説明

物質担体

【課題】生体の耐えうる狭い領域の温度変化で、物質の保持、放出を制御可能な物質担体の提供。
【解決手段】メソ孔を有する多孔質材料と上限臨界共溶温度もしくは下限臨界共溶温度を有する高分子化合物とからなる物質担体において、該多孔質材料は粒子の形状を有し、該粒子の細孔口に前記高分子化合物の層が形成されており、該細孔内に担持された物質は温度変化に応じて前記高分子化合物の作用により保持または放出が制御される。好ましくは前記多孔質材料が<HO(CHCHO)20(CHCH(CH)O)70(CHCHO)20H>のようなトリブロックコポリマー界面活性剤であり、前記物質がプロゲステロンであり、前記高分子化合物がPoly−N−イソプロピルアクリルアミド(poly−NIPAM)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物質担体に関する。より詳しくは、周囲の温度変化により、物質の保持または放出を制御可能な多孔質材料からなる物質担体に関し、特に薬物を担持する薬物担体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、環境中に物質を放出する際の放出性(放出速度、放出量等)を制御する技術は、多くの分野で利用されている。例えば、錠剤やカプセル剤等の医薬品、ナフタリンや樟脳等の衣類防虫剤、芳香剤、化粧品、農薬、肥料等である。さらに近年では、目標とする患部(臓器や組織、細胞、病原体など)に、薬物を効果的かつ集中的に送り込む方法として、ドラッグデリバリーシステムが注目されており、このドラッグデリバリーシステムにおいても物質の放出制御は重要な技術課題となっている。
【0003】
ドラッグデリバリーシステムにおいて、薬物を運搬する薬物担体には、薬物を安定的に担持し、目標とする患部に選択的に到達して薬物を放出する、もしくは、目標となる患部のみにおいて薬物を放出するという機能が求められる。従来、このドラッグデリバリーシステム用の薬物担体として提案されている方法には、薬物を包んでいる高分子膜の薬物透過性により透過量を制御する方法や、薬物を高分子化合物あるいは無機物マトリックス中に分散させることにより薬物の拡散を制御する方法があり、この2種類が大部分を占めている。しかし、これらの方法は、薬物の徐放の速度を遅くすることは出来ても、必要な時、つまり患部において、必要な量を放出するというオン−オフ制御を備えたものではない。薬物担体が目標とする患部に到達し高濃度で薬物を放出できる事は、薬物の効果を高める上で重要な要素になる。また、患部以外での薬物の放出を抑える事は、副作用を低減する上で重要な要素になる。従って、薬物を放出する際のオン−オフ制御が可能である薬物担体が強く求められていた。
【0004】
この問題を解決するために、特許文献1では、外部刺激による化学反応により結合する官能基を細孔口に有するメソポーラス無機材料が提案されており、外部刺激として光、化学反応として二量化反応、官能基としてクマリン誘導体を用いる方法が開示されている。このような官能基は、外部刺激の条件の変化により、細孔を開閉する「ドア」のような機能を有することになる。この「ドア」を有するメソポーラス無機材料の内部に、予め物質を入れておき、官能基を結合させることで、「ドア」を閉め、物質を保持する。そして、結合を開裂することで物質の放出が可能となる。
【特許文献1】特開2004−026636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1のメソポーラス無機材料をドラッグデリバリーシステム
の薬物担体として用いる場合、外部刺激は限られてしまう。例えば、生体内での担体への
光照射は困難である。よって、他の外部刺激として熱等を用いることが好ましいと考えら
れる。しかし化学反応による結合、開裂を熱で制御する場合、充分な温度変化が必要であ
り、生体の耐えうる狭い温度領域で、官能基の結合、開裂を制御することは難しいと思われる。
【0006】
このような状況の下、生体の耐えうる狭い領域の温度変化で、物質の保持、放出を制御可能にする物質担体が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、メソ孔を有する多孔質材料と上限臨界共溶温度もしくは下限臨界共溶温度を有する高分子化合物とからなる物質担体であって、該多孔質材料は粒子の形状を有し、該粒子の細孔口に前記高分子化合物の層が形成されており、該細孔内に担持された物質は温度刺激に応じて放出されることを特徴とする。尚、前記物質として薬物が好適に用いられる。尚、前記高分子化合物はN置換アクリルアミド誘導体の重合体であることが好ましい。また、前記高分子化合物はN置換アクリルアミド誘導体とアクリル酸の共重合体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、生体の耐えうる狭い領域の温度変化で、物質の保持、放出を制御可能にする物質担体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明の好ましい実施の形態について、詳細に説明する。
