受信機(アクセスポイント)AP1〜APnそれぞれの配置箇所は、前述のように、既知の箇所としてあらかじめ定めた特定箇所である。
【0038】
また、事前学習用として用いる1ないし複数のテスト発信機(テスト用アクセスポイント)PL1〜PLmそれぞれが発信するテスト用無線電波信号は、事前学習後において対象物品Tから発信される無線電波信号と同等の信号方式、周波数帯および電界強度を有する信号である。また、テスト発信機(テスト用アクセスポイント)PL1〜PLmのm台(図1の場合、m=9)は、それぞれ、位置を特定したい対象物品Tが配置される可能性がある屋内の領域内から満遍なく任意に選択した1ないし複数の既知の箇所(図1の場合、m=9個の箇所)に配置して、テスト用無線電波信号を発信するものであるが、いずれのテスト発信機も、容易に移動可能な発信機であり、m台をあらかじめ揃えなくても、任意に選択した箇所に順次移動しながら、テスト用無線電波信号を発信するようにしても良い。なお、テスト発信機(テスト用アクセスポイント)PL1〜PLmは、事前学習用としての事前学習用データの収集が終了した段階で、屋内から撤去されることになる。
【0039】
また、ターゲットになる対象物品Tは、前述のように、アクティブ無線タグや無線装置等の無線電波信号を発信する機能を搭載しており、屋内に配置した際に、当該対象物品Tの配置位置が推定されるように、無線電波信号を継続して発信することが可能である。
【0040】
また、データベースを備えた位置推定装置LSは、図1に示すように、物品の位置を推定するための各種の情報処理を行う演算処理部として、事前学習用データ収集部11、事前学習RSSI値マップ生成部12、対象物品RSSI値収集部13、および、対象物品位置推定部14を少なくとも備えており、各種情報を蓄積するためのデータベースとして、事前学習用データ蓄積テーブル21、事前学習RSSI値マップ登録テーブル22、および、対象物品RSSI値保存テーブル23を少なくとも備えている。
【0041】
事前学習用データ収集部11は、事前学習用として1ないし複数のテスト発信機PL1〜PLmのそれぞれから発信されたテスト用無線電波信号のRSSI値の時間的な変化状況を、特定箇所に配置している1ないし複数の受信機AP1〜APnそれぞれによってあらかじめ定めた一定時間の間(例えば5分間)に亘って連続的に受信して、事前学習用データとしてデータベースの事前学習用データ蓄積テーブル21に蓄積する処理を行う。
【0042】
また、事前学習RSSI値マップ生成部12は、1ないし複数の受信機AP1〜APnそれぞれについて、事前学習用データ収集部11によって収集されて事前学習用データ蓄積テーブル21に事前学習用の事前学習用データとして蓄積された受信機AP1〜APnそれぞれにおけるテスト用無線電波信号のRSSI値の統計的な特徴を確率密度分布として抽出して、ガウス過程による回帰処理を施す。
【0043】
而して、テスト発信機(テスト用アクセスポイント)PL1〜PLmそれぞれが配置された既知の箇所からのテスト用無線電波信号のRSSI値に基づいて、テスト発信機(テスト用アクセスポイント)PL1〜PLmが配置されていない屋内の空間的な箇所から発信された場合のテスト用無線電波信号のRSSI値を推定することによって、屋内の空間的に離散的な箇所におけるRSSI値のみならず、屋内の空間的な全域を確率分布によりカバーした連続的な箇所におけるRSSI値を生成して、事前学習RSSI値マップとしてデータベースの事前学習RSSI値マップ登録テーブル22に設定登録する。
【0044】
したがって、事前学習結果として、テスト発信機(テスト用アクセスポイント)PL1〜PLmを用いたテスト用無線電波信号のRSSI値の収集量が少ない場合であっても、位置を特定しようとする対象物品Tに関する位置を推定するために必要とする屋内の全域を確率分布として連続的にカバーしたRSSI値を事前に生成することができ、より少ない計算量でより正確に対象物品Tの位置を推定するための準備が整うことになる。
【0045】
また、対象物品RSSI値収集部13は、事前学習後において、屋内に設置されている物品のうち、位置を特定しようとする対象物品Tから発信された無線電波信号のRSSI値を、1ないし複数の特定箇所それぞれに配置している1ないし複数の受信機AP1〜APnそれぞれによって受信して、対象物品RSSI値としてデータベースの対象物品RSSI値保存テーブル23に保存する処理を行う。
【0046】