【0010】
本発明の物質担体は、メソ孔を有する多孔質材料と上限臨界共溶温度もしくは下限臨界共溶温度を有する高分子化合物とからなる物質担体であって、該多孔質材料は粒子の形状を有し、該粒子の細孔口に前記高分子化合物の層が形成されており、該細孔内に担持された物質は温度刺激に応じて放出される。
【0011】
(多孔質材料)
本発明における多孔質材料は、その細孔内に薬物を保持する機能を有する。よって、多孔質材料の細孔径は、保持する薬物の大きさにより適宜設定されるが、一般的な薬物を保持しうる大きさとしてメソ孔であることが好ましい。メソ孔とは、IUPACの分類に基づくもので、細孔径が2nmから50nmのものをいう。
【0012】
このようなメソ孔を有する多孔質材料として、両親媒性物質(界面活性剤)の集合体(ミセル)を鋳型として形成されるメソ構造体材料から、鋳型である界面活性剤を除去して作製されるメソポーラス材料が広く知られており、本発明においても好適に用いられる。
【0013】
図1は粒子状のメソポーラス材料を模式的に表した図である。図1には、二次元ヘキサゴナル構造のものが示されているが、細孔の配置はこれに限定されるものではなく、例えば、この他に、キュービック構造のもの、三次元ヘキサゴナル構造のもの、さらには配置がランダムなものでも本発明に適用可能である。
【0014】
図1には、粒子状のメソポーラス材料を示した。担体の形状が粒子状であれば利便性が高いため、メソポーラス材料も粒子状であることが好ましい。しかし、形状はこれらに限定されるものではなく、カプセルの表面を被覆した膜状のメソポーラス材料やブロック状のメソポーラス材料でもよい。カプセルの表面を被覆した場合は、カプセル内の薬剤とメソポーラス材料内に坦持された薬剤とで異なる薬剤を運搬でき、場合によっては異なる時間にそれぞれの薬剤を放出できる。
【0015】
上記メソポーラス材料は、界面活性剤を適宜選択して作製することで、細孔径を制御することが可能である。界面活性剤としては、4級アルキルアンモニウムのようなカチオン性界面活性剤、親水基にポリエチレンオキシドを含む非イオン性界面活性剤等が適用可能である。さらには、<HO(CHCHO)20(CHCH(CH)O)70(CHCHO)20H>のようなトリブロックコポリマー界面活性剤を用いれば、比較的大きな細孔を形成することも可能である。また、メシチレンといった添加剤を添加する方法を用いても、細孔を大きくすることが可能である。
【0016】
また、上述のようにメソポーラス材料の細孔は、ミセルを鋳型として形成されるため、細孔径分布を狭くすることが可能である。細孔径分布が狭いと、細孔からの薬物放出速度が均一になりやすく、放出量制御の観点から好ましい。
【0017】
尚、上記界面活性剤の除去を、後述する高分子化合物を多孔質材料表面に形成した後に行うことで、高分子化合物が細孔内部に入り込むのを防ぐことができ、多孔質粒子細孔口に高分子化合物を形成することが可能となる。よって、界面活性剤の除去方法には、超臨界流体による抽出、溶剤による抽出等、高分子化合物を破壊、消失しない方法を用いることが好ましい。
【0018】
上記メソポーラス材料の細孔壁には幅広い材料が適用可能であり、シリカや酸化チタン、アルミナといった金属酸化物や、最近では有機基を細孔壁内に導入した有機−無機ハイブリッド型もメソポーラス材料の合成も報告されている。本発明において細孔壁の材料は限定されるものではないが、生体適合性、耐薬品性、強度の点から特にシリカが好ましい。
【0019】
(高分子化合物)
臨界共溶温度とは、ある物質の溶解度が低下しはじめる温度をいい、特定温度以上で溶解性が低下する場合を下限臨界共溶温度といい、特定温度以下で溶解性が低下する場合を上限臨界共溶温度と称する。このような高分子化合物を多孔質材料の細孔口に有すると、この温度の前後で高分子化合物の溶解性が可逆的に変化するため、高分子化合物は温度変化により開閉する「蓋」のような機能を果たすことになる。溶解性が低い状態、つまり、この「蓋」が閉じている状態では、細孔内に保持された薬物はそのまま保持される。溶解性が高くなった状態、つまり「蓋」を開けた状態では、細孔内の薬物を放出することができる。図2に、「蓋」の開閉、及び薬物の保持、放出の様子を模式的に示す。
【0020】
このような「蓋」となり得る高分子化合物としては、N置換アクリルアミド誘導体の重合体であるpoly(N置換アクリルアミド)を用いることが好ましく、例えば、Poly−N−イソプロピルアクリルアミド(poly−NIPAM)が好ましく用いられる。poly−NIPAMは、分子内に親水性基のアミド基と、疎水性基のイソプロピル基の両方を持つモノマーの重合体であり、温度上昇にともない疎水性が急激に増大するために水と相分離を起こす。このpoly−NIPAMの下限臨界共溶温度(LCST)は32度付近にあり、それ以上の温度では、水に難溶性、それ以下では水溶性になる。よって、poly−NIPAMを用いれば、生体が耐えうる温度で溶解性を変化させることが可能であり、良好な薬物担体を提供することが可能となる。但し、これ以外の物質であっても同様の効果が期待できる範囲において適用可能である。
【0021】
また、複数セグメント鎖からなる共重合体を用いる事で、臨界共溶温度を任意に制御することも可能である。例えば、NIPMAMとアクリル酸を共重合させたpoly(NIPAM−r−アクリル酸)を用いれば、poly−NIPAMの下限臨界共溶温度の32℃より、下限臨界共溶温度を上昇させることが可能となり、本発明においても好ましく用いられる。但し、これ以外の物質であっても同様の効果が期待できる範囲において適用可能である。
【0022】
以下、実施例を用いてさらに詳細に本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、材料、反応条件等、同様な機能を有する物質担体が得られる範囲で自由に変えることが可能である。
【実施例1】
【0023】
本実施例は、poly−NIPAMが形成されたメソポーラスシリカを作製して物質担体とし、ホルモンの一種であるプロゲステロンの保持、放出を行う例である。
【0024】
(1)メソポーラスシリカの作製条件(高分子化合物を有していないメソポーラスシリカ)
SIGMA CHEMICAL社製の非イオン性界面活性剤Brij56(ポリオキシエチレン10セチルエーテル)3.3gを128mlの純水に溶解し、35%濃塩酸20mlを添加し、界面活性剤の酸性溶液とした。この界面活性剤溶液に常温で2.2mlのテトラエトキシシランを添加し、3分間攪拌した後に、フッ素樹脂製の耐圧容器に移し、80℃で1週間反応させ、沈殿を得た。
【0025】
この沈殿を、純水で十分に洗浄した後に乾燥させ、得られた粉末をエタノール中に浸漬し、70℃で24時間抽出を2回繰り返し行って、界面活性剤を除去した。抽出後の沈殿物を乾燥させエタノールを除去することによって白色粉末を得た。界面活性剤の除去は、赤外吸収分光分析を行い有機成分がほぼ残存していないことから確認した。
【0026】
この粉末を、X線回折分析を用いて測定した結果、この粉末は二次元ヘキサゴナル構造の細孔構造を有することが確認され、その(100)面の面間隔は5.3nmであることが確認された。
【0027】
また、この粉末試料に対して窒素ガス吸着測定を行い、BJH法により細孔径分布を計算した結果、細孔径分布は3.8nmに鋭い極大値を持つ単一分散を示した。よって、以上の作製条件により、メソ孔を有する多孔質材料(メソポーラスシリカ)を作製できることを確認した。
【0028】
(2)poly−NIPAMが形成されたメソポーラスシリカの作製
次に、界面活性剤を除去する前に、粉末表面にpoly−NIPAMを形成する以外は(1)と同様の条件で、poly−NIPAMが形成されたメソポーラスシリカを作製する。
【0029】
上記(1)の条件と同様に、SIGMA CHEMICAL社製の非イオン性界面活性剤Brij56(ポリオキシエチレン10セチルエーテル)3.3gを128mlの純水に溶解し、35%濃塩酸20mlを添加し、界面活性剤の酸性溶液とした。この界面活性剤溶液に常温で2.2mlのテトラエトキシシランを添加し、3分間攪拌した後に、フッ素樹脂製の耐圧容器に移し、80℃で1週間反応させ、沈殿を得た。この沈殿を、純水で十分に洗浄した後に乾燥させて、粉末を得た。
【0030】
次に、シランカップリング剤である((chloromethyl)phenylethyl)trichlorosilaneのメタノール溶液に前記粉末を浸漬し、反応させた。
【0031】
次に、反応シュレンク管に、前記粉末とN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、CuCl、tris[2−(dimethylamino)ethyl]amine(Me6TREN)、DMFを加えて反応溶液とした。窒素バブリングによってシュレンク管内の酸素を窒素に置換した後、室温にて原子移動ラジカル重合(ATRP)を進行させることで粉末表面にpoly−NIPAMを合成した。
【0032】
その後、前記粉末をエタノール中に浸漬し、70℃で24時間抽出を2回繰り返し行い、界面活性剤を除去した。
【0033】