また、対象物品位置推定部14は、対象物品RSSI値収集部13によって収集されてデータベースの対象物品RSSI値保存テーブル23に保存された対象物品Tからの無線電波信号のRSSI値すなわち対象物品RSSI値と、事前学習RSSI値マップ生成部12によって生成されて事前学習RSSI値マップ登録テーブル22に登録された事前学習RSSI値マップとに基づいて、最尤法(MLE:Maximum Likelihood Estimation)等のデータ処理を適用することによって、対象物品Tの位置を推定する処理を行う。
【0047】
なお、位置推定装置LSは、データベースを備えた位置特定専用の制御装置として構築しても良いし、データベースを備えた汎用コンピュータとして構築しても良い。また、位置推定装置LSの演算処理部を構成する事前学習用データ収集部11、事前学習RSSI値マップ生成部12、対象物品RSSI値収集部13、および、対象物品位置推定部14の各部位が、同一の制御装置やコンピュータ内に配置されていなく、複数の異なる制御装置やコンピュータに分散配置されていても良いし、また、事前学習用データ収集部11、事前学習RSSI値マップ生成部12、対象物品RSSI値収集部13、および、対象物品位置推定部14の各部位が実施する各機能のうち1ないし複数の機能(すべての機能の場合も含む)を、制御用コンピュータや汎用コンピュータ等のコンピュータによって実行可能なプログラムとして構成することも可能である。
【0048】
また、位置推定装置LSに備えられている前記データベースについても、位置推定装置LSとは独立のデータベースサーバとして構成して、該データベースサーバに事前学習用データ収集部11や対象物品RSSI値収集部13と同等の機能も合わせて配置するようにしても良いが、如何なる構成を用いる場合においても、前記データベースは、事前学習用データ収集部11や対象物品RSSI値収集部13等によって収集されるテスト発信機PL1〜PLmからのテスト用無線電波信号のRSSI値や対象物品Tからの無線電波信号のRSSI値に関するデータをリアルタイムに所定の領域に蓄積することが可能な性能を有している。
【0049】
(本発明の実施形態の動作例)
次に、図1に示した本発明に係る物品位置特定システムの動作について、その一例を、図2のフローチャートを用いて説明する。図2は、図1の物品位置特定システムの動作の一例を説明するためのフローチャートであり、本発明に係る物品位置特定方法の一例を示している。
【0050】
図2のフローチャートに示すように、本発明に係る物品位置特定方法は、事前学習用として屋内のあらかじめ定めた任意の1ないし複数の位置から発信したテスト用無線電波信号のRSSI値を事前学習用データとして収集して事前学習を行う事前学習フェーズ(図2(A)のフローチャート)と、事前学習後において、実際に位置を特定しようとする対象物品Tが発信した無線電波信号のRSSI値と事前学習結果とに基づいて、該対象物品Tの位置を推定する位置推定フェーズ(図2(B)のフローチャート)との、2つのフェーズに分かれて構成されていて、それぞれ、以下のような構成要件からなっている。
【0051】
まず、図2(A)の事前学習フェーズにおいては、次のStep1(事前学習用データ収集ステップ)、Step2(事前学習RSSI値マップ生成ステップ)の2つのステップから構成される。
【0052】
(1)事前学習用データ収集部11による事前学習用データの収集(図2(A)のステップStep1)
図1に示した事前学習用データ収集部11は、無線電波信号の受信用のセンサとして屋内のあらかじめ定めた1ないし複数の特定箇所に設置した1ないし複数の受信機AP1〜APn(図1の場合、n=5)によって、あらかじめ定めた一定時間(例えば5分間)の間、事前学習用として当該屋内の任意に設定された1ないし複数の既知の箇所に配置した1ないし複数のテスト発信機(テスト用アクセスポイント)PL1〜PLm(図9の場合、m=9)それぞれから発信されるテスト用無線電波信号のRSSI値(受信無線電波強度)を連続的に測定して、事前学習用データとして、データベースの事前学習用データ蓄積テーブル21に保存する。
【0053】
(2)事前学習RSSI値マップ生成部12による事前学習用データの解析結果に基づく事前学習RSSI値マップの生成(図2(A)のステップStep2)
次に、図1の事前学習RSSI値マップ生成部12は、ステップStep1において事前学習用データ収集部11により事前学習用データ蓄積テーブル21に保存した事前学習用データに対して、ガウス過程による回帰分析手法を適用することによって、屋内の他の箇所(つまり、テスト用無線電波信号を発信するテスト発信機を配置していない個所)からの無線電波信号のRSSI値(受信電界強度)を連続的な確率分布として推定して、テスト発信機を配置した箇所とテスト発信機を配置していない個所との双方から、屋内の空間的な全域を連続的にカバーした事前学習RSSI値マップを連続的なRSSI値の確率分布マップとして生成して、データベースの事前学習RSSI値マップ登録テーブル22に設定登録する。
【0054】
かくのごとき事前学習フェーズにより、屋内の全域を連続的にカバーした事前学習RSSI値マップをデータベースの事前学習RSSI値マップ登録テーブル22にあらかじめ設定登録した後において、起動される位置推定フェーズにおいては、次のStep3(対象物品RSSI値収集ステップ)、Step4(対象物品位置推定ステップ)の2つのステップから構成される。
【0055】
(3)対象物品RSSI値収集部13による対象物品Tからの無線電波信号のRSSI値の収集(図2(B)のステップStep3)
図1の対象物品RSSI値収集部13は、屋内に配置したターゲットすなわち対象物品Tの配置位置を特定したい場合、屋内に配置された該対象物品Tから実際に無線電波信号を発信させることによって、当該無線電波信号のRSSI値を、あらかじめ定めた1ないし複数の特定箇所にセンサとして配置されている受信機AP1〜APnそれぞれによって収集して、データベースの対象物品RSSI値保存テーブル23に保存する。
【0056】
(4)対象物品位置推定部14による対象物品の位置の推定(図2(B)のステップStep4)
図1の対象物品位置推定部14は、ステップStep3において対象物品RSSI値収集部13により対象物品RSSI値保存テーブル23に保存した対象物品Tからの無線電波信号のRSSI値と事前学習フェーズのステップStep2において事前学習RSSI値マップ生成部12により事前学習RSSI値マップ登録テーブル22に設定登録した事前学習RSSI値マップとに基づいて、最尤法(MLE)等の位置特定アルゴリズムに基づくデータ処理を適用することにより、ターゲットとして位置を特定しようとしている対象物品Tの位置を推定する。
【0057】
次に、図2のステップStep2において事前学習RSSI値マップ生成部12によって事前学習RSSI値マップを生成する具体的な処理手順の例について、図3を用いてさらに説明する。図3は、図1の事前学習RSSI値マップ生成部12によって事前学習RSSI値マップを生成する具体的な処理手順の一例を説明するための説明図である。
【0058】
図3に示すように、事前学習用としてあらかじめ任意に定めたm個の箇所に配置している各テスト発信機PL1〜PLmからのテスト用無線電波信号のRSSI値を、あらかじめ定めた特定の箇所に設置した受信機AP1〜APnにより、あらかじめ定めた一定時間の間(例えば5分間)、あらかじめ定めた周期で連続的に計測して、それぞれの受信機AP1〜APnごとに、事前学習用データRSS_Cal1、RSS_Cal2、…、RSS_CalNとして収集する。
【0059】
しかる後、収集した複数個の事前学習用データRSS_Cal1、RSS_Cal2、…、RSS_CalNについて、それぞれの受信機AP1〜APnごとに、前記一定時間内における各RSSI値データのヒストグラム等を求めることによって、各テスト発信機PL1〜PLmそれぞれの事前学習用データすなわちRSSI値データの統計的な特徴として、確率密度関数pdf(Probability Density Function)すなわち
pdf(RSS/x) …(1)
ここで、i=1,2,〜,N
を、n台のそれぞれの受信機AP1〜APnごとの離散的なRSSI値データとして抽出する。
【0060】
ここで、それぞれの受信機AP1〜APnごとに抽出した各テスト発信機PL1〜PLmのRSSI値データの統計的な特徴を示す確率密度関数pdf(RSS/x)は、空間的に離散的なRSSI値データとなっている。そこで、それぞれの受信機AP1〜APnごとに、各テスト発信機PL1〜PLmのRSSI値データに関する離散的な確率密度関数pdf(RSS/x)に対して、ガウス過程による回帰処理を施すことにより、連続的な確率分布による連続RSSI値データを求める。
【0061】
すなわち、次の式(2)に示すように、受信機AP1〜APnごとに、離散的な確率密度関数pdf(RSS/x)を、ガウス過程回帰処理により、屋内の全域を確率分布としてカバーする連続的なRSSI値を示す連続的な確率密度関数pdf(RSS/x)に変換する。
【0062】