この粉末を、X線回折分析法を用いて測定した結果、上記(1)と同様に二次元ヘキサゴナル構造の細孔構造を有することが確認され、その(100)面の面間隔は5.3nmであることが確認された。
【0034】
以上の操作により、表面にpoly−NIPAMが形成されたメソポーラスシリカを作製した。
【0035】
(3)poly−NIPAMが形成されたメソポーラスシリカを用いたプロゲステロンの保持、放出制御
プロゲステロン水溶液に上記(2)で作製した、poly−NIPAMが形成されたメソポーラスシリカ(以下、多孔質材料Aと記載する)を混合し、poly−NIPAMの下限臨界共溶温度より低い室温で24時間懸濁させた。多孔質材料Aをろ別し、水で2回洗浄した後に乾燥し多孔質材料Bとした。多孔質材料Bに保持されたプロゲステロンの量は、ろ液、及び洗浄液のプロゲステロンの量をガスクロマトグラフ法により測定し、算出した。
【0036】
上記多孔質材料Bを水に懸濁させて、poly−NIPAMの下限臨界共溶温度より高い36℃で撹拌した。その後、多孔質材料Bをろ別し、充分な量の水で洗浄して多孔質材料Cとした。ろ液、洗浄液に対してガスクロマトグラフ法でプロゲステロン量を測定し、溶出プロゲステロン量を算出したところ、多孔質材料Bに保持されていたプロゲステロン量の10%であり、細孔内からプロゲステロンが溶出しないことが確認された。
【0037】
次に、上記多孔質材料Cを水に懸濁させて、poly−NIPAMの下限臨界共溶温度より低い31℃で撹拌した。その後、多孔質材料Cをろ別し、充分な量の水で洗浄して多孔質材料Dとした。ろ液、洗浄液に対してガスクロマトグラフ法でプロゲステロン量を測定し、溶出プロゲステロン量を算出したところ、多孔質材料Cに保持されていたプロゲステロン量の87%であり、細孔内からプロゲステロンが溶出することが確認された。
【0038】
比較例として、プロゲステロン水溶液に上記(1)で作製した、メソポーラスシリカ(以下、多孔質材料aと記載する)を混合し、で24時間懸濁させた。多孔質材料aをろ別し、水で2回洗浄した後に乾燥し多孔質材料bとした。多孔質材料bに保持されたプロゲステロンの量は、ろ液、及び洗浄液のプロゲステロンの量をガスクロマトグラフ法により測定し、算出した。
【0039】
多孔質材料Bの場合と同様に、上記多孔質材料bを水に懸濁させて、36℃及び31℃で撹拌した。その後、多孔質材料bをろ別し、充分な量の水で洗浄した。ろ液、洗浄液に対してガスクロマトグラフ法でプロゲステロン量を測定し、溶出プロゲステロン量を算出したところ、36℃、31℃、どちらの場合も、ほとんどのプロゲステロンが溶出し、溶出量は多孔質材料bに保持されていたプロゲステロン量の90%以上であった。
【0040】
このように本発明によれば、生体の耐えうる狭い領域の温度変化で、物質の保持、放出が制御可能な物質担体を得る事が可能となる。
【実施例2】
【0041】
本実施例は、表面にpoly(NIPAM−r−アクリル酸)が形成されたメソポーラスシリカを作製して物質担体とし、ホルモンの一種であるプロゲステロンの保持、放出を行う例である。高分子化合物として、複数の異なったモノマーから重合された共重合体を用いる事で、下限臨界共溶温度を任意に制御することが可能となる。
【0042】
(1)poly(NIPAM−r−アクリル酸)が形成されたメソポーラスシリカの作製
前記実施例1の(1)の条件と同様に、SIGMA CHEMICAL社製の非イオン性界面活性剤Brij56(ポリオキシエチレン10セチルエーテル)3.3gを128mlの純水に溶解し、35%濃塩酸20mlを添加し、界面活性剤の酸性溶液とした。この界面活性剤溶液に常温で2.2mlのテトラエトキシシランを添加し、3分間攪拌した後に、フッ素樹脂製の耐圧容器に移し、80℃で1週間反応させ、沈殿を得た。この沈殿を、純水で十分に洗浄した後に乾燥させて、粉末を得た。
【0043】
次に、シランカップリング剤である((chloromethyl)phenylethyl)trichlorosilaneのメタノール溶液に前記粉末を浸漬し、反応させた。
【0044】
さらに、シランカップリング剤由来のクロロメチル基とN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムを蒸留水中で反応させ、粉末表面に光イニファーター重合の開始点となる光イニファーター基を導入した。
【0045】
次に、反応用シュレンク管に、前記粉末とNIPMAM、アクリル酸、水を加えて反応溶液とした。シュレンク管内を窒素置換し、室温にて光イニファーター重合を進行させることで粉末表面にpoly(NIPMAM−r−アクリル酸)からなるポリマー鎖を形成させた。ここで、UVランプとして波長312nm〜577nmのものを用いた。
【0046】
その後、前記粉末をエタノール中に浸漬し、70℃で24時間抽出を2回繰り返し行い、界面活性剤を除去した。