pdf(RSS/x)=n(μRSS(x),σRSS(x)) …(2)
ここで、μ:RSSI値の平均値、σ:RSSI値の分散
ガウス過程回帰処理によって生成したpdf(RSS/x)の確率分布マップは、事前学習RSSI値マップとして事前学習RSSI値マップ登録テーブル22に設定登録される。
【0063】
なお、図5の左下には、各テスト発信機PL1〜PLmが配置されていた屋内の各箇所における離散的なRSSI値の分布状態を模式的に示しており、図5の右下には、ガウス過程回帰処理によって連続的な確率分布として生成した連続的なRSSI値のカバーイメージを模式的に示している。ただし、図5の右下のカバーイメージでは、RSSI値が階段状に変化して異なるRSSI値間に境界線があるかのように表現されているが、ガウス過程回帰処理によって得られるRSSI値は、連続的に徐々に変化していくものであって、かかる境界線が存在するものではない。
【0064】
ここで、各テスト発信機PL1〜PLmのRSSI値データの統計的な特徴を示す確率密度関数pdf(RSS/x)に対してガウス過程回帰処理を施す際に適用する共分散関数としては、図4〜図6に示すようなSquared Exponential(SE:二乗指数共分散関数)、Matern(一般的な非定常共分散関数)、Rational Quadratic(RQ:有理二次形式共分散関数)等のいずれの共分散関数を適用しても構わない。
【0065】
図4は、事前学習RSSI値マップを生成するガウス過程回帰処理に共分散関数として適用するSquared Exponential共分散関数を説明する説明図であり、図5は、事前学習RSSI値マップを生成するガウス過程回帰処理に共分散関数として適用するMatern共分散関数を説明する説明図であり、図6は、事前学習RSSI値マップを生成するガウス過程回帰処理に共分散関数として適用するRational Quadratic共分散関数を説明する説明図である。
【0066】
図4に示すように、Squared Exponential共分散関数kSE(x,x)は、滑らかな関数であって、無限に微分することが可能であり、次の式(3)によって与えられる。
【0067】
SE(x,x)=σexp{−(x−x/2l}+σνδij
…(3)
ここで、σ:振幅の分散
l:分散を特徴付けるLength Scale
σν:ノイズ分散
式(3)において、振幅の分散σ、Length Scale l、ノイズ分散σνは、マニュアルによって任意の値にセットすることも可能であるが、周辺尤度p(y/x,l,σ,σν)を最大化するものから導出することも可能である。
【0068】
また、図5に示すように、Matern共分散関数kMatern(x,x)は、次の式(4)によって与えられる。
【0069】
Matern(x,x)=(21−ν/Γ(ν))・((2ν)1/2|x−x|/l)・Κν((2ν)1/2|x−x|/l) …(4)
ここで、ν:滑らかさを規定するパラメータ(|1−ν|は微分可能)
l:分散を特徴付けるLength Scale
Γ(ν):ガンマ関数
Κν:ベッセル関数
式(4)において、νは、大きいほど滑らかになるが、ν=1/2の時、ブラウン運動となり、ν→∞の時、式(1)と同様のSquared Exponential共分散関数になる。
【0070】
また、図6に示すように、Rational Quadratic共分散関数kRQ(x,x)は、次の式(5)によって与えられる。
【0071】
RQ(x,x)=(1+|xi−xj|/2αl}−α …(5)
ここで、α:滑らかさを規定するパラメータ
l:分散を特徴付けるLength Scale
式(5)において、ν→∞の時、式(1)と同様のSquared Exponential共分散関数になる。
【0072】
次に、図2のステップStep4において対象物品位置推定部14によって対象物品Tの位置を推定するための位置特定アルゴリズムとして適用する最尤法(MLE:Maximum Likelihood Estimation)の一例を、図7を用いてさらに説明する。図7は、図1の対象物品位置推定部14によって対象物品Tの位置を推定するための位置特定アルゴリズムとして適用する最尤法の具体的な処理手順の一例を説明するための説明図である。
【0073】
対象物品位置推定部14においては、対象物品Tの位置を推定する際に、前述したように、事前学習結果として生成した事前学習RSSI値マップおよび対象物品Tからの無線電波信号のRSSI値である対象物品RSSI値に対して、最尤法を適用することによって、対象物品Tからの無線電波信号のRSSI値に最も類似した位置を推定する。つまり、図7に示すように、例えば、対象物品Tからの無線電波信号を受信したn台の受信機(アクセスポイント)AP1〜APnから、それぞれ、統計的に独立なRSSI値s={s,s,…,s}が得られている場合、パラメータが不明の統計モデルに関する推定手法として、対象物品Tの位置xMLEの推定は、次の式(6)で示されるように、未知の位置に対する結合尤度p(x/s)を最大化することによって推定することができる。
【0074】
【数1】

argmax:結合尤度p(x/s)の関数を最大化するxが存在するとき
の値
ここで、ベイズ法を適用する場合は、次の式(7)に示す関係が得られる。
【0075】
【数2】

したがって、RSSI値の平均をGP_Mean、RSSI値の分散をGP_Varと表すと、次の式(8)に示すように、
【0076】
【数3】

の関係が成立する。
【0077】
さらに、式(8)に関するガウス負対数尤度関数は、次の式(9)で与えられる。
【0078】
【数4】

したがって、結合尤度が最大化する値を求めるには、この式(9)を微分した結果が0になる平均GP_Meanの値を求めることによって、対象物品Tの位置xMLEを推定することができる。
【0079】
(本実施形態の効果)
以上に詳細に説明したように、本実施形態においては、事前学習用としてあらかじめ任意に定めた1ないし複数の既知の場所それぞれに配置した事前学習用のテスト発信機PL1〜PLmから発信した無線電波信号のRSSI値を事前学習用データとして収集し、収集した該事前学習用データに対してガウス過程による回帰分析を適用して、事前学習RSSI値マップを連続的なRSSI値の確率分布マップとしてあらかじめ作成しておくことによって、少ない事前学習用データ量であっても、対象物品Tの位置をより正確に推定することが可能になるという格別の効果が得られる。
【符号の説明】
【0080】
11…事前学習用データ収集部、12…事前学習RSSI値マップ生成部、13…対象物品RSSI値収集部、14…対象物品位置推定部、21…事前学習用データ蓄積テーブル、22…事前学習RSSI値マップ登録テーブル、23…対象物品RSSI値保存テーブル、AP1〜APn…受信機(アクセスポイント、センサ)、LS…位置推定装置、PL1〜PLm…テスト発信機(テスト用アクセスポイント)、T…対象物品(ターゲット)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋内に設置した物品の位置を特定する物品位置特定システムであって、
事前学習用として任意に設定された前記屋内の1ないし複数の箇所それぞれに配置した1ないし複数のテスト発信機それぞれから発信されたテスト用無線電波信号に関するRSSI値(Received Signal Strength Indicator:受信信号強度)を、あらかじめ定めた1ないし複数の特定箇所それぞれに設置した1ないし複数の受信機それぞれによってあらかじめ定めた一定時間の間連続的に収集する事前学習用データ収集部と、
該事前学習用データ収集部によって事前学習用として収集された前記テスト用無線電波信号のRSSI値に対してガウス過程による回帰処理を施すことにより、前記テスト発信機が配置されていない前記屋内の箇所から発信された場合の前記テスト用無線電波信号のRSSI値を推定して、前記屋内の空間的な全域をカバーした事前学習RSSI値マップを生成する事前学習RSSI値マップ生成部と、
前記屋内に設置されている物品のうち位置を特定しようとする対象物品から発信された無線電波信号のRSSI値を、1ないし複数の前記特定箇所それぞれに設置した1ないし複数の前記受信機それぞれにより対象物品RSSI値として収集する対象物品RSSI値収集部と、
該対象物品RSSI値収集部によって収集された前記対象物品RSSI値と前記事前学習RSSI値マップ生成部によって生成された前記事前学習RSSI値マップとに基づいて前記対象物品の位置を推定する対象物品位置推定部と、
を少なくとも備えていることを特徴とする物品位置特定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の物品位置特定システムにおいて、
前記事前学習RSSI値マップ生成部は、前記事前学習RSSI値マップを生成する際に、前記事前学習用データ収集部によって前記一定時間の間連続的に収集した前記テスト用無線電波信号のRSSI値に関して算出した離散的な確率密度関数に対してガウス過程による回帰処理を施して連続的な確率密度関数に変換することによって、前記屋内の空間的な全域をカバーした前記事前学習RSSI値マップを連続的なRSSI値の確率分布マップとして生成することを特徴とする物品位置特定システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の物品位置特定システムにおいて、