【0047】
この粉末を、X線回折分析法を用いて測定した結果、前記実施例1の(1)と同様に二次元ヘキサゴナル構造の細孔構造を有することが確認され、その(100)面の面間隔は5.3nmであることが確認された。
【0048】
以上の操作により、表面にpoly(NIPAM−r−アクリル酸)が形成されたメソポーラスシリカを作製した。
【0049】
(2)poly(NIPAM−r−アクリル酸)が形成されたメソポーラスシリカを用いたプロゲステロンの保持、放出制御
プロゲステロン水溶液に上記実施例2の(1)で作製した、poly(NIPAM−r−アクリル酸)が形成されたメソポーラスシリカ(以下、多孔質材料Eと記載する)を混合し、前記poly(NIPAM−r−アクリル酸)の下限臨界共溶温度より低い室温で24時間懸濁させた。多孔質材料Eをろ別し、水で2回洗浄した後に乾燥し多孔質材料Fとした。多孔質材料Fに保持されたプロゲステロンの量は、ろ液、及び洗浄液のプロゲステロンの量をガスクロマトグラフ法により測定し、算出した。
【0050】
上記多孔質材料Fを水に懸濁させて、poly(NIPAM−r−アクリル酸)の下限臨界共溶温度より高い36℃で撹拌した。その後、多孔質材料Fをろ別し、充分な量の水で洗浄して多孔質材料Gとした。ろ液、洗浄液に対してガスクロマトグラフ法で溶出プロゲステロン量を測定し、溶出プロゲステロン量を算出したところ、多孔質材料Fに保持されていたプロゲステロン量の10%であり、細孔内からプロゲステロンが溶出しないことが確認された。
【0051】
次に、上記多孔質材料Gを水に懸濁させて、poly(NIPAM−r−アクリル酸)の下限臨界共溶温度より低い34℃で撹拌した。その後、多孔質材料Gをろ別し、充分な量の水で洗浄して多孔質材料Hとした。ろ液、洗浄液に対してガスクロマトグラフ法でプロゲステロン量を測定し、溶出プロゲステロン量を算出したところ、多孔質材料Gに保持されていたプロゲステロン量の85%であり、細孔内からプロゲステロンが溶出することが確認された。
【0052】
このように本発明によれば、生体の耐えうる狭い領域の温度変化で、物質の保持、放出が制御可能な物質担体を得る事が可能となる。さらには高分子化合物の組成を制御することで、下限臨界共溶温度を任意に制御し、任意の温度での物質の保持、放出が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は上記のとおりの効果を有するものであり、患部(臓器や組織、細胞、病原体など)に、薬物を効果的かつ集中的に送り込む方法として、ドラッグデリバリーシステムの開発に寄与すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】粒子状のメソポーラス材料を模式的に示した図である。
【図2】薬物の保持、放出行う様子を模式的に示した本発明による多孔質材料の断面図である。
【符号の説明】
【0055】
11 粒子状のメソポーラス材料
12 細孔
21 細孔
22 細孔壁
23 高分子化合物
24 薬物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソ孔を有する多孔質材料と上限臨界共溶温度もしくは下限臨界共溶温度を有する高分子化合物とからなる物質担体であって、前記メソ孔の孔口に前記高分子化合物の層が形成されており、該孔内に担持された物質は温度変化に応じて前記高分子化合物の作用により保持または放出が制御されることを特徴とする物質担体。
【請求項2】
前記物質が薬物であることを特徴とする請求項1に記載の物質担体。
【請求項3】
前記薬物がプロゲステロンであることを特徴とする請求項2に記載の物質担体。
【請求項4】
前記高分子化合物がN置換アクリルアミド誘導体の重合体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の物質担体。
【請求項5】
前記高分子化合物がN置換アクリルアミド誘導体とアクリル酸の共重合体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の物質担体。
【請求項6】
前記多孔質材料が粒子の形状を有していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の物質担体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−160677(P2006−160677A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−355466(P2004−355466)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】