前記対象物品位置推定部は、前記対象物品RSSI値と前記事前学習RSSI値マップとに基づいて前記対象物品の位置を特定する際に、前記対象物品RSSI値および前記事前学習RSSI値マップに対して最尤法を適用して、前記対象物品RSSI値に最も類似した位置を推定することを特徴とする物品位置特定システム。
【請求項4】
屋内に設置した物品の位置を特定する物品位置特定方法であって、
事前学習用として任意に設定された前記屋内の1ないし複数の箇所それぞれに配置した1ないし複数のテスト発信機それぞれから発信されたテスト用無線電波信号に関するRSSI値(Received Signal Strength Indicator:受信信号強度)を、あらかじめ定めた1ないし複数の特定箇所それぞれに設置した1ないし複数の受信機それぞれによってあらかじめ定めた一定時間の間連続的に収集する事前学習用データ収集ステップと、
該事前学習用データ収集ステップにおいて事前学習用として収集された前記テスト用無線電波信号のRSSI値に対してガウス過程による回帰処理を施すことにより、前記テスト発信機が配置されていない前記屋内の箇所から発信された場合の前記テスト用無線電波信号のRSSI値を推定して、前記屋内の空間的な全域をカバーした事前学習RSSI値マップを生成する事前学習RSSI値マップ生成ステップと、
前記屋内に設置されている物品のうち位置を特定しようとする対象物品から発信された無線電波信号のRSSI値を、1ないし複数の前記特定箇所それぞれに設置した1ないし複数の前記受信機それぞれにより対象物品RSSI値として収集する対象物品RSSI値収集ステップと、
該対象物品RSSI値収集ステップにおいて収集された前記対象物品RSSI値と前記事前学習RSSI値マップ生成ステップにおいて生成された前記事前学習RSSI値マップとに基づいて前記対象物品の位置を推定する対象物品位置推定ステップと、
を少なくとも有していることを特徴とする物品位置特定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の物品位置特定方法において、
前記事前学習RSSI値マップ生成ステップは、前記事前学習RSSI値マップを生成する際に、前記事前学習用データ収集ステップにおいて前記一定時間の間連続的に収集した前記テスト用無線電波信号のRSSI値に関して算出した離散的な確率密度関数に対してガウス過程による回帰処理を施して連続的な確率密度関数に変換することによって、前記屋内の空間的な全域をカバーした前記事前学習RSSI値マップを連続的なRSSI値の確率分布マップとして生成することを特徴とする物品位置特定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の物品位置特定方法において、前記離散的な確率密度関数を前記連続的な確率密度関数に変換する際に適用する共分散関数として、Squared Exponential共分散関数、Matern共分散関数、Rational Quadratic共分散関数のいずれかを適用することを特徴とする物品位置特定方法。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれかに記載の物品位置特定方法において、
前記対象物品位置推定ステップは、前記対象物品RSSI値と前記事前学習RSSI値マップとに基づいて前記対象物品の位置を特定する際に、前記対象物品RSSI値および前記事前学習RSSI値マップに対して最尤法を適用して、前記対象物品RSSI値に最も類似した位置を推定することを特徴とする物品位置特定方法。
【請求項8】
請求項4ないし7のいずれかに記載の物品位置特定方法を、コンピュータによって実行可能なプログラムとして実施していることを特徴とする物品位置特定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−53930(P2013−53930A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192416(P2011−192416)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】